アイサツ(ニンジャスレイヤー)

Last-modified: 2024-04-29 (月) 15:27:40

登録日:2022-06-09 (木) 07:04:00
更新日:2024-04-29 (月) 15:27:40
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Tag: 怪文書 ニンジャヘッズ ニンジャスレイヤー 礼儀作法 マナー エチケット 忍殺しぐさ 日本 忍殺 アイサツ 挨拶 「ドーモ、〇〇=サン。△△です。」 ニンジャ 忍者 常識 和風 秀逸な項目 ワザマエな項目 重篤ヘッズ 作成者がラリってたとしか… 平易で一般的な日本語(大嘘) 所要時間30分以上の項目




「ドーモ。ニンジャスレイヤー=サン。ダークニンジャです」
「ドーモ。ダークニンジャ=サン。ニンジャスレイヤーです」



初対面での第一印象を左右したり、職場や学校での人間関係を円滑に保ったり、折りに触れて贈り物とともにやり取りしたり、魔法の言葉?だったりと、社会において重要な役目を担う「挨拶」……

日本人である以上、いや日本人でなくとも日常生活にはかかせぬものであり、当然ながら読者の皆様もこのマナーについて相応の知識を持ち合わせていよう。



しかし推定読者数5おくにんを超えるちょうエンターテインメント冥府魔導カラテtwitter小説ニンジャスレイヤー?において、挨拶、いや「アイサツ」は我らの知るそれとは似て非なる奥ゆかしい*1礼儀作法であり、これに対し適切な知識を持っていなければ

◆ ニンジャスレイヤーほんぺんを読んだ時に、「なんでこいつら殺し合い前に丁寧に自己紹介してんの?バカなの?鎌倉武士なの?」などとあなたが誤解する

◆ ニンジャスレイヤーほんぺんを読んだ時に、「なんだコレ……ぼくの知ってる日本文化と違う……帰ってパラッパラッパー?*2しとこ……」などとあなたが混乱する

◆ニンジャスレイヤーほんぺんを読み進めていても、「む……このアイサツは礼儀作法として適正ではないのでは?もしやコイツは礼儀を知らぬサンシタ*3なのでは?」などとあなたが早合点する

◆ある日あなたが突然にニンジャ?となり、敵性ニンジャが現れてイクサ*4となった時、敵性ニンジャのアイサツに適切なアイサツを返すことができず、あなたの名誉が失われる

などといったさまざまな弊害が予想される。



しかし心配ごむよう、この項目を読むことによってあなたはこの複雑で奥ゆかしい礼儀作法を完全に理解することとなり、安心してニンジャスレイヤーを読み進められるし、またいつ訪れるやもしれぬニンジャとの接近遭遇にも備えることが可能となるだろう。

なおニンジャスレイヤーといえばその独特なほんやく言語、所謂「忍殺語*5で有名だが、しかし本項目ではピュアなニュービーの方々にもわかりやすいよう、平易で一般的な日本語で叙述していくため、初めてのかたでも実際ごあんしんだ……いや、安心してご覧いただきたい。

またどうしても使用せざるを得ない用語などに関しては、注を用いて解説もしているため、どうぞ有効活用あられたい。



◆「ニンジャスレイヤー」における一般的アイサツ行為◆


初見の方や詳しくない方には誤解されがちだが、「アイサツ」とは基本的に我々の知る「挨拶」に近似のものである。
よってアイサツそれ自体は、ニンジャスレイヤー世界においても一般的な日本式の礼儀作法であり、特にニンジャに固有のものというわけではない。
古事記?*6にもそう書かれている。

アイサツ……トクガワ・エドの治世から数百年が経過した今となっても、この極東のハイ・テック国家には「義」「礼」と呼ばれる価値観が連綿と生きている。自らを卑しめ、相手を尊ぶ。この国家では何より調和こそが重んじられる。たとえそれが、薬物中毒者と売人のようなマケグミの間であってもだ。

「……ドーモ。あー……」シルバーカラス?は会釈した。「カギ・タナカです」カギ・タナカは彼の使う偽名だ。マンションもこの名前で借りている。「ドーモ」少女も会釈を返す。「ヤモト・コキです」二者は自然に名乗った。異常な事ではない。他人同士、同席すればアイサツ有り。日本の奥ゆかしさだ。

「ドーモ。始めまして」アルビノの男はなんと、先手を打ってオジギを繰り出したのである。さらに、頭を上げながら自らの懐に手をいれ、滑らかな動作で名刺を差し出した。「私の名前はエシオです。ピグマリオン・コシモト兄弟カンパニーのエージェントをしております」

「ドーモ。明智光秀?です」「ドーモ。織田信長です」織田は座したまま挨拶を返した。本能寺内のアトモスフィアが張り詰め、不穏なカラテが周囲に満ちた。明智は襖を後ろ手に閉めると、しめやかに座し、織田と茶を交わした。

等と言った具合である。

見ての通り、「相互リスペクト」「謙譲の美徳」といった日本的価値観を体現した儀礼行為がアイサツであり、

  • 初対面の相手や改まった場、あるいは単に顔を合わせた時、また別れ際などでアイサツをするのが望ましい
  • アイサツをされたらアイサツを返すのがマナー
  • 多くの場合、会釈などの肉体的礼儀を伴う
  • サラリマン*7等の場合、同時に名刺などを差し出すことも

と言った多くの点で、我らの知る「挨拶」と共通している。

反面、

  • 会釈などにとどまらず、両手を合わせる合掌礼、さらに30-45度程度頭を下げるオジギ*8などを伴う場合がある
  • 「ドーモ*9が、互いの上下関係や場のフォーマル度に関わらず使用できる、汎用性の高いアイサツ用ワードとなっている
  • 適切なアイサツを欠いたことに対する社会的ペナルティが概して重い

などの違いもあり、全体として我々の「挨拶」に比べて、より厳粛荘重儀式的な行為になっていると言える。

……とまあ、そんな感じにニンジャスレイヤー世界の「アイサツ」についてはおおよそ理解されたことと思うが、しかしこれはあくまでニンジャスレイヤー世界における、「一般的な社会」の間でのアイサツである

だがニンジャスレイヤーという作品内においては、「一般的な社会の日常」は登場人物の誰もが過ごす常日頃の光景ではなく、むしろその逆、「非日常の世界」ですらある。

では作中における「日常」とは何か?

……そう。ニンジャとニンジャの無慈悲なるイクサである。



◆ニンジャのアイサツ◆


イクサに臨むニンジャにとって、アイサツは神聖不可侵の行為。古事記にもそう書かれている。アイサツされれば返さねばならない。

ご存じの方もおられよう。
かの伝説的電子ドラッグことアニメイシヨン第1話においてナレーションのゴブリン氏によって発せられた、ニンジャスレイヤーにおける「アイサツ」を象徴するベストセンテンスである。

そう、先に述べた日本人としてのアイサツ儀礼とはまた別に、ニンジャ達は「イクサに臨んでのアイサツ」という独自の礼儀作法体系を持っているのだ。
このアイサツに関するは諸々のルールはニンジャにとって「掟」と称されるほどに重要、かつに拘束力の大きいものであり、一山いくらのサンシタニンジャであろうが、あるいは神話級と称えられる最上位ニンジャであろうが、この厳粛厳正なプロトコルからは逃れられないのである。

ニンジャスレイヤー世界において、ニンジャとは無慈悲な暴力の化身であり、自らの欲望のままに非ニンジャを殺し、搾取し、隷属させることに一片の疑問も抱かない、邪悪で身勝手な超人類である。
そんな彼らが、何ら物質的な強制力のないアイサツという礼儀作法にだけは従わざるを得ない、いやむしろ自ら進んで従っている様は見るからに異様であるが、しかしそれこそがニンジャという存在の特殊性をあからさまにしているとも言えよう。

※そもそもニンジャスレイヤーの「ニンジャ」をよく知らないという人は、こちらをクリックして解説を出そう!

一般的に忍者?と言えば、闇に紛れて忍び寄りクナイや刀で敵を暗殺したり?ボディアーマーを着てカエルを呼び出したり二刀流やサイや棒やヌンチャクを駆使したり?感度が3000倍になったり?……といった、「高度な訓練を受けた特殊隠密戦士」的な存在を思い浮かべられることだろう。

しかしニンジャスレイヤー世界での「ニンジャ」はそれらと根本的に違い、生物としてのヒトが変異することによって生まれた、いわば「超人類」とも呼ぶべき存在である。
彼らはもともとは人間であったが、常人の粋を越えた激しいカラテ*10トレーニングや、ザゼン*11などを重ね、さらにある種のイニシエイションを経ることによって、その肉体と精神を不可逆的に変質させた超人類なのだ。
ニンジャになると肉体や神経系、果ては染色体に至るまで大幅な変質強化がもたらされ、常人をはるかに超える肉体的能力や、また一部の者は「ジツ*12」と呼ばれる超自然の特殊能力を得るなど、全てにおいて人間を凌駕する半神的な存在へと至るのだ。

つまり一般的なフィクションにおいて「職業:忍者」?であるのに対し、ニンジャスレイヤーにおいては「種族:ニンジャ」なのである。

ただしそのようなニンジャの正体は、様々な経緯から作中の時代*13においては殆どの一般人に知られていない。
そのため世間一般では「ニンジャ」と言えば吸血鬼?ドラゴンと同じ「荒唐無稽なフィクションの産物」とみなされており、ニンジャのヒーロー?などもフィクション作品などで度々登場するという。
そういう意味では、わりと我々の思い描く「忍者」に近いところもないではない。

ニンジャ殲滅を目指すニンジャスレイヤーが、我々の思い描く「忍者」に最も近い見た目をしているのはなんとも皮肉である。

ただし前項で述べたように、アイサツそれ自体はニンジャに固有の作法ではないため、非ニンジャであってもアイサツ概念、ルール等の多くは共通していると考えられる。
少なくとも平常時のアイサツに関してはニンジャと非ニンジャの間にそれほどの感覚差はみられないし、非ニンジャが戦闘前アイサツや名乗り行為を行う場合もわずかながらあるため、ニンジャ独自のアイサツルールと、広く一般モータルにも共有されているルールの境目は、今のところ判然としていない部分も多い



◆なぜニンジャはアイサツにこだわるのか?◆


簡潔に説明するのはなかなか難しいのだが、身もふたもないことを言ってしまえば「それがニンジャだから」である。
作中のキーワードを使って言うなら、「アイサツがニンジャというミーミー*14の、重要な一部であるから」とも換言できよう。

もともとの起源まで遡れば、ニンジャのアイサツへの執着はそもそもニンジャ社会、それも古き神代の古代ニンジャ社会の性質に由来している。
古代のニンジャにとって、自身の、また属する組織やニンジャクラン*15名誉とは、命や勝敗よりもはるかに重いものだった。
例えイクサ自体に勝利しても、イクサの中で礼儀に欠き、名誉を汚す行いがあったらそれはイサオシ*16とはされず、ムラハチ*17ケジメ*18、甚だしきはセプク*19などの厳しい制裁が科されるほどだったのだ。

そしてニンジャのイクサにおいて、名誉を守るための大前提ともされる礼儀作法、その象徴たるものがイクサに臨んでのアイサツだったのである。
それを定めたのは全てのニンジャの祖カツ・ワンソー本人であり、自身の弟子でもある偉大なるニンジャ将軍だったハトリ・ニンジャの進言を受け入れ、これを全ニンジャが守るべき礼儀作法としたとされている。
これ以後、ニンジャ社会に由来するすべてのニンジャ達にとって、イクサに臨んでのアイサツは名誉のための必須のプロシジャ*20となり、それはやがて彼らにとって本能と呼べるレベルにまで刻み込まれていったのである。

さらに作中にはそうしたニンジャ社会の一員であった本来のニンジャ、即ち「リアルニンジャ」だけではなく、そうしたリアルニンジャの魂が非ニンジャに憑依することによって生まれた「憑依ニンジャ」も存在する……というかそっちの方が作中の年代では圧倒的多数派である。
彼らはそうした古式ゆかしいニンジャ作法を知識として持ってはいないが、ソウル憑依時に本来の人格がソウルと融合することで、彼らもまた半ば本能めいてアイサツを重んじるようになるのだ。

現実世界においては平安時代から戦国時代における武士(あるいは中世ヨーロッパにおける騎士)の「名乗り」が作法とされたものに近い。
これは戦いの中で自身を討ち取った相手の武勲のため、あるいは死にゆく相手への手向けとして、双方の名前を告げ合うというもので、
互いに殺し殺されることを許容し、その一点においては対等であることを認め合う、殺伐としながらも極めて奥ゆかしい礼儀作法である。
故に彼らは互いがどのような立場であろうと、どのような力量差であろうと変わりなく、攻防の手を止め、名乗りを交わすのだ。

それを踏まえると、作中においてアイサツする事もできずに行殺されてしまったニンジャたちは、ブザマであっても決してシツレイではなく、
ましてやアイサツ直後に即殺されてしまうようなニンジャたちですら、互いに殺し殺される事を許容した上でイクサに臨んだ事を思えば、
アイサツという作法そのものを踏みにじる下劣なニンジャなどは、話にもならないという事が理解できるだろう。



◆ハウトゥーアイサツ◆


さてニンジャのアイサツについて基本的な知識を得たところで、いよいよその具体的な流れについて学んでいこう。

ニンジャがイクサにおいてアイサツ態勢に入った時、まずすべきは


① イクサの手を止める

アイサツの際には戦闘態勢をとらず、相互に一時的な無防備状態、あるいはそれに準じた非戦闘状態となるのが基本である。
これで「私は礼儀を守るために命をかけます」という自身の矜持を示すと同時に、また敵手に「貴方もまたこの作法を尊重し、攻撃しないと信じています」というリスペクトを示すことができる。

これは互いに向かい合ってイクサを始めた時だけではなく、アンブッシュ(後述)や乱戦などで戦闘が始まって後にアイサツをする形になった時も同様であり、一時的に手を止めて戦闘態勢を解除したのち行うのが望ましい。


②-a 名乗る

 「ドーモ、初めまして、ドラゴン・ゲンドーソー=サン。ソウカイ・シックスゲイツ?のニンジャです。ドラゴン・ドージョーに放火に来ました」

次いで、自らの名や所属組織、また場合によってはその戦闘目的などを相手に宣告する、いわば名乗りを行う。
アイサツを受けた側がアイサツを返す時、あるいは事前に相手の名前を知っている場合などは、先に呼びかけを挟んでから名乗るのが基本のようだ。
これらの一連の口上は、原則として敬語で行うべきであり、また相手に対しても敬称つきで呼びかけるのが望ましい(というか作中においては、ニンジャ・非ニンジャを問わず、家族以外の相手に対しては常に敬称(=サン)つきで呼ぶのが一般的作法である)。

ただし必ずしも敬語でならなければならないというわけでもなく、普段通りの口調で名乗ったり、あるいは端的に自分の名前を告げただけで済ませる、などの例も少なからずみられる。

「テメェー」キングピンは警棒で警戒する。「ダチュラ=サンじゃねえな。テメェー」「ああ違うね」ダチュラは……否、そのニンジャは不敵に頷き、あらためてアイサツした。「俺はシルバーキーだ」

「ドーモ。ダークニンジャです」ダークニンジャは接近してくる影へ呼ばわった。「貴様の名を忘れたな。名乗れ」「……ランペイジ……」ダークニンジャのニンジャ聴力が、鉄仮面の奥で発せられたくぐもった名乗り声を捉えた。ダークニンジャはさらに、後方にも一つ、別のニンジャ存在を感じ取った。

さらに直接的な名乗り(つまり「〇〇です」の部分)以外に挟まれる口上部分となるとむしろ敬語の方が珍しいほどで、ここで示威や挑発的言動を行う例も多いが、特に問題とはされない。

また多くのニンジャは、いくつかの名前を同時に持ち、日常生活時やイクサ時、ビジネス時などレイヤーに併せて名前を使い分けている。
一般的にイクサ時にはニンジャネーム、つまりニンジャとしての名前を名乗り、また相手もニンジャネームで呼ぶのが基本ではあるが、厳密なルールがあるわけではなく、偽名などを使っても特にシツレイにはあたらないようだ。

さらに負傷や病気などで、または身体的な問題があって喋れない*21場合は省略してもよいし、あるいは他人に代わって言ってもらってもよい。

「フーンク」インペイルメントは小首を傾げた。顔全体を覆うメンポはサイボーグめいている。そして思い出したようにヤモトへオジギした。「フーンク」「……!」「喋れんのだ、そいつは。インペイルメント=サンだ」モスキート?が説明した。「インペイルメント=サン、その女子高生はヤモト=サンだ」

また、ショドー*22など声以外の手段で名乗りを行なうパターンも見られる。
もし貴方がニンジャとなり、憑依ソウルの影響や重サイバネ化など種々の都合により発話が困難となった場合は、ショドーを学んでおく、名刺を刷って携帯するなど事前の備えをされるとよいだろう。

異様なニンジャはくるくると回転ジャンプしてこれを回避、着地点にいたクローンヤクザの首を掴み、捩じ切った。「アバッ!」そしてバイオ血液の滴る生首を地面のアスファルトに擦り付け始める。

生首が毛筆めいて、そこに血のショドーが書かれた。「ドーモ」「ザ・ヴァーティゴです」


②-b 敬礼動作を行う

 それは赤黒の装束に身を包み、「忍」「殺」の漢字が刻まれたメンポで口元を隠したニンジャだった。彼はタクシーのドアを閉めると、両手を合わせオジギした。

名乗りにあたっては、オジギをしたり、合掌礼などをして、相手に何らかのリスペクトを示す敬礼的動作を伴うことが望ましい。
名乗りと敬礼動作は基本的に順不同であり、また同時に行ってもよいようだ。

これらは両手をふさいだり敵から視線を切ったりせねばならぬため、アイサツのプロセスの中でもっとも危険な瞬間であり、短時間で行ってもシツレイ*23には当たらないが、故にあえて悠々と行うことで己の強さへの自信と奥ゆかしさを見せつける場合もある。
また名乗り同様、身体的条件その他によって敬礼動作が不可能な場合(肉体が人としての原型をとどめていない異形のニンジャとか)は必ずともしなくてもよい。



……といった感じである。
この「ドーモ。〇〇〇=サン。××です」から始まる一連のアイサツ口上は、ニンジャスレイヤーという作品が生み出したミーミーの中でも最メジャー級センテンスであるため、あるいはニンジャスレイヤー・ニュービーの方でも「なんかこれ見たことある!」と既視感を覚えたかもしれない。
しかし作中では各々のニンジャのスタイルや、あるいは場面・状況に合わせた多様なアイサツが登場するため、実際の所それはあくまでその中の一例(とはいえ圧倒的多数例ではある)にすぎないことには注意がいるだろう。

ちなみに読者諸氏がアイサツをエミュレートする際、「〇〇デス」など名乗り以外をカナ表記にするのはよくあるミスだが、劇中では(カタコトなどの理由で元々カナ表記されている場合でも無い限りは)ひらがなで「〇〇です」とされている。
とはいえニュービーヘッズ*24のミスを鬼の首を取ったように指摘するのは奥ゆかしさに欠ける行為なので、もし指摘する際はシツレイの無い文体を心がけたい。アイサツにおいてそうであるように、奥ゆかしさは日本人として重要な美徳である。



◆アイサツのルール◆


ではアイサツの流れを抑えた所で、今度はアイサツに関する最も重要な要素、即ち戦闘前アイサツ時に守るべき各種ルールについて詳しく解説していこう。


・「アイサツ前のアンブッシュは1度まで」

ニンジャのイクサは互いに向かい合い、丁寧なアイサツと共に始めるのが常ではあるが、アイサツをする前のアンブッシュ攻撃*25もまた認められている。
ただしその機会は1回きりで、そのアンブッシュ攻撃で仕留められなかった場合は互いにアイサツし、普通のイクサを再開することとなる。

しかしアンブッシュ、つまり不意打ち攻撃とは卑劣な行いではないか?アイサツの精神と矛盾しているのでは?と思われた方もいるだろうが、

 一方で、アイサツに持ち込むよりも前に一撃のアンブッシュで惨たらしく殺されたセンチュリオンであるが、これをもってニンジャスレイヤーを責めることはお門違いだ。これすなわち、アイサツする実力すら持ち合わせなかったセンチュリオンの不覚。「ドヒョウ前に犬死に」のコトワザ通りである。

とされている。
要するに1度きりのアンブッシュで軽く殺されるような者は、そもそもニンジャとしての心構えがなっておらず、カラテ*26も足りていない、つまり「リスペクトを払うに値しないサンシタだった」とされてしまうのだ。ニンジャのイクサは無慈悲なのである。

アイサツ関連のルールの中では比較的明わかりやすい条項ではあるが、

  • 「1回のアンブッシュ攻撃」とは具体的にどこまでの範囲をさすのか?
  • 連続コンボだとしたら完走するまで「1回」の範囲なのか?
  • それともコンボは最初の1撃で「1回」なのか?

といった長さ的な面での判断はなかなか難しく、実際作中でもキャラクター同士で判断が割れている場面がある。

実はリアルニンジャが台頭していた太古の昔にはこの決まりは存在していない。
アイサツ前のアンブッシュが認められるようになったのは、太古の昔コブラ・ニンジャクランを興した開祖であるコブラ・ニンジャが「自分はアンブッシュ・ジツを鍛えたが、アイサツをしてからではアンブッシュの意味が無い。この掟を改めて欲しい」とカツ・ワンソーに直訴し、申し出を聞き入れたカツ・ワンソーが認可したのが始まりだと伝えられている。


・「イクサの前にはアイサツする」

言うまでもないようだが、基本中の基本ともいうべきモストベーシックなルールである。
作中でも「ニンジャ同士のイクサはまずアイサツから」的なメソッドが、形を変えつつたびたび強調されることからもその重要性は明らかだろう。

しかし意外なことにこの有名なルール、実は「何があろうと絶対に守らなければならない」というほどの強制力は持っていない
ニンジャのイクサの様態は互いのカラテやジツ、周囲の状況などによって千差万別であり、イクサの流れによっては、互いにアイサツを行うタイミングを見つけられないこともある。
そうした場合、下手すれば両者アイサツなしのままイクサの終わりまで行ってしまうこともあるが、この場合は好ましくないイクサ運びとされるのは間違いないにせよ、シツレイと断じられるまではいかないようだ。

またそうした不可抗力でなくとも、あまりにも互いの実力差がありすぎてイクサの前に片方の戦意が砕けている場合など、アイサツなしでイクサが進むことも実のところままある。

またそうした例外的なケースとは別に、最初からアイサツを免除されているケースもある。具体的には

 A. 超遠距離戦の場合

ニンジャの中には、スリケン*27やユミ*28、または遠距離攻撃ジツの技術を極端に磨き上げ、姿も見えないような超長距離でのイクサを可能としたものもいる。
この場合、標的のニンジャとは到底声が届かないほど離れていることもありうるため、そうした「アイサツが不可能な距離で戦う」場合もアイサツ義務は免除される。

ただしあくまで「免除される」だけであり、義務を越えてアイサツ、またはそれに代わる行為をしたほうがより奥ゆかしいとされるのはいうまでもない。
もし貴方が突然に遠距離戦型ニンジャとなり、かつ名誉を大いに重んじたいとお考えなら、ニンジャ声帯を鍛えて大音声のアイサツを会得するなり、スピーカー付きドローンやLED搭載矢などの最新テックに手を出すなりされるといいだろう。
実際、古のユミ使いニンジャは自分の名前を季語などと共に記した紙を矢に結び、それを最初の1射とすることでアイサツに代えた、という奥ゆかしい逸話も伝わっている。

なお「最初は遠距離から一方的に狙撃していたが、次第に距離を詰められた」など、戦闘中にアイサツが可能な距離まで間合いが縮んだ場合は、その時点で改めてアイサツを行うのがベター。

 B. 相手がモータルである場合

ルールとして明示されているわけではないのだが、基本的にニンジャは非ニンジャの人間、所謂「モータル」を相手にする場合、アイサツの必要はないと考えているようで、実際あまりしていない
モータル相手に上記のアイサツをする場合もあるにはあるが、そういった場合は侮蔑を含んだ上から目線の挑発や威圧目的で行われることが大多数を占める。

先にも少し触れたが、ニンジャは伝統的にモータルを「非ニンジャのクズ」と蔑視していて、自分たちと同列の存在とはみなしていないのだ。
したがってアイサツの根本理念である「リスペクト」を払うべき対象ではそもそもない……というような感覚なのだと思われる。

またそれ以前に、ニンジャを前にしたモータルは一般に「ニンジャ・リアリティ・ショック(略称NRS)」と呼ばれる一種のパニック症状に陥ることが少なくないため、アイサツのしようがないことも多い。
モータルの身でありながらNRSを起こさずニンジャ相手にアイサツを返してしまったことで、敵性ニンジャと判断され戦闘になってしまった事例があるぐらいだ。*29

※「ニンジャ・リアリティ・ショック(略称NRS)ってなに?」と気になった人は、こちらをクリックして解説を出そう
「アイエエエ!?」「ニンジャ!?ニンジャナンデ!?」「コワイ!」「ゴボボーッ!」

ニンジャスレイヤー世界において、古代のニンジャたちはかつてその圧倒的なカラテとジツにより、世界中の非ニンジャを無慈悲な支配下に置いていた。
だがその後さまざまな経緯から彼らの力は次第に衰えていき、最終的には力をつけた非ニンジャ勢力の攻撃を受けてゲコクジョ*30され、歴史の表舞台から駆逐されてしまう。
その後歴史の勝者となった非ニンジャ勢力は、徹底的にニンジャ支配の歴史の詳細を隠匿し、また改ざんを重ねてその抹消に努めたため、現代では表向きニンジャの存在は歴史書から消えてしまっている。

先にも触れたように、一般人にニンジャが荒唐無稽なフィクションの産物ととらえられている」のはそのためである。

しかしミーミーの面でニンジャを忘れ去ることはできても、ジーン、つまり遺伝子の場合はそうはいかない。
長きにわたってニンジャの暴虐的な支配を受け続けてきた記憶は、非ニンジャの中にはもはや遺伝子レベルで刻まれており、ニンジャの存在は非ニンジャに対しヘビを前にしたカエルのような本能的な恐怖反応、拒絶反応を誘発するのだ。

この強力な精神作用によって引き起こされる一連の急性精神障害が「ニンジャ・リアリティ・ショック」と呼ばれるもので、パニック障害に似た精神喪失、錯乱、嘔吐、手足の震え、心停止、失禁?などの諸症状を引き起こす。

実際にニンジャの支配にさらされていた昔の非ニンジャにも無論起きうるが、ニンジャをフィクションの産物と思っている現代人がこれに陥ると、今までの現実認識がひっくり返されてしまう心理的衝撃も相まって症状がより深刻化しがち。

ニンジャが直接目の前に現れた時だけではなく、その存在を様々な形で認識してしまった際にも起こりうるが、やはりニンジャを直接目の前にし、その力を認識した際に最も起こりやすい。


・「集団戦の場合、個別のアイサツ交換は必須ではない」

数人、数十人以上の集団によって敵と相対した場合などは、1人もしくは数人が代表としてアイサツするなどして、余人のアイサツを省略してもよいとされている。

 「イヤーッ!」ファーリーマンが到達し、ルイナーを援護する。アマクダリのニンジャ達が一人また一人と降り立つ。イクサにおける個別のアイサツは、開戦時の両大将が代表する事で省略可能だ。「イヤーッ!」「イヤーッ!」攻撃応酬を周囲に見ながら、スターゲイザーとスーサイドは押し合う。

ただしこの場合も、イクサの中で敵ニンジャとの個別の一騎打ちが発生するなどして一対一の状況になった場合は、改めて互いにアイサツをするのが望ましいとされる。

またアイサツは省略「してもよい」だけであり、あえて全員分やったとしても無論シツレイにはあたらない。実際作中でも少人数の場合だと、全員がアイサツをしていることも少なくない。
そして相手が省略せずに全員分アイサツしてきた場合は、やはりされた側も全員で返すのが礼儀とされている。

なおこの場合の集団戦とは、複数の勢力が入り乱れるような所謂「乱戦」も含まれる。
つまり

 「ドーモ。ネブカドネザルです」陽炎に霞む巨大なシルエット……恐るべき背部アーマーを装着した鋼鉄ニンジャがアイサツした。全ての者たちが一瞬、固唾を呑んだ。「アーッ!」ヤマミ鋼材の跡取りが風圧で床を転がった。バスター・テツオが叫んだ。「オムラだ!奴をやれ!皆殺しになるぞ!」

「あなた方のアイサツは省略します」ジャキン!音を立て、ネブカドネザルが両肩のキャノン砲と両腕アーマーのミサイルランチャーを展開した。「とりあえず重要対象を除く者達を全滅させます。当然ながら降伏は認めない」「イヤーッ!」ドラゴンベインが跳んだ!

この場合、ネブカドネザルは自分だけアイサツして相手のアイサツをキャンセルした形になるが、この時はニンジャスレイヤーやドラゴンベインを含めた複数勢力によるイクサが既に繰り広げられていた。

そのため新たにエントリーしたネブカドネザルは「乱戦に途中参加した」格好となるため、この場合もアイサツ交換を待つ必要はないとされる。
本来ならば自分がアイサツする必要もないのだが、多くのニンジャはこのようなアイサツ不要状況下でも名乗りだけは短く行う傾向があり、ネブカドネザルも同様なのだと考えられる。


・「アイサツをしたら返さなくてはならない」

非常に優先度の高いルール。相手のアイサツに対してアイサツを返さないのは大変なシツレイである。

ここまで述べてきたように「必ずしもアイサツをしなくていい場合」というのは割とあるのだが、相手がアイサツしてきた場合は話が別。
基本的に「アイサツにはアイサツを返さなくてはならない」というこのルールが優先適用されるのである。

ただし注意すべきは、このルールは「アイサツされれば、即座にアイサツを返さなくてはいけない」という意味ではない
もちろんなるべく早く返すのが望ましいが、イクサの流れ次第では、敵のアイサツの後にアイサツを返せるような時間がなかなか訪れないこともありうるのだ。

さらに言えば、「アイサツを返さない」のはシツレイにあたるが、同様に「アイサツを返させない」のもまたシツレイとみなされる。
例えば自分だけアイサツをして相手のアイサツを待たずにイクサを始めたり、アンブッシュから攻撃を続けつつ一方的にアイサツした、などの場合である。
この場合、自分が相手のアイサツ行為を妨害しているも同然であるため、礼儀を欠いているとみなされるのはむしろアイサツした側となる。

また、上記のようにニンジャがモータルと相対した場合はアイサツの必要なしとして即座に攻撃を始めることが多いのだが、モータルの側からアイサツされた場合はこちらのルールが優先される。
と、いうかその必要は全くないとわかっていても本能レベルでアイサツを返してしまうニンジャがほとんどであるらしい。

原則として非常に優先度の高いルールであるが、適用されない場合もないわけではないらしい。

例えば実際のケースとして、第二部のニンジャスレイヤーVSデスナイト戦のように、「アンブッシュ成功→直後にアイサツ→そのまま相手が戦場からキックアウトされて離脱→結構たってから戦闘再開」といった感じにそれなりのロングスパンを挟んだ場合がある。
この時アイサツを受けた側であるニンジャスレイヤーは、戦闘再開後もアイサツを返していないのだ。
彼はいかな理由があろうと安易なシツレイを自らに許すタイプではないため、こうした場合もあるいはシツレイにはあたらぬとされているのかもしれない。


・「アイサツ中に攻撃しない」

ニンジャのアイサツに儀礼において最も簡潔で、かつ最も優先度が高いルール。

相手の、そして自分のアイサツ中に攻撃行動を取ることは厳に戒められており、アンブッシュであろうが乱戦中であろうが、議論の余地なく最低、スゴイ・シツレイ*31な行いであるとされる。

 アイサツってのはさ、神聖な時間で、相手のために攻撃や防御の手をあえて止めてるだろ?あえて止めてるっていうのが大事だ。わかるか?礼儀を尽くしてるんだよ。その相手の礼儀を踏み台にして攻撃しちゃいけないんだ。

何度も述べてきた通り、アイサツ儀礼の根幹にあるのは「相互リスペクトの精神」であり、サツバツたるイクサにあっても「イクサはイクサ、礼儀は礼儀」としてそれを厳粛に守ることにこそ意義が、そして名誉があるのだ。

なのでアイサツ行為を利用して攻撃するというのは、そうしたアイサツの根本的な精神性、存在意義そのものに対する侮辱とすら言えるのである。
ニンジャが行えば「この恥知らずな戦術に味方ながら戦慄した」と味方から内心でこき下ろされるほどに嫌悪され、組織からは「礼儀を知らぬ」という端的な理由から査定でマイナス評価が下される。
twitter連載が始まってより13年がたった現時点(2023年12月)ですら、この禁を侵したニンジャはただ1人のみ。

ちなみにアイサツ中の攻撃行為ほどの忌避はされないが、同じようにアイサツ中の隙に逃走したりするのも非常にシツレイ、また卑劣な行為であるとされている。

なお、上記のようにモータルが相手でもアイサツをされればアイサツを返してしまうのがニンジャだが、この隙にモータル側から先制攻撃を仕掛けてくる場合がある。元々アイサツとはニンジャ同士のイクサのルールであるため、この場合シツレイには当たらない。
無論、ニンジャ側からすれば卑怯であるとは感じるようだが、どちらかと言えばモータルごときに不覚を取られたニンジャの恥であると解釈される。



◆アイサツ・タクティクス◆


アイサツのルールについては読者の皆様も詳細な理解を得たものと思われるので、次いでは応用編にいってみよう。

幾度も繰り返してきたように、アイサツはニンジャにとって非常に重要なプロトコルであり、侵すべからざる神聖な儀礼行為である。
しかし同時に、ニンジャの本分はあくまでもサツバツたるカラテに、イクサにあるのも事実。

なので多くのニンジャは、「アイサツのルールを決して侵さぬように、しかしルールの範囲内でなるべく戦術的アドバンテージを得るべし」という、ある種の法律闘争めいた現実的な見方をしている。

そうしたアイサツ戦術ともいうべき観点からアイサツを分析すると、

・「アイサツ終了直後を狙え」

アイサツ動作中の攻撃は厳禁されているが、終了と同時にその禁は直ちに、そして完全に消滅する。
なのでアイサツ終了後ゼロコンマ1秒で攻撃を加えたとしても、それはまったくシツレイには当たらないのだ。

そしてニンジャと言えども、オジギ中などの無防備状態から戦闘態勢にシームレスに移行するのは決して簡単なことではない。
よってカラテの足りぬ未熟なニンジャなどは特に、アイサツ終了直後にも隙を残していることは少なくないため、これを狙うのは非常にニンジャ戦理にかなった行動と言える。
ちなみに作中でこのメソッドを最も実践しているのは間違いなく主人公であり、アイサツ直後の情け容赦ない速攻*32によって戦いのイニシアチブを奪い、多くのサンシタニンジャを葬ってきた。

 「ドーモ、ニンジャスレイヤー=サン、ブラックドラゴンです」「ドーモ、ニンジャスレイヤー=サン、シャドウウィーヴです」2人のザイバツニンジャは抜け目ない警戒感とともにオジギを返す。その直後!「イヤーッ!」ニンジャスレイヤーが跳んだ!ブリッツクリーグめいた電撃的トビゲリが空気を裂く!

 その狙いはシャドウウィーヴ!ニュービーにありがちなオジギ終了後の硬直時間を突いた、見事なアンブッシュだ!「イヤーッ!」シャドウは咄嗟に両腕でこれをガード!だが片腕を半分失っている彼にとって、ニンジャスレイヤーのトビゲリはあまりに痛烈すぎた!「グワーッ!」激痛に顔を歪めるシャドウ!

よって「アイサツはキチンとしつつもアイサツ終了直後の隙をどれだけ無くして即座に戦闘に移行・対処できるか」が、ニンジャの力量のボーダーラインの1つと言える。

・「アイサツで逃亡を阻止せよ」

アイサツは原則として互いが認められる距離で戦闘態勢を解き、向かい合って行う。
つまりアイサツの終了後はお互いが近距離で向かい合って立っていることになる為、その状態から直ちに逃げ出すのは非常に難しい
無防備な背中を晒すのは言うまでもなく危険すぎるし、じりじりと下がろうにも距離が近いため安易にはいかない。

このため敵を先に捕捉したが、逃亡を阻止したいのであえてアンブッシュでなくアイサツするという戦術も成立し得る。

 「ドーモ。ニンジャスレイヤーです」機先を制し、流れるようにアイサツしたのは赤黒のニンジャであった。レッドハッグはこれによりアンブッシュと逃走の選択肢を奪われた格好だ。彼女はアイサツを返す。「ドーモ。ニンジャスレイヤー=サン。……レッドハッグです」路地裏に殺気が満ちる。

・「先行アイサツ側が有利を得やすい」

一般論として、先んじてアイサツした側がイクサの主導権を握りやすいと考えられている。
まず機先を制することで相手を精神的に圧迫できるし、相手がもたついたりしたらすかさず礼儀不足を指弾したりすることで、さらなる精神的優位に立つことも可能だ。
またそうした心理戦要素以外でも、相手のアイサツを待つ間に精神的、肉体的コンディションを整える時間が得られるし、さらにあまり推奨される行いではないが、開戦直後の攻撃の予備動作などをその時間で密かに行うこともできる。
これがいわゆる「アイサツ的優位」である。

・「後手側は数少ない優位点を活かすべし」

逆に不利となってしまう後手アイサツ側だが、有利な点がないわけではない。
後手側の優位点といえば、なんといってもアイサツに至るまでの「間」、また口上の長さなどを調整することで、アイサツ終了=イクサ開始のタイミングをある程度操作できるという点に尽きるだろう。
先述したようにニンジャのイクサはアイサツ終了後数秒、あるいはコンマ数秒で決着がついてしまうことも少なくないため、このタイミングを操作できるアドバンテージは決して小さくない。

・「隙はなるべく小さくすべし」

アイサツ動作中の安全はニンジャの掟によって守られているとはいえ、物理的に見れば無防備な瞬間であることに違いはない。
このため単純にイクサの勝敗という観点から考えれば、可能な限り無防備な時間を短くし、アイサツ終了直後の攻防に備えるのが望ましい。
またそうした油断のなさを相手にアイサツ前に見せつけ、わからせることで、イクサの前からプレッシャーを与えることにもなる。

・「あえて隙を大きくする戦術」

しかしそれを逆手に取り、あえて丁寧にアイサツしてみせ、長く大きな隙を意図的に作り出すという戦術もありうる。
これは即ち「私はアイサツの際に生じる隙など、気にする必要がないほどの強者です」というアッピールを意味する奥ゆかしいマウンティングであり、相手に威圧感や恐怖を与え、心理的な優勢に立つことができる。

 「ドーモ、ニンジャスレイヤー=サン……イグゾーション?です」赤橙のニンジャはぞっとするほど冷酷なアイサツを行った。余裕を見せつけ相手に敗北感を味わわせるための、支配者然としたアイサツである。「ドーモ、イグゾーション=サン、ニンジャスレイヤーです」焦燥を隠しオジギするフジキド。


◆アイサツ事例集◆


ここまでくれば皆様はもはやアイサツのオーソリティと言ってよく、いつニンジャとのイクサが始まっても名誉を汚さず振舞えるほどの知識を身につけられたことであろう。
しかし油断は禁物である。イクサの流れは千変万化であり、アイサツに至るまでの状況もまた然りなのだ。

よってこの項目では実際にニンジャスレイヤーの作品内で行われたアイサツをいくつか紹介し、皆様のアイサツ知識をより実践に即した形で補強していきたい。

※ ちなみに作品内の文章の引用に関して、一部に編集用プラグインが作動してしまう箇所があったため、やむを得ず該当部分を微修正している。ご了承いただきたい。

【ゼロ・トレラント・サンスイ】より(クリックで展開)

 「ドーモ、ミニットマン=サン。ニンジャスレイヤーです」風に乗って、ニンジャスレイヤーのアイサツが届く。ミニットマンは怒りに震える手を合わせ、アイサツを返した。「ドーモ、ニンジャスレイヤー=サン。ミニットマンです」

twitter上で最初に翻訳されたエピソード、つまり連載上最初の作品で登場した、それも初めてのアイサツシーン。つまりこれが「ニンジャスレイヤー」の記念すべき初アイサツということになる。
第1話の冒頭から「前回までのあらすじ」が始まるだけあって、唐突なアイサツ行為に関する言及も全くなく、さも当然のように行われているのが何かこう、実にニンジャスレイヤー的である。

ちなみに物理書籍版ニンジャスレイヤーもこのエピソードから始まっており、表紙を飾っているのは向かい合って互いにオジギをする両ニンジャのシーンである。ワオ……ゼン……*33

【アット・ザ・トリーズナーズヴィル】より(クリックで展開)

 「ドーモ、ファシスト的な搾取構造に疑問を持たず、欺瞞的に用意された泡沫的なトランキライザー的遊戯にうつつを抜かす奴隷的存在の皆さん。私は進歩的革命組織イッキ・ウチコワシの戦闘的エージェント、フリックショットです」

 おそらく現時点で最長のアイサツ事例であり、なんと1ツイートを丸々使う形で行われた。なんて決断的なんだ……
ちなみにこのアイサツはニンジャに対してではなく、非ニンジャの集団に向けたものである。これ以外にも、ニンジャが非ニンジャに(多くの場合は非常に一方的な)イクサの前にアイサツする例は割とある。

【ストレンジャー・ストレンジャー・ザン・フィクション】より(クリックで展開)

 ニンジャスレイヤーがオジギを返そうとした時、さらに一人のニンジャが背後に現れた。格子模様のニンジャ装束で、背中に巨大な機械を背負っている……ドラム式の大口径ガトリング・ガンだ。「ドーモ、はじめましてニンジャスレイヤー=サン。ビーハイヴです」

 ビーハイヴは腰を90度に折って最オジギをする。いきおい、背中のガトリング・ガンの銃口がニンジャスレイヤーを向く。その時!「イヤーッ!」「グワーッ!?」な、なんたる卑劣非道か!その姿勢からビーハイヴはガトリング・ガンを発砲したのである!もはや言葉も出ぬほどのスゴイ・シツレイだ!

第1部ながらも依然忍殺史の頂点に立ち続けるシツレイ・オブ・シツレイなアイサツ事例であり、ビーハイヴというニンジャの名をある意味永遠のものとした。

アイサツ儀礼上最大の禁忌である「アイサツ中の攻撃」をやらかしたという点だけでも十分にすごいが、真にヤバイのは出来心やイクサの流れではなく、計画的にこれを行っていること。
彼は武装から戦術にいたるまでの一切を「アイサツ中のだまし討ち」という最低の初見殺しに特化しており、アイサツ行為を完全に無視……どころかハナっから悪用する気100%という恐るべきシツレイぶりであり、ここまでいくともはや逆にすごいかもしれない。

ちなみにニンジャの間では基本的に「礼儀作法がなっていないニンジャは、所詮カラテもサンシタ」という共通認識があるが、少なくともビーハイヴにおいてはこれが完璧にあてはまっており、素のカラテの実力はそれはもう悲惨の一言であった。

ちなみに第1部の敵組織であるソウカイヤには、彼以外にも

  • ビビりまくって相手の先行アイサツ中に逃走したレオパルド
  • 相手のアイサツ中に戦闘行動(煙幕の展開・音響兵器の作動)を取ったヒュージシュリケン?
  • 相手が丁寧にオジギしているのにもかかわらず、戦闘態勢も解かずにアイサツを返したサボター
  • 飛び跳ねつつ攻撃しながら一方的にアイサツし、相手にアイサツを返させなかったアルバトロス
  • 相手がアイサツしたのに、オジギどころか名乗りも返さず毒づいたウォーロック

などなど、いずれ劣らぬシツレイなニンジャがいっぱいである。
ソウカイヤという組織自体、ニンジャよりもヤクザ*34やギャングのミーミーが強いためであろうか?

【アトロシティ・イン・ネオサイタマシティ】より(クリックで展開)

 「誰だ!? 貴様はァ!?」バーグラーが狼狽し、謎の侵入者を指差す「そ、そのテング・オメーン、もしや、貴様は!」ソウカイニンジャの脳裏に、ある男の名が浮かんだ。ラオモト・カンですら疎む正体不明の非ニンジャ存在にして、孤独なるニンジャハンター!「……神々の使者、ヤクザ天狗参上!」 

 ドスの利いたバリトン声が事務所に響く!〈〈〈ワッツ? 神々の使者だと? こいつは一体、何を言っているんだ?〉〉〉「ド、ドーモ、ヤクザ天狗=サン、バーグラーです」ただならぬ存在感と口上に気圧され、バーグラーはアイサツを決める。その時!「ザッケンナコラー!」ヤクザガンが火を噴いた!

 LAN直結された赤漆塗りのオートマチック・ヤクザガンが、論理トリガによって弾丸20発を高速射出する! BLAMBLAMBLAM!「グワーッ!?」アイサツを完了していないバーグラー! この卑劣な奇襲を受け、左肩から先が弾け飛んだ! 壊れたスプリンクラーのように、鮮血がほとばしる!

半神的存在であるニンジャを非ニンジャの身で狩る異例のニンジャハンター、ヤクザ天狗のアイサツ事例。

見ての通り、相手のアイサツ中の隙を狙って攻撃するという議論の余地なくシツレイな行動であり、理屈から言えば「自分のアイサツ中」に攻撃したビーハイヴよりさらなる悪質な行動と言える。
しかもこの攻撃はビーハイヴ同様に意図的なものであり、ニンジャの習性を知り尽くした上で、意図的にアイサツの隙を作り出して不意打ちを狙うという徹底的なやり口である。

だが地の文を含め、登場人物の誰も、奇襲を受けたバーグラー本人でさえ彼のシツレイを指摘したりはしない。
なぜなら彼はモータルでありニンジャではないので、アイサツにこだわるような本能は持ち合わせていないし、また同じくニンジャとしての名誉を気にする必要もないのだ。

【ネオサイタマ・イン・フレイム】より(クリックで展開)

 「イヤーッ!」自転する足場から足場へニンジャスレイヤーは壁沿いに飛び移った。対角には安定したバルコニー状の足場がある。そこまで足場が続く。このフロアは広く、対角はまだまだ遠い!「イヤーッ!」背後から飛来する飛び道具を空中のニンジャスレイヤーはチョップで弾き返す。

 ニンジャスレイヤーが弾き返したのは小型のマチェーテだ。この武器には見覚えがある!ニンジャスレイヤーを追って足場をジャンプしてくる異様なニンジャの事を、彼は知っている!「イヤーッ!」追ってくる異様なニンジャは再度小型のマチェーテを投擲した。「イヤーッ!」再度弾き返し、足場を蹴る!

 ニンジャスレイヤーは難しい立ち回りを強いられていた。防御時にバランスを崩せば足場で滑り、眼下のスパイクグラウンドへ真っ逆さまだ。だが、なぜあのニンジャがここに居る?ジャンプを繰り返しながら、ニンジャスレイヤーは追跡者を一瞥する。円錐形の編笠を被った迷彩ニンジャ装束の男を。

「アイサツも無しか!フォレスト・サワタリ=サン!イヤーッ!」ニンジャスレイヤーはスリケンを投げ返した。「イヤーッ!」敵は空中で大振りのマチェーテを振り回し、スリケンを撃ち落とした。「これはアンブッシュの範疇だ、ニンジャスレイヤー=サン。ジャングルでは常に敵に囲まれている!」



前述した「どこまでが1回のアンブッシュとみなされるか」という論点に関わってくる事例。

1発目の投てき攻撃を回避され、その時点で敵に認識されたにもかかわらずさらに二度目の攻撃を敢行しているが、これに対する捉え方が両者で分かれているのがわかる。
結局ここでは明確な結論は出なかったが、そもそもアンブッシュ者のフォレスト・サワタリは、その憑依ソウルの影響か「アンブッシュ」の範疇をかなり広めに解釈しており、これ以外の場面でもアンブッシュ攻撃が長めなことが少なくない。

【ウェルカム・トゥ・ネオサイタマ】より(クリックで展開)

 応戦!応戦しろ!ソーンヴァインは震えながらカラテを構えた。バイオ鞭はもう無い。カラテだ!カラテがニンジャの身を守る!いや待て、アイサツがまだだ!「ド、ドーモ、ソーンヴァインです……」「フーンク!」インペイルメントの鞘がエンドウ豆のサヤめいて展開、抜き身のロングソードが放たれる!

貴重な、しかし大変に情けないニュービーニンジャのアイサツ事例。
先述の通りニンジャのアイサツは半ば以上彼らの本能に根差すものだが、憑依ニンジャの場合は憑依ソウルの格や憑依対象者との相性といった複合的要因によって、その本能の「度合い」には個体差が出るらしい。
よって彼の様に本能的なアイサツ返しができない、という例もままあるようだが、彼の場合は初の実戦(しかも最悪な状況下での)で、絶望的に緊張していたという点も大きいかもしれない。

【カース・オブ・エンシェント・カンジ、オア・ザ・シークレット・オブ・ダークニンジャ・ソウル】より(クリックで展開)

 両者は目を合わせた瞬間から、激しい嫌悪感を抱き合った。「ドーモ、はじめましてデスドレイン=サン、ダークニンジャ?です」「ドーモ、ダークニンジャ=サン。って……アァン?俺の名前知ってンの……?まあイィや……デスドレイン?です」何たる不遜な態度か!神聖なアイサツを省みぬ悪童的姿勢!

主人公のライバルであるダークニンジャと、作中屈指の腐れ外道ヴィランとして名高いデスドレインのアイサツシーン。
テンプレ通りながらも正調なアイサツを行ったダークニンジャに対し、デスドレインのそれは不遜極まりないものであり、アイサツの根本精神を理解せぬ(あるいは理解しつつあえて嘲弄する)彼の精神の下劣さが顕著に表れている。
しかし逆に言えばデスドレインのような下衆の極致ともいうべきニンジャですら、一応はアイサツ行為自体のルールには従っているということであり、ニンジャにとってアイサツ儀礼の強制力がどれほどに高いのかがわかる。

【ザ・マン・フー・カムズ・トゥ・スラム・ザ・リジグネイション】より(クリックで展開)

 「バカなーッ!」ニンジャアドレナリンが血中を駆け巡り、チェインボルトはにわかに意識を覚醒させた。そしてバック転で間合いを取ると、マシーナリーなオジギを繰り出した。「ドーモ、はじめましてニンジャスレイヤー=サン。チェインボルト?です」頭上には「罪罰」の威圧的ホログラフィ!

当wikiに個別項目?まである著名なニンジャ、チェインボルトによるアイサツ事例。

  • 戦闘直後に適切な間合いを取り、アイサツを行う。
  • 敬礼動作、名乗りともに完備のミニマルかつ過不足ないアイサツぶり
  • さらにホログラフィによって自身の所属*35言外に明らかにする奥ゆかしさ

など、練達の礼儀作法を感じさせる見事なアイサツである。
これほどの古強者なら、きっとカラテ*36においてもすごい\活躍/を見せてくれたに相違あるまい。

【フー・キルド・ニンジャスレイヤー?】より(クリックで展開)

 「シューッ……」セイジは深く呼吸した。紅蓮の装束から炎が噴き出し、両腕に収束した。赤黒の影がゆらりと立ち上がる。そしてアイサツした。断定的に。「ドーモ。ニンジャキラー=サン。ニンジャスレイヤーです」

 「アイエエエエ!恐ろしいーッ!」背後でウミノがもがき、泣き叫んだ。セイジは叫んだ。〈〈〈俺がニンジャスレイヤーだ!ふざけるな!〉〉〉だが、叫びは現実には為されなかった。かわりに彼の口をついて出たのは、アイサツだった。「ドーモ、ニンジャスレイヤー=サン。ニンジャキラーです」}

ヒーローものにはつきものと言うべき「にせ〇〇」?との対峙シーンにおける事例。
ニンジャスレイヤーを僭称するセイジに対して、本来のニンジャスレイヤー、即ちフジキド・ケンジは彼を「ニンジャキラー」と名付ける。

興味深いのは、セイジ自身の思考はその命名を否定しているのにもかかわらず、アイサツとして言語化する際にはそれを認めてしまっていることである。
理性を越えて本能がアイサツを司っていること、即ち憑依ニンジャにとってアイサツという行動がニンジャソウルより喚起されているものであることがよくわかる事例である。

【ギルティ・オブ・ビーイング・ニンジャ】より(クリックで展開)

・Twitter版
ニンジャ修道士たちが侮蔑の視線とともにユカノを取り囲んだ。「あなた方は何者です」ユカノは睨みつけた。「ドーモ、ドラゴンニンジャ=サン。我々はニンジャ修道会。私はタルタロスです。そして……」「ワッチタワーです」「ケムリ・ニンジャです」「セノバイトです」「スタラグマイトです」

・物理書籍およびnote版
ニンジャ修道士たちが侮蔑の視線とともにユカノを取り囲んだ。「あなた方は何者です」ユカノは睨みつけた。「ドーモ、ドラゴンニンジャ=サン。我々はニンジャ修道会。私はタルタロスです。そして……」「ワッチタワーです」「スモークです」「セノバイトです」「スタラグマイトです」 

「ニンジャであることが罪でありそれゆえ殺人衝動は抑えられないがそれをわかり切ったうえで名ばかりの贖罪をしている」邪悪なニンジャ修道会に属するニンジャのアイサツ場面。
そのニンジャの1人であるスモークがあろうことかアーチ級リアルニンジャの命名規則に則った「ケムリ・ニンジャ」という名前を名乗っていたのだ。
ヘッズが重篤なリアルニンジャ・リアリティショックを引き起こしたのは言うまでもないがその日の更新終了後に実は翻訳担当のケジメ・インシデントであった旨がアナウンスされ、Twitter版における彼の名前は前代未聞の中黒をケジメされた「ケムリニンジャ」となってしまう。
そして物理書籍版では「スモーク」という普通のニンジャネームに改名されてしまった。note版は原作者の意向に基づき一部改訂が行われているが、ここでも彼のニンジャネームは「スモーク」となっている。
一方ケムリ・ニンジャについてフォローもされておりnoteで閲覧できる同話のサブスクリプション式設定資料集であるN-FILESによると、Twitter連載時は「ケムリニンジャ」という冒涜的な名前を名乗ったことでユカノを強く怒らせたとのこと
これらのことから憑依ニンジャがアーチ級リアルニンジャの命名規則に則ったニンジャネームを名乗るのはタブーであることが伺える。
ニンジャスレイヤーWikiには彼のページは「ケムリニンジャ」として表示されているが前述のN-FILESを見るにTwitter版でもスモークが本当の名前のようだ。
なおこのスモーク、結局のところはシノビ・ニンジャクランのソウル憑依者に過ぎなかったが死に際に吐いた「待て!ニンジャスレイヤー=サン!我々はニンジャにしてはかなり控えめで邪悪ではない方だ!」とある意味ニンジャ修道会の性質を体現する迷言までほざき、ヘッズの腹筋に重傷を与えている。
真面目な話、彼の弁明は「多数のために少数が犠牲になるのは仕方がない」という、ニンジャスレイヤーが最も憎む理論であり、彼の怒りの炎に油を注いだだけであった。インガオホー!
一方で物理書籍及びnote版ではヤクザ天狗参戦後の役割がスタラグマイトと入れ替わっており、早々に爆発四散してしまった。従って上記の台詞はスタラグマイトが発している。

【バック・イン・ブラック】より(クリックで展開)

 「ドーモ。ローシ・ニンジャです」ゲンドーソーはニンジャとしての真の名を名乗り、アイサツした。「アバーッ!」枯れ葉ニンジャは倒れた。

「タワケめ!アイサツする力も無しか」ゲンドーソーは言い捨てた。「せめて名乗れ!」「アバーッ!」枯れ葉ニンジャは痙攣しながら名乗った。「デッドリーフです!サヨナラ!」断末魔とともにその身体は爆発四散!

ドラゴン・ゲンドーソーのアンブッシュで致命傷を負わされたニンジャが、アイサツとサヨナラを同時にこなして爆発四散した事例
前述の通りアイサツ前のアンブッシュで殺されてしまうようなニンジャはアイサツする価値もないサンシタと見做されるのが通例だが、致命傷を負ってから爆発四散まで間があったこともあり、ゲンドーソーはきちんと自らのニンジャネームを名乗りアイサツ。
さらに突然のことで混乱したまま叫ぶことしかできない敵ニンジャに、せめて名乗ってから死ぬよう一喝。
死の瀬戸際に立たされたニンジャは断末魔と共に「デッドリーフ」の名を名乗ってアイサツを返し爆発四散した。

「相互リスペクト」というアイサツの基本に立ち返った、ゲンドーソー先生の奥ゆかしさが際立つ場面と言えよう。

【アセイルド・ドージョー】より(クリックで展開)

 「ドーモ。シャン・ロア=サン」入場者は階段を前に謁見者めいて進み出たが、跪きはしなかった。彼は挑戦しに来たのだ。アイサツする彼の黒い装束を、橙色の輪郭が縁取っていた。「あるいは。ムカデ・ニンジャ=サン」「……」王の目が細まった。王は首を傾げた。「名乗れ。サツバツナイト=サン」

 腕の一つを長く伸ばし、シャン・ロア王、すなわちムカデ・ニンジャはサツバツナイトを指し示した。「名乗りを許す。カイデンのニンジャよ」サツバツナイトは怯まず見返した。拳を合わせ、オジギした。そして名乗った。「ダイ・ニンジャです」

リアルニンジャ同士の玄妙なアイサツ事例。

先にも触れた通り、現代にあふれる憑依ニンジャは多くの名を持ち、状況によって適宜使い分けているのだが、この点は憑依者ではないリアルニンジャであっても同様である。
しかし彼らの場合、憑依ニンジャに比べると名前の使い分けについてもう少し細緻なルール、あるいは従うべき規範のようなものを持っているようにも感じられる。

この事例もその1つで、憑依ニンジャもよく名乗るニンジャとして「ニンジャネーム」と、ニンジャ社会において最上級と認められたリアルニンジャがだけがもつ「カイデンネーム」を明確に使い分けているのがわかる。

【ザ・シェイプ・オブ・ニンジャ・トゥ・カム】より(クリックで展開)

 「貴方は」笛の男は息を吐き、アイサツしようとした。フィルギアは被せるようにアイサツを先んじた。「ドーモ。フィルギアです」「……フィルギア?この地にて、さような名を名乗り……」男は言葉を切り、吟味するように、今のフィルギアの装いを、アトモスフィアを確認した。「さような出で立ちを」

様々な方面でのネタバレになってしまうため詳細な背景は避けるが、要するに先行アイサツ側のニンジャが「今は自分をこの名前で呼んでくれ」という意味で先んじてアイサツをしている事例である。
ここ以外でもリアルニンジャは「相手の名のレイヤーに合わせた名を名乗る」ことを重視するシーンが多く、いかなる作法の下に名前を使い分けているのかは非常に興味深いところである。

【アルター・オブ・マッポーカリプス】より(クリックで展開)

 「ドーモ。サツバツナイトです」サツバツナイトはクローザーに決断的にアイサツした。そして喝破した。「久しいな、ケイトー・ニンジャ=サン!」「ヌ……!」クローザーは僅かに狼狽した。「何の事やら」だが瞬き一つせずクローザーを凝視するサツバツナイトに、彼は苦笑し、瞬時に装束を纏った。

 「よく見破ったものだ。だが考えても見給え。その認識が罠かも知れんぞ? 私がケイトーだと敢えて貴公に見破らせる事自体が私の罠であったとすれば、貴公は致命的な弱点を晒す事にもなりかねんのでは? つまりだね、私がケイトー・ニンジャと思わせる他の何某である可能性も捨てきれん筈……」「イヤーッ!」

 「シツレイ!」ケイトーはサツバツナイトのカラテを躱し、間合いを取った。「私がアイサツに応じるを待たず殴りかかるとは!」だがサツバツナイトは騙されず首を振った。「オヌシにはアイサツに応じる時間が十二分にあった。礼儀にもとるのはオヌシだ、ケイトー・ニンジャ=サン」「……フン」鼻を鳴らし、オジギを返す。「クローザーです」

「アイサツを返さないのはシツレイ」「アイサツを返させないのもシツレイ」という両ルールの境界線を理解しやすい事例。
この場合、アイサツを受けた側が長々とアイサツ以外の会話を挟み、一向にアイサツを返す気配が見えなかったため、返礼を待たずして攻撃した側はシツレイとはされていない*37
類似の事例として第2部のニンジャスレイヤーVSモスキート戦などがあるが、この場合も同様にアイサツされた側の返礼が遅れたために攻撃されたものの、シツレイとはされなかった。

【デストラクティヴ・コード】より(クリックで展開)

 黒い三角帽(トリコーン)を被ったニンジャは、ニューロン速度で跳ぶ銃弾に、アイサツを込めた。『ドーモ。ハイウェイマンです』アヴァリスは眉間に銃弾を受け、後ろに吹き飛びながら、彼の名乗りをニューロンで聞いた。時間が極限圧縮され、アヴァリスは後ろに倒れる自分を無重力めいて感じた。

先にも少し触れたが、古代のユミ使いのニンジャは「遠距離戦であっても、矢に矢文をつけてアイサツを送る」というアイサツ行為で知られているが、その現代版ともいえるアイサツと言えよう。



◆アイサツ・トリヴィア◆


「実は描写外でアイサツをしているかも?」

先にも何度か触れたが、原作小説内では意外なほど「アイサツを片方が、あるいは両方がしていないイクサ」が頻出する。
ご存じの通り各種ルールの上ではアイサツは必ずしも必須ではないためだが、しかしこれは「実際にアイサツしていないケース」と「実際にはアイサツしているが、描写が省かれているケース」の両方が存在しているらしい。
原作者、またほんやくチームはこれを「解像度の関係」と述べており、本筋に絡まない背景的な意味が強いイクサだったり、あるいはエピソード内のアトモスフィア*38などによっては、アイサツシーンが省かれてしまうこともあるということだ。


「敬礼動作の種類」

アイサツ時の敬礼といえば、作中で圧倒的に多くみられるのが両手を合わせた合掌+頭を下げるオジギを組み合わせたタイプである。
かのアニメイシヨンでもキービジュアルとして多用されたため、原作未読の方々の中にもご存じかもしれない。

しかし原作に登場する敬礼動作は決して一様ではなく、

・<利き手で拳を握り、逆の手の掌で拳を包む、あるいは打ち合わせる>

「遊んでやがる、コイツ!」スーサイドは毒づいた。謎の乗り手は加速するハーレーの真後ろにピッタリと着き、速度をシンクロさせて、決して離れはしない!「すっげェー」フィルギアはシート上で器用に座り直し、真後ろを向いた。顔の前で左手のひらと右拳を合わせた。「ドーモ。フィルギアです」

中国のカンフー映画や歴史映画などでよくみられる、いわゆる「抱拳礼」もしくは「拱手礼」のような敬礼動作だと思われる。
合掌+オジギタイプに次ぐ登場率を誇る比較的メジャーなタイプで、利き手の拳を自らふさぐことでアイサツ中の非戦意志を奥ゆかしくアッピールできるという。
また非戦闘時ではあるが、両手を組み合わせて頭より高く掲げてひざまずく、所謂「天揖」めいた最敬礼をしたケースもある。

・<両手で拳を握り、それを打ち合わせる>

スワッシュバックラーは奇妙な自剣を振った。平たい刀身は鞭めいてしなり、ビュルルと音を立てた。そして白金のニンジャがアイサツした。「ドーモ。ニンジャスレイヤー=サン。ドラゴンベインです」両腕には鷲を象った無骨なセスタスが装着されている。拳と拳が打ちあうと、澄んだ高音が広間に響いた。

↑のタイプに近い敬礼であるが、比べるとややこちらの例は少ない。
ちなみにアニメイシヨンでは、#11【メナス・オブ・ダークニンジャ】にてダークニンジャがこれにオジギを組み合わせた敬礼動作を行ったが、実は原作ではそうした詳細な動作の描写はない。
ライバルキャラとして、主人公のアイサツに対するビジュアル的な個性を出しつつ、きちんと原作に依拠はするというリスペクトも忘れないアニメイシヨンスタッフの見事なワザマエである*39

・<両手を腰に添わせたままオジギする>

トビゲリ・アンブッシュを決め終えたニンジャスレイヤーは、素早くバク転を3回決めて体勢を立て直す。そして両手を腰にぴったりと添え、ノトーリアスの機先を制するように、素早くオジギを決めて精神的優位に立った。「ドーモ、サヴァイヴァー・ドージョー=サン。ニンジャスレイヤーです」

我々日本人が改まった場やビジネスシーンなどでよく行う「お辞儀」に酷似した敬礼だが、作中では非常に珍しいタイプで、少なくともニンジャ同士のイクサ前アイサツとしては殆ど例がない。

・<片手のみで合掌様のしぐさを行う>

猶予はもはや無い。ニンジャスレイヤーは眠るナンシーに失礼を詫びる片手アイサツをした後、フートンを剥がした。そして患者衣姿のナンシーを抱き上げた。その身体が、電気ショックを受けたように、数秒間、ニンジャスレイヤーの腕の中で激しくふるえた。ニンジャスレイヤーは目を見開いた。

時代小説などでよく登場する、所謂「片手で拝む」タイプの敬礼動作で、我々にとっては比較的身近なものだが、ニンジャの戦闘前アイサツとしては希少と言うか、実は現時点で例が無い幻の敬礼動作。
ただしイクサ時ではない普通のアイサツとしては使用例もあり、また原作陣営の監修の上で製作されているコミカライズ版においても何度か登場している。
なお、現実の挨拶においても古来より伝わるものは、洋の東西を問わず速やかに攻撃態勢に移れない姿勢を相手に見せることにより、生殺与奪の権を相手にゆだねることをもって敬意を示す動作がもとになり、儀礼化したもの*40が多く見られる。
その点で考えると、片手が空いていて攻撃態勢に移りやすいこの姿勢は攻撃の手を止めていることを示すことが重要なニンジャ同士のイクサ前に行うアイサツとしては適さないのかもしれない。



などなど、多彩な敬礼動作が登場する。
また人型を外れたタイプのニンジャの場合だと、もはや全くテンプレートが通用しないような敬礼動作を取ることもあるが、ニンジャは本能的にそれがアイサツなのか否かを感じ取ることができる。


「何語でアイサツしてる?」

ニンジャスレイヤーにおいては、原則として「今登場人物たちが何語でしゃべってるか」という点はあまり取りざたされない。
日本語と英語など、複数の言語の使用を重点描写されているのは、かのラッキー・ジェイク?や、あるいはロシア人?ニンジャのサボターなど、ごくまれである。
作中のニンジャは日本を発祥としているし、ニンジャ関連の用語も多くが日本語なのだが、アイサツも日本語で交わされているかどうかは今のところ不明である。備えよう*41




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*1 編注:状況に対し過不足なく適切であり、また品のあるさま
*2 編注:七音社が開発、ソニー・コンピュータエンタテインメントが販売した1996年発売のプレイステーション向けリズムゲームソフト
*3 編注:「三下」か。礼儀作法や戦闘力に欠け、至らぬニンジャであると軽蔑される存在のこと
*4 編注:「戦」か。ニンジャにとっての戦闘、とくにニンジャ同士の戦闘のこと
*5 編注:ニンジャスレイヤーでは日本語がフルサポートされない
*6 編注:歴史書かそれに近い古代の書物のようだが、我々の知る日本の歴史書『古事記』と共通する部分はいまだ確認されていない
*7 編注:「サラリーマン」か
*8 編注:「お辞儀」か。我々の常識でいうならば、お寺関連で行う礼(「お坊さん」のお辞儀など)が見た目的には近いと思われる
*9 編注:「どうも」か
*10 編注:「空手」か。多義語だが、この場合は肉体的能力、及び鍛錬のことで、端的に言えばカンフー映画で言うところの「功夫」と同意。
*11 編注:「座禅」か。座って行う瞑想トレーニングのこと
*12 編注:「術」か
*13 編注:厳密には第1部~3部における時系列
*14 編注:“Meme”か。模倣を通じて変化しつつ継承・拡散されていく文化情報のこと。ミーム。
*15 編注:”Clan”か。同門の仲間、師弟などで構成される集団のこと
*16 編注:「勲」か。功績、勲功、特にイクサでのそれのこと
*17 編注:「村八分」か。対象者を無視や疎外といったソーシャルハラスメント対象にする刑
*18 編注:言葉は「けじめ」だが、作中の意味としては「指詰め」が近い。また現実の指詰めと違い本作では純粋に失敗に対する罰として一般社会でも行われていること、そして切除対象も小指の第二関節に限らずケジメの度に残った指を切除させられ、重い場合は四肢すら自主的に切除させられる。
*19 編注:「切腹」か。自殺刑
*20 編注:”Procedure”か。「手続き」「手順」「作法」のこと。実際の日本語ではプロシージャと読むことが多い。
*21 編注:ニンジャ、特に古代の強力なニンジャや現代の重バイオニンジャには、異形化のあまりに言語能力や発声能力を喪失している者もいる
*22 編注:「書道」か。(主として毛筆による)カリグラフィー技術、及びそれによる筆記行為、及びそれにより書かれた文字や作品などを指す。また、単純に「文字」を意味する用法も見られる。
*23 編注:「失礼」か。礼を逸したとみられる行いのことだが現実の意味より重く、シツレイ行為者には死も含めた厳罰を伴うことが多い。「無礼」のニュアンスも含むと考えると分かりやすいか。
*24 編注:編注:ニュービー=新参、ヘッズ=ファンの意。前者は英語圏での一般的スラングだが、後者はロックバンド「グレイトフルデッド」のファン「デッドヘッズ」に範をとったニンジャスレイヤー特有の造語「ニンジャヘッズ」の略。
*25 編注:“ambush“か。奇襲、不意打ち攻撃のこと
*26 編注:この場合は直接的な戦闘能力のこと
*27 編注:「手裏剣」か。ニンジャが使う鋼鉄製の投てき武器で、形態的には我々が知る手裏剣に近い
*28 編注:「弓」か
*29 編注:服装や同行者にニンジャがいたこともあるが。
*30 編注:「下剋上」か。ゲコクジョウとも。立場が下の者が、上の者に反乱をおこすこと
*31 編注:「凄い失礼」か。シツレイの最上級表現
*32 編注:主にスリケン投擲や視界外からのアッパー、蹴り上げなどが多い
*33 編注:哲学的な何かを感じる、とても禅的でかっこいい
*34 編注:ヤクザだね
*35 編注:チェインボルトは「ザイバツ・シャドーギルド」、漢字表記で「罪罰影業組合」に所属するニンジャ
*36 編注:この場合は戦闘行為のこと
*37 編注:トドメオサセー!!
*38 編注:“atmosphere”。雰囲気?とか空気?とかなんかそんなの
*39 編注:ウィーピピー!
*40 例えば武器を持つ利き手で兜の庇を上げる動作が由来の敬礼など
*41 編注:備えよう