「やめろぉぉぉ!」
弾丸と化したストライクは、艦底に取り付いているブリッツへと遮二無二突撃した。
誘爆の危険性を考慮し、火器類の使用は見送った結果だった。
「ぐっ……!」
『うわぁぁぁ!』
フェイズシフトをもってしても殺すことの出来ない衝撃がキラを襲い、内臓が無理矢理撹拌され、全身の骨が軋んだ。
体当たりが功を奏したのか、ブリッツは彼方へと漂っていった。
「墜ちろ、墜ちろぉ!」
ストライクは体勢を崩したブリッツに、禁じていた火器を叩き込んだ。
それに対応して、何とか姿勢制御したブリッツは盾を構えて辛うじて身を守った。
「ニコルッ!!
……こいつ……急に動きが!」
イージスから、ストライクの変貌をリアルタイムで目にしたアスランは、状況を上手く飲み込めずに当惑していた。
――アニメではあるまいし、急にパイロット技能が上昇するなど有り得ないのだ――
だが事実は事実以外の何者でもない。
認めたくはないが、火地場の馬鹿力は実在するのだとアスランは結論付けた。
『くそ……済みません……!』
ニコルの切歯扼腕の声であったが、アスランは無事が確認できたことにまずは胸をなで下ろした。
「いや……牽制しきれなかった俺のミスだ」
『アスラン!こっちはもう持たない!援護を!』
間を置かず、赤い彗星と交戦していたディアッカからの通信。
その声色は慄然とし、内容以上のものをスピーカー越しから伝えていた。
「今行く!作戦は失敗だ!
ニコルはMSを牽制しつつ帰投しろ!」
イージスを変形させ、アスランは窮地の真っ只中にいる二人の元へ奔走した。
「(コーディネイターがナチュラルより優秀だなんて……虚偽じゃないか!)」
自分達を圧倒するナチュラル達の存在――
コーディネイターが人間という枠を脱していないことを、アスランは認めるしかなかった。
しかし、それは僅かに僻事であった。
ストライクのパイロットはキラ・ヤマト――コーディネイターであり、アスランの嘗ての親友であったからだ。
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シグーは既に原型から著しく遠ざかり、バスターはその名を足らしめる武装を消失していた。
一方、赤いデュエルは未だ軽傷で、シールドを失った以外は戦闘前とそれほど変わらなかった。
「一杯食わされるとは……」
だが、シャアは全く勝利に浸っていなかたった。
局地戦での勝敗など、大局では取るに足らないのだ。
母艦を危機に晒したのは、大局的敗北に相違無かった。
「しかしだ……貴様達は討たせて貰おうか!」
戦闘能力を失った二機に二刀をもって突進する――!
「隊長……!ディアッカ!」
その光景を見たアスランは、自分の中で『何か』が唸りを上げてうごめくのを感じた。
憤怒、激情、悲哀、嘆息が入り混じったような、しかし、何処か醒めたようなモノだった。
その開放を躊躇ったアスランだったが、じわじわとそれは漏出して体を支配した。
「うおおおお!」
遣り場の無い『何か』をぶつけるような咆吼と共にワインレッドの閃光を横槍に入れる――!
「プレッシャー!?」
デュエルは急制動をかけ、その閃光を股間に通してやりすごした。
対峙するデュエルとイージス。
「もうお前をナチュラルだとは思わない……
この俺の……全身全霊で貴様を討つ!」
イージスにまとわり着く思惟に、シャアは一瞬怯んだ。
「雰囲気が違う……!ちぃ!」
シャアを狙う、正確さとは掛け離れた射撃。
しかし、逃げ場を潰すような攻撃にシャアは歯噛みし、目の前の敵が自分のステージに上がってくるような感覚が頭を巡った。
「やるっ!」
次第に追い詰められて行くシャア。
それはアスランの技量だけでなく、彼が発するプレッシャーも一因であった。
『少佐、戦域を離脱します!帰投を!』
「……了解だ」
ミリアリアの通信を受け、シャアはイージスを牽制しながら撤退を始めた。
「なりそこないは、なりそこないか……」
以前、罵倒された時に用いられた『なりそこない』という単語が、
牽制を続けているシャアの頭に浮かんだ。
アムロならばアークエンジェルへの奇襲を読んだだろう。
カミーユなら、敵のプレッシャーを飲み込んだであろう。
――コンプレックス――
何と自分は歪小なのだと、シャアは己を卑下し続けていた。