『手筈通りに進めるぞ、いいな?』
『『了解』』
クルーゼのシグーを筆頭に、イージスとバスターが追従する。
デュエルは改修が間に合わず、イザークも痛んでいたため、今回の出撃は見送った。
目標は言うまでもなく足付きの白い戦艦である。
『おいでなすったぜ、彗星さんがよ!』
援護機であるが故、最も性能の良いセンサーを搭載したバスターからの警告が全機に渡った。
火線を集中させ撃墜を試みるが、相変わらず憎いほどの正確な回避に三人は舌を巻いた。
『アデス。足付きの牽制は厳に頼むぞ』
『抜かりはありません!』
ナスカ級戦艦の弾頭が次々にアークエンジェルを襲ったが、ハリネズミのような迎撃システム網に引っ掛かり、実を結ばずに爆散していった。
しかしながら、クルーゼ隊には一抹の焦燥も無かった。
『新たな機影確認!』
「何だって!?」
ディアッカの報告に混乱の色を隠せぬアスランであった。
只でさえ赤い悪魔で手一杯であるのに、これ以上攻め手が現れるのは作戦の成否に関わるからだ。
『私が赤い奴を押さえる……貴様達は新手を引き付けろ』
「しかし!」
アスランは身も千切れんばかりの声を上げた。
ラウ・ル・クルーゼをしても、一対一では分が悪いのは明白であったからだ。
『侮ってもらっては困るな、アスラン。
汚名返上と行こうではないか』
「……わかりました」
ラウにその場を任せ、アスランとディアッカは全速でトリコロールの機体へと付き進んだ。
『やらせん!』
シャアはストライクを狙わせまいと、身を翻してバスターとイージスを阻止せんとした。
『私が相手をしよう!』
だが、立ちはだかるシグー。
ラウは覚悟を決め、シャア専用デュエルにドッグファイトを挑み始めた。
『貴様に構っている暇など無い。さっさと先の屈辱を晴らさせてもらおうか!』
デュエルからの全周囲回線。
『屈辱だと……!?
貴様がそれを言うのかぁぁ!!』
憤激したラウは、持てる全ての火器を用いて赤いデュエルに応戦した。
背後の取り合いに火花を散らすが、機動力と経験に一日の長があるシャアにじわじわと押されていくのだった。
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「うわぁぁぁ!!」
畏布を振り払うかのように絶叫しながらキラはトリガーを引き続けた。
「こいつ……?素人か?」
アスランは攻撃をいなしながら冷静に分析を続けた。
計画性の無い射撃、たどたどしい動き、そして何より、恐々とした雰囲気が漂っていたからだ。
『アスラン!こいつは二人でやる相手じゃない!俺は隊長の援護に行く!』
『わかった』
ディアッカも敵の稚拙さに気付いたのか、反転して激戦区へと去っていった。
ストライクは無我夢中でイージスと対峙し続けている。
「いい子だ、こっちへ来い」
わざと劣勢に回り、ストライクを徐徐にアークエンジェルから遠ざけていくアスラン。
その心中で作戦の成功を確固たるものと判断した時だった。
「「「わぁぁぁ!」」」
ブリッジにてトール達の悲鳴が次々に上がった。
アークエンジェルの戦体が大きく揺れ、直撃を受けたことを示唆していた。
「落ち着け!先ずは報告だ!」
「は、はい!今、確認します!」
ナタルの激によりクルーたちは次第に冷静さを取り戻し、状況把握に努める。
「ブリッツに取り付かれています!」
「何!?」
「ミラージュコロイドによる奇襲かと!」
「MSに迎撃させろ!」
「二機とも敵に足止めを食っています!」
「くっ……」
足下もおぼつかぬ程の振動が続く。
アークエンジェルはクルーゼ隊の陽動作戦にまんまと掛ってしまったのだ。
これは、性能を知りつつもブリッツの奇襲を予測出来なかったナタルの責任に他ならなかった。
「私は……無能だ……!」
ナタルは、死神の鎌が喉笛に付きつけられているかのような感覚に陥った。
己を呪い、こんなことなら艦長などしなければよかったと、自らの決断を後悔した。
しかし、幾ら悔恨しようとも、事態がなにかしらの変化をきたすことはなかった。
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――アークエンジェルが墜ちる――
それが将に結果になっていく過程を、キラはストライクから目にしていた。
恐怖は既に消え、代わりに迷いが居座っていた。
ミリアリアが何か叫んでいるが、一つのセンテンスもキラの耳に入ることは無かった。
『死ぬときは一緒だぜ?』
ふとよぎるトールの言葉。迷いは抹消された。
シャアを見る。シグーとバスターに手間取っていた。
イージスを見る。此方を牽制している。
OS確認、ナチュラル用との表示。
キラの指は神速の如くコンソールを叩き始めた。
この行動は破滅をもたらすかもしれないが、そうも言っていられなかった。
――友の喪失は、破滅を凌駕する――
「死なせるか……!」
OS書き換え。マニュアル制動比率の上昇、パイロットをコーディネイターと設定。
「死なせるもんかぁぁぁ!」
キラの指が動きを止めると、コンソールがOSの更新を示した。
それと同時に、スラスターを最大限に放り込む――!
何かを得るには、何かを捨てなければならない。キラが捨てたのは平穏、そして保身であった。