ストイックな踊子(あめのうずめの思い出)
あめのうずめ 「(シャラ~……シャララ~……)」 | ||
あめのうずめ 「ふう、今日の舞いの稽古は このくらいにしておきましょうか。」 | ||
烏天狗 「(パチパチパチ……) すごーい! あめのうずめさん!」 | ||
あめのうずめ 「烏天狗さん? そこでずっと見てらしたのですか?」 | ||
烏天狗 「うん! ここでずっと見てたよー! 噂には聞いていたけど、 ホントに踊りが上手なんだね!」 | ||
烏天狗 「私、声をかけるのも忘れて 見惚れちゃってたよー!」 | ||
あめのうずめ 「ありがとうございます。」 | ||
あめのうずめ 「私、この芸だけを一心不乱に 磨いて来たものですから、 そういわれると嬉しいものですね。」 | ||
烏天狗 「あめのうずめさん、 ストイックだよねー!」 | ||
烏天狗 「でも、そんなに上手くて 稽古もしてるのに、なんで みんなの前では踊らないの?」 | ||
あめのうずめ 「私の舞いは、とある御方に見せる 為だけに磨いてきた芸なものですから。」 | ||
あめのうずめ 「その御方に見て頂けるだけで、 十分なのです。」 | ||
烏天狗 「えー? じゃあ、その人だけにしか 見せないの?」 | ||
あめのうずめ 「ええ、まあ……。」 | ||
烏天狗 「そんなのもったいないよー!」 | ||
烏天狗 「せっかくそんなに上手なんだからさ、 もっとたくさんの人にみてもらお?」 | ||
烏天狗 「そしたらゼッタイ、みんなの注目を 浴びて、人気者になれるよ!」 | ||
あめのうずめ 「う~ん……私、べつに注目を 浴びたいわけじゃないですし……」 | ||
烏天狗 「えー!? なんでー!??」 | ||
あめのうずめ 「なんでと言われましても……。」 | ||
烏天狗 「もっと人前に出ていこうよ! 女の子は人に見られてキレイに なるっていうじゃん?」 | ||
烏天狗 「きっと、踊りにも もっと磨きがかかるよ!」 | ||
あめのうずめ 「そういうものでしょうか?」 | ||
烏天狗 「ゼッタイそうだよ!」 | ||
烏天狗 「そうだ! 今度さ、一緒に人がたくさんいる 街へ出かけようよ!」 | ||
烏天狗 「ついでに甘味処へ寄ってさ! 流行りの呉服屋で服とか見たり! 楽しいよ?」 | ||
あめのうずめ 「でも私、あまりそういった場所に 慣れてなくて……。」 | ||
烏天狗 「だいじょーぶだいじょーぶ! 私が付いてるから! じゃあね、約束だよ?」 | ||
烏天狗 「(バサッ!)」 | ||
あめのうずめ 「あ、ちょっと烏天狗さん!」 | ||
あめのうずめ 「……行ってしまいました。」 | ||
あめのうずめ 「街へ出て人の注目を浴びる……。 いまいちピンと来ませんね。」 | ||
あめのうずめ 「でも……」 | ||
あめのうずめ 「なんだかちょっと楽しみです。」 | ||
後日、烏天狗と共にお出かけを楽しんだ、あめのうずめでした。 |
どんな話が好き?(やさふろひめの思い出)
髭切 「ふむふむ……なるほど……。」 | ||
やさふろひめ 「あれ、髭切ちゃん、読書?」 | ||
髭切 「髭切……何ですか?」 | ||
やさふろひめ 「あ、ごめんごめん 髭切『さん』だよね! 間違えちゃった!」 | ||
髭切 「はい、そうですね。」 | ||
やさふろひめ 「髭切さん、なんの本読んでるの?」 | ||
髭切 「『兵法三十六計』という 兵法書です。」 | ||
やさふろひめ 「兵法書!? なんか難しそうなの 読んでるんだね。面白い?」 | ||
髭切 「『面白い』というよりは 『為になる』といった内容ですね。」 | ||
やさふろひめ 「へえー、髭切ちゃ……さんは しっかり者だねえ。」 | ||
髭切 「それほどでも……。」 | ||
髭切 「やさふろひめさんは どんな本を読むんですか?」 | ||
やさふろひめ 「私はもちろん、恋愛小説!」 | ||
髭切 「れ、恋愛小説、ですか……!?」 | ||
やさふろひめ 「そう! 運命的に惹かれ合うふたり……!」 | ||
やさふろひめ 「そして好きあってるのに 互いの気持ちがすれ違ってしまう 切なさ……!」 | ||
髭切 「はあ……。」 | ||
やさふろひめ 「あ、でも髭切さんはまだ 恋愛のお話には興味ないかな?」 | ||
髭切 「ムッ……!」 | ||
髭切 「子供扱いしないでください。 私だって恋愛くらい……」 | ||
やさふろひめ 「してるの!?」 | ||
髭切 「……してないですけど。」 | ||
やさふろひめ 「なんだぁ……。 恋バナが聞けるかと 思ったのになー。」 | ||
髭切 「……そう言うやさふろひめさんは どうなんですか?」 | ||
やさふろひめ 「え?」 | ||
髭切 「恋愛のその……すれ違い? とか、そういう経験があるんですよね?」 | ||
やさふろひめ 「…………」 | ||
やさふろひめ 「そ、そりゃーあるよ! もちろんあるよ!」 | ||
やさふろひめ 「やーあのトキは いっぱいすれ違ったなー!」 | ||
やさふろひめ 「切なくて切なくて、 震えちゃったなー!!」 | ||
髭切 「…………。」 | ||
それから小一時間、髭切は真偽の怪しい恋バナを やさふろひめから聞かされ続けたのでした。 |
葛篭の中身は?(紅葉御前の思い出)
鞍馬 「ふーむ……」 | ||
「お、どうした鞍馬。 珍しく悩み事?」 | ||
鞍馬 「紅葉御前か。」 | ||
鞍馬 「この、いま私の目の前にある 葛籠(つづら)なのだが……」 | ||
「でかい葛籠だなあ。 どうしたんだ? これ」 | ||
鞍馬 「今朝、うちの畑から 出土したものらしい。」 | ||
「へえ。 で、中に何が入ってたの?」 | ||
鞍馬 「それがどうも、かなり手の込んだ術で 封印されあるようでね」 | ||
鞍馬 「ある一定の手順を踏まなければ 開かない仕組みらしい。」 | ||
「なるほど、開ける方法が解らなくて 困ってるってわけね。」 | ||
鞍馬 「ああ。 だが葛籠のフタを見てみたまえ。」 | ||
「んー? なんか文字が書いてあるな。」 | ||
「“東から西へ旅した年寄り蛇が 獣の足に噛みつく頃、東の巣穴 にて獅子の扉は開かれる”」 | ||
「……なんだコレ?」 | ||
鞍馬 「恐らく暗号文になっているのだろう。」 | ||
鞍馬 「この謎めいた言葉が示す手順を 行えば封印が解けるはずだが……」 | ||
「鞍馬でも解らないの!?」 | ||
鞍馬 「いや、だいたい解けてはいるんだ。」 | ||
鞍馬 「最初の文は、恐らく“時刻”を 表しているのだろう。」 | ||
「これが??」 | ||
鞍馬 「遥か西方の国々では、 年老いた蛇とは“竜”の事を示すのだ。」 | ||
鞍馬 「“東から西へ旅した”とある事から 元は東国の竜――つまり“辰”だ。」 | ||
「ふーん?」 | ||
鞍馬 「そして、蛇が噛み付いた“獣の足”。 獣の足と言えば四本足。」 | ||
鞍馬 「以上の事から――」 | ||
鞍馬 「“辰の四つ時”に、何かを行えば 葛籠が開く、ということだろう。」 | ||
「……へえー。」 | ||
鞍馬 「後はこの“東の巣穴にて獅子の扉は 開かれる”の部分なのだが……。」 | ||
鞍馬 「“東の巣穴”……そして“獅子”か。」 | ||
鞍馬 「“東の巣穴”は検討が付くが、 “獅子の扉”…… これがちょっと解らないな。」 | ||
「ねー鞍馬。」 | ||
鞍馬 「ん?」 | ||
「要するにさ、 コレが開けばいいんだよね?」 | ||
鞍馬 「ああ、もちろんそうだが……」 | ||
鞍馬 「って、斧を振り上げて 何をする気だ!?」 | ||
「そーらぁッ!(ボコーン)」 | ||
鞍馬 「葛籠が……」 | ||
「ホラ開いたよ♪ これで解決でしょ?」 | ||
鞍馬 「…………」 | ||
鞍馬 「確かに。」 | ||
「ははっ、良かった良かった!」 | ||
鞍馬 (……どうやら私は知力で解決する ことに囚われ過ぎていたのかも しれないな。) | ||
「で、肝心の中身は……」 | ||
「あれ、カラッポ?」 | ||
鞍馬 「いや、何か紙切れが1枚、 入っているぞ。」 | ||
鞍馬 「札? それとも何かの地図か……?」 | ||
「文字が書いてあるな。 なになに……」 | ||
「“ ハ ズ レ だ に ゃ あ ”」 | ||
鞍馬 「…………。」 | ||
誰かの手の込んだイタズラでした。 |
押し花を贈る相手(かやのひめの思い出)
かやのひめ 「うーん、今日は討伐も無いし、 退屈ね……。」 | ||
かやのひめ 「押し花にする花でも探そうかな。」 | ||
かやのひめ (ん? 向こう側から、今まで 嗅いだことのない花の香りが……?) | ||
咲耶 「あら、あなた様は…… かやのひめ様ですね?」 | ||
かやのひめ (! この香り、この子から漂ってくる……) | ||
咲耶 「わたくし、木花(このはな)家の 咲耶と申します。」 | ||
かやのひめ 「あの木花家の……」 | ||
かやのひめ 「どうしてわたしの名前を 知っているの?」 | ||
咲耶 「有名ですもの、存じ上げておりますわ。 それに……」 | ||
咲耶 「お庭の裏でひとり、押し花を作られて いるのを何度かお見かけしましたので。」 | ||
かやのひめ 「なっ!? あれ、み、見てたの……?」 | ||
咲耶 「えっ……」 | ||
咲耶 「ご、ごめんなさい。あまり人に 見られたくなかったのですね……」 | ||
咲耶 「とても楽しげに綺麗な押し花を 作られていたので、咲耶はつい……」 | ||
かやのひめ 「べ、べつに隠れて作ってたわけじゃ ないわよ!」 | ||
かやのひめ 「ただ……」 | ||
咲耶 「ただ……?」 | ||
かやのひめ 「あの時は、○○に あげる為の押し花を作ってたから……」 | ||
咲耶 「え?」 | ||
かやのひめ 「……な、なんでもないわよ!」 | ||
かやのひめ 「あのとき作った押し花、 あまり出来が良くなかっただけ!」 | ||
かやのひめ 「だから見られたくなかったの!」 | ||
咲耶 「そんな、とても綺麗にできていると 咲耶は思いましたが……」 | ||
かやのひめ 「そ、そう!?」 | ||
かやのひめ 「あ、あなたがそう言うなら、 誰か「その辺の人」にでも あげちゃおうかなー?」 | ||
咲耶 「まあ……」 | ||
咲耶 「それなら是非、 わたくしに頂けませんか?」 | ||
かやのひめ 「え!?」 | ||
咲耶 「あれだけ綺麗な押し花ですもの。 咲耶はお部屋に飾っておきたいです。」 | ||
かやのひめ 「そ、それは……」 | ||
かやのひめ 「困る……」 | ||
咲耶 「ご、ごめんなさい。 わたくしまた、こんな図々しいこと……」 | ||
かやのひめ 「そ、そうじゃなくて……」 | ||
かやのひめ 「その……あなたには今度、 別のやつを作ってあげるわ。」 | ||
かやのひめ 「ちゃんとした、 出来のいいやつをね!」 | ||
咲耶 「本当ですか!? 咲耶はとても嬉しいです!」 | ||
かやのひめ 「べ、別に大層なものじゃないんだから、 そんなに喜ばなくたっていいわよ!」 | ||
咲耶 「いいえ、楽しみにしています!」 | ||
後日、咲耶には出来のいい押し花を、 ○○には出来の悪い(と本人は言う) 押し花を贈った、かやのひめでした。 |
訪れし災厄(やたのひめの思い出)
やたのひめ 「黒い風が……哭き始めたわ……」 | ||
空狐 「やたのひめさん?」 | ||
空狐 「そんな高い木の上に立って、 何を眺めてるんですか?」 | ||
やたのひめ 「私が眺めているものは、『世界』――」 | ||
空狐 「え?」 | ||
やたのひめ 「――それが、『監視者』たる この私に課せられた使命なの」 | ||
空狐 「よ、よくわからないけれど、 何かを見張っているのですね……?」 | ||
やたのひめ 「ええ…… でも気を付けなければならないわ」 | ||
やたのひめ 「深遠を覗く時、深遠もまた 此方を覗いて居るのだから――」 | ||
空狐 「??? は、はあ……」 | ||
やたのひめ 「空狐……あなたも気を付けることね。」 | ||
やたのひめ 「じきにこの庭を『災厄』が襲う―― そんな兆しが『視』えるわ。」 | ||
空狐 「ええっ! ど、どうしてそんなことが 分かるんですかっ!?」 | ||
空狐 「はっ!まさか……」 | ||
空狐 「やたのひめさんが 『せかいのかんししゃ』だから……?」 | ||
やたのひめ 「ふふふ……!」 | ||
空狐 「そ、それで一体、この庭に どんな災厄が?」 | ||
空狐 「ひょっとして、強い物怪か何かが やってくるのですかっ?」 | ||
やたのひめ 「そう……『彼の者』が 『白き仮面(ペルソナ)』を纏いし時……」 | ||
やたのひめ 「『災厄』はその姿を現すのよ」 | ||
空狐 「し、『しろきべるそな』とは、 いったい……!?」 | ||
やたのひめ 「彼の者が齎す 『破滅の狂宴(ヴァルプルギス)』――」 | ||
やたのひめ 「この庭は、その宿命(さだめ)から 逃れることはできないわ……」 | ||
空狐 「そ、そんな! 何か手だては……」 | ||
やたのひめ 「……安心して。」 | ||
やたのひめ 「たとえ『災厄』がこの庭が滅ぼそうとも、 式姫達には傷ひとつ付けさせはしないわ」 | ||
空狐 「や、やたのひめさん…… なぜ右腕を押さえて……!?」 | ||
やたのひめ 「この『忌避せし力』……」 | ||
やたのひめ 「もう二度と使うことは無いと 思っていたけれど……!!」 | ||
空狐 「み、右腕が痛いのですか!? ちょっと見せてくだ……」 | ||
空狐 「……あっ!?」 | ||
やたのひめ 「あっ……空狐が石につまずいて……」 | ||
空狐 (ゴゴゴゴ……!)」 | ||
やたのひめ 「手に持っていた仮面を かぶってしまった……」 | ||
やたのひめ 「“空狐がまた暴走するかも”っていう 白峯の今朝の予言……」 | ||
やたのひめ 「やはり見事に的中したようね。」 | ||
空狐 「オロカナルニンゲンドモヨ……!」」 | ||
やたのひめ 「さて……」 | ||
やたのひめ 「……逃げよ。」 | ||
暴走した空狐によって庭は滅茶苦茶になりましたが、 みんなで『避難』したので庭の式姫たちは無事でした。 |
みんな友達!(いすずひめの思い出)
孫麗 「むうー、これは手ごわいなあ……」 | ||
いすずひめ 「やっほー孫麗! どうしたの? 難しい顔で地図眺めちゃって」 | ||
孫麗 「あ、いすずひめ。」 | ||
いすずひめ 「悩み事があるなら何でも言って! 私にできることなら力になるよ!」 | ||
孫麗 「んーでもこの話は相談されても 困るんじゃないかなーって……」 | ||
いすずひめ 「そんな水くさいこと言わずにさ!」 | ||
いすずひめ 「大事な友達なんだから、 孫麗の悩みは私の悩みだよ!」 | ||
孫麗 「……うん、そうだね! 友達だもんね!」 | ||
いすずひめ 「そうだよ!」 | ||
いすずひめ 「孫麗が悩むっていう事は、やっぱり 「冒険」」に関すること?」 | ||
孫麗 「実はそうなんだー。 今度、東の方にある「鬼ヶ島」っていう 島を探検しようと思ってるんだけど――」 | ||
いすずひめ 「あ、知ってる! あの鬼がたくさん住んでる島ね。」 | ||
孫麗 「そうそう、あの島だよ。」 | ||
孫麗 「それで、あそこ攻略する為にはいくつかの 難関を越えなきゃいけないんだよね。」 | ||
いすずひめ 「へー、それって、どういう難関?」 | ||
孫麗 「まず、島へ辿り着く為には潮の流れの速い 海を渡らないといけないんだけど――」 | ||
孫麗 「そこを渡れるだけの腕を持つ船頭さんが 見つからないんだよねー……」 | ||
いすずひめ 「あ! それなら友達にすごく腕の良い 船頭さんがいるよ! 頼んでみよっか?」 | ||
孫麗 「えっ、ホント? 助かるよ!」 | ||
いすずひめ 「うん! 他には?」 | ||
孫麗 「それとね、あの島は地形が入り組んでるん だけど、詳しい地図もないから迷わずに 探検できるかどうか……」 | ||
いすずひめ 「あ! それならあの島の地形に詳しい 友達がいるから、道案内してもらえる よう、頼んでみよっか?」 | ||
孫麗 「そ、そんな人まで友達にいるんだ。」 | ||
孫麗 「まあでも、そういう人が付いてきてくれると 心強いかな!」 | ||
いすずひめ 「うん! これであの島を攻略できそう?」 | ||
孫麗 「うーん、あとひとつ。」 | ||
孫麗 「実はこれが今回いちばんの 難関なんだけど――」 | ||
孫麗 「あの島にはすっごく凶暴な物怪の 「一つ目入道」が棲んでいるらしいんだ。」 | ||
孫麗 「あいつに立ち向かえるくらい腕の立つ人が 何人も居ないと――」 | ||
いすずひめ 「あ、それもきっと大丈夫だよ!」 | ||
孫麗 「も、もしかして腕の立つ友達も おおぜい呼んでくれる、とか?」 | ||
いすずひめ 「ううん! そうじゃなくって――」 | ||
いすずひめ 「その一つ目入道さんも、私の友達なの!」 | ||
いすずひめ 「「孫麗が来ても襲わないように」って お願いしとくよ!」 | ||
孫麗 「……え、えぇー……!?」 | ||
ひょっとして、いすずひめに頼めば行けない場所など無いのではないか―― などと思ってしまう、孫麗でした。 |
昼の顔と夜の顔(天羽々斬の思い出)
天羽々斬 「ええと、明日はこっちの屋敷で、 あさってはあっちの広場で……、と」 | ||
仙狸 「天羽々斬殿、わっちに何か用があると 聞いて来たのじゃが……」 | ||
仙狸 「ふむ? 筆など執って 何を記しておるのじゃ?」 | ||
天羽々斬 「仙狸さん。 良い所においでくださいました。 これをご覧下さい。」 | ||
仙狸 「これは……何かの予定表のようじゃが?」 | ||
天羽々斬 「ええ、そうです。」 | ||
天羽々斬 「私、あちこちのお家で 『子守』のお仕事を引き受けておりまして。 これはその予定表です」 | ||
仙狸 「むむ、なんと……! ほぼ毎日、 ぎっしり予定が詰まっておるではないか。」 | ||
仙狸 「これほど毎日子供達の相手をして、 大変ではないのか?」 | ||
天羽々斬 「いいえ全然。」 | ||
天羽々斬 「私にとって、無邪気な子供たちと 共に過ごす時ほど満たされた時間は ありませんから!」 | ||
仙狸 「ふーむ、お主の「子供好き」は、 相変わらずじゃのう。」 | ||
仙狸 (ちと行き過ぎなような気もするがの……) | ||
仙狸 「それで、わっちに用とは? この子守の予定に関することかの?」 | ||
天羽々斬 「はい。 実は今度、子供達に色々なお話を 聞かせてあげようかと思っておりまして。」 | ||
仙狸 「ほう?」 | ||
天羽々斬 「もしよろしければ、子供達に大人気だと 評判の仙狸さんの昔話を 聞かせてやって欲しいのです。」 | ||
仙狸 「ふむ、そういうことなら是非もない。」 | ||
仙狸 「わっちの話で良いなら、 いくらでも聞かせてやろうぞ。」 | ||
天羽々斬 「ありがとうございます! 子供達も、きっと喜びますよ。」 | ||
仙狸 「だと良いの。」 | ||
仙狸 「……おや?」 | ||
仙狸 「この予定表によると、この日の夜にも 予定が入っておるようじゃが、これは?」 | ||
天羽々斬 「ああ、 そっちは『子守』の予定ではなく――」 | ||
天羽々斬 (シュン!) | ||
仙狸 「!?」 | ||
天羽々斬 「『暗殺』のお仕事の予定ですよ。」 | ||
仙狸 「い、いつの間に背後に……!」 | ||
天羽々斬 「もちろん、標的は子供達を泣かすような 超極悪人に限りますけれどね。」 | ||
仙狸 「むむ……わっちが気配さえ見失うとは、 恐るべき身のこなし…… さすがは天羽々斬殿じゃな。」 | ||
天羽々斬 「ふふ、これしきの動きができなければ、 暗殺の仕事は務まりませんからね。」 | ||
天羽々斬 「――はっ!? あそこを歩いているのは!!」 | ||
白兎 「~♪」 | ||
天羽々斬 「白兎ちゃんだー!」 | ||
白兎 「!?」 | ||
天羽々斬 「お願い抱っこさせてー♪ 逃げないでー♪」 | ||
仙狸 「……………………。」 | ||
仙狸 「コレさえなければ 『優しくて格好良いお姉さん』 なんじゃがのう…………」 | ||
恐るべき身のこなしで白兎を追いかけ回す天羽々斬に、 なんだかとても残念な気持ちになる、仙狸なのでした。 |
こうみえても(くらかけみやの思い出)
くらかけみや 「………」 | ||
バステト 「あたしの魂を聴きやがれー!」 | ||
バステト 「お、そこのネコ! あたしの魂の音楽を聴いていきやがれー!」 | ||
くらかけみや 「………(こくん)」 | ||
バステト 「いくよーっ!」 | ||
バステト (ギャギャギャギューンギューン!!!) | ||
くらかけみや 「………」 | ||
バステト 「うおおー!」 (ギャギャギャギャーン!!!) | ||
くらかけみや 「………」 | ||
バステト (こ、こいつのこの無反応……) | ||
バステト (……あたしの魂の演奏が、 こいつの魂には響いていないのか!?) | ||
おつの 「あれーなんかすっごく賑やかだなーって 思ったらバステトちゃんが演奏してたんだ ねー!やっぱり激しくてカッコいーね!」 | ||
バステト 「おつの!」 | ||
バステト 「でも、こいつにはあたしの魂が 届いてないみたいなんだ……!」 | ||
バステト 「もしかしてこいつには……」 | ||
バステト 「「魂」が、無いのかっ!?」 | ||
くらかけみや 「………」 | ||
おつの 「あーくらかけみやちゃんに 聴かせてあげてたんだねー!」 | ||
おつの 「大丈夫だよ! ちゃんと、バステトちゃんの魂の音は 届いてるよ!」 | ||
バステト 「わ、わかるのか……?」 | ||
おつの 「ほら尻尾をよーくみて? 左右にゆっくり揺れてるでしょー?」 | ||
くらかけみや 「………(ゆらゆら)」 | ||
バステト 「あ、ああ……」 | ||
おつの 「この尻尾の動きはね、 くらかけみやちゃんが 喜んでる時の癖なんだよー!」 | ||
バステト 「そ、そうなのか……?」 | ||
くらかけみや 「………(ゆらゆら)」 | ||
バステト 「よ、よーしそれなら改めて――」 | ||
バステト 「あたしの魂を! 聴きやがれー!」 (ギャギャギャギューンギューン!!!) | ||
おつの 「ほらみてみて! くらかけみやちゃんの尻尾が!」 | ||
くらかけみや 「………(びしびしびしびしびし!)」 | ||
バステト (ギャギャギャギャーン!!) | ||
くらかけみや 「………(びしびしびしびし!!)」 | ||
バステト 「ふー……」 | ||
バステト 「くらかけみや! あんたも良い「魂」を 持ってるみたいだな!」 | ||
くらかけみや 「…………(ゆらゆらー)」 | ||
魂と魂を響かせあった、 くらかけみやとバステトなのでした。 |
愛深きゆえに(鈴鹿御前の思い出)
鈴鹿御前 「ふう……洗濯物も干しましたし、 玄関の掃除も終えていますし……」 | ||
鈴鹿御前 「次は昼食の準備かしらね。」 | ||
座敷童子 「鈴鹿さん、こんにちはっ!」 | ||
鈴鹿御前 「あらこんにちは、座敷童子。 今日も元気そうね」 | ||
座敷童子 「はいっ、元気ですっ!」 | ||
座敷童子 「ボクがこんなに元気なのは、 鈴鹿さんのおかげなんですよっ!」 | ||
鈴鹿御前 「私の? どうしてかしら。」 | ||
座敷童子 「鈴鹿さんは、いつもここの家事を完璧に こなしてくれてますよね?」 | ||
鈴鹿御前 「ええ、ここはあの人が帰ってくる 場所ですもの。いつでも迎えられる ようにしておかないと♡」 | ||
座敷童子 「ボクは『家』に憑く付喪神なので、 鈴鹿さんがそうやって家を守ってくれる おかげで力を保っていられるんですっ!」 | ||
鈴鹿御前 「そう……それはよかったわ。」 | ||
鈴鹿御前 「それなら、この庭が物怪に 荒らされることなく平和なのも――」 | ||
鈴鹿御前 「「幸福を呼び込む式姫」と云われる あなたが居るおかげかもしれないわね。」 | ||
座敷童子 「そ、そんなー! ボクにはそんなに 大きな力はありませんよー。」 | ||
座敷童子 「せいぜい、その家の住人にささやかな 幸運を運べるくらいですからっ!」 | ||
鈴鹿御前 「ささやかな幸運…… 例えばどんなことかしら?」 | ||
座敷童子 「うーん、そうですね…… あっそうだ!」 | ||
座敷童子 「昨日の夜、○○さんとふたりで お庭を散歩していた時のこと なんですけど……」 | ||
鈴鹿御前 「!!!」 | ||
座敷童子 「なんと、 カラスウリの花を見つけたんです。」 | ||
座敷童子 「夜の間にしか咲かない とっても珍しい花なんですよっ!」 | ||
鈴鹿御前 「……二人きりで夜の散歩……」 | ||
座敷童子 「えっ?」 | ||
鈴鹿御前 「そう……あの人……」 | ||
座敷童子 「……あっ! いやでもそのっ……」 | ||
座敷童子 「お互いひとりでお散歩してたら、 たまたま出会っただけで……」 | ||
鈴鹿御前 「私の知らない所で……」 | ||
鈴鹿御前 「若い式姫の子に 手を出して……!!!」 | ||
座敷童子 (あわわわ……! ボク、ひょっとして……) | ||
座敷童子 (○○さんに、 「不幸」を運んじゃった……?) | ||
座敷童子 「ち、違うんです鈴鹿さーん! 誤解なんですー!!」 | ||
その夜、○○の部屋の机には 一通の置き手紙が置いてあり、そこにはただ一言、こう書いてありました。 「あなた、信じていますからね?」 |
からかい上手(かぶきりひめの思い出)
古椿 「うーむ、 どうにもヒマでありますねー 」 | ||
太郎坊 「よんよ~ん♪」 | ||
古椿 「お、あそこに居るのは タロちゃんでありますね」 | ||
古椿 「ここはひとつ、 イタズラを仕掛けてやるであります!」 | ||
古椿 「背後から近づいて……」 | ||
古椿 「わッ!! であります!」 | ||
太郎坊 「……ん? 古椿、いったい何をやっているのだよん?」 | ||
古椿 「あ、あれ……?」 | ||
太郎坊 「変な古椿だよん。もう行くよん?」 | ||
古椿 「平然とした様子で向こうへ 行ってしまったであります……」 | ||
古椿 「おかしい……怖がり屋のタロちゃんなら 「ぎゃああ!」などと声を上げて 驚くはずなのでありますが……」 | ||
太郎坊 「古椿、何ひとりでブツブツ 呟いているんだよん?」 | ||
古椿 「ぎゃああ!」 | ||
太郎坊 「う、後ろから声を掛けただけなのに、 なに大げさに驚いてるんだよん。 びっくりするんだよん」 | ||
古椿 「た、タロちゃん!? でもさっき向こうへ歩いて……」 | ||
太郎坊 「なに意味不明なこと 言ってるんだよん?」 | ||
太郎坊 「いつにも増して変な古椿だよん。 もう行くよん?」 | ||
古椿 「タ、タロちゃんがふたり……!? いったいどういうことでありますか……?」 | ||
古椿 「本当であります。 いたいどういうことでありますか……?」 | ||
古椿 「全くおかしなことも あるものでありますよねえ……」 | ||
古椿 「……ん?」 | ||
古椿 「……ん?」 | ||
古椿 「ぎゃああああああ!?」 | ||
古椿 「こ、この私までもうひとり いるでありまーす!?!?」 | ||
古椿 「うふふふ……」 | ||
古椿 「!?」 | ||
かぶきりひめ 「(ドロン!)」 | ||
かぶきりひめ 「正体は私でしたー♪」 | ||
古椿 「へ、変化の術で化けた かぶきりひめでありましたか!」 | ||
かぶきりひめ 「うふふ、ゴメンね? 退屈そうにしてたから、 ついイタズラしたくなっちゃった♡」 | ||
古椿 「むむむ! 変化の術を悪用して 人を驚かそうなんて、ひどいであります!」 | ||
かぶきりひめ 「あら? 古椿ちゃんも太郎坊ちゃんに 化けた私を驚かせようとして なかったかしら?」 | ||
古椿 「…………」 | ||
かぶきりひめ 「イタズラしようとしたのはそっちが 先なんだから、おあいこよね?」 | ||
古椿 「……返す言葉も無いでありまーす……」 | ||
かぶきりひめ 「うふふ♪ それじゃお詫びのしるしとして、 美味しいお茶を淹れたわよ。 どうぞ!」 | ||
古椿 「お茶でありますか……?」 | ||
古椿 「この古椿様の繊細な心が お茶の一杯くらいで 癒されるなどと……!(ずずっ……)」 | ||
古椿 「!! こ、これは……」 | ||
古椿 「なんと美味いお茶でありますか!」 | ||
かぶきりひめ 「うふふ……飲んじゃったわね? 古椿ちゃん……」 | ||
古椿 「!?」 | ||
かぶきりひめ 「そのお茶も私の術で見た目を 欺いたもの…… 本当の中身は……」 | ||
古椿 「ぎゃああ! 何か変なものを 飲まされてしまったでありまーす!」 | ||
かぶきりひめ 「……なーんてね♪ うそうそ、冗談よ♡」 | ||
古椿 「…………」 | ||
古椿 「ほ、本当でありますか……? また古椿を騙してたり しないでありますか……?」 | ||
かぶきりひめ 「うふふ、ごめんごめん。 あんまり無防備だから、もう少しだけ からかいたくなっちゃっただけよ♡」 | ||
かぶきりひめ 「そのお茶は私がちゃーんと心を込めて 淹れた普通のお茶。本当よ♪」 | ||
古椿 「……そういえば、かぶきりひめの淹れた お茶を飲むと幸せになれる、という噂、 聞いたことあるでありますね。」 | ||
古椿 「これがそのお茶でありますか……」 | ||
かぶきりひめ 「ホラ、おかわりもあるから、 たくさん飲むといいわよ♪」 | ||
古椿 「(ま……また何か騙そうとしているような 気がするのでありまーす……)」 | ||
古椿のそんな一抹の不安さえすぐに忘れさせてしまうくらい、 かぶきりひめの淹れたお茶はとても美味しかったのでした。 |
それぞれの場所(おつのの思い出)
おつの 「♪~」 | ||
かるら 「あ! いたいた、おつのちゃん! グッドニュースですよー♪」 | ||
おつの 「ん? どうしたの? かるらちゃん」 | ||
かるら 「私たちアイドルユニット「暴れん坊天狗」の 次の公演開催が決定しちゃいました♪」 | ||
おつの 「あ!ついに決まったんだー! やったー!楽しみだねー!」 | ||
かるら 「この公演も私の笛の音でファンのみんなの 心をどんどん浄化しちゃいますよ~♪」 | ||
おつの 「私もあば天のメインMCとして、今回も 曲の合間に喋って喋って喋りまくるよ!」 | ||
天狗 「お待ちなさいな!」 | ||
おつの 「天狗ちゃん!?」 | ||
天狗 「この公演では、おつのに代わって……」 | ||
天狗 「このわたくしが、メインMCを務めますわ!」 | ||
かるら 「ええっ! 急にどうしたの? 天狗ちゃん」 | ||
天狗 「かるらはファンの心を癒す笛の音色――」 | ||
天狗 「おつのはファンのテンションを盛り上げる マシンガントーク――」 | ||
天狗 「しかしわたくしには、そういう ユニット内での立ち位置がありませんの!」 | ||
かるら 「そ、そんなことないですよー」 | ||
おつの 「うーん……」 | ||
おつの 「いいよー! 次の公演のメインMCは 天狗ちゃんで行こう!」 | ||
天狗 「ず、随分と軽いノリですわね……。」 | ||
おつの 「だってー」 | ||
おつの 「天狗ちゃんの言うとおり、コンサートじゃ いつも喋り出したら自分でも止められなく なって私がずっと喋っちゃうもんねー」 | ||
おつの 「だから天狗ちゃんもファンのみんなに伝えた い事があるならどんどん伝えちゃう方がファ ンも喜んでくれると思うんだーきっと」 | ||
天狗 「…………」 | ||
おつの 「でもひとつだけいわせて?天狗ちゃん。」 | ||
天狗 「な、なんですの?」 | ||
おつの 「天狗ちゃんはあば天での立ち位置がないって いうけど、そんな事ぜったいにないよ!」 | ||
おつの 「だって天狗ちゃんには私にもかるらちゃんに もない魅力があってそれはあば天になくちゃ ならないもので私やかるらちゃんじゃ代わり になれないものだもん、だって」 | ||
天狗 「……ちょ……」 | ||
おつの 「例えば天狗ちゃんのそのグイグイ攻めて いく姿勢とかちょっととんがった性格とかって わたしやかるらちゃんには全然ないし、まして や天狗ちゃんは天狗ちゃんの持ち味を」 | ||
天狗 「ちょ、ちょっとおつの! わかったですの! だからストップ、ストーップ!!」 | ||
おつの 「……?」 | ||
天狗 「…………」 | ||
天狗 「……やっぱりわたくし、 メインMCは遠慮しておきますわ」 | ||
おつの 「あれ? どうして?」 | ||
天狗 「今のマシンガントークを聞いてると、やっぱり わたくしにはその役目は務まらない気がして 参りましたの。」 | ||
おつの 「えーそんなことないよーファンのみんなだって 天狗ちゃんのMCきっともっとたくさん聞きたい って思ってるよーたぶん絶対まちがいなく」 | ||
天狗 「それに、貴方の言うとおりですしね。」 | ||
おつの 「え?」 | ||
天狗 「おつのはおつの。かるらはかるら。 わたくしはわたくし。」 | ||
天狗 「わたくしはわたくしとしてステージに立てば いいのであって、何も、おつのの居る場所に わたくしが立つ必要などなかったのですわ」 | ||
かるら 「うん、そうですね! 3人それぞれ違う 色彩あっての「暴れん坊天狗」ですから!」 | ||
天狗 「でもおつの!」 | ||
天狗 「やっぱりあなたはちょっと喋りすぎですわよ! 次のコンサートでは少し自重するですの!」 | ||
おつの 「あははー! うん、次のコンサートでは なるべく善処するよー!」 | ||
でもやっぱり、この時の公演でもお喋りが止まらず 天狗に怒られてしまった、おつのなのでした。 |
おゆきと雪遊び(おゆきの思い出)
狛犬 「うおおーん! ごめんなさいッスー!」 | ||
コロボックル 「アレ? 狛犬がなんか 叫びながら逃げてったヨ。」 | ||
おゆき 「こらーっ! 逃げるなバカ狛犬!!」 | ||
コロボックル 「あ、今度はおゆきが走って来タ。」 | ||
おゆき 「……ああもう! 見失った!」 | ||
おゆき 「あ、コロボックルちゃん。 バカ狛犬を見なかった?」 | ||
コロボックル 「狛犬なら向こうの方へ スゴイ速さで消えてったヨ。」 | ||
おゆき 「まったく相っ変わらず 逃げ足の速い……!」 | ||
コロボックル 「おゆき、何かあったノ?」 | ||
おゆき 「聞いてよコロボックルちゃん!」 | ||
おゆき 「あのバカ狛犬ったら、 また辺り構わず突撃して、この庭の壁を 壊しちゃったのよ。」 | ||
おゆき 「帰ってきたらお仕置きとして 氷漬けの刑だわ!」 | ||
コロボックル 「……。」 | ||
コロボックル 「なんだかおゆきって、いつも狛犬と 仲良く遊んでるネ!」 | ||
おゆき 「べ、別に遊んでるわけじゃ ないわよ!」 | ||
おゆき 「アイツったらいっつもこの庭で 面倒事を起こすんだもの。 目を離しておけないだけよ。」 | ||
コロボックル 「じゃあ、たまにはコロとも 遊んで欲しいナ!」 | ||
コロボックル 「おゆきの側に居るとコロの 故郷に居るみたいデ、 元気が出るんだヨ!」 | ||
おゆき 「ああ、そういえばコロボックルちゃんの 故郷ってかなり北の方の土地だったわね。」 | ||
コロボックル 「そうだヨ! 冬になると 辺り一面猛吹雪で氷漬け!」 | ||
コロボックル 「おゆきが狛犬と遊んでる時みたい にネ!」 | ||
おゆき 「だから別に遊んでるわけじゃ ないって!」 | ||
コロボックル 「でもおゆきも 『氷漬けコレクションが増えたわ!』トカ 言って、スッゴク楽しそうに見えたヨ?」 | ||
おゆき 「うっ……! あんた結構 痛い所を突いてくるわね……」 | ||
コロボックル 「だからサ、コロもおゆきと 雪遊びしたいんだヨ!」 | ||
コロボックル 「コロなら氷漬けにされたって 全然平気だヨ!」 | ||
おゆき 「し、しないわよそんなこと。」 | ||
おゆき 「あれはそのとき気に入ったものを 少しの間そばに留めておきたい だけで……」 | ||
コロボックル 「ソレじゃあ狛犬は、 いつもおゆきのお気に入り?」 | ||
おゆき 「ち、ちがっ! そういうことじゃなくて……!」 | ||
コロボックル 「コロもおゆきの「お気に入り」に なりたいナー! そしたら一緒に 雪遊びしてくれル?」 | ||
おゆき 「……もう。氷漬けにならなくたって ちゃんと遊んであげるわよ。」 | ||
コロボックル 「ほんと? ヤッター♪」 | ||
おゆき 「それと、あんたにも私の氷漬け コレクションも見せてあげるわ。」 | ||
おゆき 「バカ狛犬が帰ってきたら、 あいつの氷漬けも追加ね!」 | ||
こうして庭一面に真っ白な雪を降らせて一緒に雪遊びを楽しんだ、 おゆきとコロボックルなのでした。 |
姉からの試練(膝丸の思い出)
膝丸 「ふわ~ん! お姉ちゃあああああん!」 | ||
髭切 「どうしました? 膝丸」 | ||
膝丸 「あそこっ! あそこの壁に大きなトカゲが!」 | ||
髭切 「……ただのヤモリじゃないですか。 別に噛み付いたりしませんよ」 | ||
膝丸 「でっ、でも……」 | ||
髭切 「……」 | ||
髭切 「まったく……膝丸、あなたは少し 臆病が過ぎるのでは?」 | ||
膝丸 「だ……だってえお姉ちゃん……」 | ||
膝丸 「怖いものは…… やっぱり怖いんだもん……」 | ||
髭切 「ふーむ……」 | ||
髭切 (妹はどうしてこれほど臆病な性格に 育ってしまったのか……) | ||
髭切 (もしや……私のせい?) | ||
髭切 (可愛い妹に頼りにされるのが嬉しくて、 つい甘やかしてしまったのかも……) | ||
膝丸 「ど……どうしたの? お姉ちゃん」 | ||
髭切 「膝丸……私は決心しました」 | ||
髭切 「○○さんにお願いして、 私はしばらく遠くへおでかけに 出ようかと思います。」 | ||
膝丸 「へ……?」 | ||
膝丸 「そ、それじゃあ私も お姉ちゃんと一緒に……」 | ||
髭切 「いいえ膝丸。 あなたはこの庭でお留守番です。」 | ||
髭切 「私が居ない間にもし何かが起こっても、 自分一人の力で解決するのです!」 | ||
膝丸 「え……」 | ||
膝丸 「ええええ~!?」 | ||
膝丸 「やだああ! お姉ちゃんが居ないなんてやだあああ!」 | ||
膝丸 「私も一緒に連れてってええ~!」 | ||
髭切 (そう……いつかこの先、私と離れ離れに なってしまうこともあるかもしれない……) | ||
髭切 (そんな日が来た時のためにも、 ここは心を鬼にして……!) | ||
髭切 「ダメです! このおでかけに、 あなたを一緒に連れては行けません!」 | ||
膝丸 「ううう~……」 | ||
髭切 「……大丈夫。たとえ遠く離れていても、 私の魂はいつだってあなたの側に居ます」 | ||
髭切 「強き心を持つのです、膝丸。」 | ||
膝丸 「お姉ちゃん……」 | ||
膝丸 (そう……お姉ちゃんはいつだって 私のことを一番に思ってくれてる……) | ||
膝丸 (この厳しさも、 私の為を思えばこそ……!) | ||
膝丸 「分かったよ、お姉ちゃん――」 | ||
膝丸 「私、お姉ちゃんが側に居ない間も…… ひとりで立派に歩んで見せるよ!」 | ||
髭切 「そう! その意気です!」 | ||
髭切 「達者でやるのですよ、膝丸……」 | ||
3日後に髭切がおでかけから帰ってくると、 そこにはほんのちょっぴりだけ成長した 膝丸の姿があったのでした。 |
葛の葉のお遊び(葛の葉の思い出)
古椿 「うーむ、 どうにもヒマでありますねー」 | ||
太郎坊 「よんよ~ん♪」 | ||
古椿 「お、あそこに居るのは タロちゃんでありますね」 | ||
古椿 「今度こそ、タロちゃんにイタズラして ヒマ潰しするでありまーす♪」 | ||
葛の葉 「あら、そこで何をしているのかしら?」 | ||
古椿 「げっ! く、葛の葉どの……!」 | ||
葛の葉 「人の顔をみて「げっ」だなんて、 ご挨拶ねえ。」 | ||
葛の葉 「ええと……」 | ||
葛の葉 「『羽虫』だったかしら? あなたの名前。」 | ||
古椿 「『古椿』! 古椿であります!」 | ||
葛の葉 「古椿……? なんだかしっくりこないわねえ。」 | ||
葛の葉 「『羽虫』に改名しなさい。 その方がよく似合っているわ」 | ||
古椿 「似合いたくないであります!」 | ||
葛の葉 「ふうん…… ところであなた、いまヒマよね?」 | ||
古椿 「えっ?」 | ||
葛の葉 「私もちょうど今、 少し退屈してたところなのよねえ……」 | ||
古椿 「ええと……この古椿、ちょっと大事な 用事を思い出したでありまーす!」 | ||
葛の葉 「お待ちなさいな」 | ||
古椿 (ぎくっ!) | ||
葛の葉 「あなた、」 | ||
葛の葉 「今、」 | ||
葛の葉 「ヒマよね?」 | ||
古椿 「……ハイ…… 古椿はヒマでありまーす……」 | ||
葛の葉 「そう。良かったわ」 | ||
葛の葉 「それじゃあ、あなた――」 | ||
葛の葉 「何か面白いことやってみて?」 | ||
古椿 「無茶ブリであります!!」 | ||
葛の葉 「あら何故かしら?」 | ||
葛の葉 「いつもあちこちちょっかい出して 痛い目に遭っているあなたは 見ていて面白いわよ?」 | ||
葛の葉 「とても滑稽で。」 | ||
古椿 「あれは別にギャグでやってるわけじゃ ないであります!」 | ||
葛の葉 「何よ、できないの? つまらないわねえ。」 | ||
古椿 「そ、そう言うなら葛の葉どのが 何か面白いことをやってみるで あります!」 | ||
葛の葉 「私が?」 | ||
葛の葉 「いいわよ。今からあなたに対して、 とっても面白い事をしてあげる。」 | ||
葛の葉 「それじゃあ――」 | ||
葛の葉 「「赤く染まるやつ」と 「赤く腫れるやつ」……」 | ||
葛の葉 「どちらがよいかしら?」 | ||
古椿 「どっちもイヤであります! どっちも絶対面白くないやつで あります!」 | ||
葛の葉 「ばかねえ、 すごく面白いに決まってるじゃない。」 | ||
葛の葉 「私が♥」 | ||
古椿 「やっぱり そうなるでありますかー!」 | ||
葛の葉 「ふふふ、やっぱり見ていて 面白いわねえ」 | ||
葛の葉 「羽虫は。」 | ||
古椿 「古椿! 古椿でありまーす!」 | ||
そのドSっぷりで古椿を散々振り回して 存分にヒマつぶしを楽しんだ、 葛の葉なのでした。 |
真面目な夜摩天(夜摩天の思い出)
夜摩天 「闇冥姫ちゃん!」 | ||
闇冥姫 「あ、夜摩天さん! どうしたのー?」 | ||
夜摩天 「あなたが先日あの世へ 送った魂、また人違いでしたよ!」 | ||
闇冥姫 「あれー? また間違えたー? エヘヘー!」 | ||
夜摩天 「魂を現世に還すのも一苦労なん ですから、しっかりして下さい」 | ||
夜摩天 「それと龍神さん!」 | ||
龍神 「うむ?」 | ||
夜摩天 「居間のタンスを 勝手に漁らないように!」 | ||
龍神 「む……勇者でもダメなのか?」 | ||
夜摩天 「勇者でもダメです!」 | ||
夜摩天 「あと閻魔!」 | ||
閻魔 「んー……?」 | ||
夜摩天 「あなた○○さんに おつかいを頼まれていたはずでしょう!」 | ||
閻魔 「あー、すっかり忘れてたわー」 | ||
夜摩天 「単に面倒くさかっただけでしょう……」 | ||
閻魔 「まあいいじゃーん」 | ||
閻魔 「あんまり口うるさくしてると 早く老けちゃうわよー?」 | ||
夜摩天 「なっ……!!」 | ||
閻魔 「なんつってー。」 | ||
閻魔 「じゃーねー」 | ||
夜摩天 「まったく……」 | ||
夜摩天 (でも確かに……私はいつも周りに ガミガミ怒ってばかり……) | ||
紅葉御前 「あ! 夜摩天、どうしたんだ? 浮かない顔して」 | ||
夜摩天 「紅葉御前さん……私、皆にちょっと 小言を言い過ぎなのでしょうか……?」 | ||
紅葉御前 「ど、どうしたんだ急に。」 | ||
夜摩天 「職業柄、不届きや怠慢があるとつい 口喧しく注意してしまうのですが……」 | ||
夜摩天 「ここは冥府じゃないですし、 ひょっとすると皆さんに迷惑がられて いるのではないか、と……」 | ||
紅葉御前 「んー 別にそんなことはないと思うけど。」 | ||
夜摩天 「閻魔にはよく「口うるさい」とか 言われるし……」 | ||
紅葉御前 「それはまあ、閻魔だしな」 | ||
夜摩天 「お料理をしたら「瘴気の塊」とか 言われるし……」 | ||
紅葉御前 (それは、どうしようもないかな) | ||
夜摩天 「私、今みたいに他人の行動に口を 出すのはやめて、もう少し大人しく すべきでしょうか……」 | ||
紅葉御前 「夜摩天、 そんなの全然気にすることないよ」 | ||
夜摩天 「そ、そうでしょうか?」 | ||
紅葉御前 「みんな夜摩天の言うことを 迷惑だなんて思ってなんてない」 | ||
紅葉御前 「その証拠に、夜摩天に言われたら みんな素直に聞くだろう?」 | ||
紅葉御前 「みんな夜摩天の言うことならきっと 正しいんだって分かってるからだよ」 | ||
紅葉御前 「……まあ、 閻魔は例外かもしれないが」 | ||
夜摩天 「閻魔は…… 昔からずっとああですね」 | ||
紅葉御前 「至らない所をちゃんと指摘してくれる 人が居るってのはありがたいもん なんだよ。」 | ||
紅葉御前 「私みたいな ガサツなやつにとっては、特にね。」 | ||
夜摩天 「そ、そういうものでしょうか?」 | ||
紅葉御前 「ああ、だからこれからもビシバシ 頼むよ、夜摩天!」 | ||
夜摩天 「……」 | ||
夜摩天 「……はい!」 | ||
紅葉御前 「ところでさ……」 | ||
夜摩天 「はい?」 | ||
紅葉御前 「居間のタンスの建て付けが悪くて 斧でぶっ叩いたら、 粉々になっちゃったんだけど……」 | ||
夜摩天 「紅葉御前さん!!」 | ||
やっぱり自分が皆にしっかり目を配らないと……! と意を新たにする夜摩天なのでした。 |
お洒落な鵷鶵(鵷鶵の思い出)
鵷鶵 「この前街歩きしてて 見つけたんだけど、」 | ||
鵷鶵 「ここの近くに、 新しくお洒落な小物屋ができてたよ。」 | ||
おつの 「えー!もしかしてその小物屋って、 全国各地から珍しい小物が 集まってる所?」 | ||
おつの 「吉祥天たちが話をしてて、 ずっと行きたいと思ってたんだー! 今度一緒にいこうよー。」 | ||
鵷鶵 「うん、行ってみよう。 何か良い小物が見つかるといいな!」 | ||
おつの 「……」 | ||
鵷鶵 「……? どうしたの? おつのが黙るなんて珍しいね。」 | ||
おつの 「鵷鶵っていつもお洒落だなーって 思わず見惚れちゃったー!」 | ||
おつの 「新しいお洒落なお店全部チェック してるし、鳳凰ちゃんも言ってたけど、 洗練された都会の女性って感じだよね」 | ||
鵷鶵 「お洒落なものは好きだけど、 別に普通だよ。」 | ||
おつの 「服も小物もきちんと トレンド押さえてるし、」 | ||
おつの 「なのに、流行のど真ん中にいますよー って雰囲気がなくて、」 | ||
おつの 「さりげなく取り入れてるところが すごいよねー!」 | ||
鵷鶵 「そんなことないと思うけどなー。」 | ||
おつの 「ううん! 鵷鶵が変な格好しているの 見たことないし、」 | ||
おつの 「どんなに忙しくても、 毎日きちんとしてるよねー。」 | ||
おつの 「毎日近くでお洒落な鵷鶵を見れるのは ファッションの参考になって良いけど」 | ||
おつの 「お洒落じゃない鵷鶵って どんな感じなんだろーって ちょっと考えちゃったー!」 | ||
鵷鶵 「変な格好って……」 | ||
鵷鶵 「……でも仮装みたいで ちょっと新鮮かもね。」 | ||
おつの 「でしょー!でも迷うなー。 どんな格好だと、いつもとちょっと違う 鵷鶵を見られるかなー、」 | ||
おつの 「うーん、ウィッグとか? あはは、それじゃ仮装かー!」 | ||
おつの 「それじゃあやっぱり着物を変えると 印象変わるのかなー?」 | ||
おつの 「いろんな変わった格好をした 鵷鶵を見たいけど、」 | ||
おつの 「自分を一番分かっているのは 鵷鶵本人だから、」 | ||
おつの 「例えば、自分がどんな格好だと いつもと違う鵷鶵になりそう?」 | ||
鵷鶵 「うーん……普段着ないものかー。」 | ||
鵷鶵 「あまりに古くなった着物だと、 裁断して巾着や小物にして 再利用してるから、」 | ||
鵷鶵 「ボロボロの着物は着ないかなー。」 | ||
おつの 「そうなんだー! 鵷鶵が持ってる巾着や小物も お洒落なのは、」 | ||
おつの 「お洒落な着物を 再利用していたからなんだねー。」 | ||
おつの 「うーん、ボロボロの着物かー! 確かに鵷鶵が着ているところ 見たことないやー」 | ||
おつの 「ちょっと想像してみるね……」 | ||
鵷鶵 「……」 | ||
おつの 「うーん、どんなにボロボロを着せても、 モデルが鵷鶵だから」 | ||
おつの 「ダメージ加工の古着を生かした ビンテージファッションの お洒落な鵷鶵になるねー。」 | ||
おつの 「でもこれが狛犬ちゃんをモデルにすると、 迷子になって一週間くらいさまよって」 | ||
おつの 「ボロボロになった様子って感じで 違う意味ですごく似合うんだよねー。」 | ||
鵷鶵 「狛犬ちゃんが一週間迷子か…… ちょっとありえそう。」 | ||
鵷鶵 「うーん、なら、 すごく変な形の帽子をかぶるのは?」 | ||
おつの 「変な形かー極端に小さい帽子とか 明らかに帽子の役割を 果たしていないものとかかなー?」 | ||
おつの 「変な帽子っていろいろあるけど 例えば吉祥天たちが好きな、」 | ||
おつの 「「骨侍ぬいぐるみ」を使った帽子とか どうかなー?」 | ||
おつの 「頭に骨侍の顔がどーんって乗ってるの。」 | ||
おつの 「うーん…… それでも革のジャケットが似合いそうな、 ロックなファッションの鵷鶵になるなー。」 | ||
おつの 「それもお洒落だねー。」 | ||
鵷鶵 「左右違う足袋を履くとか……!」 | ||
おつの 「左右違う足袋かー、 例えば足袋じゃないけど」 | ||
おつの 「片方の足に一反木綿を 巻き付けるとかどうかなー?」 | ||
おつの 「うーんちょっと包帯みたいだし 仮装っぽいねー」 | ||
おつの 「でも鵷鶵がやると アシンメトリーでダークな雰囲気の お洒落になりそうだなー。」 | ||
鵷鶵 「服や足袋で変えられないなら……」 | ||
鵷鶵 「櫛でといていない ボサボサの髪にするとか!」 | ||
おつの 「ボサボサの髪ねー。 例えば山姥みたな感じかなー?」 | ||
おつの 「あはは、それ面白いかもー!」 | ||
おつの 「うーんでもきっとそれでも 鵷鶵がやると無造作ヘアとか 寝ぐせ風ヘアって感じで」 | ||
おつの 「あえて整えていない斬新な 緩めのファッションとして街で 流行るんだろうなー。」 | ||
おつの 「髪形を変えても鵷鶵は お洒落なままだねー。」 | ||
結局どんなに変な格好をしても、 お洒落になってしまう、鵷鶵なのでした。 |
笛の音診療所(かるらの思い出)
かるら 「~♪~♪」 | ||
仙狸 「かるらの笛の音は、いつ聞いても 美しいのう。心がほっとするわい。」 | ||
かるら 「ありがとうございます。 そう言っていただけると嬉しいです♪」 | ||
仙狸 「そういえば、最近よくここで 笛を吹いているようじゃが……」 | ||
仙狸 「そんなに練習してるということは、 「暴れん坊天狗」のライブが近いのか?」 | ||
かるら 「ライブの練習はもちろんですが、 最近は別の理由で吹いていることが 多いんです!」 | ||
仙狸 「別の理由じゃと……? それは一体――」 | ||
狗賓 「かるらさん、こんにちは。 おや、仙狸さんも煩悩浄化に 来ていたのですか?」 | ||
狗賓 「私もまた来てしまいました。 かるらさん、いつものを よろしくお願いします。」 | ||
かるら 「はい!お任せください。 それでは、気持ちを楽にして くださいね~。」 | ||
かるら 「~♪~♪」 | ||
狗賓 「…………」 | ||
狗賓 「…………ふぅ。 おかげで五平餅を食べすぎずに 済みました。」 | ||
仙狸 「……どういうことじゃ?」 | ||
狗賓 「最近忙しくて、ついついストレスで 五平餅を食べ過ぎてしまって……」 | ||
狗賓 「それを防ぐために、定期的に かるらさんに煩悩浄化を してもらっているのです。」 | ||
狗賓 「ありがとうございました。 またよろしくお願いします」 | ||
かるら 「いえいえ、いつも家事などで お世話になっていますから♪ またいつでもいらしてくださいね。」 | ||
仙狸 「たしかにかるらの笛の音には 煩悩浄化の作用があるが…… 定期的にとは――」 | ||
狛犬 「かるらさーん! 助けて欲しいッスー!」 | ||
かるら 「こんにちは。 今日はどうされましたか?」 | ||
狛犬 「修行を頑張らなきゃいけないのに、 木の棒を見るとすぐ 飛びついてしまうッス!」 | ||
狛犬 「かるらさん、今日もよろしくッス!」 | ||
かるら 「はーい♪ 深呼吸してくださいね。」 | ||
かるら 「~♪~♪」 | ||
狛犬 「…………」 | ||
狛犬 「……うぉー!頭がすっきりしたッス! かるらさん、 ありがとうございましたッス!」 | ||
かるら 「修行頑張ってくださいね♪」 | ||
仙狸 「……もしや、今のような式姫達の 煩悩浄化をやっているから、 最近ここでよく笛を吹いておるのか?」 | ||
かるら 「はい♪皆さんいろいろと悩みも 多いみたいで。」 | ||
かるら 「私が力になれることは、 協力したいのです。」 | ||
仙狸 「その気持ちは分らんでもないが……」 | ||
仙狸 「まったく……まるでここは 「かるらの笛の音診療所」じゃな。」 | ||
かるら 「笛の音診療所ですか…… なんだか素敵ですね!」 | ||
古椿 「これはこれは仙狸殿! 今日も狸のまんまる尻尾が ぽんぽこぽんでありますな!」 | ||
仙狸 「じゃから、わっちは狸ではないと 何度言えば――」 | ||
古椿 「かるら殿の笛の音と 狸のぽんぽこ二重奏であります!」 | ||
仙狸 「……わ、わっちは猫じゃ……!」 | ||
かるら 「お二人とも、落ち着いてください。」 | ||
かるら 「~♪~♪」 | ||
仙狸 「…………」 | ||
古椿 「…………」 | ||
仙狸 「……ふぅ。心が静まったようじゃ。 かるら、礼を言うぞ。」 | ||
古椿 「……はっ! 何やらぼーっとしてしまったで あります!」 | ||
古椿 「古椿は忙しいので これにておさらばであります!」 | ||
仙狸 「ふむ……かるらの笛、 なかなかに良いな。」 | ||
かるら 「仙狸さんも、何かあったら遠慮なく ここへ来てくださいね。」 | ||
その後も、煩悩浄化をするためにかるらの笛の音を聞きに来る者は、 後を絶えなかったのでした。 |
地球に関する知識(紫の君の思い出)
紫の君 「――ふむ。地球とはどこまでも 興味深いのう……」 | ||
古椿 「やや? これはこれは紫の君! 何の本を読んでいるでありますか?」 | ||
紫の君 「おお、古椿。 これは地球についての本じゃ。」 | ||
紫の君 「地球人の進歩や地球上に存在する あらゆる均衡について書いてある。」 | ||
古椿 「むむ……ずいぶんと難しそうな本を 読んでいるでありますな!」 | ||
紫の君 「うむ。地球人がいかにして 進歩を遂げたかということや――」 | ||
紫の君 「地球上に存在するエネルギーで どのように均衡を 保っているかなど――」 | ||
古椿 「そんなもの読まなくても もっと身近な例でこの古椿が 教えてあげるであります!」 | ||
紫の君 「ほう、それはありがたい。 本だけじゃと、ちと難しくてのう。」 | ||
古椿 「さっそく式姫達を観察して、 地球を知るであります!」 | ||
古椿 「まずはタナトス殿を見るであります!」 | ||
紫の君 「タナトスがどうかしたのか?」 | ||
仙狸 「タナトスの部屋は相変わらずの 散らかりぶりじゃな……」 | ||
タナトス 「書類が多いもので。」 | ||
タナトス 「でもどこに何があるかは分かるので 心配要りませんよ。」 | ||
仙狸 「そ、そうなのか……?」 | ||
古椿 「今はあのように、部屋の中は散らかり まるで台風の後のようであります。」 | ||
紫の君 「うむ…… 確かに物が散乱しておるのう。」 | ||
古椿 「でも、日が沈むと‥…」 | ||
タナトス 「……ん? なんだこの散らかった部屋はー!!」 | ||
タナトス 「ったく、何でこんなに 物が散乱してるんだ!」 | ||
タナトス 「仕方ねえから、俺が片づけてやる!」 | ||
古椿 「――と、あのように 夜は自ら掃除を始めるであります。」 | ||
古椿 「タナトス殿をはじめとする地球人は こうやって部屋を散らかしたり 片づけたりしながら――」 | ||
古椿 「快適な部屋を 保っているのであります!」 | ||
紫の君 「なるほど 地球人はこのようにして 部屋の均衡を保っているのじゃな。」 | ||
古椿 「これこそが 「地球の均衡」であります!」 | ||
紫の君 「本には載っていない情報じゃな。 実地での説明、勉強になったぞ!」 | ||
古椿 「次はあそこにいる熊野と狛犬を 観察するであります!」 | ||
熊野 「狛犬、今日も修練を 頑張っているようだね。」 | ||
熊野 「よかったら、この滋養強壮剤を 飲んでみないか?」 | ||
狛犬 「いいんッスか!? ありがとうッス! これで元気いっぱいッスね!」 | ||
狛犬 (ゴクリ) | ||
狛犬 「おー! 体中に力が沸いてくるッス!」 | ||
狛犬 「……ん? でも……なんか頭がもぞもぞするッス~」 | ||
猫又 「狛犬に熊野、二人とも何をしてる――」 | ||
猫又 「こ、狛犬……! その頭一体どうしたんだにゃー!?」 | ||
狛犬 「……? 頭がどうしたんスか?」 | ||
猫又 「こ、狛犬の頭に 耳が四つ生えてるにゃー!!」 | ||
狛犬 「え!?」 | ||
狛犬 (サワサワ……) | ||
狛犬 「ほ、本当ッス! 耳が増えてるッスー!」 | ||
熊野 「おっと、もう少し配合を 調整した方が良さそうだな。」 | ||
熊野 「元気にはなったけど、 副作用として耳が増える、と。」 | ||
熊野 「耳はしばらくしたら 元に戻ると思うから。」 | ||
古椿 「――と、あのように地球人は 日々研究に励み――」 | ||
古椿 「多くの犠牲を払いながら 進歩しているのであります。」 | ||
紫の君 「なるほど……! 「失敗は成功のもと」 というやつじゃな!」 | ||
古椿 「まあこの古椿様ほどになれば、 あのように慌ただしい日々を 送らずとも――」 | ||
古椿 「自然と「地球の進歩や均衡」を 悟ることできるのであります!」 | ||
紫の君 「さすが地球代表の古椿…… 私もいつか古椿のように――」 | ||
葛の葉 「あら、紫の君に古椿。」 | ||
古椿 「むむ……! 葛の葉殿!」 | ||
葛の葉 「こんな所で何をしているの?」 | ||
紫の君 「古椿が地球について 教えてくれるというので――」 | ||
紫の君 「式姫達を見て学んでおったところじゃ。」 | ||
古椿 「そうであります!」 | ||
古椿 「地球代表の古椿様が直々に 紫の君に地球人の進歩と均衡を――」 | ||
葛の葉 「面白そうね。 私も少し教えてあげましょうか。」 | ||
古椿 「それには及ばないであります!」 | ||
古椿 「葛の葉殿にもこの古椿が特別に 教えてあげてもいいでありますよ!」 | ||
古椿 「古椿様のありがたいお言葉を――」 | ||
葛の葉 「口を慎みなさい、老木。」 | ||
古椿 「ろ……老木!?」 | ||
古椿 「た、確かに古椿は数百年生きる 立派な椿であります!」 | ||
古椿 「いわば老木は褒め言葉で――」 | ||
葛の葉 「ではこういえば良いかしら……?」 | ||
葛の葉 「黙れ羽虫。」 | ||
古椿 「は、羽虫……」 | ||
葛の葉 「紫の君に教えてあげるわ。」 | ||
葛の葉 「地球では、調子に乗った人にこうして お灸を据えて、人格を調整するの。」 | ||
葛の葉 「地球人の均衡を保つためにね。」 | ||
紫の君 「ほう……! 地球人はなかなかに嗜虐的なのじゃな!」 | ||
紫の君 「これも本には 書かれていないことじゃったから、 良い勉強になったぞ!」 | ||
こうして紫の君は地球に関する 間違った知識を 習得したのであった。 |
美肌の秘訣(吸血姫の思い出)
吸血姫 「ふああ……良く寝たのう。 さて、今宵も――」 | ||
吸血姫 「……む? 今、何か視線を感じたような……」 | ||
吸血姫 「気のせいかのう?」 | ||
吸血姫 「いかなる悪党が 向かって来ようとも わらわが返り討ちにしてくれよう。」 | ||
吸血姫 「気を取り直して、 まずは日課の月光浴じゃ!」 | ||
吸血姫 「月の光を浴びて、月の力を――」 | ||
吸血姫 「ふむ……やはり誰かが わらわを見ておるようじゃのう。」 | ||
吸血姫 「隠れておる者よ、こそこそせず、 わらわの前に姿を現すのじゃ!」 | ||
八百比丘尼 「あら……ばれちゃったわね。」 | ||
吸血姫 「なんじゃ八百比丘尼…… わらわを陰から見ていたのは、 おぬしじゃったのか!」 | ||
八百比丘尼 「そうなの、こそこそしちゃって ごめんなさいね。」 | ||
八百比丘尼 「実は、どうしても吸血姫さんに 聞きたいことがあって……」 | ||
吸血姫 「わらわに聞きたいこととな。 一体なんじゃ……?」 | ||
八百比丘尼 「吸血姫さんは、日焼けしてもすぐに 肌の色が戻るそうね。」 | ||
八百比丘尼 「日焼けは乙女の大敵……」 | ||
八百比丘尼 「シミもシワも作らず すぐに白くなるなんて……」 | ||
八百比丘尼 「一体どんなお手入れをしているのか その美肌の秘訣を教えて欲しいの!」 | ||
吸血姫 「ふむ…… 確かに、わらわは日焼けしても すぐに色が戻るがのう……」 | ||
吸血姫 「どうしてそうなるのか、詳しいことは 自分でもよく分からぬのじゃ。」 | ||
吸血姫 「じゃが、もしかすると…… わらわの習慣に、 その秘密があるのかもしれぬな。」 | ||
吸血姫 「気になるのであれば、 今日一日、 わらわに密着調査しても良いぞ!」 | ||
八百比丘尼 「まぁ! いいの? 嬉しいわ~!」 | ||
八百比丘尼 「吸血姫さんの 美肌の謎が解明されれば――」 | ||
八百比丘尼 「世の乙女達に 大きく貢献出来るわ!」 | ||
吸血姫 「うむ。 まずはわらわの日課、 月光浴からじゃ!」 | ||
八百比丘尼 「月光浴…… たしかに、 月には力を感じるけれど――」 | ||
八百比丘尼 「夜更かしはお肌の大敵だわ。」 | ||
吸血姫 「ふむ。夜更かしと言っても、 わらわは昼間に たっぷり寝ておるからのう。」 | ||
吸血姫 「きちんと睡眠を取れば、 問題ないじゃろう。」 | ||
八百比丘尼 「そう……それなら、 ひとまずやってみようかしら。」 | ||
吸血姫 「…………」 | ||
八百比丘尼 「…………」 | ||
吸血姫 「……どうじゃ? なにか変化はあったかのう?」 | ||
八百比丘尼 「そうね‥… なんとなく肌に良い気もするけど、、 特に変化はないみたい。」 | ||
吸血姫 「そうか……では次に、 空を飛び回り夜空を散歩するぞ。」 | ||
吸血姫 「誰もいない夜空を 自由に飛び回るのは爽快じゃぞ!」 | ||
八百比丘尼 「夜空の散歩、素敵ね!」 | ||
八百比丘尼 「あ…… でも私、空を飛べないの……」 | ||
吸血姫 「心配には及ばぬ。 このコウモリ達が、おぬしを乗せて 飛んでくれるからの。」 | ||
八百比丘尼 「空を飛ぶのは少し怖いけど、 面白そうね。」 | ||
吸血姫 「では行くぞ!」 | ||
八百比丘尼 「風が気持ちいいわね~! それに、なんだか 星が近くなった気がするわ。」 | ||
吸血姫 「うむ、地上から見上げる夜空とは また違って見えるじゃろう。」 | ||
八百比丘尼 「そうね…… で、でも、風に当たりすぎて、 肌が乾いてきたような……」 | ||
吸血姫 「む? では地上に降りるかのう。」 | ||
吸血姫 「夜空の散歩はどうじゃったかの?」 | ||
八百比丘尼 「楽しかったわ~! だけど、肌が少し 乾燥しちゃったみたい……」 | ||
吸血姫 「ふむ、これもだめか。」 | ||
吸血姫 「では次に、 棺桶に横たわってみるぞ。」 | ||
吸血姫 「わらわはいつも、 棺桶で寝ておるからの。」 | ||
八百比丘尼 「か、棺桶…… 少し不気味だけど、 美白の為ね……!」 | ||
吸血姫 「…………」 | ||
八百比丘尼 「…………」 | ||
吸血姫 「……どうじゃ? なにか変化はあったかのう?」 | ||
八百比丘尼 「うーん、難しいわね。 ジメジメしているから、 肌の保湿には良いのかしら?」 | ||
吸血姫 「あ、もしかすると――」 | ||
吸血姫 「すぐに結果が出ないだけで、 日焼けした時に実感できるのかも しれぬのう!」 | ||
八百比丘尼 「そうね…… それに、夜って 肌の状態も分かり辛いわ。」 | ||
吸血姫 「では昼間に見てみると――」 | ||
吸血姫 「むむ……?」 | ||
八百比丘尼 「どうしたの?」 | ||
吸血姫 「そういえば八百比丘尼、 おぬしは不老じゃったのう。」 | ||
吸血姫 「いくら日焼けしても、 肌が劣化しないおぬしには 関係のないことじゃないのかのう?」 | ||
吸血姫 「見たところ、 シミもシワも見当たらぬ。」 | ||
八百比丘尼 「これは不老のおかげじゃなくて、 私のお手入れの賜物なのよ!」 | ||
吸血姫 「ふむ。お手入れの効果も 少しはあるじゃろうが……」 | ||
吸血姫 「そう考えると、不死である わらわも似たようなものじゃ。」 | ||
吸血姫 「わらわの肌は、不死のお陰で 成り立っておるのかもしれぬのう。」 | ||
吸血姫 「肌が荒れぬわらわ達が 美肌の秘訣を考えても、 どうにもならん気がするが――」 | ||
八百比丘尼 「そ、そんな……! なら一体どうしたら……?」 | ||
吸血姫 「そうじゃな……」 | ||
吸血姫 「ふむ……わらわの眷属になれば、 わらわと同じような 肌になれるが……」 | ||
八百比丘尼 「それよ! きっとそれが美肌の秘訣ね!」 | ||
八百比丘尼 「私も試してみようかしら……!」 | ||
吸血姫 「うむ。 では早速 わらわがおぬしの血を吸って、 一度死者になってもらって――」 | ||
八百比丘尼 「し、死者ですって!? いくら美肌でも、死者はちょっと……」 | ||
吸血姫 「む? そうか……人魚の血を 吸ってみたかったのじゃが……」 | ||
結局、地道なお手入れを することにした八百比丘尼と 血を吸えず、少しがっかりした 吸血姫なのでした。 |
運命を共にする者(戦乙女の思い出)
戦乙女 「――災いを誘いし妖よ…… 我が槍の糧となれ……!」 | ||
やたのひめ (か、かっこいい……!) | ||
やたのひめ (えーっと、 『災いを誘いし』っと……) | ||
戦乙女 (――ん?) | ||
戦乙女 「そんなところで 何をしているのですか? 紙と筆なんて持って……」 | ||
やたのひめ 「わ……! え、えっと、その……」 | ||
やたのひめ 「あなたの裁きを、 わたしの『暗黒眼』に 刻んでいたのよ。」 | ||
やたのひめ 「いつか来る、 『終末の刻』に備えてね。」 | ||
戦乙女 「終末の刻(ラグナロク)……」 | ||
戦乙女 「漆黒が世界を覆う刻…… 私達式姫は世界を守護する 宿命(さだめ)にありますからね。」 | ||
戦乙女 「同じ宿命を背負いし仲間として よければ共に、 修練を積んでみませんか?」 | ||
戦乙女 「ただ見ているよりも――」 | ||
戦乙女 「体に感覚を刻む方が 早く自分の力になりますよ。」 | ||
やたのひめ 「一緒に修練!? やった……じゃくて――」 | ||
やたのひめ 「そうね。」 | ||
やたのひめ 「孤高に飛ぶのも良いけれど、 ヴァルハラの戦士と 運命を共にするのも面白そうね。」 | ||
戦乙女 「では早速修練に励みましょう。」 | ||
戦乙女 「いつもの日課では、 この後、山の頂で妖の気配を 感じとる修練を行っています。」 | ||
戦乙女 (妖が行動を起こす前に見つけて 対処するのが一番ですからね。) | ||
戦乙女 「まずはこの山で 一番大きな木の上に立ち、 目を閉じて感覚を研ぎ澄まします。」 | ||
やたのひめ 「邪眼を鎮め…… 五感の限界を超越するのね。」 | ||
戦乙女 「そうです。 遥か遠方の気配まで 感じとりましょう。」 | ||
戦乙女 (…………) | ||
やたのひめ (…………) | ||
やたのひめ (静寂の中で、 感覚を研ぎ澄ます……) | ||
やたのひめ (それっぽくてかっこいい……!) | ||
戦乙女 「どうです? 感じ取れましたか?」 | ||
やたのひめ 「え……? ええ……! 聞こえたわ。 彼方で蠢く闇の雄叫びが……」 | ||
戦乙女 「はい……私もここより北西に、 妖の気配を感じました。」 | ||
戦乙女 「被害が出る前に、 裁きの鉄槌を下しましょう。」 | ||
やたのひめ 「そうね。この吹き渡る疾風…… 『審判の夜』にふさわしいわ。」 | ||
戦乙女 「裁きが終わったら、 次は私と実戦で 修練を行いましょう。」 | ||
やたのひめ 「実戦…… わたしの闇と、あなたの光――」 | ||
やたのひめ 「ぶつかった時に どんな花を咲かせるか楽しみだわ。」 | ||
やたのひめ (実戦かぁ……ドキドキ……!) | ||
やたのひめ (――数時間後――) | ||
戦乙女 「まだまだ、あなたには 秘められし力があるはず……!」 | ||
戦乙女 「一撃一撃に全力で臨むのです……!」 | ||
やたのひめ 「はぁ……はぁ……」 | ||
戦乙女 「そうです。 その調子……!」 | ||
戦乙女 「自分の内に秘めたる限界を 雲外蒼天(うんがいそうてん)の 気持ちで突破するのです……!」 | ||
やたのひめ 「雲外蒼天……」 | ||
やたのひめ 「はー!!」 | ||
戦乙女 「……!」 | ||
戦乙女 「今の一撃は、 これまでの攻撃とは 全く違いました……」 | ||
戦乙女 「ついに 限界を超越したのですね……!」 | ||
やたのひめ 「……これがわたしの…… はぁ、はぁ……」 | ||
やたのひめ 「真の力……はぁ、 『闇の終焉(しゅうえん)』よ……」 | ||
戦乙女 「素晴らしい……! これであなたも、立派な戦士です。」 | ||
戦乙女 「今日はもう遅いので、 ここまでにしましょうか。」 | ||
戦乙女 「きちんと休息を取り、 戦う力の糧となる食事を――」 | ||
戦乙女 「……? やたのひめさん?」 | ||
やたのひめ 「………… ……スー、スー……」 | ||
戦乙女 「……どうやら…… 疲れて寝てしまったようですね。」 | ||
戦乙女 「……ふふふ。 気持ちよさそうな寝顔です……」 | ||
戦乙女 (よく頑張りましたね。) | ||
すやすや眠るやたのひめを、 優しい眼差しで見つめる 戦乙女なのでした。 |
最強の助っ人(死神の思い出)
死神 「――はぁ…… 今月も顧客満足度が とても低かったデスね……」 | ||
タナトス 「豪華な粗品をプレゼントだとか――」 | ||
タナトス 「素敵なキャンペーンも 開催していたのにね」 | ||
死神 「はい……考えられる要因は 恐らく魂を狩る死神の数が 少ないことデス。」 | ||
死神 「本来なら魂一つ一つに寄り添って、 丁寧に冥府へご案内するのが 理想なのデスが……」 | ||
死神 「死神が少ないので、 どうしても流れ作業に なってしまいます……」 | ||
タナトス 「それで、 魂達の満足度が低いのね。」 | ||
死神 「そうなのデス……」 | ||
死神 「短期間でも良いから、 誰か協力してくれる方が いたら良いのデスが……」 | ||
タナトス 「そうね…… あ、一人思い当たる式姫がいるわ。」 | ||
タナトス 「天探女さんよ。」 | ||
死神 「確かに……天探女さんなら、 すぐに仕事を覚えられそうだし――」 | ||
死神 「何よりとても立派な斧を 持っていますからね!」 | ||
タナトス 「ええ。適任だと思うわ。」 | ||
天探女 「――私に何かご用でしょうか。」 | ||
死神 「ちょうど良いところに来ました! じつは折り入って頼みがあります!」 | ||
死神 「かくかくしかじかで――」 | ||
死神 「――というわけなんデス! どうデスか?」 | ||
天探女 「つまり死神さんのお手伝いとして、 魂を狩れば良いのですね。」 | ||
死神 「そうデス!」 | ||
天探女 「承知しました。 それでは――」 | ||
天探女 「ピピピ…… 「魂収穫モード」起動。」 | ||
死神 「さすが天探女さんデス! 頼りになりますね!」 | ||
死神 「ただし、 今回はただの魂狩りではなく、 一つ一つの魂に寄り添って――」 | ||
天探女 「目的地を設定してください。」 | ||
死神 「え? あ、そうデスねー…… まずはあの東の村にしましょう!」 | ||
天探女 「目的地、登録完了。 魂狩りを開始します。」 | ||
死神 「はい! それで先程の続きデスが、 今回の目標は丁寧なご案内が――」 | ||
天探女 「短時間でより多くの魂を 的確に狩れるよう――」 | ||
天探女 「まずは地域全体に照準を合わせ、 それから対象者を探知し、 「昇天ビーム」を放ちます。」 | ||
死神 「「昇天ビーム」……?」 | ||
天探女 「照準を東の村に設定。 「昇天ビーム」発射まで――」 | ||
天探女 「5、4、3、2――」 | ||
死神 「わー! 良く分からないけど、 待ってください!」 | ||
天探女 「――発射を中止しました。」 | ||
死神 「はぁ……危ないところでした。」 | ||
死神 「いいデスか、天探女さん。 今回は、短時間で多くの魂を 狩るのではなく――」 | ||
死神 「魂一つ一つに寄り添って、 丁寧にご案内することが 目標なのデス!」 | ||
死神 「ビームではなく、 直接魂の元へ行き、 きちんと接客しましょう!」 | ||
天探女 「理解しました。 それでは――」 | ||
天探女 「「営業モード」起動。」 | ||
天探女 「――今回冥府へ ご出発される方にはなんと……!」 | ||
天探女 「永久サポートが付いてくる! 不安があれば いつでもご連絡下さい!」 | ||
天探女 「死神スタッフがすぐに あなたの元へ駆け付けます!」 | ||
天探女 「さらに! 今回だけの特別企画!」 | ||
天探女 「冥府オリジナルで、 吸水性抜群の 手ぬぐいをプレゼント!」 | ||
天探女 「……と、このような感じで 問題ないでしょうか。」 | ||
死神 「す……すごいデス……!」 | ||
死神 「これなら魂の皆さんも、 安心して冥府へ行けるし――」 | ||
死神 「顧客満足度アップも 間違いなしデス!」 | ||
死神 「天探女さんは 最強の助っ人デスね!」 | ||
天探女 「ありがとうございます。」 | ||
死神 「顧客満足度大幅アップを目指して 一緒に頑張りましょう!」 | ||
その後、顧客満足度が 上がったかどうかは 定かではありませんが―― 「弁舌には感心した」という アンケート結果が 多数寄せられたそうです。 |
弱点克服!(獅子女の思い出)
獅子女 「――なぞなぞだにゃあ!」 | ||
獅子女 「「あたたかい」所に住んでいる タヌキの色は何色だにゃあ?」 | ||
蜥蜴丸 「え……?」 | ||
蜥蜴丸 「タヌキは皆 茶色だと思っていましたが……」 | ||
蜥蜴丸 「他の色のタヌキも 存在するんですね。」 | ||
獅子女 「これはなぞなぞだにゃあ……」 | ||
獅子女 「だから事実かどうかは、 あんまり考えなくて良いにゃあ。」 | ||
蜥蜴丸 「うーん…… 難しいですね……」 | ||
獅子女 「答えは赤色だにゃあ!」 | ||
蜥蜴丸 「赤いタヌキ……ですか!」 | ||
獅子女 「「あたたかい」から「た」を抜くと、 「あかい」になるにゃあ!」 | ||
蜥蜴丸 「なるほど…… そういうことだたのですね!」 | ||
獅子女 「そうだにゃあ! それじゃあ第二問!」 | ||
獅子女 「今度は 蜥蜴丸にも分かりやすいように、 事実に基づいた問題にゃあ!」 | ||
獅子女 「形がないのに――」 | ||
獅子女 「長い時間をかければ やがては岩を砕くもの、 何か分かるかにゃあ?」 | ||
蜥蜴丸 「ああ、それなら検討が付きます。」 | ||
蜥蜴丸 「答えは努力する心です!」 | ||
蜥蜴丸 「形はないけれど、 長い期間修練を積んで 努力すれば――」 | ||
蜥蜴丸 「やがては岩をも砕くような力を 手に入れることが出来ます。」 | ||
獅子女 「むむ……確かに言われてみれば それも間違っていないにゃあ。」 | ||
獅子女 「私が用意した答えは 「水」だったにゃあ。」 | ||
蜥蜴丸 「なるほど……「水」でしたか!」 | ||
蜥蜴丸 「…………」 | ||
蜥蜴丸 「獅子女殿に頼みがあります。」 | ||
蜥蜴丸 「私の弱点克服を 手伝っていただけませんか?」 | ||
獅子女 「弱点克服?」 | ||
蜥蜴丸 「はい!」 | ||
蜥蜴丸 「トンチやなぞなぞを理解できれば、 今後の修練にも 役立つと思うんです。」 | ||
獅子女 「そ、そうかにゃあ?」 | ||
獅子女 「でも……分かったにゃあ!」 | ||
蜥蜴丸 「ありがとうございます!」 | ||
獅子女 「それじゃあ、 このなぞなぞの本に書いてある問題を 一緒に考えてみるにゃあ!」 | ||
蜥蜴丸 「ふむふむ……」 | ||
蜥蜴丸 「犬、牛、バッタの中で、 呼びかけても応えないのは どれか……ですか。」 | ||
獅子女 「常識に当てはめて考えると 分からなくなるけど――」 | ||
獅子女 「少しだけ頭を柔らかくすると 分かるにゃあ!」 | ||
蜥蜴丸 「呼びかけても応えない…… うーん……」 | ||
獅子女 「呼びかけても応えないということは、 つまりどういうことにゃあ?」 | ||
蜥蜴丸 「……無視する、 ということでしょうか?」 | ||
獅子女 「そうにゃあ!」 | ||
獅子女 「この問題は――」 | ||
獅子女 「犬、牛、バッタの中で、 「無視する」のはどれか 考えるにゃあ!」 | ||
獅子女 「「無視」は同じ読み方で、 「昆虫」の方の漢字もあるにゃあ。」 | ||
獅子女 「つまり、このなぞなぞの答えは バッタだにゃあ!」 | ||
蜥蜴丸 「なるほど……! そういった流れで考えるのですね。」 | ||
獅子女 「そうにゃあ! それじゃ次は――」 | ||
獅子女 「――と、まあ今日は こんなところかにゃあ。」 | ||
蜥蜴丸 「ありがとうございます!」 | ||
蜥蜴丸 「だんだん 理解出来るようになってきました!」 | ||
蜥蜴丸 「是非、お礼をさせてください。」 | ||
獅子女 「お礼だなんていらないにゃあ!」 | ||
蜥蜴丸 「いえ、そういう訳には……」 | ||
蜥蜴丸 「あ……!」 | ||
蜥蜴丸 「次は私に 獅子女殿の弱点を克服する お手伝いをさせてください!」 | ||
獅子女 「私の弱点ってことは…… か、雷にゃあ……?」 | ||
蜥蜴丸 「はい! ……ちょうど良かった。」 | ||
蜥蜴丸 「雲行きが怪しいので、 この後雷雨になりそうですね。 早速始めましょう!」 | ||
獅子女 「えーっと…… 始めるって何をだにゃあ!?」 | ||
獅子女 「それに私の弱点は 克服しなくても良いんだにゃあ!」 | ||
蜥蜴丸 「いいえ。 弱点はどんなものでも 潰しておくことが大事ですよ。」 | ||
蜥蜴丸 「まずは山頂に上り、 雷を間近で感じて 恐怖心を払拭しましょう。」 | ||
獅子女 「ま、まま間近で雷を……!?」 | ||
蜥蜴丸 「安心して下さい。 雷に当たらないよう、 私がお守りしますから。」 | ||
獅子女 「そういう問題じゃないにゃあ……!」 | ||
この後、周りの式姫達が 蜥蜴丸を止めてくれたおかげで 難を逃れた獅子女でした。 |
天仙の疑問(天仙の思い出)
天仙 「――フレイさん ちょっといいかしら。」 | ||
フレイ 「こんにちは。」 | ||
天仙 「今日はあなたに 聞きたいことがあって来たの。」 | ||
フレイ 「聞きたいこと、ですか。」 | ||
フレイ 「私に分かることなら、 何でもお答えしますよ。」 | ||
天仙 「よかったわ。 早速なんだけど――」 | ||
天仙 「私に「努力」とは何なのか 教えて欲しいのよ。」 | ||
フレイ 「「努力」……ですか?」 | ||
天仙 「以前フレイさんや 蜥蜴丸さんが鍛錬中に――」 | ||
天仙 「「努力は報われる」と 言っていたのが気になって……」 | ||
天仙 「今日は 「努力」について学びに来たの。」 | ||
フレイ 「そうでしたか!」 | ||
フレイ 「「努力」とは、 ある目標にむかって力を尽くして 励むことを表します。」 | ||
天仙 「力を尽くすって…… どうやるのかしら?」 | ||
フレイ 「そ、それは…… 己の限界を超えるほどの 全力を――」 | ||
天仙 「全力って……?」 | ||
フレイ 「言葉で表すのは 少々難しいようですね……」 | ||
フレイ 「よければ、 これから私の鍛錬を見に いらっしゃいませんか?」 | ||
フレイ 「そこで「努力」とはなにかを ご説明します!」 | ||
天仙 「ありがとう、楽しみだわ。」 | ||
天仙 (…………) | ||
フレイ 「――先程もご説明した通り、 「努力」とはある目標に向かって 励むことを表します。」 | ||
フレイ 「目標として設定するのは、 今の自分にできないこと、 成し遂げたいことになります。」 | ||
フレイ 「例えば、私の今の目標は――」 | ||
フレイ 「敵に息をつかせぬほどの 連続した攻撃を 行えるようになることです。」 | ||
フレイ 「日々鍛錬を積んでいるのですが、 一筋縄ではいかず……」 | ||
天仙 「そうなのね……」 | ||
天仙 「私はやりたいことがあったら すぐに やってみるようにしているの。」 | ||
天仙 「それで大概のことは 自然と出来るようになるわ。」 | ||
フレイ 「天仙は天才肌なのですね!」 | ||
フレイ 「それなら仕方ありません。」 | ||
フレイ 「こうなったら、 出来ないものが見つかるまで いろいろと試してみましょう!」 | ||
天仙 「それが良いわね。 まずは 何からやってみようかしら?」 | ||
フレイ 「それでは――」 | ||
フレイ 「これから行う鍛錬に少し お付き合いいただけますか?」 | ||
フレイ 「私の連続攻撃を かわしてみて下さい!」 | ||
天仙 「わかったわ。」 | ||
天仙 「シュバババババ!」 | ||
天仙 「シュッ! シュシュシュ!」 | ||
フレイ 「さすがですね! ではこれはどうですか?」 | ||
フレイ 「ドドドドド!」 | ||
フレイ 「シュ! フワフワ~」 | ||
天仙 「すごいわ! フレイさんの攻撃の速度が どんどん早くなっているみたい。」 | ||
天仙 「ふふふ、 なんだか楽しくなってきたわ。」 | ||
天仙 「私も、 もっと早くかわしてみるわね!」 | ||
天仙 「ドドドドド!」 | ||
天仙 「シュッ! シュシュシュ!」 | ||
天仙 (…………) | ||
フレイ 「――天仙、 ありがとうございます!」 | ||
フレイ 「あなたのおかげで、 目標にしていた連続攻撃が できるようになりました!」 | ||
天仙 「あら、それはよかったわ。」 | ||
天仙 「私自身の「できないこと」は 見つからなかったけれど……」 | ||
天仙 「でもフレイさんの、 その素敵な笑顔を見て 分かった気がするわ。」 | ||
天仙 「「努力」って、 必死になって成し遂げる分――」 | ||
天仙 「出来た時の喜びも大きいのね。」 | ||
フレイ 「はい! その通りです!」 | ||
フレイ 「当初の目的からは 少しずれてしまいましたが……」 | ||
フレイ 「天仙に 少しでも分かって頂けたのなら よかったです。」 | ||
天仙 「ええ。 フレイさんにお願いしてよかった。」 | ||
天仙 「ありがとう。」 | ||
フレイ 「こちらこそ! よければまた 私の鍛錬に付き合って下さい。」 | ||
天仙 「もちろんよ。」 | ||
天仙 「今日はとても充実した、 素敵な日だったわ。」 | ||
思いがけず お互いの願いが叶い、 双方が満足した一日なのであった。 |
堕天使の誤算(堕天使の思い出)
堕天使 (今日は誰を堕落させようかなー。) | ||
堕天使 (閻魔は堕落のさせ甲斐がないし、) | ||
堕天使 (蜥蜴丸を堕落させようとすると、 何故か 鍛錬に巻き込まれるし……) | ||
堕天使 (うーん……) | ||
堕天使 (そうだ! もっと欲に従順な子ども達とか いいんじゃない?) | ||
堕天使 (……まあ、閻魔も蜥蜴丸も ある意味自分の欲に 従順なんだけどねー。) | ||
堕天使 (あ! ちょうど良い所に 鳳凰ちゃん発見!) | ||
堕天使 (ぷぷぷ、堕落させちゃおーっと!) | ||
堕天使 「――鳳凰ちゃん、何してるのー?」 | ||
鳳凰 「あ、堕天使さん! こんにちはでフ!」 | ||
鳳凰 「今スー姉ちゃんみたいな 都会の女になれるよう、」 | ||
鳳凰 「修行をしていたところでフ!」 | ||
堕天使 「へえー! 修行って、どんな?」 | ||
鳳凰 「今は、歩き方を練習してたでフ!」 | ||
堕天使 「歩き方?」 | ||
鳳凰 「スー姉ちゃんみたいな 都会の女は、 街をさっそうと歩くんでフ!」 | ||
鳳凰 「だから私も、 頑張ってかっこよく歩けるように 練習してるでフ!」 | ||
鳳凰 「これがなかなか難しいんでフ……」 | ||
鳳凰 (トテ、トテ、トテ……) | ||
堕天使 「練習なんかしなくても 大丈夫だって!」 | ||
堕天使 「歩き方なんて、 人それぞれなんだし。」 | ||
堕天使 「それに鳳凰はありのままで 素敵なんだからさー。」 | ||
鳳凰 「ほ、本当でフか!?」 | ||
堕天使 「うんうん!」 | ||
堕天使 「だから一緒にダラダラしよーよ!」 | ||
鳳凰 (うぅ…… せっかく堕天使さんが 誘ってくれたんでフ……) | ||
鳳凰 「わ、わかったでフ!」 | ||
堕天使 「うんうん、そうでなくちゃ!」 | ||
鳳凰 「それで、ダラダラって 何をするでフか?」 | ||
堕天使 「お茶を飲んだり、 ゴロゴロしたり……」 | ||
堕天使 「とにかくゆっくりする……かな!」 | ||
鳳凰 「そうでフか!」 | ||
鳳凰 「それじゃあ、 さっそく一緒にゆっくりしまフ!」 | ||
堕天使 (鳳凰堕落作戦、大成功―!) | ||
鳳凰 (…………) | ||
堕天使 「――ねえ鳳凰、 それ何読んでるの?」 | ||
鳳凰 「これは『オシャレ絵巻』っていう 雑誌でフ!」 | ||
鳳凰 「スー姉ちゃん達が編集していて、」 | ||
鳳凰 「都会のお洒落な女は、 皆これを愛読しているらしいでフ!」 | ||
堕天使 「へえー。」 | ||
堕天使 「この印をつけているのはー?」 | ||
鳳凰 「え!?」 | ||
鳳凰 「こ、これは、そのっ……」 | ||
鳳凰 「いつか着れたらいいなって思ってる 着物でフ……!」 | ||
鳳凰 「でも……身長とか足りなくて、 今の私には似合わないんでフ……」 | ||
堕天使 「ふーん。」 | ||
堕天使 「私はこっちの着物の方が 鳳凰には似合うと思うけどなー。」 | ||
鳳凰 「あ……!」 | ||
鳳凰 「こっちの着物は見てなかったでフ!」 | ||
鳳凰 「これもかわいいでフねー!」 | ||
堕天使 「でしょー?」 | ||
堕天使 「お洒落とかよくわかんないけど、 自分に合ったものを着る方が 格好良く見えるんじゃないかなー?」 | ||
堕天使 「ほら、 無理に背伸びして合わせても しんどいだけだしさー。」 | ||
鳳凰 「なるほどでフ! 勉強になりまフ!」 | ||
鳳凰 (さらさら……) | ||
堕天使 「な、何も書き留めるようなことじゃ ないよ……」 | ||
鳳凰 「すごいなーって思ったり、 なるほどって思ったことは――」 | ||
鳳凰 「なんでも書き留めるように しているんでフ!」 | ||
鳳凰 「じつはずっと、 都会の女になるためには どうしたらいいんだろうって――」 | ||
鳳凰 「思い悩んでいたでフ……」 | ||
鳳凰 「でも、堕天使さんの言葉で、 なんだかそのモヤモヤが 晴れた気がしたでフ!」 | ||
堕天使 「そ、そうなの……?」 | ||
鳳凰 「いつか私と同じように 悩んでる子がいたら、」 | ||
鳳凰 「その子にも堕天使さんみたいに 元気の出る言葉を かけてあげたいでフ!」 | ||
鳳凰 「ありがとうでフ!」 | ||
堕天使 「ど、どういたしまして……」 | ||
堕天使 (…) | ||
堕天使 (――はあ、鳳凰を堕落させることに 成功したはずなのに……)」 | ||
堕天使 (なんだろう、この気持ち。) | ||
堕天使 (……久しぶりに蜥蜴丸と一緒に 術の鍛錬でもするかなー。) | ||
堕落させるつもりが 思いがけず 鳳凰の姿に心を洗われ、 その後しばらく蜥蜴丸との 鍛錬に励む堕天使であった。 |
壺のお詫び(龍神の思い出)
龍神 (ガサガサ……) | ||
龍神 「うーん、お宝らしき物は 見つからないな。」 | ||
龍神 「この蔵になら、 何かレアアイテムが 隠されていると思ったんだが……」 | ||
龍神 「もっと奥の方まで探してみるか……」 | ||
龍神 (ガサガサ……) | ||
龍神 「む? この布は何だ……?」 | ||
龍神 (バサッ!) | ||
龍神 「おお……! これは……!」 | ||
龍神 「随分古びた壺だ……」 | ||
龍神 「それに この見たことのない独特な模様……」 | ||
龍神 「お宝の匂いがするな。」 | ||
龍神 「きっとこの壺の中には――」 | ||
龍神 「太古のパワーがゲットできる レアアイテムが入ってるに 違いない!」 | ||
龍神 「いくつかあるが…… まずはこの手前の壺を 割ってみよう。」 | ||
龍神 (パリンッ) | ||
龍神 「これは空か。 隣の壺はどうだろうか。」 | ||
龍神 (パリンッ) | ||
龍神 「こちらもはずれか……」 | ||
龍神 「こうなったら 全部割ってみるしかないな。」 | ||
龍神 (パリンッ) | ||
龍神 (パリンッ!) | ||
龍神 「――結局 何も出てこなかったな……」 | ||
龍神 「当たり前だが、レアアイテムは 簡単には手に入らないようだ。」 | ||
仙狸 「――あ、おぬし!」 | ||
仙狸 「むぅ…… ついに見つけてしまったか……」 | ||
龍神 「ん? 仙狸か。 見つけてしまった、とは……?」 | ||
仙狸 「その壺は――」 | ||
仙狸 「とても古い土器でのう。 壺自体が、 ちょっとしたお宝だったのじゃ。」 | ||
仙狸 「龍神に見つかれば 割られてしまうと思い――」 | ||
仙狸 「蔵の奥に隠しておったのじゃが……」 | ||
龍神 「そうか。 だから何のアイテムも 出てこなかったんだな。」 | ||
龍神 「しかし…… それは悪いことをしてしまった。」 | ||
龍神 「まさかこの古びた壺が 仙狸のお宝だったとは……」 | ||
龍神 「すまない……」 | ||
仙狸 「いや……」 | ||
仙狸 「きちんと手入れもせずに しまっておいた わっちが悪いのじゃ。」 | ||
仙狸 「まあ、気にせんでよいからの!」 | ||
仙狸 「…」 | ||
龍神 「……仙狸はああ言っていたが――」 | ||
龍神 「仙狸からメンタルポイント…… MPが失われたように見えた。」 | ||
龍神 「やはり 大切なものだったに違いない……」 | ||
龍神 「うーん、 どう詫びればいいものか……」 | ||
龍神 「私が所持する ありったけのゴールドで償うか……」 | ||
龍神 「いや、歴史ある宝を ゴールドでは補えないだろう。」 | ||
龍神 「……そうだ!」 | ||
龍神 「割ってしまった壺の代わりになる、 宝を探せばいいんだ!」 | ||
龍神 「まずはこの蔵で探してみよう。」 | ||
龍神 「仙狸が喜びそうな お宝アイテムを見つけるぞ!」 | ||
龍神 「――おお、 この埃まみれの本棚には お宝が眠ってそうだな。」 | ||
龍神 (ガサゴソ……) | ||
龍神 「おや? この謎の書は何だ?」 | ||
龍神 「不思議な書だな…… お、裏表紙に名が書いてあるぞ。」 | ||
龍神 「ほう、 やさふろひめの物か!」 | ||
龍神 「興味深いが、お宝とは言えないな。」 | ||
龍神 「……お、こっちにも何かあるぞ。」 | ||
龍神 「随分古い巻物だ…… もしかすると――」 | ||
龍神 「お宝の在処が 書かれているかもしれない!」 | ||
龍神 「……? 見慣れない 不思議な文字で書かれているな。」 | ||
龍神 「もしや古の魔術書か!?」 | ||
龍神 「ん……? なんだ、鞍馬の名が 記されているじゃないか。」 | ||
龍神 「外国の古い兵法書か! 鞍馬らしいな。」 | ||
龍神 「――わ!」 | ||
龍神 「驚いた…… これは……妖か……?」 | ||
龍神 「なんだ、 おゆきの氷漬けコレクションか。」 | ||
龍神 「……なかなかお宝は 見つからないな。」 | ||
龍神 「少し遠出して 探しに行ってみるとしよう。」 | ||
龍神 「――だめだ…… 仙狸が喜びそうなお宝は 見つからなかった……」 | ||
龍神 「やはり宝探しの冒険をするには パーティーが必要だったようだ……」 | ||
龍神 「一人ではできることも限られる……」 | ||
仙狸 「――む? 龍神…… そんなにぼろぼろで、 一体どうしたのじゃ?」 | ||
龍神 「仙狸……!」 | ||
龍神 「すまない…… あの壺の代わりになるお宝を 探しに行ったんだが……」 | ||
龍神 「見つからなかった……」 | ||
仙狸 「なんじゃおぬし……」 | ||
仙狸 「もしやあれからずっと 代わりになる物を 探しておったのか……?」 | ||
龍神 「知らなかったとはいえ、 仙狸の大事な宝を 壊してしまったからな……」 | ||
仙狸 「あの壺は、おぬしをそのように 苦労させるほどの価値はない……」 | ||
仙狸 「だから、詫びの品などなくとも――」 | ||
仙狸 「おぬしがそう思ってくれただけで 充分じゃ!」 | ||
龍神 「だがそういうわけには――」 | ||
仙狸 「そうじゃな……」 | ||
仙狸 「ならば、今日一日の冒険話でも 聞かせてもらおうかの。」 | ||
龍神 「おお、それならたくさんあるぞ! 摩訶不思議な物を たくさん見つけたからな。」 | ||
仙狸 「ほう、それは面白そうじゃな!」 | ||
仙狸 「さあ、ちょうど美味な甘味と 渋い茶の用意が出来たところじゃ。」 | ||
仙狸 「縁側でゆっくり聞かせてくれ。」 | ||
お茶を飲みながら、 束の間の冒険話を仙狸に聞かせた 龍神であった。 |
皆の想い(小烏丸の思い出02)
こうめ 「おお、おぬしか! 今日も変わらず元気そうじゃな。」 | ||
こうめ 「――何をしているのか、じゃと?」 | ||
こうめ 「特に何かをしていたわけではない。 ただ――」 | ||
こうめ 「改めてこの庭の変わりように 驚いておったのじゃ!」 | ||
こうめ 「以前は妖気に包まれておった この地も――」 | ||
こうめ 「今ではすっかり浄化され、 美しくなってきておる!」 | ||
こうめ 「これも皆、 おぬしが心地よい庭を造り――」 | ||
こうめ 「式姫達と共に物怪討伐に 励んでくれたおかげじゃな! | ||
小烏丸 「――お二人共、 ここに居たのですね。」 | ||
こうめ 「小烏丸か! おぬしもここに座って、 これまでのことを語らぬか?」 | ||
小烏丸 「これまでのこと、ですか?」 | ||
こうめ 「うむ。」 | ||
こうめ 「最初は小烏丸と白兎。 狛犬、天女から 始まったのじゃったな!」 | ||
白兎 「――なになにー! 私を呼んだー?」 | ||
狛犬 「狛犬はここッスー! 今日も元気ッスー!」 | ||
天女 「呼びましたかあ? あら、皆さんお揃いですねえ。」 | ||
小烏丸 「そうですね。 初めはご主人様と私達だけで 物怪討伐を行っていました。」 | ||
白兎 「今はたーくさん仲間ができたね!」 | ||
狛犬 「狛犬、毎日楽しいッス! 仲間がいっぱいで嬉しいッスー!」 | ||
天女 「ふふふ。 この庭も、 随分にぎやかになりました。」 | ||
小烏丸 「きっとこれからも、 ご主人様の周りには たくさんの仲間たちが集い――」 | ||
小烏丸 「朗らかな日々が 続いて行くんだと思います。」 | ||
白兎 「そうだねー!」 | ||
こうめ 「たまにはこうして 皆で茶でも飲みながら――」 | ||
こうめ 「初心を振り返るのも良いな!」 | ||
こうめ 「まあ、つまり…… おぬしに改めて礼を言いたいのじゃ!」 | ||
こうめ 「ありがとうの!」 | ||
小烏丸 「私からも、ありがとうございます。」 | ||
白兎 「ご主人様、ありがとうー!」 | ||
狛犬 「ありがとうッスー! 突撃ッスー!」 | ||
天女 「ありがとうございます。」 | ||
こうめ 「これからも、 皆と共に世の浄化に努めるぞ!」 | ||
こうめ 「もちろん、わしも一緒じゃ!」 | ||
これまでの感謝の気持ちを ○○に伝え、そしてこれからも主人と共に 世を住み良いものとしていくことを 誓った式姫達であった。 |
新たな旅路へ(小烏丸の思い出03)
こうめ 「――おお、 ついにここまで来たのじゃな!」 | ||
こうめ 「わし達がであった頃は、 そこら中に物怪が蔓延り――」 | ||
こうめ 「とても人が住めるような 状態ではなかったが……」 | ||
こうめ 「おぬしと式姫達のお陰で、 この一帯は 平和を取り戻すことが出来た。」 | ||
こうめ 「礼を言うぞ!」 | ||
小烏丸 「――私からも、 お礼を言わせてください。」 | ||
小烏丸 「ご主人様。 私たちをここまで導いてくださり、 ありがとうございます。」 | ||
こうめ 「おお、小烏丸もおったのか!」 | ||
小烏丸 「私は常に、 ご主人様のそばに 控えていますので。」 | ||
こうめ 「うむ、そうじゃったな!」 | ||
こうめ 「ほれ、○○。 辺りを見渡してみよ。」 | ||
こうめ 「こんなにも美しい庭を おぬしは作り上げた。」 | ||
こうめ 「ただの庭ではない、 式姫達の笑顔が溢れる この世に二つとないものじゃ!」 | ||
小烏丸 「この場所があるおかげで、 私達は存分に物怪と戦えました。」 | ||
こうめ 「まこと、帰る場所があるのは 幸せなことじゃな!」 | ||
こうめ 「……さて、辺りに跋扈する 物怪を討つという目標は達成した。」 | ||
こうめ 「このままこの庭で 平穏に暮らすのも良いが……」 | ||
こうめ 「わしには一つ、 考えがあってのう。」 | ||
小烏丸 「考え、ですか?」 | ||
こうめ 「うむ。 それは――」 | ||
こうめ 「この庭から……旅立つことじゃ!」 | ||
小烏丸 「旅立つ……?」 | ||
こうめ 「そうじゃ! この地が平和になった今――」 | ||
こうめ 「わしはもっと広い世界を 見てみたくなってのう!」 | ||
こうめ 「最初におぬしと共に この地の討伐に 始めたころのように――」 | ||
こうめ 「他の地も清め、 新たな安寧の場所を造るのも また一興だと思わぬか?」 | ||
小烏丸 「安寧の場所……」 | ||
こうめ 「もちろん、式姫達もおぬしも、 皆一緒に旅に出るのじゃ!」 | ||
狛犬 「――え! 皆で旅!? 楽しそうッスー!」 | ||
狛犬 「早速出発ッスー!」 | ||
天女 「――皆さん勢揃いで、 どうしたんですかあ?」 | ||
白兎 「何して遊んでるのー? わたしも仲間に入れて欲しいなー!」 | ||
小烏丸 「それが……こうめさんが、 皆で新たな旅に出ようと……」 | ||
白兎 「皆で旅行へ行くのー? やったー!」 | ||
天女 「ふふふ、 それは賑やかで素敵ですね。」 | ||
こうめ 「皆も賛同してくれるようじゃな。 ○○、おぬしはどうじゃ?」 | ||
狛犬 「ご主人様も一緒に行くッスー! 絶対楽しいッスー!」 | ||
白兎 「うんうん! また皆で物怪を討伐して――」 | ||
白兎 「ここみたいな、 素敵なところを作ろうよ!」 | ||
天女 「新しい出会いも あるかもしれませんねぇ。」 | ||
小烏丸 「私はご主人様の意思に従います。」 | ||
小烏丸 「どんな場所にいようと、 私は……私達は常に ご主人様と共にあります。」 | ||
狛犬 「そうッスー! ずっと一緒ッスー!」 | ||
こうめ 「返事を もったいぶっておるようじゃが、 おぬしの顔を見ればわかる。」 | ||
こうめ 「何しろ長い付き合いじゃからな!」 | ||
こうめ 「○○も決心したのならば、 旅の準備を整えるのじゃ。」 | ||
白兎 「何を持って行こうかなー!」 | ||
白兎 「そうだ、狛犬がくれた 綺麗な石を持って行こう!」 | ||
狛犬 「狛犬も、宝物の 木の枝を持って行くッスー!」 | ||
天女 「ふふふ、 旅の準備というものは、 心が躍りますね。」 | ||
こうめ 「うむ。 皆が一緒だからこそじゃ!」 | ||
こうめ 「こうしてはおれん。」 | ||
こうめ 「わしも秘伝の梅干しを 持って行かねばならんからな!」 | ||
小烏丸 「ご主人様、どれも思い入れある 思い出の品ですが……」 | ||
小烏丸 「さすがに飛び石は 置いていかれてはいかがでしょう。」 | ||
小烏丸 「私達もこの庭が大好きです。 また戻って来られますよ。」 | ||
小烏丸 「さあ、荷造りをお手伝いいたします。」 | ||
こうめ 「うむ。 新たな旅の始まりじゃ!」 | ||
こうして、この庭で 面白おかしく過ごした思い出を 各々胸に抱き、新たな旅路への一歩を 踏み出したのであった。 |