フラミンガム研究の紹介

Last-modified: 2009-02-12 (木) 05:36:03

フラミンガム研究の本

本の紹介ばっかりしてますが・・・
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『世界の心臓を救った町~フラミンガム研究の55年』
ライフサイエンス出版
著)嶋 康晃
(本をクリックするとamazonにいきます)

世界になだたる、フラミンガム研究のことを書いた本です。
正直、まとまりきっていない印象は否めません。
しかし、逆にフラミンガム研究が大きすぎてまとまらないんだ・・・というのが、つたわってきます。

そうはいっても、勉強になるんです

フラミンガム研究も、久山町研究と同様でアメリカの小さい町ではじまりました。
人口3万人だったらしいですね。
当時は戦勝国のアメリカは、すごい好景気だったようです。
その好景気の陰で、死亡率が激変していたらしいんですね。
食べ物が豊かになって、町がどんどん整備されていくわけです。


しかしその一方で、戦後のアメリカでは20世紀初頭には死亡率の20%程度だった心血管系疾患(心筋梗塞とか、心不全とかね)が1930年台ごろから死因の一位になるのだそうです。
周りの人が、どんどん心筋梗塞になっていく・・・
みるみる町に肥満の人があふれてゆく・・・・
アメリカでも、もともとそんなに肉ばっかり食べていたわけじゃないですからね。
1900年ごろは、アメリカの食生活の比重はかなり野菜が多かったと言われています。
それが戦後には、御馳走のお肉ばかり食べられるようになった。
また、車社会になって、マクドナルドをはじめファーストフードが大流行したのも影響が大きいらしいです。


当時のルーズベルト大統領は、収縮期血圧が250mmHgぐらいありました (^^;
そして脳出血で死亡した・・今なら「そらそやろ」ということですよね。故人には悪いですが、それだけ血圧が高いんなら、仕方がないと言われそうです [hatena]
しかし!
フラミンガム研究以前は、高血圧が脳出血とか心不全の原因になるということは解ってなかったんです。
みんなそう感じていたのですが、それはまだ証明されてなかったんですね。
ルーズベルト大統領の主治医をしていた医師も、フラミンガム研究に参加して貢献しています。

なんでも、最初がある

今の健康常識のかなりの部分を証明してきたのが、フラミンガム研究です。
○リスクファクター(危険因子)という言葉をそもそも作った
○高齢者は血圧は高めでいい(年齢+100ぐらいが妥当と思われていた)という漠然とした常識を覆した
○マルチプルリスクファクターという概念の提唱した
まだまだあります・・・
○高血圧、高コレステロール血症、肥満が三大危険因子である
○コレステロールが冠動脈疾患の発生と関係がある
○善玉コレステロール(HDL)、悪玉コレステロール(LDL)が予防因子である
○喫煙と動脈硬化が強く相関がある(これは先行する研究があるみたいです)
○女性と男性で、心血管疾患の発生には大きな差がある
○ライフスタイルと心血管疾患が関係がある

・・・・などなど。いろいろありすぎるぐらい、現在の健康常識の大部分はフラミンガムから始まっています。
フラミンガムの住民が、他の町で診療をうけて「え?あなたフラミンガムからきたの!?」と医者から質問攻めにあったり、すごく大事に扱われたりすることもあるようです。
フラミンガムは、現在の医療の大きな基盤なんですね。
アメリカでは、誇りに思う研究の一つなんじゃないでしょうか。

フラミンガム研究の結果

これがなかなか・・
だって、最近になってもどんどん論文が出ています。
血圧に関しても、さらに詳細なデータが出されています。
もともと解析方法がないころの研究なので(パソコン、計算機がない時代で、分類用のカードにデータを書いて残していたらしい)解析があとからついてきているようですね。多変量解析が実はフラミンガム研究を解析するために作られたのは有名な話です。


また、昔のデータの重要性も見直されているようです。
というのも、フラミンガム研究はオリジナルコホートといわれる最初の集団と、その次の世代の研究と、さらに次の世代の研究まで3代にわたって追跡がされています。9割以上の追跡率だったはずです。
最初のデータは、降圧がまだされていないんですね。
薬剤の影響がきわめて少ない、放置された高血圧や高コレステロール血症のデータが残されているのです。その解析も進んでいるとか・・・


なんだかすごそうでしょ?
こういうコホートを学ぶのに、1本や2本の論文(10本でも駄目だと思いますけど)を読んでも全体像は見えてこないです。やはり、フラミンガムを紹介した本を読まないと・・
出来たら実際に行って話を聞きたいぐらいですけどね。
http://www.epi-c.jp/entry/e201_0_movie.html
このサイトでフラミンガム関連のインタビューを動画でみることができます。

リスクスコアはあちこちで

フラミンガムリスクスコアというのがあります。

血圧や、コレステロールの数値から、あなたが心不全などの病気になる確率をよそうしてくれるというもの。
日本人には少し合わない感じも否めませんが、面白いですよ。
http://www.drnasu.com/health/framingham_male.htm
http://hp2010.nhlbihin.net/atpiii/calculator.asp?usertype=prof
いろいろ検索してみてください。


もちろん、注意しなくてはいけないのはフラミンガムの結果で、すべてが予想されるというわけではないということです。
http://www.drakahige.com/NEWS/DAILY/2009/2009012601.shtml
↑フラミンガムじゃだめだ、という論文も出ているようです。
そりゃそうです。結果の適用は、論文の結果とはまた別のこと。
慎重に考えなくてはいけません。日本人の体質はまだまだ欧米人と違いますしね。
いろいろ考えさせてくれる大研究なのです。
疫学は本当に面白いですね・・・

ご興味の方は洋書も・・

0375727043
A Change of Heart: Unraveling the Mysteries of Cardiovascular Disease
そんなに分厚くない本です。
もう少し詳しい内容がかかれています。
結構読みやすい印象でした。。
またいつかこちらも紹介・・出来たらいいなぁ・・
洋書の紹介は大変やわ。。