第10話 憎しみの砂漠<2>
~トラック諸島沖~
箱型の不恰好な艦が海を西へ行く。
艦は周囲の海面に対して勢いよく空気を噴出し浮力を得ている。
加えて後部ノズルから噴出すジェット流が推進力を生み出していた。
艦橋とおぼしき司令室では地図を挟んでの会議が続いている。とはいえ、その参加者はわずか3人。
「20機はすべて未帰還、とするしかないでしょう」
参謀らしき将校の説明を聞く白髪交じりの指揮官。
既にパイロットスーツに身を包んでテーブルの作戦図に目を通している。
「わが隊がここまでの損害をこうむった事はない。しかし、この艦が到達すれば恐れるに足らん」
「稼動状態のモビルスーツは残り6機。整備は万全です。」
右手に持った指示棒を左手に勢いよく当てた指揮官。
パシッという乾いた音がブリッジ内に響く。
「予定通り私も出る。『226号』の凍結解除と調整は間に合うか?」
「ぎりぎりになりますが、間に合わせます」
「うむ。青き清浄なる平和のために……」
~春島基地 工場~
「ほら、マリン行って来いって」
「だからお前ら、何で俺にばっかり押し付けるんだ?」
「だってよ、ご指名受けてんのはオメェだぜ?」
「雷太、オリバー……覚えてろよ?」
自分をからかったように見えた2人を指さし、半分冗談半分本気の恨み節。
この日もメイリンに機械いじりを頼まれるマリンである。
「部品を取り替えたら動かなくなって……無線のレシーバーなんですけど」
マリンが機械を手に取ると、精密ドライバーで樹脂製の箱を開けていく。
「どこを替えた?」
「外側のスピーカーです、音がガサガサするようになったから」
「参ったな、こういうのは専門外なんだがな……ここかなッ」
内部部品のひとつを押さえてパチンという音。
スイッチを入れるとザーという音が鳴り始めた。
「ありがとうございますっ……専門外って言ってたのに」
あっけなく終わった修理。
マリンが箱の蓋を今度はネジ止めしていく。
「接触不良だったら、キッチリはめ込むだけで済む話だ。機械に強いってのと、機械作りのコツってのは別なんだ」
「それって……あてつけですか?」
メイリンのやや機嫌を悪くした口調に、マリンのドライバーを持つ手が止まる。
「ん?……いや、すまん。何か気を悪くしたのなら……」
「いいんです。『ナチュラル』と『コーディネイター』なんて言っても、わからないですよね」
「よくわからないな。機械は向こうの世界と同じみたいで助かったけど」
ネジ止めを終えたレシーバーを手渡す。
マリンはすっかり困り顔になってしまった。
「てっきり、工科大学の人かと思ってました」
「全然別だよ。こっちの言葉じゃ、『環境システム科』って、言うんじゃないか?」
「皆さんの隊の名前、ブルー・フィクサーって言ってましたよね?」
「ああ。俺は隊の名前の響きは好きだ」
「私はあんまり……こっちだと『ブルーコスモス』って言葉があって……」
「知らないな、そんな言葉……」
「知らないなら、いいんです、うん。
?……何か聞こえる」
声がレシーバーから聞こえたような気がして、メイリンは機械のボリュームを上げてみる。
『所属不明の飛行編隊、接近中! 総員、直ちに部署に付いてください!』
「えっ……」
「ばっ……馬鹿なっ!」
怒りの形相のような剣幕にマリンが変わった。
ある結論に至り、思わずメイリンの胸倉をつかんでしまう。
「なんて迂闊だ!近くの海に空母がいることぐらい考えなかったのか!」
乱暴に手を離してマリンが走っていく。
メイリンは走り出すのを忘れて数秒間呆然とその場に立っている。
その間にもレシーバーは……
『ミネルバ、非常発進スタンバイ。繰り返す、ミネルバ……』