XXXⅣスレ422 氏_第4話

Last-modified: 2009-10-01 (木) 01:43:48

C.E80――戦後軍を辞し、警察官となったシン・アスカの7年目。
彼は、一人の少年と出会う。
名はアルバート・グラディス。故タリア・グラディスの遺児。
戦後少年は父親に捨てられ、孤児としての道を歩んでいた。
見かねたシンは、新造戦艦ミネルバ2の落成式にアルバート少年を連れて行った。
亡き母が艦長を務めた艦を見せ、母親との繋がりを思い起こさせるために。

 

しかし、ミネルバはその雄姿を少年に見せる前に、テロリストの手に落ちる。
仮面の男、シオン・アズラエル。彼は死んだ筈のエクステンデッド3人を連れ、艦を奪う。
彼は、アルバートを誘った。

 

ラクス・クラインの暗殺へと――

 
 

機動戦士ガンダムSEEDブルーブラッド 第4話「天与の竜騎兵」

 
 

シオン・アズラエルの言葉が、アルバート・グラディスの心に影を射す。
仮面の男が言った、その言葉を、少年は反芻する。

 

ラクス・クラインは、母の仇……

 

考えたこともなかった。母の死は、デュランダル前議長を思ってのもの。
――多分、母の死は心中のようなもの。アルバートは、今までずっとそう思っていた。
混乱するアズラエルに、シオンは追い討ちをかける。少年を、味方に引き入れるために。

 

「前議長ギルバート・デュランダルは、ラクス・クラインの叛逆により撃たれた。
 君の母上は、半ばその巻き添えを食らったようなものだよ。違うかな?」

 

違いはしない。確かに、見方を変えればそうなる。
母の死の切欠を作ったのは、確かにあの女――現プラント最高評議会議長。
刹那――アルバートの思考を、シンの声が寸断する。

 

「アルバート! 口車に乗るな! 仮に責任の一端がラクスにあったとしても……
 彼女を殺しても、お前の母さんは生き返らない! 死者への手向けにはならないんだ!」

 

二人のエクステンデッドの少年に組み伏せられたシンの必死の説得も、シオンに遮られる。
顔面を蹴り飛ばされたお返しとばかりに、今度はシンの腹に蹴りを見舞う。
シンの言葉もまた、アルバートにとっては正論だった。それでも……
アルバートには分からないことがあった。

 

すなわち、なぜラクス・クラインはデュランダルに弓を引いたのか、である。

 

戦後、ラクスは総括を避け続けた。一重に、デュランダル派を刺激しないためであったが。
通説は、デュランダルの掲げたデスティニープランと地球支配への叛意が原因とする。
しかし、真相は闇の中。今日まで、ラクス自身から語られることもなかった。
だから、アルバートは思った。母が死んだ理由を、知りたい――と。

 

「貴方たちの味方になるのに、一つだけ条件があります」

 

アルバートが口を開く。その瞳には、復讐心ではなく、別の炎が宿っていた。
テロリストと罵られてもいい。知りたかった。母の死の真相を。ラクスの叛逆の理由を。
答えは、ラクス・クラインが知っている。アルバートは、そんな確信を抱いていた。
シンをひとしきり蹴り終えた仮面の男が、口元を歪めながらアルバートを見る。

 

「ラクスを殺す前に、話をさせてください。僕は、彼女が逆心を抱いた理由を、知りたい」

 

さらに、仮面の口元が嗤う。そして、彼は言った。
「そんなことに意味はないと思うが、好きにしたまえ」と。
そして、付け加える。「もう時間がない。そろそろ、行こうか」と。

 

ミネルバの艦橋から、モビルスーツの群れが見える。およそ、30ほどであろうか。
きっと、ミネルバの異変に気づいたのだろう。まもなく、攻撃が始まる様相だった。
シオン・アズラエルは、人の名を呼ぶ。アウルと、スティングと言う人物に呼びかける。
シンとダコスタを、外から良く見える位置に転がしておけ――と。
名を呼ばれた二人のエクステンデッドは、そのとおりにする。
シオンは、アルバートとステラを連れ、艦橋を去ろうとする。
アルバートは、自らの決意と行動に、後悔はしていなかった。
ただ……シンの悲痛な説得の声が背中に響き、少年の心は痛んだ。

 
 
 

艦橋を出たアルバートとシオン、そして3人のエクステンデッドは格納庫へ向かう。
まずは、あの30機のザフト軍モビルスーツを排除しなければならない。
――これから、あの人たちと戦うの?
ふと、アルバートはそんな想いを抱く。怖かった。人を殺す、あるいは殺されることが。
しかし、隣を歩く仮面の男は不安げなアルバートを見て……また嗤った。
ただし、嘲笑は混じっていない。彼は足を止め、アルバートに言った。

 

「ひとつ、言い忘れていた。我々は、ラクス・クライン以外は決して殺さない。
 敵が武装したモビルスーツで来ても。もちろん、外にいる30機の敵も殺しては駄目だ」
「……嘘だ。たった5人でそんなことが、出来る筈が――」
「――出来るさ。そのための、デルタフリーダムだ。我々は、7年前の再現をするんだ」

 

フリーダム。その名は誰もが知っていた。嘗て2度の大戦を、敵を殺さずに戦った機体。
言われて、アルバートは思い出した。多分、乗り込もうとした機体の隣にあったヤツだ。
ただ、ギリシャ文字で4を表し、三角を意味する冠がつく理由には、心当たりはなかったが。

 

ミネルバ2の格納庫。5人は、それぞれモビルスーツに向かう。
3人のエクステンデッドは、各自黒い装甲が強化されたダガーへ。
アルバートは、先ほど乗り込もうとした純白のストライクへ。
そして、シオン・アズラエルは――ストライクの隣に聳え立つ、灰色の自由へと向かう。

 

アルバートは、再びストライクに乗り込む。
コクピットの座席の後ろから、備え置きのノーマルスーツに着替える。
機体の色と同じ純白のそれを着るや、アルバートはコンソールパネルを立ち上げる。
球体のコクピットが、その内側に周囲の景色を映し出す。
……と同時に、隣の機体が見える。灰色の自由が、色を帯びていく。フェイズシフト。

 

――黒い。あれは、カラスの羽なんかより、ずっと黒い。
それがアルバートの印象だった。
ボディと手足を繋ぐフレームは赤く彩られる。禍々しい、という表現がぴったりくる。
隣のフリーダムに違和感を覚えながら、少年は機体に火を入れる。
OSが縦にGUNDAMの文字を描く。Nのみ読み取れた。それは、Nuclearの頭文字。

 

「……核動力!? このモビルスーツは、核で動いているのか!?」
アルバートは、驚愕の声を上げる。
ラクス・クラインはユニウス条約を再度復活させ、連合各国と締結した筈――だったのに。
少年の声を聞いていたかのように、隣の機体から声が届く。
「驚くなかれ、こっちも核だ」と。シオンが乗っているデルタフリーダムからだった。
漆黒の自由が、動き出す。アルバートのストライクより、一足早く調整がついたらしい。

 

しかし、フリーダムはすぐに動きを止め、ストライクに向き直る。シオンが語る。
「坊や。誘っておいて難だが、本当にいいのかい? 引き返す最後のチャンスだよ?」と。
フリーダムから、アルバートの乗るストライクに音声通信が入る。
アルバートの意思を確かめるように、真紅のツインアイを光らせるフリーダム。

 

操縦桿を握る少年の手は、汗ばんでいた。パイロットスーツ越しに、それは感じた。
もし、このままロミナ・アマルフィの世話になり続け、いつか大人になって……
そして、年をとって死んでいく。何も知らないまま。母の死の真相すら、分からぬまま。

 

――そんなのは、嫌だッ! 

 

答えは、出ていた。純白のストライクの目が、光を帯びる。
翡翠の色をしたそれは、フリーダムのそれより強い光。少年の意志の、強さの現われ。
時を同じくして、コクピットのモニターも輝く。黒い画面に、白の文字が浮かび上がる。

 

―― Strike Reinforce Awaking ――

 

起動した純白のストライク。その名は、ストライク・リィンフォース。
拘束具を引き千切り、それは動き出す。プラント首都、アプリリウス・ワンへと向けて。

 

少年は、意を決し叫ぶ。目の前に聳え立つ、漆黒のフリーダムに向かって。

 

「シオン・アズラエル、頼みがあります! もう僕を、"坊や"と呼ばないでください!」
「――分かった。わが同志、アルバート・グラディス。いや、アルと呼んでいいかな?」

 

その名で呼ばれるのは、7年ぶりだった。最後に自分をその名で呼んだのは、今は亡き母。
アルバートの駆る純白のストライクは、背にエールストライカーパックを装着していた。
10年ほど前に、たった一機でザフト軍と渡り合った、伝説のモビルスーツと同じ姿……

 

しかし、その姿にシオン・アズラエルは、一抹の不信感を抱いていた。
己が機体、デルタフリーダムについては、ミネルバ強奪前に事前に情報を持っていた。
だが……アルバートの乗る純白のストライクについて、彼は一切知らなかった。
さきほど、コクピット席は見た。デルタフリーダムとは明らかに違う、全天候モニター。
ストライク・リィンフォースのデータは、デルタフリーダムの機体にもない。
同時期に建造されたザフト製モビルスーツなら、情報を共有していそうなものなのに。
それが、シオン唯一の気がかりだった。アルバートに悟られぬほどの小声で、彼は呟く。

 

「データにない機体、か」

 

――まぁいい。どの道、出たとこ勝負だ。
僅かに沸き起こる不安をかき消し、シオンは自機のフットペダルを踏み込む。
フリーダムは、リィンフォースと3機のダガーとともに、発射口へと足を向ける。
三機のダガーの名は、フェイタル・ダガー。3人のエクステンデッドが乗る機体。
発射口は堅く閉ざされていたが、フリーダムが引抜いたビームサーベルで裂かれる。
シオンはアルバートに言う。「母上の艦を傷つけるのは、これが最初で最後だ」と。
ふと、アルバートは気になった。シオンがムルタ・アズラエルの子ならナチュラルの筈。
なぜ、こうもモビルスーツを軽々と操れるのか……不思議に思い、少年は問いただす。

 

「シオン、貴方はどうしてそんなにも易々と、フリーダムを操れるの?」
「おや? アルには言っていなかったか。実は、私もあの3人と同じ体なのさ。
 いや、同じ体になった……と言うべきか。実際は、何度も逝きかけたがね」

 

シオン・アズラエルもまた、エクステンデッドだった。フリーダムのサーベルが消える。
発射口の扉が破られ、外の景色が広がる。ジン、ゲイツ、ザク、グフ、バビ……
総勢30機の敵が、そこにいた。
まるで、ザフトのモビルスーツの見本市だった。

 

――刹那、羽が舞う。漆黒の羽が、12枚。それらは宙を舞い、地に堕ちる。
天与の竜騎兵――ディバイン・ドラグーンの飛翔。
それが、戦いの合図だった。

 
 

アーモリー・ワン守備隊は、デルタフリーダムの威容を見るや、瞬時に機体を後退させる。
彼らは、完全に怯んでいた。2度の大戦で、フリーダムが彼らの味方になったことはない。
如何にクライン派の象徴であろうと、ザフト軍にとってはかつての敵に他ならない。
その怯みが、シオン・アズラエルのデルタフリーダムに千載一遇のチャンスを与える。
守備隊が躊躇なく攻撃に踏み切っていれば、立場は逆転していただろう。

 

デルタフリーダムの背中の羽が、宙を舞う。12枚の羽が、守備隊を囲むように旋回し……
刹那、アーモリー・ワンの大地に突き刺さった。
次の瞬間、漆黒の羽は光を帯び――周囲に結界を張り巡らす。
数瞬の後、ジンやザクといった地上戦用モビルスーツは片膝をつく。
それから間をおかずに、コロニーの空を舞っていたバビたちも地に臥せる。
リィンフ#brォースのアルバート・グラディスは、その光景に瞠目する。

 

「……敵が、動かない。いや、動けないの?」

 

地に臥せったアーモリー・ワンの守備隊。彼らの機体は、必死に動こうとする。
まるで、人が震えながら拳銃を構えるがごとく、躊躇い勝ちにライフルを構えようとする。
しかし、それも続かない。必死に動こうとするモビルスーツが、動作を停止してしまう。
アルバートには、原理は分からなかった。だが……
動けない敵モビルスーツ。そして、彼らの周囲で光り続ける12枚の羽。
二つの事実から、状況は悟ることが出来た。彼らは、拘束されているのだ。12枚の羽に。

 

「シオン! これは一体!?」
「ディバイン・ドラグーン。かつてのキラ・ヤマトの戦い方を昇華させたものだ」
シオン・アズラエルの言葉は、すぐに実証される。
3機のフェイタル・ダガーが動けないアーモリー・ワン守備隊に襲い掛かる。
3人のパイロットは、決してコクピットを狙わず、腕部や脚部のみをサーベルで切り裂く。
まるで赤子の手をひねるかのように、3機は30機のモビルスーツの機能を奪い去った。

 

新型ドラグーン、ディバイン・ドラグーンの力――
それは、羽が張り巡らされた周囲に強力な磁場を形成し、敵の動きを封じること。
そして、3機の僚機は、磁場耐性のある装甲版を着用しているため行動を阻害されず……
易々と動きを止められた敵機を仕留めてゆく。まさしく、殺さずのフリーダムの再現。
……時間にして僅か2,3分。本当に誰一人殺さず、4機は30機に勝利を収めていた。
12枚の羽は、再びフリーダムの背部に舞い戻ってゆく。

 

――これが、彼らの力。
リィンフォースのコクピットで、アルバート・グラディスは呟く。
人を殺さず、人に殺されずに済んだが、何の高揚感もない。圧倒的な力での抑圧だった。
――いや、違う。これは、ラクス・クラインの望んだ姿なのか?
少年の心に、また疑問がわいた。フリーダムが人の命を慮っているのは分かった。しかし……

 

「それなら、どうして2度も戦争に参加したんだよ……!」

 

少年の声に応えるものは、誰もない。
ただ一人いるとすれば、それはこの国の首都にいる。

 

だから、少年は会いに行く。ラクス・クラインを殺そうとする者たちとともに――

 
 

】 【】 【