ハルヒファイヤエムブレム第一部 1 後編

Last-modified: 2009-05-22 (金) 01:35:18

ハルヒ「ちょっと、ワグナーさん。聞きたいことがあるんだけど」

ワグナー「はい、何ですかな?」

ハルヒ「オルン様に会いたいんだけど、どうして駄目なの?」

ワグナー「ですから先ほども申しあげましたとおり、主は病でお会いできず・・・」

ハルヒ「なら、私達は帰るわ!こんなとこにいつまでもいても仕方ないもの」

みくる「ふえ?涼宮さん、何でですか?」

ワグナー「・・・どうあっても?」

ハルヒ「どうあってもよ」

ワグナー「ならば ここで死んでいただこう!みなの者!であえっ、であえい!」

ハルヒ「やっぱりね!キョン、みくるちゃん!扉まで走って!」

キョン「お、おう!」

飛んでくる矢をよけながら扉まで走る。ドアノブに手をかけるが、開かない。

キョン「だめだ、鍵がかかってる!」

ハルヒ「何秒か耐えて!」

朝比奈さんを庇いながら矢を払い落す。数秒間がとても長く感じた。
次の瞬間、扉に何かがぶつかる音が。そして、扉が吹き飛んだ。

古泉「無事でしたか?早く部屋の外へ!」

長門「・・・サンダー」

長門の魔法で弓兵が吹き飛び、流れ弾も古泉の鎧に弾かれる。
心を落ち着けた俺は、左手の弓を引き絞った。

ワグナー「ぐあっ・・・」

キョン「やったか!?」

俺の矢は僅かに狙いを外し、ワグナーの左肩を貫いた。ふらつきながら逃げるワグナー。
それと同時に、館のあちこちで怒号や悲鳴が上がる。どうやら俺たちの軍が攻撃を開始したようだ。

ワグナー「わ、私の・・・完ぺきな計画が・・・」

キョン「甘い、もう少し演技を磨いてくるんだったな」

十歩の距離まで近づく。
今度は外さなかった。

ハルヒ「ありがとう、よく知らせてくれたわね」

キャス「いいのいいの。戦場ではお互いさまよ。それに、色々な物もあるし・・・」

ハルヒ「あなたは盗賊だったわね。まあいいわ、今回は目を瞑ってあげる」

キャス「あなたは太っ腹ね!バイバーイ」

キョン「いいのか?この館、けっこう宝は多いはずだぞ」

ハルヒ「問題ないわよ。ねえ、喜緑さん?」

喜緑「はい。これを見て下さい」

キョン「これは・・・とうぞくのかぎですか?」

喜緑「さっきあの子のポケットから頂いておきました」

キョン「酷っ」

キャス「やられたー!!」

喜緑「途中でこんな子を拾いましたよ。サカの人らしいです」

スー「わたしも共に戦わせて。ベルンと戦うことは、じじたちを助けることになるわ」

長門「私たちが向かっているのはオスティア。サカとは逆方向・・・」

スー「構わないわ。たとえ何処にいたとしても、母なる大地が無くなるわけでもなく、
    父なる天が消えるわけでもないから」

キョン「何か独特の空間が出来てるな、あそこは」

古泉「大変です!オスティアで内乱が発生したとの報告が入りました!」

ハルヒ「何ですって!」

古泉「親ベルン派がオスティア城を占拠、城を取り戻そうとする勢力と、
    激しい戦いを繰り返しているようです」

キョン「佐々木は無事か!?」

古泉「反乱軍の捕虜になっているようですね・・・」

ハルヒ「こうしてはいられないわ。オスティアへ急ぐわよ!
     みくるちゃん、クラリーネ、アホ神父は負傷者の治療、行軍しながらね!」

みくる「はっ、はい!」

クラリーネ「わかりましたわ」

サウル「できれば女性兵士を多く回していただけますか?」

キョン「阿呆」

キョン「しっかし強行軍ばかりだな」

古泉「原作をプレイした時も、そのことが気になりました」

キョン「ハルヒは戦術家としては優秀だが、戦略家には向いてないな」

ハルヒ「古泉君、敵将と兵の規模!」

古泉「大将はレイガンス、オスティア重騎士でおそらく一番のつわものでしょう。
    副将はデビアス、こっちは僕と同等かそれ以下です。
    敵の規模は重騎士が50前後に騎兵、魔道士、弓兵、軽装歩兵あわせて200!
    また、ベルン竜騎士が数機目撃されています!」

ハルヒ「私達の現在の兵力は!?」

古泉「騎馬兵30、傭兵部隊が30、重騎士15、魔道師5、弓兵10、軽装歩兵20で合計110!」

ハルヒ「OK,把握したわ!」

進軍中の騒音は尋常では無いから叫び合いになるのは分かるが、古泉が叫んでいるのは違和感があるな。
しかし、とんでもないことを聞いたな。敵の規模はこっちの二倍だと?
しかも相手は城に籠っている。どうやって勝てと言うんだ?

ん、伝令兵か。ああ、向うは忙しそうだから俺に渡せ。
ふんふん・・・おっ?

キョン「ハルヒ、イリアの傭兵騎士団からの手紙だ!
    俺たちの攻撃に合わせて、反乱部隊を攻撃するってよ!」

ハルヒ「数は!?」

キョン「騎馬兵20、歩兵40、破城槌五機!」

ハルヒ「分かった、今作戦を立て直すわ!」

古泉「戦場まであと約五分、隊列を整えましょう!」

ハルヒ「行軍速度落とせーっ!」

ハルヒの号令で、100を超える兵の足並みが揃う。俺は弓の弦を締めなおす。

古泉は馬に積んであった鎧を装着している(流石にあれを着たままの行軍は無理だ)。

ハルヒ「キョン!今回はあんたの部隊が鍵を握るわよ!しっかり仕事をしなさい!」

ああ、言われなくても分かってる。そう答えようとしたが声が出ない。

みくる「キョンくん、大丈夫ですか?頑張って下さいね」

古泉「あなたならきっと成功します、自信をもって下さい」

長門「あなたなら大丈夫。頑張って」

キョン「・・・おう!」

リキア一の大都市オスティアは、もはや見る影もないほどに荒廃していた。
ほんの数日の戦闘でここまで荒れるものなのか。
長門と魔道士五人は、街のがれきの中へと潜んでいる。薄い書物一冊で戦えるのは強みだな。
古泉と重騎士部隊は、敵の主力部隊と正面から衝突している。

ハルヒ「50メートル後退!」

兵の練度はほぼ互角、それなら、当然のことだが数で劣る俺たちが押し負ける。
だが、俺たちには勝算があった。

ハルヒ「キョン、そろそろ準備。古泉君、合図を」

キョン「分かった」

古泉「分かりました」

俺は十人の弓兵を連れて戦場から離れる。

古泉「重騎士部隊、中央に集合せよ!」

古泉の号令で一か所に集まり槍を構える重騎士たち。
反乱軍がそれを取り囲む。

デビアス「少数の兵を無理に固めたのは失敗だったな。
      横一列に構えていれば取り囲まれることもなかったろうに」

古泉「いえいえ、これも策のうちですよ」

デビアス「何・・・?」

反乱軍兵士「デビアス様、敵襲です!」

古泉達を取り囲む形になったデビアスの部隊は、先ほどまでの密集隊形よりは各部署が薄くなる。
そこを街に潜んでいたイリア傭兵騎士団と長門の部隊が奇襲をかけた。
奇襲を受け混乱し、真っ二つになるデビアスの部隊。
長門の魔法は重騎士の鎧も意に介さず、次々と灰に還していく。

デビアス「おのれ・・・竜騎士だ!ベルンの竜騎士を投入しろ!」

程なくして場内から上がる歓声と、この世のものとは思えない鳴き声。

翼が空気を叩く音が城壁の外まで聞こえてくる。
俺達弓兵部隊は、オスティア城の城壁の影に潜んでいた。
竜騎士と正面から戦っては勝てない。なら、出撃前に潰す。それがハルヒの策だ。
俺達弓兵ははっきり言って攻撃力が低い。だが、他の職の誰も出来ないことが一つある。

城の上を輪を描くように、五機の竜騎士が飛び回る。
もうそろそろ上昇を終え、ハルヒ達に攻撃を仕掛けるだろう。

キョン「弓、番え」

手に汗がにじむ。飛竜の雄叫びと台風のような翼の音が鼓膜を震わせる。
暴力的な音に負けないよう、俺は腹の底から力を限りに叫んだ。

「撃てえーっ!!」

俺の矢が先頭の飛竜の翼を貫く。苦痛の咆哮。飛竜が傾く。
腰の矢筒から矢を抜き取りもう一発、今度は翼の付け根だ。
飛竜撃退のための作戦、それは、翼を打ち抜いて地面にたたき落とすという、至って単純な物だった。

キョン「まだだ、まだ終わらんよ!」

三発、四発、五発、翼をずたずたに引き裂かれた飛竜は、真っ逆さまに城内に墜落していった。

ズズゥン!!

五つの墜落音と城内からの悲鳴。
高空から落とされた飛竜の巨体は、巨大な岩石の如く反乱軍を押しつぶしていた。

デビアス「馬鹿な・・・!ベルン竜騎士が、我々の軍が敗れるだと!?」

古泉「あなた方不義不忠の輩では分からないでしょうが、忠誠心は時として鋭い剣にもなるのです。
    彼の忠誠心は、並の人間とは比になりませんよ」

デビアス「くそっ、何を綺麗事を!」

逆上したデビアスの鎧の隙間を、正確に古泉の槍が貫いた。

古泉「僕も、この世界ではオスティアの忠臣ですからね。これくらいはやらなくては。
    いや、こちらでも現実でも、僕の主君はもしかしたら・・・」

ハルヒ「古泉君凄いじゃない!城内も混乱してるし、あとは一気に蹴散らすわよ!」

古泉「はい、お褒めに与り光栄です、涼宮さん」

俺たちが飛竜を、古泉が敵の副将を討ち取ったことによって、反乱軍の戦意は激減した。
戦場から逃亡する者、武器を捨てて投稿する者、数分でオスティア市街は制圧された。

ハルヒ「城門を破るわよ。破城槌、用意!」

キョン「複雑な顔だな、ハルヒ」

ハルヒ「・・・この城はね、リキア一の名城と呼ばれているの。理由を知ってる?」

キョン「いや、知らんが・・・」

ハルヒ「オスティア城はね、リキアが一つの国だった時代から数百年、
     敵の侵入を許したことが無いのよ」

キョン「へえ、それは凄いな」

ハルヒ「オスティアを守るためとはいえ、不落の伝説を私が破ることになるとはね・・・」

キョン「仕方ないだろう。それより長門、敵の数は?」

長門「喜緑の報告から推算するに、80前後。ほとんどが重騎士で弓兵も数名」

ハルヒ「随分少ないわね?」

長門「飛竜が何もできず撃退されたことによって戦意を喪失、逃亡した者が多いと考えられる」

古泉「城門突破しました。負傷兵は下げますが、それでも100以上兵は残っています」

ハルヒ「分かったわ。目標は玉座よ!突撃!」

レイガンス「城内に敵の侵入を許しただと!?ええいっ、デビアスは何をしておったのだ!
       これからわしの物になるこの城の歴史に傷を付けおって!
       と、とにかくさわぎの鎮圧を・・・おい!よく聞くのだ」

兵士「はい」

レイガンス「敵に城内で好き勝手なことはさせん。なんとしてでもくい止めるのだ!
       城の各所に兵士を配置しろ、とくにこの玉座のまわりは徹底してな」

兵士「ははっ(おいおい、あんたオスティア最強とか言ってたんじゃねーのかよ)」

レイガンス「それからあの小娘は戦いに紛れて密かに始末してしまえ!」

兵士「はあ!?ちょ、待って?」

レイガンス「落ち着け。奴等への牽制に使うつもりだったが、
       こちらの部下どもにもまだあの小娘を慕っている者が多い。
       おおやけに盾などにすると反感を買い敵にまわる危険があるのだ・・・」

兵士「で、ですが、手にかけてしまってはそれこそ非難の的に・・・」

レイガンス「だから 密かにと申しておるではないか!
       アーチャーの流れ矢にあたった事にしその罪は敵になすりつければよい!!
       ちょうど敵にあの冴えないアーチャーがいるだろう」

兵士「・・・」

佐々木「やあ、獄卒君。今日は何の要件だい?もしや処刑の日取りが決まったのかな?」

兵士「・・・これを」

佐々木「これは・・・魔道書だね。ファイアー、サンダー、エルファイアー・・・こんなにどこから?」

兵士「レイガンスの本棚から盗んできました。お望みならエイルカリバーも持ってきますよ?」

佐々木「いや、それはいいよ。まだ使いこなせないからね」

兵士「レイガンスはあなたを殺し、その罪を同盟軍のアーチャーに被せるつもりです。
    鍵は持ってこれませんでしたが、その魔道書があれば脱出は出来るでしょう。お気をつけて」

佐々木「感謝するよ。では、久しぶりの散歩といこう」

キョン「朝比奈さん、回復お願いします!」

みくる「はっ、はいい!」

狭い城内では敵を倒してもすぐに敵が来る。
のんびり座り込んで応急手当てをしている暇など無い。
だから、朝比奈さんのような回復役は非常に重宝する。

キョン「朝比奈さんは怪我はありませんね?もうすぐ大広間です。気を付けて下さいよ」

みくる「はい、キョンくんも頑張ってください」

谷口「なんで俺はあんたと組んでるんだろうな・・・」

サウル「ああ、神よ。どうかこの哀れな子羊に美しい女性の救いの手を!」

城攻めではいろいろな事があった。
オスティア侯に仕えていた盗賊とやらが仲間になったり、古泉の同僚であるものすごい巨漢のアーマーナイトが仲間になったり。

しかし、俺が一番驚いたのは、

森「どうも、通りすがりのアーマーナイトです」

キョン「嘘だー!?」

古泉「おやおや、森さんがまさかこのタイミングで出てくるとは」

森「機関の意向で」

キョン「それはもう分かりましたから。で、古泉。森さんはどういうキャラの位置だ?」

古泉「アーマーナイトの『ウェンディ』。ボールスの妹です」

キョン「ボールス?それは確か・・・」

古泉「僕の位置ですね。これは困りました」

森「では、何と呼んだらいいかしら。お兄様?兄上?お兄ちゃん?」

古泉「お兄様でお願いします」

森「お兄様、はがねのやりを貸して頂戴」

古泉「はい、少々お待ちを」

キョン「いつの世も、兄は妹に振り回されるのが常か」

ハルヒ「レイガンスの情報は?」

古泉「アーマーナイトの上位クラス、ジェネラルです。
    圧倒的な装甲は、生半可な攻撃はすべて跳ね返します」

ハルヒ「どれくらいの力ならいける?」

古泉「谷口君でかろうじて傷が付くかどうか。
    アーマーキラーを使えば戦えない事も無いでしょうが・・・相手は槍の達人。
    剣では分が悪いですね」

ハルヒ「分かった。私が行くわ。キョン、レイピアを持ってきて!」

キョン「おい、本気か?」

ハルヒ「本気よ。私のレイピアなら、いくら装甲が厚くても問題じゃないわ」

キョン「だからって、お前一人じゃ無理だ。俺も付いていく」

ハルヒ「それこそ無理よ。あんたの弓が通用すると思う?石をぶつけるのと変わらないわよ」

キョン「でも・・・」

ハルヒ「いいから。私一人で行かせて。あいつもオスティア候の仇みたいなものよ」

古泉「涼宮さんを一人で行かせたんですか?」

キョン「あそこで俺がなんて言ったらよかったんだ?」

古泉「・・・無理ですよね。ですが、涼宮さん一人ではやはり」

佐々木「それなら、僕が行こう。君達は僕の護衛をしてくれたまえ」

キョン「佐々木!無事だったのか!」

佐々木「ああ、親切な兵士に助けてもらってね。それよりも、早く行くよ。
     僕ならレイガンスに一矢報いる権利は有る。涼宮さんも納得するだろう」

レイガンス「筋はいいな、小娘。だが非力だ!あまりにも非力だ!
       わしの鎧をその細腕で貫けると思うなぁ!」

ハルヒ「くっ!せめて三秒狙いをつけられれば・・・!」

レイガンス「小物をいたぶるのもそろそろ飽きた。とどめを刺させてもらうぞ!」

二メートル近い巨体のレイガンスが、三メートルはあろうかという槍を振り上げる。
五メートルの高さから振り下ろされる槍の穂先、直撃すれば死は免れない。

ハルヒ(かわせないっ・・・!ならば防御、いや、レイピアじゃ無理!)

ハルヒ(殺られる!?)

ガキィン!

新川「御自重ください涼宮さん。あなたはこの軍の総大将、命を粗末になされては困ります」

ハルヒ「新川さん!?」

レイガンス「誰だ、貴様は!?」

新川「どうも、通りすがりのパラディンです」
新川「力は有りますが、今一つ正確さに欠ける攻撃ですね。鎧に頼っていてはいけませんよ」

レイガンス「くそ、何故あたらん!ぬあああああ!」

新川「ほら、また隙が出来た」

レイガンス「貴様、何故攻撃してこない!わしを愚弄しているのか!」

新川「あなたを倒すのは私の役目ではありません。ほら、そこにいる人物の仕事ですよ」

レイガンス「・・・?」

振り向いた瞬間、レイガンスの顔面が炎上した。
エルファイアーの直撃だ。

佐々木「レイガンス、よくもやってくれたね。まだ気は収まらないが、僕の分はここまでにしておこう」

キョン「うわー・・・佐々木、お前結構酷いな」

佐々木「涼宮さん、とどめを刺して!」

レイガンス「眼が!眼があっ!」

ハルヒ「・・・!」
ハルヒ(鎧の薄い部分から心臓にかけての直線・・・見えた!)
ハルヒ「はぁっ!!」

レイガンス「何故だ?ベルンに踏みつぶされるだけのお前たちが・・・何故、ここまで戦える・・・?」

ハルヒ「潰されたくないから闘うのよ。分からないの?」

佐々木「ありがとう、おかげで無事に城を取り戻せた」

ハルヒ「いいのよ、フェレとオスティアの仲じゃない!」

佐々木「ふふっ。そういえば、お父様はどうしたかな?まだあちらの戦いは長引きそう?」

ハルヒ「何も・・・知らされていないの?」

佐々木「?」

ハルヒ「ヘクトル様は・・・亡くなられたわ」

佐々木「!」

ハルヒ「ごめんなさい。私達がアラフェン城に着いた時は、もう城はベルンの支配下で・・・」

佐々木「涼宮さん、あやまらないで。あなたのせいじゃないわ」

ハルヒ「佐々木さん・・・」

佐々木「ごめん、ちょっと一人にさせて」

ハルヒ「キョン、ちょっと佐々木さんのところへ行ってあげて」

キョン「え、いいのか?」

ハルヒ「私だってそこまで我儘じゃないわよ。早くいってあげなさい」

キョン「すまんな、ハルヒ」

キョン「佐々木」

佐々木「キョンか。大丈夫、この世界の事は知ってるよ。彼女の力の産物だろ?」

キョン「ああ」

佐々木「この世界での人間関係や記憶は仮のもの、そうは分かってるんだけどね。
     この感覚は何だろう。
     自分に境遇のよく似た映画の主人公が、耐えがたい悲劇に遭っている。
     そういったものかな?」

佐々木「大丈夫、僕はそんなに弱くない。
     こういう時こそ取り乱さないようにとお父様に教えられているからね」

キョン「・・・佐々木」

佐々木「だから皆も隠したりせずにすぐに伝えてくれればいいのに。皆気を使い過ぎだよ。
     僕は結構、強いん・・・だから・・・さ・・・」

キョン「無理をするな、佐々木。泣きたいなら泣け。しばらく傍にいてやるから」

佐々木「涼宮さんはいいのかい?」

キョン「あいつにも許可は貰ってある」

佐々木「・・・なら、甘えさせてもらうよ」

古泉「涼宮さん、ご立派です」

ハルヒ「・・・仕方がないわよ」

オスティアを奪還、連合諸侯の兵で守りを固めた俺たちは、佐々木の案内でオスティア郊外の洞窟へと向かった。
なんでもそこには『神将器』とかいう武器があるらしい。

佐々木「ここにあるのは『烈火の剣』デュランダル。オスティア初代領主のローランが使った剣だ」

キョン「へー、お前のご先祖様か」

佐々木「そういう事になっている人だね」

キョン「佐々木、設定を割るような事は言うなよ。よくできたごっこ遊びだと思え」

佐々木「すまないね。皆があまりに涼宮さんに協力的なので、多少嫉妬してしまったかもしれない」

キョン「で?もう盗まれているなんてのはないよな?」

佐々木「オスティア家の者以外は取り出す方法は知らないはずだ。心配ないさ」

キョン「ハクナ・マタタ」

古泉「暑いです、いや、もはや熱いです」

森「あちこちでマグマが噴き出してるからかしらね」

古泉「森さんは暑くないんですか?」

森「ダイエットの一環だと思って我慢してるわ」

古泉「僕はそろそろ意識が飛びそうです」

森「お兄様、気をしっかり持ちなさい」

ハルヒ「あーっ!もう、暑いったらないわね!キョン、水持ってきて水!」

キョン「ぬるま湯になってるが、それでもいいならあるぞ?」

ハルヒ「もうそれでもいいわ!」

俺達弓兵や魔道士などの軽装の連中はいいとして、鎧を着けているのはみんなへばっている。
とくにゼロットさんは北国の生まれで暑さに慣れていないからか、もう瀕死状態だ。

あ、ゼロットさんっていうのは、イリア傭兵騎士団の団長だ。
実力はあるんだがどうも影が薄いんだよな・・・

長門・佐々木「ファイアー!」

山賊「熱、熱!熱いいいいいい!!」

溶岩の熱気のおかげで、ファイアーの威力は五割増しのようだ。
絶好調なのはあいつ等くらいか。

キョン「我慢大会を耐え抜いて、どうにかデュランダルをゲットしたぜ」

ハルヒ「ばんざーい・・・」

キョン「誰に持たせる?というか、使える奴がいたか?」

ハルヒ「いないわねー・・・谷口ーちょっと来なさーい」

谷口「WA?」

ハルヒ「口あけてー」

谷口「あ」

ハルヒ「えいっ!」

ハルヒは きしのくんしょうを たにぐちの くちの なかに たたきこんだ!

谷口「涼宮何をする!?・・・うお・・・?あっがっむあっ!?」

キョン「何だ?何が起こってる・・・?」

たにぐちは おおかみおとこに すがたをかえた!

国木田「毛深ーっ!てかキモいよ谷口!」

ハルヒ「クラスチェンジしたわねー?それじゃ、デュランダルもついでに持ってて」

キョン「CC?これCCなの!?ただの狼男だろこれ!?」

ハルヒ「私水のんでくるからー・・・」

谷口「・・・」

キョン「とりあえず、毛は剃り落そうな」

今、俺たちは、とてもまずい状態です。
オスティアを取り戻し、神将器を手に入れ、野営のため市街に陣を敷いていました。

それが・・・

キョン「なんでこうなる?」

古泉「なんででしょうね?」

ナーシェン「ご苦労だったね。あのレイガンスとかいうバカどもを倒してくれて。手間が省けたよ。
       さあ、おとなしくオスティアとオスティア公女を渡してもらおうか」

ハルヒ「前者はともかく後者は何?」

ナーシェン「私の趣味だ」

ハルヒ「冗談じゃないわ!」

ベルンの精鋭部隊にぐるりと取り囲まれ、一触即発の状態です。たすけてお母さん。

キョン「さて、現実逃避はほどほどにして、この状態をどうするかだ」

長門「・・・帰ってきた?」

古泉「おかえりなさい。あなたが正常でなくては、話がうまく進まないのですよ」

キョン「すまんすまん。どうするんだ、ハルヒ?」

ハルヒ「何もしないわよ」

ナーシェン「くっくっく・・・諦めたようだな」

ハルヒ「勘違いしないでくれる?」

ハルヒ「私達は何もしない、そういってるのよ」

ナーシェン「!?」

ベルンの竜騎士を100以上の弓兵が取り囲んだ。
その後ろには魔道士が、これも100人近く待機している。

兵士「ナ、ナーシェン様!エトルリア王国の大部隊がっ!」

ナーシェン「ええいっ、そんなこと見ればわかる!一体なぜ・・・」

???「その質問は、私が答えよう」

現れたのは、金髪の長身、黒い鎧に紫のマントと、美形という概念を絵にかいたような男だった。

パーシバル「私はエトルリア王国騎士軍将パーシバル。
        先日、魔道軍将セシリアを通してオスティアから我が国に保護要請がなされた。
        遵って、オスティアは今よりエトルリア王国の保護下に入る」

ナーシェン「な、なにぃ・・・」

セシリア「私は、エトルリア王国魔道軍将セシリア。ご不満なら一戦交えてもよろしくてよ
      もっとも、そのいかめしい竜騎士だけでこの数を相手にできるのかしら?」

ナーシェン「ぐっ・・・おのれ・・・おのれっ!」

兵士A「ナーシェン様、短気はなりません!パーシバル将軍はエトルリア王国きっての名将。
     それに魔道軍が加わっているとなれば、われら竜騎士だけで戦うのは分が悪・・・」

ナーシェン「うるさいっ!私は三竜将の一角だぞ!あの程度の敵に負けるはずが」

兵士B「・・・引き上げるぞっ!!」

ズリズリズリ・・・

ナーシェン「こら待てっ!私を誰だと思っている!放せ、放せってば・・・」

兵士A「どうもっ、お騒がせしましたー!」

パーシバル「フェレの公女、ハルヒ殿か?」

ハルヒ「はい、亡き盟主、オスティア侯より軍を任されています」

おお、ハルヒが敬語を使っている。
なかなか見られない光景だな。

俺のところにはセシリアさんがやってきた。
あれだな、えーと・・・なんでこの人は南斗最後の将みたいな兜を被ってるんだ?

セシリア「ちょっと来てくれますか?他の人がいないところがいいな」

何?俺殺される?うっかりそんなことを考えてしまった。
だって怖すぎるだろうこの兜。
フルフェイスタイプだからコーホー呼吸音もしてるし。

セシリア「あんまり怖がらないでくださいキョンくん。あ、この辺ならいいかな」

キョンくん?俺名乗ったっけ?

セシリア「私ですよ、私。お久しぶりですね、キョンくん」

兜を外して出てきた顔は・・・

キョン「朝比奈(大)さん!?」

みくる大「なぜか私も巻き込まれちゃいまして。でも、おもしろそうだからいいかなあって」

キョン「顔を隠すにしても、もっといい方法は無かったんですか?」

みくる大「多分あったと思うけど・・・近くにあったのがこれだったから」

キョン「仕方が無いですね。やっぱり正体はばれちゃまずいんですか?」

みくる大「まあ、ゲームの中の事ですんで、ごまかせない事も無いと思うんですけどね」

キョン「で、何か用ですか?」

みくる大「そうそう、これから西方三島っていう所に進軍することになるんだけど、もう聞いた?」

キョン「いいえ、まだ聞いてませんけど」

みくる大「その話はそのうち涼宮さんから聞いてね。
      えっと、それで、この軍がちょっと困ったことになるかもしれないの。
      キョンくん達は途中でエキドナって人に会うはずなのね。
      その人にこの紙を渡してほしいの」

キョン「これですか?何も書いていないような気がしますけど・・・」

みくる大「紙自体が意味をなす暗号になってるの。よろしくおねがいね

そういうと朝比奈(大)さんは、またあの兜を装備してコーホーいいながら歩いて行った。

キョン(怖えー・・・)