超合成獣ザムザザー、人造潜水獣アビュス 登場
シン達がオーブに入港してはや一週間・・・ミネルバはようやく出港の日を迎えていた。
─ミネルバ・艦内食堂─
白い机と椅子が並ぶ食堂で、シンは箸で椀に入った白飯を持ち上げた。
流石はオーブ生まれ。慣れた手つきだ。
「色々あったけど今日でオーブともお別れか~。もっと長くいたかったわ」
目の前に座っているルナマリアが名残惜しげに呟く。
後ろを通ったレイが「弛んでいるぞ」と言った。
「サミットに間に合わなくなるよお姉ちゃん・・・ところでシンさんは陸に上がりませんでしたね。妹さん心配しますよ」
ルナマリアの横、赤毛のツインテールがシンに聞く。
シンは口に物を入れてもいないのにモゴモゴと答える。
「別に・・・妹が勤めてるのはオーブ本島だし・・・にーちゃんは忙しいからゴメンってメールしてるし・・・」
「にーちゃんはないわ・・・あそうそう、今朝アスランさんが着たわよ。朝一の便で基地に戻るんだって」
「えー、なんで俺には何も言ってないんだよ?」
「だってシン、ノックしても呼んでも叫んでも起きなかったし。昨日の夜何してたのよ」
「確か・・・ヴィーノ達と枕投げしてウノしてお菓子交換して朝日拝んでそれから・・・」
「そう言えばラミアス参謀、今日は朝から新兵器の視察なんだって。大変よね~」
「そうねお姉さま」
見事にすべったシンは天井を見上げて青春していた。
─オノゴロ島・モルゲンレーテ本社─
「さあさあラミアス参謀!こちらが格納庫になっております!」
大げさな身振りでマリューを案内するのはオーブ五大氏族の一つ、セイラン家の一人息子ユウナ・ロマ・セイランである。
「けっ、またアイツか・・・セイラン家の跡取りだからってデカイ顔しやがって」
ユウナが格納庫に足を踏み入れると、整備班達が聖域を侵されたと言うように陰口を叩く。
「コラッ!私語を言う暇があるなら仕事に励め!前のような失態は許さないぞ!そもそも参謀がいるというのに・・・」
地獄耳のユウナがすかさず怒鳴る。しかしマリューは気にした風でもない。
「ここにある機体はどれも綺麗ですね。中だけでなく外も磨き上げるとは機械を大切にしている証拠です」
「これは我がオーブが開発した新型の無人兵器です!大切にするのは当たり前ですとも!」
「無人機ですか・・・見た目ではただのザフトイーグルと変わりませんね。画期的なシステムを積んであると聞きましたが」
「これはパイロットのデータを読み込む事で有人機さながらの動きが実現できます!有人の指令機からの命令も可能です!」
さも得意そうに威張るユウナ。しかし整備班は冷たい眼差しを向けている。
「この間の試験機が落ちたのは整備不良じゃないってのに・・・そのシステムもお前が作ったんじゃないだろうに」
「セレーネ・マクグリフ博士だろ?噂じゃもう新しい開発に着手したらしいな。今度は完全兵器だとかなんとか」
へえー、と感心したような声が漏れる。
その中の一人、新入りの整備員は傷が横に走る顔に笑みを浮かべていた。
─月面基地ガロワ─
無事基地に着いたアスランは自室の前で聞き耳を立てていた。
というのも自室の鍵が開いていたのだ。
(誰だ・・・?この部屋に入れるのは俺と司令官だけのはず。そも俺の部屋に入ろうなんて奴・・・まさか!)
そこまで考えたアスランは大きな確信を胸にドアを開け、銃を構えて部屋の中に叫んだ。
「ハローッ!いるのはわかっている!今度こそスクラップにしてやるから出て来い!」
しかし室内から返ってきた声は予想外の人物のものだった。
「は、話せばわかる、その銃を下ろしてくれ・・・ガクガクブルブル」
「あれ・・・もしかして・・・デュランダル総監・・・?」
数分後。
自室で土下座するアスランがいた。
「申し訳ありません!いや、最近変なストーカーに付き纏われていて今回もそうだと・・・!」
「いや、少し驚かそうと勝手に部屋に入った私も悪かった。この件は不問としよう。というかストーカーって・・・」
「え・・・許してくれるんですか」
顔を上げるアスラン。まさかお咎めナシとは思わなかったという声が聞こえてきそうだ。
「ああ。私の方が驚かされるとは思わなかったが・・・それより今日は君に用があって来たのだよ」
「用、ですか?」
「単刀直入に言おう。もう一度・・・前線で戦ってみる気はないかね?アスラン・ザラ君」
─オーブ港─
日が傾き始めた頃・・・オノゴロの港にはミネルバを見送る為沢山の人が集まっていた。
「あっ!シン見て!孤児院の皆が来てくれてるわよ!」
「ホントだ!おーい!」
見覚えのある顔を見つけ、甲板状ではしゃぐクルー達。
シン達以外にもオーブで知り合いの出来た者は多かったようだ。
『それでは出港します。総員指示があるまで艦内で待機してください』
メイリンの放送が響く空をスカイグラスパーが飛ぶ。
先日の怪獣騒ぎの為領海内では護衛がつくことになったのだ。
「シン、行こうぜ。ファントムペインや怪獣が来ないとも限らないし、俺たちも警戒しなきゃな」
ハイネに呼ばれ、動き始めた艦に戻ろうとするシン。
しかしふと立ち止まると港を振り返った。
(ファントムペイン・・・あの夜に会ったステラとも・・・また戦わなきゃいけないのか・・・?)
自分は人間と戦うことが出来るのか?
答えは出ないまま、シンは遠ざかる故郷に背を向けた。
─ミネルバ・ディレクションルーム─
「パイロットは全員待機状態に入りました。でも、本当にこんなにする必要あったんですか?」
「あの後ガイヤンは見つからなかった。奴ら・・・ファントムペインがこの辺りにいるのは間違いない」
「だからってわざわざこんなところで襲ってくるとは思えませ・・・っ艦長!海中に反応、あっ!?」
アラームと同時に、近くを飛んでいた護衛機が炎を噴き上げ撃墜された。
コクピットからパラシュートが飛び出る。
「水中からの砲撃・・・ビーム?これは・・・艦長!アビュスです!」
「まさか本当に来るとはな・・・大気圏内戦闘よ、アーサーわかってるわね!」
「コンディションレッド発令!ブリッジ遮蔽!対怪獣戦闘用意!イーグル各機は直ちに発進準備を!」
連続で指令を出すタリア達。
既に待機していたパイロットは愛機に乗り込み軽口を叩き合っていた。
「海に落ちるなよシン。落ちても拾ってやれない」
「スーパーエースに何言ってんだ、むしろハイネを心配しろよ」
「フッ、海の中なら俺の声も三倍の速度で届くぜ!」
「両方心配だわ・・・」
敵のビームの合間をぬって、合体したまま発進するザフトイーグル。
しかし出撃早々、センサーに新たな反応が。
「なんだ!?反応がもう一つ!こっちはもっとデカイぞ!」
「・・・来る!」
ズズズと水面がせり上がり、巨大な影が浮かび上がってくる。
その中に見える赤い目が空を飛ぶものを補足する。
「・・・」
物言わぬ巨体は海中から飛び出すと、その四つ足の前二つを護衛機とイーグルに向け狙いを定めた。
「くっ!俺達も狙われてる!分離してかわせえーっ!」
「ラジャー!「ラジャアー!」「うぎゃーっ!」
そして発せられる閃光。
その光の後には、細かな残骸が海に落下していく光景が残された。
「このカニ野郎・・・なんてことー!」
この惨状を目の当たりにしたシンはイーグルWで一人カニことザムザザーに突っ込む。
「連射はできないようだな!食らえっ!」
接近して放った熱線ジークがザムザザーの大きな顔に当たる。
だがザムザザーの武器は光線だけではなかった。
「へへっ、どんな・・・あれっ?」
敵の鼻っ面を過ぎようとした時、急に機体が動かなくなった。
何事かと外を見れば敵の前足から生えた鋏が機体を掴んでいる。
「うわわわああ!だ、脱出っ!」
捕獲したイーグルをブンと振り投げるザムザザー。
圧倒的な力に抗いきれず、シンの機体は海に叩きつけられ、爆発した。
─月面基地・実験機格納庫─
「あの・・・どういうつもりなんですか。俺にもう一度戦って欲しいなんて・・・それにここは」
暗い格納庫にこだまする二つの足音。
アスランはデュランダルに見せたいものがあるとここに連れて来られていた。
「君は、今の世界をどう思うかね?怪獣や星人との戦い、更にはファントムペインといった謎の勢力・・・」
「俺には・・・何とも言えません。ただ・・・」
「ただ?」
「だからといって、現在の、力だけを追い求めるような風潮が人類にとって正しいことなのかどうか・・・」
躊躇いがちに言ったその言葉を聞いたデュランダルは、「フッ」と笑うと話を進めた。
「誰もが皆正しい道を探し、迷い、結果幾つかの道を選ぶ。だが、我々は今や綱渡りをしているのかもしれんな」
「選べる未来は限られている、ということですか・・・」
「人は過去には戻れない。だが自らの信じる道を進むしかない・・・それはさておき、君に見せたいものとはこれだ」
デュランダルが足を止めると、辺りに照明が点き、二人の前に大きな影が現れた。
「これは・・・!?」
あっけに取られて見上げるアスラン。デュランダルもそれを見つめながら言った。
「新しく開発したイーグルSだ。我々はセイバーと呼んでいる。君にはこれに乗ってもらいたい」
「・・・それはテストパイロットとしてですか?それとも・・・」
「勿論後者だ。これはほぼ全ての面において従来機を上回る超高性能機だが君になら乗りこなせると確信しているよ」
「・・・・・・残念ですが、俺は」
沈黙の後、断りを言おうとするアスラン。
だがその時デュランダルの持ち歩いていた通信機が鳴った。
「・・・どうした。何があった」
『只今、オーブ沖に巨大怪獣が出現し、ミネルバが襲撃を受けているとの報告が!』
「何だと・・・オーブ軍はどうした?」
『護衛部隊は全滅、ミネルバ搭載の機体も打撃を受けたようです!』
─オーブ沖─
海中からのビームは止んだものの、ミネルバには味方の撃墜報告が次々と入ってきていた。
「艦長!護衛部隊全滅しました!幸いにもパイロットは脱出に成功したようです!」
「敵の狙いはおそらく我々だ、なるべくこの場から引き離しタンホイザーで倒す!レイ!時間を稼いでくれ!」
ミネルバのカタパルトから迫り出した巨大な砲身に少しずつ光が集束していく。
一応これは環境には優しいそうだ。
「ルナマリア、ハイネ、合体して機動力を上げるぞ!見かけによらず中々素早い!」
「何言ってるのよレイ、ハイネならさっき分離した時やられたじゃない!」
「何?・・・・・・・・・!この誰のかわからない断末魔はハイネのものだったのか!?全く気付かなかった・・・」
ハイネのあまりの役立たずっぷりに驚愕しつつザムザザーのハサミを交わすレイ。
だがスピードでは相手が上だ。
「レイ!こんのーっ!」
全イーグルの中で最も高出力なビーム、ガイナーを放つルナマリア機。
しかしそれはザムザザーに届かず弾かれた。
「これは・・・亜空間バリア?もしかしてコイツもスフィア合成獣なの!?」
『タンホイザーを使う!二人とも離れなさい!』
そこへタリアから命令が。二機は上空に緊急離脱する。
追いかけようとするザムザザーだがそこへ光の奔流が。
「エネルギーチャージ完了・・・タンホイザー、ってぇーっ!」
全力ならば小惑星も砕く威力をもつ光線が、ザムザザーに向けて発射される。
しかしザムザザーは真正面に構えた。
「・・・」
体を前に傾かせると、ザムザザーの前面にピンク色のガラスのようなものが展開される。
そしてタンホイザーはそれに直撃し、
「なっ・・・!?」
まるで鏡に反射した光のように、もと来た道を引き返した。
巨大な光がミネルバを昼間のような明るさで包む。
「・・・っ!」
思わず目を閉じるクルー達。メイリンは耳も塞いで机にへばり付く。
全員が死を目前に感じた、その時。
「ジェアアーッ!」
タンホイザー以上に眩い光がミネルバの前に現れた。
そしてそれは前面にバリアを何層にも作り出すとタンホイザーを受け止めた。
「ムウウ~~~!」
次々とバリアが破られるが、その度新たな光の膜を生み出す。
そして遂に、タンホイザーはその力を殺され消滅した。
「ウルトラマンなのか、タンホイザーを真正面から受け止めかき消すとは・・・」
安堵と驚きが入り混じった顔をするクルー達。
タリアですら目の前で起こったことがすぐには信じられないようだ。
「・・・・・・」
無言のまま目をぎらつかせるザムザザーと向かい合うインパルス。
だがそのカラータイマーは激しく点滅を始めた。
「今のでエネルギーを使いすぎたのか!?」
タリアの言うとおりだった。
タンホイザーを止めたのだ、いくらインパルスとはいえ、ただで済むわけがない。
「クッ!」
徐々に色を失っていくウルトラマン。
その下に広がる海は夕日に照らされ血のように赤く輝いていた・・・
─月面基地ガロワ─
「このままではミネルバだけでなくオーブが・・・!何とかならないんですか!?」
「オーブでは現在主力部隊が欠けている。ミネルバでも手に負えない敵だ、このままでは犠牲が増えるだけかもしれんな」
至ってすまし顔で言うデュランダル。
一方のアスランは居ても立ってもいられない。
「馬鹿な!・・・他に、他にどこか援軍を送れるところは・・・」
「だからここに報告が来たんじゃないかね」
「それはどういう・・・?」
「ここからなら衛星軌道に乗って、すぐにオーブ上空へ着ける。ネオマキシマ搭載機という前提付きだが」
そう言ってハンガーに収められているイーグルSを見やるデュランダル。
アスランは彼の言わんとすることを悟った。
「俺にこれに乗ってミネルバを助けに行けと?」
「別に強要をするつもりはない。ただこの基地で君以上に上手いパイロットがいるかどうかは甚だ疑問だがね」
デュランダルにつられて紅く塗られた機体を眺めるアスラン。
自分には何が出来るのか。
何がしたいのか。
「皆が正しき未来へ進む為、これを君の力としてくれ。そしてもし我々が道を踏み外した時はその力で止めて欲しい」
そう言って開かれた掌をアスランに見せるデュランダル。
そこには昔見たことのある徽章が。
「FAITH・・・」
「忠誠を誓う、という意味の部隊FAITHだが、君には己の信念や忠義に忠誠を誓って欲しい」
「・・・わかりました。しかし、これはまだ受け取れません」
「・・・何故だね?」
「自分は七年前、誓うべき忠義も信念も無くしました。そんな俺にこれを持つ資格はありません」
「まさか・・・一パイロットとしてやり直すと?」
「はい。今度は俺自身の力で正義を見つけたいんです。絶対の力や、光に頼ることなく、人として・・・」
変わるべきなのは自分自身。無駄な力は必要ない。それが、一度力に溺れ大切な者を失いかけた男の結論だった。
「・・・・・・君も頑固だな。わかった、君が自分の信念や正義を手にする時までこれは私が預かっておくとしよう」
ジェットビートルを思わせる形状の機体に飛び乗るアスラン。
その身にはミネルバの赤を纏っている。
『ミネルバには私も期待している。
AAのような役割を果たしてくれるのではないかとね。君もそれに手を貸してやってくれないか』
「了解しました・・・アスラン・ザラ、セイバー発進する!」
地球へ舞い戻ったアスランはミネルバを救えるのか。
そしてインパルスにも異変が・・・?
次回「戦場への帰還」