コードギアスSEED
第4話 歌姫の騎士団
『ランスロット・トラファルガー…発艦!』
「発艦!」
スザクの操るランスロット・トラファルガーが初の宇宙間戦闘に挑む。
目の前に迫る敵の追撃部隊。
主にジンのカスタム機で構成された部隊は、ライフルをエターナルに向ける。
「ここで、ラクスをやらせるわけにはいかない!!」
ランスロットのエナジーウィングが輝く。
それは、ランスロットの運動性を高め、敵に目掛け、一気に距離を縮める。
通り過ぎた敵のジンは気がつかぬまま、その機体をバラバラにさせられる。
だが、決してコクピットは狙わない。
『……スザク、あの方々も生きているんです。どうか…命だけは』
「イエス・ユア・マジェスティ」
スザクは、その圧倒的な運動性で敵を壊滅させる。
追撃部隊はもはや、何も出来ない。その白き悪魔の戦闘をただ眺めることしか……
前後左右、自由に飛びながら、ジンの背後に回り込んだり、さらには相手の死角を突く頭上からの攻撃であったり……
まるでジンが子供の玩具のようだ。
追撃艦隊を指揮している将兵は、そのあまりの圧倒的な戦闘に呆然としてしまう。
「ぜ、全滅!?バカな……12機のジンが、全滅!?3分もたたずにか?たった一機に…」
将兵がその報告を聞いて呆然とする中、艦橋の目の前にライフルを向けたランスロットが姿を現す。
「う、うわああああああ!!」
自分が死んだと確信した将兵は悲鳴を上げるが、ランスロットはそこで動きを止めると、そのまま再び速度を上げて、戦場から離脱する。
腰を抜かす将兵。
『おい、艦長…報告をしろ!聞いているのか?』
パトリック・ザラからの通信が聞こえるが、暫くの間、将兵は身動きが取れないでいた。
こうしてエターナルは、プラントから離脱。
パトリック・ザラの膝元から悠々と離脱したラクス・クラインは、その手腕に恐怖される結果となった。
ただのアイドルから反逆の先鋒……
誰もがまさか?と思い、そしてプラントが大きく揺るぐ結果をもたらした。
「なんということだ!なぜ、このようなことに……」
パトリックは両手を、机に叩きつけて唸るように言う。
「か、閣下……アラスカの作戦が失敗しました。
降下部隊が壊滅……敵は大規模破壊兵器を用いた模様です」
「なんだと!?」
このラクス・クライン反逆事件の最中、連合軍総司令部のあるアラスカへ降下した攻略部隊は、連合軍が用意していた広域破壊兵器『サイクロプス』によって壊滅させられていた。
これにより、ザフト宇宙軍はプラント防衛のための戦力が不足してしまい、急遽、地上軍の大半を引き揚げなければならない状況となってしまった。
まさに『泣きっ面に蜂』である。
「……だが、我々には、まだプラントには、コーディネイターには手立てがある。
宇宙に上るなら上がるがいい。そこがお前達の墓場となる。
ラクス・クラインも地球連合もまとめて叩き潰してくれる!」
パトリック・ザラは、笑みを浮かべ立ち上がる。
彼にはまだまだ手立てがある。
それにニュートロンジャマーがある限り、プラントにおける直接攻撃は難しい。
ナチュラルの野蛮な攻撃に何を恐れるころがあろうか!
コーディネイターの英知により、この戦争は勝利する。
そしてナチュラルを1人残らず絶滅させ、世界を……。
▽ △ ▽
エターナルに着艦するランスロット。
ハッチが閉じられ、エアロック内に空気が満たされてゆく。
それまでは、コクピット内でゆっくりと息をつくスザク。
『スザク君、始めての宇宙での戦闘はどうだった?』
セシルの言葉にスザクは、笑顔で
「まだ、慣れてはいませんが、空での戦闘とは違い、重力が無いので楽です」
『お~めぇ~で~と~う、スザク君。君にならできるとおもっていたよ?』
ロイドが画面にうつるセシルさんの間に入ってそういう。
スザクは苦笑いを浮かべながらロイドを見る。
『あ、そうそう。君が到着したと同時に、お姫様がそっちに向かったからしっかりとエスコートしなきゃ……ダメだよ?
なんてったってこっちの開発費を彼女はっ!』
言葉を続けようとしているロイドは背後にいたセシルの手によって口を塞がれる。
と同時に画面が消える。
コクピットハッチをあけるスザク。
既に空気が戻っているため、スザクはノーマルスーツをとる。
戦闘には慣れたが、どうにもノーマルスーツだけは慣れない。視界が狭まるような気がしてならないからだ。
今度、ロイドさんに相談してみよう。
「スザク!!」
「ら、ラクス?」
ロイドの言うとおり、その姿を現したラクス。
いきなりで驚いたスザクだが、ラクスは、そんなスザクのことなど気にしないで満面の笑顔を向ける。
「よかった。無事でしたのね。本当に……」
「大丈夫。僕はそんな簡単にやられたりしないから…」
ラクスはそういうスザクに対して首を横に振り
「スザクに……こんな大変なことを1人任せてしまっていることが……申し訳ないのです」
「ラクスだって、これだけのことを1人で成し遂げたんだ。僕になんかこんなことは出来ない。
ラクスにしか出来ないことだよ……」
ラクスはそのスザクの言葉に嬉しそうに頷く。
そう、自分は、自分にしか出来ないことをしている。
ラクス・クラインとしてしか出来ないことを……。
それは、素晴らしいこと。
スザクにも褒められた。
私は…もうただのアイドルなんかじゃない。
世界を変えることができる。
「…ただ」
「?」
スザクは嬉しそうなラクスを見ながら、不安気に小さな声でつぶやいた。
「……あんまり無茶をしないで」
「わ、わかってます。大丈夫ですわ」
スザクの言葉にラクスは自分が少し落ち着きがなかったことを反省する。
これではいけない。
また……キラのときと同じく自分の力に溺れてしまうところだった。
自分の力はプラスだけには働かない。クイーンの力は……双方向に働く。
ただ前ばかりを見ているわけには行かないのだ。
『ラクス様、至急ブリッジにお戻りください』
「…もういかないと。スザクはゆっくり休んでくださいね?」
ラクスはスザクと離れるのがいやだったが、自分は今ただの一個人ではないということを意識して、スザクから離れていく。
スザクは、そんなラクスを見ながら、彼女がどこか急いでいるように感じられた。
でも、それも仕方が無いか。
ラクスは一刻も早く、この戦いを終わらせたいと願っているのだから。
「…今後のとこですが、我が隊に反応を示してくれる場所がなかなか見つかりません」
ブリッジでは、バルドフェルドは、画面の地図を見ながら、進行方向を指し示しながら話を続ける。
「仕方が無いだろうね~ぇ、なんせ僕らはプラントからのお尋ね者。引き入れる場所があれば、すぐに大部隊が送られて壊滅させられちゃうよ」
「だからといって連合に身を寄せるわけにも行きませんし」
ロイドとセシルも、これからのことを考えるとなんとも頼りないものと思う。
ラクスの行動自体が、行き当たりばったりという風に思えてしまう。
スザクはラクスを擁護するが、フリーダム奪取にはじまり、今回の離反行動。
確かにラクスにとっては思い切った行動ではあるが、その先のヴィジョンが無い。
少なくとも今はそれを見ることが出来ない。
「…このまま連合とプラントが潰し合ったのち、そこを掠め取ろうって言うのなら勝機はるかもしれないけどね~」
「それは出来ません!」
ロイドの言葉にブリッジに戻ってきたラクスは、強い言葉で拒否を示す。
ラクスは自分の席につくと地図を見つめる。
「私達と同じ想いを示すものたちが必ず現れるはずです。それは……キラやアスランたち」
「しかし、彼らとは音信不通です。もしかしたら連合軍が使用した質量兵器で攻撃を受けているかもしれません」
「いいえ、彼らはそんなことでやられたりはしませんわ」
ラクスは、画面を見つめながら自分に言うように告げる。
その楽観主義ともいえるような言動に、ロイドとセシルは何も言えなくなってしまっていた。
ただ、これまで楽観主義とも言えるようなことを覆してきた実績を持つ彼女に、何も言うことはできない。
それに、ここまで来てしまったら彼女を信じるしかない。
▽ △ ▽
その頃、地球での任務を終了したラウ・ル・クルーゼはプラントに戻る最中であった。
アラスカ基地で手に入れた女と一緒に……
「ほう、『クイーン』が動いたか……
ラクス・クライン……ただのお飾りというわけではなかったようだな」
クルーゼは、ニュースにてプラントにてラクス・クラインがプラントに反逆・離脱したという話を聞き、感嘆の声を漏らした。
自分の計画には、入っていない行動。
こうでなければ面白くない。
全てが計画通りでは……
「……」
クルーゼの隣、フレイ・アルスターはただ黙っている。
彼女には、自分が再び父が死んだ宇宙にと戻ってきたことが哀しく感じられた。
さらには、地上で別れたキラやサイたちは無事だろうかという思いも……
「何も心配する必要はない。君は本来戦うべき人間でないことは十分承知のうえだ。
それに、私は君に尋問やそういったことをするつもりもない」
フレイはクルーゼの言葉を鵜呑みには出来ない。
勿論、簡単に信用してくれないことはクルーゼにもわかってはいる。
だが、クルーゼにとって、幸運な拾い物である彼女は人質という効果だけではない様々な用途で使用することができる。
なんだったら、アークエンジェルの破壊工作でもやらせようか……
いや……もっと他にもいろいろとある。
「……とにかく、これからの主戦場は宇宙へ移るだろう。
彼らも、あんなところでやられはしないだろうからな」
「彼ら?」
「あぁ、君が知っているキラ・ヤマトやアークエンジェルは…」
ラクスの祈りが届いたかどうかは定かではない。
だが、アラスカから離脱したアークエンジェルはオーブに迎え入れられ、戦いの傷が癒えぬ間も無く、マスドライバーの確保を目論んだ連合との戦闘に突入。ウズミ・ナラ・アスハの手引きで、宇宙にとあがることとなった。
この時のオーブでの被害はかなりのものであり、オーブ国民の1人……この後歴史の表舞台に立つことになるシン・アスカの家族も、この戦闘により被災した。
キラ・ヤマトとアスラン・ザラはラクスの言葉に影響を受け、戦争を止めるという共通の目的を持つこととなった。
▽ △ ▽
「……連絡がとれたって?」
スザクは廊下にてラクスに話しかける。
「はい!ようやくですわ。近いうちに合流ができると思いますの」
ここ数日間は、暗証空域にある資源採掘工場を交渉の上、使用(ラクスによるギアスで手に入れる)することでエターナルの姿を隠し、沈黙を守っていたが、ここにきてようやく動き出すことができる。
ラクスは、嬉しそうにスザクの手を握る。
「これで、スザクにも無理に戦いに出てもらう必要はなくなりますわ」
「そうは行かない。誰かが戦っているのに僕だけ見ているわけには…」
スザクの言葉にラクスは、自分で何をいっているんだろうと思い、言葉を改める。
「ごめんなさい。戦力が増えますから…という意味だったのですけど」
「うん。まだアスランやキラという人たちには挨拶さえ済んでいないから」
「皆さん、とてもいい人たちですわ。きっと……スザクとも仲良くしてくださいますわ」
ラクスは、自分の思い通りに事が進みだしたことを実感し始めていた。
キラとアスラン…それにアークエンジェルという強力な艦がつくことで、自分の戦力は倍増する。
それでも連合とザフトの戦力にはまだまだ劣る。
でも、大丈夫……。
私にはギアスがある。
私の強力な力が…。
「オーブと連合、そしてラクスたちが手を組むということになると名称を決めないといけないね」
「そうですわ…なにがいいかしら?」
スザクは、そこでふと思い出されるフレーズがあった。
それは決して褒められた言葉ではない。
だが、自分達の世界では、その名前は栄光と希望に満ち溢れた言葉。
「……騎士団。ラクスにかけて……《歌姫の騎士団》なんかどうかな?」
「なんだか照れくさいですけれど……でもスザクが決めてくださったのならそれでいいですわ」
ラクスは照れながら、それでも気に入ったようで手を合わせて微笑む。
すぐに集合ポイントに元連合軍戦艦・アークエンジェルとオーブの戦艦・クサナギがやってくる。
ラクスはブリッジにて回線を開き、そこにうつる同じ同志達に言葉を向けた。
『ようこそ、《歌姫の騎士団》へ……私は、ラクス・クラインです』
宙に浮いた気分であったラクスは、この時忘れていた。
《ギアス》が持つ『恐ろしさ』を……
それはすぐに自分にと跳ね返ってくることになる。