この手をはなさない

Last-modified: 2008-09-23 (火) 12:26:36

この手をはなさない/小花美穂

422 名前:小花美穂短編集その7[sage] 投稿日:05/03/06 05:37:52 ID:???

『この手をはなさない』

両親を早くに亡くし、小さな喫茶店を経営する兄とふたり暮しの高校生中野恒(なかの・こう)。
彼は、小学生の頃に、今でも思い出すたびに胸が痛くなる「初恋との別離」を経験していた。


季節外れの転校生だった少女は、学業優秀・スポーツ万能で、すぐにクラスの輪の中心となった。
しかしそんな笑顔の裏で、少女は、母とふたり、借金取りの執拗な追跡に怯えながら暮らしていた。
人伝に事情を知った恒は、生活苦を全く感じさせない、明るさと素直さとひたむきさを持った少女に
惹かれるが、ある日、突然、少女は失踪してしまう。少女の名は、光部由香子(みつべ・ゆかこ)。


ある日、恒は犬の散歩中に万引き現場に遭遇し、成り行きで追われていた女を助けてしまう。
ガリガリに痩せ細り、着る物もままならない「小汚い女」。でも、その顔には見覚えがあった。
「由香子なのか……」俄かには信じ難い恒だが、女は、あのときと変わらぬ笑顔で恒に微笑む。
しかし、手首に自殺未遂を思わせる傷痕を残し、母は既に他界したと話す由香子は、
自堕落で荒んだ生活をしており、その変貌振りに心を痛める恒は、なんとか彼女を救いたいと思う。


由香子は、母の元恋人ハルキと暮らしていた。恒は、不本意ながら「ペットと飼い主の関係だから」
という由香子の言葉を信じ、栄養失調気味の彼女のために、日々餌付けに勤しむ。
さらに、恒のバイト先で働き始めた由香子は、徐々に本来の明るさを取り戻し、雰囲気も一変する。



423 名前:小花美穂短編集その8[sage] 投稿日:05/03/06 05:38:40 ID:???

ある日、恒と由香子はガラの悪い連中に取り囲まれる。彼女は未だに借金取りから追われていた。
彼らの話から、由香子の手首の傷痕は、無理心中のときに母から負わされたものだと知った恒は、
彼女をこれ以上危険に晒すくらいならと、亡き父が遺してくれた土地を差し出す。
由香子には多くを語らず、ただ「これで自由になった」と笑う恒だったが、事実を知った彼女は、
土地を買い戻そうと金を得るために、再び恒の前から姿を消す。


由香子の2度目の失踪に、過去がフラッシュバックし、パニックになる恒。
一方、旅館の仲居として働いていた由香子も現金盗難の疑いをかけられ、追い出されてしまう。
なんとか由香子を見つけた恒は、ふたりで働きながらいつか土地を買い戻そうと彼女を説得する。


恒の元に帰った由香子の前に、ある日、元カレの淳也(じゅんや)がやってくる。
強引に由香子を連れ出し逃げる淳也を追いかけた恒の目の前で、クラッシュし、横転するバイク。
タンデム・シートに座っていた由香子は、勢いよく投げ出され、流血し、病院に搬送される。
しかし、今にも倒れ込みそうなほど心配する恒が病室を訪れると、そこには元気に笑う由香子がいた。


一連のヤクザな取り立てが違法行為だと分かった由香子は晴れて自由になり、恒も土地を取り戻す。
ふたりは結婚し、狭いながらも新居を構え、子どもたちと幸せで温かい家庭を築く。 <了>