一次選考通過 18作品
作者名 | 作品名 |
田中勝裕 | 『ハイタッチ』 |
太田康昌 | 『仮想空間の生命体』 |
永田厳 | 『理想郷〈エデン〉の落日』 |
坂本康宏 | 『マシンハンター』 |
いとういたる | 『クソイシ』 |
渡辺健 | 『象のいる街』 |
滝川廉治 | 『ボルヴェルグ』 |
セコ | 『虚構漂流』 |
茂土器太郎 | 『リリパットなユートピア』 |
水上悠 | 『silentgarden』 |
吉川良太郎 | 『ペロー・ザ・キャット全仕事』 |
須山祥悟 | 『試練』 |
山本利津夫 | 『人間を失いしのち』 |
米沢弘夢 | 『骨肉の反乱』 |
谷口裕貴 | 『ドッグファイト』 |
鈴川まき | 『沈まぬ月の国』 |
多謝岐礼 | 『ロケッツテイル』 |
弾射音 | 『イン・ザ・フレッシュ』 |
最終候補 6作品
作者名 | 作品名 |
永田厳 | 理想郷〈エデン〉の落日 |
坂本康宏 | マシンハンター |
いとういたる | クソイシ |
渡辺健 | 象のいる街 |
吉川良太郎 | ペロー・ザ・キャット全仕事 |
谷口裕貴 | ドッグファイト |
2000年11月15日最終選考会
from SF Japan Millennium:02(西暦2001年春季号)
作品名 | 採点 | |||||
大原 | 笠井 | 神林 | 小谷 | 山田 | 小松 | |
理想郷〈エデン〉の落日 | A- | B+ | --- | A- | BかC | A |
マシンハンター | C | B- | --- | B | B | --- |
クソイシ | A- | B- | --- | A | --- | A- |
象のいる街 | B | A- | --- | B | A- | B |
ペロー・ザ・キャット全仕事 | A | A+ | --- | A- | A+ | A- |
ドッグファイト | B | A- | --- | A | A | A |
1 象のいる街
エネルギー危機により19世紀前半の生活レベルに退行した日本。爆弾マニアのレンと理想家の英治は中国大使館で象という奇妙な動物が飼われていることを知る。スラム化した東京で象の幻を見た二人は大使館へ潜入する。
大原 | 状況描写ばかりで、全体像がよくわからなかった。わからなさの部分が魅力という気もしますが、もう少し全体的な社会構造や未来図がきちんと描かれないとつらい。 |
小谷 | 貧しい世界がリアルに描かれている。焼跡小説といえるノリがある。描写、エピソードのひとつひとつが面白く、それが有機的に繋がっている。でもストーリー性がないのですね。SFというよりファンタジーに近い。 |
神林 | 作者の視点は近すぎず離れすぎず、ことさら主張せずに距離を保って人間を描いている。優れた才能だと思います。 |
笠井 | 何に抑圧されているのかよく分からないところで追い詰められた人間を描こうとしている。SF度は低いが、近未来の設定としてはリアルで説得力がある。 |
2 クソイシ
辺境惑星に接近する小惑星の軌道修正作業を、税務申告期限延長を条件に請け負った貨物船。ところが小惑星と思われたそれは漂流中のアステロイド型戦艦だった。貨物船は惑星に衝突する前に戦艦の破壊を試みるが、果たして税務申告は間に合うのか。
小谷 | いちばん楽しんで読めました。おじさん達が活躍するスペースオペラ。愉快な会話が楽しく、紅一点のキャンディが面白い。変に緻密な科学考証とか邪魔者だったはずの女の子が活躍したりとか、お約束とはいえ笑える。でもどこかで見たような展開だと思った。 |
小松 | これはマンガにしたらいいだろうね。 |
神林 | ボクも今回いちばん楽しんで読んだ。壮大な舞台設定なのに税金に頭を悩ませながら頑張るおじさん達、せちがらさが良いなと思った。この作者は技術畑の人なんだけれど、その経験が随所に生かされていて、臨場感が出ていた。 |
大原 | 職人系SF、すごく面白かった。一番楽しく読めました。ユーモアSFとしてもいい。トカゲ型異星人がより素晴らしい結婚を求めて宇宙に散らばってしまい、滅亡しつつあるとか、大笑いさせてくれる。 |
笠井 | アニメやコミックなら格好いいのだろうが、キャンディのキャラクター造形があまりうまくない。 |
山田 | キャンディのキャラクターだけ妙に浮いている。勘弁してくれと思った。それ以外は面白い作品だと思います。真面目な顔をしてホラ話をかますという作品です。 |
小谷 | キャンディーはヤングアダルト作品やアニメでおなじみの、いわゆる戦闘美少女です。男の子が求める特質を持っているんですよ。 |
3 マシンハンター
突如反乱を起こした全自動戦闘ロボットに占領された日本。国連はマシンハンターなる特殊部隊を派遣したがまるで歯が立たない。そんななか一人の脱走兵が最終兵器を携えて機械化汚染地区へ向かう。
神林 | 文章の視点が作者そのもので、エッセイっぽい文体。状況設定部分はまさに作者の独白で、梗概のような印象を受けた。時々既存の武器の蘊蓄が説明調になるのが鼻をついた。機械も自立して進化するなら、それは生命といえる。そのSFで最もおいしい部分を単なる説明ですましている。説得力、共感させる力に欠ける。 |
笠井 | 僕は機械は生命であるのかという部分はテーマではなく、物語を進める部品として出てきたものだと思います。根本はSFアクションを書きたかったのでしょう。しかし頭も尻尾もないアクションの連続ではまずいという意識があってこんな風になったのではと思います。次々と敵が出てきて、プロットはなかなか引っ張るし最後までサッと読めたけれど、人間ドラマは極めてご都合主義でした。 |
小松 | SFアクションとしてはスタートから息をもつかせず読ませるが、肝心のシチュエーションの説明が足りていない。 |
山田 | 強大な敵がいる。それを倒すためにはどうする? この武器があればいいという安易なシチュエーションでは駄目です。手持ちの武器でどうやって敵を倒すかというのが、醍醐味です。 |
大原 | ターミネーターの設定です。面白いネタはいっぱい転がっているのに、それが活かされていない。 |
4 理想郷〈エデン〉の落日
宇宙船事故で両足をなくした少女と旅行中の星間レスキュー隊員。彼が元金星独立闘士であることから二人は拉致され、人工惑星の領土争いに巻き込まれる。彼と電脳オペレーターである車椅子の少女は、たった二人で反撃を開始した。
笠井 | SFスパイアクション。少女に義足をつけてあげたいという設定、小説としてバランスがいい。ひっかかったのは侵略者対民族解放とか独立戦争といった単純な図式ではすでに世界を語ることは出来ない、そういう時代に我々は生きているわけで、SFでしか可能でない方向へもっと踏み込んでもらいたかった。 |
小松 | 一種の恋愛小説として読めた。今回の応募作の中で唯一女性が描けている。物語もエデン共和国という強大な敵にたった二人で挑戦するという爽快さがある。その上ハッピーエンド。ちょっとほのぼのした。年ですな、私も(笑) |
山田 | 僕は笠井さんとは逆で、少女に義足をという動機がいただけない。こんなに強くて非情な男がそんなことを考えるかなっていうアンバランス。惑星を造れる技術があるのに重火器がほどんど現状維持とか。 |
神林 | シュワルツェネッガーのコマンドーだと思った。武器や軌道エレベーターとか宇宙船のメカニズムの描写は上手いと思いました。 |
5 ドッグファイト
地球統合府統治軍のテレパスが指揮するロボット部隊に占拠された惑星ピジョン。犬と気持ちを通じさせるテレパス「犬飼い」のユスは旧友たちと統治軍に立ち向かう。
小松 | 犬と主人公の関係が非常にうまく描かれている。いつのまにか犬に情が移ってしまった。 |
山田 | 世界を創造するというSFの一番面白いところをやろうという意気込みがある。犬の描写に非常にリアリティがある。戦闘シーンも迫力がある。問題点はテーマのぶれ。マシン対犬という設定が、後半になると精神感応による戦いになっている。でも主人公の犬に対する愛情、非常に素晴らしく感動的。 |
神林 | この世界設定はよく練られている。スターウォーズの舞台設定に初代ガンダムの世界観を投影したような印象を受けた。これは独自性がないと非難しているわけではなくて、過去の名作を意識していた方が、それを乗り越える傑作を生み出せる可能性があるんだと感じた。 |
大原 | この作者は人間より犬の方が好きなんじゃないかなw |
6 ペロー・ザ・キャット全仕事
極度の人間嫌いのペローはフランス暗黒街で入手した機密を利用して、意識をサイボーグ猫に憑依させるシステムを完成させる。しかしギャングの幹部に捕まって、潜入捜査員の残党狩りをするはめになる……。
山田 | イキがよくてスピーディでちょっとブンガク的。素敵で~(べたぼめ以下略) |
大原 | ファッションと音楽に関するまともな描写が出てくる数少ないSF。SFのエッセンスも十分に盛り込まれて、センスがいい。 |
小谷 | モラトリアム青春小説として面白く読めました。フランスのカルチャー、マフィアの家族関係、暗黒世界、よく知っているなと思いました。 |
神林 | 僕はこの作品は選考委員の方々に一番高く評価されるなと予想をつけていました。豊かな才能を感じさせてくれましたが、強く危惧を感じた部分がある。ラストが外に向かって開かれていなくて、閉鎖的に閉じている。閉じた世界からは何も生まれなくて、それでもいいというラストは健康な精神を蝕む害毒。 |
山田 | それは危惧しすぎじゃないかな。 |
大原 | 私もそう思います。 |
神林 | 僕はそういう危機感をもったんです。猫の体を得て引きこもりを完成させてなまけることを得ただけで。それも人間の価値観はそのままで。猫というのは猫がやっているから猫なんですよ。 |
全員 | www |
神林 | わずらわしい人間関係などは自分には関係ないと、猫になったつもりで正当化しているだけなんです。猫に失礼ですよ。 |
全員 | www爆笑 |
笠井 | 最高に面白かった。近年最も優秀な新人として評価される水準の作品です。 |
まとめ
編集 | 今回の候補作はいずれもレベルが高く、高い評価が多いので、改めて新人賞に推したい作品をあげていただけますか。 |
山田 | ペロー・ザ・キャット全仕事>クソイシ=ドッグファイト、番外で象のいる街、ほとんど全部になっちゃうけどね |
大原 | ペロー・ザ・キャット全仕事とクソイシを強く推します |
小谷 | ドッグファイト>ペロー・ザ・キャット全仕事=クソイシ |
神林 | 象のいる街>ドッグファイト |
笠井 | ペロー・ザ・キャット全仕事>クソイシ>象のいる街 |
小松 | ドッグファイト>クソイシ>ペロー・ザ・キャット全仕事 |
編集 | 完全に割れましたね。一位を見るとペロー・ザ・キャット全仕事が三票、ドッグファイトが二票、象のいる街が一票。神林さんがペロー・ザ・キャット全仕事を入れるとしたらどの位置ですか? |
神林 | 三位ですね。 |
編集 | 二位だとクソイシが三票、ドッグファイトが二票、ペロー・ザ・キャット全仕事が一票。 |
小松 | 犬か猫かクソというわけだなw |
編集 | 皆さんの評価は高かったのですが、クソイシが一位の方はいないので、外してもかまいませんか。 |
山田 | 勿体ないけどね。 |
編集 | 象のいる街も総得票数から落ちると思います。ペロー・ザ・キャット全仕事とドッグファイトが残りました。 |
神林 | 選考からは落ちちゃったけれど、僕が次作を読みたいなと思ったのは象のいる街の作家ですね。是非とも次回作を読んでみたいです。 |
小松 | 確かにいい作品だったな。 |
山田 | しかし、今回はレベルが高い。 |
編集 | 神林さんは象のいる街が落ちるとなると、ドッグファイトが上がるのでしょうか。 |
神林 | そうですね。 |
小谷 | これで三対三だ。 |
編集 | 三対三ですから、この二作をどう扱うかを考えたいと思うのですが。 |
山田 | 同時授賞がいちばんいいんですけどねえ。 |
小松 | うん、そうだな。 |
小谷 | そうですね。 |
大原 | 私も、二本とも受賞作としたいですけど……。 |
編集 | では同時授賞ということでよろしいですか。 |
全員 | はい。 |