コードギアスSEED
第3話 運命の船出
「それは本当ですか父上!?クライン派が反逆を起こしたというのは!!」
アスラン・ザラはプラントに帰還した直後、その話を彼の父……そして今は最高評議会議長となったパトリックから聞かされた。
パトリックは最高評議会議長の席につきながら、頷く。
「私としても信じたくは無かったが……シーゲルの娘が『フリーダム』の強奪に関与していることが判明した以上は……」
「ラクスが!?そんな…バカな」
「……お前には早速だが、そのことで仕事がある」
席から立ち上がったパトリックはアスランを見る。
その強い瞳には決意が篭っていた。
「フリーダムを奪還して欲しい。それができなければ破壊しろ。あれを敵に使われるわけには行かない」
「……わかりました」
アスランは言い返すことは出来ない。
自分には事情が良く分からないのだ。
ここで言い争ったところで何も解決には繋がらない。
アスランは敬礼をして部屋を出る。
ラクスが……フリーダムを渡したというのか。
信じがたい事実である…。
それにしても、なぜラクスはそんなことを?
彼女に利益があることはなにもないはずだ。
まさか、最近護衛についたという者にけしかけられて……
いや、仮にそうだとしても、彼らがスパイである可能性は低い。
なんせラクス自身が彼らを『自分の騎士』と位置づけたのだから。
▽ △ ▽
アスランは夜の闇を利用してクライン邸に向かっていた。
どうしても自分の目で確認しなければ現実を受け入れることができなかった。
ラクスのいた邸宅は、まだその形をとどめている。
既に捜索は終了したのだろう、《立ち入り禁止》のテープだけ張られている。
今は誰もいないようだ。
アスランは、それを潜り、敷地内にと入っていく。
静かな場所……草木にかこまれ花が咲き誇っていた場所は、ラクスのお気に入りの場所だった。
彼女は世間を知らない……あるのは、兵の士気をあげるライブとここでの限られた空間だけが彼女にとっての世界である。
だからこそ…連合に捕まったときは焦った。
彼女が戦争というものを理解せず、なにかするんじゃないかと……結果的にはキラがつれてきてくれたわけだが…
キラ…
彼は死んだ。
戦いの中、自分は2人の友人を殺してしまったことになる。
ニコル、そしてキラ。
俺は彼らになんと言えばいいのだろうか。
戦いの中で、これは褒められることなのかもしれない。
だが決して、その傷は癒えることは無いだろう。
ラクスの邸宅にはいったアスラン…やはり随分と漁られている。
部屋内は無茶苦茶だ。
自分もここには何度も訪れているだけに、やはりこれが現実であるとは思えない。
「……私のせいですわ」
その小さい言葉にアスランは振り返る。
そこにラクスが夜の明かりを窓から受け、照らされながら立っていた。
その表情は暗く疲れているようであった。
「ラクス……。本当に君が、フリーダムを?」
アスランは、信じられない現実を否定するように問いかける。
嘘だといってほしかった。
だが、それは言い換えれば自分の父が嘘を告げているということになる。
アスランにとっては、どちらをとっても哀しみにしかならない。
「……真実ですわ」
「誰かに頼まれたのか? 脅されたり…そうなんだろう?
ラクス!君は戦いを知らない。こんなことをしても、君にはなんら利益にはならない」
アスランは、それでもなお、この結末を変えたい気持ちでラクスに問いかける。
ラクスは、そんな自分を気遣うアスランに対してやりきれなさと、優しさに感謝をする。
「私は……この戦争を止めたいんです。血で血を洗うだけの戦いの末に、何があるのでしょう? このような争いは悲劇しかもたらしませんわ」
「だからといって、それがフリーダムを渡すことには繋がらない!」
「……ですが、それがアスラン……あなたの友人であるキラであるなら、私は信じることができます。きっと、彼なら…私の気持ちを分かってくださると思いますから」
「キラ!?あいつは生きていたのか?」
「……はい」
安堵とともに、自分が再び彼と戦うという切迫した気持ちが湧く。
彼は敵だ。
討たなくてはいけない。
撃たれる前に……
「また、戦いますか?」
ラクスの問いかけに、アスランは言葉が詰まる。
頭では理解をしている。
キラは……敵は撃たなくてはいけないと。
だが、感情的な部分がそれに疑問を持っている。
「…アスラン、あなたが友人を失ったように、キラもまた友人を失いました。復讐といって撃ち合い続ければ…それは連鎖し、誰もとめられなくなります」
復讐の連鎖……
キラもまた友人を失った、自分と同じように……
戦争である以上それは避けられないことなのだろう。
だが、それを許容してしまえば、戦争は終わらない。
復讐は復讐を呼び、戦いは続いていく。
「……考えてください。本当に今、しなくてはいけないことを……」
ラクスは、アスランにそう告げると夜明かりから影に消えていく。
アスランはラクスが暫く合わないうちに、成長を遂げていることに驚きを感じていた。
まさか、あそこまで切羽詰っていたとは思わなかった。
自分が感じている以上に戦争というものの、悲惨さ、そして自分に何ができるのかということを考えていたのだろう。
「俺は…」
このまま、父の言うことを聞き、いつ終わるとも知れない戦争を続けていくべきなのか。
それは本当に正しいことなのか。
アスランは自問自答を繰り返す。
▽ △ ▽
「すいません、スザク…。こんな私に付き合ってくれて」
建物から出たラクスを出迎えるスザク。
「いいえ。こんな状況下にどうしても会いたいということは、それだけの人だということでしょうから…」
「私の我侭が招いた結果、スザクたちには苦労をかけます」
格納庫にてラクスは《ギアス》に目覚め、目の前にいた将兵を自分の駒とした。
ラクスは、この力を誰にも知られたくはなかった。
特にスザクには……
そう、これはスザクのいう『過ぎたる力』に他ならない。
きっと知られてしまえば嫌われてしまうだろう。
それだけは避けたかった。
絶対に……
だから、この者たちは自分の部下であるとスザクに告げたのだ。
スザクとロイドたちがランスロットで脱出を図ろうとした際、スザクはやはりラクス見捨てられず、戻ってきた。
そのときに、ラクスは咄嗟にそういった。
今では、そのときに備えて準備をしている。
ギアスを用いて仲間を増やしてはいるが……
『ギアスは、その力を使うたびに強くなっていく。あなたの精神までを取り込まれないように注意すること……』
シスターが告げた《ギアスの代償》。
ギアスは、己の身を滅ぼす力ともなるということ。
毒を持って毒を制す……それに繋がるのだろう。
だが、今更それは遅い。
一度願った、クイーンとして守られるだけではなく、自分の力で戦争を止めたいという力。
ならば、それを利用し、なすことをなさなくてはいけない。
そのために、スザクには騎士として頑張ってもらう。
私はクイーンとして騎士を、全身全霊で守りましょう。
「いたぞ!!」
スザクとともに、その場から去ろうとしていたラクス達の前に眩しいばかりの照明が照らされる。
2人は建物の影に隠れる。
「やはりアスラン・ザラとの接触を図ったか!絶対に逃がすな!」
どうやらアスランはつけられていたようだ。
ラクスは、自分の危機感のなさに、情けなくなる。
だが……今の自分にはギアスがある。
スザクに気づかれないようにかければ問題は無い。
ラクスは覚悟を決めるが……
「安心して、ラクス。ここからは僕の仕事だから」
「スザク……」
スザクは銃を取り出すと、前にいるものたちの銃だけを狙い撃つ。
それはすべて命中し、銃が落ちる。
最後にスザクはたかれている照明に目掛け銃を打ち込む。
照明が消え、暗くなった中、ラクスとスザクはその場から脱出。
敵の追跡から逃れ、自分達の拠点である場所にと向かう。
やるべきことはした。
最後にアスランに会い、彼の気持ちを向けることで……運命を託す。
本来ならばギアスを使ってでもいいところではあったが、なるべくなら使いたくは無い。
キラやアスランには……かつて知った友人であるからこそ。
▽ △ ▽
ラクスとスザクが向かった先…そこは格納庫である。
そして、そこにある一隻の戦艦。
スザクはラクスにノーマルスーツを着させ、自身も着ながら、艦にと向かう。
ラクスはスザクのエスコートを受けながら、プラントを見るのもこれで最後になるかもしれないという想いの中、一度だけ振り返り、そしてさよならと心で告げると艦にはいっていく。
「こちら、バルドフェルドだ。戦艦エターナル…出撃するぞ」
『こちら管制塔、確認する……バルドフェルド? あなたは確かラクス・クライン捜索後行方不明になっていたんじゃ?』
「そうだったんだがね、事情が変わった」
『待て!それはどういうことだ!』
通信を切るバルドフェルドは、艦橋にとやってきたラクスを見つめる。
ラクスはその服を変え、スザクが勧めてくれた昔の日本の着物に近い服にとなっていた。
「姫、お似合いですな。ところで…どうやら、向こうは我々を出してはくれないようです」
バルドフェルドの言葉を聞き、仕方が無いとラクスは思い、手を前に出す。
「私達は行かねばなりません。ここで立ち止まるわけには行かないのです。
エターナル発進!敵を振り切り脱出します」
「了解。エターナル発進。ハッチを突き破るぞ、主砲……撃て!」
砲撃でハッチを破壊し、そのままエターナルは格納庫から波乱に満ちた出航をする。
MSデッキでは、ロイドとセシルが調整に入っていた。
おそらく敵はすぐに追撃を始めるだろう。
そのために、今度は騎士の出番だ。
「…それにしても、これだけの準備、ラクスさんがしていたなんて……」
セシルは、のほほんとしていたラクスがこれだけのことを計画していたとは思えなかった。
「それについては同意見だね」
コンピューターの点検を終え、コクピットから出てきたロイドも腰に手を当てて頷く。
「あのお姫様が、ここまで軍に手を回せるとは思えないんだけどね~」
「ラクスは、意外としっかりしているんですよ」
ロイドとセシルの元にやってきたスザクは、パイロットスーツを着ている。
生まれて初めての空間戦闘となる。
こんなことで宇宙に出るとは思えなかったわけだが……
「そういうものかなー…」
「スザク君、事態がはっきりしない以上は無理をしないで」
「わかりました。オペレーターはセシルさんにお任せします」
スザクはランスロットのコクピットに乗り込むと、ハッチを閉じる。
MSとはまったく異なった機体コンセプトを持つナイトメアフレーム。
それはまさにザフトにとっては脅威となるだろう。
そう思われているだけでこちらは十分だ。
本音で言えば、宇宙での戦闘は不慣れなこっちとしてみれば、
慣れている向こうとの戦闘はかなり厳しいことになるだろう。
ロイドとセシルはスザクの無事を祈りながら、格納庫からでていく。
2人は無重力にまだなれていないのか、ロイドにいたっては、かなり壁に当たったり飛ばされそうになっている。
セシルは、ロイドを誘導しながらなんとか出て行く。
「はぁ……僕としては早いところ地上に降りたいところなんだけどねー……なんというか、地に足がつかないっていうのは凄く不安だよ……」
「なれれば楽しいものですよ?」
セシルはニコニコ笑いながら、艦橋にと向かう。
震動が艦に響く。
どうやら敵の追撃部隊の射程に入ったようだ。
まだこっちとしては万全ではない。
ロイドとセシルが艦橋にはいると、そこでは追撃部隊からの通信がはいっている最中であった。
『直ちに、艦を停止し投降しなさい。さもなければ、貴艦を敵と認識し撃沈する』
「わぁ~お、ハナから生きて帰すつもりなんかないのに、よく言うよね~」
ロイドが頭に手を回して言う。
セシルは、そんなロイドに黙るように目を向ける。
ラクスは通信を聞きながら回線を開く。
「私はラクス・クラインです。今回のことについては私に全て責任があります。フリーダム強奪を幇助したのも私の一存です。他の方には一切関係のないことです。ですから、私以外の者を討つことは誤りです。討つのならば私を狙ってください。
ですが、私もただやられるわけにはいきません。この無益な、争いの応酬を終わらせたい、そのために私は戦います。皆さんが、傷つき、互いを憎しみ合う連鎖を止めるために……」
スザクはランスロット・トラファルガーに起動キーを挿入する。
光が機体内部を輝かせ、画面が開かれていく。
自分は再び《ナイト・オブ・ゼロ》として戦場を駆けよう。
今だけはゼロという鎖からとかれ……1人の姫を守ろう。
かつて守れなかったものを今度こそ。
『ラクス・クライン!お前の言っていることは、臆病者の戯言に過ぎない!』
プラント側からの回線だ。
その言葉を放つのはプラントの最高評議会議長であるアスランの父、パトリック・ザラである。
「ひょぉ~これは面白くなってきたねぇ~公開トップ会談だね~ぇ」
「ロイドさん!」
ラクスは、現れた父の仇に対して怒りの感情が走るが、それもまた、結局は元を正せば自分にと跳ね返ってくる…。
今はただこのやり場の無い気持ちを押さえ込み、この場を凌ぎきるだけだ。
『我々は、連合軍にプラントを破壊され、さらには、ここまで独自で築き上げてきた我々に対して傘下に下れといってきたのだ。馬鹿にされ、踏みにじられたのだ。それを許しておくべきか?
既に矢は放たれた。もはや、この戦いはどちらかが潰されなければ終わることはない!! にっくき連合を潰してこそ、我々コーディネイターの真の未来が訪れるのだ!!』
「やはり…そうなりますか。戦争は悲しみと不幸しか呼ぶことは無いというのに……それを続けることで世界は確実に滅亡にとひた走ることになることになぜ気がつかないのでしょうか。
争いは何も生みません。過去を変えることも勿論出来ません。ですが、未来を変えることは出来ます。今ある命を私達は守ることが出来ます……どうか共存の道を」
『そんな脆弱な楽観主義者の考えなど……聞けん!』
回線が切れる。
結局、こうなることはわかっていた。
だが、それでも一部の望みを託したかった。
「敵部隊、こちらに攻撃を開始します」
バルドフェルドの言葉にラクスは目を閉じ、そしてギアス以外の力を行使する覚悟を決めた。
自分はクイーンである。
ただ守られるだけではない、力を行使するもの。
「スザク……頼みましたわ」
『イエス・ユア・マジェスティ』
ランスロット・トラファルガーの目に光が灯る。