ホットロード

Last-modified: 2008-10-18 (土) 17:01:14

ホットロード/紡木たく

405 名前:ホットロード[sage] 投稿日:05/01/15 17:29:48 ID:???

紡木たく(つむぎ・たく) 『ホットロード』 全4巻(文庫版全2巻)
85年12月~87年4月、「別冊マーガレット」にて連載。


主人公宮市和希(14)は親の愛に恵まれずに育った。彼女は母親の誕生日に不良になると宣言。
万引きをし、髪を脱色し、腕に愛する人の名前を彫り、家出もし、学校にもろくに通わず、暴走族の
世界に堕ちていく。和希は暴走族<NIGHTS>の切り込み隊長春山洋志(16)と出会い、やがて
同棲を始める。春山は総頭になるが、新宿の暴走族<漠統>との抗争に巻き込まれ、トラックに
撥ねられて危篤状態に陥る。その事故をきっかけに族を抜けた和希は、一命は取り留めたものの
左半身に麻痺が残った春山と一緒に生きていく決意をする。


406 名前:ホットロード1[sage] 投稿日:05/01/15 17:30:29 ID:???

夜明けの 蒼い道
赤い テイル ランプ
去ってゆく 細い うしろ姿


もう一度 あの頃の あの子たちに 逢いたい


逢いたい……


宮市和希(みやいち・かずき)、14歳。中学2年生。父は和希が2歳のとき他界。母子家庭の彼女の家に
亡き父の写真はない。両親は愛のある結婚ではなかったから。35歳の母には恋人がいる。妻子持ちで
現在離婚調停中の男。高校の同級生だったふたりは、互いに別々の人と結婚しながらもずっと関係を
続けていた。和希はたったひとりの肉親からも満足に愛情をもらえない。どうしようもない孤独を持て余す
和希は母の誕生日に初めて万引きを決行、横浜からの転校生でクラスでもなんとなく浮いていた絵里に
誘われるまま夜の湘南に出かける。連れてこられたのは暴走族の集会。和希は春山という少年に出会う。
春山は初対面の和希に向かって臆面もなく言い放つ。「おまえんち、家テー環境わりいだろ?」


互いに勝気なふたりは出会い頭から口喧嘩を始める。散々な出会い。最悪な第一印象。ところが、族の
仲間たちは皆、「口は悪いが女には滅法優しい」と春山を評する。和希にはそれが信じられない。春山は
その後も和希にだけ執拗に絡んでくる。あるとき春山は和希に「オレの彼女になれ」と言いだす。あまりに
唐突な物言いにむっとする和希。春山には忘れられない女がいると聞いていたのに。一方で和希はまだ
「愛」がどういうものなのか分らない。「愛してるって、どんなふーに?」


407 名前:ホットロード2[sage] 投稿日:05/01/15 17:31:25 ID:???

春山が所属する暴走族<NIGHTS>の集会には、和希と同じように、ひとりでは抱えきれない孤独感や
閉塞感を胸に秘めた少年たちが集まってくる。テイルランプに染まる真夜中のストリート「ホットロード」。
そこを走っているときだけは自由になれるような気がするから、この光の先にここではないどこかがある
ような気がするから、彼らは己の命を削るようにして夜を駆け抜ける。和希は暴走する単車を巧みに操る
春山の背にしがみつき、夜の湘南海岸道路を赤く埋め尽くすテイルランプの帯の一部となりながら思う。
「こんなキレイなものはきっと他にない」


ある日、和希と絵里は江ノ島近くの堤防で他愛もない話をする。和希と春山の距離は以前に比べぐっと
近づき、族の仲間も公認の仲になっていた。そこで和希を春山の彼女だとからかう絵里に対し、和希は
思いつく限り春山の悪口を並べたてる。「わがままでお天気やで、きげんの悪いときはひとをキズつける
よーなことヘーキでいう……」ふいに和希はそんな春山がひどく母に似ていることに気づいて愕然とする。


和希の中で春山への想いが次第に大きく深くなるにつれ、「愛を満足にくれなかった」母への攻撃性は
日に日に増していき、和希は感情を上手くコントロール出来ずに苦しむ。ある日、和希は「なぜ学校を
サボった」と叱る母と口論になり、逆に堂々と不倫を続ける母をひどくなじる。母の実家は中途半端に
名家だったために好き合っていた同級生と結ばれなかった。そんな過去を涙ながら訴える母を凝視し、
和希はただ「きたない(=不潔の意)」と思う。「…いらない子だったら生まなきゃよかったじゃないか」
和希はそう言い捨て家を飛び出す。愛されずに死んでいった父も愛されてない自分もなにもかも悲しい。


408 名前:ホットロード3[sage] 投稿日:05/01/15 17:32:05 ID:???

家出した和希を春山は受け入れようとしない。複雑な家庭問題を抱え、中学卒業後すぐ家を出てひとりで
生きてきた春山にとって、目の前にいる和希はいつかきた道に等しかった。家出はそんな甘いもんじゃない
戻れるうちに戻った方が賢明だ。そう諭す春山に和希は反発し友人宅を転々とするがそれも長くは続かず
和希は「仕方なく」春山と同棲する。一緒に暮らし始めた当初、春山は和希に「やらせろ」と迫るが和希は
それを一切拒む。「何だよ、俺のこと好きじゃねーのかよ」「お前が、お前が私のことを好きじゃないから
嫌なんじゃないかよ」そう言って肩を震わせて泣く和希には、まだ愛が信じられない。


しかし慣れない生活の中で、未熟なふたりは自然に魅かれあい、和希は不器用に春山を愛し始める。
満たされた幸せも束の間、族の切り込み隊長をする血気盛んな春山は異例の抜擢で<NIGHTS>の
総頭を継承。春山はそれにかかりきりになり、和希はまた少なからず孤独を感じる。やりたい放題に暴れ
対抗する族から狙われはじめる春山。<NIGHTS>の武勇伝を聞かされるたびに和希は生きた心地が
しない。「夜の爆音と光がいつも春山をつれていってしまう」


和希は苦い記憶を蘇らせる。以前、春山が新宿の暴走族<漠統>の呼び出しに応じて、茅ヶ崎近くの
駐車場に単身乗り込んだときのことだ。必死に止める和希や仲間を振りきり出かけた春山は、全身に
ひどい傷を負いボロ雑巾のようになって帰ってきた。「族の世界は思ってたよりもずっとこわかった」
あんな思いは二度としたくない。和希は時々そんなふうにムチャクチャな行動をとる春山を見つめながら
痛感する。自分を傷つけることは自分を愛する人をも傷つけることに繋がるのだと。


409 名前:ホットロード4[sage] 投稿日:05/01/15 17:32:44 ID:???

一方で春山もふと心に湧いた葛藤を抱え苦しみだす。和希は知らず知らずのうちに春山のブレーキに、
何もいらない、命さえいらない、ただ暴れ回りたいと思う春山を押し留めようとする存在に、なっていた。
春山は総頭として滾る情熱をぶつけたいと願いながらも大切な和希を想い、その狭間に揺れ困惑する。


春山は決別を選択する。「おまえみてっとイライラする。おまえといるとオレ、ダメんなる。別れようぜ」
春山は和希を想い、和希の人生を考え、危険な己から敢えて遠ざけようとする。その言葉の真意を
和希は読み取れず、傷つき苦しみ泣きながらも悲壮な覚悟を決める。怖い思いをするかもしれない、
もっと泣かされるかもしれない、それでも最後まで春山についていこうと。


和希と春山はふたりきりで互いの家族について語り合う。春山が自身のプライベートについて和希に
明かすのはそれが初めてだった。和希のような妹が欲しかったと言って笑う春山に対し、和希は上手く
話すことが出来ない。未だに消化しきれないモヤモヤした思いが心の内にしこりを作っていた。思えば、
母といたときも、ひとり寂しいときも、家を飛び出して友人といたときも、春山と寄り添っている今でさえも
和希は母の影に囚われていたのだ。

410 名前:ホットロード5[sage] 投稿日:05/01/15 17:33:39 ID:???

春山の誕生日。和希は春山に付き添われて家に帰る。ずっと母に問いただしてみたかった。でも辛くて
怖くてずっと聞けなかった。あたしのことすき?本当に必要?和希の涙ながらの問いかけに泣きじゃくって
言葉にならない母。するとそれまで玄関口で和希らに背を向けて黙っていた春山が痺れを切らせて問う。
「おばさんこいつのこときらいなの?…もしそーならオレがーもらってっちゃうよ」
母は春山をきっと見据えながら答える。「あ…あげ…ないわよ…だれにも…あげないわよ…親が…親が
自分の子をきらいなわけないじゃないの。きらいなわけ…ないじゃない…のぉ…」
それは和希が物心ついた頃から求めていたもの。本当は信じたくて、欲しくてたまらなかった母の愛。


家に戻った翌日、和希は春山と会う。喧嘩なんか行かないで欲しいと懇願する和希に春山は少し間を置き
そして毅然として答える。「オレがいなきゃなんにもできねーよーな女になるな。俺のことなんかいつでも
捨てれる女になれ」春山は既にひとつの暴走族を束ねる総頭となり、和希の手の届かないところにいる。
春山は和希を家に送り届けた後、一ヶ月ほど消息を絶つ。和希はなにか恐ろしくて連絡を取れない。


そして一ヶ月後。春山は久しぶりに和希の前に姿を見せるが、族同士の抗争中に起こった事故に巻き込まれ
走行中のトラックに撥ねられる。意識不明の重態に陥る春山。駆けつけた病院の廊下で「いっしょに死ぬ」と
取り乱す和希を必死に止める母。和希はそのとき初めて母に愛されていると感じる。奇跡的に春山の意識は
戻り、一命は取り留めたものの、左半身麻痺という後遺症が春山に重く圧し掛かる。


411 名前:ホットロード6[sage] 投稿日:05/01/15 17:35:27 ID:???

あのときは 何もみえなくて
人キズつけても 自分の体キズつけてもヘーキで
かっこいーとも思って
悪いことしてもぜんぶ人のせいにしてた
でも 自分がやったことは いつか自分にかえってくる
もし このこと知ってて あの頃にかえれるなら


春山の事故をきっかけに和希は「だれかが事件おこしてつれてかれたり、死んじゃったり、そーゆーのきく
たんびに胸がつぶれそーに痛い」思いをする族を抜け高校に入る。春山が鑑別所を出てからの9ヶ月間、
ふたりは何度か訪れた別れの危機をなんとか乗り越えている。先の見えないリハビリが続く春山とそれを
支えようとする和希。やがていつの日かふたりを繋ぐ絆が強く太く確かなものになれたら…。


今日であたしは17才になります 今までひといっぱいキズつけました
これからはその分 人のいたみがわかる人間になりたい
この先もどうなるか ぜんぜんわからないし 不安ばっかだけど 
ず―っとず――っと先でいい いつか 春山の赤ちゃんの お母さんに なりたい…
それが 今のあたしの だれにもいってない 小さな夢です


春山洋志 16―18  宮市和希 14―17
あたしたちの道は ずっとつづいてる
                                         <了>