KtKs◆SEED―BIZARRE_第23話

Last-modified: 2008-10-19 (日) 00:36:44

 『PHASE 23:キラ・ヤマトは戦争をやめさせたい』

 
 

 軍艦『J.P.ジョーンズ』で、チェスの勝負が行われていた。

 

「この戦いには出れるかね? ブチャラティ」

 
 

 ネオはクイーンの駒を動かしながら、敵手に向けてたずねた。
「問題はない。状態は万全だ」

 

 ブチャラティはナイトでポーンを詰みつつ答えた。

 

「そうか。スタンド使いと戦ったと聞いて心配だったんだが……」

 

 ビショップが動く。

 

「心強い助っ人がいてくれたおかげだよ」

 

 クイーンが三マス下がる。

 

「ルナマリアちゃんだったか? すみにおけないな。今度紹介しろよ」

 

 ポーンが二マス前に。

 

「おかしなことを言うな……チェック」
「やれやれ、これだからお前さんは……すまんが尊い犠牲になってもらうぞ」

 

 ナイトをキングの盾にする。

 

「ともかく、これで安心だ。無理言って戦力は割いてもらったけど、例の戦女神も来るだろうから、お前たちの不参加は痛かったんだ。期待しているぜ」
「ああ……む……どうも俺の負けのようだ」

 

 ブチャラティはため息をついて降参した。

 

「それじゃ、今度昼飯を奢ってもらうぞ」
「しょうがないな……わかったよ」

 

 無論、軍艦の中にレストランはない。奢ると言う約束を果たすためには、次の戦いを生き残らねばならないのだ。

 

―――

 

「スエズに増援が?」

 

 ミリアリア・ハウは、その情報に眉をひそめた。
 戦場を中心に撮っている新米ジャーナリストとして活躍中の彼女は、現在ラクス・クラインを追いかけていた。
 ラクスと実際に会い、親交を持っているミリアリアには、今プラントで活躍しているラクスに疑問を感じていた。
 現在ディオキアにいるのも、先日行われた慰問コンサートにも潜入し、その様子を撮影していたからだ。
 そして、他のジャーナリストからたった今、最新情報を手に入れたのだ。
 ガルナハン陥落による周辺一帯の支配を失った連合は、それを取り戻すために新たな戦力が送ったという。
 援軍にはザフトより最新機体を強奪した例の部隊も混ざっているらしい。

 

「そのうちこの辺を解放したミネルバも、戦闘に向かうことだろうさ」

 

 ミリアリアと向かい合うジャーナリストの男は、コーヒーをすすりながら言う。

 

「そう……」
 世界はどんどん混乱していく。オーブではフリーダムが現れ、カガリ代表をさらっていったという。
 現在フリーダムとアークエンジェルは世紀の誘拐犯となってしまった。
 あれから音沙汰はないようだが、キラたちは何を考えているのだろう?

 

(そういえばF・Fどうしたかな……オーブに行くって話しを聞いてそれっきりなのよね。まあ彼女のことだから、絶対無事でいるとは思うけど)

 そしてジャーナリストの男の予言どおり、戦艦ミネルバは最前衛、マルマラ海の入り口、ダーダネルス海峡へと向かうこととなった。

 

―――

 

「空も海も青いねぇ」

 

 ポルナレフがそんな呑気なことを言う。日の光を浴び、目をまぶしそうに細めていた。

 

「こういうとこは、戦争じゃなくてバカンスで来たいもんだ」
「そうですね……」

 

 隣に立つアスランはまったくの同感であった。
 ブルーコスモスが旗印としたのも頷ける、この美しい自然。その中で自分たちの行為のなんと醜いことか。

 

(今の俺をキラやラクスが見たらなんと思うだろう?)

 

 手を血で染め続ける今の自分を、怒るだろうか、悲しむだろうか、責めるだろうか。
 けれどたとえ軽蔑されたとしても、戦争を黙って見てはいられなかった。
 しかし人を殺さずにすませられるほど、自分は強くはない。殺さなければ、守ることはできない。

 

(だがそれでも、誰かがやらねばならないことなら、せめて俺が行おう)

 

 それがアスランの出した答え。彼の道。正当防衛などと言い訳は利かない、罪に溢れた道。
 それでもなお、歩くと決めた道。

 

『敵機確認! パイロットはただちに発進準備に入ってください!!』

 

 アナウンスが響く。

 

「……やれやれだぜ」

 

 ポルナレフが旧友の口癖を呟く。
「行こうか隊長」
「はい」

 

 アスランはポルナレフの後を歩く。

 

「まあ、なんだ。そんなこの世の終わりみたいに深刻な顔すんなよ。一人で戦ってるわけじゃねえんだから」
「………はい」

 

 まだまだ敵わない、そう思いながらアスランは答える。ポルナレフの背中は大きく見えた。

 

 そしてアスランのセイバー、シンのインパルス、ポルナレフのグフチャリオッツが発進した。
 発進した途端、地球軍の艦隊から無数のミサイルが発射される。
 そして、空母から飛び立った連合MS、ダガーLの部隊が三機に襲い掛かってきた。

 

「旧型機か。さすがにウィンダムをまわす余裕はなかったみたいだな!」

 

 ポルナレフが吠え、新型ビームサーベル『ジョワユース』で一機を真っ二つにする。

 

「しかし、新型機がまだいるはず! 油断はするな!」

 

 アスランがミサイルをなぎ払いながら、注意を促す。

 

「来る端から、叩き落せばいいだけの話でしょうッ!」

 

 良くも悪くもことを単純に捕えるシンが、敵MSをビームで射抜いていく。

 

―――

 

「ふうん。早速一番強いのを出してきたな。奴ら相手ではダガーLなど何十機出しても意味がない」

 

 ネオは戦局を分析し、指示を出す。

 

「よし……カオスとアビスを出せ! ウィンダム部隊もだ! 敵の合間を縫ってミネルバへ向かえ!」

 

―――

 

「熱紋確認! 数十五! うち二体は、カオスとアビスです!」

 

 ミネルバのブリッジクルー、索敵やレーダー担当のバート・ハイムが声をあげる。

 

「来たわね……でもまだ距離がある。タンホイザーの準備を! 敵艦隊をなぎ払う!」

 

 タリアが命令を下す。陽電子砲の一撃が決まれば、こちらはかなり優位に立てるはずだ。

 

(けど……問題はアレね)

 

 タンホイザーは、すでに連合軍によって防がれている。もしあの兵器が今回もあったら……。

 

(それを確かめるためにも、撃つべきね)

 

 当たればそれでよし。防がれたなら、アスランたちに倒させればいい。
 兵器の威力や、指揮官の能力はともかく、パイロットの腕はこちらが上だとタリアは信じていた。

 

―――

 

「敵艦、陽電子砲発射体勢!」

 

 連合軍のクルーが報告する。ミネルバの艦首が開き、砲口が現れるのが見て取れた。

 

「よし……ザムザザーを発進させろ!」

 

 ザムザザー。陽電子砲をも弾き飛ばす盾を備えた、最新MA。
 ネオの交渉の努力が実り、持ち出すことができた、タリアの懸念のもと。

 

「絶対出過ぎるなよ。あくまでザムザザーは盾だ。攻撃はMSに任せろ。それと、ブチャラティたちは?」
「はっ、準備は完了、いつでも発進可能です」
「よし……」

 

 陽電子砲を一度撃てば、次に撃つまでに時間がかかる。ミネルバ本体に近づく絶好の隙だ。
 ザムザザーが破壊され、陽電子砲が再度撃たれるより前に、ミネルバを沈めてやるのだ。
 双方の指揮者の思考の共通点。それはどちらも、自軍のパイロットを信頼しているということだった。

 

 十数秒後、閃光が空間を貫いた。

 

「……何が起こった?」

 

 ネオが呆然と呟いた。
 たとえザムザザーが破壊されたとしても、自軍の艦が沈没しても、彼の思考はこうまで混乱しなかっただろう。
 だが現状はそれ以上に彼の理解を超えていた。
 攻撃したはずのミネルバが、艦首を破壊され、煙を噴いていたのだ。
 こちらの攻撃ではない。自爆などと言う馬鹿なことをするような艦でもない。何が原因か?

 

「あ、新たな熱紋が確認されました!」

 

 クルーの声によって、ネオは我に返った。

 

「映像を!」

 

 カメラが熱発生源の姿を捕え、艦内のモニターに映し出す。そこに映されたのは、十枚の翼を持つ、白い人型。
 ネオはその名を知っていた。噂でしか聞いたことはないが、軍人でその名を知らない者はいないだろう。

 

「……フリーダム!?」

 

 人類を裁く黙示録の天使のように傲然と、それは天空に存在していた。

 

―――

 

 シンは、その機体を知っていた。その白い姿と、十枚の青い翼を知っていた。2年前に、あのオーブが焼かれた日に、見たことがあったから。

 

「なんで……お前がぁッ!」

 

 声は怒りに震えていた。あの日にシンの家族を奪った爆発が、フリーダムによるものなのかどうか、確かめるすべはない。
 だが、その白い機体によって掘り起こされた悲劇の記憶は、怒りをともなわずにはおれなかったし、何より、ミネルバを撃ったのはこのMSに間違いないのだ。

 

「ん?」

 

 白いMSの背後より、今度は白い戦艦が現れる。

 

「連合軍の増援か?」

 

 身構えるシンの耳に、そしてその場にいるすべてのものに、全周波による通信が届いた。

 

『オーブ連合首長国代表、カガリ・ユラ・アスハの代理として要求する……』

 

 白いMSのパイロットは、落ち着いた、有無を言わせぬ口調で言った。

 

『オーブより派遣されたアスラン・ザラを、ただちに戦闘より外されたし!!』

 

「な……キ、ラ?」

 

 アスランは頭の中が真っ白になりながら呟いた。
 目の前の青き翼の白いMS、『フリーダム』。
 天使の名を冠する、伝説の白き戦艦『アークエンジェル』。
 そして、それらを動かしているのは間違いなく、アスランと親しい、友たちである。
 そんな彼らがミネルバを攻撃し、その上で、自分を戦闘から外せなどと要求する。
 この状況に理解が追いつかない。

 

『オーブは、他国の戦争に関わるべきではない。オーブは他国を焼く側にまわってはならない。アスラン……オーブの人間として、理念に反した行動をただちに停止し、戦場を離脱してほしい!』

 

 白いMSのパイロット、キラ・ヤマトの口より更なる言葉が放たれる。その言葉はアスランの耳に入れど、脳に通らない。

 

「あ、な……な……」
『おおいアスラン!! なんだよありゃぁ?』

 

 呻くアスランに、ポルナレフの通信が入る。

 

「!! ポ、ポルナレフさん……いや、俺にも何がなんだか」
 我に返ったスランは、キラの言葉を反芻する。
 キラが、ここにアスランがいることを知っているのは不思議ではない。英雄としてアスランは散々紹介されているのだから。
 しかし、オーブの理念に反しているなどという話は筋が通らない。
 オーブの理念。他国を侵略せず、他国に侵略されず、他国の争いに介入しない。だが、オーブはこれを破ってはいない。むしろ守るために行動している。
 この戦争は、他国の戦争などではない。オーブが侵略されぬために戦っているのだ。

 

『ありゃあ情報にあった、カガリのお姫様をさらった奴じゃあないのかい? 一体どうなってやがる』
「……わかりません」

 

 アスランはそう言うしかなかった。

 

―――

 

『そしてザフト及び連合軍に告ぐ!! 無益な戦いをやめ、軍を退いてほしい!』

 

「何を言っているのだ? あれは」

 

 ネオはただただ唖然とするばかりであった。軍と軍がぶつかり合う中で、いきなり現れて、わけのわからないことを言う。

 

『自衛のためとは言い訳しても、大義名分を立てても、戦争は戦争。人が傷ついて、死ぬ。こんなことは、誰だって嫌なはずだ! だからどうか!』

 

「本気か? というかむしろ、正気か?」

 

 言っていることは奇麗事以前に、子供の我侭だ。戦争が良くないものであることなど、誰でも知っている。
 知っていて、なお戦わなければならないから、自分たちはここにいるのだ。
 わけのわからない乱入者の言うことなど、耳を貸すはずもない。そんなことをすれば敵前逃亡もいいところだ。ただ……

 

「あれがアークエンジェルだとすると、カガリ・ユラ・アスハをさらったのは彼らか」

 

 オーブでカガリが誘拐されたという情報は入っている。さきほどもあのパイロットは、自分を彼女の代理だとぬかした。

 

「となるとあれだ。あそこにいるはずのオーブ代表を我々が手にできれば、オーブに対してのいい駒になるか?」

 

 ネオはアークエンジェルを睨む。

 

「……いや、今は当面の敵であるザフトの女神を叩くのが先だ。天使の相手までしている暇はない」

 

 見ればミネルバも動きを止めている。撃たれた損傷はかなりのものと見える。タンホイザーももう使えない。つまり、絶好のチャンスだ。

 

「……行動を、再開せよ!!」

 

―――

 

「艦長、あの……」

 

 アーサーがおそるおそる声をかける。

 

「いいからちょっと待って。本艦は今、一番不利なのよ」

 

 タンホイザーを破壊され、爆発の衝撃でバランスが崩れ、海に着水せざるをえなくなったミネルバ。体勢を立て直すのには多少の時間がいる。

 

「形兆、レイ、ルナマリアを発進させて守りを固めて」

 

 すぐに呆気に取られた連合軍が、気を取り直して攻撃してくるはずだ。フリーダムの要求は無論、叶えられるものではない。

 

「にしても、アスランを外して、しかも軍を退けですって? 何をわけのわからないことを」

 

 キラの行動を理解できないという意味で、タリアとネオの想いは一致していた。

 

「人が傷ついて死ぬのが嫌ですって……? 今の攻撃で、何人死んだか、わかっているのかしら」

 

 タリアは凄絶な笑みを浮かべる。今すぐ、あのふざけた奴らを打ち倒してしまいたい。

 

(……落ち着きなさいタリア。敵は彼らだけではない。連合軍が迫ってきているのだから)

 

 次の瞬間、グフチャリオッツに斬りかかったウィンダムが爆発四散し、それが戦闘再開の合図となった。

 

―――

 

 MSが飛び交い、烈光が迸り、弾丸が放たれ、ミサイルが降り注ぎ、剣が閃く。そのたびに爆発が起き、人の命が消えて落ちる。
 キラは悲しげにその光景を見つめていた。結局、彼の言葉は両軍に届くことなく、戦いは再開された。

 

「ラクス。残念だけど……もうどうしようもないみたいだ」
『そのようですわね……』

 

 アークエンジェルへ通信すると、ラクスも切なそうに返事をした。

 

『カガリさんも、悲しまれることでしょう』

 

 ラクスは今もベッドに横になっているカガリの姿を思い浮かべて、言葉を口にする。
 カガリはキラたちの行動について知らない。キラたちはアスランがザフトにいることを知ったとき、カガリが悲しむと考えてそのことを彼女には知らせなかった。
 そして、カガリが知らないうちに、アスランを正道に戻そうと、このような行動を開始したのだ。

 

「どの機体がアスランの物か、まではわからないけど……この中にアスランはいるんだ」

 

 アスランの乗る機体の情報についてまでは、さすがにマスコミには流されていない。

 

「この戦いの中でアスランが死ぬのも、アスランが誰かを殺すのも嫌だ」

 

 彼は知らないのだ。議長がラクスを殺そうとしたことを。議長が何かを企んでいることを。無理はない。
 もし、自分がアスランの立場であったとしたら、やはり議長を信用してしまっただろう。

 

「だから、本当のことを知っている僕が、できるだけ、やってみる!」

 

 フリーダムが動き出す。
 最強の機体と、最強の乗り手が、ついに表舞台に再び姿を現した。

 

―――

 

 ミネルバへと降り注ぐミサイルの雨。だがそれは戦艦を傷つけることはなく、破壊されていく。
 アスランたちの隙間を抜けた敵MSも同様に。遥かに上回る数をもって迫るMS部隊を、パイロットたちは辛くもしのいでいた。だが、

 

「! やばいのが来たわ!」

 

 ルナマリアはその目に、モスグリーンの機影を見た。強奪機体の一つ、カオス。さっきまでの雑魚とは格の違う相手。
 だが、カオスがミネルバに到達することはなかった。その前に、一体のMSが立ちはだかったために。

 

「貴様は!」

 

 スティングはその顔を歓喜に歪める。最初の出会いより、ずっと焦がれていた相手が、目の前に現れたのだから。

 

「ようやく! 会えたな!!」

 

 カオスのクローが振り下ろされる。それはシールドにはじかれた。シールドの脇から銃口がのぞき、そこからビームが発射される。

 

「当たるかよぉっ!!」

 

 スティングは紙一重の見事な操作でそれをかわし、いったん相手との距離をとる。

 

「ふん、前よりはやるようになったようだな」

 

 虹村形兆は口角を吊り上げ、ビームトマホークをかざす。

 

「これ以上成長されると面倒だ……いい加減、倒しておくとしよう!」
「上等ッ!!」

 

 暗緑色のザクファントムの動きを見て、スティングは叫ぶ。
 そして、両者の苛烈な決闘が始まる……はずだった。

 

 ザクの両腕が切り落とされた。
 カオスのビーム砲が破壊された。

 

「な!?」
「う!!」

 

 驚愕する二人を尻目に、それはどこまでも自由自在に戦場を切り裂いた。

 

「なんだ……ありゃあ……」

 

 ポルナレフは、フリーダムが次々とMSを破壊していく様を、唖然として見ていた。
 フリーダムがMSの側を通り過ぎるたびに、MSの武装や四肢、頭部が砕け散る。
 核エンジンのパワーと、スーパーコーディネイターの操縦技術によって生じる最強MSの圧倒的戦闘力はまさに、独善的断罪の大天使!!
 それでいてコクピットの損傷は一つもなく、誰も殺していないことが明らかだった。

 

「まさか……マジで戦争をやめさせたいだけって、そういうことなのか?」

 

 信じがたいことだが、もしそうだとすれば……

 

「ふざけてんじゃねえぞ!」

 

 彼は怒りの形相で、グフチャリオッツを動かした。フリーダムへと向けて。

 

「今まで何もしていなかった奴が、したり顔で説教のつもりか! これは俺たちの問題だ! てめえなんかが勝手にしゃしゃり出ても、終わりはしねえんだよ!!」

 

 勘違いした余所者を叩き出すために。

 

―――

 

「キラ……何を考えている!?」

 

 アスランは周波数を切り替えながらフリーダムへの通信を試みるが、手ごたえがない。連合のMSも攻撃してくる状況で、キラへの接触は難しい。

 

「こんなことで……こんなことで戦争が止められるとでも思っているのか!」

 

 武器がなければ戦いは終わるなどというものではない。
 武器がなくなれば、新たに武器をつくるだけ。完全に武器がなくなったとしても、殴り合って戦うだろう。
 リンゴォは死を悟りながらも最後まで戦った。武器の有無、勝ち目の有無など、二の次だ。
 戦いの決着をつけるのは人の意思のみ。それをキラはわかっているのか。

 

「言うことを聞かないから、力ずくでやめさせるというのなら……力によって、意志を押し通すというのなら……お前のやっていることこそ、戦争だ!!
 わかっているのか……キラ!!」

 

 連合軍に取り巻かれ、思うように動けないことを悔しく思いながら、アスランは親友の暴挙を見つめていた。

 

―――

 

 ポルナレフがフリーダムへと接近するまでに、すでにフリーダムはシンのインパルス、アウルのアビスの二機を、無理矢理に武装解除させていた。
 インパルスの右腕を切り落としたのはまだしも、水中からミネルバに接近しようとしていたアビスを、上空からの砲撃で殺さずに損傷を与えたにいたっては、神業などいうレベルではない。
 だからといってポルナレフは恐れない。衝突するほどの勢いで飛来し、

 

「ぶった切る!!」

 

 身を退こうとするフリーダムの目前で装甲を外し、更に加速する。
 速度といい、タイミングといい、ポルナレフが出せる最高の斬撃であった。
 だが、その急激な加速にすら、キラは対処した。
 グフチャリオッツの速度から、ただ退いても追いつかれると判断し、逆に攻撃に転じる。
 すれ違い様にビームサーベルが動き、グフチャリオッツの両腕を破壊した。

 

「ポルナレフ教官!!」

 

 シンが叫ぶ。その目で見ても、今の結果が信じられなかった。
 ポルナレフの放ったあの攻撃、あのタイミングでしのぎ、更に反撃するなど、自分の腕では到底できない。

 

(なんで、こんな理不尽な真似する奴があんなに強いんだ!!)

 

 いきなり現れてミネルバを撃ったかと思えば、現場で受け入れられるはずもない要求をし、通らなければ、両軍を掃滅する。ふざけているとしか思えない。
 そうこうしているうちに、ザフト、地球連合軍、共に退却の命令が出される。
 両軍がどちらからともなく撤収していくと、その行動を確認した白いMSも、白い戦艦へと戻っていった。

 

 こうして、多くの者にとって不愉快極まる喜劇は幕をおろした。

 
 

TO BE CONTINUED