第04話【星と雷と翼】

Last-modified: 2009-10-12 (月) 14:49:32

自分のことが怖い。
それにはちょっとしたわけがある。
かつて、自分の故郷の長老が言った言葉が蘇る。

「強すぎる力は、災いと争いしか生まぬ…」

幼いながらも、長老が何を言わんとしているか、なんとなく理解できた。
自分が異端であり、そして、この里にいてはいけないのだ…と。

竜召喚は危険な力…。人を傷付ける怖い…力…。

自分の手を見つめてみると、血糊がべっとりとついているように見え、ハッと息を飲む。
悲鳴をあげそうになるが、もう一度自分の掌をよく見てみると血なんてついてはいなかった。
「…大丈夫?キャロちゃん?」
そんなキャロの様子をみていたメイは不振に思い、キャロに小声で話しかけるが
「…はい。…大丈夫です」
キャロは無理に平静を装って、そう答えた。

ところで今、フォワード陣六名はヘリの中にいる。
バラバラバラバラと響く、プロペラの音がうるさいが、誰もそんなことは気にしない。
今は自分達に与えられた任務が最優先だ。
そこへ、先程なのはに、正確には全員に通信が入った。
本来の目的はロストロギア輸送中の列車内にいるガジェットドローンの破壊。
そして、列車のコントロールの奪還、レリックの確保なのだが、先程入った通信によると、どうやら空にもガジェットが現れているようだ。
「凄い数だね。ヴァイス君、私も出るよ!フェイト隊長、それから、ヤマトとメイで空は押さえる」
ストーム・レイダーのパイロット、ヴァイスは振り向き、親指をたてる。
「うす、なのはさん。お願いします」
ヴァイスはメインハッチを開けた。
「じゃあ、ちょっと出てくるけど、みんなもズバッとやっつけちゃおう!」
一同は返事をし、
「それから、ヤマトとメイは私とフェイト隊長と空を押さえます。
ティアとスバルを援護しながら来て、メイはエリオとキャロを頼んだよ?」
「「わかりました。」」
それから、なのはは先ほどから不安気な表情をしているキャロに向き直る。
「キャロ、大丈夫…そんなに緊張しなくても」
歩み寄って、そっとキャロの頬に手を添えるなのは。
「離れてても、みんな通信で繋がってる。一人じゃないから…ピンチの時は助け会えるし、キャロの魔法はみんなを守ってあげられる。優しくて強い力なんだから…ねっ?」

「ライトニング1、フェイト・テスタロッサ・ハラオウン、行きます!」
現地から飛翔を開始するフェイト。
そしてヘリから飛び下りるなのは。空中でバリアジャケットを装着。
淡い桜色の光を突き破り
「スターズ1、高町なのは、行きます!」
声とともに、敵陣にむかって一気に加速した。

「任務は二つ、ガジェットを暴走させずに全機破壊すること。そしてレリックを安全に確保すること。」
リィンがモニターを開くと列車の見とり図が出てくる。
「ですから、スターズ分隊とライトニング分隊と二人ずつのコンビでがジェットを破壊しながら、前後から列車の中央に向かうです。レリックは七両目の重要貨物室。
スターズかライトニング、先に到達したほうがレリックを確保するですよ。…で」
言葉を切り、バリアジャケットに身を包むリィンフォース。
「私も降りて、現場を指揮するです」

『こっちの空域は私となのはで押さえる。ヤマト、メイ、援護しながらの降下、頼むよ!』

「さぁて、新人ども、降下ポイントに到着だ。準備はいいか?」
『はい』
「スターズ3、スバル・ナカジマ」
「スターズ4、ティアナ・ランスター」
「スターズ5、一条寺ヤマト。追加オプションでハイパーメガランチャーに変形できてその状態で魔力刃の発生が出来るハイパーメガサーベルフォルムのテストだ」
「「「行きます!!」」」
「現地まで送るから掴まっててくれよ!」
三人をそれぞれの魔力光が覆う。ヤマトは二人の腕を掴み、安全に列車の上に送り届けると、翼を開き、魔力を噴射しながら、なのはとフェイトの防衛網を抜けてきたガジェットを破壊する。

「次!ライトニング!チビども、気ぃつけてな!」
『はい』

「うわぁ、高いねぇ…」
メイはメインハッチから下を覗きこみながら言う。キャロが物凄く不安そうな顔をしているので、みかねたエリオが声をかけた。
「一緒に降りようか?」
「えっ?」
びっくりしてキャロがエリオへと振り向くと、微笑みながら手を差し出していた。
「うん!」
手を繋ぎ、
「ライトニング3、エリオ・モンディアル。」
「ライトニング4、キャロ・ル・ルシエとフリードリヒ!」
「「行きます!!」」

その掛け声とともに二人は飛び下りた。
「ライトニング5、一条寺メイ、出ます!」
そのすぐあとをメイが追い、二人を抱えて、列車の後部車両まで飛び、二人を降ろすと、計二枚枚の真紅の翼を勢いよく広げ、飛び立った。

スターズ分隊のバリアジャケットは、なのはの着ているバリアジャケットをベースにデザインされている。
ヤマトのバリアジャケットも、青のインナーに目と同じパールミラーコーティングが施されたライトブルーの鎧風ウェア、黒のズボン。
それから白に青のラインが入った羽織着に、腰部から膝したまで延びる同系色の装飾着に変わっていた。
ライトニング分隊のメイも同様に、バリアジャケットが変化している。
一番の特徴はフェイトと同じ、ジャケットがマント風になっている。
赤のインナーにパールミラーコーティングが施された少しピンク色のシャツ、そして黒のスカートに亜鉛色に銀の装飾がされたブーツに変わっている。
「これって?なのはさんの…」
スバルが何だか感激している。
しかし、感激しているばあいではない。
列車内に潜伏しているガジェットが動き出した。
「スバル!感動はあと、今は任務に集中!」
ティアナの叱咤に気を引き締めガジェットを迎え撃つスバル。
「行くよ!マッハキャリバー!!」
『Yes!』
返事と同時に回転を始めるマッハキャリバー。前に使っていたローラーとは比べ物にならないほどのスピード、グリップ、安定感をスバルは感じた。
新調されたデバイスで一機、二機とガジェットを豪快に破壊して行く。
スバルが前衛で派手に暴れている間に、ティアナは七両目の重要貨物室へと向かっていた。
ガジェットが現れ、AMFを展開するも、
「バリアブルシュート!」
一度トリガーを引けば、あれだけ撃つのに時間がかかっていた多重弾膜射撃も容易く撃てる。
ガジェットを難無く撃破。
「クロスミラージュ、あんたって実は、かなり優秀?」
ティアナは驚いて自分のデバイスに声をかける。
『迷惑でしたか?』
ティアナが首を振る。
「ううん、でもあんたがあんまり優秀だと私の為にならないと思ってね。」
そう言いつつ、軽い足取りで次の車両へと向かうティアナであった。

一方、空。

なのはとフェイトはガジェットⅡ型のあまりの多さに猫の手も借りたいほどの忙しさに見舞われていた。
なのはとフェイト、二人だけでは押さえきれていないのだ。
こういうときにリミッターを不便だと思う。
『ハイパーメガランチャー・5WAYショット』
二人の防衛網を抜き、列車へ向かおうとしていたガジェットを前方5方向から来た高出力の魔力弾でAMFを貫通し、いくつかのガジェット破壊。
「ヤマト、ありがとう。ナイスフォローだよ」
「何とか間に合ったね」
「それじゃあ、行くよ?ついてこれる?」
フェイトがヤマトに微笑みかける。
つまり、フェイトはヤマトになのはと自分の動きに合わせられるかと聞いているのだ。
「高機動戦ならおまかせあれ。得意分野さ」
ヤマトは覇気を込めそういった。

「数が多すぎるなぁ~。」
そう呟きながらアクセルシューターを放つなのは。正直、これだけの数がいると…。
「やっぱり…。」
ごくたまに砲撃を避けてくるのがでて来る。
爆煙から姿を現すガジェットⅡ型。
刹那、いくつかの小型機動兵器が魔力刃を発生させ、貫通し、ガジェットは破壊した。
「差し詰め、ドラグーンファングかスパイクでも呼ぶかな」
「さすがだね、あんな遠くから…」
さして驚きもせず、なのはが魔力弾が飛来した方向に視線を向けると、鮮やかな緑色の光が瞬き、近付いてくる。
「すみません、遅くなっちゃった」
メイはなのはの側まで来て停止した。
「ううん、いいよ。それより、ここを何とか押さえるよ。列車へはなるだけ近付けないようにしたいから…」
「了解!」
「メイ、ヤマト、フェイトちゃん。四方向に散って!なんとしても押さえるよ!」
了解!なのはの言葉に三人が答える。四色の光が激しく動き回り、爆煙が舞い上がる。

フェイトはヤマトとメイが戦闘に参加してくれたため、余裕を持ってガジェットの相手をすることができるようになった。
なのでフェイトはヤマトを気にしながら戦う。
実際、ヤマトの戦いを見ればみるほど空戦Aという評価は正しいのか疑問となってくる。
回避は華麗だし動きは早いし、射撃もほぼ正確。援護も唯一の砲撃魔法は大威力のわりに魔力消費が少ない。
フェイトは、口元に笑みを浮かべ、ヤマトを信頼し、自分の戦闘に集中する。
ヤマトなら大丈夫だ。

『ライトニング3、4、新型ガジェットと交戦中!』
全員に入る通信。

「メイ!」
フェイトが名前を呼ぶ。
「メイは、キャロとエリオを援護してあげて…。新型はまだあの二人には…。」
新型ガジェット三型、データはほとんどない。
本当ならフェイトかなのはのどちらかが行けばいいのだが…、こっちも手一杯なのだ。
列車付近まで追い詰められている。
「私とフェイトちゃんが抜けるわけにはいかない。メイ、何とかできない?」
と、なのは。
「わかりました…、ファフニール!」
『グリフォンハイスピード』
超高速で2人の元へ駆けつけるメイ。
空はなのはとフェイトがメイの担当を半分ずつ負担。ヤマトもなるだけ加勢する。
「メイ、頑張れよ!」
ヤマトが聞こえないと知っていながらエールを送る。
列車後部。
エリオは新型ガジェット攻撃を受け、気絶している間にアームに捕まれ、締め付けられていた。
パートナーのキャロは何とかしてエリオを助けてあげようとしているのだが、広範囲にAMFが張られているため魔法が使えない。
エリオの悲痛な声が聞こえる。
キャロは戸惑う。

『ドラグーンファング』
緑色の粒子を撒き散らしながら動く小型無人機動兵器。AMFをいとも簡単に突き破ってアームを破壊する。

「メイさん!!…ッ!?」
緊張を綻ばせたキャロの顔が引きつる。
メイもその意味に気付いた。
『ドラグーンバリア』
ドラグーン5基をメイの周囲に展開させ、ピラミッド型の障壁を作る。ドラグーンを避けたガジェット二機か三機、バルカン砲を連射しながらこちらへ吶喊(とっかん)してくる。
一機が障壁にぶつかり、爆発。
メイが後退。
上から見たヤマトは
「ドラグーンとて無限じゃないんだ!あと一回捨て身をしたら障壁が破れる!サーチャージまでどれだけ時間がかかると思う」
二機目が障壁にぶつかり爆発。
さらにメイが後退する。
「ドラグーンが…」
メイに異変が起きる。覆っていたドラグーンの障壁は消失、使用した五基は破壊された。
飛翔魔法が維持できない。ガジェットの触手が伸び、メイに巻き付く。
「こ、こんな…これは…。」
焦る。AMF圏内では魔法が使えない。つまり、メイを守るのはバリアジャケットのみ。
ヤマトもなのはもフェイトも異常に気付く。
「メイ!くそ…」
ヤマトがハイパーメガランチャーの発射体勢に入った。しかし、フェイトに制される。
尚もメイに零距離射撃を浴びせる二型。
「きゃぁぁぁー!!」
「一体どうすれば…」
もがくメイ。締め付ける触手。そして、ガジェットは轟音をたて自爆した。
飛び散る破片、立ち上る爆煙。
アームから解放されたエリオが、爆煙からメイが遥か下の地へとまっ逆さまに落ちて行く。
キャロはその光景を目の前に時間が止まったような感覚に襲われた。
『確に…素晴らしい能力を持ってはいるんですが…。制御がろくに出来ないんですよ。』
一人の男が言った。
『竜召喚だって、この子を守ろうとする竜が勝手に暴れまわるだけで…。
とてもじゃないけど…まともな部隊でなんて、働けませんよ。
精々、単独で殲滅戦に放り込むぐらいしか…。』
今まで、散々言われてきた言葉。
だから、私は力を使うことを恐れてきた。
使えば誰かが傷付き、そしてやっと得た仲間と呼べる繋がりが切れてしまうのではないか、それが不安だった。
『私はどこへ行けばいいんでしょう?』
『それは、キャロが何処に行きたくて、何をしたいかによるよ?』
自分をフェイトが引き取ると言った時に聞いて、フェイトが答えてくれた言葉が頭をよぎる。
――私は今、何がしたいのか?
答えは決まってる。
「エリオく~ん!!メイさ~ん!!」

高高度に臆することなく、キャロは列車から飛び下りた。

(守りたい。
優しい人、私に笑いかけてくれる人達を…自分の力で…守りたい!)

メイはAMF効果範囲から遠ざかったため、飛翔魔法が回復する。
背中の真紅の魔力翼も輝きを取り戻し、受けたダメージのショックで閉じていた目を開いた。
エリオの手を掴み、メイへと手をさし伸ばしているキャロの姿が開目一番に飛込んできた。
「私は大丈夫だから…、エリオ君を!!」

メイの言葉にうなずくキャロ。その刹那に、キャロとエリオは淡い桃色の閃光に包まれる。

「フリード、不自由させてごめんね…。私、ちゃんと制御するから…。」
エリオはキャロの腕の中で意識を取り戻す。
キャロは傍らを羽ばたくちび竜にそう語りかけ、
「行くよ!竜魂召喚!!」
桃色の閃光はさらに輝きをまし、そしてその中心で、キャロは召喚魔法陣を形成する。
「蒼久を走る白き閃光!我が翼となり、天を駆けよ!」
魔法陣から現れる巨大な純白の翼。
「来よ、我が竜、フリードリヒ!竜魂召喚!!!」
言い切るが早いか、桃色の閃光を純白の翼が突き破り、姿を見せたのは巨大な白竜。
力を持て余すフリードは猛き咆孔をあげる。
『フリードの意識レベルブルー!召喚、成功です!』召喚魔法が成功したとの通信が全員に届いた。

召喚成功にホッとしたのも束の間、ガジェット三型が器用にアームを使い、その重い機体を動かす。
「フリード!ブラストレイ!!」
足元に展開される環状魔法陣。
白竜、フリードは主人とエリオを背に乗せたまま、巨大な口を開く。
ケリュケイオンから供給される魔力が、フリードの鼻先に収束し、すさまじい熱量を持つ火炎弾へと変化する。
「ファイア!!」
キャロの合図で火炎の奔流を吐き出すフリード。
放たれた奔流はガジェットに直撃。
しかし、AMF、さらに防御フィールドを展開しているため、破壊には至らない。
「やっぱり…、堅い。」
ある程度、予想はしていたが、キャロはどうしようかと考える。
「あの装甲形状は砲撃じゃ抜きずらいよ。
僕とストラーダがやる。」
すっかり回復したエリオがストラーダを構えた。
キャロは頷き、詠唱を始めた。
「我が魂は、聖銀の剣。
若き早騎士の刃に祝福の光を!
猛きその身に力を与える祈りの光を!」
『ブーストアップ・ストライクパワー!!』
両腕を左右に大きく広げるキャロ。
「行くよ!エリオ君!!」
フリードの首部に立つエリオは頷き、答える。
「了解!キャロ!!」
「ツインブースト!スラッシュ&ストライク!!」
二つの魔力の塊が、キャロからストラーダへと注ぎこまれ、エリオはそのままガジェットに向かい、突攻を試みる。
エリオに向かい来るアームと触手、それを撃退しようと身構えた時、
「エリオ君!!!そのまま行って!」

『ドラグーン&フォルティスバースト』
背後のグリフォンを隔離・展開させ発射態勢になる。そしてドラグーン全基、グリフォンの周囲を囲むように展開し、一斉掃射。多数そして連射する魔力弾がアームを破壊する。
爆煙に紛れて、ガジェットの間合いに入り込むエリオ。
「一閃必中!!」
掛け声とともに展開される金色のヴェルカ式魔法陣。エリオは稲妻を体に纏い、地を蹴った。
同時、ストラーダから噴射されるバックファイアで最速の突きを放つ。
ガジェット三型は機体中心をストラーダに貫かれ、エリオにそのまま切り上げられ、爆発した。

『車両内、及び上空のガジェット反応、全て消滅。』『スターズF、レリックを確保。列車のコントロールの奪還も成功した模様。』
教会から管理局に戻ってきたはやてに次々と報告される朗報にはやてはホッと一息を着く。
『ライトニング5を覗き、他八名は負傷なし。
ライトニング5はバリアジャケットを損傷していますが、軽傷です』
「メイの奴め、無茶しやがって…でもお前たちのチームが大活躍だ」
こうして、機動六課最初の任務は幕を閉じた。

『刻印ナンバー9護送体制に入りました』
とある場所、男は大きなモニターの前で、機動六課の現場活動を監視していた。サブモニターから若い金髪の女性からの通信が入っている。
「ふむ…。」
興味なさそうな返事を鼻で返す男。しかし、場所のせいなのか、大きな返答でもないのに男の声は妙に反響する。
『追撃勢力をおくりますか?』
「やめておこう」
男は一拍開けてから、視線を女に向け続ける。
「レリックは惜しいが、彼女たちのデータがとれただけでも十分さ」
フォワード陣三名の顔を写す。
「それにしても…、この案件はやはり素晴らしい。

なのは、キャロ、スバル。「私の研究にとって、興味深い素材が揃っている上に…。…ふっ」
男は口の片端をつり上げた
「この子たちよ、生きて動いているプロジェクトFのざんしを手に入れらるチャンスがあるのだからね…。そう、焦る必要もない」施設内に男の笑う声が響いた。

全員はレリック護送を成功し、管理局の食堂ホール内にてフォワード陣と隊長とはやてともに楽しい談話の夕食だった。

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