第02話『日常』
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入学式から3ヶ月が経とうとしていた。
苦手な部類に入る体力も向上し、教官に怒鳴られる回数は日ごとに減っていった。
そんな中、『図書室の変人』であった私に変化があった。
「パプティマス様ぁ~。この問題、教えてくれませんかぁ?」
「ああ、これは着弾座標を求める問題でポイントは……」
女学生が私を慕ってくることである。
筆記の方では他を寄せ付けぬ成績を奮っていた私の元には、
数多くの質問が舞い込んでくるようになったのだ。
男子学生の質問には、
『この程度、自力でやるんだな』
と棄却したが、女学生には弱かった。
私は骨の髄までフェミニストなのだろう。
そんな私を慕ってか、一部の女学生たちは私を『様』付けで呼んで来るのだった。
しかし、弊害もある。
それは男子学生たちの嫉妬である。
『いけ好かないオッサン』、『紫ジジイ』といった謂われの無い陰口を叩かれるようになったのだ。
彼等に言いたい。
『女には弱いんだよぉぉぉ!』
と。
しかし、クールでシニカルな自分を曲げてまで言うことは出来なかった。
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「おい、オッサン」
「何だ、小僧」
最近、黒髪の小僧、シン・アスカと衝突する機会が増えた。
大抵のことならば受け流す性質の私だが、彼には失笑された恨みがあるので引き下がりはしなかった。
「いい気になるなよな」
「はて、いい気とは何か?シン・アスカ君」
「そういう態度がいい気だって言ってるんだよ!」
「生の感情をさらけ出す子供の言うことなど理解出来んな。
せめてその足りない脳味噌で発言を考えてから来い」
「こいつ!」
「何をやっとるかぁ!二人とも腹筋だ!」
「「いーち、にぃーい、さーん」」
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「……」
「……」
「……」
「……」
「……君とは友人になれそうだ」
「レイだ。よろしく」
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「あの、射撃のことで……」
入学式の時に私を好奇な目で見てきた片割れが質問に来たのだ。
『煩いメスブタ』
「では、射撃場に行こうか」
心の声は反映されなかった。
私はつくづく女に弱い。
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学校といえども給料が出るのがアカデミーの利点である。
私はいい加減前髪サラサラに嫌気が差したので、街に髪止めを買いに出た。
何処で耳にしたのか、後ろに5人の女学生が取り巻きと化していた。
「これかわいい~」
「パプティマス様、『かちゅーしゃ』が似合う(はぁと」
絶望だ……それから私は『かちゅーしゃ』の着用を強要されるのであった。
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「落ちろカトンボ!」
『うわぁぁぁ!』
シュミレーションといえども、撃墜の恐怖は存在する。
今日も私の敵側の学生がシュミレーターポッドから悲鳴を上げていた。
「ど、どうやったらそんなに上手くやれるんですか!?」
来た!皮肉は駄目だ、皮肉は駄目だと自分に言い聞かせる。
男子学生とも上手くやっていかねば、学生生活に支障が出るからだ。
「装甲越しに、敵の気配を感じるのだ」
率直なアドバイスを告げた。
シニカルな自分を曲げてまで発言したことに、自分を誉めたい気分にすらなった。
何故か一層、男子学生たちとの対立は深まった。