Seed-Ace_794氏_第09話

Last-modified: 2013-12-26 (木) 00:09:04

第9話『バンカーショット作戦』

2005年1月10日
―作戦実行2週間前―

年が明け、しばらくは何もおきずに、訓練をやってこれた俺たち。俺やハイネ、ニコルがこっちに来てから大分たった。
その間の思い出も結構ある。訓練生の頃がすごく懐かしく感じる。

「羨ましいぜオメガの連中。また機種転換だってさ。俺らもやりてぇよなぁ」

ハイネがぼやく。オメガはスーパーホーネットに更新するらしい。
近頃の噂だと、どうやら俺たち航空団の中で一番損耗率が高いかららしい。
もっとも、その損耗率が上がる理由はある一人の男のせいだといわれているが、あながち間違いじゃないかもしれない。

「でも、俺たちも近いんだろ?ニコルたちだって今度やるかも、って言ってたぜ?」
「そうらしいなぁ。・・・はぁ、次に乗るなら双発機がいいぜ」
「案外単発かもよ?」
「そりゃないぜシン!メビウス1が羨ましくないのか!イーグルだぞイーグル!」

羨ましいに決まってる。あの大出力エンジンを生かした加速力は、単発のファルコンじゃかなわない。

「15がいいのか?俺はまぁ、新型なら何でもいいけど・・・」

正直、愛着がわいているから変えたくない気もする。

「あぁ、イーグル!オレンジに塗って飛びてぇ!」
「めだってどーすんの。エルジアのエースじゃあるまいし」

屋上は風が気持ちいい。俺たちの上を、35thTFSのホーネットが飛んでいく。

そして最近のもう1つの噂は、「大陸上陸作戦が近々行われるらしい」という物だ。
その前にオメガは機種転換が完了しそうだが、他の部隊は間に合わなそうだ。

「そういえば・・・」
「ん?」
「上陸作戦。俺たちどんなこと担当すんだろ」
「さぁな。航空団の中じゃ対地戦闘もできるほうだが・・・航空戦力が出るかどうかだな。俺たちは積載量が少ない」
「俺もそう思う。マーベリックとかUGBとかならそれなりに積めるしね」
「さて、どうなることやら・・・」

訓練か何かを終えたらしい機体が上空を飛んでいく。空は青く澄んでいる。当日もこんな天気ならいいけど・・・。

2005年1月19日
―作戦実行5日前―

「部品が届いてない?どういうことだ、それは」

今日はブリーフィングがあるからそれまでジョギングでも、っと思ってハイネと一緒にランウェイ周りを走ってきて、
ハンガーにでも寄ってくかと思って二人で行った俺たちを迎えたのは隊長の、心持ち緊迫した声だった。

「はぁ・・・今度大陸上陸作戦があるでしょう?その為にいろんな部隊に補給をまわさなきゃいけないらしくて。
何でも、古い機体も引っ張り出すって噂ですよ?その為に部品が必要だそうで」
「情けない話だ。装備の充実ばかり図っていて部品の増産をしてないのか、ISAF(うち)は。
100歩譲って増産してないのは仕方ないと思ってもいいが、何でその部品が、俺たちの部隊から引かれるんだ」
「ファルコンが特に品薄なんですよ。あれほど安価で有能な機体も少ないでしょう?一応ISAFで一番多い機体ですよ」
「それだけじゃ納得いかんな。他の部隊からも引けるということだろう?」
「うちの部隊は特に優秀だから、整備部品も少なくていいだろう、って補給分持ってかれたんですよ」
「馬鹿馬鹿しい。あれだけ激しい機動をするんだ。整備が必要なことも考えないのか、上は」

なんとも不安な話だ。俺たちはいてもたってもいられずに話しに割り込んだ。

「あの、隊長。それってどういう・・・・」
「ん?あぁ、お前たちか。最悪、俺たちはいくらか機を減らしていかなきゃならないかもな」
「え?そんなに部品足りないんですか?」
「聞いてのとおりだ。曹長、今ある分で何機出せる?」
「全機出せるギリギリ、ってとこですかね。それで全機出せても、作戦実行が可能かどうか・・・」
「引き上げ機が出るかもしれないということか。・・・・当日まで後5日ある。それまでに揃えるか、
だましだましでもいいから出られるようにしといてくれ」
「わかりました」
「すまんな」
「それが整備屋の仕事ですから」

いくぞ、っと隊長は俺たちに声をかけ、屋内へ入っていく。
愛機を見る気がうせた俺たちは、早めに戻ってシャワーを浴びることにした。

ブリーフィングルーム。この基地にいるありったけの部隊が部屋に集まっていた。
司令が前に立っている。

「諸君!いよいよこの時が来た!1月24日1700時、大陸上陸作戦、"バンカーショット作戦"を実行する!」

おぉ!というどよめき。幾ら公然の秘密や噂として広まっていたとはいえ、やはり驚く物だ。
それからは作戦の進行について、部隊の割り当てなどが説明される。俺たち航空団はほとんど総出で中央の“クラウンビーチ”
担当する。ほとんど、というのはオメガとレイピアからいくつか機を抜き出し、カランダビーチに投入されるらしいからだ。
したがって、クラウンビーチ担当はヴァイパー、ヘイロー、そしてメビウスが中心となる。
他の地域には別の基地からも飛んでくるが、クラウンビーチは俺たちだけだ。

ブリーフィング終了後、隊長がみんなに言った。

「残念なことだが、今度の作戦、全機出撃は厳しいかもしれない。みんなも知ってのとおり、ファルコンはISAFでも特に機数が多い。
俺たちの部隊から部品がいくつか差っ引かれたらしくて、全機出れるか微妙なところらしい。そこで、部品の優先順位を
実力から判断してきめた。シン、ハイネ、お前たちはほぼ確実に出る。お前たち2人はは残念だが出られない可能性がある。
文句があるなら俺に直接言いに来い。以上だ、解散」

誰も文句なんてあるわけがない。2も7も仕方がないというような様子だ。

「ま、しょうがねぇな。俺はこの前落とされたし」
「俺たちの分まで、頑張って来いよ」
「ああ!」
「任せとけ!」

2005年1月24日
――作戦当日――

眠い。前日は緊張しすぎて寝られなかった。我がヴァイパー専用のブリーフィングルーム(談話室がブリーフィングルームを
兼ねている)に入る。2と7はいない。結局機は用意できなかったようだ。
そして隊長から説明を受ける。俺たちは予想通り対地攻撃担当、一回の補給を予定している。
これからすぐに前線基地へ移動し、その後装備を整え出撃する。

「――以上だ、質問はあるか?ないなら解散、準備しろ」
「「了解!!」」

ハイネと声がぴったりそろう。その後、俺たちは移動し、1700時の作戦開始にあわせて出撃した。

クラウンビーチ手前。天候は大荒れ。嵐だ。
この場所が選ばれた理由は、ストーンヘンジの射程外、ただそれだけの一言に尽きる。
俺たちの航空支援がなければ上陸はほぼ不可能だからだ。でも今回は厳しい戦いになることが予想される。
地形は敵のほうが圧倒的に有利だ。

《こちらクラウンビーチ、B中隊指揮官のベルツだ!上空の制空権が取れていない!話が違うぞ!》
《こちら作戦本部。増援の部隊を送った。もう少し持ちこたえてくれ》
《分かった。パイロットたちに大陸で会おうと伝えてくれ!オーバー!》
《こちらスカイアイ、交戦を許可する》
《了解スカイアイ。ヴァイパー各機、味方の支援に急ぐぞ。ヘイロー、上空(うえ)は頼んだ》
《こちらヘイロー1!任せろ!》

視界は最高に悪いがビーチが見えてきた。各所で照明弾が上がっている。

《ヴァイパー各機へ、散開しろ。味方の進行を助けるんだ》
《ヴァイパー3了解!》
《6、了解!》

ビーチの各所に設置されているトーチカを狙う。マーベリックを撃つ。

《ライフル!》
《3班、上陸に成功!全員散会しろ!》
《こちらM中隊!上陸した!侵攻を開始する!》
《本部!味方機にトーチカをやるように伝えてくれ!》
《ヴァイパー3、地上ターゲットを撃破!》
《こちらタンゴ8!だれかハインドを落としてくれ!あいつらのせいで釘付けになっている!》
《おい!スティンガーはないのか!》
《こちらメビウス1!任せろ!フォックス2!》

イーグルからサイドワインダーが2発放たれる。両方とも命中。

《助かった!感謝する!》
《こちらタンゴ9!クラウンビーチ、全敵ヘリを撃破!》
《全員着剣しろ!》
《スナイパーに注意しろ!》
《ヴァイパー6、トーチカを撃破!》
《ヘイロー2、敵攻撃機を撃墜しました!》

戦局はどんどん進んでいく。俺も今までに機銃やレーダーをいくつか破壊した。

《こちらチャーリー11!上空の味方機!構わんから全弾ここに落としてくれ!》

みると、敵のトーチカに果敢に向かっている班があった。だが敵の防衛も厳しく、攻めあぐねている。

《こちらヴァイパー3!投下する!注意しろ!》

Mk-22をぶちまける。耳栓はしているだろうか。
俺が投下した爆弾は、トーチカはおろか敵の陣地までふっ飛ばしたようだ。

《よし!いけるぞ!ナイスシューティング、ヴァイパー3!》
《そっちも頑張れよ!》
《班長!レーダーが敵の増援を捉えました!》
《ヴァイパー6、投下!食らいやがれ!》

ふと上が気になってみてみると、ヘイロー2、ニコルと思わしき機体の後ろに敵機がつこうとしていた。

《ヘイロー2!ニコル!6時方向に敵機!左旋回!》
《了解!》

指示通りに左へ機を振る。敵機が隙を見せる。

《俺に任せろ!オメガ11、フォックス2!》

ミサイルが敵に飛んでいくが避けられる。しかし近接信管が作動し、敵機がふらつく。その隙をオメガ11は見逃さない。
バルカンを連射。新型であるスーパーホーネットの恐ろしいまでの機動性を発揮し、敵を落とす。

《スプラッシュ1!》
《助かりました!ありがとうございます!》
《こちらタンゴ3!敵に阻まれて進めない!誰かトーチカをやってくれ!》

要請があったトーチカを破壊しようとするが、機銃が邪魔で投下できない。マーベリックはすでに撃ちつくした。

《くそ、だめだ!機銃が邪魔だ!》
《こちらチャーリー11、俺たちに任せろ!おいトミー!対戦車ライフルをよこせ!あの機銃車両をぶっ飛ばす!》

機銃は沈黙。その隙に投下する。

《・・!・・・!よし、進める!感謝する!》
《くそ、ジョニーがやられた!撃たれた!衛生兵!衛生兵!!》
《こちらヴァイパー1、ヴァイパー各機、補給のタイミングだ。急ぐぞ!》
《《了解!》》

いったん前線基地に戻り、補給を受ける。今回は若干対空よりの兵装だ。一番内側のパイロンにのみMk-22を装備する。

「補給完了!良い狩りを!」

離陸し、再び作戦領域へ向かう。入れ替わりにメビウス1が補給に入る。

《ヴァイパー!戦局はこちらが優勢だ!あと一息だぜ!》
《了解、メビウス1。終わるまでに戻って来い》

ビーチ上空に到達。確かに優勢にはなっているがまだまだ戦闘は続いている。

《3班、そこに止まるな!十字砲火を受けるぞ!》
《ヘイロー2、スプラッシュ4!》
《やるなヘイロー2!オメガ1、フォックス2!》
《・・・了解!こちら側で待機します!》
《だれか谷の向こうの陣地をやってくれ!迫撃砲だ!》
《ヴァイパー1だ。任せろ》

俺たちもついていく。確かに迫撃陣地がある。1、2、3・・・かなりの数だ。

《全員でやるぞ。ヴァイパー1、投下》
《ヴァイパー3、投下!》
《6、投下!》

一気に敵陣地は壊滅した。そのときだった。

《こちらB中隊のベルツ!敵のA-10が接近中!こちらでは対処できない!》
《こちらスカイアイ!全機クラウンビーチへ急行し、攻撃機を撃墜せよ!》
《ヴァイパー1、了解だ》
《ヘイロー1、了解!》
《オメガも了解だ!》

俺たちもA-10部隊へと向かう。間に合うか!?敵がビーチ上空へ到達しそうになったとき、ミサイルと高速で接近する
機影がレーダーに映った。

アムラームは敵2機を一気に落とす。撃ったのは飛んできた機体―メビウス1のイーグル―だった。

《敵増援を確認!戦闘機だ!》
《ヘイローは増援を担当する!後は任せた!》
《畜生!俺たちじゃ上は手が出ねぇ!》

目の前にいる機体をロック。バルカンを撃つ。

《当たれぇぇぇぇ!》

硬い装甲を打ち抜き、敵を一機落とす。その間にメビウス1はもう1機。

《ヴァイパー6、フォックス2!》
《ヴァイパー1、フォックス2!》

残りを隊長とハイネが打ち落とす。増援も追っ払ったらしい。作戦成功だ。充足感が体を包む。

《こちらHQ。作戦の成功を確認した。ベルツ中尉、パイロットたちに言いたいことはあるか?》

しばしの静寂。嫌な予感が頭をよぎる。

《・・・・・・こちらはコリンズ軍曹です。B中隊の指揮を引き継ぎました。支援攻撃に感謝すると伝えてください・・・・。》
《・・・・作戦本部、了解。作戦終了》

重い空気が場を包む。その静寂を打ち破ったのは隊長だった。

《ベルツ中尉他、地上部隊の勇者に、敬礼!》

とっさに体が反応し、敬礼する。そのまま隊長に続いて上空を旋回。その後引き上げた。

基地に帰っても気分は重い。いつもの馬鹿騒ぎは起きず、ただバーでみんなで飲むだけ。
隊長も沈黙している。

大陸上陸に成功したとはいえ、その犠牲は大きかった。
でもめげずに大陸奪還へ向けて頑張らなくてはいけない。そう思った作戦だった。

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