第11話 憎しみの砂漠<3>
~ミネルバ2世 第1ブリッジ~
サイレンが鳴り続ける中、ルナマリアが1人、正規のブリッジクルーであるメイリンを待つ。
2機のザクは分解してシンの1号機に部品を全て回してしまったため、ルナマリアに乗機はない。
不機嫌な顔のルナマリアの前に、電動ドアの音がしてメイリンが駆け込んでくる。
「お姉ちゃんごめん!遅くなっちゃった……」
「ま~た油売ってたんでしょう!アイツと」
「違います! えっと、機関待機、出力60パーセント、タラップ上げます」
「すぐごまかすんだから……あのね、あの男はどっか信用なら」
通常以上に早口で手順を読み上げるメイリンはルナマリアの方は見ず、コンソールパネルから目を離そうとしない。
「スクランブル中の私語は厳禁! VTOLのジョイント固定、チェック、
ザク1号機、フル装備スタンバイ。バルディオスとの回線、開いておきます」
ルナマリアは張り切った様子で、肩をいからせて船首機銃のコントロールパネルをにらむ。
「わかったわよ、対空機銃はしっかり見張っといてあげるから……」
がらんとしたミネルバのデッキに直立するザクは、現状で装備できる全ての兵装を装備してカタパルトに乗ろうとしている。
全ての兵装といっても、背中のラックに40ミリ短機関砲1丁、右足側面に対装甲ブレード1本、腰側面ラックに機関砲のマガジンが2個ではあまりにも心許ない。
ブリッジより先に、滑走路に留め置かれているバルディオスチームと交信を開始したのは、ザクのコックピット内のシンである。
「マリン!出動は少し待っててくれよ」
「お前、正気か?」
この期に及んで何を言い出すのか、とマリンの反応。
シンが続ける。
「俺たちはもう軍人じゃないんだ。可能な限り戦闘を避けることをしなくちゃいけない」
マリンは半分あきれたような口調に変わる。
「話し合いが通じる相手なものか……
お前に任せるが、攻撃を受けたら出動するぞ。『一瞬』でな」
事の次第がわかってか、雷太にオリバーが続く。
「ああ、本当に『一瞬で』行っちまうからな。」
「ま、頑張って交渉して来いよ。」
何のジョークを言っているのか、シンは理解できない。
彼らなりのジョークかと納得して返答する。
「ああ、一瞬か……そんときゃ、頼む。
シン・アスカ、出ます!」
カタパルトを蹴って飛び出したザクに続いて、離水したミネルバ2世が続く。
航行灯を点滅させて敵意がないことをアピールしつつ。
ミネルバの第1ブリッジのレーダー画面には大きな影が映る。
『長距離レーダー、艦艇確認!
これは……陸上戦艦!? 連合のハンニバル級です!』
先行するシンは、ザクの操縦桿から右手を離し頭を抱える。
「とんでもなく厄介なものが来たな……射程距離まで約180秒、交信を試みる!」
無線の出力を最大にしてシンが発信を始める。
これで何度目かなどは考えない。上手くいくかどうか、そんなことも考えにはない。
一心不乱にメッセージを送り続ける。
「聞こえるか!こちらには攻撃の意思はない!
基地に収容しているモビルスーツらしきもの及びその搭乗者は、我々の関係者ではない!」
シンが遠くに気配のようなものを感じ、操縦桿を振り込む。左へ回避。
ザクの遥か右をすり抜けていくビームが1本。
通常の射程距離より遠い位置で撃ってきたものだ。
「……高エネルギービーム!」
シンの脳裏に嫌な予感がよぎる。
「今のビーム、昔俺が乗っていた機体のものじゃないのか?……」
続けて同じビームが2連射。
機体をバンクさせつつシンは苛立ちを大声に変えて吐き出した。
「戦争がしたいのか!あんたたちは!」
遥か遠方を飛行する6機のモビルスーツ編隊。その姿はまだシンからは完全には確認できない。
ジェットストライカーを背負ったダガーLが5機、その先頭には翼の付いた『G』タイプ。
ビームライフルを構え飛行するそのコックピットには、白髪交じりの指揮官。
息が詰まるのを嫌ってか、ヘルメットのバイザーはまだ下ろしていない。
「試し撃ちはこの辺でやめだ。記録はとってあるな!」
後方の戦艦のブリッジからの返信が聞こえてくる。
『本艦の4つのカメラで追っています。記録送信開始、全て正常』
「対艦ミサイル、射程に入ったら遠慮なく撃ちこんでやれ!
さて……あんなのが相手では面白くもなんともない。誰が、20機以上のモビルスーツを叩き落したのかな?」
コンソールパネルには、既に逃げ回り始めたザクの姿があった。
指揮官はおもむろにヘルメットのバイザーを下ろす。同時に足元のペダルを踏み込む。
「アイツでないのは確かだ。
実験兵器は……このフォースインパルスで引きずり出してやる!」