CASPチェックシート 解説つき4  適用

Last-modified: 2009-04-26 (日) 12:55:25

C/ その結果はあなたの現場で役立つか?

チェックシートは、実はcasp以外にもいくつか出ています。
そもそも、情報のチェックをするために、各自が大事だと思うポイントをまとめればチェックシートになるわけです。
前回のBまでは「RCTを読む行為」を「サンプルとそこから得られたデータのチェック」ということでやってきたわけです。
このデータは、どんなサンプルから得られた、どのようなものなのだ!?
というわけです。
患者さんに対する治療行為を、RCTから学ぶとするなら、そのRCTには患者さんの命がかかっているかもしれません。他人の命がけなので、ちゃんと信用できるデータに預けないといけないわけです。
信用するためにはどうしたらよいのか?というと、やっぱりよく理解して知ることにつきるんですよね。
チェックシートといっても、結局はデータを信頼するために何をチェックするのかということにつきるのです。


ただ、CASPチェックシートの優れた点は、ここで得た情報の適用について考える箇所を設けてくれていることです。
データを適用するには、どうやっていくのか?
この点が、EBMをかじったヒトや個人的に論文をしっかり読んで学んでいる先生方には抜けていることもあるのではないでしょうか?自分の勉強に読んでいるので、他人に伝えたり、病院で広げるというイメージがないもんだと思うんですよね。


僕もいろいろなチェックシートを見てきましたが、チェックシートが満たすべき要点は、
・情報のスタートラインとしてPECOを立てる
・吟味がしっかりできる
・吟味した結果の適用を考える
という3点だと思います。情報のスタートライン、情報そのもの、そしてアウトプットとしての適用を考えたい。
CASPチェックシートは、残念ながら入り口のPECOがないですね。
ワークショップでは、つねにPECOを立ててもらっていますが、個人のユーザーが1人で吟味するときには気づいていないかもしれません。
あと、CASPチェックシートにはfundingのチェックが抜けています。
製薬会社さんのお金がどれほど動いて、データにどれだけ関与しているかは非常に大事なポイントです。
適用については、CASPチェックシートにはあります!素晴らしい利点だと思います。
政策や治療方針について考える項目が最後にあるので、さらに病院や部署、薬剤師さんたちとどのようなディスカッションが必要なのかまで考えてより現実味を出したいですね。

10 その結果はあなたの現場での対象者に当てはめることができるか?

はい □ 不明 □ いいえ □

ヒント: 以下を考慮しよう:

  • 研究でカバーされた対象者と、あなたの対象者との違いが大きく、この研究の対象患者で示された結果(効果)が、自分の対象者の効果の予測としてそのまま当てはまらないかもしれない。
  • あなたの現場の状況が、その研究の状況と大きく違っていて、このまま実施できないかもしれない
    これらの差が、結果を覆しそうなほど大きくないか検討しよう。

いい論文だ!と思ったら、対象者が黒人のヒトばかりだった、という経験があります。
AASKっていうACE阻害剤の論文だったかな・・乳癌のコホート研究を読んだときも、日本人のデータがないと駄目だ。。という結論に至りました。
あなたの患者さんは、情報を適用してもいいヒトなのかどうか。
民族差だけじゃありません。
たいてい、微妙に違うんですよね。。
糖尿病のような別の疾患をもっておられたり、年齢が違ったり。。


だからといって、何もしないわけにはいきません。
違うデータでも、解釈が違えばまた何か展望があるかもしれない。


さて、僕はここに別のヒントを加えたいと思います。
現場で適用できるか、に皆さんの職場などの現場について考えて欲しい。

あなたの職場で、その治療行為を実施する際に、問題となる人は誰か?足りない物品はなにか?
それらの問題を乗り越えるために、あなたがすべき行為を考えなさい。

根回ししたり、あらかじめ説明に回ったり、勉強会を開いたり・・・
していない努力は、本当に沢山あります。
まだまだお医者さんは「おれの言うとおりしろ」という人も多いのです。
根回しが出来ないヒト・・・いるでしょ?
かくいう私も、沢山失敗しています。
以前「消化管出血の患者さんにエリスロマイシンを点滴したら、胃が動いて胃の中の血液を排出して、出血点が見つけやすくなる」というRCTを読んだんです。
正直なところ「これは凄い!」と舞い上がりました。
で、ある日の吐血治療の際にエリスロマイシンをオーダーして、薬剤部に迷惑をかけました。。
事前の説明もしてないし、相談もしておらず・・・留めてくれた薬剤師さん、本当にありがとうございました。

11 全ての重要な転帰が考慮されていたか?

はい □ 不明 □ いいえ □

ヒント: 臨床試験は、ある1つの仮説を検討するために計画されているので、しばしば重要な転帰が全てカバーされていない。重要な転帰が見落とされていなかったか、以下の視点から考えてみよう:

  • 患者、対象者本人
  • 政策決定者や医療者、専門家
  • 家族または介護者
  • 地域・社会全体
    「いいえ」ならば、何が欠けていたかリストアップしよう。

リストアップにあたっては、出来たら勉強会や何人かで同じ論文を読んで、他人の視点を知りたいですね。
自分では、本当に1つの角度しか気づけないことが多いのです。
びっくりする視点に気づかせてくれるのは、やはり共同で学ぶことにつきます。

12 この臨床試験結果に基づいて、健康政策や方針、医療内容を変えるべきか?

ヒント:治療によって期待される「益」に、懸念される「害」や「コスト」をかける価値があるかどうか考えよう。もし、この情報が報告されていないのなら、他から情報が得られないだろうか?
はい □ いいえ □

ここでは、「はい」「いいえ」しかないんです。
治療行為を決めるときに、不明は無いんですよね。
ツライこともありますが、決定していかないといけません。
でも、この選択肢のおかげで、患者さんのご家族が治療方針を聞かれて悩む気持ちが少しずつわかってきました。

1つのランダム化比較試験が、臨床での医療行為を変えたり健康政策を変更したりするほど、強い根拠となることはめったにありません。

このひと言が、効いています。
RCTを振り回すようなことは厳に慎まないといけません。それはRCTを読んでも、たいていの場合は、ちょっと対象者が論文と違ったり、いろいろ問題があるんです。
二次文献だけでやっつけてしまったり、アブストラクトだけで済ませるとそういうことに気づけません。