第01話『新生活』
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そして現在、士官学校の試験を受けている。
今更労働者になるなどプライドが許さなかったし、
それ以外に食う方法を知らなかったからだ。
幸か不幸か、この世界の情勢は不安定らしく、そこら中に
『貴方の若さ、必要です
――ザフト軍』
というポスターが貼ってあったので、直ぐ様応募した訳だ。
「筆記は優秀、体力も問題なし。年齢が気になる所だが、それを差し引いても優秀だ。
よろしい!アカデミーの入学を認めましょう」
「ありがとうございます」
この歳にして学生――何とも滑稽である。
入学式まで日雇いのアルバイトという屈辱的な方法で身を立て、遂に私は新しい生活に身を投じた。
「諸君の力が、プラントの未来を……」
入学式での、評議会議長殿の祝辞が耳に障るのは何故だろうか?
「ねぇねぇ、あの人……」
「何でオジサンが……」
赤い髪の女学生たちの視線が痛いのは何故だろうか?
貴様らの顔は覚えたぞ。覚悟しておけ。
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寮に持ち込む荷物はごく僅かだった。
私は余った時間をアカデミーの図書室での読書に使っていた。
早く情勢を頭に叩き込んでおかねば、変人のレッテルを張られかねないからだ。
「……フリーダム、ジャスティスの二機が一騎当千の活躍を……
ええい!主観の入った情報などゴミクズだ!
客観的な情報は無いのか!」
ついつい大声を出してしまい、私の学生生活は『図書室の変人』という通り名から始まってしまうのだった。
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ルームメイトは私に気を使っていた。
「シロッコさんは、何処のプラント出身で?」
敬語を使わんでもいい、と言ったにも関わらず、彼は敬語を使い続けていたのだ。
「私はアプリリウス出身だ」
履歴書の内容は頭に叩き込んでいた。
「良いとこの人なんですねぇ」
「この間、道路舗装のアルバイトをしていたが」
これが良くないのだろう。
しかし、どうしても皮肉が口をついて出てしまうのが私の性癖なのだ。
「……は、はぁ。それはどうも……」
そら見たことか!
それから、ルームメイトは一層気を使うようになった。
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教官のシゴキは酷いものだった。
私とて体力には些か自信があったが、そんな自信は脆くも崩れ去った。
「こらぁぁ!シロッコォ!貴様それでも試験に通ったのか!」
――うるさい、俗物め――
言ってやりたいが、学生の分際はわきまえねばならぬ。
「申し訳……ありません……」
「オッサンはオッサンか!?根性見せろ!」
「……プッ」
今笑った黒髪の小僧、許さんぞ。
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MSシュミレーションは私の独断場だった。
周囲がヨチヨチ歩きをしているにも関わらず、私は颯爽どバーニアを吹かして旋回していたのだから。
MSの操縦は、私の世界と相違無かったのだ。
「あ、あいつ……何者だ!?」
「……っていうか、何でMSの操縦いきなり出来るの?」
いきなりでは無いのだよ!いきなりでは!
貴様らヒヨッコには想像もつかんような修羅場を幾度と無く、くぐり抜けてきたこのパプティマス=シロッコの美技に酔いしれるがいい!
「シロッコォ、貴様ァ!誰がそんな事を命令したか!腕立て100回!」
「申し訳ありません」
調子に乗るとは私らしくも無いな……。
「プッ」
黒髪の小僧ぉぉぉ!