ミニストーリー小説

Last-modified: 2024-04-22 (月) 13:47:38

無条件の愛情

私は…恐らく物心付く前から、
お母様や、その彼氏様に暴力を振るわれて来ました。

暴言やキツい発言はいつものこと、
時には野宿をしなければいけない程、家に帰ってくるなと
汚物の居場所は何処にも無いと、言われてきました。

___私の目の色が、左右で違うこと
それを最初に知ったのは、まだ幼い頃
お母様が激怒し、鈍器で窓を割ったあの時。

散らばる硝子の破片に、私の顔が写って
初めて自分の顔を視認した。
左右の目の色が違うのは、直ぐに変だと分かりました。
お母様の顔は、良く見ていたから。

最初は、何でだろうって思ったんです。
お母様も彼氏様も、顔も知らなかったお父様もきっと、
両目とも同じ色でしたから。

でもそうやって考えていたら、
頭を乱雑に掴まれ、髪を上に引っ張られて…
落ちていた硝子の破片で顔……恐らく、右目を、刺されそうになったんです。

咄嗟に腕を顔の前に出したので、目には刺さらなくて済んだんですが、
左腕の、少しだけ深いところに刺さってしまったみたいで。

その後頑張って一人で抜いたんですが、血が沢山出てしまって
何も知らない私ですら、患部を抑えて気休めの止血が出来た程、危機感を感じました。
7歳以降、初めて泣いたのがこの時です。

ですが、やはり私は、怖くありませんでした。

私が怖がったのは怪我と死であり、
いつの時も、恐怖の対象はお母様ではありませんでした。


少し前に、聞いたことがあります。
「家族には無条件の愛情がある」___と。

私も、そうだったのでしょうか。
私も…お母様を、愛していたのでしょうか。


___レイラ様。
レイラ様と出会ってから、毎日が楽しくて。

家が暖かいなんて、知りもしなかったのに。
恋人の愛らしさまで知ってしまって。

ねえ、レイラ様。
私、レイラ様と出会って、そして初対面のお父様に暴力を振るわれて、
初めて、それが「怖い」と思ったんです。

拳が自分の頭の少し上にあること、
それがもう少しで振り下ろされるのが分かること、
また、あの痛みが来ると、分かってしまうこと。

今まで全く怖くなかったものが、
レイラ様と出会って、愛を知って、初めて怖くなりました。


そして、「無条件の愛情」も、理解しました。


レイラ様が『お母様』を何度も銃で撃ちつけていて。
最初も、さっきも、あんなに怒っていたのに。
「ああ、『お母様』のことが、好きなんだな」
と、思ったんです。

無条件の愛情。

ただ、君が「親」であること。
それだけで。


『それだけで、私は』

『お母様を、お父様を』
『愛していましたよ』


【愛してます】。

その言葉が言えないなんて、もどかしいですね。
“あの音”の後も、こんな気持ちになるなんて。

…そんな顔を、するなんて。


ああ、お父様は、本当に私のことが


…嫌い、なんですね。