獣王星

Last-modified: 2008-12-20 (土) 15:49:36

獣王星/樹 なつみ

325 名前:獣王星1[sage] 投稿日:2005/11/16(水) 16:56:17 ID:???
獣王星 全5巻 作:樹なつみ 発行:白泉社

森の中を逃げる一人の少年ラーイ。
だが逃げ切れずに追いつめられる。
「食べ物を寄こせ。俺が保護してやるから」
男は近づいていく。

ラーイは叫ぶ。
「僕は嫌なんだ。こんなのは嫌なんだ」
叫んだと同時に、男は何かに襲われる。
同時に、ラーイと同じ顔をしたもう一人の少年トールが現れる。

男の荷物を奪い逃げようとするが、ラーイが言う。
「このままじゃこの人は死んでしまう。人を殺して食べ物を奪うのは嫌だ」

トールは怒鳴る。
「こいつが息を吹き返せば、殺されるのは僕らだ。
お前は殺されてもいいのか。パパやママみたいに。」

そのままラーイは泣き出す。
怒りに震えながらトールはラーイを見つめる。

この男が死ねば、僕は何人の人を殺した事になるんだろう。
もう覚えてもいない。
僕は3週間前までは人間だった。確かに人間だった。
でも今は獣だ。ただの獣だ。



326 名前:獣王星2[sage] 投稿日:2005/11/16(水) 16:56:56 ID:???
二人は宇宙に浮かぶコロニーに住む上流階級の子供だった。
金髪碧眼、白い肌、同じ顔の双子。
性格は天と地ほどの差がある。
やんちゃで行動的なトール、大人しく引っ込み思案のラーイ。

二人は学校をサボって将来のことを語り合う。
この時代、人の寿命はどんどん短くなっている。
10代で結婚は当たり前、小学生の頃から結婚相手を捜し始め、
20代になれば年寄りと呼ばれる。寿命は50年ほどだ。

ラーイはそんな人類の寿命について研究したいのだと言う。
その謎を解き明かしたい。その為にも地球へ行きたい。
トールは言う。大きくなったらパイロットになりたい。
「パイロットになったら、僕の船でラーイを地球に連れて行ってやるよ。一緒に行こうよ」

他愛ない話をしながら、二人は家に帰る。
家では、両親が殺されていた。
そこで二人の記憶は途絶える。



327 名前:獣王星3[sage] 投稿日:2005/11/16(水) 16:57:41 ID:???
気づいた時には、救命ポッドの中だった。
声が言う。

君たちはキマエラへと追放される。
キマエラは存在そのものが隠された死刑星。
死刑が禁止されているバルカン星系では、
刑務星ヘカテに送られる以上の重罪を犯した者はキマエラへと送られる。

君たちの両親はバルカン星系の首脳オーディンの命令によって殺された。
オーディンは全権力を持って君たち家族を抹殺した。

「僕達は生きている!」
そう叫ぶトールに、声は冷酷に告げる。
キマエラに落とされる事は、すなわち死を意味する。

しかし生き残る術はある。
獣に戻れば生き残る事が出来る。
キマエラに住む者達は、キマエラをこう呼ぶ。
獣王星。獣の王だけが生き残る星と。



328 名前:獣王星4[sage] 投稿日:2005/11/16(水) 16:58:39 ID:???
それからは地獄だった。
初めて見る海。初めてみるジャングル。
昼のキマエラは酷暑の星だった。
愚痴と泣き言を言うだけのラーイを連れて、トールは水を探す。

そして二人は人間と出会う。
男達は二人に水をくれ、街に連れて行ってくれるという。
この星にも人が住み、街があるらしい。

他にも色々な事を教わった。
森の中は危険であること。
キマエラの植物は肉食らしい。人より植物が強い星なのだ。
ムーサの樹液を塗っていた場合は安全だ。
植物はムーサの樹液を嫌い、襲ってこない。

この星には、輪(リング)と呼ばれる4つのテリトリーがある。
茶輪、白輪、黄輪、黒輪。肌の色で分けられ、違う肌を持つ者はリングに入れない。
ただし茶輪だけは別だ。
ここは4つのリングの中でも最大の規模を誇り、その分寛容でもある。白人も街に住む事が出来る。
それでもリングに加わる事は出来ない。リングに入れるのは一部の人間だけだ。

リングに入れない者は、夜が来れば死ぬ。
キマエラは猛暑の昼が半年続き、酷寒の夜が半年続く星だ。
砦に入れない多くの者は、1/3以上が夜の間に死を迎える。



329 名前:獣王星5[sage] 投稿日:2005/11/16(水) 16:59:51 ID:???
事情を教えてくれ、食糧を与えてくれる男の好意を無邪気に喜ぶラーイ。
だがトールは信じる事が出来ない。
男の目つきが気にくわないからだ。あんな下卑た目をした人間は信じられない。
そっとを男達の話を盗み聞くと、案の定二人を売り払う相談をしていた。

トールはラーイを促して森の中へと逃げるが、すぐにばれて追いかけられる。
足手まといのラーイを連れたまま逃げる事も適わず、二人は捕まってしまう。
抵抗してもみ合って内に、トールは弾みで男を殺してしまう。
逆上した仲間が襲いかかってきた時、別の子供達が表れた。

男の仲間は「野童か!」と叫ぶと逃げ出していった。
トールとラーイは事情がわからないまま、身動きが出来ない。
男以上に、野童は異質な顔をしていた。
下卑ているのではない、人間ではない瞳。まるで動物のような…

「その二人は俺が面倒を見る」
表れた白人の少年が言い出した。

少年はザギと名乗った。
人を殺したショックに震えるトールに、ザギは告げる。
お前がした事は正しい。奴はお前を殺そうとして殺された。
弱い者は死ぬ。それがこの星の正義だ。



330 名前:獣王星6[sage] 投稿日:2005/11/16(水) 17:01:14 ID:???
キマエラでは、母親は子供の面倒を見ない。母親は子供を捨てて去っていく。
子供は野童となり、群れて暮らす。そして大人になると巣から離れて生きていく。
ここはそんな野童達の巣だ。

ザギは様々な事を教えてくれた。だが失敗した時にはかばってくれない。
ここでは一つのミスが命取りになる。水の一滴、肉の一片が命に関わる。
ラーイはミスばかりする。大切な水をこぼし、野童達に殴られる。
その度にトールに助けを求めて泣き叫ぶ。
見捨てる事が出来ないまま、トールはラーイの代わりに殴り倒される。

ザギが言う。お前はいつまで弟をかばうつもりだ。
弟をかばって、このまま死ぬつもりか。
トールは言い返す。
「あいつは兄弟なんだ、家族を見捨てられるはずがない。
僕は獣じゃない。人間なんだから…」

ザギは現実を突きつける。
そんな事を言ってられるのも昼の間だけだ。夜になれば弟は死ぬ。
野童達は夜になれば間引きをする。足手まといは切り捨てられる。

夜が来れば殺される。それを知り、トールは決意する。
野童の巣にいても殺される。ならば少しでも生き残る可能性がある場所へ行こう。
同じ肌をした仲間がいる白輪へ。そこへ行けば生き残れるかも知れない。

ラーイの手を引いて、トールは野童の巣を抜け出す。



331 名前:獣王星7[sage] 投稿日:2005/11/16(水) 17:02:01 ID:???
それからは何でもやった。
水も食糧もなかった。人から奪うしかなかった。
正式にリングに加わっていない浮浪を探しては、食糧を奪った。
何人も殺した。

ラーイは相変わらず泣き叫ぶだけだった。
人を殺したくない、腹が減った、暑い、疲れた、ずっと駄々をこねるだけだ。
何もしない手伝わないのに、飯を食い水を飲む。

「こんな星で生きるくらいなら死んだ方がマシだ!もう嫌だ!」
そうやって泣き続ける。
だからトールは言った。
「じゃあ死ねよ。そのままそこに座ってろ。すぐに死ねるさ」

突き放したトールの言葉に、ラーイは思わず石を投げつける。
トールは何も言わず歩み寄り、ラーイにナイフをつきつける。
自分と同じ顔、自分と同じ瞳の…



332 名前:獣王星8[sage] 投稿日:2005/11/16(水) 17:02:46 ID:???
そこへ機敏な身のこなしの男達が表れる。
今まで二人が殺してきた浮浪とは違う。茶輪からの追っ手だ。
茶輪周辺を荒らしている二人は噂になっていたのだ。
捕まえて死刑にすると言う男を見て、トールは決断する。

「隙を作るから、お前は谷に逃げろ。野童の巣へ行け」
指示を出した後、降伏した振りをしてリーダーの男に近づいていく。
次の瞬間ナイフで男を突き殺し、ラーイとは反対側へ逃げていった。

撃たれて血を流しながら、トールは走る。
しかし、そのまま力尽きて倒れてしまう。

追っ手が追いつくが、一人の少女が立ちふさがる。
黄輪のティズと名乗った少女は、
「この少年を夫に選ぶ。手出しはさせない。」
そう宣言する。

キマエラでは女に手を出すのは御法度だ。
絶対的に女が少ないこの星では、女は貴重な存在だからだ。
そして夫の指名も絶対だ。
男に断る権利はなく、その男には誰も手出しが出来なくなる。

黄輪トップ代理のティズは、茶輪のサードに頼む。
この少年の手当をして保護するように。



333 名前:獣王星9[sage] 投稿日:2005/11/16(水) 17:04:09 ID:???
目を覚ましたトールは、ベッドの上に寝ていた。
ラーイの事を思い出し慌てて起きあがって部屋を出る。
サードと出会い、自分が黄輪のティズに指名されたこと、それで無事が保証されている事を知る。

時代錯誤な話しにトールは冗談じゃないと逃げ出す。
ティズに対しても、「選ばれるのはごめんだ。僕は誰にも守られたくない」と言い切って砦を出ていった。

逆上したのはティズだ。女の指名は絶対だ。
セックスも子供を産んでもらえるのも、女の指名があってこそ。断る男などいない。
それをトールは断った。これ以上の侮辱はない。

砦の外で二人が言い合っていると、周りの様子がおかしくなっていく。
コポコポと水の音がしはじめ、地鳴りが響いてくる。
ムーサの発芽が始まった。

巨大な芽が恐ろしいスピードで伸びていき、砦も崩れていく。
外に出ていた二人はひとたまりもない。巻き込まれ、宙に投げ出される。
トールは咄嗟にナイフを芽に突き立て、ティズの手を掴む。

傷が開き、意識がもうろうとしながら、それでもティズの手を離さない。
このまま手を離したら、本当に獣になってしまう。
だから離さない。絶対に。

そこにサードがやってきた。
エアバイクで二人を拾い上げ、砦に戻っていく。
気が抜けたトールは気を失ってしまった。



334 名前:獣王星10[sage] 投稿日:2005/11/16(水) 17:06:19 ID:???
トールが気づくと、砦の中は妙に友好的なムードになっている。
命がけで女の命を守った為、男達の態度が変わったのだ。

妙な状況に戸惑いながら、トールは表に出る。
外の様子は一変していた。砦よりも高く育ったムーサの木が生い茂っている。
ムーサはまだまだ伸びていき、やがてそれぞれが癒着してドームを形成する。
育ったムーサは地中の水をくみ上げ、地上に放出する。そうやって地上は潤う。

サードは、こんな星でも住めば都だと言う。
何より30才まで生き残れば恩赦がある。キマエラからヘカテへと渡れる。

「僕は嫌だ。20年も待てない」

父も母も殺された。事情もわからないままキマエラへ落とされた。
オーディンに会い、真実を知るまで死ぬわけにいかない。
30まで待っていられない。
今すぐにでも獣王に会い、協力させてヘカテに行けばいい。

途方もない企てに、サードは笑って答える。
獣王が住む刃塔には誰も近づけない。
ヘカテよりもたらされた技術で完全に武装されている。

しかし、一つだけ方法はある。
トールが獣王になればいい。そうすれば堂々とヘカテへ行ける。
今の獣王はそろそろ寿命が近い。獣王が死ねばヘカテから指令が届く。
そして新しい獣王を選ぶために、4つの輪のトップが争う。
トールもそれに参戦すればいいのだ。
そんな事を教えてくれるサードに違和感を感じながらも、ヘカテへ行ける可能性に希望を見つける。



335 名前:獣王星11[sage] 投稿日:2005/11/16(水) 17:08:22 ID:???
数日後。
トールは砦を出て歩いていた。
ラーイを探すために野童の森に行かなければならない。

その時、前方に懐かしい影が見えた。ザギだ。
駆け寄ってラーイの事を尋ねるトールに、ザギは匂い袋を差し出す。
ラーイが落としたそうだ。ラーイは死んだ。

誰も追いかけていないのに、ラーイは泣きながら逃げていた。
そのまま谷へと落ちた。最後に「トール」と叫びながら。

僕が殺した。
足手まといで鬱陶しくて、いなくなって安心していた。
もっと早くに探しに行けた。でも言い訳してグズグズしていた。
重くて憎くてたまらなかった。でも同じくらい愛していた。
僕が殺したんだ。

「地球へ行きたいんだ」

そう話していたのは随分と昔の気がする。
パイロットになってラーイを地球に連れて行く。
そう約束したのは3週間前なのに。

ラーイの血と骨に誓う。
この地獄で必ず生き抜いてみせる。
オーディンの喉を食い破るまで僕は死なない。
そして、いつか必ず地球に帰るんだ…

1巻終わり



336 名前:獣王星12[sage] 投稿日:2005/11/16(水) 17:09:53 ID:???
トール…金髪白人の少年。ラーイと双子。
ラーイ…金髪白人の少年。トールと双子。
ティズ…黄輪のセカンド。現在は産休中のトップ代理。トールと出会って黄輪を抜ける。
サード…茶輪のサード。

輪…読み方はリング。キマエラのカテゴリー。茶輪、白輪、黒輪、黄輪がある。それぞれ肌の色を表している。
トップ、セカンド、サード…輪内部の役職名。各輪ごとにトップ、セカンド、サードの3人がいる。

キマエラ…死刑星。またの名を獣王星。
・星の存在そのものがトップシークレットであり、一部の人間しか知らない。
・生態系が他の星とは全く異なっている。
 この星で最強の生き物は植物。ほとんどの植物は肉食であり危険。
・夜が半年続き、昼が半年続く変わった星。
 夜の間は氷点下のブリザードが吹き荒れる酷寒、昼の間は30度以上の猛暑が続く酷暑の星。
・住んでいるのは死刑囚かキマエラ育ちの野童と呼ばれる現地人だけ。
・男と女は別れて生活している。両者が出会えるのは、夜の前の一週間のみ。
 それ以外の時期に手を出すのは御法度。
・絶対数が少ない女は貴重である。女の意志は絶対。
 男女の関係は女が一方的に男を指名し、夜の前に種づけして終わり。

獣王…キマエラを支配する王。4つの輪のトップが争い選出される。
ヘカテ…刑務星。罪を犯した者はここに送られる。ヘカテ送り以上の重罪犯はキマエラ送りとなる。
オーディン…バルカン星系の支配者。
バルカン星系…キマエラやコロニーが存在する星系。地球とは離れたところにある。



680 名前:獣王星[sage] 投稿日:2007/11/22(木) 00:38:40 ID:???
トールはティズから、惑星ユノの出身であるコリンという老人の
存在を聞かされ、ティズと共にコリンに会いに家出する。
その途中、ティズの元上司のチェンと鉢合わせ。
ティズに逃げられ、サードに振られて虫の居所の悪いチェンとトールは喧嘩になり、トールは植物の樹液をチェンに浴びせて逃げる。
黄輪のリーダー・ユウキと懇意のチェンに逆らったトールにティズは感心。
二人は自分達の輪を作る約束を交わし、ティズはトールにセカンドとしての忠誠を誓う。
チェンが追ってきて、トールとティズを巡り決闘になる。
トールはチェンの剣を折って勝ち、その後彼女を襲った食人植物・ベラ・ソナーを倒す。
サードの迎えで茶輪に戻ったトール。サードはチェンに、自分は子どもをつくることの出来ない体なのだと、
かつて振ったことをわび、気のあるそぶりを見せる。
しかし、実はそれは、チェンに気のある茶輪のリーダーを挑発するためだった。
 
サードは、自分がトール輪のサードになると言い、トールをコリンの元に連れて行く。
コリンは若手将校のオーディンに対する反逆に家族が連座し、政治犯として死刑星に追われたのだった。
コリンはトールの父はオーディンの怒りを買い、殺されたのではないかと言う。
トールは政治犯の息子として流刑にされたのではないかと。
そこに茶輪のリーダーの刺客がサードを襲撃するが、彼はそれを見越して防弾チョッキを着ていた。
コリンは別れ際に、ユノの人間は弱い、延命手術を受けていないトールは20代で死ぬだろうとティズに言う。
ティズはトールを早く獣王にしようと決意する。
茶輪に帰ったトールは、トールを認めたチェンからユウキを紹介される。
人の良いユウキはトールを気に入り、後見を申し出る。
 
サードが気にいらない茶輪の頭は、サードに嫌がらせをし、トールと喧嘩になる。
そのドサクサで、トールは茶輪の頭に決闘を申し込んだことにされてしまう。



681 名前:獣王星2[sage] 投稿日:2007/11/22(木) 01:08:36 ID:???
サードはトールに、自分は若手将校の叛乱の生き残りだと告げる。
そして、叛乱の首謀者は、トールの父だったと明かす。
サードは父の敵を討つために、自分と協力して獣王になれとトールを煽るのだった。
決闘は、トールの不利に進んだが、サードが茶輪のリーダーを狙撃し、隙を作ってトールを勝たせる。
瀕死の重傷を負ったトールは奇跡的に持ち直し、茶輪を乗っ取ったのだった。
 
一方ユノでは、オーディンに叛意を持つギリングが、キマエラの情報を入手していた。
貴重な資源を大量に持つキマエラをなぜオーディンが死刑星にしておくのか。
オーディンは「ミドガルド計画」という謎の計画を進めていた。

15歳になったトールは茶輪の勢力を二倍に拡大し、カリスマとなっていた。そこへ、黒輪全滅の報が届く。
白輪のリーダー・ブラン・ロウの仕業だった。トールはユウキと協力し、ブラン・ロウを討つことを決める。
チェンは決闘の傷で片足を失い、塞ぎこんでいた。
チェンに恋するユウキは、サードに彼女を慰めてくれと頼むが、彼は
「自分には心底ほれた女がいる」と言い、それを拒否するのだった。
ブラン・ロウがそこに現れ、ユウキと決闘になる。
ユウキはブラン・ロウの隠し武器にやられ、チェンに見取られ息絶えた。
そこにトールたちが駆けつけるが、ブラン・ロウは「トール・でかくなったな」とマスクを取ってみせる。
ブラン・ロウの正体はザギだった。



682 名前:獣王星3[sage] 投稿日:2007/11/22(木) 01:27:49 ID:??? 
かつての庇護者・ザギへの情を捨てられないトールは、ティズを連れてザギを尋ねる。
ザギは、獣王制に関する真実を明かす。
刑務所惑星ヘカテの出身である彼は、歴代の獣王が氷付けにされているのを見たというのだ。
獣王制は犯罪者を共食いさせるためのシステムだった。
ザギの目的は、獣王制の崩壊だった。彼は他輪を襲って混乱を
引き起こし、キマエラを独立させようと考えていた。そしてトールに、自分に力を貸せと迫るのだった。
白輪の本拠地(元は黒輪の砦)を訪ねるトールとザギを刺客が襲った。
ザギを救ったのは、ザギのセカンドの美少女・カリムだった。トールはカリムに一目ぼれしてしまう。

ザギを愛するカリムは、ザギにトールは危険な存在だと主張するが、ザギはカリムを手荒に扱い、追い出す。
一方、カリムに焼餅を焼くティズも、ザギは危険だとトールに迫っていた。
ティズはトールに、うっかりか彼の寿命のことを明かしてしまう。
ティズは、自分がトールの子を産んで彼の血を残してやると
言い慰めるが、オーディンへの復讐をあせるトールとは気持がすれ違うばかりだった。

カリムはザギに追い出されたショックで、砦を飛び出す。
追ってきたトールともみ合いになり、二人は崖から落ちてしまった。

一方、サードは通信施設で、密かにギリングに連絡を取っていた。
トールらの動向を逐一報告し、彼は「オーディンの失脚」という目的を口走る。



683 名前:獣王星4[sage] 投稿日:2007/11/22(木) 01:37:04 ID:???
カリムは目を覚まし、ザギに切り捨てられたことでトールに当り散らす。ザギに拾われた野童あがりの彼女は、ザギに随い、白輪のリーダー等を倒し、ここまでやってきたのだった。
 
トールはザギはカリムを利用しているだけだと、目を覚ますよう迫る。
自分が何故キマエラに落とされたのかを知るまでは生きたいという強いトールの意志に、彼女もまた心を引かれ始めていた。
カリムは始めて会ったとき、トールの美貌を妬ましく思い彼に当たったのだとわび、二人はキスをした。
トールはムーサの木の内側を登って崖から脱出する方法を思いつく。
トールは彼女を茶輪に誘い、ユノ流の一夫一婦婚をしようとプロポーズした。
 
トールを探し砦を飛び出したティズは、トールからプロポーズの話を聞かされ愕然とする。
しかしチェンは、自分がユウキに何もしてやれなかったことへの後悔から、ティズに、思いが届かずに辛くても、
トールの側にいてやるように説得するのだった。
 
ザギはトールに、クーデターの第一歩として、獣王を名乗りへカテに行くように言う。
サードはしかし、その案に猛反発した。
トールは「自分には時間が無い」と言い、一刻も早く真実を知りたいのだとサードに言う。
しかし、サードもまた「自分には時間が無い」とあせっていた。
 
ティズは、どうしてもトールの子が産みたいのだとトールに言う。
しかし、家族であるティズを「女」として扱えないトールは、ティズを振ってしまった。
 
一方ザギは、カリムにトールを結果的にとはいえ手なずけたことをほめ、トールをスパイしろという。
カリムが自分から離れられないのを見越してのことだった。
「自分とトール、どちらの子を産みたいんだ?」問われて答えられないカリムをザギは置き去りにした。
カリムは慌ててザギを追うが、そんな彼女を何者かが刺殺した。
トールはザギの名を叫ぶカリムの声を聞いていたため、ザギがカリムの敵だと思い込み、「殺してやる!」と叫んだ。



684 名前:獣王星5[sage] 投稿日:2007/11/22(木) 01:53:32 ID:???
獣王を巡るザギとトールの決闘が始まった。
ザギは隠し武器を使い、トールを不意打ちにしようとするが、トールの反応速度の前には通用しなかった。
ザギは腹をえぐられつつも、トールに「惚れてた女が離れていったからといって殺すほど、
俺が堕ちて見えるか」と言い、サードに目を向けながら「あいつを信用するな」とささやいた。
 
トールはザギを活かしておくよう仲間達に頼み、ティズ、サードと共に軌道エレベーターへと向かった。
エレベーターには軍人が迎えに来ていた。トールはなぜか不吉な感じを覚えた。
 
エレベーターにはオーディンの旗艦「アスガルド」がやってきていた。
アスガルドからの迎え、ロキ博士は、トールの母、イヴァがヘカテの施設で研究を行っていたと告げる。
トールは一人オーディンのもとへ向かった。
一方サードは軍人から「任務完了」と三階級特進を告げられ「シグルド」という名で呼ばれた。

オーディンはトールに向かって「人類を救ってくれる遺伝子の集大成」と呼びかけた。
2500年、あと60年後に、バルカン星系の人間は不妊で絶滅する。
その中で、唯一人間が生き延びられる星、キマエラに遺伝子操作したバルカン星系人を送り込む計画が持ち上がった。生命力の強い獣王の遺伝子を回収し、作られたのがトール。

トールは代理母、イヴァの母体でイヴァそっくりに擬態、イヴァの愛を得た。
イヴァらはトールをキマエラ送りにするのを拒否したため、抹殺されたのだった。



685 名前:獣王星6[sage] 投稿日:2007/11/22(木) 02:15:35 ID:???
シグルドは肌の擬態を解き、白人の美青年の姿に戻った。

トールは両親の敵が自分自身だったと気付き、愕然としていた。
キマエラは、少数のキマエラ移民と遺伝子操作され囚人に偽装して送り込まれた人間で構成される、人間の実験牧場だった。
最終的にはキマエラに自転加速という無理なテラフォーミングを行ってでも、人間の生息にに適応した地に変える
と言われ、トールはそれはキマエラの生態系を逆に壊す結果になると反対する。
何故地球に帰らないのかと問われ、オーディンは口ごもった。

そこにシグルドが現れた。
シグルドは11歳のときからコンピューターで植えつけられたスパイ用の人格「サード」を演じてきた。
若手将校の叛乱の影の首謀者、ギリングに接近し、彼を見張ると同時に、叛乱をわざと失敗させ、
囚人としてキマエラに潜り込んだのだ。
サードに裏切られたトールは絶望する。そこに乱入したティズはシグルドを見て、
「サードそっくりに化けた偽者」ととんちんかんな発言をして場を混乱させる。

病弱な孤児だったシグルドは、地球のホログラフに憧れ、地球に行くことと引き換えに危険な任務に身を晒したのだった。
地球に行くためにトールを利用したシグルドだったが、いつの間にかトールのサードとしての純粋な感情も芽生え、
シグルドに戻った自分を偽者だと感じるようになってしまった。

ギリングはサードが、オーディンの二重スパイだったと知らされ、逮捕される。
彼はオーディンに弁明がしたいと言い、回線を繋いだ。
トールは自分は新世界のアダムではない、イヴの食べた罪のリンゴだとティズに言い、自分の生い立ちを呪う。
しかしティズはイヴの話より、最後に希望が残るパンドラの話しのほうが好きだという。
カリムのことを許し、トールの葛藤を受け入れようと努力するティズに、トールは「子どもを作ろう」と語りかけた。



686 名前:獣王星7[sage] 投稿日:2007/11/22(木) 02:37:47 ID:???
ロキは実は、ギリングとグルだった。オーディンの強硬な姿勢に
反対したロキは、ギリングにヘカテの研究施設のコンピューター「ワルキューレ」のパスワードを教えていた。
 
オーディンへの復讐のため、ギリングはワルキューレを暴走させ、自転加速装置を急激に動かすことでキマエラを滅ぼそうとした。
星を救うにはワルキューレを直接止めるしかない。
トールはオーディンにキマエラの独立を認めさせる代わりに、ヘカテに乗り込むことにした。
トールは軌道エレベーターで星の人々を避難させるために、ティズを星に戻すことにした。
トールにとって今や、ティズは希望の女神のような存在だった。再会を誓い二人は別れる。

トールはシグルドに、サードを意識して演じていたのかと聞く。
シグルドは自分は本当は気弱な人間で、サードのような自信家になりたかったのだ、と答える。
トールは「サード」という偽の人格もまたシグルドの願望が混ざった、不可分な分身のようなものだったのではないかと感じた。彼は「サード」と「シグルド」の二つの人格の葛藤に、自分とラーイの愛憎関係を投影していた。
 
ヘカテの研究所でトールが見たものは、干からびた死体の山だった。
ワルキューレはキマエラで採取された植物を操り、人間を攻撃したのだ。
トールとシグルドは実戦経験のない軍人を率い、攻撃を突破していく。
しかし、今度は冷凍されていた獣王の集団が攻撃してきた。
トールはかつての獣王らの哀れな姿に、研究者たちのやってきたことへの怒りを感じた。
 
中枢にたどり着いたトールらに、ワルキューレは精神攻撃を加えた。
地球がもはや隕石の落下で砕け散り、存在しないことを伝えたのだ。
長年の夢を失い絶望するシグルドに、トールは「自分の人生のケリぐらい自分でつけてみろ」と叱咤する。



687 名前:獣王星8[sage] 投稿日:2007/11/22(木) 02:56:05 ID:???
ワルキューレは停止パスワードを自ら無効化していた。
トールとシグルドは動力炉の暴発を覚悟でワルキューレを破壊、ヘリポートで脱出する作戦を実行する。
シグルドは、自分は死んでもトールを逃がす決意を固めていた。

自転促進装置のボールが暴走を始めた。
しかし、キマエラの植物は、根を自ら伸ばし、ボールを止めて惑星を守ろうとし始めていた。
ザギは避難民たちに加わらず、ティズと共に地上に残っていた。
そこへ黒輪の生き残りがザギを襲撃、ティズはザギをかばって撃たれ、彼と共に崖から落ちた。

ティズは「トールは泣き虫だからオレがいないとダメなんだ」と言い、微笑みながら死んでいった。
ザギもまた植物の根がボールを止めたのを目撃、安堵しながら崖下で死んでいった。

植物に襲われ、次々と仲間が死に、最後はトールとシグルドだけになってしまった。シグルドはヘリポートから転落する。
彼を命がけで助けようとするトールを見たシグルドは、「サード」の人格に戻り、
「カリムを殺したのは俺だ。俺を憎め。憎み続けて忘れないでくれ」と言い、自決した。
トールの髪や肌は、本来のキマエラ人系の褐色に戻り始めていた。
トールの前にティズの幻が現れ、彼をヘリへと導いた。
ティズの幻はトールを見送り、消えていった。
 
オーディンは寿命で息絶えようとしていた。
オーディンにトールは「地球型の人間は滅んだ。キマエラにいる人間は別の種だ。
キマエラに許され、キマエラの一部となった生き物だ」と告げる。
オーディンは二度とキマエラに干渉しないことを告げ、キマエラに戻るトールを見送った。



688 名前:獣王星・終[sage] 投稿日:2007/11/22(木) 03:06:22 ID:???
キマエラはあと1万年ほどで、周期が正常な形に戻り、住みやすい星になるそうだ。
対して、トールの生まれたバルカン星系のコロニーの、地球型人類の滅亡は避けられそうにない。
死んだオーディンは、トールらが地球型人類という兄弟を忘れないで欲しいと願っていた。

トールは、環境適応遺伝子により、キマエラに適応した、褐色の肌を持つ姿に変化していた。
なぜかその姿は、かつてのサードにうり2つ。
輪制が崩れたので、トールが星全体のトップに立ち、野童らを引取って皆で暮らしていた。
 
ある日トールは森で迷子になった黄色人種の幼女をチェンらと共に助ける。名前の無いその子にトールは、
「名がないならやろう。ティズだ。希望という意味だ。」と告げる。小ティズを抱き、大地に立つ彼の姿でED。



691 名前:補足説明:輪[sage] 投稿日:2007/11/22(木) 13:43:53 ID:???
「輪」は肌の色と性別で別れています。それぞれの輪に男性と女性のグループがあり、それぞれリーダーがいます。
チェンは黄輪(女)、ユウキは黄輪(男)のリーダーで、野童時代の友人でした。
トールが乗っ取った茶輪と、ザギがリーダーを殺し乗っ取った白輪は、輪の伝統を
無視し男女混合で、トールがキマエラを統一してからは完全にこのスタイルになっています。