ハルヒファイヤエムブレム第一部 1

Last-modified: 2009-05-22 (金) 01:35:54

キョン「ファイアーエムブレム?」

ハルヒ「そう、古泉君が持ってたの」

さっきからDSに夢中だったがそういうことか。確か初代のリメイクが出てたな、って・・・

キョン「・・・なぜ今更封印の剣なんだ?GBAだろそれ」

ハルヒ「いいじゃない、面白いんだから。あ、レベル上がった」

まあ、とにかくこれで今日一日の平穏は確保された訳だ。

PCもあいているしのんびりネットサーフィンでも・・・

ハルヒ「ねえ、キョンがFEのキャラだったら、クラスは何だと思う?」

キョン「・・・は?」

ハルヒ「ソシアルナイト、アーマーナイト、戦士・・・どれもしっくり来ないわね。
     無難な所でアーチャーかしら?有希はもう決定してるし、みくるちゃんと古泉君は・・・」

話の流れがまずい方へ向かっている、俺はそう確信した。
世界が暗転し、次の瞬間俺は小高い丘の上に立っていた。

キョン「どういうことだよ・・・」

つい先ほどまで来ていた制服はどこへ消えたのか。
足には飾り気のない実用性重視のブーツ、シャツは薄手だが、左肩から心臓にかけて鎧が装着されている。
右の腰には矢筒、左手には俺の身長に近い大きさの弓矢。
どう考えても戦場での出で立ちだ。
丘から下を見下ろせば、つい先ほどまで人が住んでいたのであろう村が炎を上げている。

キョン「これはまさか・・・」

???「ええ、そのまさかです」

後ろからガシャガシャとけたたましい音を立てて、分厚い鎧が歩いてくる。

???「どうやら僕たちは、ファイアーエムブレムの世界に入り込んでしまったようですね。
     ここは第一章、山賊がフェレの城を襲撃する話です」

キョン「古泉か?」

古泉「はい」

キョン「さて、説明してもらおうか」

古泉「涼宮さんがファイアーエムブレムにはまってまして・・・」

キョン「それは知ってる」

古泉「それなら後はいつもの通り。ここは改編された世界です」

キョン「やっぱりな・・・」

よりによって悪いゲームにはまってくれたものだ。

キョン「古泉、貸すならもう少し安全なゲームを貸してやれ。
  何が悲しくてスマブラDX参加者で唯一童貞喪失(殺人)してる奴らの世界に来なきゃならんのだ」

古泉「すいません、僕も失敗だったと思っています」

キョン「まあいい、ところで、なんでお前がアーマーナイトなんだ?」

古泉「初期メンバーを揃えるためでしょう。あちらを見て下さい」

古泉が指をさした方向には・・・

国木田「谷口、てやり持ってきた?」

谷口「げっ、忘れてきた・・・」

国木田「しょうがないなあ。戦場での忘れ物は命取りだよ」

キョン「谷口と国木田・・・あいつらも巻き込まれたのか」

古泉「はい、彼等はシリーズ恒例の”赤と緑”です」

キョン「谷口がパワーファイターの方か」

古泉「それからあちらが・・・」

新川「どうも、通りすがりのパラディンです」

キョン「何やってんですか」

新川「いえ、これも機関の意向です」

キョン「まあ、突っ込みませんよ」

新川「お気づかいありがとうございます」

キョン「長門や朝比奈さんはいないのか?」

古泉「おそらく、シナリオが進めば登場するでしょう。
    どのキャラの位置で出るかは分かりませんがね」

キョン「長門がいれば楽なんだがな。俺は体力にそこまで自信は無い」

古泉「いえ、どうやら、個々人の身体能力にも修正が加えられているようです。
    そうでなければ、僕がこんな鎧を着て歩きまわれるはず無いでしょう?」

そう言えばそうだな。
谷口と国木田も実に見事に馬を乗りこなしている。
だが、俺はどうなんだ?そもそも弓なんて引いたことも無いんだが。

キョン「なるようになる・・・のか?ならなきゃ困るが」

赤に緑にアーマーにアーチャーにパラディン、初期の面子はそろったな。という事は・・・

キョン「ロードはあいつか」

古泉「はい」

ハルヒ「全軍突撃!山賊を蹴散らすわよ!!!」

何処から湧いて出たのか分からない軍勢をひきつれて、青いマントを羽織ったハルヒが丘を駆け下りていく。

古泉「ほら、あなたも進軍してください。アーチャーは孤立するとあっさり死にますから」

キョン「お、おう」

駆け降りた勢いそのままに山賊に突撃する。
烏合の衆と正規の軍では勝負にもならず、あちらこちらで山賊が倒れていく。
軍勢の先頭に立つハルヒは、斧の一撃を華麗に回避しながら、レイピアで確実に山賊を仕留めている。
谷口と国木田はその機動力を生かし、二人で十人の山賊を相手にしていた。

俺はと言えば・・・

キョン「ていっ」

山賊「ぐわっ」

キョン「うりゃっ」

山賊「ぎょへっ」

古泉の陰に隠れ、地道に山賊を一体一体弓で打ち抜いていた。

キョン「しかし、なんか戦場の割に悲壮感が無いな」

古泉「よく見て下さい。切られた人から血飛沫が上がっていません。
    それに、戦場に死体も残っていません」

キョン「どういう事だ?」

古泉「涼宮さんが望んでいるのは、『壮大で爽快な戦争』なのでしょう。
    『陰惨で残酷な戦争』の描写は望んでいないのでしょうね。
    ゲームの世界を体験したいだけで、殺し合いを体験したいわけでは無いという事です」

キョン「要は、リアルだと残酷だからフィルター掛けてますってことか」

正直その措置は有りがたい。リアルな描写をされたら、朝比奈さんならショック死しかねないからな。
しかし、この感覚は何か覚えがあるような・・・ 
ひらひらと動き回るハルヒを見て思いついたことを尋ねる。

キョン「古泉、お前、FEの他にもハルヒに何か貸したか?」

古泉「実は『三國無双』のシリーズを」

キョン「成程」

この世界には、「剣→斧→槍→剣」の三すくみというものがあるようだ。
ハルヒ率いる・・・フェレ軍?は、剣と槍が中心の軍隊、山賊は斧を使っている。
相性の問題もあってか、山賊はボスを残してあっさり全滅した。

キョン「敵将はどんなやつだ?」

古泉「ダマスという男です。典型的な力自慢ですね。涼宮さん一人でも十分倒せる相手ですが・・・」

キョン「何だ?何かあるのか?」

古泉「まあ、最前線まで行ってみてください」

キョン「・・・?まあ、別にいいけどな」

あまり戦闘力の高くない俺が何か役に立つのか?
そう思いながら行くと、そこには信じられない光景が待っていた。

ハルヒ「はい次は国木田ね!レベル6くらいになったら交代して!」

敵の大将ダマスが、切られては放置され刺されては放置されを繰り返していたのだ。

キョン「ハルヒ、何やってるんだ?」

ハルヒ「あらキョン遅かったじゃない!何ってレベル上げよ、見て分からないの?」

キョン「俺はそこまでFEをやりこんでいない」

ハルヒ「城門や砦にいる敵はね、一定の間隔で体力を回復するのよ。
     だから適当にダメージを与えて経験値を稼いだら回復を待つ。
     これを繰り返せば序盤から結構レベルの高い軍が作れるのよ!」

ゲームシステムまで再現しているとは思わなかった。
城に籠っているからと言って切られた傷が回復するか?普通。
ダマスはもう傷だらけになって泣いているが、国木田は冷静に切りつけては回避を繰り返している。

キョン「なあ、いつまでやるんだ?」

ハルヒ「後はキョンでおしまいよ。城門から相手は動かないから、じっくり狙って打ちなさい!」

なんだか可哀想になってきたが、俺も一応レベルは上げておきたい。矢を番え、片目を瞑る。

キョン「どれくらいやればいい?」

ハルヒ「そうね、レベルあと3つくらい上げておいて」

ダマス「頼むからもうとどめを刺してくれー!」

古泉「終わったようですね。それでは、城に入りましょうか」

キョン「流石に罪悪感もあるが」

城門を制圧したハルヒと兵士たちがときの声を上げている。

キョン「そういえば新川さんは?」

古泉「残っていた村の警護をしていたようですね。そろそろ戻ってくるでしょう」

新川「只今戻りましたよ」

ハルヒ「遅かったわね。収獲は何かあった?」

新川「5000Gほど頂きました。てつの剣に換算すれば10本分以上ですな」

ハルヒ「それは凄いわね!レイピア一本じゃ心もとないし」

キョン「レベルがやたらと上がってしまったな」

古泉「これで後々楽になりますからね。」

キョン「しかし谷口があそこまで頼りになるとはな・・・
    あいつはずっとこの世界にいた方がいいんじゃないか?」

谷口「涼宮ー、20人は倒したぜ。恩賞は無いのか?」

国木田「一応僕たちは仕えてる身なんだから、そういう事は言わないでおこうよ」

キョン「ところで、俺は封印の剣をプレイしたことが無いから設定が分からないんだが」

古泉「ご安心ください。涼宮さんにお貸しする前にあらゆる情報を集めてあります。
    まずこの軍ですが、諸侯同盟であるリキア同盟の一角、フェレ家の軍隊です。
    涼宮さんの位置は『ロイ』。フェレ家の嫡男で、この話の主人公です」

キョン「なるほど、いかにもハルヒの好みそうなポジションだ」

古泉「僕の位置は『ボールス』。リキア同盟の盟主オスティア家につかえる騎士です。
    オスティア侯の娘が遊びに来ている関係でここにいます。
    オスティア家とフェレ家は当主同士が長年の親友で・・・」

キョン「ああそれぐらいでいい。今全部聞いても理解できないからな。
    話が進むごとに少しずつ解説してくれ。ひとつだけ聞くが、俺はどういう位置のキャラだ?」

古泉「主人公ロイの乳兄弟『ウォルト』ですね。攻撃の命中率はそこそこなのですが非力。
    会話イベントも少なく、非常に目立たないキャラです」

キョン「おい」

古泉「ですが、ロイ・・・涼宮さんとは幼いころから最も親しくしているキャラです。
    あなたにはピッタリの役柄ではないでしょうか」

キョン「もうどうでもいいな。で、ハルヒはどこだ?」

古泉「父親のエリウッド様と面会中です。あ、戻ってきましたよ」

ハルヒ「キョン!ベルン国境に進軍するわよ!」

キョン「はあ?唐突に何なんだ?うわっこら耳ひっぱるな痛たたたた!」

古泉「というわけで、僕も行ってきますのでオスティア侯にお伝えすることは?」

佐々木「お父様なら僕が心配する事は無いだろうね。それより彼女をしっかり守ってあげてくれ」

古泉「はい、お任せ下さい」

佐々木「僕はもう戻るよ。統治者がいなければ民は混乱するばかりだからね」

ハルヒ「という訳でベルンと戦争することになったの」

キョン「ベルン?」

古泉「東の軍事大国です。つい最近リキア同盟に攻撃を開始しました」

ハルヒ「でも今の私たちだけでは手勢が足りないわ。だから傭兵団を雇ったの。
     国境線近くで合流することになってるわ」

キョン「国境近くって・・・危険じゃないのか?」

ハルヒ「同盟軍の本隊も国境線近くにいるんだもの。時間の節約よ」

キョン「そんなこんなでー、軍事大国との国境線近くに来てしまいました」

古泉「どうしました?目が死んでしまってますよ」

キョン「危険地帯にもほどがあるだろう。山のすぐ向こうに城あるし」

古泉「あれは国境を守るための城ですね。城主は確かルードという男です」

ルード「ギネヴィア殿下にお変わりはないか?」

兵士「はっ。ご命令通り、地下の一室で監視しております」

ルード「よし、ついでに荒縄か鎖でがっちり縛り上げておけ。後で見に行くぞ」

兵士「だっ大丈夫でしょうか。このようなことをして・・・」

ルード「心配するな。今、我が国に敵対する勢力はいくらでもある。
     ベルン国王の妹姫・・・どこに引き渡しても遊んでくらせる金を払ってくれるだろうて」

兵士「・・・・・・」

ルード「それに妹キャラってよくね?お付きのシスターも美人だったし胸大きいし。
     あ、シスターの方も一緒に縛っとけ。あとで楽しむから」

兵士「はっ はい。・・・ですが、そのご計画には一つだけ問題が・・・」

ルード「? どういう意味だ?」

兵士「先ほど・・・ギネヴィア殿下付きのシスターが逃げ出したとの報告が・・・」

ルード「なんだとっ!?わしのささやかな夢を無にする気か!?
     急いで探すのだ、決して逃がしてはいかんぞっ!」

???「助けてくださ~い」

キョン「あの間延びした声と遠距離かつゆったりした服装でも分かる胸は」

古泉「ご名答」

みくる「あ、あのっ、リキア同盟の方の軍ですよね?」

ハルヒ「そうよ。どうしたの?そんなに慌てて」

みくる「私が仕えてる人がリキア同盟の人に会うために来たんですけど、
     あのお城の城主に捕まっちゃったんです」

ハルヒ「分かったわ。私たちがあの城を落して、その人を助ければいいのね」

キョン「お、おい!ここで戦いを始めてどうする!まだ傭兵団とも合流・・・」

ハルヒ「私に会いに来た人が捕まったんでしょ?なら私が助けるわよ。全軍突撃!」

古泉「悲しいですが、ゲームもこれとほぼ同じ理由で開戦します。
    一応向こうが先に攻撃してきますが」

キョン「本当かよ・・・」
キョン「朝比奈さんの役柄は?」

古泉「僧侶の『エレン』ですね。穏やかで心優しい女性です。序盤では貴重な回復役ですよ。
    非常に打たれ弱いので、しっかりと守って差し上げて下さい」

キョン「それは壁役のお前の仕事だ」

古泉「僕の移動力では、前線に出る事も多い回復役に追いつくのは大変なんですよ」

ハルヒの号令で突撃したのはいいのだが、山と山との間に小さな砦があった。
騎馬隊と重装備の騎士が多い俺たちの軍はどうみても攻城戦に向いていない。
まさか俺の弓が一番戦果を上げることになろうとは思わなかった。

ハルヒ「ああもう!これじゃどうしようもないわね。あの山の上に援軍でも来ないかしら」

キョン「おいおい、それは流石に・・・」

こういう時は来るんだよな。しかも砦を攻めるのに適した軽装の部隊が。
斧を持った大男が二人とペガサスに乗った女の子が一人、それから傷だらけの男が一人。
どうやら傷だらけの男がその集団のリーダーらしい。砦に梯子をかけさせるとするすると登っていく。
ハルヒと同じ、最前線で闘うタイプのリーダーのようだ。

ハルヒ「凄いわね、あれが私たちの雇った傭兵団かしら?」

キョン「そうなんだろうな。うおっ、こんどは二人同時に切り倒した」

ハルヒ「私達も続くわよ!一気に砦を抜いちゃいなさい!」

山の上からの奇襲に混乱していた砦は、これまでの苦労は何だったのかというほどあっさりと陥落した。

古泉「やれやれ、鎧が傷だらけですよ」

キョン「お前の防御力はさすがだな。矢の集中砲火を受けてたのに無傷とは」

古泉「そのためのアーマーナイトですから」

キョン「朝比奈さんもよく頑張りました」

みくる「ふうー・・・走り回ってばっかりで疲れましたぁ」

ハルヒ「ちょっとみんな、まだ城が落ちてないわよ。まあ、もう落ちたようなものだけど」

城の兵は殆どを砦に回していたらしく、城の周りには歩兵が数十人しかいなかった。
城門前には中間管理職の悲哀を感じさせる鎧の男が立っている。

ルード「やっとツキが転がりこんできたというのに・・・
     ロリ巨乳のシスターと妹キャラが同時に手に入ったというのに・・・くそうっ」

キョン「なんかどうしようもないなこいつ」

古泉「ですが、アーマーナイトですから防御力は高いです。下手な武器では傷も付きませんね」

ハルヒ「どうしたらいいと思う?」

新川「ご安心ください、これを。そこの村で頂いたアーマーキラーです。
    これを使えばあの鎧も貫けるでしょう」

キョン「なんでただの村人がこんなものを?」

ハルヒ「細かい事はいいわ。じゃ、谷口よろしく」

谷口「えぇ!?なんで俺!?」

ハルヒ「だって一番力のステータス高いの谷口でしょ」

国木田「谷口がんばれー」

キョン「頑張れよー」

谷口「ほかにも力の強い奴はいるだろ!?あの傭兵の人とか!?」

みくる「谷口君頑張ってくださーい」

谷口「行ってきまーす!」

ルード「ぐっ・・・ 欲をかくと・・・ロクなことに・・・ならんな・・・」

キョン「何かを悟ったな」

城を落とした俺たちは、負傷者の治療のため休憩をとった。
この世界で朝比奈さんが仕えている女主人は「ギネヴィア」と言うらしい。
驚いたことにベルンの国王の妹だそうだ。リキアとベルンを和解させる方法を探りにきたらしい。

ギネヴィア「・・・と言う訳ですので、どうか・・・」

キョン「ハルヒ、どう思う?」

ハルヒ「私は構わないわ。リキア同盟の本隊まで連れてってあげるわよ」

キョン「いや、この人を連れてって、俺たちは誘拐犯扱いされないか?」

ハルヒ「この人が自分で来たんだから問題ないでしょ?」

ハルヒ「あなたはディークって言うのね。よろしく」

ディーク「ああ、よろしく。しっかし、10代の女が軍を率いてるとはな・・・」

ハルヒ「年齢も性別も関係ないわ。重要なのは能力の有無よ!」

ディーク「確かにそうだな。俺の部下にもあんたぐらいの歳の女がいるんだ。よろしくやってくれ」

ハルヒ「アラフェン城まで、後半日ってとこかしら?」

キョン「アラフェン城?」

古泉「リキア同盟軍の主力が集まっている城ですよ」

伝令「報告!報告!」

ハルヒ「ほぼ全滅・・・?」

伝令「はっ。ベルン三竜将の内の二人、ブルーニャ将軍、ナーシェン将軍率いる軍に強襲され、
    ほぼ全ての部隊が壊滅。盟主ヘクトル様は捕えられたとのことです」

キョン「まずいな・・・ハルヒ、ここは一旦軍を返した方がいいんじゃないか?」

ハルヒ「だめよ。オスティア侯の生死の確認だけでもしなきゃ」

???「ヘクトル様なら生きていますよ」

ハルヒ「本当に!?」

喜緑「間違いありません。ベルンの兵士が城の中に連れていくのを見ました」

キョン「喜緑さん、城の内部の状況は分かりますか」

喜緑「はい。・・・助けに行くつもりならやめておいた方がいいですよ。
    主力部隊は撤退したようですが、それでも城内にはまだ結構な数の軍が残っています。
    この少数の兵では死にに行くようなものですよ」

ハルヒ「それは分かってるわ。だけど、今オスティア侯を失う訳にはいかないの。
     大国との戦争では、軍の支柱となる人が必要なのよ。
     ベルンに比べたら烏合の衆同然の、リキア同盟なら尚更ね。
     それに主力部隊は撤退したんでしょ?それなら勝ち目は有るわよ」

喜緑「そうですか・・・なら、私も付いていきます」

キョン「いいんですか、喜緑さん?」

喜緑「はい、ちょうど会いに行きたい人もいましたし。扉や宝箱の鍵開けは任せてください」

ハルヒ「それじゃあ、みんな行くわよ!出来うる限りの最大速度で進撃!」

キョン「さて、恒例となった、古泉の解説タイムだ。ほら、古泉」

古泉「喜緑さんの位置は盗賊の『チャド』です。
    戦闘能力は低いですが、鍵開けやアイテムを盗むなどの補助行動に長けています。
    けっして後半咬ませ犬になることはありませんよ」

キョン「チャド違いだな」

古泉「ちなみに『チャド』は少年ですが、そこは気になさらないでください」

キョン「三竜将ってのは?」

古泉「四天王や五虎将と同じようなものです。正式な官職の名ですけどね」

喜緑「今この城の中にいるのは、ナーシェン将軍。三竜将の一角にして天下一のナルシストです」

ハルヒ「それはどうでもいいわよ」

喜緑「城内に残っているのは騎兵部隊が多いようです。傭兵団の斧使いを中心に進むべきですね」

キョン「でも、三竜将の一角ってことは相当手強いんでしょう?勝てますか?」

喜緑「多分大丈夫です」

ナーシェン「スレーター!スレーターはいるか!」

スレーター「はい、ここに。お出かけですか?」

ナーシェン「ああ、リキア諸侯の裏切りものどもが私におもしろい土産を用意したらしい。
       なんでも エトルリア貴族の娘だとか・・・まだ幼さを残しているがかなりの美形らしい」

スレーター「それは楽しみでございますね。道中、くれぐれもご用心を」

ナーシェン「スレーターもリキアの残党どもに足元をすくわれないように。
       そんなことになったらこの私が八つ裂きにしてしまうよ」

スレーター「せめて石抱きか海老反り責めで止めてください」

喜緑「ナーシェンはサボり癖が有るようですから」

喜緑「城の外に孤児院があるんです。ちょっと様子を見てきたいのですが、護衛を頼めますか?」

谷口「はい、俺が!」

ハルヒ「国木田よろしく」

国木田「OK」

谷口「おーい・・・」

ハルヒ「あんたは城攻めの主戦力なのよ。力あるし結構体力あるし。
     私とキョンと一緒に城の南の方で頑張って」

古泉「僕はどうしましょうか?」

ハルヒ「中央に陣取って少しづつ進んで。傭兵団の人たちも一緒に向かわせるわ」

喜緑「大丈夫でした?ほかの子たちは怪我してませんよね?」

長門「無事。エリミーヌ教団に預かってもらう事になった」

喜緑「よかった。それで、あなたは何でここに残ってたんです?」

長門「あなたと同じ理由。私も闘う」

喜緑「・・・無理はしないで下さいよ。ところで、もう一人は?」

長門「わからない。でも、どこかで必ず生きている」

喜緑「そうですね。あのあまのじゃくさんにも早く会いたいです」

城内戦なのに騎兵が左右に駆け回っている。なんともカオスな戦場だ。
あんまり槍が長いのでたまに味方同士で絡まっている奴までいる。
こいつらが本当に正規兵なのか?
とりあえず俺は極めて冷静に、壁に引っ掛かっている敵兵を矢で打ち抜いている。

キョン「なんか・・・意外に楽だな」

ハルヒ「そうね。なんだか拍子抜けしちゃうわ」

古泉「伝令からの報告によると、主将ナーシェンはどこかへ移動。
    現在の主将はその部下のスレーターという男、兵士はその手勢のようです」

キョン「つまり、残ってるのは大したことのない部隊だけってことだな」

ハルヒ「なら急いで片付けるわよ!ディークさんよろしく!」

ディーク「おう!アーマーキラーは借りてくぜ!」

スレーター「ま 負けはせんぞ!も、もし負けたら・・・
       蝋燭責めか逆さ吊りかそれとも鉄の処女か・・・」

キョン「ベルンの将軍ってのはこんなのばっかりなのか?」

スレーター「お、おゆるしをナーシェンさまぁ・・・!」

キョン「オスティア侯はどうだった?」

ハルヒ「・・・」フルフル

キョン「そうか・・・」

古泉「架空の世界とは言え、自分の主君。いささか辛いですね・・・」

ハルヒ「・・・オスティアに行くわよ」

キョン「えっ?」

ハルヒ「理由は道中で話すわ。全軍、オスティアに転進!この城は放棄して構わないわ!」

キョン「お、おいちょっとハルヒ!」

古泉「・・・ここは何も言わないでおきましょう。
    この世界では、涼宮さんの父とオスティア侯は無二の親友。両家は家族のような間柄でした。
    いまの涼宮さんにとってのオスティア侯の死は、家族の死とほぼ同様なのでしょう」

キョン「そうか・・・」

キョン「長門!お前も仲間に入ったのか」

長門「この世界の情勢は把握した。私の能力は制限されているが、魔道書を媒介に発動が可能」

古泉「これでSOS団は揃いましたね。暫くすれば涼宮さんも落ち着くでしょう。
    それまでは傍にいてあげて下さい」

キョン「分かった」

古泉「あなたが『ウォルト』である意味、よく考えて下さいね」

キョン「ああ、よく分かってるよ」

ハルヒ「もう大丈夫よ。心配かけたわね」

キョン「ああ、無理はするな。それで、俺たちは何でオスティアに向かってるんだ?」

ハルヒ「オスティア侯が言い残したの。ベルンは『竜』を復活させているって」

キョン「竜・・・!?」

ハルヒ「そうよ。ドラゴンナイトが乗ってるような飛竜じゃなく、本物の『竜』」

キョン「どうやったらそんなことが出来るんだよ?」

ハルヒ「分からないわよ。ただ、ベルンは昔、竜達が栄えた土地。
    ベルンの王家は八神将の一人ハルトムートの末裔、関係があるかもしれないと言っていたわ」

キョン「どうするんだ?そんな化け物」

ハルヒ「『オスティアには竜に通用する武器もある』そう言っていたわ。今はそれを信じましょう」

キョン「ああ」

ナーシェン「エリック卿か。ベルンへの帰順、なにより。して、手土産はどこだ?」

エリック「そう焦らずに。別室に用意してありますとも。ただ、多少幼いのが難点ですが」

ナーシェン「馬鹿者っ!お前は何も分かっていないな!成熟し切っていないからこそいいんだ!
       いいか、もう未来のない初老共に何の価値がある?
       まだ細い手足や膨らみ切っていない胸・・・」

エリック「も、申し訳ございません・・・」

本格的な軍隊との、初めての大規模な戦闘だった。
ラウスの主戦力は俺達と同じ騎馬隊、質ではこちらが上だが数では負けている。
一度に複数を相手にしないよう、ひたすら動き回っての戦闘が続いた。

谷口「おい国木田、そっちを頼む!」

国木田「僕だって手が一杯だよ」

新川「私にお任せ下さい」

ハルヒ「計算外ね。まさか新川さんまで動員しなきゃならなくなるなんて」

ハルヒ「・・・あら?何かしら。城から誰か出てきたわ・・・」

キョン「ふう、矢を補給しなきゃな。いったん輸送隊の所まで戻って・・・」

クラリーネ「ちょっと、そこのあなた!」

キョン「ん、俺か?」

クラリーネ「ほかに誰がいますの?リキア同盟の方ですわね?」

キョン「ああ、そうだが・・・」

クラリーネ「ちょうどいいですわ。あなた、私を護衛しなさい」

キョン「はぁ?」

クラリーネ「聞こえませんでしたの?私を護衛しなさいと言ったのです」

どこかで見たような奴だな。

キョン「要は、城の連中に追われてるから助けてくれと、そういう事だろ?」

クラリーネ「ま、まあ、そういうことですわね」

キョン「んじゃ、この軍のリーダーの所まで連れていくから、後はそっちで交渉してくれ」

正直こいつとハルヒを対面させるのはどうかとも思うが仕方ないだろう。
見たところ回復の杖も持ってるし、役に立たないという事は無いだろうからな。

みくる「キョンく~ん」

キョン「朝比奈さん、どうしたんですか?」

みくる「さっき涼宮さんの所にきた人が、涼宮さんと喧嘩を始めちゃったんです」

キョン「あー・・・」

みくる「古泉君がどうにかなだめてるんですけど・・・」

キョン「・・・まあ、古泉なら大丈夫でしょう」

新川さんと赤緑のおかげで、だいぶ戦況は好転してきた。
だが、そんな戦場にふらりと一人の男が現れた。
遠くから見ると不健康なほどに細く見えるのは服のせいだろうか。
数人の兵が男を取り囲んだ、その瞬間、兵士たちは地面に倒れこんだ。

キョン「なんだあいつ・・・」

ディーク「あー、ルトガーだな。俺と同じ傭兵なんだが・・・あいつと殺り合いたくはなかったぜ。
      まあ、仕方ねえな」

キョン「あんたがいくのか?」

ディーク「俺じゃなきゃ無理だ。あのお嬢ちゃんでも無理だな」

ハルヒ「キョン!クラリーネとかいう女が来なかった!?」

キョン「いや、さっきお前の方に行ったろ?」

ハルヒ「来たわよ!仲間になってやるだの護衛しろだの偉そうに・・・
     しかも、城のほうを見たと思ったら何も言わずに走って行ったわ!」

キョン「あん?よく分からないな」

ハルヒ「私だって分からないわよ!」

俺とハルヒは最前線へと出た。ラウスの騎馬隊はもう半壊状態だった。
遠くを見れば傭兵が二人、にらみ合いを続けている。
そこに近づいていく一つの影。

ハルヒ「あの女、見つけたわ!キョン、文句を言ってやるわよ!」

キョン「え?っておい、俺を最前線に引きずり出すな、聞いてるのか!?」

ハルヒ「あれ?」

ルトガー「この軍は、ベルンと敵対しているのか?」

クラリーネ「ええ、ハルヒというリーダーからそう聞きましたわ」

ルトガー「・・・よし、分かった。お前たちと共に闘ってやる。それで文句はないだろう」

クラリーネ「大事なのは『ベルンと戦う』ことではなく『私を守る』ということですわ!」

ハルヒ「何があったの?」

ディーク「そこのお嬢さんが、そっちの無愛想野郎を仲間にしちまったんだよ」

ルトガー「いくぞ、ディーク。もう場内は手薄のはずだ」

ディーク「おう、さっさとケリを付けるぞ」

ハルヒ「ふん、なかなかやるじゃない」

クラリーネ「私の力が分かりましたわね?ならばこれからは私の護衛に回りなさい」

ハルヒ「あなたの力は関係ないじゃない。でも、そうね。
     キョンより上の立場になら、してあげてもいいわ」

キョン「おい、俺の立場は?」

ハルヒ「知らないわよ、そんなの」

クラリーネ「知りませんわ、そんなこと」

古泉「では、城にはナーシェンがいたのですね?」

クラリーネ「そうですわ。あの男、私を地下牢に閉じ込めましたの」

古泉「ですが、城内に残っていたのはエリック卿のみだったと」

ディーク「ああ、そいつを打ちとったら、他の兵士は抵抗を止めちまった」

古泉「ふむ、どこかで城を抜け出していたんですね。
    アラフェンが落ちたという情報が届いたんでしょうか」

キョン「意外に早いな。俺達も全速力でここまで来たのに」

古泉「アラフェンを落とした後、その場で悲嘆に暮れていれば、
    おそらく僕たちはナーシェンの部隊に蹂躙されていたでしょう。
    涼宮さんの迅速な決断のおかげです」

キョン「あいつは本当に乱世向けの人材だな・・・」

俺たちはベルンに悟られないよう、山間の旧街道をオスティアに向かっていた。
途中、山賊に襲われた村を助けたり、谷口と気の合う神父が仲間に加入したりしたが、
特に語るほどの事も無かったので省略する。

そして俺たちはトリア侯オルンの居城に到着した。
オルンはオスティア侯の従兄弟であり、温厚な性格で知られる人物だ。

ここなら枕を高くして眠れるに違いない・・・
俺たちは久しぶりに温かい夕食を食べていた。

続き