元阪神・西村憲投手(現・富山GRNサンダーバーズ投手コーチ)が経験した頻繁な守備位置移動のこと。
概要
西村は2010年から榎田大樹や藤川球児に繋ぐセットアッパーとして活躍。加えて元々野手だったこともあり、当時の阪神投手陣の中では高い野手能力を有していた。
2010年9月9日の対中日戦、10回裏の阪神の攻撃中にクレイグ・ブラゼルが審判に暴言を吐き退場。この回は無得点に終わり11回へ突入したため阪神はブラゼルの代役を立てる必要があったが、控え野手を使い切っていたため苦肉の策として投手としてベンチ入りしていた西村を右翼手として出場させる。登板中の藤川及び後続の福原忍の速球を引っ張るのは困難であろうとの判断から、相手が右打者の時は西村をレフトに、左打者の時はライトに就かせた。
西村は2イニングで1度も守備機会がなく、12回裏に打席が回るも一塁走者の新井貴浩が盗塁失敗し、2-2の引き分けで試合終了。最終的に西村は「右左右左右」、西村と両翼の守備を分担して一緒に右往左往した平野恵一は「(二)右左右左右左」という守備位置変更の記録が残った。
本試合は野手を使い切ったために投手を野手として起用せざるを得なくなった事例であるが、原因はブラゼルの退場という不測の事態であり、守備位置の交代も西村の負担軽減のためなので、この采配に関する批判はほぼない。
また西村は翌年に代走としても起用されている。
類似例
1974年8月18日 日本ハムVS近鉄
「1人の投手が同一試合で勝利とセーブの両方を記録した」NPB唯一の例として知られる試合。
本年からNPBの投手記録にセーブが導入され、その定義が現在よりも緩かったために発生した珍事であった。
日本ハム先発の高橋直樹は近鉄打線を5回まで無得点に抑える。試合は2-0とリードしており高橋は勝利投手の権利を得ていた。
続く6回、2アウト一塁の場面で高橋が苦手とするクラレンス・ジョーンズ*1を迎えると、2ボール0ストライクとボール先行。打席途中で投手交代が告げられ中原勇にマウンドを譲る。ここで高橋はベンチに下がらず三塁の守備へ就く。中原も制球が定まらずジョーンズを歩かせ *22アウト一二塁。再度高橋がマウンドに上がり、次打者を打ち取って本イニングを終わらせた。
以降も高橋は9回まで投げ切り2-1で勝利*3。勝利投手に加え、当時のセーブ条件を満たした*4ためセーブも記録された。
本試合がきっかけとなりセーブ条件が見直され、翌年より必須条件に「勝利投手でない」が加わった*5。したがって今後はルール改正が行われない限り同様の記録が達成されることはない。
1976年6月26日 近鉄VS阪急
近鉄が8回に外野手を使い切ったため、裏から投手の柳田豊を中堅手として起用し急場を凌いだ。
1999年9月3日 近鉄VS西武
西武は9回表の攻撃で3点差を追いついたが選手交代の結果内野手が足りない事態に。そのため指名打者の代走として出場した外野手の清水雅治が4年ぶりに内野の守備に入り、同じくこの回から守備に就いた高木浩之と打者の左右に応じて守備位置を入れ替え続けた。結果的に清水には「走指二三二三二三二三」、高木には「打三二三二三二三二」の守備位置変更記録が残った。
2017年8月16日 ヤンキースVSメッツ
メッツは試合前にホセ・レイエス、ウィルマー・フローレスの両内野手が負傷。急遽捕手のダーノーを内野で起用する必要に迫られたため、二三遊を守れるアズドルバル・カブレラと1試合まるごと相手打者の左右に合わせて守備位置を入れ替え続けた。結果的にカブレラは「(二)三二三二三二三二三二三二三二三二三」、ダーノーは「(三)二三二三二三二三二三二三二三二三二」の守備位置変更記録が残った。
2018年ワールドシリーズ第3戦 レッドソックスVSドジャース
延長10回裏、レッドソックスは表の攻撃でJ.D.マルティネス(外野手、この時点で左右左右の守備位置変更を経ていた)の代走で出場したイアン・キンズラーが本職の二塁に入り、元々二塁を守っていたブロック・ホルトが経験の乏しい外野に就く。ホルトの負担軽減のため、残った外野のムーキー・ベッツとジャッキー・ブラッドリーJr.が度重なる守備位置変更を行った。
試合は延長18回、試合時間7時間20分を越える大激闘の末ドジャースがサヨナラ勝利。
ベッツは「右中右中右中右」、ブラッドリーは「中左中左中左中」、ホルトは「二左右左」が記録された。
2019年8月2日 フィリーズVSホワイトソックス
延長14回表、救援投手を使い切ったフィリーズはセンターの守備に就いていたロマン・クイン(本職は外野手)をマウンドに上げ、同時に前の攻撃で代走出場していた投手のビンス・ベラスケスをレフトの守備に就かせる。
ベラスケスは14回表のピンチで本塁への好送球でランナーを刺したり15回表にライナーを好捕したりと本職の野手顔負けの活躍を見せる。同回の二死一二塁のピンチでまたもやベラスケスの前にヒット性打球が飛び、再度の好返球も空しく本塁セーフ。決勝点となりフィリーズは敗戦した。
ベラスケスはMLB公式戦にてホームランを打ったこともあり(しかもスイッチヒッター登録)、本職の投手としても痛烈なピッチャー返しを利き腕である右腕に受けた際にはボールを左投げで送球して打者走者を刺すなど器用な一面を見せている。
(参考)2018年6月13日 カブスVSブルワーズ
野手を使い切ったものではないため参考。
0-1とカブスの1点ビハインドで迎えた8回裏、マウンドには右腕のシーシェックが上がる。しかし先頭打者アルシアに内野安打を許し、ブルワーズは左の代打テームズを送った。
カブスは投手を左腕ダンシングにスイッチすると、マウンドのシーシェックをベンチに下げずレフトに回す。空振り三振で1アウト。
続く右打者ケインを迎えると再びシーシェックをマウンドに上げ、ダンシングをレフトに回す。内野ゴロで2アウト。
さらに続く左打者イエリッチを迎えると再びダンシングをマウンドに上げ、レフトのシーシェックに代わり捕手のコントレラスを守備に就かせる。打球はレフトフライとなり、コントレラスが捕球してイニングは終了した。
勝利には繋がらなかったものの、打者の左右に応じて投手を交代させる采配はかつて故・野村克也氏が阪神監督時代に行った「遠山・葛西スペシャル」に類似しており、メジャー屈指の名将であるマドン監督が行ったこともあって大きな話題を呼んだ*8。
関連項目
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