CEvsスペゴジ第2部_第04話

Last-modified: 2014-03-10 (月) 15:42:31

クリスタル1が福岡市を制圧してから3日後





シンは今、結晶体に覆われた町の中にいる。そして目の前には最愛の女性を奪った悪魔、クリスタル1が立っている。

シンはその悪魔へと突撃を敢行するが、クリスタル1はシンの駆る機体目掛け光線を放つ。シンはそれを紙一重で回避するが、

放たれた光条は一瞬の間も置かずに捻じ曲がり、機体へと襲い掛かる。

その一撃で機体は地上へと叩きつけられ無数の結晶体が機体へと殺到、数秒後には機体のモニターは黒く塗りつぶされ、

周りが明るくなると、モニターには『YOU DEAD』の文字が映し出されていた。





現在シンは、かつての腕を取り戻すべく猛特訓を行っていた。

それこそ、平和を噛みしめていた人間には厳しすぎるほどのものを。

彼がそこまでするのには、クリスタル1の生物にはありえないほど高いスペックと戦績にある。

重力操作、人間のそれを大きく超えた空間把握能力、MSを一撃で破壊するほどの捻じ曲がる光線、高速かつ光速での飛行、出鱈目な生命力、その他etc、etc…

さらには地球圏最強パイロット二名を相手にして生き残り、そのうち一人を惨たらしく殺しているのだ。

極めつけは殺されたパイロット、アスラン・ザラはかつては彼の上官で、シンを月面で落とした人間である。

そんな人物まで殺されていたシンの心には、クリスタル1への復讐に続き、アスラン・ザラを超えると言う目標が生まれていた。

そんな目標が生まれたシンではあるが、先ほどの対クリスタル1戦を想定した戦闘シュミレーションでは、被撃墜最短タイムを更新していたため、

目標達成までの道のりは恐ろしく長く苦しい物になるだろう。





ちなみに、被撃墜最短タイムのワースト3はすべてシンが占領し、被撃墜最長タイムのベスト3には劾、ミナ、キラが陣取っている。







シンがリハビリ兼特訓に励んでいるころ、オーブ司令部では第二次攻略作戦に関する軍議が行われていた。

その内容は実に簡単なもので、決行するか中止するかを決めるものであった。

現在、改良型AFSの装備を全戦艦・全MSに対し急ピッチで行っており、早ければ2日後には完了する見通しになっている。

が、福岡市を制圧したクリスタル1の能力はオーブに出現したときよりも向上しており、より詳しい情報が必要になっていた。

そのため、情報収集の時間が必要で、明確な対策が立つまでは戦力を消耗するのは好ましくないと言うのが、ミナを始めとしたオーブ研究機関の主張である。

それに対し地上軍司令、マリュー・ラミアスと副官であるムウ・ラ・フラガは、先に報告されていたクリスタル1の弱点を考慮し、

消耗戦を挑めば必ず勝てると主張。

それから3日間、舌が千切れ落ちてしまいそうなほどの速さで議論が交わされたが、両者の意見が一致することはなく、

最終的に地上軍の主張が通され、オーブの意見が通ることは無かった。













作戦決行が決定してから24時間後









東アジア共和国、日本列島・福岡市



クリスタル1は今、目の前に群がる大量のMS、MAと戦艦を睨みつけていた。

この大軍の旗艦・AA(アークエンジェル)に艦長兼司令官として乗るマリューは、クリスタル1の強大さを改めて確認していた。

その強大さに体が固まってしまうほどだが、今この場にはキラ、ムウを始めとする前大戦からの仲間が集っているのだ。



さらにキラの乗るストライクフリーダムは、前回の反省点を生かしてドラグーンを排除、

機体の随所にブースターユニットを取り付け機動力の底上げを行っている。



ムウの駆るアカツキはブースターを増設した事と、主武装が実弾ライフルであること以外は、前大戦で使用した時と変わらぬものだった。



他の仲間もより強力になった機体に乗っているのだ、負けるはずが無い。

そう確信して、マリューはクリスタル1への攻撃命令を全軍に下した。







かくして、第二次クリスタル1攻略作戦の火蓋は切って落とされた。











…いや、切って落とされてしまった、と言うべきだろう………







クリスタル1が地上軍と激突して10分が経過した。

この10分を『たったの10分だけ』と取るか、『ようやく10分たったのか』と取るかは個人の自由ではある。

が、この場合は誰もが後者を取るであろう。それほどまでに地上軍の消耗が激しいのだ。

しかし、このような状況にありながら誰一人として絶望していなかった。

その理由は、今回は圧倒的な物量差でクリスタル1を押しつぶせるからだ。

戦いにおいて、大が小を圧倒する最大の要因は、物量差による消耗戦である。

そのため、『自分たちは確かに苦しいが、奴はそれ以上に苦しいはずだ』という考えが地上軍全員の頭の中にあった。



さらに5分後、マリューは全艦・全MS、MAに一斉同時攻撃の命令を下した。

自軍の戦力もかなり消耗した事もあるが、クリスタル1がこちら以上にエネルギーの消耗をしたと見たのだろう。



その命令を受けて、クリスタル1周辺に存在する全ての戦艦が、MSが、MAが、ありったけの実弾を叩き込んだ。

次々とあがる煙によって、クリスタル1の上半身が確認できなくなっていた。



誰もが勝利を確信していた。『あれだけの攻撃が叩き込まれれば、どれほど強大だろうと死んでいるだろう』と









歓喜の叫びの代わりとして、一隻の戦艦の爆発音が響くそのときまでは







戦艦を破壊しただろう者、クリスタル1へと目を向けた。そこには、認めたくない現実が広がっていた。

無傷だった。クリスタル1は無傷だった。傷など一つとして負っていなかった。

挙句、傷の代わりに見えるものはというと、憎悪と憤怒に染まったクリスタル1の顔だった。





喜びは再び放たれた光条によって、絶望へと変わった。









一斉攻撃から3分後



先ほどまで圧倒的な数を誇っていた軍の姿は無く、あるのはクリスタル1に蹂躙される弱者の群れだった。

ある部隊は、無謀にもクリスタル1へ突撃し、撃ちだされた結晶体に粉砕され、ある部隊は撤退しようとした瞬間に光線によって跡形なく消し去られ、

またある部隊は、重力波に捕らえられ散々地面にたたきつけられた挙句、同じく重力波に捕らえられた戦艦と正面衝突させられ、爆散。

そんな惨劇が延々と続けられるこの地は、戦場ではなく、クリスタル1の狩場と変わっていた。



これ以上、この場に留まれば全滅する。そう考えたマリューはついに残存部隊へ撤退命令を下した。

だが、目の前にいる悪魔からそう簡単に逃げられるはずが無い。クリスタル1は、地上軍がこの場から逃げようとするのを本能で感じ取ったのだろうか、

地上軍への攻撃をより激烈なものしていた。

その攻撃を少しでも和らげ、多くの部隊を撤退させるために、旗艦であるAAとキラの駆るフリーダムとムウの駆るアカツキをはじめとした少数のMSが、

殿としてクリスタル1の目の前に立ちふさがっていた。



殿として立ちふさがったフリーダムは凄まじい速さでクリスタル1へと接近、その巨体にビームサーベルを叩き込んだ。

クリスタル1はフリーダムへと攻撃を仕掛けようとするが、まったく当たるそぶりは無く、攻撃をはずしている間もフリーダムはクリスタル1へ切り込んでいた。

攻撃を仕掛けているのはフリーダムだけではなく、アカツキを筆頭に他の機体もクリスタル1へと攻撃を仕掛けていた。

それを鬱陶しく思ったクリスタル1は、無数の結晶体をMSの群れへと撃ち込むが、AAの砲撃によって撃ち落されてしまう。

さらにフリーダムがクリスタル1の頭部目掛けて強烈な蹴りを放ち、その巨体を大地へとひれ伏させる。



再び立ち上がったクリスタル1の顔は先ほど以上に怒気をはらんでいた。

キラは一瞬、過去の恐怖を思い出すが、『あの時は機体の仕様が本来とは違っていた』『あの時は油断していただけで、本気ではなかった』

『全力を出して戦える今なら負けるはずが無い』と、かつてシンの駆るインパルスに撃墜されたときと同じように自分に言い聞かせた。



キラは再びフリーダムを加速させ、クリスタル1へ突撃した。あわや激突、と言うところで機体を急反転させクリスタル1の背部をとった。そして











機体ごと巨大な尾に粉砕され、殺された。











この場に居合わせた全ての人間が呆気にとられた。地球圏最強のパイロットが、誰にも追いつくことが出来ないほどの技量を持ったパイロットが、

目の前で、あっさりと、この上なくあっさりと撃墜された。正直、悪い夢か冗談にしか見えなかった。しかし、実際に目の前で起こった現実だった。





だが、クリスタル1はその事態を受け入れさせる時間を与えるつもりは無いらしく、AAへ光線を放った。



それを阻止するように、アカツキがAAが光線の射線上へと躍り出た。光線がアカツキに直撃するが、アカツキの装甲『ヤタノカガミ』によって弾かれ、クリスタル1へと撃ち返される。





はずだった。





光線は装甲に弾かれた瞬間、アカツキを避ける様に捻じ曲がりAAのブリッジを直撃した。

それをムウが理解する前に、追撃として放たれた無数の結晶体が次々とAAに突き刺さり、地上へと墜落した。



AAが地上へと墜落するのと同時に、アカツキはクリスタル1目掛けて突っ込んだ。何の考えも無く、ただ、憎しみに突き動かされ突っ込んだのだ。

その突撃を阻止するように、クリスタル1は光線をアカツキに放つがそれらは装甲によって無力化されている。

あと少し、あと少しでクリスタル1に一矢報いる事が出来る距離に来た途端にアカツキの動きが止まった。いや、クリスタル1に止められた。

ムウは、アカツキを動かそうとするも動くはずが無く、クリスタル1はそんなアカツキを仰向けにした状態で少し離れた場所へと動かすと、アカツキの真下に無数の結晶体を出現させる。

さらにアカツキの真上に無数の結晶体を待機させ、アカツキと上空の結晶体を地上目掛けて凄まじい速度で落下させた。

結局、ムウはクリスタル1に傷一つつけることなく、無数の結晶体に串刺しにされその生涯に幕を下ろした。





希望を全て失った殿部隊が全滅するのに、それほど時間は掛からなかった。







殿部隊を全滅させたクリスタル1は、そのまま残存戦力の追撃に赴いた。