第11回選考会議録要約

Last-modified: 2017-07-25 (火) 21:52:52

第11回日本SF新人賞 最終選考会議

前文

 一次選考通過 16作品

作者名作品名
流風道理想の女
大間了魔草男爵の館
希木偶人捕虜改造用人工惑星NEG-NIN
柯甘人ウィリアムズ博士の失踪について
黒井謙雲上の牢獄、眼下の楽園
伊野隆之森の言葉/森への飛翔
樽井砂都月影パンダ
小松多聞ゲッターゾーン
江本行双子のいる星
森田こうし異世界創造遊戯
麦倉伸幸国土を売る日
木多川冬之介リヴァイアサンの娘
島青志シュレーディンガーの宇宙
沙原共シャーロット・ホームズの冒険 ATOK事件
山口優シンギュラリティ・コンクェスト
村崎有仁カンブリアの弥勒

島青志「シュレーディンガーの宇宙」

 最終候補作品6作品

作者名作品名
大間了魔草男爵の館
希木偶人捕虜改造用人工惑星NEG-NIN
伊野隆之森の言葉/森への飛翔
樽井砂都月影パンダ
森田こうし異世界創造遊戯
山口優シンギュラリティ・コンクェスト


受賞作
伊野隆之   森の言葉/森への飛翔
山口優    シンギュラリティ・コンクェスト



応募総数146作品
最終選考会は2009年12月5日に行われた
SF Japan (2010SPRING)より要約

最終選考会議

選考委員は

  • 山田正紀(選考委員長)
  • 図子慧
  • 飯野文彦
  • 林譲治
  • 若木未生

1「魔草男爵の館」

開業医モリアはグッシュ病の特効薬草を保有するバラチンキュ男爵と出会う。
美貌の召使いエルメリーヒと愛しあい、モリアはやがて驚愕の真実を知る。

すごく上手い小説だが、なぜここまでセックスにこだわるのか。
図子インパクトはあるが、盛りこみすぎ。
山田書くことの快楽に酔いしれていて、手綱がとれなくなっている。
若木ゴシックホラー的な小道具に、作者独自の変態性を発見できなかった。
飯野手綱を放して暴走している部分を推す。

2「捕虜改造用人工惑星NEG-NIN」

異星から侵略を受けた近未来。
私は、海に覆われた捕虜改造用人工惑星NEG-NINに送り込まれた。
肉体を改造された私は、精神の戦いをくり広げる。

図子主人公が女性であるのに、男性的な部分に違和感。男であることは非SF的なのか?
山田怪物になってでも生き延びたいところに共感。ただ読者を選ぶ。
若木魅力的に思考実験から得られるはずの陶酔感がなかった。
飯野男である私はこの世界を楽しめる。ただ読者を選ぶ。
道具立てが大きいわりにはスケールが小さい。

3「森の言葉/森への飛翔」

周囲を深い森に覆われたオパリアで住む人類。
感染性低地熱が広がり、ザキル検疫官と生態学者シギーラは、森に隠された秘密を探る。

山田世界の造形が申し分ない。過剰ではなく、程がよい。異世界SFとしては申し分ない。
若木物語る力が非常に高い。非常に丁寧な作りで、好感。
飯野キャラクターの思いが伝わってこず、冒険小説としては臨場感に欠ける。
いちばん評価が高い。企業側の視点が足りない。予定調和的に過ぎる。
図子好ましい行政SF。情感が足りない。

4「月影パンダ」

火星在住の女子高生、セラ。兄が小惑星泥棒を追跡中行方不明になった。
宇宙船衝突事故にまきこまれたセラは……

若木主人公の女の子に感情移入できない。書き手がキャラの視野の狭さをわかっていない。
飯野最下位。一人称が鼻につく。
最下位。細かい描写をすればリアリティが出るだろうという安易さ。
図子最下位。オンラインゲームの部分だけ楽しめる。設定上の不備が多すぎ。
山田あらゆることが日常性に収斂されていく感覚は好きだが、新人賞には値しない。

5「異世界創造遊戯」

異世界創造遊戯。参加者によって定められたテーマに従い、異世界創造に関する議論を展開する。
三人の人間と一匹の猫が、「三つの性のある生物がいる世界」をテーマに、世界を創造する議論を積み重ねる。

飯野四位。小説というより芝居。
四位。疑似哲学論文を読まされている感覚。議論そのものに目新しさはない。
図示下から二番目。カタルシスがない。議論が単調な繰り返しで飽きてしまう。
山田読んでいる間だけは心地よい。万人向けではない。
若木ついていけない。三性生殖といえばアシモフの『神々自身』だが。

6「シンギュラリティ・コンクェスト」

西暦二〇四八年、時空異常現象の謎を解明するため、高性能人工知能を開発しようとする。
地球は、人類を超える知能が技術発展を駆動しはじめる技術的特異点、テクノロジカル・シンギュラリティを迎えようとしていた。
人工知能MESSIAHと人工精神AMATERASが造りだされ……

普通。全体的に古さを感じる。整合性がない。
図子一位。作品全体に多層的な対立構造が用意されている。
山田熱意は感じられる。テーマとプロットが噛みあっていない。
若木作品のテーマと作者のオタク性が乖離している。
飯野断トツ一位。スケール、構成力、バランスが申し分ない。

採点票。

厳密な順位ではない。何位と断定していない場合は「―」で表した。飯野は同率2位票を持つ。

魔草林1、2位図3位山田棄権若木―飯野2位
捕虜林4位か5位図5位山田高い若木真ん中飯野2位
森の林1位図2位山田好き若木高い飯野5位
月影林6位図6位山田―若木―飯野6位
異世界林4位図4位山田―若木―飯野4位
シンギュ林普通図1位山田―若木―飯野1位

新人賞は……

「月影パンダ」「異世界創造遊戯」は落選。

〈第一部〉

飯野「シンギュラリティ」が断トツ。「魔草」は好み。
「シンギュラリティ」は根本的な解決部分を手直ししてくれれば。
図子「シンギュラリティ」はアニメ的、ラノベ的だがそこを評価する。
山田「森の言葉」は完成度が高い。
飯野「魔草」はホラー小説的なセンス。SF新人賞には難しい。「シンギュラリティ」は売れると思う。
図子「シンギュラリティ」はわかりやすい。


「魔草」はイチ押しの人がいないので脱落。
「NEG-NIN」は山田氏以外イチ押しがいないので脱落。


〈第二部〉

編集「森の言葉」と「シンギュラリティ」のどちらか?
図子どちらも説得力がある。
「シンギュラリティ」は世界観を手直ししてくれたら、推すのにやぶさかではない。
山田「森の言葉」はクライマックスが物足りないが、手直ししてくれれば。「シンギュラリティ」も同じく。
飯野どちらも手直しさえすれば完成度が高まる。
若木「森の言葉」は、行政SFという独特さを買う。
図子「シンギュラリティ」は小説としてうまい。
山田同時受賞が望ましい。
編集それでは同時受賞と。
一同結構です。