NHK大河ドラマ/Include

Last-modified: 2024-05-25 (土) 13:44:04

2010~2019年

※一覧

前の十年と傾向は同じだが、NHKの迷走が激しくなってきた。
平均視聴率で「花の乱」以下の作品が五作も登場する程であり、以前は頻繁にあった20%以上の数字が出ることも大げさではなく極めて稀になり、それまで殆どなかった一桁の回も頻発するようになった*1
しかし低視聴率の作品に対する全体的な評価は『「花の乱」同様に好きな人は徹底的に好きだけど万人受けはしない、むしろ嫌われる』または『単純な出来の悪さや賛否両論で左右にぶん殴る』という傾向に分かれていた。
ただし2010年代中盤以降はその骨太な出来、意外な展開、そして魅力的なキャラクターから高視聴率を記録したり、SNSで高評価を得ている作品も現れており、視聴率だけが総合評価ではない事を印象付けた。
最も、従来から土曜日の再放送やBSプレミアムなどでの先行放送があることに加え、近年の録画機器の普及や有料動画配信サービスのNHKオンデマンドの存在により、
視聴スタイルが激変したことで従来の視聴率だけでは成り立たなくなったことも忘れてはならない。
また、「いだてん」からはBS4K放送がスタートし、地上波やBSプレミアムよりも最も早い日曜午前9時から放送されている。

なお、大河ドラマ枠での放送ではないが2016年から2018年までは3シーズンに分けて大河ファンタジー「精霊の守り人」が放送されている他、
2017年2月には大河ドラマを公式が盛大にパロった深夜ドラマ「空想大河ドラマ 小田信夫」が放送された。

龍馬伝

放映期間:2010年
原作:なし
主人公:坂本龍馬(演:福山雅治)
時代:幕末
脚本:福田靖

1968年以来となる坂本龍馬モノ。坂本龍馬が拠点をおいた長崎出身の福山雅治が坂本龍馬役を演じた。
維新回天が成った後、三菱財閥の領袖にのし上がった土佐出身の岩崎弥太郎から語られる龍馬の話という形を取っている。
ちなみに記者が取材に来たのは「維新の影で活躍した土佐藩の人物がいるそうですが?」という理由。
坂本龍馬が維新後すぐはマイナー人物だったという史実から来ている。
篤姫で人気を博した幕末モノだったが、幕末モノは伸びない法則が適用され天地人より視聴率は落ちた。一応、前回の坂本龍馬主役の大河『竜馬がゆく』からは4%くらい上げている。
本作の1年前に放映されたドラマ版『JIN-仁-』に登場する、内野聖陽が演じた坂本龍馬の評判が非常によかった為、そちらと比較されてしまったのも一因だろう。
なお、最終回、近江屋事件の龍馬暗殺シーンで愛媛県知事選挙の当確速報テロップが出たため、苦情が殺到する事態にも発展した。
TEAM NACSのメンバーが演じた役柄がやたら不憫なのは気のせいだろうか……*2

チーフ監督を務めたのは大友啓史。後に監督を務めた実写映画『るろうに剣心?』シリーズでも本作のキャストの何名かが出演している。
OPのクレジットは2年連続で横書き。

江~姫たちの戦国~

放映期間:2011年
原作:田渕久美子「江 姫たちの戦国(書き下ろし)」
主人公:江(演:上野樹里)
時代:戦国時代~江戸時代前期
脚本:田渕久美子

通称:シエ。あるいは「スイーツ大河」など。
浅井家の三姉妹の人生は散々ドラマ化されるだけのドラマチックなものであって題材は悪く無いうえ、
「篤姫」を成功させた田淵久美子脚本なのにどうしてこうなった……という出来。
(史実では燃えていない)小谷城が炎上する*3、信長が死の間際に江の幻を見る、その信長の亡霊が江の危機を(物理的に)救う、
本能寺の変後の明智光秀に会いに行って説教する、清洲会議を盗み聞きする、近江・大坂・江戸を簡単に行き来する、
徳川秀忠が大坂の陣直前に一人で大坂城に乗り込んで秀頼・淀殿と直談判しようとする、
文禄の役で豊臣秀勝(江の2番目の夫)が朝鮮の民衆を庇って家臣に斬られ現地の子供と交流して非戦思想を持つ…などなど、
史実における有名人物・事件に(本来関わっていない)江を無理矢理*4絡ませようとする姿勢や、
そのくせ史実と全く乖離している上に当時の思想や風習も丸無視した展開、
さらには「光るものを持っている」などのふわっとした理由で江をやたらと持ち上げる(史実の有名人を含む)周辺人物等、ツッコミどころを挙げていけばキリがない。
9歳の姫様が神君伊賀越えに参加して無事生還できるわけねぇだろ! いいかげんにしろ!
三姉妹の子役時代がほぼ無い(江6歳時点で既に上野樹里(当時24歳))のもどういうことだったのだろうか。
ただ、戦国ものでもスルーされがちな朝鮮出兵を時間を割いて描写したことだけは評価できるという声も。

東日本大震災による放送休止の影響か、予定より話数が1話削減された。
また、慶長伏見地震と思しき描写は、単なる伏見の徳川屋敷の火事(原因は侍女の失火)として扱われている。

男性陣(信長・光秀・秀吉・家康・浅井・秀次あたり)の評価は高く、「こっちが主演の大河で良かったんじゃね?」という声もちらほら。
幕末モノで数字が出ないと言われる龍馬伝を平均視聴率で下回ったのも宜なるかな。17話までは20%以上の回もあったが、それ以降は一度も20%以上を記録できずに終わった。
当作品終了以降、今日に至るまで視聴率が関東地方で20%以上の回は何とたったの3回しかない。*5
2011年の大河は坂の上の雲第三部という意見もないことはない。

平清盛?

放映期間:2012年
原作:なし
主人公:平清盛(演:松山ケンイチ)
時代:平安末期
脚本:藤本有紀

7年ぶりとなる平安末期・源平争乱モノ。脚本は『ちりとてちん』やドラマ版『Q.E.D. 証明終了?』を手掛けた藤本有紀。
今回は時代を反映したセットを作り、しっかり平安末期を描こうとした…のだが、
セットが結果としてみすぼらしくなってしまい、当時の兵庫県知事から的外れな批判を受けたり(対照的に神戸市長はフォローするような発言をしていた)、
皇室(あるいは皇族)を研究家内でも賛否ある「王家」呼びして要らん問題を引き寄せたりと、周辺が囂しかった。
下手に触れるとこうなるため、南北朝時代など時の天皇や上皇がハッスルした時代はやりにくいのである。
さらに中盤でオリンピック中継が入って潰れる、夜8時に濡れ場的描写などマイナスも多く、視聴率は伸び悩み花の乱すら下回るワースト記録を達成してしまった。
後に並ぶ作品が出てくるが、回ごとの最低視聴率ではワースト2位。39~42話にかけては全て一桁、源氏が決起する45回に至っては7.3%と2012年時点での史上最低記録を出してしまった。

しかし、批判を受けても史実重視で作ったセットのこだわりなど見るべき面はあり、むしろシンプルなキャラが少ないレベルというエキセントリックな登場人物たちや幻想的な演出、
男同士の濡れ場を示唆するようなシーンなども一部で受け、2012年Twitterでもっとも話題となったドラマになった。
実写映画版デスノート?L?役の松山ケンイチと、後に連続ドラマ版デスノートで夜神月?を演じた窪田正孝が清盛・重盛の親子役で出演している。
同人方面も盛り上がり、本Wikiにも項目が立っている。
良くも悪くも見る人を選ぶもののクオリティは決して低く無い作品のため、興味のある人は一見の価値あり。

八重の桜

放映期間:2013年
原作:なし
主人公:新島八重(演:綾瀬はるか)
時代:幕末~明治中期
脚本:山本むつみ、吉澤智子、三浦有為子

2011年の東日本大震災を受けて急遽福島出身の新島八重を主人公に据えた企画を立ち上げて作った大河である。
幕末、逆賊となってしまった会津藩で官軍にスペンサー銃をぶっ放して戦い、
維新回天後は新島襄の妻として夫の夢である同志社大学設立に奔走し、日清戦争で看護婦として活躍した新島八重の人生を描く。
当初は朝ドラでやれと言う下馬評もあったが、蓋を開けてみてば安心の大河クオリティ。
八重がスペンサー銃を構えてぶっ放すシーンは非常にかっこいい。
綾瀬はるかのそれまでのイメージをひっくり返す当たり役と評する人も多く、本人も非常に印象に残っているらしい。
他にも、松平容保役の綾野剛?の本人が乗り移ったと言われるほどの役への入れ込み様や、胡散臭さ満点の徳川慶喜役の小泉孝太郎等、若手男性陣のハマりっぷりも見どころ。
「西郷」繋がりで会津藩の重役西郷頼母(維新時38歳)を福島県出身の西田敏行(『翔ぶが如く』版西郷隆盛、当時66歳)が演じるという小ネタもあったりした。
ただし明治期以降は駆け足気味の描写となり、会津藩関係者も殆ど出なくなり、例によって低予算のシーンが増えたため、悪い意味でも大河クオリティだった。
それでも藩閥政治とその問題点、明治期のキリスト教史など、同時代を舞台にした他作品ではあまり触れられない要素を真正面から描いているため、
後半も明治期を描いたドラマとしては良作という声も。
あと腕相撲の回?は腹筋崩壊もの。

後半やや落ち込んだものの、視聴率は前作より回復した。とは言え花の乱から少し上げただけとすこし寂しい結果となった。
また、タイムスクープハンター?とタイアップしたり漫画雑誌『ジャンプSQ.?』等でコミカライズが行われるという一風変わったプロモーションが展開された。

軍師官兵衛

放映期間:2014年
原作:なし
主人公:黒田官兵衛(演:岡田准一?)
時代:戦国~安土桃山時代
脚本:前川洋一

秀吉の軍師として知られ、後半生は秀吉も恐れたとされる怜悧な智謀の士・黒田官兵衛の人生を描く。
物語の前半では「戦は嫌じゃあ!」等と言っていた主人公が、
有岡城幽閉を経て脚を痛めてからは人が変わったように悪い顔して悪辣な策を囁く暗黒軍師と化し、視聴者をびっくりさせた。
なんでも岡田准一と竹中直人が人物像について製作に意見した結果だとか。
それでも近年の戦国大河の主人公と同じく、基本的に「戦のない世を作る」のが最終目標。
なのに最終回でヒャッハーしたのは謎展開なのだが……史実最後の九州切り取り大暴れと、作中思想の折り合いが付かなかった結果であろう。
終盤の非常に悪い笑顔で活躍する官兵衛は必見。
竹中直人を秀吉として再登板させるなど話題作りに腐心したが、前作は越えたが視聴率は伸びきらなかった。
晩年の黒い秀吉を積極的に描こうとしていた割には、秀次事件や朝鮮出兵は終盤が低予算化する関係もあってなおざりに触れる程度と、やや中途半端だった感は否めない。
しかし関西圏や北部九州といった官兵衛の「お膝元」ではかなり高い視聴率となっており、地域性が出る結果になった。

劇伴はジョジョの奇妙な冒険?などでおなじみ菅野祐悟。
黒田長政役の松坂桃李?他、特撮出身のキャストが多数出演している。
また小河良利役で出演するはずだった石田太郎(80年代版ウルトラの父?)が撮影前に急逝したため、代役として磯部勉(魔導騎士ウルザード?)が登板している。
無双シリーズ?の『戦国無双4』ではコラボ衣装やエディットパーツが配信された。
因みに主演の岡田准一氏は歴史が好きで、黒田官兵衛の有名な台詞である「ご運が開けましたぞ」を言えて嬉しかったらしい。
OPクレジットは4年ぶりの横書きだが、次の横書きの作品は2023年の『どうする家康』まで出てこない。
語り手は当初は藤村志保だったが、フガフガ声独特な語り口が賛否両論となり、その上大怪我して入院したことから、7話以降は元NHKアナウンサーの広瀬修子に交代した。

花燃ゆ

放映期間:2015年
原作:なし
主人公:杉文(演:井上真央)
時代:幕末~明治中期
脚本:大島里美、宮村優子、金子ありさ、小松江里子

ひとことで言うとシエとほとんど同じ轍を踏んでダダ滑りした。
登場しても良いはずの重要人物(長州藩士や主人公の姉も含む)が大勢登場しなかったり、出ていてもわずかな出番だったり、
多少の史実をスルーするのは大河でもよくある事とは言え、殆どがナレーションで済まされるなど、ピックアップのやり方は大いに突っ込まれた。
幕末物で大政奉還について一言も触れないというのは流石にないだろう……。

同じくマイナーな幕末女性主人公だった新島八重とよく比較されるが、あちらは(歴史ファン以外への知名度こそ無かったものの)激動の人生を力強く歩んだ女性だったのに対して、
こちらは歴史の表舞台で活躍したと言える時期が「再婚した群馬県令の妻だったころ」位では、どうしても捏造部分が多くならざるを得ない。
しかも前線で銃をぶっ放していたヒロインの記憶がまだ新しいのに「家で健気に夫の帰りを待つのが妻の戦いよ!!」とか言われても……
群馬県令も大物チックに描かれていたが、「篤姫」の小松帯刀みたいに大久保や西郷という巨魁に埋もれてしまったタイプではなく、どうも地味。
おまけに群馬県令時代最大の事件である県庁移転問題を華麗にスルーしたため地元民からもそっぽを向かれた。
身もふたもないが、吉田松陰の妹で久坂玄瑞の妻(しかも久坂には邪険にされていた)ってだけの人物を主人公に据えたのが間違いだったし、
(ただし戦時中に「杉文」を主人公にした本が一冊存在したことも確か)
そもそも「『花神』である程度長州ネタ総ざらいしちゃった」感がある。
かといって他に長州系で一年持ちそうな人物となると「こと死去時の事件にうかつに触れると隣国から苦情が来る人」くらいしか……(本作でも出番自体はあるけど)

「八重の桜」で長州藩士をテロリストのように描いて長州ファンや地元民からクレームが来たためバランスを取るために作られた、とまことしやかに噂される。
……のだが、その「八重の桜」は「長州にも義はあった」としっかりフォローしている上に、木戸孝允や槇村正直などは「クセは強いが魅力もある」人物として描かれている。
対して本作の長州藩士は「突然中二レベルの薄っぺらい主張を声高に叫び、政権転覆を主張する」「意味もなく軍を率いて上京し挙句勝手に乱を起こす」などの描写(というより描写不足)のせいで
よっぽど救いのないテロリストっぽいと言われることも。
また「山口県が選挙区の安倍晋三総理に媚びた」という噂もあるが、だったら何でリアルに吉田松陰と接点のあった安倍総理の先祖が一コマも出なかったのかという疑問がある。

プロモーションも斜め上にすっ飛んでいくようなものだったりどうしたらよく見えるのか…という塩梅であった。
視聴率も第三回以降は15%すら越えられず、平均視聴率はワースト3位タイの12.0%、厳密に言えば平清盛を0.01ポイント下回って実質ワースト2位である。
底の深さでは清盛やいだてんに軍配が上がるものの、浮上するきっかけすらなかったといえよう。
脚本家4人体制というのも異例(最初は2人だったが、視聴率が伸びず新たに入れたがそれでも伸びなかったという感じ)。
なお、そのうち1人は時代劇初挑戦で、「家長とは一緒に食事しないとか、各自にお膳があることも初めて知った」と歴史に疎い発言もある。
脚本がこんな体たらくなのに、このご時世で幕末の長州藩士をテロリストに見えないように描けというほうが無茶だ。

しかもよりによって、単体でもトホホな本作は後半になって凶悪な刺客が身内のNHKから出現したのである。
それがこの年の下半期の朝の連続テレビ小説で、本作と同じく幕末から明治期を生きた女性を描き、平均視聴率23.5%を記録し今なお根強い人気に支えられる『あさが来た』。
シナリオの質も時代考証も良く、魅力的なキャラクターも多かった『あさが来た』は回を重ねる毎に評判を上げ、本作と明暗を大きく分けていくことでも当時話題になった。
口の悪い御仁には「2015年の大河は『あさが来た』だろ」などと言われる始末である。

ナレーターを務めたのは赤い彗星?こと池田秀一?であった。
また、川井憲次担当の松陰の辞世の句を歌詞として取り入れたメイン・テーマは、本編の評価に反して大河ドラマ屈指の名OP曲。OP詐欺? 何故松陰を主人公にしなかったって? 言ってやるな。
なお、主演の井上真央にとって本作は自身のキャリアに傷をつけた黒歴史同然らしい。そもそも脚本の不出来が批判されているのに会見で主演に「私の力不足」とか言わせてる時点で……

真田丸

放映期間:2016年
原作:なし
主人公:真田信繁?(演:堺雅人)
時代:安土桃山時代~江戸時代前期
脚本:三谷幸喜

大坂夏の陣において「日の本一の兵」と言わしめた真田信繁(幸村)。
その信繁を主人公に、武田家滅亡後、有力国人に過ぎなかった真田家を大名に発展させた父・真田昌幸、
徳川家臣の大名として真田家を守り抜いた兄・真田信之ら真田家全体を戦国を渡る「一艘の船」として描く。

脚本は『新選組!』以来の登板となる三谷幸喜。
当初は「講談(真田十勇士)ではなく史実準拠で描く」とのことで不安の声もあったが、考証に基づいた骨の通った脚本は健在であり、概ね好評である。
汁かけ飯を食う北条氏政、家康を前に居眠りをする本多正信など、歴史好きをニヤリとさせるシーンも随所に登場する他、
「真田太平記」で真田幸村を演じた草刈正雄が真田昌幸役でカムバックしたり、
北条氏政役の高嶋政伸や秀吉役の小日向文世らの不気味さが尋常じゃないなど、大物のキャスティングが絶妙。
「黄金の日日」で呂宋助左衛門を演じた九代目松本幸四郎が、呂宋助左衛門として衣装もそのままに登場するなどの心憎いファンサービスも。
さらに十勇士こそ登場しないものの、史実にモデルとなった人物がいたことで「佐助」は信繁の忠臣として登場しており、
服部半蔵や、名前こそ出ないが北条の風魔忍軍と忍者対決をするなどの活躍を見せている。

ストーリーは「青春篇」「大坂城篇」「九度山篇」「大坂の陣篇」の四部構成で、
信繁という若者が武田家の滅亡から豊臣政権の興亡まで戦国時代を駆け抜けた、15歳から48歳、33年間の物語となっている。
主人公・信繁は「なるべく犠牲を出さずに戦国を終わらせたい」という最近の大河主人公らしい考えを抱くが、そこから「謀略策略駆使して犠牲を最小限に抑える」という方向性に弾け、
やがて自分を気にかけてくれた秀吉への恩義から、敗者である豊臣方の人間でありながら「最期まで望みを捨てずに生きる」という信念を持って戦い続けていく。
あくまでも信繁、あるいは真田家視点に徹し、真田家が関わらないところは本能寺の変や関ヶ原の戦いでさえ速攻で終わらせ、
むしろ以後の混乱にフォーカスを当てるなど、徹底的に最初から最後まで「真田家の戦国」を描くことに終止している。

史実で信繁が大坂の陣まであまり戦場で活躍していなかった一方、滅びゆく戦国武将たちと関係があったことを逆手に取り、
本能寺の変で空白地帯と化した甲信地方の争奪戦いわゆる「天正壬午の乱」や、
家族経営のブラック企業と化した大坂城の情勢に振り回されつつ必死に駆け回る中で武田・上杉・北条・豊臣と様々な英雄たちの思いを背負い、
最後の大坂の陣では信繁が積極的に自分の武勲を捏造して士気を上げていくなど、後に講談が生まれた理由も描写している。
またその構成を利用して序盤は予算を抑え、クライマックスの大坂の陣篇で一挙に資金を投入して合戦シーンを撮影する方針は極めて効果的で、
特に終盤に向けた四十話「幸村」と四十四話「築城」はこれまでの積み重ねが一挙に意味を為してくる、長期放送の大河ドラマならではの回であった。

また優秀な武将だが行き当たりばったりでやること為すこと上手くいかない真田昌幸、
大名として必死になって真田家を守ろうとするが父・弟へのコンプレックスがある真田信幸、
人が良すぎて義を重んじるためホイホイ引き受けるが実行できない上杉景勝、
恐ろしいほど有能かつ冷酷な独裁者から次第に耄碌していくが孫のように信繁を可愛がる豊臣秀吉、
決して無能ではないが叔父からの重圧に潰れていく豊臣秀次、優秀で義理堅いが頭も堅いため孤立を深めていく石田三成、
悪辣で腹黒で執念深いが小心で理を重んじ情に篤い最後の戦国武将・徳川家康、天真爛漫だが虚無的な淀殿、
秀吉の後継者として才覚を発揮するも未熟なため情勢を読めない豊臣秀頼など、
各人を一方的に善人・悪人、優秀・暗愚と描くのではなく、正負両面を描写しているのも特徴。
最後まで扱いが残念だった大蔵卿は泣いていい。
が、彼女もまた「戦がわからないし浪人を信用しない」という面が強調されているだけで、「豊臣の御家大事で戦反対」という女性らしい心情はきちんと表現されている。
それに臣下であった徳川によって追い詰められた状況下では、浪人たちではなく豊臣家が勝たねばならないと思い詰めるのも無理はない。

そもそも主人公の信繁からして知恵者ではあり戦術面では優れているが、自分で大きな戦略や軍略を描くことは出来ず、大業を成す器ではない?という形で描かれており、
最後に立ちはだかる敵であり、常に大局的視点で動き続ける家康との対比が最後まで描かれた。

他にもあの高木渉?が俳優として出演していたり、思いつきだけで行動する父に振り回される信幸を評しての「真田丸どうでしょう」、
室賀正武の繰り返される「黙れ小童!」、大河史上最速級の退場をする織田信長、
各大名が本能寺の変後の混乱から必死に立ち直ろうとする中マジで必死の伊賀越をする徳川家康
今にも仮面ライダーに変身しそうな顔をした本多忠勝を指しての「あまりに恐ろしい舅」、明国攻めを描くかわりに史実準拠で開かれる肥前名護屋城大仮装大会
全く出てこないと思っていたら終盤ナントカ官兵衛呼ばわりされる前々作主人公*6
そして、登場人物の死を有働由美子アナの淡々としたナレーションのみで告げる演出(通称「有働砲」「ナレ死」)などが視聴者の間で異様な盛り上がりを見せるなど、ネタにも事欠かない。
ちなみにこの「ナレ死」の反響は早々に製作側も把握していたらしく、二十六話ではナレーションの途中を息を吹き返し、いくらか大事なセリフを語ったあと改めてナレ死で退場という逆手に取った演出もされた(※字面はギャグっぽいけど真面目なシーンです)

ただし、『新選組!』同様にこれら喜劇的な部分はかなりの賛否両論である。
特に序盤はメインヒロイン格のきりがウザいとか、史実では優秀で活躍した兄・信幸の扱いが悪すぎるなどの批判が多かった。
ただ、きりのウザさは武将ではないただの娘(正室側室はもちろん大名家の姫ですらない地元豪族の娘)としての視点のためで、信幸も才覚を発揮するのは老成してから。
加えて言えば信繁を含めた彼ら全員がまだ十代後半から二十代前半、関ヶ原でやっと三十代になる若者だった事が大きい。
一気に十数年経過する九度山篇を経て、信繁は一人の武将として世に打って出る決意を固め、長く信繁の傍にいたきりは彼の正室側室たちを纏めていく重要な役割を担い、
信幸もまた一人の大名として戦後の真田家を背負っていくべく策を練るなど、終盤に向けて成長を見せてくれる。

結果的には初回視聴率19.9%、最終回視聴率14.7%、平均視聴率16.6%と、過去五年間の大河ではトップの記録を残したので、大成功と言って良いだろう。
特筆すべきは地上波より1時間前倒しで放送されるBSプレミアム(通称早丸)の高視聴率で、
「3%で健闘」と言われるBSにおいて平均視聴率4.7%、最後の10話は全て5%を突破するなど、歴史的な数字を残している。

ちなみに劇中のCGは大河ドラマから多くの影響を受けている「信長の野望」を手掛けるコーエーテクモグループが担当している。
シブサワ・コウによるCG地図を使用した解説のわかりやすさは概ね好評で、『信長の野望』の方にも『真田丸』仕様の大坂城のDLCが配信予定である他、
本格的にコーエーテクモとコラボし、真田幸村(信繁)の生涯48年間を描く「戦国無双真田丸」も発売決定している。
このゲームには、『真田丸』に使用されているCG地図を逆輸入されており、初回特典として『真田丸 真田信繁赤備え』のダウンロードシリアルが封入されている。
別にコラボはしていないが『戦国BASARA』もこの流れに乗って真田幸村?が主役の似たようなゲームを出した。
また本作のキャストの内信之・稲夫婦と塙団右衛門の演者は2017年の舞台『子供の事情』、
大谷吉継の演者以下他のサブキャスト陣は2018年のNHK正月時代劇『風雲児たち~蘭学革命(れぼりゅうし)篇~?』で再び三谷作品に出演している。

おんな城主 直虎?

放映期間:2017年
原作:なし
主人公:井伊直虎(演:柴咲コウ)
時代:戦国時代
脚本:森下佳子

遠江の国人として徳川家康に仕え、譜代の大藩・彦根藩の祖となった井伊直政。
その井伊直政を育て、一時的に女性ながら井伊家当主として支えた井伊直虎の生涯を描く。

井伊直弼の生涯から始まった大河ドラマは、54年目にしてついに彼の先祖の物語にまで至った。
本作の脚本の森下佳子は『JIN-仁-』で時代劇脚本執筆経験がある。
2年連続の戦国もので、今までかたや「徳川四天王・徳川十六神将・徳川三傑の一柱」、
かたや「織田信長に桶狭間で倒される暗愚な大名」というイメージ優先でしか描かれることの無かった井伊家・今川家に焦点を当てた作品。
主人公がまた女性であること、本人が井伊谷城を巡る戦いを三度経験しただけなこと、
桶狭間以外の戦国大事件にほぼ関わることなく1582年で亡くなること、恋愛関係が重点されるような予告から、早々に出来が懸念されていた……

……だが蓋を開けてみると、戦国の殺伐さ・理不尽さもしっかり描きつつも、中心人物三人を始めとするキャラクターをしっかり掘り下げ、
戦国時代という動乱の中、過酷な運命に立ち向かっていく小領主の物語であった。
予告編で一部の登場人物が当時の成年としてはあり得ない格好をしていたことにもちゃんと意味があることが明かされたり、意外なほど骨太な作りだった*7

その一方、この健気な人々が今後次々井伊家に降りかかる苦難*8に翻弄される姿を見せられるのかと戦々恐々としている人もおり、
案の定、父以上に苛烈な支配体制を敷く今川氏真とそれを操る女大名寿桂尼の前に、井伊家の男たちが次々と死亡して女子供しか残っていない状態となり、
そんな中で1人生き残った小野但馬守政次が井伊家を守るために主君を売ってまで今川に屈し暗黒面に染まっていくという、
前年の清々しいまでの智謀知略のぶつかり合いとは正反対のハードな描写へと急転している。
男だけがほとんど灰色に染まった公式HPの相関図は衝撃的である。

その後直虎が井伊家の当主、そして「おんな城主」となる形でようやく新章が開幕したが、
それ以降も今川家の圧力、家臣や農民との仲違い、更に事あるたびに邪魔をするような態度を示す政次など苦労の連続。
しかし、そんな中でも直虎は諦めずに奮闘を続け、その政次を含めた頼もしい家臣たちと共に井伊谷、そして井伊家を立て直していく事になる。
だが、その果てで彼女たちを待っていた結末、そして直虎が取った選択は……。

そして、物語は虎松改め井伊万千代――後の徳川四天王の1人、井伊直政へと受け継がれていく。

中野直之と奥山六左衛門の「ユキロック」こと凸凹家臣コンビ、架空の人物ながら非常に重要な役割を担った龍雲丸、銭の犬こと瀬戸方久、
情に厚い徳川家康、これまでに無い側面が描かれた今川氏真など魅力的なキャラクターが非常に多い作品だが、
特に上記の高橋一生氏が演じる小野但馬守政次は、それまでの伝承で「井伊家を陥れた極悪人」というイメージが強かったのを、
家臣としての責務、代々家に受け継がれてきた暗黙の矜持を見事な演技で昇華させたとファンから高く評価された。
その人気は物語退場後も続き、彼をテーマにした「鶴のうた」という緊急特盤CDまで制作されるに至っている。

白黒を つけむと君を一人待つ 天つたう日ぞ 楽しからずや

また今作のサブタイトルは総集編も含めて古今東西の様々な映画・テレビドラマなどの作品や一節を捩ったもの?になっており、
おとわ危機一髪」「罪と罰」「ぬしの名は?」「嫌われ政次の一生?」「井伊を共に去りぬ」「信長、浜松来たいってよ」など分かりやすいものから、
虎と龍」「死の帳面?」など一捻り加えたものまで様々。
その範囲は「おんな城主対おんな大名」「虎松の野望?」、前年のパロディ返しとも言える「逃げるは恥だが時に勝つ」、
果ては脚本を手掛けた森下佳子女史の作品から取られた「天正の草履番」まで節操がない。
一方で第4回「女子にこそあれ次郎法師」は史実の直虎の詳細を記した数少ない資料「井伊家伝記」の一節から取られた他、
物語の大きな節目となった第12回は、今作のタイトルがそのままサブタイトルになっている。
なお、これらの元ネタについては番組終了後の公式ツイッターでそれを連想させるツイートが投稿されており、その中で第49回「本能寺変」はただのダジャレだとぶっちゃけられている。

放送前に発売されたノベライズはなかなかハードな展開だったらしいが、
ドラマ本編でも解死人、人身売買など、放送コードギリギリのラインで中世戦国時代の荒んだ世情をちょくちょく導入している。
史実的大事件に絡んだことが少ないがゆえに世情を描くしかないというところもあるが、マニア受けは相当する部分もキチンと描いており、評判はかなり高い。
全話の平均視聴率こそ12.8%と歴代大河ドラマワースト4位となってしまったものの、
2017年のツイッターで最も話題になったドラマとして「#Twitterトレンド大賞」ドラマ部門で1位を獲得したり、
地元の「大河ドラマ館」の入場者数があの『篤姫』を抜く歴代2位を記録したり、視聴率だけでは測れない人気ぶりを示す結果を見せた。

西郷どん

放映期間:2018年
原作:林真理子「西郷どん!」
主人公:西郷隆盛(演:鈴木亮平)
時代:幕末~明治前期
脚本:中園ミホ

2018年放送。平成内で完結する最後の大河となった。
1990年放映の「翔ぶが如く」以来28年ぶりとなる西郷隆盛主役の大河ドラマ。
ちなみにタイトルの読みは「さいごうどん」ではなく「せごどん」。
放送開始と同時期に単行本が発売された。

「政治的な話ではなく、西郷隆盛の人生を描く」という脚本家のコメント及び原作展開からやっぱり不安の声があがり、
今までメディア作品であまり出てこなかった西郷最初の妻登場、渡辺謙が島津斉彬役で出演、奄美大島ロケと話題を創るも、最終的な平均視聴率はワースト5位となる12.7%を記録してしまった。

当初は全50話と発表されていたが、3話削られて全47話となり、代わりに本作に関係する特番を放送することになったが、大河ドラマの視聴者から不満が相次いだ。
但しこれはNHKの働き方改革によってスタッフの休日増加に伴う措置であり、翌年以降もシーズン途中の中断が行われている*9
明治時代編はそのせいか後半10話しかなく、西南戦争がラスト2話しかない。
さらに、西郷と西南戦争を語るにあたり必須と言えるだろう征韓論について一切触れないという衝撃の展開を行い*10、視聴者の失笑を買った。
おまけに西郷の最期が単に撃たれて倒れるだけ。確かに銃弾を受けて転倒後、「最早これまで」と悟って介錯されたという史実に伝わる西郷の最期は壮絶であるが、
切腹→周囲の人間が介錯という展開自体は時代劇でもよく見られる上、史実で介錯を担った別府晋介はちゃんと出ているのに……。

史実人物の描写にも偏りがあり、中村半次郎(桐野利秋)は「人斬り半次郎」の異名こそ出てくるが、(唯一確認できる人斬りである)赤松小三郎が未登場のため人斬りシーンが無い。
また史実で最初薩摩に確保され斉彬と対話し、維新直前薩摩藩に英語や航海術を教えたりしたジョン万次郎も、
日本帰国直後に捕まった「謎の漂流者」扱いで出番ほぼ無しで、(前述の話数削減のあおりを受けてか)再登場は無かった。
西郷に大きい影響を与えた人物の1人として知られる藤田東湖も本編には登場せず紀行で触れられるのみだった。
西郷と敵対する島津斉興、井伊直弼、島津久光といった面々はテンプレ的な悪人描写が目立ち、ただの主人公の敵役程度に貶められてしまった。
特に徳川慶喜に至っては遊郭狂いという原作小説にすら無い謎設定を与えられている。

結果的に西郷隆盛という清濁併せ呑む複雑な人物を描き切れていたとは到底言えず、
西郷の戦争や陰謀を好む黒い一面に関する描写はほとんど除外され、陽の部分だけ抽出したような作風となってしまった。
ひとことで例えるなら幕末版「天地人」と言ったところだろうか。

とはいえ、鈴木亮平の役への入れ込みようは本物で晩年の太った西郷を体現するために、一日四食とったほか、間食としてドーナツを思いついたら食べていたと後日談で明かしている(さらにすごいのは監督からの指示ではなく、自発的にやっていたということ)。

ナレーターは当初市原悦子が担当予定だったが、体調不良のため降板、「翔ぶが如く」版西郷役だった西田敏行が代役を務めた。
番組後半では西田氏が西郷の息子(奄美大島での妻である愛加那との子)で本編終了後京都市長になった西郷菊次郎役としても出演し、
以降は息子の視点から父の人生が語られていく形となった。
また余談だが、本作・『いだてん』と2作続けて伊藤博文が同じキャスト(演:浜野謙太)で出演し、
キャストこそ違うが大隈重信も登場(本作では若き新政府サイドの人物。『いだてん』では早稲田大学創始者)。
アニメ関連では橋本左内役で風間俊介?(2020年の『麒麟がくる』で徳川家康役に)、西郷のご近所さんとして犬山イヌコ、中山忠能役で緒方賢一がゲスト出演している。

劇伴は富貴晴美が大河史上最年少で担当した。

いだてん ~東京オリムピック噺(ばなし)~

放映期間:2019年
原作:なし
主人公:金栗四三(演:六代目中村勘九郎)、田畑政治(演:阿部サダヲ)
時代:明治~昭和
脚本:宮藤官九郎

最後の平成開始作品。2019年5月から新元号となるため、大河ドラマとしては『春日局』(1989年元日開始)についで2作目の「年号をまたぐ」作品となった。
2020年東京オリンピックに先駆けて日本と近代オリンピックの関わり、東京の変遷を描く、
1986年「いのち」以来の近現代を題材とした大河ドラマ*11で、
1985年『春の波濤』に次いで2作目の実在人物主役近現代大河でもある。
「落語の神様」五代目古今亭志ん生(演:ビートたけし?、青年期:森山未來)による架空の落語「東京オリムピック噺」と彼の半生を背景にし、
1912年ストックホルムオリンピックでの日本初出場から1964年の東京オリンピック開催までの約半世紀を、
最初のオリンピック選手である金栗四三と、東京オリンピック招致に中心的な役割を果たした田畑政治の二人の主人公によるリレー形式で描く。
主演の一人中村勘九郎は20年前の『元禄繚乱』主演の故中村勘三郎の息子で、脚本を手がけるのは阿部サダヲの芝居兼バンド仲間?であるクドカンこと宮藤官九郎。
また、同脚本家による『あまちゃん?』から続投したスタッフも多い。

……が、「現代劇」、「マイナーな主人公」、「題材がスポーツと落語」、「東京2020合わせ」、「時代を行き来する複雑な群像劇構成」、
「事故の後遺症で滑舌の悪いビートたけしを語りに採用する」等の「王道外し、挑戦的要素の多さ」から、『何がしたいのかわからない』などと酷評され視聴率は低迷。「小河ドラマ」とも揶揄された。
またサブキャストの内、黒坂辛作役のピエール瀧が第10話放送後に薬物使用で逮捕され、後任には三宅弘城が急遽起用され、それまでの出演シーンもソフト化に向けて全て撮り直された。
また、大松博文役の徳井義実は初出演回の放送前に脱税発覚で活動自粛となったが、登場時期が終盤だったため出演部分は殆ど放送され、
自粛から復帰後のBSプレミアムでの再放送では一部カットされていた徳井の出演シーンが放送された。
これらの不祥事も重なったせいか、瞬間・平均共に歴代ワースト一位、史上初の平均視聴率1桁大河となってしまった…
しかし、『花燃ゆ』をも下回ってしまった視聴率に反してSNSでの評価は賛否ありながらも決して低くなく、
そのような評価を受けて「録画で後から観ていた視聴者も少なくないのでは?」と言われたほど(しかし、実際は録画視聴率も低かった)で、
『平清盛』同様、「見る人は選ぶが、ハマる人はとことんハマる作品」と言えるかもしれない。
2019年12月のギャラクシー賞月間賞も受賞している。

ちなみに時代が近い影響か、志ん生の孫である池波志乃が志ん生の妻(池波の祖母。ちなみにこの役は3回目)役、
中盤に登場した犬養毅(演:塩見三省)の曾孫である安藤サクラが終盤で河西昌枝役としてゲスト出演。
サブキャスト陣は特撮出身・ミュージシャン・芸人・元アイドル・声優兼業?と多岐に渡り、
たけし・田口トモロヲ(金栗信彦役)・松尾スズキ(橘家圓喬役)・塚本晋也(副島道正役)・三谷幸喜(市川崑役)と計5人映画監督経験者もいたり。
また作中の国旗考証を担当した評論家吹浦忠正が終盤でドラマにも登場(演:須藤蓮)し、
勘九郎の弟である中村七之助も6代目三遊亭圓生役で参加。高橋是清役だった萩原健一は本作が遺作となった。

2020~2029年

※一覧

2020年代初頭は新型コロナウイルス感染症が猛威を振るい、大河ドラマの製作にも大きな影響を及ぼした。
一方で折からの働き方改革の流れやCG技術の発展もあり、話数削減や合成などの工夫によってその都度乗り切っている。
SNSによる情報発信もますます活発化しだし、実況などの相性の良さも相俟って大河ドラマの楽しみ方も新時代に突入していった。
また、人気声優の出演も定番化してきており、毎年何らかの形で声優が起用されている。

2023年2月には日本でのテレビ放送70周年、大河ドラマ60周年を迎えることを記念して、
最初の大河ドラマ『花の生涯』製作の様子を描いたドラマ『大河ドラマが生まれた日』が放映された。キャストがなんだか4年前の大河で見た面子が多いような…

麒麟がくる

放映期間:2020年~2021年2月
原作:なし
主人公:明智光秀?(演:長谷川博己)
時代:戦国時代
脚本:池端俊策、前川洋一、岩本真耶、川本瑞貴

戦国時代の全国メジャークラスでは最後の大物がようやくの単独主役として抜擢。
脚本を手がけるのは「太平記」以来の池端俊策。…マジかよ!?
研究が進みつつも未だに謎が多い「本能寺の変」が如何に描かれるか注目され、
また、同局の『チコちゃんに叱られる!?』のレギュラーである岡村隆史?も出演しており、
主に同番組内で事あるごとに「大河俳優」と一層イジリ倒されるようになった。

しかし、2019年12月に濃姫役にキャスティングされていた沢尻エリカが薬物所持で逮捕されてしまう。
まさかの2年続けて出演者が薬物で捕まってしまうという不祥事を受けて、
序盤部分の大幅な撮り直しを余儀なくされ(代役は川口春奈)、放送開始は本来より2週間遅れの1月19日となった。
また、東京オリンピック・パラリンピック期間にあたる5週間は番組を休止することが決定し、全44話というやや短めな話数を予定していた。
…が、その後、更にコロナウィルス流行に伴うオリンピック延期や、撮影休止を受けて3か月近く放送が中断。
2020年10月、話数はそのままに2021年2月7日に最終回を放送することが判明。『炎立つ』に次ぐ越年大河ドラマとなる。

ただ、沢尻の逮捕に伴う女優変更や放送開始延期という不安要素も逆に本作への注目を高めるきっかけになり、第1話の視聴率は19.1%を記録した。
更に第1話では声優の大塚明夫がゲスト出演したことで話題を呼んだ*12

才はあるものの人が良く不器用な明智光秀が、家族から冷遇され「誰かに認められたい」と必死な織田信長と友誼を結ぶ一方、
幕府再興の志を掲げる足利義輝と出会った事で足利将軍家を守ろうと決意し、足利家を盛りたてんとする織田家に仕えるようになる。
しかしその思い故に光秀は義輝の死に伴う義栄と義昭の後継者争い、義昭と天皇――天皇に認められたい信長の対立に巻き込まれていく。
そしてやがて信長が自分を褒めない者、認めない者を排除し、遂には天皇にまで譲位を迫らんとするようになるにつれ、
光秀は今の信長を作り上げてしまった責任を取らねばならぬという決意を固めていく……。
仁政を行う王の元に現れるという獣、麒麟は、はたしていつ現れるのか。

「誰かに褒められたい・認められたい」と必死な信長と光秀の友情に、信長の行動が過激になるにつれて亀裂が入っていき、
そのすれ違いが徐々に「本能寺の変」に向けて収束していく展開はSNSなどでも話題になっており、
令和大河一作目としては(さまざまなトラブルに見舞われたにしては)順調だといえるだろう。
特に序盤は斎藤道三や織田信長が次々に政敵を毒殺、暗殺していく展開が話題となり、
それがやはり終盤になって光秀の行動につながっていくあたりは長期番組である大河ならではの展開といえる。

愚直で誠実であろうと努めるが故に結果的に八方美人になり、周囲の人々の企みに翻弄され、信じた人々の変貌に戸惑い迷いながらも、
足利将軍や織田信長を支えんとする明智光秀を演じる長谷川博己。
自分を認めてくれた明智光秀が足利家、天皇、そして家康と友誼を深める事で苛立ち、
どうにか彼を喜ばせ、褒めてもらおう・認めてもらおうとするも、全てが空回りする織田信長を演じる染谷将太。
また、緊急登板で懸念されていた川口春奈も、斎藤道三の娘にして信長の正室という立場に苦しめられながらも、
強くあり続ける帰蝶→濃姫役として、終盤まで熱演を見せてくれる。
他にも、事なかれ主義に見えて一筋縄ではいかない朝倉義景役のユースケ・サンタマリアの怪演や、
人の良さそうなお調子者の一面と武士の世を憎む冷徹な面を持ち合わせる羽柴秀吉役の佐々木蔵之介、
当初は民草を想う僧侶として登場しながら、兄の跡を継いで15代将軍となったことをきっかけに、
信長の台頭によって回が進むごとに不穏さや冷酷さを顕にしてゆく足利義昭役の滝藤賢一、
織田家や今川家の間で翻弄されながらも、父の仇討ちの機をうかがいつつ、
光秀から200年続く平らかな国造りを託される麒麟を招く才覚を見せる徳川家康役の風間俊介二年も前から無茶振りされたぞ、どうする家康!
そしてその徳川家の忍び・菊丸を演じる岡村隆史、ギリワンボンバーマン天下の大悪人という従来の人物像とは異なり、
若干胡散臭いが気のいいおじさんといった人物像で、周りに振り回されがちな苦労人の松永久秀役の吉田鋼太郎、
非常に雅な言動が目立つが、節々でしたたかな面も見せる帝の威厳を感じられる正親町天皇役の坂東玉三郎など脇を固める俳優陣にも注目。

とキャラクター人気は真田丸同様非常に高いが、「合戦シーンが極端に少なく、主要な戦や人物の死ですらナレーションで済ませる」、
「話自体は面白いものの史実の光秀とは関係ない美濃編の尺が長く*13肝心の織田家臣時代の展開がかなり巻かれている」、
「オリジナルキャラクターの駒と望月東庵が、妙に出番が多い上に、将軍や大名、帝と深く関わるなど、一応『一般市民』なのに活躍しすぎ」、
「光秀と信長の物語として描いているので本能寺の変をクライマックスに置いているが、それによって山崎の戦いは全カット」などという点は否の意見が多い。
とりあえず7年に渡り明智光秀の誘致活動をしたにも関わらず、丹波攻めがほぼ省略される形になった京都府亀岡市・福知山市は泣いていい。
ただしこれらのことはコロナウィルスの流行や沢尻エリカの逮捕などにより合戦シーンが撮りづらかったり、
脚本そのものが大きく変更される事態になった面ので仕方なかったという側面はある。

あとは脚本の「自身が過去に描いた室町幕府の終焉を描きたい」という考えと、
プロデューサーの「斎藤道三と曲直瀬道三の二人が主人公という企画を考えていた」という考えが合わさり、
明智光秀がそちらに振り回された結果といったところか。
「新撰組!」の時のように続編や番外編を希望する声もある。

アニヲタWiki的には明智家の重鎮として鬼武者?こと明智左馬助がちょこちょこと活躍しているのが嬉しいところか。
彼が大河ドラマのクレジットにどーんと名前が出るだけで、PS2ユーザーにとっては感無量である。

青天を衝け

放映期間:2021年2月~12月
原作:なし
主人公:渋沢栄一(演:吉沢亮)
時代:幕末~昭和初期
脚本:大森美香

一作品を挟んで再びの近代を舞台とした大河ドラマ。脚本は『あさが来た』や実写映画版『宇宙兄弟?』を手掛けた大森美香。
2024年秋より新しい一万円札の顔となる「日本資本主義の父」渋沢栄一の生涯を描く。
友情のために戦う?拳法使いのライダー?真選組?一の腹黒ドS?
中華統一を目指す若き秦王?無敵のマイキー?でお馴染みの吉沢亮が、弱冠25歳で主演に大抜擢された。
そのせいかは不明だが、真選組世界で上司役?だった堤真一が恩人役となり、慶喜の身内や14代将軍?等ライダー出演者も妙に目立つ役で登場していたり。
また一部歴史ファンの間では徳川斉昭役の竹中直人が、現存する肖像画に激似という点ではこれ以上ない配役として話題になったりもした*14

東京オリンピック・パラリンピックの1年延期による夏の大型休止で話数が減ったが、
『麒麟がくる』の放送期間変更による開始時のズレを修正するため越年はせず全41話で年内の放送終了が確定している。
昨年に引き続きコロナ禍での撮影となったが、渋沢の出身地である武蔵国血洗島村(現・埼玉県深谷市)を再現するため、
なんと東京ドーム5個分の広さにもなるオープンセットを組み、藍や桑を栽培しているあたりNHKの本気具合が窺える。
そんな血洗島は序盤の栄一と家族、仲間たちの舞台となっていて、中央の政局とは全く関わりのない部分ではあったが、
ここで描かれた様々な出来事が後の展開や人物描写に繋がっている。
さらにコロナ禍での撮影制限も、CG合成をフル活用することで密集シーンや疑似海外ロケを描くなどの新しい試みが行われた。

また、攘夷を志す「攘夷志士」として上京しながらも、一転して一橋家に仕える幕臣となった渋沢栄一が主役ということで、
今作では攘夷志士だけでなく、徳川慶喜(演:草なぎ剛)の故郷である水戸藩や一橋にも焦点が当てられている。
その結果、坂本龍馬や桂小五郎といった幕末モノではまず間違いなく重要人物として登場する有名人が影も形もない一方、
幕末ドラマでは比較的マイナーな扱いとなる平岡円四郎や小栗忠順といった、一橋家や幕府側の重要人物がピックアップされたり、
普通の幕末ドラマでは省かれがちな天狗党騒乱やパリ万博などの出来事がピックアップされたのも特徴である。
特に、栄一を一橋家に取り立てた人物である平岡円四郎の存在感は大きく、
彼の死は慶喜と栄一に深く影響を及ぼすなど中盤のターニングポイントとなっている。
さらに、一見めちゃくちゃで「また創作か」と思えるような主人公・栄一の発言や行動が、
公式Twitterの「青天ナビ」にて「本当に渋沢栄一が言っていた/やっていた」ということが判明するという流れの連続には視聴者の度肝が抜かれてばかりである。
各勢力の人物の丁寧な描写、史実のエピソードをしっかり描く、下手な戦国大河より迫力があり、
痛みを感じさせる殺陣など作品的には比較的好評。本来大河ドラマとして当たり前のことのはずなんだけどなぁ……

さらに、放送開始後はナレーションとは別に北大路欣也演じる初放送の前の週まで風間俊介だった徳川家康が、
本編には一切登場しないのに「こんばんは、徳川家康です」と時代背景の説明役として登場する演出も話題となった。
この家康、本編に登場しないのをいいことに、当然のように横文字を使ったりタブレットを持つなどやりたい放題で、
製作側も後半からどうするか迷うなど割と出オチ気味だったらしいが、無事最終回まで登場し続けた。
また、『あさが来た』で五代友厚を演じたディーン・フジオカが本作でも同役で起用されたが、
本作では栄一が仕える幕府と敵対する薩摩藩側の人物として描かれたこともあってか同一人物ながら印象が大きく異なる。
『西郷どん』や『龍馬伝』で登場した時とは大きく異るダーティな魅力を秘めた西郷隆盛や岩崎弥太郎が描かれ、
幕末大河では影の薄い大隈重信や伊藤博文がレギュラーキャラとして登場するなど、明治時代を通して大正時代まで至る
「日本の夜明け」の後に幕末を生きた人々の行動に重きを置いた、幕末大河の中でもやや異色な作風が特徴である。
さらに、史実において渋沢栄一は、当時としてはかなりの長寿と言える満91歳という大往生を遂げた人物で、
年代で言えば昭和6年(1931年)、つまり、江戸(幕末)→明治→大正→昭和の四つの時代を生きたということもあり、
それもあって、彼と同世代以上の人物は全員が作中で何かしらの要因で亡くなっている。
更には同時期後半の連続テレビ小説『カムカムエヴリバディ』の物語開始年が1925(大正14)年であり、
連続テレビ小説と大河ドラマの時代が重なる珍しい現象も発生している。*15
江戸時代の頃にはとっくに成人してバリバリ活動していたにも関わらず、
最終回には現在もご存命である彼のひ孫が登場するなど彼が現代に近い存在であることがよくわかる。

鎌倉殿の13人?

放映期間:2022年
原作:なし
主人公:北条義時(演:小栗旬)
時代:平安時代末期~鎌倉時代
脚本:三谷幸喜

『真田丸』以来の3度目となる三谷作品。主人公は鎌倉幕府第二代執権・北条義時。あれやりたいって言ってた泰時じゃないの?
タイトルに算用数字が用いられるのはNHK大河ドラマでは初である。

脚本は三谷幸喜は今作の内容をサザエさんで例え、
「サザエ(北条政子)とカツオ(北条義時)がマスオ(源頼朝)の死後に波平(北条時政)を追い出す話」なかなかアレな説明をしている。
義時が権力闘争に生きた人であり、前述の「草燃える」で義時を演じた松平健が平清盛役ということもあって、本作で義時を演じる小栗旬の悪役演技が話題に上がるが…?

前作において「みんなが幸せなのが一番」というフレーズが出ていたが、こちらは「ほとんどの登場人物が不幸になる」と一部で囁かれている。
そしてその通り1話から幼い子供が暗殺されるなど、序盤から数々の登場人物が不幸な最期を迎える展開が続いている。
平安時代末期~鎌倉時代を舞台としているが、セリフ回しは現代的であるため、
源頼朝役の大泉洋は「時代劇とは思えないセリフを喋った」と事前番組で明かしている。
また大泉洋が身内絡みで胃を痛めそうなキャラやってる…
尤も、いざ蓋を開けてみると大泉演じる頼朝自身もしょっちゅう愚痴を零したり、
政子と結婚後も女性関係はだらしなかったり(通称:スケベ殿)で、主人公で義弟でもある義時の胃を痛めつけているが……。

演者の大泉がそれまで演じてきた役柄の印象を覆したとも評される、
鎌倉を守るためには時に冷酷非情に徹し、危険人物と看做せば命を奪う事すら厭わない頼朝や、
(近年の研究結果を交えた結果)ファングジョーカー?悪辣非道で好戦的な人物として描かれた菅田将暉演じる源義経など、
見ている側もハラハラな源氏一門との関わりの中、回を重ねるごとに義時の苦悩や闇堕ちが顕著になっていくのも見所の一つである。
序盤はやはりというかコメディチックな部分が多かったが徐々にハードな展開が増えだし途中からほぼ毎回名有りの人物が死んでいる。
その雰囲気ときたら『鎌倉殿の13人』と書いて『13RIDERS』と読むと言われても納得するほどの殺伐っぷり。戦わなければ生き残れない!
事実、物語後半は頼朝死後、将軍や執権に取り入って幕府の実権を握ろうとする御家人たちの勢力争いが主題となっており、
陰謀渦巻く幕府を舞台に、義時と政子が頼朝らから受け継いだ智謀政を如何にして成就させるかという物語である。
蛮族の集まりながらもアットホームだった坂東武者たちが権力に溺れ闘争を続けて行く地獄と化していく……
あとまた後白河法皇を演じる西田敏行の年表が増えてしまった

ちなみに、本作は平安~鎌倉時代が舞台なのだが、徳川家康が熱心な『吾妻鏡』の読者であったことで有名という点を利用してか、
最終話冒頭では、次作『どうする家康』の主人公である若き徳川家康(演:松本潤)が「承久の乱辺りの『吾妻鏡』を読んでいる」という形でサプライズ出演。
これにより、大河ドラマに4年連続で徳川家康が登場するという快挙?を達成した。

どうする家康

放映期間:2023年
原作:なし
主人公:徳川家康(演:松本潤)
時代:安土桃山時代
脚本:古沢良太

脚本は『リーガル・ハイ?』『コンフィデンスマンJP』などの脚本を手掛けた古沢良太。
『葵徳川三代』以来23年ぶり、単独であれば『徳川家康』以来40年ぶりとなる徳川家康を主人公とする作品。

過去に大河ドラマに主演経験のある俳優が多く集まるなどの豪華キャストも特徴で、
特に藤岡弘、と岡田准一が演じる、異様に強そうな織田信秀・信長親子が話題になった。
『天地人』では上杉謙信を演じた阿部寛が今度は武田信玄を演じる。その容貌からローマ皇帝やら、ダレイオス〇世やら、達磨大師やら呼ばれるけど
オープニングのクレジット表示は2014年の『軍師官兵衛』以来9年ぶりに横書きが採用されている。
紀行は石川数正役の松重豊がナレーションを担当しており、松潤を始めとしたキャストらが由縁の地を訪れている*16
そのまま腹が減ったと言ってどこかの飲食店に入りそうなナレーションをしている?

後述の通り、歴代の戦国大河とは異なるアプローチがなされており、特に脚本・演出面においてかなり独特な作品となっている。

働き方改革や自然災害の頻発に伴う野外ロケが難しくなったなどの事情により、最新のCGやVFXを多用している。
特に役者の後ろに巨大なLEDパネルを設置して、そこにCGで作り込んだ背景を投影する「バーチャルプロダクション」は、
スタジオ撮影ながら外連味のある画づくりを可能とした。
ただ、そこに映される映像というのが中国の宮殿めいた異様の清須城*17や、ミッドガルみたいな本證寺など、
良くも悪くもクソバカ吹っ切れており、毎週視聴者の度肝を抜いている。
甲斐なんてなんか信玄の容貌も合わさって完全に中国の秘境だし…演者はローマ人?なのに?
ちなみに美術スタッフ曰く「家康の心情に合わせて誇張表現している」との事。完全に確信犯である
また、あらすじや史実の説明をしつつ『神の君』たる家康の活躍を褒め称える寺島しのぶ氏*18のナレーションも、
「後世の人物が誇張した」という演出か、時折同じ出来事・人物を説明しているように思えない内容(主に家康関係)になっていたりも。

登場人物も非常に癖が強いキャラ付けが成されており、1話目ラストからして、
元康(家康)を「俺の白兎…」と呼びながら槍に括り付けた今川義元の首を投げ飛ばす織田信長などインパクト抜群。
本編で丸々1話かけて忍者の活躍を描いたのに、紀行で「忍者のイメージは講談等で作られたフィクション」と突然梯子を外しにかかるなど、
その面の皮の厚さ史実とフィクションの違いをわかった上で歪にしているバランス感覚は中々独特である。
一方で自分より立場や勢力が上の諸将に加えて、家臣団や身内などにも詰められてしまい、
「どうする」というより「どうしようもない」状況に追い込まれる若き家康の葛藤はシビアだったりと、
クソバカ部分とシリアス部分の振れ幅の大きさでぶん殴ってくる。

史実描写に関しては比較的近年の研究を反映しており、回が進むにつれ、
家康のメンタル沈みっぷりと共にクソバカ描写は減っていく。カメラワークによって「ツインテール秀秋」という事故が起きたこともあったが
他にも有名だが史実ではなかったとされる「三方ヶ原の負け戦で食い逃げしてう○こ漏らした家康」を、
「家康を嫌う町民が三方ヶ原の敗北をネタにある事ない事吹聴した話」として演出したり、
金ヶ崎の戦いの逸話である小豆の話を「お市の方が派遣した侍女」のエピソードとして描くなど秀逸な点もあった。

よく言えばキャラが立っていると言えるが、悪く言えば記号的なキャラ付けであり、合う合わないが激しい。
ほとんどの徳川家家臣が、あまり動いていない家康を時にイジりつつも頑なに支持していたり、
登場人物の私生活やオリジナルキャラクターの活躍に時間を割く一方で、
金ヶ崎の退き口や姉川の戦いなど歴史上重要なイベントを一瞬で終わらせる等、描写のアンバランスさが指摘されていた。

また、敵対した政敵の描き方に対しても、『麒麟がくる』にて長谷川博己氏が演じた高潔なイメージが未だ強い中で、
それとは真逆の、ルイス・フロイス評の如き「狡猾で信長のご機嫌取りを欠かさず、他者から嫌われる人物」として描かれた、家臣や家康に辛辣な明智光秀や、
同様に、『麒麟』では民想いの理想主義者として描かれた義昭とは程遠い、飲んだくれの傲慢なバカ殿そのものに描かれた足利義昭*19
関ヶ原の戦いの責任を三成に押し付けようとして淀殿に平手打ちを喰らった毛利輝元など、露骨に悪人・卑怯者として描いている点も賛否両論である。
一方で家康と共に天体観察で夢を語る石田三成、気弱さや優柔不断さを全く見せず冷徹な判断を下せる人物として描かれた小早川秀秋など、
既知のイメージを覆すような、新たなアプローチで描かれた人物も随所に見られる。
徳川陣営以外が一様に悪く描かれているわけではないが、やはり合う合わないが激しく分かれる点になっている。

良くも悪くも話題性には事欠かなかったが、結果としては平均視聴率11.2%と歴代ワースト2位をマークしてしまったが、同時・見逃し配信サービスのNHKプラスの平均視聴UB数は、歴代最高視聴数を記録している
「近年の大河離れの中で健闘した」と見るか、「有名武将・有名アイドルを主役に据えた割には伸びなかった」と見るか、やはり評価が分かれるところ。

ちなみに同年1月には脚本に本作の古沢良太、監督に『龍馬伝』で演出を務めた大友啓史という大河ドラマコンビによる、
織田信長と濃姫を題材にした歴史映画『LEGEND&BUTTERFLY』も公開されている。
『どうする家康』ほどではないが、こちらも毀誉褒貶の激しい作品となっている。

光る君へ

放映期間:2024年
原作:なし
主人公:紫式部(まひろ*20)(演:吉高由里子)
時代:平安時代
脚本:大石静

脚本は『功名が辻』以来の登板となる大石静。
平安時代を舞台に、書かれてから1000年以上経った今なおファンが多い『源氏物語』の作者・「紫式部」を主人公とする作品。

時代背景もあり、『源氏物語』を書いたこと以外は何をしていたのかがあまり知られておらず、生没年や本名すら不明であるが、
ネームバリューだけで言えば日本史でもトップクラスに知名度のある紫式部と、
柄本佑が演じる、紫式部と関わりがあり、同時代の権力の頂点に立った藤原道長*21も重要人物として扱われており、二人の人生をどう描くかが注目されていた。

が、脚本の大石が平安時代について、「『華麗なる一族』と『ゴッドファーザー』を足して3倍にしたくらいの面白い話がある」と発言した通り、
初回からまひろの母・ちやはが些細なことで道長の兄・道兼に惨殺された上、下手人が下手人なので病死したことにされたのを皮切りに、
自分の存在を目障りに思った者たちから毒を盛られ、譲位に追い込まれる円融天皇や、その後の出世争いで互いに追い落とそうとする貴族達、
新たに即位した花山天皇を疎んじる勢力に呪われ、その後本当に急死してしまう女御・忯子に、
愛した女御の死で落ち込んでいるところにつけ込まれ、彼女の成仏のためと言い包められて出家させられる花山天皇、
それら、宮中で渦巻く数々の陰謀に、報酬さえ支払われるならば手を貸す安倍晴明…と、
前々作、『鎌倉殿の13人』の中盤以降を彷彿とさせる陰惨な権力闘争が描かれ、
平安時代の貴族というイメージは出来るが詳しくは知らない人間が多いことを活かしたスリリングな展開で大きな話題となっている。
ちなみに、『鎌倉殿の13人』における『吾妻鏡』よろしく、これらの出来事は(肉付けこそされているが)概ね史実で実際に起こったことである*22

特に、多くの陰謀の裏で糸を引いている道長の父・兼家は、演者の風貌もあって人前ではいかにも善人っぽい振る舞いをしつつ、
自らの家・家系を繁栄させるためならば、それが天皇であれ、邪魔者と判断した者は容赦なく(政治的に)排除し、
そのための陰謀の過程で、実の息子たちであっても「汚れ役」を担わせる者とそうでない者を区別するなど、冷徹な策謀家として暗躍する一方で、
ちやはを殺害した件で道兼に詰め寄り、開き直られてカッとなった道長が兄を殴りつけるのを見て、
仮にも兄に手を上げた道長を咎めるどころか、温厚な道長の心の中にある情熱を見て機嫌を良くするなど、
見ている視聴者にも恐怖と底知れなさを感じさせる、今作の象徴ともいえるキャラクターとなった。

また大石が本作のテーマを、セックス&バイオレンスとしている通り、花山天皇と忯子の緊縛プレイや主人公まひろが道長との床入りなど、直接的な描写はないが日曜日のゴールデンタイムとは思えないようなシーンが描かれているのも特徴。
正妻と妾の立場の違いや正妻になっても何よりも子供を産むことが優先されるといった、現代との価値観の違いも多く描かれている。

キャスティングには、紫式部と同時代を生きた才媛であり、『枕草子』の作者・清少納言役にファーストサマーウイカ、
「筋が通らない」とすれば権力者にも従わなかった当時の優秀な政治家・学者として知られる藤原実資役にロバート秋山、
藤原道長の実母として伝わる時姫役に三石琴乃
第5回に侍従宰相役として一瞬映ったザブングル加藤等、異業種からの選出が多いことも特徴の一つ。

なお、クランクイン直後に藤原隆家役で出演予定だった永山絢斗が大麻所持の容疑で逮捕されてしまい降板となっている(代役は竜星涼)。

べらぼう~蔦重栄華乃夢噺~

放映期間:2025年予定
原作:なし
主人公:蔦屋重三郎(演:横浜流星?)
時代:江戸時代後期
脚本:森下佳子

18世紀半ばに吉原の貧民から、江戸きっての版元(出版社)にまで成り上がった“江戸のメディア王”蔦屋重三郎の生涯が描かれる。
喜多川歌麿の名作を世に出し、東洲斎写楽といった有名浮世絵師をプロデュースしたということもあり、
2年連続の文化人を題材にした大河となっている。ちなみに副題部分は「つたじゅうえいがのゆめばなし」と読む。
また、太平の世としての江戸時代を舞台にした大河は『元禄繚乱』以来となる。
脚本は『おんな城主直虎』以来、2作目となる森下佳子。
しかし、NHKで「べらぼう」となるとなんだこれは!な特撮番組?を思い浮かべてしまうが…

豊臣兄弟!

放映期間:2026年予定
原作:なし
主人公:豊臣秀長(演:仲野太賀)
時代:安土桃山時代
脚本:八津弘幸

脚本はドラマ『半沢直樹?』や『家政夫のミタゾノ』などの脚本を手掛けた八津弘幸氏
天下人・豊臣秀吉の弟にして、内外の政務および軍事面で活躍して秀吉の天下統一に貢献した豊臣秀長が主人公。


*1 2010年代序盤から中盤は日テレの、2010年代後半はテレ朝(制作は大阪の系列の朝日放送テレビ)の番組が躍進したのも大きい
*2 大泉洋は同時期「水曜どうでしょう」で高知まで行かされたり龍馬コスをしたりとちゃっかり便乗させられていたり、自身でも楽屋での福山の言動のモノマネをちゃっかり自分の定番ネタにしていたりするのだが
*3 歴史考証の小和田哲男は、「分かりやすい演出にしたいというスタッフからの要望があり、『少しなら』ということで折り合いをつけたが、完成版では想像以上に炎上しており、今年一番のショックだった」「学者仲間からも散々苦情を言われた」と述べている
*4 例えば上述したように近江・大坂・江戸を簡単に行き来するなど、当時の交通事情等を考えればまず有り得ない。
*5 八重の桜の初回と真田丸の第二話、青天を衝けの初回
*6 しかも本人は結局本編には1回も登場しなかった
*7 その一方で桶狭間の戦いの影響が井伊家に与えた影響を上手く描けていないという意見もあるが
*8 主要人物の戦死・暗殺、御家乗っ取り、戦で焼け野原になるetc
*9 『いだてん』でも中断があったが、こちらは統一地方選や参院選による開票速報や日本が進出したラグビーワールドカップの準々決勝を放送する事情があり、それ以外の特番は放送されていない。因みに以前開票速報が大河ドラマが放送される当日の夜に行われる時は、編成状況によって大河ドラマを一時間早く放送する措置が取られることがあった
*10 尤も、描き方次第では韓国を不必要に刺激する国際上デリケートな問題ゆえ、仕方ないと言えば仕方ないのだが
*11 時系列的には『春の波濤』終盤から始まり、『山河燃ゆ』の時代を経て『いのち』後半あたりで終わる(『いのち』最終回時点で本作の主人公2人は既に他界)ストーリーとなる。
*12 以前から「顔が似ている」と噂されていた吉田鋼太郎との2ショットが実現したことも話題を後押しした
*13 しかもいわゆるお使い展開の多さに、視聴者からは往年のファミコンRPGとかけて「十兵衛クエスト」と呼ばれた
*14 写真が残っている徳川慶喜も草彅剛とかなり似ており、セットで取りざたされることも。
*15 同様の現象は『花燃ゆ』と『あさが来た』でも発生しているが、『あさが来た』の方が幕末から始まる変則的な作りであったのと逆に、こちらは『青天』が昭和に至るまでを描いたことで発生した
*16 ちなみに、同じNHK系列の歴史番組である『英雄たちの選択』でも松重氏はナレーションを担当しているため、同番組の『どうする家康』関連の回では一瞬石川数正として話そうとしたり、城郭考古学者として有名な千田嘉博先生と数正所縁の城にロケに行ったりしていた。
*17 門をくぐってから城までに目測で1kmぐらいの広場がある
*18 最終回にて、三代将軍徳川家光の乳母である「福(春日局)」役として登場している。
*19 一応、将軍としての誇りと意地を見せる場面もあり、終盤には穏やかな姿も見せているが
*20 紫式部の本名は香子とする説も多いが本作ではまひろとしている
*21 タイトルにある「光る君」も、『源氏物語』の主人公・光源氏と、そのモデルの一人とされる道長を指しているとのこと。
*22 ただし、ちやは…というより紫式部の母は史実では「紫式部が幼い頃に亡くなった」ことしか分かっておらず、道兼に殺されたというのも創作である。また、忯子の死についても歴史書『大鏡』には兼家が策謀を走らせたとあるが、実際に呪っていたのかは不明。