第2話『尋問』
~大型巡視船 取調室~
「ジャック・オリバーに、マリン・レイガン。年齢は21歳、所属は『世界連盟軍のブルー・フィクサー』……もうちょっとましなウソでもついたらどうなんだ?」
シンがペン先を手元のメモに突きたてる。
未知の漂流者2人への尋問は45分を超えていた。
最初に取調官があまりに噛み合わない尋問に業を煮やしてしまい、シンが取調べをおこなうこととなった。
しかし、取調官が聞き取りをしたメモを見て腹を立てたのである。
「もう少し質問を変えてみるか? あんた生まれは?」
「ニューヨークだ。ブルックリン島」
「んで、あんたは」
「S-1星だ」
「真面目に答えろと言ってるんだ!」
シンは苛立ちを隠さず再びメモをペンで突き刺す。
「あんなものに乗って、あんたら一体何をやっていた?」
「軌道上で敵の戦艦と戦っていた。体当たりをかけた瞬間に辺りが真っ白になって、気が付いたら、俺たちはここに飛ばされていたんだ。ここは地球で間違いないんだな?」
「そう地球だよ。でもねえ、このご時勢に戦艦なんて!」
さらにシンはまくしたてた。
「ニューヨークってんなら話はわかる、血液もDNAも調べさせてもらったが、確かにあんたはナチュラルのホワイトアングロサクソン。 だがあんたは!自分が異星人なんて言ってる。本物の宇宙人がいたらお目にかかりたいとは思ってたけどね」
「俺はウソは言わん」
尋問をさえぎるようにゴウーンという音が響いた。
船が減速を始めた証である。
『キャプテン、まもなくハルシマに到着します』
スピーカーの声にシンの口調が再び静かになった。
「とりあえず一旦打ち切りだ」
疲れたような顔で椅子から立ち上がる。
「雷太は無事なのか!」
「面会ぐらい許可してくれ」
「だめだ。それから、勝手な行動も厳禁だ」
「雷太を収容して手当てをしてくれてる人を、裏切るようなまねはしない」
「異星人云々を信じられないのは仕方ねえ。でもな、俺たちにとってあいつが大事な仲間だってことぐらい信用してくれたっていいだろ!」
シンは今の言葉をウソだとは思えなかった。
ただし、オリバーもマリンが異星人であることを否定しないことだけは気になっていた。
「いずれにしても今は無理だ、輸血やら何やら済ませればじきに面会できる。ただし、警備は付けるからな」
「ありがとう」
「感謝する」
シンにとって、彼らの供述は信用できなかったが彼らから悪意を見て取ることはなかった。
そもそも彼は根っから冷たく割り切れるような男ではない。
~春島(トラック諸島)~
2人の漂流者が警備兵に連行されるその前に、巡視船からタラップが伸び、泊地と船とをつなぐ。
ゆっくりと圧力扉が開き、マリンとオリバーが警備兵に付き添われて一歩歩き出す、そこで足が止まる。
「島だ!」
「陸地があるぞ!」
警備兵も、その後ろで見ていたルナマリアにシンも、思うところは同じであった。
こいつらは何を言い出すんだ、と。
「ここはまだ、戦いで荒らされてない。まだ……」
そう言うとマリンはタラップの手すりにすがりつくように崩れる。
警備兵にさっさと歩けと促されて立ち上がったマリンは顔を涙でクシャクシャにして、それを隠すようにぬぐって歩き出した。
(この状況、どう思う?)
遠目に見ていたルナマリアとシンは、目を丸くしてお互い顔を見合わせた。
一種のアイコンタクトである。
~春島基地 映写室~
「キャプテンが伝えてくれた記録によると、このデカブツは大気圏外から落ちてきたものとしか考えられません。全長はおよそ100m、重量は800トンを超えます。戦闘または機動試験をおこなったためでしょうか、左足の装甲板がひどく損壊していました。装甲は恐らく、ある程度の加工だけ施した鋼材です。あとの詳細は分解して調べないと解らないでしょう」
映写機の画面が消え、映写室全体が明るくなった。
シンを中心に、ルナマリアを含むスタッフ4名が机を囲む。
「見れば見るほどばかばかしい代物なのね、これって」
「こいつを何とかしないことには、監察官からどんなお達しが来るか……」
「面倒面倒、って言っちゃいけないんだよな」
「キャップ!」
「わかってますよ。とにかくいま治療をやってるパイロット1人の回復と尋問が最優先。監察官への対応は連絡が来てから考える。 あのデカブツはなんとかして調べよう、いいな」
「「「はい」」」
部下一同は声をそろえて返事をして見せた。
巡視船の隊長に就任して以来、シンは十二分に仕事を果たしていた、その証でもある。
~独房~
コンコン、と鉄の扉を叩く音。
何があったかと扉を覗き込んだマリンとオリバーの目に飛び込んできたのは、巡視船クルーの引き締まった顔から普段の表情に戻ったルナマリアであった。
「あの人の尋問を受けてるみたいだけど、どうか気を悪くしないで」
「なんだ?何を言い出すかと思ったら」
「悪いやつじゃないだろ。ホントはいいやつさ」
「あいつ、キミの恋人か?」
意外な逆質問に驚いたのはルナマリアのほうである。
「いや、なんというか、付かず離れずって感じ……かな」
「口下手なんだな。きっと応えてくれるさ。俺も、いつかわかってくれると信じてる」
廊下を歩くルナマリアはつぶやいていた。
「ちょいと濃いめのいい男……おっと、いけないいけない」
ルナマリアは、少し自分自身をだらしなく思った。