
※この物語はあくまで2016年のアイカツスターズのマイキャラのお話です。DCDの方とアニメの方の時系列を調整してるので時系列がちょっとずれてます。
(しつこいようですが)マイキャラの設定上対立コンテンツの話が若干入っています。伏字にしますが敏感な方、そしてマイキャラの話が苦手な方は閲覧をお控えください。
またこの物語はアイカツっぽさはあまりありません。そして長いです。すみません……
*この物語の超?簡単なあらすじ(あくまで超簡単に描くので詳しく知りたい方は「「小説1」」、「「小説1-2 前編」」、「「小説1-2 後編」を見てください。(注)長いです)*
四ツ星学園で午前中は事務員として働き、午後は「月の美組」の幹部補助員(半分生徒、半分職員扱い)として幹部の仕事の手伝いをしながらアイドルをしているアラサー一歩手前の
おばさんMixA(ミカ)。はあることがきっかけで遭遇した自分の追っかけファンであり画家(美人画絵師)でもある四ツ星学園、鳥の劇組の弦田 流寧(ツルタ ルネ)と友達になりたいと思い、自分がMC?を務める大人向けアイカツ広報番組「4☆Night」の「天の声」でもありディレクター(兼プロデューサー)の「てんちゃん」に思い切って相談してみたところ、「てんちゃん」から(数少ないMixAのファン向けのカオスな動画)「4☆Night えくすてんでっと!(通称 『えくすて!』)」の番組の企画として「人間関係を形成するための基本」を教えてもらいその翌日、流寧と会う約束をしていたため流寧のアトリエ部屋と化しつつあった四ツ星学園の美術準備室へ向かい「てんちゃん」から教わったことを行いつつ流寧と友達になりたい旨を伝えた。
……が友達というものが何なのか分からなかった流寧は答えを濁してしまう。
その後日曜日に「4☆Night えくすてんでっと!」を見た流寧はMixAが番組の企画で教わった「人間関係を形成するための基本」を自分と会った際に行っていたことを確信しMixAと友達になることを決心したのち電話でMixAに友達になりたいことを伝え、MixAも勿論了承した。こうしてようやく二人は『友達?』になれたのだが……
「『アイカツ★アイランド』に当番組『4☆Night』は……」
町はずれのテレビ局の中にある「かなり小さいスタジオ(普通のスタジオの半分ぐらいの大きさ。ちなみにセットは予算があまりない為白いテーブルと赤いソファ、そしてちょっとシンプルな女子の部屋……
に加工するためのクロマキー用の緑色の布が敷いてあるだけ)」の赤いソファには赤とピンクの中間のような刺激的なカラーのぱっつんツインテール、そして赤とピンクの中間のような目の色がこれまた刺激的な化粧が濃いめのアラサー一歩手前の胸が大きいおばさん…… MixAがピンマイクが付いたアザレアピンクの部屋着に身を包みビビットピンクのスリッパを履いてニコニコしながらも若干緊張した面持ちで座っていた。
そしてMixAの向かい側ではMixAと同世代と思われるお洒落で動きやすそうな白いYシャツとジーンズ、スニーカー姿にミルクティーベージュをシンプルに一つにまとめた髪にインカムを付けた女性……
「てんちゃん」がちょっと大きめのテレビ撮影用のカメラを見ている「かめちゃん(カメラスタッフ)」の隣に地べたで座り、四ツ星学園から届いたのであろう「アイカツ★アイランド」に「4☆Night」が参加できるのかどうかの書類をちょっと真剣な顔で読み上げている。どうやらMixAがMC?を務める大人向けアイカツ広報番組「4☆Night みっくす!」の収録中のようだ。
「参加できません!」
「えっ…… 」
「 ……『大人の事情』です」
「てんちゃん」はバラエティ独特の言い回しで「アイカツ★アイランド」に「4☆Night」が参加できなかったことを伝えた。まさか自分がMC?を務めている番組が「アイカツ★アイランド」に参加できないと思わなかったMixAは若干のショックと驚きのあまりアイドルの武器である笑顔が若干崩れていた。それを見ていた「てんちゃん」はやれやれ…… といった顔をしつつ話し続ける。
「MixAさんには『アイカツ★アイランド』の期間中にやって欲しい仕事があるみたいよ」
「え? 何だろう……」
「MixAさんは四ツ星学園の事務員もやってるんでしょ? そっちの仕事をやって欲しいって事務のお偉いさんからのお願いみたいよ。大イベント中は事務員の仕事いつもより忙しいと思うし」
「はい……」
「こら、アイドルの顔がぽかーんとしてる。ジュース飲んでほら。酸っぱいからシャキッとするよ」
若干笑顔が崩れたままになっているMixAに「四ツ星学園の事務員」として「アイカツ★アイランド」を支えてほしいという事務担当の部長からの要請を伝えた「てんちゃん」はMixAの崩れた笑顔を直すため「今日のおやつ」として用意したシトラス系のフルーツジュースを飲むように指示した。それを聞いたMixAは目の前に置いてあったお洒落な透明のジョッキに注がれた氷たっぷりで爽やかな香りがするクリームイエローのドリンクをすっと飲む。
「酸っぱい…… けど美味しい! つぶつぶの果汁の食感も楽しいです」
「でしょ、有機栽培の柑橘系たっぷりのフルーツジュースだからね。果汁100%だよ」
「これってどこで売ってるんですか?」
「それは『4☆Night』の公式サイトの『今日のおやつ』ってところをクリックしてくださーーい」
「わかりました!」
シトラス系のフルーツジュースの酸っぱさで気分がシャキっとしたMixAはアイドルの顔を取り戻し、簡単な食レポをした。それを見た「てんちゃん」はMixAにフルーツジュースがどこに売っているのか聞かれたので番組の公式サイトを見るように勧めた。いわゆる「公式サイトの宣伝」である。
「『アイカツ★アイランド』の方は私が代わりに取材がてら行ってくるから、MixAさんは事務員のお仕事頑張ってね」
「いいなーー、あたしも行きたかったです」
「お土産買ってくるから我慢しなさい…… ってことで、そろそろ『みっくす!』今週は終了でーーす。来週は『アイカツ★アイランド』でMixAさんを見たかったファンのための『みっくす!』未公開特集、全部『えくすて!』でも使ってない秘蔵映像でお送りするよ」
「お土産楽しみにしてますね! 事務のお仕事頑張らなきゃ……」
「その意気だよMixAさん、良いもの買ってくるから頑張って!」
MixAは「てんちゃん」からのお土産を買ってくるという言葉に釣られたのか、事務員としての仕事を頑張ることにした様子。そして「てんちゃん」はMixAの為にMixAが喜ぶであろう物をお土産で買ってくることにし、小さくガッツポーズをする。
「ってなわけで今週の『4☆Night みっくす!』はこれにて終了! 来週は『アイカツ★アイランド』の取材で大忙しのDの「てんちゃん」と」
「来週は四ツ星学園で事務員のお仕事の『補助員のアイドルおばさん』MixAがお送りしました! お土産なんだろうなーー」
「それは再来週の放送までのお楽しみ。再来週は普通に『みっくす!』あるからね」
「再来週が楽しみだなあ…… あ、放送終了後に動画サイトにUPされる『4☆Night えくすてんでっと!』通称『えくすて!』も見てくださいね」
「最後に視聴者のみなさんに1個だけお知らせ、来週は『4☆Night えくすてんでっと!』はお休みだから注意してね。」
「えっ、そうなんですか?」
「MixAさんは事務員のお仕事でそれどころじゃないでしょ、私たちも取材があるからね…… 再来週は『えくすて!』もあるから、忘れないでよ。てなわけで『えくすて!』も来週の『4☆Night みっくす!』も見てね! てなわけで強制終了、おやすみなさい。学生のみなさんは深夜だから寝ようね、公式サイトからいつでも『えくすて!』見れるし『今日のおやつ』の詳細も見れるからね」
「ああ…… そうでしたね。あ、『アイカツ★アイランド』に参加する四ツ星学園の生徒のみなさんは頑張ってくださいね! みんなおやすみなさい、また来週…… じゃなくて再来週」
MixAはカメラに向かってはにかみながら小さく手を振った。「収録終了」だ。
「はい、オッケーー!『みっくす!』収録終了! 確認おわったらランチにしよ、MixAさん今日は何食べたい?」
「えっと…… 今日は……」
「まだ決めてなかったか…… じゃあカツ丼でいいかな? 私のオススメ」
「カツ丼…… いいですね! そうしましょう」
「てんちゃん」は「みっくす!」の収録が終わったことにホッとしつつも、隣にある収録中にVTRを映していたちょっと大きめの液晶モニタで「かめちゃん」が撮った収録の映像をチェックしながらMixAがランチをどうするか即決できなかったことを良いことに自分のオススメのカツ丼をMixAに勧めた。そしてMixAの方は「アイカツ★アイランド」に自分が参加できなかったことがちょっとショックだったようでランチをどうするか全く考えていなかったのか「てんちゃん」が勧めたカツ丼を食べようかなあと思いつつ「てんちゃん」が見ている液晶モニタを覗きこむ。
「あのカツ丼は出汁が利いてて美味しいから食べたらMixAさんすぐに元気になるよ」
「『てんちゃん』のオススメのカツ丼、楽しみだなぁ……」
「で、MixAさんの友達になりたい子は四ツ星学園の学生さんなの? 先週聴き忘れてたからさ。あとお友達にはなれた?」
「学生さんです! あ、その件なんですが…… お友達になれました! いろいろ教えてくれてありがとうございます」
「おめでとう! その子のことわがままとかで困らせちゃだめだよ」
「えへへ…… 頑張ります」
「ところで…… そのお友達は『アイカツ★アイランド』参加するの?」
「あ、仕事で出られないって言ってました!」
「へ??」
MixAが元気を取戻しつつあったことを確認した「てんちゃん」は「MixAさんが友達になりたい子」…… 流寧と友達になれたのか、そしてその子は四つ星学園の生徒なのかということを聞くとMixAは嬉しそうに流寧と友達になれたことを報告し、ぺこりと頭を下げた。「MixAさんが友達になりたい子」が四ツ星学園の学生だったことを知った「てんちゃん」はその子は「アイカツ★アイランド」に出るのか質問したところMixAから「仕事で出られない」という想像していた回答とは斜め上の回答が来たからか液晶モニタの画像を確認しつつも思わずは? と言いそうな顔であんぐりとしていた。
「てんちゃん」のぽかーんとした顔を見たMixAは、流寧が他の仕事で出られないということを確認するためにスタジオの端の方に置いていた「ドーリーデビル」の玩具のチャームにリボン等を付け派手に加工したバックチャームが付いた学生鞄からおもむろに左利き用のビビッドピンクの手帳型スマホケースを付けたピンク色のスマホを出すと左手でいじる。
「嘘じゃないですよ。『アイカツ★アイランド』の日はお仕事で出られないってありますし」
「ちょっと待ってよ、MixAさんのお友達はアイドル以外の仕事もしてるってこと?」
「あっ……」
MixAのスマートフォンにはSMSで流寧とやりとりした形跡が映っており、その中には確かに【『アイカツ★アイランド』ですか…… その期間中はずっと絵の仕事が入っておりまして、参加することができないんです】と確かに表示されていた。それを見ながらMixAは嘘じゃないもん♪の感じで「てんちゃん」に流寧が絵の仕事…… 美人画絵師としての仕事の為
「アイカツ★アイランド」に参加出来ないことを伝える。それを聞いた「てんちゃん」は若干驚きつつMixAの友達がただの四ツ星学園の学生ではなく、なにか副業ないし兼業をしているのではないかと尋ねられたMixAはひょっとしたらあまり言ってはいけないことだったのではないかと社会人時代にあった守秘義務のことを思い出しあっ…… とやってしまったのではないかといったような顔をしている。
「『アイカツ★アイランド』より大事な仕事ってどんな仕事なのかは気になるけど…… どんな仕事してるかは聞かないから」
「ありがとうございます」
「さてと、あそこのカツ丼屋さんは早めに出前頼まないといけないから…… 『アシちゃん(ADさん)』、カツ丼セット5人前頼んでくれる?」
「分かりました。カツ丼セット5人前、『てんちゃん』行きつけのあそこですね」
「そうそう、よろしくね」
MixAのやってしまった顔を見た「てんちゃん」は、これ以上聞くとMixAが焦ってしまうのではないかと思いMixAの友達が誰なのかを問い詰めることをやめた。そして行きつけのカツ丼屋に出前を頼むように「アシちゃん」にお願いする。「てんちゃん」が流寧のことを深く聞かなかったことが不思議に思いつつもMixAはちょっぴりほっとしていた。
「さてと…… 『アイカツ★アイランド』のお土産は何がいいかな……」
「てんちゃん」はMixAのほっとした顔を確認すると液晶モニタを見ながら液晶モニタの下に置いていた「ネタ帳」に何かを書き始める。その顔は仕事とはいえ共に働く存在の為のお土産をどうするかというわくわくした表情…… ではなく今後の番組の企画を閃いたのだろうかちょっぴり真剣そうな「職人」の顔をしていた。
★その夜……★
「『アイカツ★アイランド』楽しみだね」
「S4のステージ、見に行けるといいなーー」
梅雨明けしたばかりで少し暑いがきらきらとした星々が瞬いている夜空が美しい四ツ星学園の中庭で学園指定の半袖短パンの二人組が楽しそうに会話しながら仲よく夜の走り込みを行っている。
初々しさが残る風貌からするにどうやらピンク好きで化粧が濃いアラサー一歩手前の若干痛々しいおばさんでもなければ宝石のような目が美しい美人画のような凛とした男?でもない様子。
いわゆる「モブキャラ」である。
「あ、でもちゃんとアイカツもしなくっちゃ」
「そうだねーー」
二人は走りながら楽しそうにおしゃべりをしているうちにいつの間にか舗装された道を外れ、学園内の暗い森の中に入ってしまった。きらきらとした星々の輝きを消してしまいそうな森の中に入ってしまったモブキャラ達の先ほどまでの楽しそうな雰囲気も暗い森が消してしまったらしくモブキャラ達は先ほどまでの楽しそうな表情から明らかに顔が曇っていた。
「ねぇ、どうしよう…… 道に迷っちゃったよ?」
「だ、大丈夫だって。 き、きっと元の道に戻れるよ」
「そ、そうだね……」
タ…… スケテ…… タスケテェ……
「えっ!? 誰」
暗い森の中でモブキャラ二人は先ほどまで走っていた舗装された道に戻れるか焦りを感じ、声が若干震えるほど不安になっている。するとどこからともなくか細い女の声で助けを求める声が聞こえてきた。
ガサガサガサ…… ガサガサガサ……
「ええ、なになになに」
「こ、これって幽霊とかじゃないよね」
「そ、そんなこと言わないでよ。そんなのいる訳ないじゃん」
ガサガサガサ……
タスケテ…… タスケテ……
「ね、ねぇ…… やっぱり幽霊じゃない? ほら、なんかいるよ?」
「えっ……」
ガサガサガサ……
モブキャラ二人は自信の焦りと暗い森の中にいることの恐怖心からか、そして足音が聞こえず忍び寄るようにガサガサと草の音が聞こえてくるからかか細い女の声の主は幽霊ではないかと怯えているとモブキャラの一人が白い服を身にまとった長い黒髪の人物を森の中に見つけ指を指した。それを見たもう一人のモブキャラは一気にひやりとして顔が青くなっていた。
「ねぇ、逃げようよ」
「そ、そうだね。逃げよっか」
青い顔になってしまったモブキャラ一人を見たもう片方のモブキャラは、じわじわと近づいてきた白い服を身にまとった長い黒髪の女を見てこのままでは幽霊に何をされるか分からな
いので急いで逃げるよう促していると……
タ…… ス……ケ…… テ
「いやああああああああああああああああああああああああああああああああああああ」
いつのまにかモブキャラ二人の目の前に白い服を身にまとった長い黒髪の女が生気のなくなった立ち姿で現れた。モブキャラ二人は突然目の前に現れた幽霊を見てすぐに逃げ出したいほどの恐怖心を感じたのか泣きそうな表情で叫びながら無意識のうちに二人は同じ方向に走り出し一目散に逃げ出した。
タスケ…… テ クレナ…… イ
一目散に元来た道に逃げ出して行ったモブキャラ二人が見えなくなるまで見ていた幽霊?は小さく淡々と呟くとすうっと再び森の中に戻っていった。足音が聞こえないように器用に歩いていく様はまるで幽霊のように見えるその姿をよーーく注意深く見ていると汚れひとつない真っ白でシルクのような光沢が綺麗な長袖の長いワンピースに青白い肌…… に見えるように肌を青白い布で覆い白い地下足袋を履いているつややかな長い黒髪の人間だ。顔は長い黒髪に覆われてあまり見えない。ただ顔が青白いことは把握できるがその顔はまるで仮面のように表情が凍っている。長い黒髪の人間は足音と気配を消しながら早足で歩いていった後デフォルトのキーホルダーがすべて外された代わりに明らかに高そうなメンズ物のシルバーの特殊な形のクロスのチャームと黒革のストラップがついたバックチャームが1つだけついている四ツ星学園の学生鞄が根本に置いてある周りの木々よりも一際幹が大きい一本の木にたどり着くと長い黒髪の人間は木の幹にすっともたれかかったのちに学生鞄を自分の後ろに隠すと体を縮めるように体育座りをして自分の体も森の中に隠した。
(『ニンゲン』ノキョウフニオノノイタカオ…… ウレシイ……)
ククク…… クククク……
森の中から僅かにくぐもった小さな声で若干怖い笑い声が聞こえている。どうやら長い黒髪の人間は「人間」が怖がってくれたことが嬉しかった喜びで体を縮めながらも笑っている様子。
その後森の中から暫く小さくだが若干怖い笑い声が聞こえていたが10分もすると笑い声がスッと聞こえなくなっていた。すると急に長い黒髪の人間は立ち上がるとおもむろに自分の後ろに隠していた四ツ星学園の学生鞄からアイカツ!モバイルではない高そうな黒革の手帳型ケースを付けた「黒いスマートフォン」を取り出すと、首をカクッとしたような姿勢を取ると右手にスマートフォンを持ち右腕をスッと伸ばした。
するとほどなくしてわずかな閃光とともに「パシャ」と言う音が聞こえた。自らのおどろおどろしい姿を「自撮り」しているようだ。
(今度こそ、「みかさん」の恐怖に慄いた顔を……)
長い黒髪の人間は「自撮り」を終えるとしゃがみ「黒いスマホ」を四ツ星学園の学生鞄にしまうとまた立ち上がり自分の顔を片手で触ったあともう片方の手で自分の髪の毛を触り、何かをしていた。そして髪の毛を触り終え片手をすっと下ろすともう片手も同じように手を下ろしたのだが、その手には青白い顔が納められていた。
青白い顔のお面を外した長い長髪の人間はまたしゃがみ青白い顔のお面を四ツ星学園の学生鞄の中に入れていた黒い袋に入れると、しゃがんだまま袋の中に手をいれたままごそごそと何かをしていた。
キュッキュッという音が僅かにするのを見たところ長い黒髪の人間は夜とはいえ梅雨明けの少し暑い中で体を青白い布と長袖の長いワンピース、そして顔を仮面で覆い気配を隠すための動作で体力を使ってしまったためか顔に汗をかいてしまったので仮面をタオルのようなもので拭いているのだろう。
仮面をタオルのようなもので拭いたのちに長髪の人間は四ツ星学園の学生鞄をごそごそをまさぐり鞄の中から高そうな黒いタオルを出すとタオルを自分の長髪の隙間に入れた。どうやら長髪の人間は自分の顔についた汗を拭いているようだ。
ふぅ……
自分の汗を拭いた黒いタオルを四ツ星学園の学生鞄にさっとしまい自分の髪をすっとかき分けた黒髪の人間の髪の中からブラックオパールを思わせる宝石のような目が美しい美人画のような凛とした男……?
いや女の顔が出てきた。女は四ツ星学園の学生鞄の中をごそごそとした後高そうな黒い漆塗りの折り畳みミラーと小さな黒いコームを取り出すと鏡を左手に持ち右手にコームを持つと鏡を見ながら先ほどまで自分の髪を覆っていた髪を念入りにヘアセットしている様子。
(『人間』を怖がらせることは面白い…… 『化け物』はやはり良いものだな…… )
自分の顔を覆っていた髪を黒いコームで左寄りの分け目のワンレングス(ナチュラルカールロング)に直していた女の名は弦田 流寧(ツルタ ルネ)。人間を怖がらせることができた喜びからか狂気じみた笑顔を浮かべているがこれでも四ツ星学園の中学一年生で鳥の劇組に所属している。左寄りの分け目のワンレングスに仕上がったことを確認した流寧は黒い折り畳みミラーと黒いコームを学生鞄にしまうと今度はヘアスプレーを取り出す。すると自分の髪を左手でサッと持ち上げながら右手でヘアスプレーを自分の髪に音をあまり立てすぎないように静かにかけた。そしてスプレーを自分の髪に全体的にかけた後流寧は学生鞄をまたまさぐり折り畳みミラーと黒いコームと取り出し自分の髪をとかすと、とても綺麗なワンレングス(ナチュラルカールロング)が出来上がっていた。
自分の髪を綺麗に直した流寧は学生鞄に真っ黒なヘアセット道具をしまった後すぐに「化け物の装い」を脱ぎだしていた。真っ白なワンピースをさっと脱いでは綺麗にたたんで学生鞄の中の黒い袋にしまうと、次は「化け物」の全身を覆っていた青白い布を暑さと「化け物」でいるための動作の代償による汗と格闘しながら脱衣すると丁寧に青白い布のしわを伸ばしていた。
青白い布…… もとい青白い色をした全身タイツにはべったりとまではいかないがまんべんなく汗染みが付いていた。黒いタンクトップと一分丈の黒いスパッツ、白い地下足袋姿になった流寧は汗染みがついた青白い全身タイツを両手で広げながら少しうつむいてため息をついた。「人間」が「化け物」に扮する都合上汗を掻いてしまうことは仕方がないのだがより恐ろしい「化け物」になり人間を怖がらせたいという四ツ星学園の生徒らしからぬ隠れた願望を持っていた流寧はいくら恐ろしい「化け物」を演じていても汗で「人間」だという事がばれてしまうのではないかという不安から「化け物」の姿で汗をかくことが嫌になっていた。
(やはり汗をかいてしまうか…… 仕方がないことは分かってはいるのだが、悔しいものだな)
流寧は悔しそうな顔をしながら青白い全身タイツを丁寧にたたむと学生鞄の中の黒い袋にしまった。その後流寧は学園指定の運動用の半袖と短パンを取り出し着用すると、地下足袋を脱ぎこれまた学生鞄から学園指定の運動用靴下とスニーカーを取り出し履いた後学生鞄の中から「黒いスマホ」を取り出した流寧は左手で手帳型ケースを開けると右手にスマホを持った。
春フェス参戦時のMixAの画像が映っていたロック画面を右手でささっと解除していた流寧は狂気交じりの笑顔を浮かべながらMixAのプリ○ラ時代のライブのキャプチャ画像が映っているホーム画面の中にあるメールのマークを押していた。どうやらさきほど撮影していた「化け物の自撮り」をMixAにメールで送ろうとしている様子。
(さぁ、恐怖に慄いてください…… クククク……)
狂気交じりの笑顔でMixA宛てに「化け物の自撮り」だけを送信した流寧は、おもむろに「黒いスマホ」を学生鞄にしまいファスナーを閉め学生鞄の持ち手を右手で持つと涼しい顔で暗い森の中へ淡々と歩いて行った。
「さっぱりとしたバニラの香り」の残り香がほのかに香る四ツ星学園の自分の寮室に戻った流寧は二つ並んでいる机の付箋が沢山付けられたホラー関係の本や沢山使用した形跡のある勉強の為の参考書、使い古した難しそうな美術関連の教本がずらりと綺麗に整理され並んである方の机に学生鞄を置くと少し暑い中仮面で顔を覆い全身タイツ、長袖のワンピースを着用するといったいかにも暑そうな装いで「化け物」を演じた体力面の代償が現れたのかまるで操り人形の糸がぷつんと切れてしまったかのように本だらけの机の椅子にへたりこむと本だらけの机の上に突っ伏してしまった。
(この程度で疲れてしまうとは、「俺」もまだまだだな…… )
ブーッ ブーッ ブーッ
(返信……)
「完全な素」が出そうになるほど疲れたのか、数分ほど机の上に突っ伏していた流寧は学生鞄の中から聞こえたバイブレーションに起こされはっとした。学生鞄の中から「黒いスマホ」を取り出し手帳型ケースを開け電源ボタンを押すと「メール受信 MixAさん」と表示されていたロック画面を見た流寧はMixAから思いのほか早くメールが来て嬉しいのか少し顔を赤らめながらとても嬉しそうな顔をしていた。
(どんな反応をしているのだろう、恐怖に慄いていれば良いのだが……)
ロック画面を右手でさっと解除したのちホーム画面の中にあるメールのマークを押しMixAから届いたメールを読んでいた流寧の顔は嬉しさとともに落胆の表情を浮かべていた。それもそのはず……
『流寧ちゃんこんばんは☆ 今日は白い化け物ちゃんになったんだね! やっぱりすごいよ(・ω・) 顔とか腕とか白いのもそれっぽいもん』
メールの文面を見る限り、MixAは全く怖がっておらずそれどころか「化け物」を褒めちぎっておりどうやらMixA的には仮面や全身タイツで白くした顔や腕が気になった様子だ。さらに先日「顔のない妖怪(小説1参照)」に描いた顔(・ω・)が気に入ったのか、目の部分にまつげはないのだがしれっと顔文字として使用している。「化け物」からメールが来たのが嬉しかったのがメールの一文からひしひしと伝わってくるのだが、それを読んでいた流寧はMixAからメールが来た喜びと「化け物」を褒められた喜びと同時に「化け物」として一度も同じ人間を怖がらせることが出来ないことへの悔しさが同時に押し寄せていたため、複雑な表情を浮かべている。
(メールも「化け物」を褒めてもらえたこともとても嬉しい。 この顔文字も「化け物」を気に入ってくれているから作って送ってくれたのだろう。ただ「化け物」としては一度も怖がってもらえないのがとても悔しい、少しも恐怖に慄いてもらえないとは…… )
流寧は複雑な表情を浮かべながらもMixAにメールを返信すべく、スマホの液晶画面を操作していた。MixAのメールの文章を見るに本心でメールを送信したのだろうと推測した流寧は自分も率直な気持ちを返信することにした。
『みかさんこんばんは。 化け物をお褒めいただきありがとうございます。ですが、化け物は人間を怖がらせる存在なので怖がって頂けるとより嬉しいのですが……』
『ごめんよ、化け物ちゃんの写真があったから嬉しくて…… あ、お風呂止めてくるね!』というMixAからの返信を数分後に受けとった流寧はスマホの時計表示に目をやると寮のお風呂の終了時間が迫っていることに気づいた。「化け物」を演じた代償である汗を洗い流したかった流寧は『次は怖がって頂きますよ。ではアタシも入浴を忘れていたのでお風呂場に行ってきます』とだけ返信すると急いで寮の風呂場に向かう準備をした。こうして「アイカツ★アイランド」は二人があまり関わることがないまま開催された。
★世間では「アイカツ★アイランド」開催中の真っただ中……★
「一年待った甲斐がありましたわ。娘の自画像を流寧さんに描いていただけるだなんて」
「いえ…… 一年も待たせてしまい申し訳ございません。」
「いいのよ。流寧さんは中学生なんだから、この子も中学生ですもの。ただでさえ学業で忙しいのに依頼を受けて下さるだなんて」
「私もずっとこの機会を待っていたから嬉しいわ。流寧さんにお目にかかれる機会なんてそうそうありませんもの。それにしても…… 話には聞いていたけど、本当に男前なのね。絵も色気があって素敵」
「ちょっと、流寧さんは女の子よ」
「あら…… そうだったの? 知らなかったわ」
「ごめんなさいね。この子流寧さんを男の子だと思っていたみたい」
「お気になさらないで下さい。流寧さまのことですから今頃心の中で泣いて喜んでおられるかもしれませんね…… ふふふ……」
「それにしても…… 本当に夢中になって絵を描かれるのね。昨日ここに来てからずっとあのままよ、ご飯も食べていないのに……」
まばゆい夏の日差しが照りつける昼下がり、海が見える丘に位置するアイドル達のお祭り騒ぎとは縁が無さそうな高級住宅地の中の一際大きいお城と見紛う豪邸の中にあるエアコンが絶妙に涼しく効いている高級感あふれる広間にいかにも高そうで、それでいて着慣れている感じが出ている薄いピンクのワンピースを身にまとい手触りがよさそうなふわふわとした白いスリッパを履いた中学生ぐらいの茶髪で片三つ編みが上品な女性がまるで金持ちが会食する際に座るような椅子に座り、少しうっとりとした顔をして何かをじっと見ている。
その先には中学生ぐらいの女性の視点からは誰が絵を描いているのか見えそうで見えないぐらいの大きなキャンバスがありその裏ではどことなく雑に置かれたアクリル絵の具とパッと見て何色か分からなくなった水が入っている水入れバケツが小さいテーブルに置いてあり、その隣で上質な生地で体のサイズにぴったりとあつらえてある黒いパンツスーツを身にまとい、第一ボタンを外しネクタイを付けない代わりに高そうなシルバーの下が尖っているクロスのネックレスを付けた艶のある黒く長いワンレングスにブラックオパールのような目をした男…… ではなく流寧が簡素でありながら高そうな椅子に座りつつ右手に筆、左手にカラフルなパレットを持ち涼しい顔で女の顔を描いていた。
その女の顔は向かいにいる中学生ぐらいの女性を描いているのだろうがその顔はあどけなさを残しながらも女の色気が上品に漂っていた。絵の方は女の絵がある程度出来上がっており背景を塗りこんでいる姿を見る限り、どうやら完成間近の様子である。
さらにその後方ではいずれもお揃いの髪型にワンピースとスリッパを付けた上品な女性の母親と思われる女性が、小奇麗な黒のスカートスーツ姿に手入れが行き届いているのであろうつやつやの黒髪を後ろで綺麗な一つのお団子にまとめた年齢不詳…… 分かりやすく言うと美魔女のような女性と立ち話をしていた。
「流寧さまは絵を描くことには目がありませんから…… わたくしも流寧さまの様子を昨日からずっと見ておりますが、体調の変化はございません。敢えて言うなら、食事に手を付けないことだけが心配ですがこれだけはわたくしにもどうにもなりません…… 」
「絵を仕上げる度にたまに体調が危うくなると話には聞いていたけど大丈夫かしら…… そういえば流寧さん、アイドルの学校に通ってらっしゃるって聞きましたわ。 絵の仕事はどうなされますの?」
「絵の仕事を続けながらアイドルの仕事をやってみたいということでして…… 絵の仕事は辞めませんよ」
「流寧さんアイドルになられますの? 」
「左様でございます」
「まぁ! 男前で絵も描けるアイドルだなんて、きっと人気が出ますわ。お母様、わたくし流寧さんを応援したいわ。流寧さんは何かに出てらっしゃるの?」
「そ、それは……」
「……出てない」
女性の母親と黒髪の美魔女が流寧のアイドル活動と絵の仕事…… 美人画絵師としての仕事を掛け持つのかで盛り上がっているところに流寧のファンになりつつあった片三つ編みの女性が流寧はテレビや雑誌等の周りに見えるアイドル活動をしているのかという事を少しうきうきしながらも二人の会話に割り込む形で聴かれた黒髪の美魔女がまさか流寧はまだテレビや雑誌はおろか目立った仕事が絵の仕事しかなかったためどう答えたらいいのか分からず言葉に詰まっていると、大きなキャンバスの方から少し擦れてはいるが男性のような低めの声がぼそっとではあるが聴こえてきた。
「流寧さま…… 絵が出来上がったんですか!?」
「うん」
「お疲れ様です。こちら…… スポーツドリンクでございます」
「ありがとう。『あべちゃん』」
流寧はかなりの時間ずっとほぼ同じ体勢で椅子に座り夢中になって絵を描いていたからか食事どころか水も摂っておらず、声が擦れてしまっていた。小さいテーブルの上にある水入れバケツ
に筆を突っ込んだあとカラフルなパレットをアクリル絵の具の上に置いた流寧は立ち上がることができなかったのか、椅子の上でうずくまっていると黒髪の美魔女…… 「あべちゃん」が近くで冷やしていたのだろう、青いラベルが付いているペットボトルを持って流寧のもとへ駆け寄りそっと差し出した。
「あべちゃん」からスポーツドリンクを受け取った流寧はよほど喉が渇いていたのかすぐスポーツドリンクを開封し座ったまま一気に飲み干すとふらつきながら立ちあがり、よろめくような足取りで何処かに歩き出した。
「流寧さま、大丈夫ですか…… 」
「申し訳ありません、今はどの媒体にも出演していないんです」
「そうでしたの…… 」
「アイドルのお仕事ができる学校に通っている美人画絵師に過ぎませんから……」
「か、構いませんのよ…… 画家の仕事も応援していますわ」
心配そうに見ている「あべちゃん」を尻目に片三つ編みの女性のもとへふらつきながらも向かった流寧は片三つ編みの女性の目の前に跪くと、申し訳なさそうにテレビや雑誌等の周りに見えるアイドル活動をしていない旨を伝えた後、上品にはにかみながら自分の今の境遇を伝えた。その姿はまるで王子様を彷彿させるほど上品な男性に見えたらしく、片三つ編みの女性はうっとりとしていた…… のだが
バタッ
「流寧さま!?」
「大丈夫…… 」
画家の仕事も応援しているという言葉が片三つ編みの女性の口から出てきた途端に演技をする体力すら切れかけてしまったのか流寧は跪いた体勢からさらに横に倒れてしまった。
それを見ていた「あべちゃん」は急いで流寧のもとへ駆け寄り不安げに顔を覗き込んでいると流寧は「あべちゃん」や自分の絵の依頼人達を心配させたくなかったのか少しふらつきながらもむっくりと起きあがった。
「だ、大丈夫ですの!?」
「はい。ご心配をおかけしてしまい申し訳ありませんでした。」
「流寧さま、 片付け等はわたくしが行いますから少しお休みになられた方が……」
「すまない…… では車に戻ろうか」
「かしこまりました」
「この度はご依頼ありがとうございました」
「またのご依頼をお待ちしております。さぁ、こちらへ……」
自分の目の前で応援している美人画絵師が倒れてしまったことに少し動揺していた片三つ編みの女性に向け心配をかけさせてしまったことを頭を下げ詫びた流寧は、「あべちゃん」からの画材の片付け等は自分にまかせて流寧はどこかで休むという提案を豪邸まで乗っていった流寧用の黒塗りのリムジンで休むということで手を打った流寧は片三つ編みの女性と女性の母親に向け自分に絵の依頼をくれたことのお礼を伝え、頭を下げると「あべちゃん」も同じく頭を下げた後流寧を黒塗りのリムジンが停まっている豪邸の玄関まで誘導する。
「あべちゃん」の誘導についていく流寧の方がまだおぼつかない足取りなのを心配した片三つ編みの女性は急いで流寧のそばまで向かい流寧を呼び止めた。
「ま、待ってください! わたくしの家に泊まっていくのはどうかしら?」
「そうですわ。うちの客間で休んでからお帰りになるといいわ」
「いえ、そういうわけには…… 流寧さま、どうなさいますか?」
片三つ編みの女性が不安そうな顔で流寧を呼び止めた理由をすぐに察したのか、母親もすぐに自分の家の客間で休むことを提案した。それを聞いた「あべちゃん」は豪邸側の好意と流寧の欲求のどちらを優先すればいいかよいか分からなかったので流寧にどうするか質問すると……
「ご厚意、ありがとうございます。」
「と、泊まっていってくださりますの!?」
「泊まっていきたいところなのですが、今回はなるべく早く四ツ星学園に戻りたいとおもっておりまして……」
「どうしてですの、無理はいけませんわ」
「それは……」
バタッ
「流寧さま!」
「流寧さんを客間へお連れして! 早く!」
片三つ編みの女性になるべく早く四ツ星学園に戻って少しでもトレーニングをしたいことを流寧は伝えたかったのだが、体力が完全になくなってしまった流寧は糸が切れた操り人形のように崩れ落ちるように倒れこんでしまった。どんどん意識が遠のいていく流寧の耳には「あべちゃん」の心配そうな声や片三つ編みの女性が自分の体を客間へ連れて行くように使用人に命令する声が聞こえるのだが、体が言うことを聞いてくれなかった流寧はそのまま意識を失ってしまった。
……数時間後
「うっ…… ここは……」
食事も水分も一切摂らずに夢中になって絵を描いていたことで倒れてしまってから数時間、ようやく目を覚ました流寧は広々とした和室の中の高級感あふれる和式布団にスーツ姿で横たわっていた。和室には高そうな掛け軸や壺が上品に飾られており、上品なイグサの匂い…… 畳の香りがほのかに匂う。そして流寧が横たわっている布団のそばで流寧が目覚めるまでそばにいたのだろう、「あべちゃん」が黒のスカートスーツ姿で座布団の上に正座をしつつ心配そうな顔で流寧を見ていた。
「流寧さま…… お目覚めになられたのですね、ここは依頼者様邸の客間でございます。あのあと流寧さまをここで休ませるようにと依頼者様からご命令がありまして、ここに……」
「そうか…… すまない、あべちゃん…… また倒れてしまって……」
「心配したのですよ、依頼者の方々も、わたくしも……」
「本当にすまない…… 依頼者にもあとで謝りに行かなくてはな」
ぐうう……
流寧がようやく目覚めたことがよほどほっとしたのか、肩の荷が下りたような表情を浮かべた「あべちゃん」は、まだ少し眠そうな顔で横になっていた流寧に依頼者…… 「片三つ編みの女性」の命令で流寧が客間にいることを説明すると流寧は絵の依頼を受けるたびにまた飲食や睡眠を忘れて夢中になって絵を描いたことによって倒れてしまったことを詫び片三つ編みの女性にも
詫びなくてはならないと思ったその瞬間、主人が自分専用の使用人に対して申し訳なさそうにしていた鬱々しい雰囲気をぶち壊すかのごとく何者かのおなかの音が鳴った。布団の中から聞こえていることからどうやら主人…… 流寧の腹部から聞こえてきた様子。自分のお腹が鳴っていることに気付いた流寧は少し恥ずかしそうに布団で顔を隠そうとしていた一部始終を見ていた使用人…… 「あべちゃん」は思わず笑ってしまったのか、口を軽く押さえながら優しく微笑んでいた。
「ふふふ…… お食事の方お持ちしますか? 今、依頼者様のご命令で流寧さま専用のお粥を作っておられるそうなのですが……」
「お粥か…… 少しいただこうかな」
「かしこまりました。 依頼者様のご命令で本日はこちらに泊まるようにということでしたので、本日はこちらでお休みください。」
「学園には戻れないのだな…… 」
「アイドルとしてのお仕事を勝ち取るためのトレーニングも大事ですが、頑張りすぎてしまった時は休息を取ることも大事なのですよ。流寧さまは小さいころから頑張りすぎてしまうところがありますから旦那様と奥様は勿論、わたくしもいつもひやひやしております。 それに、無理をして四ツ星学園に戻ってそこでまた倒れてしまったらどうなさるのですか? そういえば『姫様』は今学園でイベント関連の事務作業中だと流寧さまが昨日おっしゃっていたような気がしたのですが……」
「……今日はここで休むことにする」
数時間ほど意識を失ったかのように眠っていた流寧の空腹を知った「あべちゃん」は「片三つ編みの女性」が流寧が眠りから覚めた際に食べてほしいという思いで使用人に作る様に命じていたお粥を調理場から持ってくるかどうか聞くと流寧は少し辛そうな顔で布団からやおら起きあがりお粥を少しだけ食べたいことをあべちゃんに伝えた。それを聞いた「あべちゃん」はお粥を調理場から持ってくる前に今日は「片三つ編みの女性」の命令で客間に泊まることになったことを告げたのだが、それを聞いた流寧は今日中に四ツ星学園に戻ってトレーニングをすることを諦めなくてはならなかったことから沈んだ表情だ。
それを見た「あべちゃん」は自分が使用人として小さいころから流寧に仕えていて思ったことや流寧の両親が心配しているということを交えながら流寧にしっかりと休息を取るように説得していた。「あべちゃん」の説得を納得いかないような表情で聞いていた流寧にダメ押しで無理をして四ツ星学園に戻った際に倒れてしまった場合に流寧が「姫」のごとく大事にしている存在を悲しませたり、迷惑をかけてしまうのではないかと遠まわしながら少しわざとらしく考え事をしているような顔をした「あべちゃん」から言われ、「姫」の悲しそうな表情を想像して顔を曇らせていた流寧は泣く泣く客間に泊まることを決断した。一連のやりとりがまるで母親と子どもの関係のように見えなくもないのだが、あくまで主人と使用人の会話である。
「では、お粥の方お持ちいたしますので少々お待ちくださいね。」
「ありがとう…… お粥が来るまでもう少し横になっているよ」
「かしこまりました。 では失礼いたします」
流寧が顔を曇らせながらも客間で休息をとることを決断したのを少しほっとしながら聞いた「あべちゃん」は調理場に行きお粥を用意することを伝え流寧もお粥が来るまで少しだけ布団に入り眠ることを伝えると「あべちゃん」は微笑を浮かべながらすぅっと立ち上がり静かに調理場へ向かう。「あべちゃん」が流寧に向かい頭を下げた後和室のふすまを静かに閉め客間から出たのを見た流寧はスーツ姿のまま再び布団に入り、仰向けになり目を閉じた表情は少し悔しそうに見えた。
(また倒れてしまうとは…… 情けない、こんな「俺」の姿、「姫」には見せられないな…… )
☆その頃、四ツ星学園の職員室では……☆
「クシュン!」
省エネに設定してあるのだろう冷房がほどよく効いている夏の夕方の日差しがまぶしい四ツ星学園の職員室は「アイカツ★アイランド」を見た視聴者の出演しているアイドルについての情報のお問合せや企業からの仕事のオファーについてのお問合せの電話の着信音がけたたましく響いていた。MixAはいつもの若干濃い化粧とピンクのきらきらした金属フレームに度がきつめのレンズが入っているメガネ、そして腕をまくって七分丈のようにした仕事用の白いシャツに黒いタイトスカートとストッキング、黒いシンプルなハイヒールに身を包み四ツ星学園の職員室で事務作業に打ち込んでいた。数分前まで電話応対をしていたMixAは朝からかなりの頻度で電話応対をしていたため少し疲れたのか、事務員用の椅子に座り自分のデスクに置いていた薄ピンクの薔薇柄のマグカップに注いでいた真っ赤なぬるめのハーブティー(ローズ系のブレンド)を美味しそうに飲んだあと、ふぅ…… と一息ついた瞬間急に鼻がむずむずしてしまったためMixAは急いで両手でさっと口を押え、小さくくしゃみをした。
「みかさん、大丈夫ですか?」
「大丈夫です…… すみません、急に鼻がむずむずしちゃって」
「ここ数日朝から電話すごいですからねぇ…… 明日までの辛抱ですよ」
「そういえば『アイカツ★アイランド』明日まででしたね……」
「そうですよ、もうちょっとですから頑張りましょう!」
「はいっ」
数日間事務員としてせわしなく電話応対やオファー関連の書類作りを行っていた疲れがそれとなく体に来たのか、それとも誰かがMixAの噂をしていたのだろうか、はたまたその両方の所為でしてしまったくしゃみの音に気付いた隣の席の事務員のお姉さんに話しかけられたMixAは、すこしばつが悪そうにしながら事務員のお姉さんに急に鼻がむずむずしてしまったことを伝えると事務員のお姉さんは事務のお仕事が忙しいのは明日までだということを告げた。そういえば「アイカツ★アイランド」が明日までなんだっけか…… と思いだしたMixAは、そのことをつぶやくと事務員のお姉さんも重ねてMixAを励ました。事務員のお姉さんから応援されたMixAは小さくガッツポーズをしながら返事をすると自分のデスクに再び向かい合いまた事務作業を始める。
(「アイカツ★アイランド」参加したかったけど…… 事務のお仕事も大事だもん、そういえば流寧ちゃんも今お仕事してるんだよね…… 頑張ろうっと)
アイドルとしてのお仕事と事務員としてのお仕事、どちらもMixAにとっては大事なお仕事だということを改めて再確認したMixAは同じように今アイドルのお仕事ではなく美人画絵師として仕事をしている流寧もきっと頑張っているのだと想いひたむきな表情で自分のデスクトップPCのキーボードをたたき始めた。

☆「アイカツ★アイランド」終了から数日後……★
(どれどれ…… 「アイカツ★アイランド」の不参加者名名簿はどこだ……)
まばゆい夏の日差しが照りつける夏の昼前にお洒落で動きやすそうな白いYシャツとジーンズ、スニーカー姿にミルクティーベージュをシンプルに一つにまとめた髪をしたMixAと同世代と思われる女性…… 「てんちゃん」がなぜか四ツ星学園の資料室で沢山の資料が収納されている本棚と神妙な顔でにらめっこをしていた。
(学園長から資料閲覧許可と資料の内容の使用許可をもらえたとはいえ、次の「4☆Night」の収録まであんまり時間ないからさっさと資料さがして「MixAさんのお友達」が誰なのか調べないと……)
「MixAの友達」が仕事で「アイカツ★アイランド」に出られなかったということならば「アイカツ★アイランド」関連の資料の中にあるであろう参加出来なかった学生の名簿を見ればMixAに聞かずとも「MixAの友達」が誰なのか分かるかもしれないと踏んだのか一人で製作の大半を担っている番組「4☆Night」の製作の時間の合間を縫って四ツ星学園に来ていた「てんちゃん」は真剣そうな表情で「アイカツ★アイランド」の資料を探していた。
(MixAさんの友達に頼みたいことがあるんだけどMixAさんには秘密にしたいから早く資料見つけなきゃいけないのに、どこだーー
……あった)
MixAに黙って「MixAの友達」を見つけ出し「MixAの友達」になにか仕事を頼もうとしていたのだが「アイカツ★アイランド」の資料が見つからないことのストレスに加え日頃の番組制作の疲れで少しイライラしているのだろう「てんちゃん」は少し焦ってしまったのだろう、頭を右手で抱え少しうつむくとうつむいた先に「アイカツ★アイランド 2016年」と背表紙に記載されたかなり分厚いバインダーが「てんちゃん」の視線の先にあった。本棚の下の方にあった分厚いバインダーを手に取り両手に抱えた「てんちゃん」は資料室の中央に置いてあったテーブルに静かに置くとバインダーをパラパラとめくり不参加者名簿があるページを探している。
(ページはどこだどこだ…… あ、これか?)
「てんちゃん」はちょっぴり神妙な顔で一通りバインダーのページをめくっていると参加者名簿の後ろに「アイカツ★アイランド 不参加生徒一覧」と記載されていたページを見つけた。エクセルで作成したのだろう名簿には学年と所属の組、名前と簡単な不参加理由が記されてあった。
(さすがに学園の一大イベントだから、そもそも参加してない人なんてそうそういないしもし参加できないとしてもやむを得ない理由ばっかりだよなあ…… ん?)
1ページだけだった名簿の不参加理由を「てんちゃん」はじっと目を光らせて見ていた。体調不良、忌引き、その他諸事情の理由といった理由を目を光らせながらも何気なく見ていた「てんちゃん」のもとに「仕事の為不参加」の文字が飛び込んできた。
(い、いた…… 堂々と仕事の為って書いてる、アイカツより大事な仕事って何だろう…… 名前名前……)
まさか本当にあるとは思わなかった「仕事の為不参加」の文字に目を丸くしながら他に仕事の為に「アイカツ★アイランド」に参加しなかった生徒がいないか名簿を確認したところ、他に仕事を優先して参加しなかった生徒がいなかったことを確認した「てんちゃん」は「アイカツ★アイランド」より優先したい仕事とは何なのだろうか考えながらも「仕事の為不参加」の欄の生徒の名前欄を見た「てんちゃん」は驚愕した。
(え!? まって、この名前どっかで聞いたことあるぞ。 何だっけなあ……)
「仕事の為不参加」とあった欄の左側にあった生徒の名前を見てあっ!と少し驚いた顔をしながらもどこかでその名前を聞いたことはあるのだがなぜか思い出せなかった「てんちゃん」は
不参加者名簿のページがあったバインダーを元あった場所にしまった。
そして資料室から出て資料室の扉のそばに寄りかかりおもむろにジーンズの裏ポケットに入れていたシャンパンゴールドの頑丈そうなスマホケースに入れられた白いスマートフォンを取り出すとスマートフォンを右手で持ち片手でフリック入力をしながら何かを検索しだした。
(えっと…… 名前名前…… あーー思い出した、小学生の天才画家だわ。「弦田 流寧」って名前…… あーースッキリした)
流寧の名前を検索して出てきた簡単なプロフィール項目を読んだ「てんちゃん」は、名前を思い出せなかったもやもや感から解放されすっきりとした表情をしていた。すっきりとした顔のまま「てんちゃん」はスマートフォンをいじり画像一覧にある流寧が描いたおびただしい数の美人画を見ている。
(確か昔ADをした天才小学生特集の番組で取材許可取れなかった子だったっけ…… まぁ絵も手間かかってそうだし取材どころじゃないか、学校もあるだろうし…… にしても上手いねえ……
ん? この絵の顔、どっかで見たことあるような…… )
AD時代にあったことを思い出しながらスマートフォン片手に流寧の描いた美人画の画像を感心しつつ夢中になって見ているうちに「赤い髪にピンク色の瞳と赤と白のドレスを身にまとった女性の絵」の画像にあたった「てんちゃん」はあることに気が付き、目が丸くなっていた。
(MixAさんのあっちの姿にそっくり、服もなんか見たことあるし)
「赤い髪にピンク色の瞳と赤と白のドレスを身にまとった女性の絵」を見た「てんちゃん」は驚愕した。なにしろ絵の女性はMixAのプリ●ラチェンジ後の姿にそっくりだったからである。なぜ天才画家がMixAさんそっくりの絵を描いたんだ…… 「てんちゃん」は頭をフル回転させて考えていた。
(あの赤と白のドレスは確かMixAさんが初めてプリ●ラのステージに立った時に急ごしらえでステージに立ってくれたお礼にマネージャーからもらったものだって言ってたなあ、かなりのレア物で普通にプ●パラのステージに立っているだけでは手に入らないらしいし。なんでMixAさんそっくりの女性がかなりのレア物のドレス着てる絵なんだ…… MixAさんが天才画家に絵描いてって頼むようには見えないし)
頭の中の「ネタ帳」をパラパラとめくりながらなぜ天才画家がMixAそっくりの美人画を描いたのか少し困惑しながらも考えているうちにMixAが以前言っていたあることを思い出した「てんちゃん」は急にハッとした顔をした後納得したような笑顔を浮かべている。
(ああーー、確かMixAさんの友達はMixAさんの追っかけなんだっけか。プリ●ラ時代からの…… じゃあこんな絵になっちゃうよな。天才画家がアイドルの追っかけか…… なるほどな)
「MixAの友達」が誰なのかほぼ分かった「てんちゃん」はほっとしたような顔をしながらスマートフォンの電源ボタンを押しジーンズの裏ポケットにしまうと資料室の鍵をジーンズの前ポケットから出し資料室の鍵を閉め「学園長室」に向かい一心に足を動かし始めた。その足取りは旅行中ずっと探していた「お目当てのお土産」をようやく見つけた観光客のようにわくわくしているようにも見えた。
(さてと、あんまり時間ないしとりあえず一か八かオファーしてみますか。)
……後編へ続く(・ω・)