第07話【正義を貫く剣】

Last-modified: 2009-09-06 (日) 14:58:56

シャマルが恐れていた事態が起こってしまった。
前回のお見舞いのときは事前にすずかから連絡があったため、自分達から監理局の彼女らとの遭遇を避けることが出来たのだが…、
「サプライズ プレゼントぉ~!」
すずかとアリサがはやてを驚かす為に連絡を入れず、来てしまったのだ。
「わぁ、ありがとう。アリサちゃん、すずかちゃん。」
顔が引きつっているシグナムとシャマル、そして、ヴィータはなのはとフェイトを睨んでいた。
それに対して、はやては満面の笑みを浮かべ
「わぁ、ありがとう。すずかちゃん、アリサちゃん」と喜んでいる。
「あの…そんなに睨まないで…」
ヴィータの睨みに耐えきれなくなったなのはがぽそりと言う。
「別に睨んでねぇです。元々こういう目なんです。」
「こら!ヴィータ、嘘言うたらあかん!そんな悪いこはこうやで!」
とヴィータの鼻をつまむ。「いでででで、はやて、痛い!」
ヴィータやシグナム、シャマルたちが主であるはやてを思う気持がなのはに、フェイトに伝わってくる。
そして、なのはとフェイトは彼ら三人に闇の書のプログラムが改悪されていることを、今の状態で闇の書を完成させてはいけないことを伝えなければならない。なのはとフェイトはそう決めた。別に二人が念話を使ったわけではない。
今は使いたくても使えない。シャマルがなのはとフェイトの念話回線を遮断している。
けれど、なのはとフェイトの思いは最初から同じだった。

ヤマトは何をするでもなく、アースラ内部の食堂で食べていた食事の残ったじゃが芋をつつきながらメイと話したことについて考えていた。
俺は、自分の甘さが彼女、エステルを殺してしまうきっかけを作った。でも、いつのまにか彼女が仇討ちである奴が殺したことになっていて…、きっと、自分で自分自身と同じような境遇の者たちを作ってしまったに違いない。
そう考えると気分が落ち込んだ。
エステルを、みんなを…守りたい。
でも、…だけど、自分がそうしようとする度に、犠牲が出た。
ヤマトはコップに残った水を一気に飲み干す。そして考えを切り替えた。
彼女の面影に捕われたままでは駄目だ。前に、未来に向かって歩き出さないと駄目だ。最後のじゃが芋を口の中に放り込み、飲み込んで立ち上がった。
そして、アースラ内部に警報がなり響いた。

メイは警報の音に目を覚ました。
「…これは…。まさか…。」何が起こっているのかは分からないが、胸騒ぎがした。嫌な感じが、メイの背筋を駆け抜ける。
「闇の書が…、完成したの?」
メイはベッドから抜け出て立ち上がり、自分のポケットを探る。
「…そうか…、ジャスティスは…。」
もう、手元にはなかった。自分には何も出来ない。
それに、シグナム達と戦うなんて事は自分には出来ない、何より、会ってどんな顔をすればいいのか、メイにはわからなかった。

とあるビル、屋上。
フェイトはクロノからの情報をシグナムにそのまま話した。
「闇の書は悪意ある改変を受けて壊れてしまってる。今の状態で完成させたら、はやては…。」
シグナムはフェイトにレヴァンティンをつきつけた。「我々はある意味で闇の書の一部だ。」

「だから私たちは闇の書の事を一番知ってる!!」
『フランメ・シュラーク』問答無用のヴィータの一閃がなのはを襲い、障壁ごと吹き飛ばす。
しかし、なのははとっさにレイジングハートを起動させ、ダメージを軽減する。フランメ・シュラークの火炎属性によって、炎が立ち上る。なのはは炎の中から姿を現し、レイジングハートをヴィータに向けて構えた。
「だったら、なんで本当の名前で呼んであげないの?!なんで闇の書なんて呼ぶの?!」
「ほ…んとうの、名前?」
ヴィータの動きが止まった。

シグナムも、フェイトに対しての攻撃を開始する。
シグナムの跳躍しての縦一閃をバックステップで回避するフェイト。
バルディッシュを起動させる。
『バリアジャケット・ソニックフォーム』
「薄い装甲をさらに薄くしたか?」
『ハーケン』
カートリッジを消費し、バルディッシュがハーケンセイバーを作り出す。
「そのぶん、早く動けます。」
「緩い攻撃でも、当たれば死ぬぞ…。正気か?テスタロッサ…。」
「……あなたに勝つためです。強い、あなたに勝つためにはこれしかないと思ったから…」
「…ぐっ…。こんな、出会いをしていなければ、お前と私は、一体どれ程の友になれただろうか…。」
「まだ…間に合います!」
「止まれん…。我等、守護騎士…。主の笑顔のためならば…、騎士の誇りさえ捨てると決めた…。」
シグナムの頬を涙が伝う。「…もう…、止まれんのだ!」
「止めます!私とバルディッシュが…。」
『イエッサー』
主の気持を察してか、バルディッシュも同意した。

「リンディ艦長!」
ヤマトは食堂からブリッジまで大急ぎでやってきていた。
「ヤマト君、ちょうどいいところに来てくれたわね。」エイミィがせわしく空間モニターのキーを叩いている。
「駄目です。やっぱり、繋がりません。」
「なんなんですか?一体…。」
リンディは各局員に指示を出したあと、ヤマトに向き直って、状況を説明した。
「フェイトさんとなのはさんに通信が繋がらないのよ。闇の書が完成したときの対策の打ち合わせをしようと思ったんだけど…。
ちょっと心配だから、見て来てもらえないかしら?」
「はい、別にいいですよ。2人が心配だ…」「じゃあ、転送ゲートに向かってもらえる?クロノもあとで向かわせるから。」
「分かりました。」
ヤマトがブリッジから出ていこうと、リンディに背をむけたとき、
「ヤマト君!」
はいっ?と振り向くヤマト。「くれぐれも、無理はしないようにね。」
ヤマトは驚いたような表情をし、そして
「はいっ!!」
と、一声。ブリッジからでると駆け出した。

あっという間だった。
仮面の男が再び現れ、なのはを四重のバインドで拘束。フェイトはそれに対してすぐに反撃を開始。
だが、もう一人仮面の男が突如として現れ、フェイトを攻撃、なのはと同じく四重のバインドによって拘束された。
それだけでは終わらず、シグナム、シャマル、ヴィータも同じように拘束。
そして、リンカーコアを摘出、いつの間にか奪われていた闇の書に蒐集されてしまった。
後、駆け付けたザフィーラも闇の書に蒐集された。
シグナム達はプログラムであって、人ではない。故に、彼らは魔力で創られた存在であり、実体を形成するコアを奪われてしまえば、体は消えてしまう。
屋上に、シャマルとシグナムの服だけをのこし、ヴィータだけは、十字架に磔られたかのように、空中に制止させておく。
ザフィーラはヴィータの足下に転がしておく。
そして、二人の仮面の男は、なのはとフェイトに変身し、病院にいるはやてを空間転移で屋上に召喚した。

はやては胸騒ぎを感じ、目を覚ました。
辺りはまだくらい。
時間は、辺りを見回してみたが、暗くて確認できなかった。
体を起こした瞬間、胸の辺りに激しい痛みが襲う。
そして、一瞬体が宙に浮いたような感覚に襲われ、視界が真っ暗になり、気が付いたときには、どこかの屋上にいた。

目に入ったのは、宙に磔られているヴィータ、地に伏しているザフィーラ。
そして、自分のみしっているなのはとフェイトだった。
「…なのはちゃ…、フェイトちゃん?何なん、これ…。」
はやては事態を飲み込めず、なのはとフェイトに問掛ける。
「君は病気なんだよ…。」
なんだかいつもとは違い、暗い雰囲気のなのはが言う。
「闇の書の呪いって病気。」何でなのはが闇の書の事を知っているのだろうか?
闇の書の呪いって…何?
「もうね…治らないんだ。」フェイトがなのはに続いて口を開く。
「…え…ぇ?」
はやては分からない。何で?病気が治らないのは薄々気が付いていた。けれど、何故、なのはとフェイトがそこまで…?
なのはとフェイト、二人の顔を交互に、不安そうに見るはやて。
「闇の書が完成しても…、助からない。」
なのはが言う。
「君が救われることは…ないんだ。」
フェイトが言う。
闇の書の完成?自分は騎士達に命じてはいない。何故?何で、なのはとフェイトが自分にこんなことを…?はやては胸の痛みをこらえながら言った。
「そんなん…、えぇねん…。ヴィータを離して…、ザフィーラに何したん?」
空中に磔られているヴィータ、地に伏しているザフィーラに彼女等が何をしたのか。
自分の体よりも、はやてはそっちの方が心配だった。「この子達ね、もう壊れちゃってるの…。私たちがこうする前から…。」
なのはは言う。
「とっくの昔に壊された闇の書の機能を、まだ使えると思い込んで、無駄な努力を続けてたんだ。」
フェイトは言う。
「無駄ってなんや!!シグナムは…シャマルは?」
はやては、意味が分からず、残りの騎士達を気にかける。
フェイトが顎で方向を指した。はやては、恐る恐る振り向き、そして…、シグナムとシャマルを確認する。服だけが、そこにはあった。
悪い予感が頭を駆け巡る。信じたくない。認めたくない。夢であってほしい。現実であるはずがない。
「壊れた機械は役に立たないよね?」
なのはは言う。
「だから、壊しちゃおう。」フェイトは言う。
二人は手に持っているカードを構えた。
「や!やめ…やめてぇえ!!」はやてのそんな悲痛な叫びもなのはとフェイトは聞こえていないかのように口の端をわずかにあげ、笑った。

「やめてほしかったら…。」「力ずくで…どうぞ…。」
なのはとフェイトがさらにカードの構えを変えながら言う。
はやての目から涙がこぼれる。何で、自分ばかり?何で、こんな思いを?
私の騎士達を!家族を苦しめないで!!
「何で…!…ひっく…なんでやねん!!
何でこんなん…!!!!」
はやては自分の下半身を引きずり、なのはとフェイトへと這っていく。
やめて!やめて!!やめて!!!ヴィータへと手を伸ばす。「ねぇっ、はやてちゃん…」なのはは言う。
「運命って残酷なんだよ?」フェイトは言う。
そしてカードが発光し、その輝きがましていく。
「ダメ!!やめてぇ…!やめてぇぇええ!!」
カードが一度強く発光し、その輝きを失った。
同時に、はやての胸の痛みが増す。

「ぅわぁ…ぁぁっ……ぁぅ」ドクンッ
脈打つ何か。何度か経験したこの感覚。そして、騎士を失ってしまったことで、絶望が、悲しみが、憎悪がはやてを支配する。
「うっく…ひっく……っく、ぐっ…うぅ…っく…。」展開される白く光る魔法陣。中心の円を囲む三つの円から三角型に形成される。そして…、闇の書がはやての前に現れる。
『グーテンモルゲン、マイスター』
闇の書が覚醒を向かえる。純白の魔法陣を陰が覆い、深く、濃い黒色。例えるなら、それは今のはやての胸中。
絶望の色。悲しみの色。憎悪の色。全てが混ざりあって出来た混沌の色。
そして、四重のバインドの後、クリスタルケージによって閉じ込められていたなのはとフェイトは、ようやく、脱出することができ、はやてのもとへと向かおうとする。
すでに、自分達の偽物はいない。
はやてはうつ向いている。鳴咽を漏らし、涙が地を濡らす。
やがてそれは、
「うわぁぁぁぁぁぁぁぁあああああああ!!!!」
絶望、悲しみ、憎悪の咆哮へと変わった。
辺りに響き、空高く声は舞い上がり、沈黙が訪れる。突如として爆発が起こり、暗い紫色の光が空を一直線に伸び、その光の中に、はやては取り込まれた。
「我は闇の書の主なり…。この手に力を…。」
はやての手の中に闇の書が握られる。
「封印…解放…。」
抑揚のない声で、闇の書の主、八神はやては命じた。『解放』
黒い電撃を走らせ、その中ではやての骨格がメキメキと音を立てて変わっていく。
髪の色が灰色に変わり、顔や腕に赤いラインが複数入る。両足、片腕をベルトが巻かれ、金のラインがはいった漆黒の騎士服を纏い、背には六枚の漆黒の翼。
そして赤い眼は、光を失っていた。

「なのは!フェイト!!」声に振り向くと、ヤマトが二人のもとへと向かってきていた。
「何なんだ、これは!?禍々しい物の怪だ…」
まがまがしい光を放つ、一人の女を見下ろし、ヤマトは目を疑った。
「闇の書が…はやてちゃんが…」
なのはは言葉に詰まる。
その先は言わなくても分かる。つまりは闇の書が完成したと言うこと。
「また…すべてが終わってしまう…。一体、幾度こんな悲しみを繰り返せばいいのか…。」
天を仰ぎ、涙を流す一人の女。
「はやてちゃん!!!」
「はやて!!」
なのはとフェイトがはやての名前を叫ぶが、女はそれを否定した。
「我は闇の書…。我が力の全ては…」
右腕を空に向かって闇の書は伸ばす。
『ディアボリック・エミッション』
掌に闇ができ、それは拡大していく。
「主の思いなりの…そのままに…。」

「よし、結界ははれた…デュランダルの準備は?」
「…出来ている。」
仮面の男、二人はヤマトたちからある程度距離をとって、様子を闇の書の様子をうかがっていた。

闇の書の掌の上にできた、巨大な闇の塊が圧縮され、見る見るうちに小さくなっていく。
「闇に…そまれ…。」
小さな闇の塊が破裂し、膨大な闇が溢れ出す。
広範囲の空間攻撃。
フェイトはヤマトの腕を引っ張ってなのはの背後にまわり、なのははレイジングハートの力をかりてラウンドシールドを展開する。
すさまじい衝撃が、負担がなのはの腕にかかる。
尚も広がり続ける闇。
そんな光景をみていた仮面の男は
「もつかな?あの三人…。」「暴走開始の瞬間まではもってほしいな。あいつが来るのは計算外だったが、二人よりも三人のほうがもつだろう?好都合だ。」
刹那、二人の男の体がバインドによって拘束される。「ストラグルバインド」
男二人は、突然の声に反応し、声のした方を見る。
時空管理局執務管、クロノ・ハラオウンだった。
「相手を拘束しつつ、強化魔法を無効化する。あまり使いどころのない魔法だけど…、こういうときには役に立つ。」
二人の男は苦しみ出す。
「変身魔法も強制的に解除するからね。」
うめき声を上げ、そして…姿が変わり、仮面が取れ、その正体はリーゼ姉妹だった。

空間攻撃から逃れたなのは、フェイト、ヤマトは闇の書から距離をとり、近くの建物の陰に身を潜めていた。なのはは手に相当な負担がかかったのか、痛みを堪えていた。
「なのは、ごめん。ありがとう。大丈夫?」
「感謝する、なのは大丈夫か?」
「う…うん…大丈夫。」
まだ、痛みに顔を歪ませているが、大丈夫のようだ。「あの子、広域攻撃型だね。避けるのは難しいかな…。バルディッシュ…。」
『Yes, sir. バリアジャケット ライトニングフォーム』
フェイトのバリアジャケットが形態を変える。
ちょうど、そのとき、ユーノとアルフがこちらへやって来た。

「主よ…あなたの願いを叶えます。愛しき守護者たちを…傷付けたものたちを、今、破壊します。」
闇の書の黒色の魔法陣が展開され、広範囲で封鎖領域を作る。
「なんだ!これは…!!結界か!?」魔力の波がヤマトたちの体を通り抜け、領域を拡大していく。
「前の時と同じ…、閉じ込める結界だ。」
アルフがヤマトに教える。
「やっぱり、私たちを狙ってるんだ…。」
フェイトは複雑な表情でそう言うと、なのはへと視線を向けた。なのは悲しげな表情で闇の書を見つめていた。

「とにかく、今はクロノが解決法を探してくれてる。応援もこっちに来てくれるらしいけど、まだ時間が…。」
ユーノはみんなとなのはにいい聞かせる。
「俺たちでなんとかするしかない…のか…。フリーダム!」
『OK,Hi-νスタイル!』
カートリッジを1発消費し、ヤマトの背中に蒼色の魔力の翼が形成された。
「ヤマト、行くよ!」
「あぁ」
フェイトが先に飛びたち、ヤマトもその後を追う形で飛翔する。
「フェイト!俺が先に攻撃を仕掛けるから、フェイトは俺の後ろに身を隠れるんだ!いいな?」
コクリと頷くフェイトは、スピードを落とし、ヤマトの背後へまわる。
「ストライクフリーダム!」
背中にある長身の砲台の柄に当たる部分からいきおいよく薬筒が弾けとぶ。
翼が開き、鮮やかな光を噴射、ヤマトは加速し、フェイトの姿は正面からは捕えられない。
そのまま、闇の書に向かって、ニューハイパーバズーカの零距離射撃を繰り出す。もちろん、この攻撃はかわさせるためにある。
闇の書は半身をずらすだけで回避。しかし、ヤマトが駆けたあとに残る光の中から、フェイトが姿を現し、バルディッシュを縦一閃。
完全に不意を突いた攻撃だったが、闇の書は障壁を展開せず、逆に攻撃を仕掛けることでそれを回避した。

魔力を帯た拳とバルディッシュが交差する。
鋭い音が響き、フェイトはヤマトと逆方向へ抜け、闇の書を挟み撃ちする形で、同時に攻撃をしかける。
「当たれ!!」
「はぁぁああ!!」
「うがて…、ブラッディーダガー」
『ディフェンサープラス』『フィンファンネル-I-FIELD』
紅い閃光がヤマトとフェイトを襲うが、バルディッシュとフリーダムのフィンファンネルによる自動防御により直撃を避ける。だが、無理矢理後退させられる形となった。
しかし、連携はヤマトとフェイトだけではない。
闇の書の攻撃の際に生まれたわずかな隙をつき、ユーノとアルフのバインドが闇の書を完全に捕え、自由を奪う。
そして
『ディバインバスター・エクステンション』
なのはのレイジングハートから桜色の魔力の奔流が打ち出される。
「砕け…。」
闇の書の一言でユーノとアルフのバインドは破壊され、なのはのディバインバスターは障壁で防がれた。
その防いでいる間に、ヤマトとフェイトが再度、攻撃を仕掛けるが…。
「撃ち落とせ…。」
『ファンネル』
不規則な動きをする複数の魔力の塊がヤマトとフェイトをおいまわし、砲撃により、牽制される。
「これって…あの人の!?」避けることに集中しながらメイとの戦いを思い出すフェイト。そして、ディバインバスターを撃ち終わったなのはに超高速の魔力弾、フォルティスが襲う。
『ラウンドシールド』
桜色の円形魔法陣を展開、しかし、なのはの体を大きな衝撃が駆け抜ける。
「いっつ…。」
五人がかりで、圧倒されていた。
「メイの魔法も使えるのか!!?」
『ツインサーベル』カートリッジを一つの白い筒から2発消費、白い筒から蒼くて上方向から長い魔力刃に下方向から短い魔力刃が出てくる。瞬時に最高速度に達するヤマト。二刀流構えである。
『ブラッディー・ダガー』対する闇の書は、ブラッディー・ダガーをヤマトに向かって発射する。
「ッ!?ヤマト!!」
無謀なヤマトの突攻に誰もが、彼の名前を口々に叫ぶ。「ヤマトくん!!」
「無茶だヤマト君。戻って!!」 ユーノも慌てて、ヤマトの後を追う。万が一のために、ヤマトを守るための障壁を準備する。

向かってくるブラッディー・ダガー。しかし、ヤマトは当たるつもりなどない。
自分の中の何かが弾ける。先程は、デスティニーの自動防御に頼らなければ防ぐことすら叶わなかった攻撃を今度は、片方のサーベルで破壊する。
そして、さらにそのままスピードを上げ、左手を闇の書の障壁に当てがう。
『フィンファンネルバースト』
背中の全ての青い翼から発射される六つの奔流、闇の書の障壁にヒビを入れて行く。
そして、
「最大出力!!フルパワー!!」一瞬、光が輝きを増し、見事に障壁を砕いた。

両方のサーベルを連結させて、一閃を見舞う。
だが、闇の書の渾身の一撃が、サーベルを振り上げたヤマトにカウンターで入った。
「しくじっ…!うわぁあ!!!」魔力を込めた拳がIフィールドの障壁に突き刺さり、弾き飛ばす。
建造物に激突し、粉塵を上げた。
呆気にとられるなのは、フェイト、アルフ、ユーノ。その間に、闇の書は魔法陣を展開する。
今度は、白い魔法陣を足元に展開し、正面に桜色の環状魔法陣を展開。
「咎人たちに滅びの光を…」空気中から魔力が収束してゆく。最初は小さな魔力の塊がみるみる巨大化する。「そんな…、スターライトブレイカー…!?」
なのはの必殺の砲撃を闇の書が使用しようとしていた。
「なのはは一度リンカーコアを蒐集されてるから、その時にコピーされたんだ。」
ユーノがなのはに言う。
「とにかく、回避距離を…、アルフ、ユーノをお願い。なのは!」
アルフはユーノの手を、フェイトはなのはの手を掴み回避行動に移った。

「…ぅ…痛てて、って…。大丈夫か?フリーダム」
『異常ありません。いつでも行けます』
ガラリと音をたて、瓦礫が崩れた。立ち込める粉塵の中、ヤマトは立ち上がり、バリアジャケットについた汚れを叩き落とす。
「ヤマト!」
フェイトが慌てた様子でヤマトのもとへやって来た。
「なんだ?」
「スターライトブレイカーが撃たれる。早く、回避距離を…。」
フェイトのただならぬ様子に、ヤマトはすぐに状況を理解し、回避距離をとるため、なのはを連れたフェイトの後を追うことにした。

「メイさん…。」
リンディは暗い面持ちで、メイが収容されている部屋へとやって来た。
格子ごしに話をする。
「闇の書が…完成したわ。」「…みたい…ですね。」
話を聞かなくても、艦内の尋常じゃない、慌ただしさから予測できる。
「はやてさん…闇の書に取り込まれたわ…。」
うつ向いていたメイが、顔をあげた。
「それで…はやてちゃんは…今、どう…?」
わからない。と、リンディ。

「局員達が全力で対応してはいるけど…長丁場になりそうね。」
自分に何か出来ることは…ないのか?
メイは両手で拳を作り、力を入れる。
「また、何かあったら、知らせるわ。」
そう言って、リンディは部屋から出ていった。

闇の書のスターライトブレイカーを防いだなのは、フェイト、ヤマトの三人はクロノからの指示により、闇の書に投降の呼び掛けをしていた。
ユーノとアルフは、結界内に取り残された民間人、すずかとアリサを保護、また、守護するため、今は戦線から離脱していた。

「主は…愛しき騎士達を奪った…この世界が…夢であってほしいと願った。
主には…夢の中で…騎士達と平和に暮らしてもらう。」
闇の書は、何の感情も、抑揚もない声でそう言った。だから、はやてには夢の中で平和に暮らしてもらい、この世界には滅びを…と。「はやてちゃんは、そんなこと望まないよ!
そんなことをしたら、きっとはやてちゃんは悲しいよ!!あなただってそうでしょう!?
あなたにも心があるんだよ!嫌なことは嫌だって言っていいんだよ!!
はやてちゃんは!あなたのマスターはちゃんとそれを分かってくれる子だよ!」
なのはが思いのたけを吐きだす。
「私に悲しみなど…ない。」
なのはの言葉を否定する闇の書。
ヤマトは今の闇の書と自分の姿を重ねる。
自分がそうだった。自分の甘さで戦友、恋人を殺した。だから力を手にした。

ズンッ!!!
地響きがしたのち、地面から触手が、火柱が立ち上る。
アッというまに、なのはとフェイトは触手によって絡めとられた。ヤマトも最初の数本は斬ったり、かわしたりしていたが、数が多く、避けきれなくなって結局は、動きを封じられる。
「もう、崩壊が始まったか…。せめて意識があるうちに…主の願いを叶えたい…。」
「バリアジャケット、パージ!」
フェイトがバリアジャケットをパージし、ソニックフォームへと換装。その際に生じる爆発で、自分達を拘束している触手を粉砕する。
「悲しみがないなんて…そんな顔で言われて…誰が信じるもんか!!」
闇の書が手をかざす。ブラッディー・ダガーがヤマト、フェイト、なのはを囲んだ。
「闇に…沈め…。」
フェイトはそれが発射される前になのはを救出、自分もダガーを避け、空中へと逃げる。ヤマトも同様に、そうした。
「ヤマト!行くよ。」
「わかった。」
フェイトが、ヤマトが、バルディッシュを、ハイパーメガランチャーを構える。
「この…、だだっこ!!」
『サイズ・ドライブ』
「言うことを…。」
フェイトの両手足に、高速機動補助魔法、ソニック・セイルが発動する。
『イグニション』
「聞けぇー!!」
珍しく、フェイトが声を張り上げる。ヤマトも装填カートリッジの最後の一発を消費し、翼を展開。フェイトの叫びを合図に、二人、同時に飛翔した。

「お前も…我がうちで眠るといい…。」
闇の書が、デバイスを突きだし、障壁を展開する。
金色の光と緋色の光が向かってくる。
迎撃はしない。
二つの光が一度交差する。「はあぁぁぁ!!」
フェイトの
「もう、やめるんだ!!!」
ヤマトの声が大きく響く。そして、バルディッシュがフリーダムのハイパーメガランチャーのサーベルが同時に障壁に突き刺さった。
フェイトとヤマトは腕に力を込めるが、障壁はびくともしない。しかし、やがて、自分達の体の異変に気付く。
フェイトは金色の光に包まれ、ヤマトは蒼色の光に包まれて、爆散し、その光は闇の書によって吸収された。「全ては…安らかな眠りのうちへ…。」
消えた。目の前で、フェイトとヤマトが、なのはは愕然としていた。

アースラ。
『エイミィさん!!』
闇の書との三人の戦闘をモニタリングしていたエイミィも、一瞬、愕然としていたが、なのはからの通信で我に帰る。
「状況確認!」
すぐさま、キーを叩き始め、フェイトとヤマトの安否を確認する。
「フェイトちゃんとヤマト君のバイタルまだ健在、闇の書の内部空間に閉じ込められただけ、助ける方法、現在検討中!」
リンディの額に汗が滲む。「まずいわね。エイミィ、しばらくの間、ここをまかすわ。」
「艦長!どこに!?」
「なのはさん一人では危ないわ!局員の派遣を要請を…」
無駄だとと言うことは分かっている。その辺の戦闘局員を派遣してもらっても、なのはの足手まといにしかならない。
なのはを援護するためにはフェイトとなのは、そしてヴォルケンリッターの騎士達と渡り合えるほどの力をもつ魔導士が必要なのだ。そして、それほどの力を、魔力を持つ魔導士はリンディには思い浮かばなかった。

「…?…ヤマト?」肩をゆさぶられ、意識が覚醒してゆくヤマト。そこは、見慣れた場所、そして、自分を呼ぶ声は、聞き慣れた声。
いつのまにか木陰で眠っていたヤマトは体を起こした。まだ少し、意識がボウッとしている。
「やっと起きた。今日は私とデートしてくれる約束してたじゃない。早くしないと」ヤマトは自分を起こしてくれた人物を見て、目を疑った。
「…エ、…エステル…?何で…生きて…るんだ?」
そう、ヤマトの第一の恋人になるはずだった、エステルは確かにコロニーレーザーを巡る戦闘で死んだはずだった。暴走した彼女を止めるべく、可哀想だけど、殺すしかないと思った俺。俺の甘さが彼女を殺すきっかけを作ってしまった。

エステルがヤマトの名前を呼ぶ。「変な人ね、私とのデートのことを忘れたの?」
またエステルが自分の名前を呼ぶ。「もしもーし、聞いているの?あなた、今日は朝から変だよ?」
「えっ?あ…あぁ、デートだったね。うん…、ちゃんと聞いてはいるよ。」
彼女の声が懐かしくて、優しくて、自分が今まで取り戻したかったものでヤマトの目から涙が溢れた。
声を殺して、涙を流す。
「…へっ?…ヤマト、どうしたの?」
エステルはヤマトが突然泣き出したことを心配し、気遣う。
「何処か痛いの?病院行く?」
エステルがヤマトの肩を抱く。首を左右にふるヤマト。
「…違うんだ。…そうじゃ…なくて…。…うっ…ひっく…。分かんなくて…いいから…。ごめん…もう、俺…。」
声を殺すのももう限界だった。声を上げて泣いた。みっともないくらい。まるで幼い子供の様に。

『プロテクション』
レイジングハートの全包囲防御魔法。それを全包囲機動攻撃魔法ファンネルが襲う。ヤマトのフィンファンネルより威力・機動性は少し低いが油断はできない。
基本、砲撃魔法を使うときは一度魔法陣を展開するため、動きを止めなければならない。
しかし、ファンネルはその隙を与えない。
もちろん、魔力を使って攻撃する以上、ファンネルによる攻撃は無限ではない。メイの高速機動兵装魔法ファンネルは、背中のファトゥムから真紅の小型機動兵器を飛ばし、ターゲットに計六個のファンネルを飛ばす。
そして、砲撃する度に、魔力が減少していくことになるが、ある程度まで減少すると、メイの元へと戻り、魔力を充填する。メイがファンネルを使った当初は魔力充填はできなくて、使い捨ての道具としてすぎなかった
しかし、闇の書は魔力の塊をばらまくだけだ。
充填する必要がないぶん、ファンネルに弱点は、ほぼないに等しい。
皮肉なことに、メイが闇の書をより強力にしてしまったと言えるだろう。
「これじゃあ、反撃が…!」『Master!!』
レイジングハートが警戒を促す。
しかし…。
「バインド!?それに…、あれは!?」
闇の書の周囲に金色の魔力の塊が無数に出来ていく。『フォトンランサー・ジェノサイドシフト』

アースラ内部。
「艦長、なのはちゃんが!!」なのはの周囲を飛び回る無数の魔力の塊が、砲撃をする隙を与えない。
初めの数発はなのはでもかわせるが、しかし、なん十発と砲撃されると、小回りの効かないなのはは障壁をはるしかなくなる。
そして、障壁をはるため動きをとめるたびに、闇の書の攻撃により、障壁を破られ、吹き飛ばされる。
それを繰り返していた。
攻撃に転じる魔法陣を展開するための隙がなかった。そして、なのははその攻撃の殆んどが砲撃であり、闇の書との相性は最悪だった。
下唇を噛む、リンディ。だが、局員の中に、このアースラの中に魔法陣を展開せず、また、砲撃の際の魔法生成、発射の際に動きを止めずに撃てる者など…。
いた…。
管理局員ではないが、唯一、デバイス自体から、トリガーを引くだけで魔法を放つことができる魔導士が…。

「…はやて…ちゃん…。」
メイはベッドに座り、はやてのことを思う。闇の書に取り込まれてしまった。
そう聞いた。
大丈夫なのだろうか。
カッカッカッカッカッ!!大きな足音が、メイの元へと近付いてくる。
扉が開く。
「メイさん!」
なんだか、ただ事ではない様子。闇の書についての状況報告と言うわけでは無さそうだ。
「何か…あったんですか?」「単刀直入に言うわ。手を貸してほしいの。
(エイミィ!モニターを…)」
空間にモニターが開く。
なのはと闇の書が戦っていた。
「あれが…闇の書?」
はやての面影が残っていなかった。それに、ヤマトとフェイトの姿がない。
「ヤマトとフェイトちゃんは?」
はぁ、と溜め息をついて、頭を抱える。
「闇の書の内部空間に閉じ込められてるわ。今は救出の方法を探してる。
お願い、時間がないの。」これ以上はなのはの身が危ない。戦況は明らかになのはに分が悪いのだ。
だが、メイは迷う。闇の書ははやてを取り込んだ。つまり、闇の書を撃つと言うことは…。
私には…。
「今、闇の書を止めないと、はやてちゃんも…どうなるか…。」
何を…何を迷ってるんだ。こうやって迷ってる間にも、はやてちゃんも、なのはちゃんも、フェイトちゃんも、兄・ヤマトの身に危険が迫ってるんだぞ。
こうやって、できないって言って、何もしなかったら、もっと何もできない。
前に自分でいったじゃないの!アムロさんに言われた言葉…自分やシャアみたいにララァの二の舞を踏まないでくれと。大切な人を守るんだ。ヤマトと一緒に
「…リンディさん。私は…やります。必ず…今度こそ、守って見せます。」
リンディは格子の鍵を開錠し、メイを連れ出した。

技術局からデバイスが転送されてくる。それを受けとり、転送ゲートへと走る。カートリッジは22発。今、技術局員が総出でカートリッジをつくっているとのこと。
出来上がり次第、転送するとのことだ。
転送ゲートへ走る。
「また、一緒に戦ってくれる?ジャスティス…。」『Yes, My Master.Device Mode.』
ジャスティスが答え、エピオンモードで右手にソードが握られ、左手にヒートロッドが内蔵されているシールドを装備する。一度、大きく息を吸い込み「エピオンシステム起動、ファトゥム起動、ファンネル起動、ジェネレーター起動、アムフォルタス起動。」
金属的な音がアースラの艦内に響きわたる。
薬筒が落ちる音だ。

「転送位置、座標固定。メイさん!」
『行けます!!』
メイを光が包みこみ、なのはと闇の書の遥か上空に姿を現す。
メイを赤い光が包みこみバリアジャケットを装着。背中にバックパックそして魔力で形成された龍の翼。
「ミーティア起動!!」
『ミーティア・モード、エピオンシステムスタート』

「お前も…もう眠れ…。」
闇の書のが手を動かし、横に一閃した。
「撃ち抜け…豪雷…。」
なのはがまだバインドの拘束から逃れられないまま、フォトンランサーは発射された。
「レイジングハート!お願い!!」
『 ラウンド・シールド 』桜色の円形障壁が発動する
『オールシステムズセットアップコンプリート』
「ビームソード・フルドライブ!」『Alright』

なのはは目を閉じた。耐えられるか自信はない。だが、今はレイジングハートを信じるのみ。
「全てを斬る!!」突然の声。その直後に緑色と赤色の魔力の斬撃と砲撃がフォトンランサーを全て飲み込み、破壊する。
そしてなのはの目の前には真紅の龍が舞い降りた。
「私があの子を引き付けます。なのはちゃんはチャンスがあったら砲撃を…!!」
「でも…撃てるチャンスあるかな?」
レイジングハートがあると言う。
『Please call me エクセリンモード』
なのはは、起動させる。負けないために、仲間を助けるために…。コントロールを失敗すればレイジングハートは壊れてしまうが、だが…、なのははレイジングハートを信じ、今、叫ぶ。「レイジングハート・エクセリオンモード、ドラァイブ!!」

目次