GUNDAM EXSEED_B_36

Last-modified: 2015-08-28 (金) 20:28:56

ふーん、とアランから聞かされた時、アッシュは朝のランニング中だった。そしてランニングを終え、少し休むかと思った瞬間にマズイと気づいたのだった。
これが同盟の弊害という奴かとアッシュは改めて後悔した。関わりたくもない戦争に関わらされるという、極めて厄介な出来事だ。しかい、拒否するという訳にもいかない。アッシュは、とにかく主要なメンバーを集めることにした。
そしてアッシュは端的に言った。
「とりあえず、月を落とすことになった」
メンバーは、おー、と何か驚きがあるような、そうでもないような微妙な反応だった。その態度ですでにアッシュはウンザリと来ていた。もう少し事の重大さを理解してほしいと思ったが仕方ない。このメンバーに緊張感をもって月の攻略などやれそうもない。
正確には月の基地を墜とすのだが、もうどうでもいいとアッシュは思った。
もう面倒くさいので戦闘関係はハルドに全て一任だとアッシュは思った。そして一任されたハルドが色々と細かい指示を出す・
「各員、好きなMSに搭乗。俺は新型に乗る。とりあえずシルヴァーナで高速接近して色々ぶっ放してから、戦闘に移る。オーケー?」
オーケーとその場にいたメンバーが言う。
「基地の制圧は地球連合任せ、こっちは言われるまでは対MS戦闘以外、余計なことはしない。オーケー?」
オーケーとメンバーがやはり言う。思ったより統率がとれているとアッシュは思ったが、これはハルドがバケモノみたいに強いから作られている統制なのではと思った。
だが、そんなことを考えてもしょうがない。とりあえずゴロツキが言うことを聞いていることだけで満足としようとアッシュは思った。
「じゃ、セインはブレイズガンダムでよろしく」
しかし、最後に言った言葉に関して、アッシュは見逃せなかった。
誰もいなくなってから、アッシュはハルドに詰め寄った。
「セイン君をブレイズガンダムに乗せるのは良くないと、言わなかったか?」
は、とハルドは吐き捨てる。
「俺が見てねぇのに何も判断できるわけないだろうが」
それはそうだが、こちらの言い分としてブレイズガンダムに乗せるのは危険と理解してもいいではないかとアッシュは思うが、ハルドはどうでも良い様子だった。
「使って、どう駄目なのかお前のレポートじゃわかんねぇから俺が行くんだろうが。トラブルが起きたら俺が解決するよ」
ハルドはそう言って、アッシュとの会話を打ち切ったのだった。そして去って行くハルド。だが、その最中に一言を言ったのだ。
「ガキの1人どうでもいいじゃねぇか……」
幸か不幸かその一言は確かにアッシュの耳に届いた。その瞬間、アッシュは駆け出す。
「ハルドぉぉぉ!」
アッシュは殴りかかる姿勢だったが、ハルドは他愛もなく受け流し、アッシュを宙で一回転させながら、床に転がす。
「俺はお前が嫌いじゃねぇから、こうする。嫌だと思うが俺に任せとけ」
ハルドはそう言うと、アッシュを離し去って行くのだった。

 

そしてシルヴァーナは出港し、地球連合軍の作戦に協力するのだった。
セインはハルドを見つけると言う。
「ブレイズガンダムの搭乗許可をいただきありがとうございます」
セインは無垢な表情でハルドに言うのでハルドはバツが悪くなり、セインの髪の毛をかきむしる。
「俺の言うことがちゃんと聞けたらって条件付きだぜ」
ハルドはそう言うと手を離し去って行く。ハルドは何か嫌な予感がしたが、無視した。嫌な予感はトラブルにつながる。
そしてトラブルがあると状況はハルドにとっては大概面白いほうに転んで行くのだ。なので、ハルドは大抵の嫌な予感は放っておくことにしている。今回もそうしたのだった。
それが失敗かどうかは実際にことが起こってからだと思いながら、ハルドは自分が乗る新型機の前に来ていた。機体の前にはレビーとマクバレルがいる。
本格的な戦闘ということで、今回はレビーとマクバレルの技術者コンビも艦に乗り込んで、機体の整備に当たっている。

 
 

「どーも隊長」
レビーが挨拶するとハルドは軽く手だけを上げた。
「一応、新型のザバッグについて説明しますね。サイズは標準、フレーム等は中量級です。武装は、ビームライフルとシールドに小型のミサイルを仕込んでます。ビームサーベルも標準装備。まぁスタンダードな機体です。あとは乗って慣れてください」
レビーはそこまで言うと、ハルドに機体を見るように促した。ハルドは機体に視線を移す。
なんともまぁ、特徴の薄い機体だとハルドは思った。頭部はゴーグル型で地球連合規格、全体のシルエットも少し曲線が入っているが地球連合系だとハルドは思った。唯一気になるのが、バックパックから伸びている×字のスラスターだ。
「バックパックには可動式スラスターがあるんで、小回りは良いと思いますよ」
「他になんか自慢みたいなのはないの?」
あまりにも特徴が無さ過ぎるとハルドは思ってレビーとマクバレルに聞いてみた。するとマクバレルが答える。
「正直、なんとなく作った機体だからウリはないな。ただフレーム等はシンプルな分、かなり堅牢に仕上げることが出来た。あとは火器管制システムか」
「火器管制システムを地球連合とクライン公国の武装全てに対応出来るようにしているので、奪った武器も問題なく使えますよ。あと、腕とか千切れても、他の機体の腕とかで代用できますね」
マクバレルとレビーが順番に説明したわけだが、ハルドはイマイチ、ピンと来なかった。とりあえず戦闘に関しては、明らかに役立つものは無いという訳だなとハルドは結論付けた。
「フレイドにしときゃ良かったかな……」
ハルドはザバッグという名の新型機を見ながら、そう呟くのだった。

 

セインは出撃までの間、手持無沙汰だったためシルヴァーナの艦内を見て歩いていた。
「あいかわらず、凄い船だなぁ」
れっきとした戦艦で士官用の個室もあるというが、クランマイヤー王国には現状、士官というか階級自体が無いので、ハルドら腕の立つパイロットが勝手に部屋を使っていた。実力社会ということで、皆、納得していた。
「僕も個室をもらえるくらいには働いてると思うけどなぁ……」
そうセインが呟いた時だった。セインは目の前を信じられない人影が通り過ぎるのを見た。セインは慌てて追いかけ、その人影の名前を呼ぶ。
「ミシィ!」
セインの幼馴染のミシィ・レイアがいたのだ。ミシィは振り返りセインを見る。
「なに、セイン、大声を出して?」
ミシィは首を傾げながら言う。そんなミシィにセインは詰め寄った。
「何?はこっちのセリフだよ!なんで、この艦にいるんだ!この艦は戦争に行くんだぞ!?」
セインが叫ぶとミシィは耳を押さえて顔をしかめる。
「そんなこと分かってるわよ。私はこの艦のオペレーターになったの。だから、この艦にいるんだけど?文句あるの?」
文句とかそういう問題じゃなく……セインは上手く言葉に出来ないのがもどかしかった。
「別に大変な仕事じゃないわよ。レーダーとか見て、何か来たとか言えば良いって言われたわ。あと発進の時に、発進のアナウンスをするだけだって」
多分、それだけが仕事じゃないだろうとセインは思った。
「それ、誰が言ったの?」
「ストームさんとイオニスさん」
頭のおかしい筆頭二人組じゃないか!とセインは何故ミシィがあのキチガイどもの言うことを真に受けのか信じられなかった。
「でも、なんでまた急に……」
「急じゃないわよ。前から考えてたの。私にも戦いで何かできることがないかって」
だからって、どうして急にとセインは思う。何か言いたいことはあるのだが、上手く言えなくてセインはもどかしくてたまらなかった。
「私は行くわ。セインも気をつけてね」
そう言うとミシィは颯爽と立ち去って行った。その場に残されたセインは言いたいことも言えずに、呆然としたあと、頭をかくことしかできなかった。
颯爽と立ち去ったミシィも言いたいことが全て言えたわけではなかった。心の中に溜め込んだ思いがあるが、それを口には出せなかった。セインとミシィ、お互いに素直になることが難しいのだった。

 
 

シルヴァーナが月へ向かっている最中、月では地球連合の攻撃が予測されており、その対応策が練られていた。
最高司令官は聖クライン騎士団団長のビクトル・シュヴァイツァー大将であった。
「諸君も分かっていると思うが、この月面基地が陥落することになれば、月周辺の各拠点への補給路が分断され、月周辺は自動的に地球連合のものとなるだろう。諸君らの奮闘を期待する!」
ビクトルの話しを聞きながら、ロウマ・アンドーはあくびを噛み殺していた。くだらねぇ、とロウマは思う。ビクトルのアホ大将は、なんとかなると思っているがロウマは、勝負はついていると感じていた。
兵も装備も二線級だ。息巻いているのはビクトルだけ。こりゃビクトルは切られたかなとロウマは思った。元々、厳格過ぎて人望に乏しかった男だ。聖クライン騎士団の上層部でもビクトル降ろしの声は上がっていた。
聖クライン騎士団の上層部の総意としてはビクトルにここで名誉の戦死を遂げてもらう予定なのだろうとロウマは思った。実際、わざとらしいくらいビクトル派の将校で固められている司令部を見れば、多少頭の働く人間ならば気づく。
ビクトル派はここで全滅で新しい聖クライン騎士団の体制がつくられるだろうとロウマは予測するのだった。となるとここでの自分の役割は何かとロウマは考える。
ロウマは考えた結果、綺麗に負けるようにすることが自分の仕事だと思った。ビクトル派の人間は全員死んで、それ以外の使えそうなのだけ脱出させ、綺麗な撤退戦を決める。それが、今回の自分の仕事だとロウマは考えたのだった。

 

「月が見えたぞ、各員戦闘態勢」
艦長のベンジャミンが艦内放送で全員に伝える。
「タイミングと位置が良くなかったな。基地に行くには月を半周しなきゃならねぇ」
ノーマルスーツを着てブリッジにいるハルドはそう言うと、ミシィに確認を取る。
「半周するまでの間にある月の施設は?」
ミシィは急に声をかけられ、慌てて調べてハルドに伝える。
「強制収容所が2つです」
ハルドはそれを聞くと面倒くさいといった感じを露わにしながらも、どこか運が良いといった感じも含ませながら言う。
「収容所の解放を優先。歩兵戦闘員にもきちんと準備させるように連絡しろ、オペレーター」
歩兵戦闘員とは虎(フー)達のことだ。ハルドに言われてミシィはたどたどしくオペレーターの仕事をする。その後ろでベンジャミンとハルドは話していた。
「いいのか、基地到着が遅れるぞ?」
「こっちはガチの戦争はしたくねぇんだ。基地で戦争なんかしてたまるか。だから捕虜の解放してましたって言えば、参加しなかった面目も経つだろ」
妙なところで過保護なことだとベンジャミンは思いながら、艦内放送で全員に伝える。
「本艦はこれより、強制収容所の解放に向かう。総員戦闘用意」
ベンジャミンがそう言うと、ハルドはブリッジから去って行った。
「んじゃ、行くか」
ヘルメットを被りながら、ハルドは格納庫を目指す。途中セインに出会ったので、ケツを蹴飛ばした。
「遅い、キビキビ動け」
はい、と言いながらセインは急いで格納庫へ向かっていった。現状、アッシュが言ったようにおかしなところは見えないなとハルドは思った。
格納庫へ到着すると、パイロットは全員がMSに乗り込んでいた。数は12機だ。とりあえず細かいフォーメーションは決めずに行ってみるかとハルドは思い、自分も機体に乗り込む。
「大丈夫だとは思いますが、気をつけて」
レビーがそう言ったのを聞いてから、ハルドはコックピットのハッチを閉じた。
「ハルド、収容所に近づいたせいで、収容所の警備の機体が出てきたが、どうする?」
ベンジャミンから通信が入ったのでハルドは答える。
「艦砲射撃は無し。静かに殺す」
そう言って、ハルドはオペレーターに言うのだった。
「オペレーター、ハッチ開け」
ハルドがそう言っても格納庫のハッチは中々開かなかった。
「あ、自分がやるんで」
コナーズの声が聞こえてきた。どうやらオペレーターはまだ使い物にならないようだとハルドは思った。

 
 

「オペレーター、発進してもオーケー?」
ハルドは若干イラつきながらミシィに言う。
「あ、はい、どうぞ」
どんくさく返事が返ってきて更にハルドはイラッとした。
「ハルド・グレン、ザバッグ、出撃する」
そう言って、ハルドの乗るザバッグは、シルヴァーナから飛び立った。続いてセインのブレイズガンダムである。
「セイン、気をつけてね」
「うん、気をつけるよ。じゃあ、行ってくる」
そう言って、セインのブレイズガンダムが飛び立つ。ハルドの元にもその通信の音声は届いていたので色々と言いたかったが我慢した。
収容所から発進してきたMSがハルドの視界に入る。機体はゼクゥドのようだった。ゼクゥドもそこまで古い機体ではないが、最近ザイランを良く見かけるため、どうしても旧式機のイメージがした。
「敵発見、ハルド機、攻撃するぞ」
機体の火器管制システムではロックオンできていないが、多分当たるだろうと思い、ハルドはトリガーを引いた。直後にザバッグの右手のビームライフルからビームが発射される。発射されたビームは遠距離のゼクゥドのコックピットを貫いた。
「当たるんだな、あの距離でも……」
セインは驚愕した。そしてそれと同時に頭の中に声が響く。
(あなたも続くのです)
「はい」
頭の中に声が聞こえてきた瞬間、セインは頭が上手く働かなくなっていくのを感じたが、声に逆らう気にはならなかった。
セインはブレイズガンダムを敵の集団に向けて突進させようとした。だが、その瞬間だった。ザバッグの蹴りがブレイズガンダムの頭を捉えた。
「何、突出しようとしてんだ、馬鹿」
衝撃とそれに加えてハルドの声が聞こえてセインは頭がハッキリとした。
「今日は俺とお前でツートップ。お前が俺のカバーしないでどうすんだ」
それもそうだな、自分は何をしようとしていたんだとセインは反省しながら、ハルドの機体のカバーに入る。
敵のゼクゥドの集団は目の前だったが、問題はなかった。ハルドが前に出れば、セインがその背後をカバーする。逆になった場合はハルドがカバーする形になった。
そうして問題なく、収容所のMS部隊は殲滅させたのだった。ほぼ二機で片がついた。ハルドが多く倒したがセインも、そこまで負けてはいなかった。
「地球へ行って、腕を上げたか?」
ハルドがセインに言うが、セインとしては良く分からなかった。自分の腕がここまであがっているのがおかしいとさえ思っていた。
「おい、なんか言え」
ハルドのザバッグがブレイズガンダムを小突いてようやくセインは反応した。
「はい!?」
「何そんなに驚いてんだ?収容所に降りて、武装解除の勧告するぞ」
ハルドはセインの動きに妙な物を感じていた。アッシュが言っていたほど露骨ではないが、とにかく前へ出ようとする。
それ自体は別に不思議とは思わなかった、セインは馬鹿なので猪突猛進型なのでおかしくはないが、機体の挙動にセインのソレとは別の何かが混じっているような気がした。色々と考えることはあるが判断材料が少なすぎるとハルドは思ったのだった。
強制収容所の武装解除は思ったよりもスムーズにいった。虎(フー)を筆頭に歩兵戦闘員が張り切ってくれたおかげで大きな争いにもならず、収容所の人間たちを解放できた。
「なぁ、ミシィ、シルヴァーナから収容所のコンピュータにハッキングして、収容所の収容者リストを出せないかな?もしかしたら僕らの親もいるかもしれないし」
セインに言われ、ミシィは気づいて言われた通りにしてみた。しかしリストにはセインの親もミシィの親の名前もなかった。

 
 

「残念だね」
ミシィが言うとセインは応える。
「しょうがないよ」
そんなに簡単に見つかったら苦労しないのだ。こればかりは地道にやっていくしかないと思い、セインは機体を月面から飛び立たせた。
シルヴァーナとその艦載機は月の基地を目指し、再び移動を開始した。強制収容所の収容者はとりあえずシルヴァーナに乗せたのだった。
「俺らの寝床無くなったなぁ」
ジェイコブがぼやくとマリアが叱責する。
「大変な思いをしてきた人たちのためなんだから、当然でしょ!」
「兄さん良くないよ、そんな自分勝手な考えは」
ペテロにまで言われてしまい、ジェイコブは落ち込むしかなかった。
「セイン、好きに戦うか?」
ハルドは何となく、セインにそう言ってみた。少し確かめたいことがあったからだ。いつものセインなら遠慮するが。
「はい、そうさせてください」
セインの声は、いつになく自信に満ちているようにハルドは感じた。地球で自信をつけたなら、それはそれでいいがとハルド思った時にはすで、もう一つの強制収容所が視界に入っており、収容所からは警備のMSが発進していた。
そして、その動きと同時にセインのブレイズガンダムが動く。ハルドが見たブレイズガンダムの動きは恐ろしく狂暴だった。
とにかく敵を殺すことに特化した動きだと思った。収容所の警備のMS隊が不甲斐ないのは事実だが、それをおいてもセインのブレイズガンダムの動きはハルドの目には驚愕だった。
自分の相手にはならないし、多分、セインより地力が格上相手にも勝てないだろうが、格下を殺すには十分すぎる動きだと思った。ハルドはそれとなくブレイズガンダムをサポートしてみたが、ブレイズガンダムは、セインは一顧だにしない。
「なるほど、こういう状態か」
ハルドは少し判断材料が増えたと思った。何を使っているかは分からないが戦闘能力を覚醒させる系統の何かが、ブレイズガンダムに積まれているなと思った。
ハルドの読みでは超音波か何かで脳内に声が響くもの、そして殺すことが最上の行為と錯覚させるものだろうとハルドは見当をつけた。
そうやってハルドが考えを巡らせている内に、収容所のMS部隊は壊滅したのだった。
「敵を殲滅した後に味方を攻撃することは無しか、上出来なシステムなこった」
これなら、そこまで心配する必要は無いとハルドは思うが、アッシュがあれだけ心配していたのだから、何かあるはずとハルドは考えた。
そうやって考えている内にも他の機体が、収容所の武装解除に向かっていた。やはりこの収容所も武装解除がスムーズにいった。歩兵戦闘員様様だとハルドは思った。
「セイン、セイン!」
セインは呼ばれて正気に戻った。いや、おかしくはなっていなかった。ただ戦うことが楽しいだけだとセインは思う。
「セイン!聞いてる?」
呼びかけていたのはミシィだった。
「うん、聞いてるよ」
おそらく収容所の収容者リストの件だろう。セインは望み薄だと思いながらミシィの報告を聞いた。
「うそっ……?」
急にミシィが息をつまらせたような声を発した。セインは何かあったのだろうと思い、シルヴァーナに戻る許可をハルドに貰おうとした。
「ああ、かまわねぇよ」
ハルドは考え事があるような感じで言うとセインが、シルヴァーナに戻るのを簡単に許可してくれた。収容者はすでにシルヴァーナに乗りこんでいる。セインはミシィの言葉からもしかしたらを想像した。
「セイン・リベルター、帰艦します」
「あいよ」
コナーズの声がして、格納庫のハッチが開いた。セインは急ぎ、機体をハンガーに固定し、機体から急いで降りる。

 
 

「マシントラブル?」
レビーが尋ねてきたがセインは無視してしまった。それよりも早くミシィを探さなくてはという思いにとらわれていた。
セインはとにかく急いで収容者が保護されているエリアに向かった。セインはとにかくミシィを探さなくては、そう思った矢先だった。
「……レイアおじさんにおばさん……」
ミシィが目の前で両親に抱きしめられているのを見て、セインはそこに近づく。そうか、ミシィの両親はここの強制収容所にいたのかと思いながら、近づくと、ミシィの両親はセインの姿にも気が付いた。
「セイン君」
アレクサンダリアを出てから初めてだった、見知った人から名前を呼ばれたのは、セインの瞳から涙が溢れる。ミシィの両親は腕でおいでと示す。セインはそれで限界に達しに、ミシィの両親に駆け寄り、二人を抱きしめた。
暖かいと思った。人のぬくもりがこんなにも素晴らしいとはセインは知らなかった。この時セインは完全に子どもの表情に戻っていた。そして、子どもに戻っていたことで自分を守るすべも忘れてしまっていたのだった。
「あの、僕の父さんは?」
セインは無垢な表情でミシィの両親に尋ねた。それを聞かれた瞬間、ミシィの両親は気まずい表情になり、そして言う。
「キミのお父さんは数日前に……」
セインが子どもに戻る前ならば、負ったダメージも少なかったろうが今は、子どもに戻ってしまっていた。自分を守る術など持ち合わせてなかった。そして残酷な真実が容赦なく突き立てられる。
「殺されたよ」
セインは、え?という言葉も出せなかった。言っていることの意味が分からなかった。
「数日前に収容所の看守と揉めて、その場で銃殺されたんだ」
ああ、そうかそうなのか、死んでしまったのか、僕の父さんはとセインはボンヤリと思い、訳が分からないながらも、その場に背を向けた。
「待ってよ、セイン!もういいじゃない。セインのお父さんのことは悲しいと思うけど、私の家族はそろったし、みんなで一緒にいようよ、もう戦わなくてもいいじゃない!」
セインは後ろで誰かが叫んでいるのが聞こえたが、その声は上手く聞き取れなかった。
(孤独こそ神の愛を受ける正しき道ですよ)
「はい」
セインの頭の中を両親の思い出が駆け巡っていた、せめて父さえ生きていればと思ったが、それも無いのだ。では自分はどうすれば良いのか。誰かに道標を示して欲しかった。
(殺し、敵の血で道を美しく彩りましょう、あなたにはそれしかないはずです)
「はい」
セインはふらふらとしながら格納庫のブレイズガンダムのハンガーに向かった。
「とりあえず全部満タンにしておいたけど、あまり減らない内にもどってくるのはだめよ」
レビーの声がしたがセインは無視をしてコックピットハッチを閉めた。
「ブレイズガンダム出ます」
セインはそう言うと、ブレイズガンダムをシルヴァーナから発進させたのだった。

 
 

「総員、守りを固めろ!」
ビクトル団長は、そう叫んでいた。そのさまを後ろでノンビリと眺めながらロウマ・アンドーはビクトルの脳味噌は猿かオウムと同じレベルだと確信した。
「守ってばかりじゃ、守れませんよー」
ロウマはどうでも良いように言いながら、落書きをしていた、それは猿の身体にビクトル団長の頭が乗っているものとオウムの首の上にビクトル団長の頭が乗っているものだった。
ビクトルはロウマの落書きに目ざとく気付き、それを取り上げる。
「貴様、こんな無礼をしてタダですむと思っているのか!?」
ビクトルはロウマを怒鳴りつけるが、ロウマはどうでも良い様子だった。
「どうせ、ここで死ぬ人間の絵なんです。勝手に書いても良いでしょう」
そう言うと、ビクトルは額に青筋を浮かべていた。昔から馬鹿だと思っていたがここまで馬鹿だとは思っていなかった。完全にロウマの誤算であったとロウマは反省していた。
「勝ちたけりゃ、起死回生の戦ですね。基地を完全に放棄して基地に依らない戦闘をするしかないでしょうが。各員に完全な遊撃戦闘、司令部を置かない戦闘をすれば勝つ目もあるでしょうがね」
ロウマはビクトルにそんな決断は出来ないと思ってそう言ったのだ。当然、ビクトルは無視した。馬鹿はいいなぁとロウマは思うのだった。
まぁ今言った策も部隊が一線級、例えば自分が子飼いにしているガルム機兵隊のような部隊がいて初めて成り立つので、どのみちこの戦場では無理だろうと思った、その時だった。司令部を衝撃が襲った。
「あらまぁ」
ロウマは基地を襲った衝撃からして、対要塞砲を持った艦だと察したので、逃げる準備をすることにした。
「自分に特命が下ったようなので、失礼します!」
ロウマは大声で言った。ビクトルが振り返る。
「自分は観艦式の準備を任されてしまったようなので、この場は退散しますよ」
ロウマは適当な任務をでっちあげて、さっさとこの戦場から、逃げる算段だった。
「ふざけるな、貴様!」
ビクトルが当然のごとく掴みかかってくるがロウマは、軽く殴り倒した。司令部の誰もがその行為を見過ごした。
「見栄えの良い兵士は連れていくので失礼。ビクトル団長は見栄えが悪いのでいらないので失礼」
そう言うとロウマは司令部から去って行く。それに合わせて司令部から数名がロウマについていく。
「ま、こういうことです」
ロウマはそう言うと、司令部から立ち去った。ロウマの動きに合わせて基地の兵の一部が撤退の動きを示す。
「いいね」
ロウマは呟く、ほとんどが自分から声をかけてきた兵士だ。ビクトルには先が無いと察してロウマにすり寄って来たのだった。ロウマはそういう奴らが嫌いではなかった。この手の弱い奴らは使いやすいからだ。
逆にビクトルのような奴は使いにくい、半端に強いからなびかない上に、頭が良いわけでもないから、こちらの策を察してくれない。さっさと死んでくれると楽なのだ。ロウマは司令部の床に倒れ伏しているビクトルを思うと、さっさと死ねと思うのだった。

 

シルヴァーナは武装を解放し、月基地へと攻撃していた。ベンジャミンが叫ぶ。
「対要塞プラズマブラスター撃て!各種ミサイルランチャー解放、全弾を月基地へ!」
ベンジャミンの声に合わせて、シルヴァーナのブースターユニットが開き、プラズマブラスターの砲身が露わになり、そこから高出力の弾頭が発射される、そして、シルヴァーナの本体とブースターユニットのミサイルランチャーから大量のミサイルが発射される。
「まだだ、ゴッドフリートは連射、基地の機能が停止するまで撃つのを止めるな!」
ベンジャミンの命令のもと、シルヴァーナ本体の主砲は延々とビーム砲を撃ち続けている。
そんな中MS隊は基地制圧に動いていた。
「セーレはジェイコブたちを連れて、地球連合軍の援護。イオニス、ストーム、キチガイ組は好きに戦え、セインは俺のカバー……」
ハルドが言う前にセインのブレイズガンダムは戦場に飛び込み、戦闘を繰り広げていた。ハルドは何となくイラッとしたが、無視をした。セインの戦いぶりは相も変わらず狂暴そのものだった。
「なんで僕がこんな目に」
セインの心は怒りに支配されていた。父の死を聞かされて、湧いて来たものは悲しみではなく、怒りだった。理不尽なこの世界への怒りがセインを支配し、行動する力を与えていた。

 
 

「殺してやる。公国の奴らは皆殺しだ!」
そうだ全部クライン公国が悪いんだと思い、セインは叫び、そしてブレイズガンダムを動かす。
飛来するビームをシールドで防ぎながら、ビームライフルのチャージショットを敵の集団に叩き込む。
「どいつもこいつも、僕の敵だあぁぁぁぁぁぁ!」
セインのブレイズガンダムは鬼神のような戦いぶりを全軍に対して見せつけていた。その時だった、どこからか飛来したビームがブレイズガンダムに直撃した。
「僕にあてるなぁ!」
セインのブレイズガンダムはビームが飛来してきた方へと身体を向け、ビームを撃とうとするが、その瞬間に敵機の蹴りが直撃した。
「行きがけの駄賃で遊んでやるよ、セイン君」
通信で声が届いた。セインにとっては忘れることの出来ない声だった。
「ロウマ・アンドー!」
セインのブレイズガンダムはビームサーベルを抜き放ち、接近していたロウマの機体に斬りかかる。ロウマの機体はザイラン、性能では勝つとセインは確信していた。
「はい、下手くそ」
ロウマのザイランは異常な速さでビームアックスを抜くと、サーベルを受け流して、反撃でブレイズガンダムにアックスの刃を叩き込み、その上でさらに蹴り飛ばした。
「相も変わらずヘボいねぇ、セイン君」
セインは怒りと共にブレイズガンダムのビームライフルを発射するが、ロウマのザイランは軽く躱しながら、前へ出てブレイズガンダムとの距離を詰めてくる。
「いいこと教えてやろうか?」
セインは判断に窮した。接近戦になることは間違いない。だが、ロウマのザイランの動きにどう対応するのか、ロウマのザイランは右手のビームライフル、左手にビームアックス、そして蹴りがあるのは分かっている。何が来るのかセインが考えようとした瞬間だった。
(あなたは神に愛されています。全てがあなたの思い通りでしょう)
「はい」
頭の中の声に答えた瞬間にはロウマのザイランはブレイズガンダムの目の前にいた。
ビームアックスを振りかぶっているが、それはフェイントで飛んでくるのは蹴りだとセインは予測し、ブレイズガンダムを僅かに後退させ、蹴りを空振りさせる。そして本命はビームライフルの近接射撃だとセインは予測した。
ビームライフルなら一発当たったところで、ブレイズガンダムのバリアが守ってくれるので無視しても良い。それより反撃だとセインは思った。
セインの予測通り、ビームライフルの近接射撃がブレイズガンダムの頭部を襲うが、セインはこれを無視して、ビームサーベルでロウマのザイランに斬りかかった。当たる。そういう確信がセインにはあったが、結果は違った。
ロウマのザイランは軽く回避し、反撃で蹴りをブレイズガンダムの頭部に叩き込んだのだ。
「センスないねぇ」
ロウマの馬鹿にした声が聞こえ、セインは怒りに支配されながら、ブレイズガンダムを操りロウマに斬りかかる。
「いいこと教えてやるっていった続き聞きたい?」
ロウマのザイランはブレイズガンダムの攻撃を軽く躱し続けながら、言葉を続ける。セインの反応などどうでも良いといった口調だった。
「きみのお父さん、殺したの俺なんだよね」
え?と、セインは耳を疑った。
「きみの両親を殺したのは俺だってこと、時間差はあったけどね。結果は同じだろ?」
セインはハッキリとした怒りを感じた。この男が、この男が母さんだけでなく父さんも、そう理解した瞬間、セインはあの言葉を呟いた。
「……コード:ブレイズ……」
その言葉と同時にブレイズガンダムに明らかな異変が生じる、関節部から粒子が炎のように吹き出し、スラスターが青の噴射炎から炎のような粒子の奔流に変わる。
ハルドはセインのブレイズガンダムとロウマのザイランの戦いを観戦しながら、理解した。
「アッシュが言ってたのはこのことか」
変貌を遂げたブレイズガンダムはロウマのザイランを見据え、異常な速度で突進し、ビームサーベルで斬りかかる。だが、ロウマのザイランはそれでもなお軽く躱して見せる。

 
 

「おーお、こえーこえー」
口ではそんなことを言いながらもロウマのザイランの動きは余裕であった。
「死ぬか、消えろぉ!」
セインは狂暴な言葉を吐くが、ロウマに通じていなかった。
「気合は充分、実力不充分かな」
ロウマはそう言うとザイランを操り、突進してくるブレイズガンダムの脚を軽く蹴った。
衝撃が強かった訳はないが、突進で前傾姿勢になっていたブレイズガンダムは前のめりになって、体勢を崩す。その隙に、ロウマのザイランはさっさと戦場を去ろうとするのだった。
「まぁ、近いうちに会いに行くから、それまで元気でね、セイン君」
体勢を直したブレイズガンダムはライフルを抜き放ち、背を向けているロウマのザイランを狙う。
「死ね、死ね、死ねぇ!」
何のチャージもなく放たれたライフル、しかし、その威力は戦艦の主砲を遥かに上回り、戦場の全てから見える巨大なビームを放ったのだった。
しかし、それでもロウマは仕留められなかった。当然のようにロウマのザイランはビームを回避していたのだった。
「必死過ぎて気持ち悪いよ、セイン君」
ロウマはそれだけ言って、去って行った。ロウマとしてはこの戦場で、ブレイズガンダムを相手にする必要はなくなったからだった。
ロウマの機体は、クライン公国の戦艦の一つに着艦した。ロウマは降りると、その姿はノーマルスーツではなく、普通の軍服であった。着替えるのも面倒であり、着替える必要も無いと思ったからだブレイズガンダムの相手程度で。
ロウマはMSを降りると、そのままブリッジに向かい、撤退の指示を全軍に出したのだった。
幸い、というかロウマが狙った形で、ブレイズガンダムが巨大なビームで戦場に空けた空白がある。そこを通って行けば、問題はないだろうとロウマは考え、全軍に命令を出した
「さて、帰るとしましょうかね」

 

司令部でビクトルは全軍が撤退の態勢に入っていることを理解した。冗談ではないと思う。総司令の自分を置いて撤退だと。ロウマ・アンドーの根回しはどこまで進んでいたのかと考えざるを得なかった。
「ビクトル団長……」
司令部に残った僅かな部下が、ビクトルを気遣って声をかけるが、それすらビクトルには屈辱だった。かくなる上はと、ビクトルは無謀とも思える手段に出ることにした。
「座して死を待つなど、屈辱!聖クライン騎士団の団長である以上、戦場で果てることこそ誇りなり!」
そう宣言するとビクトルは司令部か去って行った。そしてその向かう先は格納庫であった。
戦場ではセインとブレイズガンダムが狂乱していた、常識を超えた破壊力を見せ、自壊したビームライフルを投げ捨てブレイズガンダムはビームサーベル抜き放つと。目に映る敵すべてに向かっていった。そして、その全てを斬り捨てる。
「馬鹿にしやがって馬鹿にしやがって、くそくそくそくそ、僕が強い僕が強いんだぞ、僕が強いんだよぉぉぉ!」
ハルドはその光景を見ながら冷静に分析していた。
「異常に機体の反応速度が速いな、出力が上がってるのはこの際どうでもいいが、反応速度は人間の反射神経そのままぐらいか?」
ハルドの目から見ても、セインのブレイズガンダムの様子がおかしいのは分かったが、味方を攻撃していない以上、たいした問題ではないと思った。ハルドはそれよりも、これが敵として向かってきたときのことを考えて分析していたのだった。
「まぁ、楽勝か」
分析した結果として、ハルドはそう結論を出した。所詮は獣と同じような戦い方だ。殺す術はいくらでもあると結論を出したのだった。
「あああああああ。僕が僕が僕があぁぁぁぁぁ!」
ブレイズガンダムはシールドを投げ捨て、両手にビームサーベルを持って周囲の敵を斬り捨てると、直後にビームサーベルから数百メートルにも及ぶ巨大なビームの刃が発生し、月の基地に向けて振り下ろす。

 
 

「なんだよ、わりと上等じゃんか」
ハルドは経験で同じようなシステムを持った機体に乗った人間を何人も見たことがあったが、だいたいは命令が守れず、敵味方の区別すらなくなるのだが、セインのブレイズガンダムにその傾向はない。
命令も守っているし、敵だけを攻撃しているので、ハルドとしては、随分と上等なシステムと感じるくらいで、アッシュほど危機感を抱かなかったのだった。むしろ戦力として考えればパワーアップだ。そこそこが、かなり使えるようになったとハルドは思った。
そうハルドが思っていた時だった、基地のから大出力のビームが発射され、地球連合軍の艦隊に直撃した。ハルドとしては運が無いなと思う程度、関心はビームを発射した対象にあった。
「へー」
ハルドは驚きもなく言った。
「最後の手段を最後に取っておくから負けるってことを知らない馬鹿を本日また一人発見しましたよっと」
「馬鹿は切り札を最後に取っておくから馬鹿って言われるんだよね」
これはハルドとロウマのそれぞれの言葉である。二人の視線は基地の一画から現れた人型の、しかしMSと呼ぶには巨大すぎる兵器に向けられていた。
サイズは50mを超えているそして、その頭部はガンダム型、機体全体に華美な装飾が施されているが、見れば全身に砲門だらけ、そして背中に巨大な砲を背負っていた。
「このガンダムジハーディアで。貴様らに目にものを見せてくれる」
乗っているのはビクトル団長だった。ビクトル団長は最後の意地として前線で戦うことを選んだのだった。
「僕の前でキラキラと輝くなぁ!目障りなんだよぉ」
その姿を見た瞬間にブレイズガンダムが一直線にガンダムジハーディアに突撃した。
「一機相手、造作もない」
そうビクトル団長が言った瞬間に、ガンダムジハーディアから無線式オールレンジ攻撃兵器、ドラグーンが射出される。狙いはブレイズガンダムであったが、ブレイズガンダムはそれら全てを無視して突撃する。
「く、速いか」
ビクトル団長は判断を変え、ガンダムジハーディアの周囲にドラグーンを基点としたビームバリアを展開する。
「だからぁ!邪魔ぁ!」
しかし、それも無視してブレイズガンダムはビームバリアに対して突っ込む。
「戦艦の主砲も防ぐビームバリアだぞ!どうしようもなかろう!」
そうビクトル団長が叫んだ瞬間、ブレイズガンダムは素手でビームバリアを引き裂いて、その内側に侵入する。
「なんだと!?」
ビクトル団長は驚愕したが、まだ危険材料は少ないと感じた。このガンダムジハーディアに華美な装甲を持つのは見た目の威容を気にするためだけではない。
装甲に強力な耐ビームコーティングをするためにあるのだ。そう思った瞬間、ガンダムジハーディアの両肩が数百メートルの長さのビームサーベルに斬りおとされた。
「なんだと!?」
セインのブレイズガンダムは両手のビームサーベルを捨てて、右の掌をガンダムジハーディアに向けていた。
「目障りなんだよ」
その呟きと共に、ブレイズガンダムの右の掌に赤い粒子が集まり、直後に放出される。それはビームライフルなどにエネルギーを供給するコネクターから発せられたものだったが、その威力は甚大であった。
赤い粒子の奔流は、ガンダムジハーディアの上半身を飲み込むと、その全てを塵と化した。決死の覚悟で出撃した聖クライン騎士団の団長、ビクトル・シュヴァイツァーは最後の言葉も残せず消滅したのだった。
「強い、強い、強い、僕が、僕が最強だあぁぁぁぁっ!」
セインの叫びと共に、ブレイズガンダムは戦場の宇宙に咆哮するのだった。

 
 

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