虎型防衛兵器バクゥハウンド 登場
インパルスとアスランの活躍でファントムペインは退却した。
しかしここにまた新たな問題が・・・
─ミネルバ・ブリーフィングルーム─
「な、何でアンタがここにいるんだよ!どういうことだよ!?」
最初に口を開いたのはシンだった。
アスランを指差して睨みつける。タリアが釈明するように言う。
「落ち着いて、シン。皆に何も報告しなかったのは悪かったわ。でもこれは総監の決定したことなの」
「だからってこんな急に・・・アンタが俺達の隊に入るなんて、そんなことみとめな・・・ウグッ」
更に怒りを噴き上げようとするシンだが突然腹を抱えてうずくまる。
どうやら体に響いたようだ。
「大丈夫かシン!?」
アスランが詰め寄る。しかしシンはそれを拒んで立ち上がった。レイがすかさず肩を貸す。
「艦長、やはりシンは体の調子が良くないようです。俺が医務室へ送ります」
「そうしてやってくれ。さて・・・新入りの紹介も終わったことだし今日は皆ゆっくり休んでくれ」
しかしタリアの言葉を裏切りクルーの大半は一斉にアスランに話しかけた。
「お前本当にアスラン・ザラなのか!?」
「まだこの艦のこと知らないでしょ!私が教えてあげましょうか?」
「い、いや俺はタリア艦長に用があるから・・・すまない!」
ルナマリア達の質問攻めにたまりかねたアスランは逃げ口上を言ってその場を離れることにした。
─艦長室─
その夜、タリアの自室でアスランはタリアにある物を渡していた。
「これはFAITHの・・・私が?」
「はい。デュランダル総監が艦長の好きにこの艦を動かせるようにと」
「なるほど・・・以前のようにいちいち指示を仰ぐ必要はないということか」
しかしタリアはそれを受け取るのを一瞬ためらった。
自分にこれを持つ資格があるか不安だったのだ。
「・・・わかりました。総監には後で私が報告しておくからあなたも今日は休みなさい」
逡巡の後FAITHの徽章を手に取るタリア。
頭を下げて部屋を出ようとするアスランに、彼女は声をかけた。
「どうして・・・また戦おうと決めたの?正式登録は偽名でしてあるのに本名まで晒して」
「今の俺に出来る事なんて戦うことぐらいですから。
それに俺は、自分を偽りたくないんです。せめて仲間にだけは・・・」
アスランのしっかりとした口調を聞いたタリアは、ふうと溜息をついた。
「そう。じゃあクルーにも外では気をつけるように言っておくわね。色々と面倒だから・・・」
「ありがとうございます。では・・・」
一人部屋に残ったタリアは、手の上で光る徽章を見つめて呟いた。
「そうね・・・自分にやれることをやるしかないわね」
そして、二日が過ぎた─
─シンの自室─
「はああ・・・ようやく戻ってこれた~」
あの後医務室へ連れられたシンは無断で出歩いたことをドクターに叱られ、ずっと医務室に捕まっていたのだ。
「ったく、本当に縛り付けやがって。おかげでマユに電話もできなかったじゃないか」
全く反省する素振りを見せず不平を漏らすシン。
その時部屋のドアが開き緑の服を着た赤毛の女の子が入ってきた。
「シンさん大丈夫ですか~?お見舞いに来ましたよ~」
「・・・メイリンか?その変な頭どうしたんだよ」
「変な頭とは失礼ですね!いつもと違う髪形なら振り向いてくれるって本に書いてあったから下ろしたのに!」
「ははあ、それでアスランにアタックかけようとして失敗したんだ。俺の所へは通りがかっただけだろ」
彼女が惚れやすいことを知るシンは冷めた眼で言う。卑屈な考えはよくあたるものだ。
「別に失敗したわけじゃありませんよ!ただ先にお姉ちゃんが!・・・あ・・・」
「図星じゃん・・・」
「・・・あ!包帯がほどけてますよシン隊員!ちょっと見せてくださいね」
誤魔化すように包帯を巻き直すメイリン。
だがその手つきは案外手馴れたものだった。
「ちょっとした打撲傷なのに大げさな包帯だよ・・・あれ、結構上手いな」
「私は皆みたいに戦う力がないから、せめてと思って医療訓練を受けてたんです。医学の心得も少しはありますよ」
「へえ・・・もういいよ、ありがと」
「あまり派出に動いちゃまたほどけますよ。それにまた一昨日みたいになるかも・・・」
「あれはちょっとカッとなっただけで別に大したことは・・・」
言い訳をするシンに、メイリンはそういえばと話を切り出す。
「シンさん、今まではアスランさんを認めてたように思ったんですけど、違ったんですか?」
「別に認めたわけじゃ・・・
大体この前の戦闘でもアイツがネオを撃ってれば敵に逃げられずに済んだんだ。
なのに一番褒められてさ。あいつが一番活躍したっていうならインパルスをミネルバに入れても
いいぐら・・・?」
それを聞いたメイリンの顔が急に曇る。
流石のシンも彼女の様子に気がついたのか口を止めた。
「・・・シンさん、こんなこと言うと変に思われるかもしれないんですけど・・・」
「なんだよ今更。そういう言い方されると気になるだろ、言ってくれよ」
「私、ずっとインパルスの戦いを見ていたんです。でも海から出てきた後の戦いは、なんだか・・・怖かったです」
「え・・・?」
思わぬ言葉に絶句するシン。
いつもの冗談かと思ったが目の前の少女の顔はいつになく真面目だった。
「誰かが鬼神のような活躍って言ってたけど、私にはあのウルトラマンの赤い姿が本当の鬼のように見えて・・・」
─ディレクションルーム─
大半のクルーに休養が与えられた現在、司令室はレイとアーサーの二人が受け持っていた。
「・・・計器には何も異常なし、か。修理も大方終わったようだな。アーサー、そっちは・・・何をしている?」
全てのチェックを終えたレイが、アーサーに声をかける。
アーサーは真剣な顔でモニターを見ていた。
「どうした、何か異常があったか?」
「あ、いや・・・時間が余ったんでこの前のウルトラマンの映像を見ていたんです。けど少し気になることが」
「気になること?また新しい技の名前でも考えていたのか」
「そうそう、あの剣を×して切るのはクロススラッシュにしようかなと・・・じゃなくて!これを見てくださいよ」
そう言ってアーサーは海面に急降下するインパルスをレイに見せた。
「ここなんですけどね、どうもフォースと同じぐらいのスピードで飛行しているんですよ。ソードは機動性に欠けるはずなのに」
「・・・そういえば俺も異常な速さだと感じたな・・・まさか、ウルトラマンが強くなっているのか?」
「まだわかりませんね・・・ストライクはこんなことなかったと思うんですけど」
そしてアーサーは画面を切り替え、チェック終了の確認とともにシステムを終了させた。
─クリオモス島─
海に浮かぶ大小様々な島々。それはクリオモス諸島と呼ばれる世界で最も有名な島の一つである。
地球平和連合の創立宣言や大規模な会議はここで行われており、今回のサミット会場にこの島が選ばれるのは当然だった。
会議場では一番最後に到着したデュランダルとマリューが円形に並ぶ椅子に腰掛けたところであった。
「それでは出席者が全員揃ったところで会議を始めたいと思います。まずは一連のスフィア事件について・・・」
多発する怪獣災害やスフィア事件、それらに対する各国の認識の共有と対策がこの会議の主な目的だった。
「ファントムペインとスフィアには何らかの関係があるのは確かだ。奴らを何とかしない限り安心できんぞ」
「奴らのせいでミネルバ隊は休む間もないと聞く。我々は後手に回りすぎではないのかね?」
「現状の戦力では仕方がないでしょう。もっとも、ミネルバ隊だけは強化に熱心なようですがね・・・」
イーグルSの事を聞いたのだろう、それまで黙っていたジブリールが大きな声で言う。
「有効な改善策も見つからぬままいたずらな軍拡は不安を煽ります。先ずは慎重な調査が必要かと」
ジブリールの言わんとすることを悟ったのか、マリューが先手を打つ。
しかしそれにも反論を出してくる。
「確かにウルトラマンに頼りきった現在、軍備の充実など無駄なことかもしれませんね」
「先程から聞いていれば・・・何が言いたいかはっきりさせて欲しいですね!」
今度はカガリがジブリールを睨む。
剣呑な雰囲気に、デュランダルが一時休憩を申し出た時、ジブリールが唐突に言った。
「休憩の前に、皆様に見せたいものがあります。こちらにあるモニターをご覧ください」
こんなことは聞かされていないと思いつつ、全員がジブリールの後ろにある巨大モニターに目を向ける。
会場の証明が暗くなり、逆に明るくなった画面に映し出されたもの。
それは四足で歩行する巨大な生物だった。
「これは・・・バクゥ!?どうしてこんなものが!」
「ネオフロンティア計画の一環として進められていた異星人の技術解析、その一つですよ」
「しかしこれは動いているではないか!」
「かつて指令機の破壊とともに全ての活動を停止した生物兵器。我々はそのシステムの分析を進めていました。
これは先日のアクシデントにより起動した時の映像ですが起動システムの解析に成功していた為すぐに止める事が出来ました」
事も無げに語るジブリール。
カガリは口の中で「アクシデントなわけがあるか」と叫んでいた。
「ここ最近の騒動で報告が遅れてしまい、申し訳ありませんでしたデュランダル総監」
サラリと謝りジブリールは続けた。
後ろの大画面では黄色い砂が敷かれた砂漠をバクゥが走り回っている。
「そろそろ本題に入りましょうか。我々は・・・このバクゥの兵器転用が可能だと考えています」
「!!」
部屋に衝撃が走る。
カガリはもう黙ってはいられないと立ち上がった。
「ではあなたは、この怪獣をウルトラマンの代わりに使うと言っているのか!?馬鹿な!危険すぎる!」
「先の戦闘でオーブはスフィア獣に何も出来なかったと聞きます。平和の為と力を捨てる事は危険でないと?」
「ぐ・・・!」
黙り込んだカガリを尻目に、ジブリールはデュランダルを向き合った。
「総監、この計画に賛同願いませんか?これは地球と人類を守る大きな力になるはずです!」
それまで騒がしかった会場が静まり返る。
デュランダルの言葉を全員が待っていた。
─ミネルバ艦内通路─
メイリンが帰った後、シンは外の空気を吸いに部屋を出た。
しかし通路に出た途端ヴィーノが話かけてきた。
「あ、シン!ちょうどよかったお前に会いたいって人が来てるぜ」
─オノゴロ港─
「・・・孤児院はいいんですか」
日暮れが近いためか、人気の少ない埠頭で待っていた人物。
それはアカツキ島で会ったマルキオ導師だった。
「ええ、貴方がたのおかげで皆しっかりするようになりましたよ」
「そう。で、俺に用があるって聞いたんだけど・・・?」
「元気がありませんね。声に覇気がない」
少し気の抜けた声を聞いたマルキオ導師の言葉。
しかしシンは「そうでもないよ」と一蹴した。
「それならいいですが・・・さっきはああ言いましたが早く帰らないと子供達が心配しますね。では用件を言いましょう」
相変わらず盲目にかかわらずしっかりとシンに向き直るマルキオ。
シンはまた手を握られるのかと少し警戒した。
「シンさんは・・・戦士である為に必要なことを知っていますか?」
「・・・は?」
予想外の台詞にシンは一瞬毒気を抜かれた顔をする。
だがマルキオの顔は真剣だ。
「戦士とは、自らの守るべきもののために戦える者のことだと私は思っています。貴方達のような・・・」
「悪いけど俺は哲学には疎いんだ。俺に出来るのは力の限り戦うことさ」
「昔、貴方と同じ戦士の方が言っていた言葉を覚えています。『想いだけでも力だけでも、守れないものがある』」
「おもいだけでもちからだけでも・・・?」
「力が無いと守りきれない。しかし心が無いと守るべきものを見失う。心無き力のなんと空しいことか・・・」
「・・・」
「守りたいものを常に見据え、そしてその為に強く在る。それが戦士だと私は思っているのです」
シンは何も答えなかった。
そんなこと、考えたこともないのに答える術など持っているはずがない。
「私の話はこれで終わりです・・・そうそう、いくら頑丈になったといっても人の体は脆いものです。気をつけてください」
─クリオモス島─
「それでは今日の会議は終了とさせていただきます」
数時間に及ぶ会議から解放され、次々と部屋から出て行く各国の出席者達。会議場にはデュランダルとマリューが残った。
「ラミアス参謀」
「安心してください。N計画のことはまだ外部に漏れた形跡はありません」
声を潜めて話し込む二人。
マリューは情報局参謀。OMNIの全ての情報は彼女が握っているのだ。
「ということは今回の話は彼が自分で・・・やれやれ、親は子に似ると言うが」
「志は同じということでしょう。しかしどうするおつもりですか?」
「何、なるようになるさ。しかしまたミネルバ隊に新たな任務が出来たな。もう少し休ませてやりたかったが・・・」
いつものデュランダルに戻り、部屋を後にする。
窓の外で輝く夕日が二日前に出会った男をマリューの頭に思い出させていた。
─ミネルバ・デッキ─
甲板の上で風を感じながら、シンはさっきマルキオに言われたことを考えていた。
(ザムザザーやアビュスをやった時の俺は、何を思ってたんだ?何も、いや倒すことだけを考えてた・・・?)
夕日が映る海が、あの時の記憶を思い起こさせる。
だが、どうにもはっきりしない。
「もういいや、こんなのどうしようもないし・・・ん?アイツ・・・」
艦内に戻ろうと振り向いたシンの目にアスランの姿が飛び込んでくる。
同時に向こうもシンに気付いたようだ。
「シン・・・こんなところでどうしたんだ」
「アンタこそ・・・ルナマリアはどうしたんだよ」
「まさか一日中一緒にいることもないだろう。それより体はもう大丈夫なのか?・・・一昨日は怒らせて済まなかったな」
「何でアンタが謝るんだよ!?そんなんだから俺を怒らせるんじゃないのか?」
アスランは何か言いかけるがまた怒らせると思ったのか、ふうと溜息をついて黙る。
シンはその横を通り過ぎた。
「・・・なあ。アンタの戦う理由って何だ?」
擦れ違いざま、聞きたかったことを口にするシン。
アスランは即答しない。シンは諦めて艦に戻る足取りを早める。
「俺も、守りたいものを見つけたかったのかもしれないな・・・」
シンの足が一瞬止まった。
しかし振り返ることはない。アスランを置いて艦に入っていく。
「守りたいものなんて、そうそうあるわけないだろ・・・」
一人そう呟くシン。
しかし、その言葉は声にはならなかった。
バクゥの起動テストに猛反対するシン。
そんな彼の前に砂漠の虎と呼ばれた男が現れる。
次回「よみがえる牙」