少年怪奇シリーズ

Last-modified: 2008-10-25 (土) 11:35:35

少年怪奇シリーズ/なるしま ゆり

160 名前:少年怪奇シリーズ[sage] 投稿日:2005/08/10(水) 01:30:39 ID:???
●隣の町で死んだひと
受かるはずの有名私立中学の受験に失敗した戸倉坂拓考(コクラザカ ヒロタカ)と、
双子の弟がその中学に合格したという落柿キタ(ラクシ)は公立中学で同じクラスになる。
戸倉坂は無愛想で口調がきつく、いつも読書(ポスタルガイドや漬物図鑑など妙な本)ばかりで
クラスから浮いた存在。
それに対し落柿は茶髪にピアス、明るく人気者のラーメン屋を夢見る少年。
共通点皆無の二人だが、楽柿は戸倉坂の読んでいる本の奇抜さから彼に対して興味を持ち
なぜか戸倉坂もしばしば楽柿のことを観察しているのだった。
ある日偶然校外で戸倉坂に出会った楽柿は、何故自分が彼に興味を持っているのかを話す。
すると戸倉坂は「『隣の町で死んだひと』ってなんだかわかるか?」と尋ねて店を出て行った。
その後彼は帰り道で妙な中年の男に
「出席をとります。出席番号10番 戸倉坂拓くん。返事は?」と尋ねられる。
名前が間違っていたため戸倉坂が返事しないでいると男はいきなり激昂し、戸倉坂の首を締めだした。
しかしそこで戸倉坂を追いかけて来た楽柿が助けに入る。
戸倉坂が「楽柿」と呼ぶのを聞いて男は「君はまだだ・・・39番だよ。」と言い、
戸倉坂に再び返事を促す。
戸倉坂が返事をするとオヤジは何事も無かったように去っていった。
彼らの街では最近このような出席を取る通り魔による事件が多発していたのだった。



161 名前:少年怪奇シリーズ[sage] 投稿日:2005/08/10(水) 01:31:36 ID:???
●隣の町で死んだ人(続き)
戸倉坂は犯人が自分の名前を間違えていた事を手掛かりに
犯人は塾のチラシなどから成績優秀者の名前を「あ」から順に
一人ずつ選び出席をとっていること、楽柿は成績優秀な弟と間違えられている事を推理する。
彼の予想通り犯人は再び楽柿の前に姿を現した。
楽柿は素直に返事をするも彼の茶髪ピアスに激怒し襲い掛かってくる。
しかし場所が学校だったので犯人は無事逮捕された。
事件後戸倉坂は『隣の町で死んだひと』は今は亡き従兄弟が書いた小説だという事を楽柿に教える。
ひたすら勉強ばかりしていた戸倉坂はその小説に感動し、彼のような小説を書くには
学校で習うことだけではなく幅広い知識が必要だと考え
あらゆる本に手を出し(その結果受験失敗)、また楽柿がその従兄弟と似たところがあるから
しょっちゅう観察していたのだと言う。
楽柿は頭がいいのに行動が極端すぎる戸倉坂に親しみを覚え、晴れて二人は友達になったのだった。



162 名前:少年怪奇シリーズ[sage] 投稿日:2005/08/10(水) 01:32:52 ID:???
●怪談六話
都古(ミヤコ♀)と忍(♂)は従兄弟であり、小さな頃からの友達だった。
忍に固い友情を求める都古は幼い頃、丘の上の城跡公園に伝わる
『友達同士で夜公園に行くと6つの怪談が見える』という呪いによって自分達の友情を証明しようとし
実際幼い二人は、公園でいまだ彷徨い続ける武士や農民など6つの霊を目撃する。
その後二人は中学生になり、何となく肉体関係を持ちながらも依然都古は忍に対して友情を求めていた。
しかし忍以外の友達がいない都古に比べ、周囲と上手くやっている忍は、昔と態度が変わり
このままではいつか自分から離れてしまうのではないかと感じた都古は、公園の呪いを思い出す。
あの呪いには続きがあり、『6つの怪談を見た二人は城主の呪いによっていつか殺し合う。
呪いを解くには城主の霊を見つけるしかない』というもので、これを7つ目の怪談といった。
7つ目の霊を見つける事により、もう一度友情を確認しようとした都古だったが
忍は乗り気ではない。その時都古は不注意で学校の屋上から転落してしまう。
意識不明の重体となった都古にどうする事もできない忍は、あの公園に向かう。
忍が公園に着くと、そこに幼い頃の姿をした都古(幽体)が現れ二人は再び夜の公園を歩き回る。
しかし結局7つ目の霊どころか1つも霊に会う事は出来なかった。
幼い姿の都古は涙を流しながら「あたしと忍ちゃんって今友達かな?」と尋ねる。
長い長い時間をかけて忍が「・・・わかんねー」とだけ答えると、それを聞いた都古は
忍の自分への思いが友情だけではないこと、そして自分の忍への思いも
友情だけではないことに気付き「うん、あたしも」と答えたのだった。

その後都古は無事目を覚まし、そんな彼女に忍は「7番目の怪談は生霊に会うこと」だと説明する。
二人の顔にはどこかさっぱりとした笑顔が浮かんでいた。



190 名前:少年怪奇シリーズ[sage] 投稿日:2005/08/12(金) 00:15:02 ID:???
●この国は深夜限り
ドイツ人の老人カールは現在日本に住んでいる。窓から見える小さな橋は、
いつも故郷の村にある小さな橋を思い出させる。その橋は霧のかかる夜に死者の国に繋がるという。
ある夜カールはその橋に懐かしい少年の姿を見た。

(場面はカールの青年時代へ)
カールは幼い頃大切な友人ミハイルと共に川に落ち、
彼が川の中で自分の身を犠牲にしたおかげでカールだけが助かった。
それ以来カールはずぶ濡れのミハイルの姿を橋の周辺で見かけるようになり
自分が代わりに死ぬべきだったといつも過去を悔やんでいた。
その頃、彼の暮らす村では何人もの人が不審に死亡していた。
死体を発見した者たちは事件現場でミハイルの亡霊を目撃しており
村人達はミハイルが恨みから村人を橋の向こうへ連れて行っているのだと噂する。
それを聞いたカールはその恨みは自分にこそ向けられるべきだと考え
ミハイルに会うため、霧のかかる夜にあの橋を渡ってしまう。
橋の向こうに着くとそこには見知らぬ町があり、死んだはずの多くの村人達が暮らしていた。
驚いているカールの前にミハイルが現れこう言う。
「ここにいるのは生きていたときの記憶から離れられない人間ばかり…だから生者を呼ぶ」
さらにミハイルは言う。
「僕は怒っている。僕は何故・・・ここでこんな思いをしているの?」
「僕が今もここにいるのは君のせいだ。僕は君に・・・謝ってほしい」
それを聞いたカールは、自分のせいで君はそんな水浸しの姿になってしまった、と謝る。
するとミハイルは自分の濡れている手をカールの口元に当て、水が塩辛い事を教えた。
実はミハイルをずぶ濡れのままにしていたのはカールの涙だったのだ。
「僕はずっと怒っているんだよ。こんな思いをさせてくれるのも、僕を縛るのも
 この世に一人しかいないんだ・・・・・・泣かないで」

(場面は現在へ)
カールは橋のところまでやってきて、今はもう濡れていないミハイルと対峙する。
「もう泣いてたつもりはないのだけど、どうした事かな?もしかしたらついにお迎えかな」
そう言った瞬間、先程までカールがいたマンションの一室がガス爆発を起こした。
炎の出るマンションに驚き、カールがミハイルの名前を呼ぶがそこにはもう誰もいなかった。



191 名前:少年怪奇シリーズ[sage] 投稿日:2005/08/12(金) 00:16:47 ID:???
●終電時刻
宝くじで当てた2億円を豪快に使い切った日に、駅にて運悪く死んでしまった一登(21)は
未練も無いはずなのになぜか成仏できず、寂しさから駅の構内で話し相手を探していた。
ある日、終電過ぎにバイオリンを弾く霊がでるという噂を聞き
怖い物見たさからその幽霊を探しにいった一登は、
駅を練習の場とするバイオリンを弾く少年(幽霊ではない)テツを見つける。
テツは幽霊が見えるらしく、一登を見ると「楽器は?」「持ってねえって事は歌か!?」
「俺は合奏なんかしないし、お前らに聴かせる演奏もない!!」と怒って行ってしまう。
次の日再びテツに会いに来た一登は、テツの演奏を褒める。
するとテツは顔を曇らせ、本当はバイオリンを弾くのが嫌なのだと話しだした。
テツは幽霊が見える体質で、音楽学校やホールや素晴らしい楽器の傍で
死んでもなお楽器を弾き続ける霊、歌い続ける霊を見てきた。
その霊達に、「お前も永遠にバイオリンを弾き続けるために生まれたのだ」と言われ続け
バイオリンを弾く事が好きな反面、恐れを持っていたのだった。
それを聞いて一登は自分は家族や周囲の人間と一緒にいるために生まれたのだと話し
「もっと一緒にいたかった。当たり前すぎて未練でもないよ、そんな事」
とも言う。そして自分の生まれた意味は自分で決めろとテツに言った。
それで迷いがなくなったテツは、バイオリンの上達を目指し始める。
そして世界中のコンクールに一登を連れて行き、一位になるところを見せると約束する。
一登が嬉しそうに笑うと、いきなり空に続く階段が目の前に現れた。
そこで一登は、自分が成仏できないのは未練があるからではなく、単に49日前だからで
今日は自分が死んで49日目だという事に気付く。
戸惑う二人だが、二人の口から出た言葉は「会えただけで嬉しかった」だった。
そして一登は見送りの一曲をリクエストし、階段を昇っていった。



194 名前:少年怪奇シリーズ[sage] 投稿日:2005/08/12(金) 16:58:11 ID:???
●番町サカナ屋敷
『月光仮面』の放送終了に日本中の子どもが悲しんでいた昭和の時代、
近藤と新田という仲のいい悪ガキがいた。二人は皆をアッと言わせるために
魚屋敷を探検する作戦を立てる。魚屋敷とは、
昔戦時中にもかかわらず高価な錦鯉を飼っていることが国にばれて
非国民と町中からいじめられ、そのうち孫娘が事故、嫁が病気で死に
それ以来いないはずの鯉がはねる水音や、孫娘の姿を見るといういわく付きの屋敷だ。
二人は屋敷の庭に入り込んだ。
するといきなり激しい雨が降り出し、閉められていた屋敷の雨戸が勢いよくはずれた。
二人が驚いて逃げようとすると、かつて鯉がいたであろう池から
ずぶ濡れの幼い少女が顔を出し「あか・・・にぃ?」と呟いた。

幼い十美は、戦争に行った父は池の斑の鯉が真っ赤になったら帰ってくると
祖母から教えられていた。それは祖母の十美への愛情だった。
父に早く帰ってきてほしい十美は、いつも自分の赤い着物の袖を池に浸し
「朱にぃー朱にぃー、十美のべべみたいに朱になぁれ」と鯉を見つめていた。
ある日祖母は、お菓子に彩りとしてダリアの赤い花びらを添え十美に与える。
喜んだ十美は池のほとりでお菓子と一緒に花びらまで食べてしまう。
しかしダリアの花びらには毒があるといわれていて、お腹が痛くなった十美は
バランスを崩して池に落ち、助けを呼ぶこともできずに死んでしまったのだった。

二人は気がつくと庭の池に浮かんでいた。
彼らは意識が無い間、この家の過去を垣間見ていたのだ。
そのことを誰にも言えないでいた彼らは、もう一度屋敷に行く決心をする。
今度は家の中にまで入り込むが、そこにこの屋敷の血縁者が現れた。
様々な現象は、あまり強すぎて時間にもなかなか流すことのできない思いが残っただけ、
だけど昔の悲しい気持ちがいつまでも残っているのはイヤだから
この屋敷にもう一度鯉を住ませてやりたいのだとその人物は言う。
その話を聞いた二人は、話の内容を幼いながらも理解しようとする。
いい思いも悪い思いもいつかは消えていく。それでも、少しでもいい思いが
時間に勝てるようにと彼らはいっぱいの朱い金魚を屋敷の池に放った。



195 名前:少年怪奇シリーズ[sage] 投稿日:2005/08/12(金) 16:59:43 ID:???
●ディープフリーズ
学生のユキヤ(♀)は世間で話題のネット上のゲームをただ一人だけクリアし
賞金一億をもらえる事になった。そのゲームはただ質問に答えるだけという物なのだが
その質問の面白さにツイツイ引きこまれてしまう不思議なゲームだった。
ユキヤも初めは面白がっていたが質問が進むごとに妙な事に気付く。
質問の内容が、自分の過去を知らなければ作れないようなものなのだ。
ゲームの最後の質問『全ての人間の人生の価値は同じですか?』という質問で
ユキヤは父親の事を頭に思い浮かべていた。

ユキヤの父親は車で人をはね、相手の国立大学生を四肢不随にしてしまう。
父は家族に負担をかけないために離婚し、膨大な慰謝料を一人で払う事を決めた。
ユキヤは悲しみながらも、父の人の良さに笑顔を見せる。
しかし彼女は被害者の入院している病院で、被害者の家族が
「向こうもバカだね。そんな金を払う価値の無い人間のために自分の人生を潰すなんて」
と話しているのを聞いてしまう。
実は被害者は罪を償うにあたいしないような最低な人間だったのだ。

彼女は質問に涙を流しながら「同じだと オレは 思う」と答える。
父がそう信じているのだから。



196 名前:少年怪奇シリーズ[sage] 投稿日:2005/08/12(金) 17:01:52 ID:???
●ディープフリーズ(続き)
賞金の受け渡しに現れたのは、
ゲームの主催者で大学院生兼作家の手白沢(テシロサワ)という男だった。
彼はユキヤを見ると結婚してほしいと言い出す。
実はこのゲームは手白沢が自分好みの人間を探すために企画したものだったのだ。
手白沢には不思議な力があり、その内容は『強い感情を伴う記憶を読み取ること』と
『維持しようとする情熱が無い記憶や想いを凍結させる(忘れさせる)こと』というもの。
手白沢は自分の凍結の能力が効かないような心の強い人間を探しており
能力を使ってゲームの参加者の心を読み、そして最も惹かれた心がユキヤだった。

ユキヤは手白沢に結婚と引き換えに
事故の被害者の心を凍結させてほしいと依頼する。
二人が病室に入ると、被害者の男は
「キミ達家族に会うと僕はますます悪くなる」「これは立派な心因性の病気だ」
「帰れよ!!僕が治らなくなっちゃうだろ!!」「最低だぞお前ら!!」
と一方的に怒鳴りだす。
そんな男を見て、手白沢は男の心の中のコンプレックスや
本当は社会復帰せずずっとベッドの上にいたいという醜い思いを読み取る。
そしてそんな思いを手白沢は凍結させてしまった。

こんな事をしても結局は何も変わらないかもしれないという手白沢に
それでも少しでも変わるかもしれないからとユキヤは答える。
「ところで本当に結婚してくれるのか。卒業するまで待ってもいいが」
「高校卒業する頃、あと4年経ったら出直して。考えといてあげるから」
てっきりユキヤを高校生だと思っていた手白沢は少々落胆しましたとさ。