CEvsスペゴジ第2部_第03話

Last-modified: 2014-03-10 (月) 15:42:49

シン・アスカ

CE57九月一日に生まれ、オーブで暮らしていたコーディネイターの一人



戦前の彼はごく普通の少年で、妹を大事に思う優しい兄でもあった。

だが、CE71に起きたオーブ侵攻戦において家族を失い、天涯孤独の身になる。

その後、ザフトに入隊しアカデミーでの厳しい訓練を経て赤服を着る身となり、

当時の新型MS『インパルス』の正パイロットの座を掴み取った。

そしてアーモリー1でのMS強奪事件以降、地上各地を転戦しパイロットとしての腕を凄まじい速さで上達させ、

当時最強と謳われていたMS『フリーダム』を撃墜し、専用機『デスティニー』を手にするまでに至った。





が、月面でのネオジェネシス・レクイエムを巡る戦いにおいてデスティニー共々撃墜される。

その後の彼はラクス・クラインの下で尽力するようになってからの彼にかつての勢いは無く、

常に無気力で何をするにしても二言目には必ず『めんどくさい』『別に俺じゃなくても…』と言うようになるほど腐っていた。

と言うよりも、心が死んでいた。



それに拍車を掛けていたのが、自身と同じくラクスの下で働くキラとアスランだった。

彼らの活躍を見ているうちに、『自分は居ても居なくてもどうでもいいだろう』と言う考えに至りCE75、彼は軍を辞めた。



その際、シン・アスカの恋人であるザフト軍人、ルナマリア・ホークも彼と共に軍を去っていった。





それから2年………彼、シン・アスカの運命は再び動き出そうとしていた……









第二次攻略作戦まで後7日









東アジア共和国・日本列島、九州北部・福岡市



ザフトを退役したシンとルナはこの地で平穏に暮らしていた。

ここに来ても、シンは相変わらず毎日を無気力に過ごしていた。

そんなシンと同棲するルナは内心、昔のシンに戻ってほしいと思っていたが、

それを口に出すことは無くシンと同じく日々無気力に過ごしていた。





そうして日々を生きている二人の下へ一人の男がやってきた。



男はある人物からの命令でシンを探しており、見つけたのならば軍に戻るよう説得しろと言われていた。

そして、今日この地でシンを見つけた彼は言われたとおりに説得を始めた。

しかし、シンは復帰を拒否した。理由はやはり『別に俺じゃなくても…』である。

それでもなお食い下がるがルナマリアの痛烈な批判を受け、ある人物への連絡先を示した紙を残し渋々立ち去っていった。



シンは男が残していった紙を破り捨てようかと思ったが、後で自分の意思をハッキリと伝えるためにズボンのポケットに押し込んだ。





シンが男と接触しているその頃





この日、無人島で沈黙を保っていたクリスタル1が大空へと飛び立った。

地上軍は当初、作戦開始まで動くことは無いと思って準備を進めていた。

しかし、クリスタル1の突然の飛翔に彼らは混乱していた。

そんな状況でも、彼らは各航空会社への連絡と、クリスタル1の到達地点を大急ぎで調べていた。



しかし、彼らの行動を嘲笑うかのようにクリスタル1は、不幸にも接触してしまった幾つかの旅客機を墜落させながら、

目的の場所を目指し我が物顔で大空を猛進していた。



クリスタル1が目的地を目指し大空を飛んでいるそのころ、地上軍はようやく到達地点を割り出していた。

到達地点は日本列島・福岡市……そう、シンが移住したあの福岡市である。



地上軍が避難勧告を出すよう命令するがクリスタル1の飛行速度から考えると、とてもではないが間に合うはずが無い。



そんな絶望的な状況とは露知らず、福岡市はいつもと変わらぬ平穏な時間が流れていた。



シンもまた、いつもと変わらず無気力にすごしていた。普段と違うとすれば、今日はルナと共に新しい服の買い出しに来ていることだろう。

最初、シンは一緒に買出しへ出ることを嫌がっていたが、ルナに押し切られ嫌々付き合っているのだ。

そのルナはと言うと、どの服を買おうかと嬉々とした顔で選んでいた。



そんなルナを見ながら、シンは明日のことを考えていた。明日は新しい服を着てルナと一緒に少し遠い所に行こう、と。

シンをはじめ、この町に居る人間の殆どがこの平穏がずっと続く…そう、思っていた。











……悪魔が降りてくるまでは………









その悪魔、クリスタル1は福岡都心部…詳しく言うと福岡タワー周辺へと降りたった。



そして、オーブの時と同じように雄叫びを上げ、結晶体を出現させた。

以前と違う点は、結晶体が前回まで確認されたものよりも遥かに巨大な点と、クリスタル1の雄叫びが歓喜の叫びに聞こえる点だろう。









福岡にクリスタル1出現から数分後、近くの基地から発進した軍の部隊が到着した。

彼らはクリスタル1の目を引き付け、避難をよりスムーズに行わせるためだ。

だが、彼らの乗ってきたMSがまともに動くことは無かった。

クリスタル1の形成したエネルギーフィールドが、MSの精密機械を完全に破壊していたのだ。

それを防ぐために開発されたAFSを装備しているにもかかわらずに、だ。



しかし、彼らがパニックに陥ることはなかった。動かなくなった機体を乗り捨て、民間人の避難を手伝い始めた。



だが、ここでもクリスタル1は前回とは違う行動をとった。

逃げ惑う人々へ、クリスタル1が光条を放った。それも一度や二度ではなく、何度も何度も抵抗すら出来ない人々へと放ったのだ。

クリスタル1が行った突然の凶行に、人々が恐怖の余り暴徒と化すのは大して時間は掛からなかった。





福岡の町に先ほどまでの平穏な時間は無かった。あるのは、結晶体に覆われた地獄だった。

そんな地獄のなかで、必死に戦う軍人達が居た。



ある者達は武器を手にクリスタル1へと立ち向かった。



彼らにはMSはおろか対戦車砲すら無く、ある物といえば小銃と弾倉がそれぞれ一つに手榴弾が三つと、とてもではないがクリスタル1に太刀打ちできそうにない。



ある者達は人々を避難させるために奮闘していた。



彼らは暴徒と化した人々に飲み込まれてしまうほど、少なかった。スピーカーなどという都合の良い物などこの場には無い。



それでも、彼らは戦っていた。少しでも多くの人々を逃がすために。



そんな彼らもクリスタル1によって一人、また一人と殺されていった。彼らをはじめ、無抵抗の人々を殺すクリスタル1は心底嬉しそうだった。

時折、狂喜の混じった雄叫びを上げ、それによって人々を恐怖のどん底にたたき落としていた。



そんなクリスタル1の目に運悪く映ってしまった人間達が居た。

クリスタル1は何の容赦もせず、先ほどまでと変わらず光線を吐き、その人間達を吹き飛ばした。









シンとルナは必死になって逃げていた。炎の海と化した町の中を必死になった逃げていた。

つい先ほどまで手に持っていた買い物袋も、逃げる途中に炎の海に投げ捨てた。



シンはふと、昔を思い出していた。家族を失ったあの日のことを、ステラが死んだあの時のことを………



大丈夫だ、今度こそ絶対に守れる。

そう自分に言い聞かせながら、足を動かした。ルナの手をつなぎ、必死になって走った。



だが、それも長くは続かず段々と足が止まるようになっていった。

最初に自分たちが居た場所からかなり離れた場所に着くと、一旦足を休めることにした。



少しの間、休んでいると突如ルナが悲鳴にも似た声を上げながら、シンを押し飛ばした。





直後、眩い光がシンの目の前を過ぎ去り凄まじい爆風が彼を襲った。









周囲の暑さと異様な臭いで目が覚めた。どれほど気を失っていたのだろうか、いったい何が起こったのか、ルナマリアは無事だろうか…と周りを見回していた。



周りには無数の残骸があった。道路の残骸、ガードレールの残骸、建物の残骸、そして…………





          先ほどまで『人間だったであろう』残骸が





シンは最初、我が目を疑った。先ほどまでは無かったものが目の前にあったのだ。

彼はルナの名を叫んだ。きっとルナは生きている、これはきっとルナとは違うと必死に言い聞かせた。しかし、返事は帰ってこなかった。

シンは恐る恐る残骸に近づく。心の中でルナではないと言い聞かせながら。



その残骸は原形を留めぬほど破壊されていた。そんな残骸のなかに辛うじて原形を留めている部位があった。

それは、人間の手に当たる部位だった。

シンはルナではないと言い聞かせながらその部位を手にとって目を凝らしながら見ていた。



だが、運命とは無情かな。その部位には





        シンが一年前にルナへと送った指輪がついていたのだから。





突然、シンの頭の中で過去の記憶がフラッシュバックされた。あの忘れえぬ忌むべき記憶が



フリーダムによって四肢を切り取られ、ガイアの突進をうけて爆散するハイネの駆るグフが



フリーダムの突きによって破壊されるデストロイのコクピットが





そして、流れ弾でバラバラになった父と母、片手だけになった妹の姿が



次々とシンの脳裏に映し出されていった。



シンは泣いた、泣き叫んだ、また守れなかったと泣き叫んだ。

不意に雄叫びが聞こえた。この惨状を作り出した怪物、クリスタル1の雄叫びだった。

シンは憎悪の眼差しをクリスタル1へと向けた。その視線に気づいたのだろうか、クリスタル1は底無しの殺意を込めシンを睨み返した。

シンはその視線を受け恐怖した、だがその恐怖に押し潰される事は無かった。むしろ、クリスタル1への憎悪の炎をより一層燃え上がらせた

その憎悪を抑えられることが出来ず、シンはクリスタル1へと憎悪の叫びをぶつけた。



「俺はお前を絶対に許さない!必ずお前を殺してやる!!」





クリスタル1はその叫びに答えるように雄叫びを上げ、そのまま背を向けて降り立った場所へと戻っていった。







やってみろ。



シンはクリスタル1の雄叫びがそう思えた。



上等だ。やってやるよ…!



シンは心の中で雄叫びに答えた。



その後、シンはその場を離れ避難所へとたどり着くと、電話を借りポケットの中に突っ込んでいたあの連絡先の書かれた紙を取り出し、そこへ電話を掛ける。

自分の意思を伝えるためだ。それは、復帰を断る為ではない。かといって、軍に戻る為でもない。復讐の為だ。大切なものを奪われたことへの復讐の為だ



皮肉な話ではあるが、平和によって死んでいたシンの心がクリスタル1という脅威によって蘇ったのだ。

もっとも、シンにとってはあまりにも代償が大きすぎたが……





その後、自分を探していた人間がオーブの五大氏族の一人であったり、電話に出た人間がその五大氏族本人であったりと驚くことになるのだが。