第01話 【マジシャン・オブ・フォーミュラ】

Last-modified: 2009-02-20 (金) 12:36:57

宇宙世紀123年 

コスモ・バビロニア建国戦争の終盤。
シーブック・アノーは鉄仮面の乗るラフレシアを撃墜するものの、セシリーの搭乗機であるビギナ・ギナが大破され宇宙空間の何処かへ飛ばされた。

「セシリーはどこだ?」
シーブックは必死にセシリーを探すが、探せ、探せどスペースデブリやアステロイドベルトばかりだ。
こんなので本当に見つけられるのか?と思いきや
一輪の花が彼の搭乗機であるガンダムF91の前を通る。
「これは…セシリーの花?」
彼のニュータイプ能力とガンダムF91のバイオコンピューターが彼女を察知した。
「このバイオセンサー…僕のバイオリズムに合わせてくれる」
花の流れる方向へ向かうと多数の花と1人の人物がいた。
セシリーだ。

「セシリー!」
「これはF91…シーブック!」
感動の再会である。再会の余りで歓喜がいっぱいだった。
「戻ろう…皆が待っている」
「ええ」
シーブックはセシリーをコックピットに載せて、旗艦であるクラップ練習艦のスペースアークへ向かうとする。
だが
「待って、シーブック!何かが来る!」
セシリーが何かを感じる。
進路方向の逆から漆黒の機体がこちらに向かって来る。
「これはベルガ・ギロス、ザビーネ!」
漆黒の機体の正体はブラック・バンガード仕様として漆黒のカラーリングを施されたザビーネ・シャル専用のベルガ・ギロス。
「民間船は見過ごすにしたが、お前だけは見過ごせない!」
ベルガ・ギロスはビームサーベルを展開する。
「こんな事で消耗している場合ではないのに!」
シーブックもF91のビームサーベルを展開する。
互いにぶつかり合う火花。引けを取らない鍔迫り合い。
「ベラ様を取り戻す!」
「なんでセシリーに拘るんだ!」
鍔迫り合いもヒートアップし、白熱化する。
「何だ!」
「何なんだよ!これは!」
鍔迫り合いの白熱化のせいか強力な光が発生する。その光は瞬く間にF91とベルガ・ギロスを飲み込み、宇宙空間に跡形もなく消えてしまう。

次元空間
アースラ外部結界格納庫

急遽、数人の魔導師によってアースラの左後方に黒い結界を張り、格納庫として機能するように作った場所。
そこには15メートルはある巨大な鉄巨人が突っ立っている。
「……………」
帰還したクロノはその巨人の目の前に立ち、呆れたような顔で見ていた。
なぜなら、その巨人を調べるために数人の魔導師がその巨体にバインドをかけ、さらには付近に全戦闘員をデバイス装備状態で囲んでいるのだ。
「……………」
さらに頭を抱えるクロノの隣には未だにバリアジャケットのままの者達。
「大きい………」
「ほんまやなぁ………」
なのはとはやては大きさに驚いて声をあげた。
しかしその横には、
「うおぉぉぉ!」
まるで子供(外見はそうなのだが……)のように目を輝かせて見入るヴィータの姿。
「はぁ………」
クロノは頭を抱える原因を見てため息をついてしまった。
そこに
「クロノ君」
「あぁ…エイミィ………何か分かったかい?」
「実は………」
エイミィは少し困惑した顔をして巨人を見た後、
「生体反応があったの………」
そう一言いった。
「人でも乗ってんじゃねーのかな?」
ヴィータがはやてにそう聞き、
「もしかしたら機械生命体って奴やろか?」
はやてがシグナムに聞く。
「なっ……何故私に聞きますか………」
「知ってそうな感じがしますからねー。」
「シャマル……!」
戸惑うシグナム。
ヴォルケンリッターの騎士シグナムも戸惑うことがあるのか…とフェイトが考えていると………
「ク……クロノ君!」
「どうしたなのは?」
気が付いたのはなのはだった。
「あれ、動こうとしてるみたい!」
「何?」
そういって再度顔を見ると同時に目に水色の光が点りこちらを見るように顔を傾けた。
「なっ……武装局員前へ!」
「バインドが切れる!」
武装局員が構えるのとほぼ同時にバインドは引きちぎられ、その巨人は出口を探すように辺りを見回している。
「非殺傷設定で撃つんだ!!」
「喰らえ!」
武装局員が攻撃をする。
しかし攻撃は当たるもさしてダメージはないようだ。
さらには爆音と同時に頭から撃ち出された弾丸が地面に数発着弾する。

「……クソッ…………皆大丈夫か!」
クロノはシールドで破片から身を守り、皆の無事を確認する。
「なんとか………」
クロノは今の攻撃に対して反撃を試みようとした。
その時だった。

『危ないから下がっていてください!!』

突然の言葉。
暴れようとしている者から発せられた言葉。
訳の解らないクロノだったが、巨人は気にせずに歩きだし、左腕にあったものを取り出し構えるとそこに黄色の光の剣が現れ、外壁の一部を切った。
しかし巨人は、切ったのはいいが出ていかない。
かわりに『ここは……?』といって動かなくなった。
「チッ、ジェネレーター切れか」

その時声をかけたのはなのはだった。
もしかしたら…この世界の人じゃ……無いんですか………?」

その巨人は振り向き、なのはに目をやった。
「……っ」
なのはは言葉に詰まったが、すぐに次の言葉を発する。
「事情なら私たちが聞くから……」
『…………』
「……私たちに…話してくれない………?」
『…………』
しかし巨人は黙り込んでしまった。
なのはの言葉を聞いているのかすら疑問に思えるように。
さらに言葉を続けようとするが、
「……聞いているのか!」
クロノの声が先に響く。
「彼女は君に話しかけているのに、君は彼女の言葉を聞いているのか!」
「ク…クロノ君………」
エイミィが宥めるがクロノは続ける。
「いい加減君も……」
さらに続けようとする。
しかしクロノの発言は機械音で遮られた。
「……!?」
その巨人は突如、立て膝を立てるように座り込み、腹部に手を添えた。
そして腹部が開き、中から白い服を着た人間とオレンジ色の服を着た人間が出て来た。
顔にはフルフェイスのヘルメットをかぶっており、そのまま巨人の手に乗り、手は意志を持ってるかのように地面に近づけ、人間を降ろした。
「……………」
クロノは未だに警戒してるようにデバイスのデュランダルを構えた。
しかしその行為を無視するかのように彼は話しかけて来た。
「…すみません……クロスボーン・バンガードの艦に捕まったと勘違いしてしまいました………」
彼はヘルメットを外しながらも謝罪をしていた。
紺色のくせっ毛の男とオレンジ色で少しロングヘアーな女性。
顔立ちはイケメンとは言えないが体つきはいいようだ。
「僕は地球連邦軍所属のパイロット、シーブック・アノーです。よろしく」
「同じく、セシリー・フェアチャイルドです」
その男はヘルメットを脇に抱えて敬礼すると淡々と自己紹介をした。
「は…はぁ………」
数分後………
「艦長のリンディ・ハラウオン提督です。」
「F91ガンダムパイロット、シーブック・アノーとセシリー・フェアチャイルドです。よろしく。」
三人は握手を交わすと互いの席につく。
目の前には先程の青年が立っている。
「執務官のクロノ・ハラウオンです!」
シーブックは目の前にいる青年を見た。
「さっきはお騒がせしてすみませんでした」
シーブックは先の謝罪をして、クロノは
「いいんだよ、僕たちの早とちりだったのかもしれない」
シーブックとクロノはお互い握手をし出す。
「……所でシーブック君とセシリーさん……でしたね?体の方は?」
突然リンディ提督は話題を変えた。
先程、ボディチェックと一緒に精密検査をしたんだった。
「あ、はい。怪我の方も異常は………」
「こちらの検査でも人間という結果でしたし。こちらも一安心です。」
しかし、シーブック達には不可解な点がいくつもある。
宇宙空間以外の空間。
このような少年のいる部隊。
なにより今のリンディ提督の『人間という結果』という発言。
まるで人間以外がいるとでも言うかのようだ。
そこで、
「……リンディさん………」
「何かしら?」
「ここは………どこなんですか?」

頂いたお茶をすすりながら理解を深める。
「時空管理局……魔導師………俄かには信じがたい話ですね。」
「でも事実なのよ。」
リンディ提督は自分のコップに角砂糖とミルクを注ぎながら答える。
「別に話を信じないわけではありませんよ。あんな空間を見てしまったんですから。」
「確かにそうかもしれないわね……」
そういってお茶を啜る。
「……美味しいんですか?」
「ん?」
ついつい出てしまった言葉。
「ああ、これ?飲んでみる?」
内心興味本意で聞いてしまった。
別にまずいものでも、と視線を目の前にやると、犠牲者を増やすまいと無言で必死に訴えてくるクロノの姿。
さらには自分の直感までもが警告をだす。
「ま…また今度いただきます………」
「あらそう?」

後にクロノから教えられた事だが、別名『リンディ茶』と呼ばれ、殺人級の甘ったるさとか………

「……つまり僕たちは、次元遭難者、という訳ですね………」
「なんとなくわかりました」
「そういうことになるわね。」
あれからさらに話を進め、自分がどのような状況かがわかった。
「…だけど時空管理局は、あなたのもといた世界に送り返すために全力を尽くします。」
「ありがとうございます。可能なかぎり協力を惜しまないつもりです。」
そう、もとの世界に帰ってスペースアークのみんなと合流………
そう内心決意を決めた。
「そう、ありがとう。……じゃ早速だけど貴方の世界について………教えてもらえるかしら?」
「……世界…ですか………?」
「断片的で構わないが、惑星の名前、世界の地域の名称、あと年号を言ってくれれば僕らが探そう。」
クロノも段々と協力的になってきたようだ。
「わかった。」
そういって思い出しながら言葉にする。
「…星の名前は『地球』……大陸はユーラシア、アフリカ、アジア、北と南アメリカだ………」
「「!?」」
大体の事を語った。
しかし彼等は『地球』という単語に反応していたため、彼等は知っていると確信した。
しかし、
「年号はU.C.0123年、宇宙世紀0123です。シャアの反乱から30年後の世界」
すぐにでも帰れる。
そう思えたのだが、それとは裏腹に意外な答えが帰ってきた。
「宇宙世紀……一体どこの世界だ?」
「……何です?」
以外だ。
地球を知っていて宇宙世紀を知らないなんて………
「……確かに地球は知っているわ………」

「じゃあ貴方達も知ってるでしょ!?数日前にフロンティアⅣがクロスボーン・バンガードと言う宇宙海賊に襲撃されたことを!?」
「…クロスボーン・バンガード?宇宙海賊?」
「そこの地球連邦軍本部が消滅したことぐらいは地球を知っているならわかるはずだ!」
「…………」
そこまでいったが、リンディ提督は思考にふけり、クロノにいたっては疑問に思って頭を傾げるだけである。
さらにクロノは、「…おかしいな……」とつぶやく始末。
「……一体何がおかしいんだ?こっちはクロスボーン・バンガードの全艦隊が地球に来ても十分おかしいのに………」
「いや……僕が地球にいたときはそんな事は全くなかったんだが………」
……………
何?地球にいた?
突然の発言に思考が止まる。
「……その前に、フロンティアⅣとはなんだ?地球連邦軍なんて聞いたことも………」
「……やっぱり………ね」
その会話にリンディ提督は結論を出した。
「……シーブック君達がいた地球と私たちがいた地球は、別の次元の地球のようね………」
「……別の次元?」
そう聞き返すとリンディ提督はこう答えた。

「……パラレルワールドよ………」

パラレルワールドとは、
現実世界と似て非なる世界。
平行世界の事である。
「実際話だけは聞いたことはあるが……まさか………」
シーブックは驚きの表情で答えた。
確かに合点がいくし、魔法なるものが存在しているのだからあってもおかしくはないだろう。
「原因は私たちの発射した魔導砲アルカンシェルと、貴方側の世界で起きた何か………」
「……おそらくザビーネ・シャルの駆るベルガ・ギロスとの鍔迫り合いによる爆発的なエネルギーだ………」
その鍔迫り合いは互いの出力の許容範囲内を超えたので、相当なエネルギーだろう。
「じゃあそれが原因で………」
クロノは驚き悩む。
実はさらに偶然が重なっていた。
そのアルカンシェル発射時と鍔迫り合いが発生した場所がほぼ同じであった。
つまりアルカンシェルが着弾、闇の書の闇が消滅した場所がシーブックのいた場所だったのだ。
「……だけどパラレルワールドなら時空管理局の力で………」
クロノは返すことは出来るんではとリンディ提督にいうが、
「……………」
言葉を返さない。
おそらく、いや確実に、
「……不可能よ………」
予感は的中した。
「いくら管理局でもパラレルワールドは未だに未知の領域……シーブック君達には悪いのだけど………」
だがシーブック達は、
「既に覚悟の上ですよ。」
「私も同意見です」
と答えた。
だがこの発言と同時にリンディ提督の目が光った気がした。

あれから数十分。
シーブック達は自分の世界の事を語った。
自分の世界の戦争
MS(モビルスーツ)
ニュータイプ
コスモバビロニア建国戦争
クロスボーン・バンガード
フォーミュラ計画
そして無謀にも鍔迫り合いをしたことで
「……既に帰るところは無くなったから、既に思い出話ですかね?」
実際は語り終わったところである。
自嘲気味に笑うシーブックに対してリンディは今だとばかりにシーブック達を誘った。
「だったら時空管理局に入らない?」
突然の勧誘。
だが既に答えを返していた。
「無理ですよ。第一僕たちの機体は貴方達管理局の言うところの質量兵器ですよ?」
「いいのいいの!あれは次元振の時の流れ物だってごまかせば!それに貴方には……」
そんな無茶苦茶な話を遮り、さらにいう。
「第二に、ニュータイプとはいっても魔導師ではありませんから戦うことは………」
だがこんどは彼が遮られた。
「実はさっきの精密検査でわかったことなんですけどね………」
「………?」
その言葉は以外だった。

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