番外編『ある候補生の日常』
ジリリリリリリリ!
目覚ましのベルが鳴る音が聞こえる。もう少し寝させてくれ・・・。
それでも一度覚めたら眠れない。余裕を持って設定してあるはずなので、今日の予定を思い出す。
『今日は飛行訓練があるから昼ごろの休み時間は長いはずだし・・・授業は・・・。昼休みに資料館行こう』
もう起きたほうがいいだろう。ベッドから身を起こし、着替える。
ザフトの訓練生時代にはなかったネクタイを締める。
落ち着かない。教官にはきちんとしろといわれているが、今日もいつもと同じで緩めていく。
そして、毎朝の日課をこなす。すなわち、
同室のルームメイトを蹴り起こす。
どうせ今日も揺するぐらいじゃ起きないだろう。今日はどんな技でいこうか・・・・・。
悩んだ末に、踵落としにする。右足を振り上げ、容赦なく振り下ろす。
鈍い音とそいつのうめき声のような音が聞こえたが無視。右足を下ろすついでに左足で回し蹴りを繰り出す。
「げふぅ!・・・・。おい・・・シン・・・少しは普通に起こせ・・・」
「普通に起こしてもおきないお前が悪い」
そう言いつつ、もう1つの日課、カレンダーを見る。
『今日でこっちに来て2ヶ月か・・・』
部屋を出、食堂に向かう。(後ろから文句と制止の声が聞こえたが、やはり無視)
食堂はまだ空いている。飛行訓練があるから俺(訂正、俺たち)は早いだけで、例えば管制官候補生はもう少し遅い。
ちなみに、早朝の訓練時は本物の管制官が担当し、昼以後は候補生がやることが多い。
一人でランチをつついていると、ルームメイトがようやく来た。
「ったく、いつも一人でくんなっつうの」
「だったら自分でもう少し早く起きる努力しろよ」
「へーへー。どうせ俺は朝に弱いですよ」
スクランブルとかもまだ眠いとかで済ましそうな奴だ。
その後、他の訓練生たちと一緒に訓練のブリーフィングを受ける。
今日は特殊紅白戦だ。俺とルームメイトは同じチームで、白組。白組は赤組から逃げまくるだけ。訓練武装もゼロ。
対する赤組はフル装備で、白組を追い掛け回し、撃墜する。一方的だ。
一定時間がたつまで1機でも生き残れば白の勝ち。全滅すれば赤の勝ち。
その後休憩を挟み、逆の立場で行う。ちなみに教官たちは上から見下ろしながら、評価を言うだけ。
ロッカーにいき、フライトスーツを着込み、ヘルメットを手にハンガーへ。
機体のチェックを行い、乗り込む。エンジン始動。スロットルをあげ、滑走路へタクシーを開始する。
F-5Eの小さな機体が動き出す。相方(ルームメイト)も並ぶ。
管制官から離陸許可を受け、アフターバーナーに点火、離陸する。訓練空域へ。
《よし、ただいまより訓練を開始する。時間は15分。・・・3、2、1、開始》
真正面から赤組の連中が飛んでくる。ここで反転するのはマズイ。(前にそれで速攻で落とされ、教官から馬鹿にされた)
あえてスロットルを上げ、相手の下をくぐるようなコースを取る。相方もついてくる。
《ヘイ、シン。今日こそは生き残るぜ!13番に一泡ふかす!》
《了解。前とは違うアプローチしなきゃな》
13番というのは赤組にいるいけ好かない奴で、ちょっと腕がいいからって天狗になってる奴だ。
機体番号が13なので13番と呼ばれている。
敵からロックされた警告音がなるが、すぐに外れる。こっちを反転して追っかけてくる奴が1、2、3機。
他は散開した白組を追っかけだす。
《13番の野郎、この前突っかかったからって目の敵にしてやがる!》
《お前が喧嘩を買うから悪い》
同じ機体なので早々追いつかれはしないが、このままではエリアを離脱してしまう。左旋回。
この隙に後ろに食いつかれる。ロック、ミサイルが発射されたことを示すアラートが鳴る。
高度に余裕はある。俺はスプリットS、相方はインメルマンターンを選ぶ。
《どうしてそこでインメルマンターンを選ぶんだ。速度は足りてるのか?》
教官の声。相方が馬鹿にされている。が、あいつは変なことで頭を回すやつだ。
この前も同じ状況で失速させて逃げるという馬鹿をやらかした。(結局やられた)
こっちはすでにターンを終え、スピードをそのまま生かし逃げを打つ。
《残り3分。白組、残り2機》
《まじかよ!あいつらだっせぇ》
俺たちだけになったようだ。
再び警告音。13番が後ろにいる。ガンキルを狙ってるのか接近してくる。
俺はとっさにエアブレーキを開き、左ラダーを蹴飛ばす。追いかけ切れなくて、目の前に13番。
そのまま俺は反転。一歩遅れて向こうも追ってくる。ロックされたアラート。
《時間だ。訓練を終了、帰投し休憩、その後逆で訓練を行う》
逃げ切った。充足感が身に満ちていく。相方も大丈夫だったようだ。
基地で機体の準備を待つ間、雑談に花を咲かせる。
「やったぜ!生き延びた!シン、今度は俺たちがあいつらを落とす番だぜ!」
「ああ、そうだな」
元気な奴だ。
「ところで、13番だけど」
「俺がやる!俺によこせ!シン!」
「断る!ここはほら、現場の判断で」
再び離陸。逆の状況でスタート。
赤組もさっきの俺たちみたいに散会していく。
俺たちは右に逃げた敵機を追う。おろおろしてる奴をロック、ミサイル発射。
《フォックス2!》
当たった判定が出て、1機撃墜。相方も落とす。目の前には2機。そいつらは左右に散会し、必然的に右にいた俺が右を、
相方が左を追う。右のは13番だった。相方はさぞ悔しがっているだろう。
機銃の射程内に入る。すると、13番は先ほどの俺と同じように減速。だが、やった俺はそれを予期していた。
同時に減速。急旋回する13番に食らいつき、ペイント弾を連射する。残弾表示が見る見る減っていく。
見事に命中。一気にカラフルな模様になったF-5。
相方も撃墜。他のも別の白組が落としたようだ。つまり、今日は白組の完全勝利。
「イヤッホォォォォ「うるさい」
「・・・・・・・・・」
着替えた後のルームメイトの歓声を黙らせ、食堂へ。(じと目でにらんでくるが、やっぱり無視)
ランチを買い、食べ始める。
「なんだよ、シン、うれしくないのか?」
「うれしいさ。でもうるさい物はうるさい」
この低血圧ハイテンション野郎が。
食事後、ルームメイトは「惰眠をむさぼってくる!」とかいって部屋へ。
俺は予定通り資料館へ。レポートが出そうなので適当な資料を選んでおき、最近読んでいる様々な機体のデータが載っている
データブックと戦技データブックを読む。
『この技はあんまりな・・・・。ん?こいつは・・・』
そんな感じで技を見て、使えそうなのはメモに取り、訓練(特に紅白戦)に使ってみようか考える。
こうやってると、本当に学生みたいな気がしておかしくなる。向こうにいたときはこんなに熱心ではなかっただろう。
向こうでもこんな自分だったらステラを救えただろうか・・・
そうやってるとチャイムが鳴る。授業まであと5分。本を借りて部屋に置き、授業に出る。
「ねみ~・・・・・」
「・・・・・・・・」
隣でルームメイトがぼやく。退屈な授業。半分も過ぎた頃には隣で寝息が聞こえ、俺も舟をこぎ始める。
ふと見ると、何かが飛んできている。ハッとしておき、避ける。飛んできたのはチョークだった。
ルームメイトには見事に命中。痛だ!とかいっている。
「まじめに授業を聞け!」
うるさいなぁと内心で返し、一応集中するふりをする。隣は頭を押さえ込みながら呪ってやるとか物騒なことを言っている。
授業終了のチャイム。とっとと教室を出、食堂へ。(やっぱりレポートは出た)
ルームメイトの愚痴を聞き流しながら食事。愚痴が終わった後はある程度まじめなレポートについての会議。
部屋へは戻らず、シャワー室へ。一日の汗と疲れをさっぱり洗い流す。
部屋ではレポート作成と明日の予習。ルームメイトが明日の予定を見に行き、明日は飛行訓練がないことを伝えてくれた。
一日中退屈な授業かと思うと憂鬱になる。時計を見るとそれなりに遅い。
目覚ましをセットし、ベッドに入る。ルームメイトはとっくに夢の中だ。
明日の予定を脳内で描きつつ、俺も寝る。
ジリリリリリリリリリリリリ!
目覚ましの音。いつもの朝。まだ眠い頭を整理し、着替える。
さぁ、今日はどんな技で起こそう?