第一部.定理28

Last-modified: 2007-07-15 (日) 16:57:21

第一部.定理28

有限で、しかも条件を決められてしまっているどんなものごとも、何らかの原因がそいつの存在や動き方を条件づけなかったら、(たかだか有限で、しかも条件を決められてしまっている程度の)そいつ一人だけでは存在することもできないし、動き方を自分で決めることもできやしない。そして同じように、その原因となるものごとの方だって、存在することとどのように動くかを、また別の原因によって条件づけてもらわなければ、やっぱり存在することもできないし、どう動くかを条件づけられることもできない。と、この調子で永遠に繰り返す。

理由

  1. 存在することを条件づけられ、どう動くかを条件づけられているものごとっていうのは、結局一つ残らずが条件づけているっていうことを第一部.定理26と[[第一部.定理24が正しいとすると?]に書いたよね。
  2. でも、有限でしかも条件つきの存在でしかないようなものごとっていうのは、のどんな性質(の途方もない本質)からも作り出されないんだ。なぜなら、第一部.定理21で、のどの性質(の途方もない本性)から作り出されるものも、必ず無限で、しかも永遠になるってことを証明したんだから。
  3. このままじゃ無限と有限がつながらないままで終ってしまうけど、大丈夫。今言ったことから、性質が何らかの形で化身したと考えさえすれば、性質からものごとが生まれてきたって何の差し支えもないはずだってことがわかるから。もちろん化身したって、性質自体は変わっていないんだけどね。
  4. だから、性質が何らかの形で化身したんだったら、化身か、でなかったら性質から生まれてくるはずだし(言ったそのまんまだもんね)、でなかったら化身性質によって条件づけられていることになるはずなんだ。これが一つ目。
  5. 今度は、性質化身する原因(いま説明した一つ目でもう証明されたよね)というのは、これまた別の(有限で、しかもこいつもまた別の原因によって条件づけられている)原因によって条件づけられることになると考えていい。しかもこのまた別の原因もこれまたまた別の原因によって条件づけられて、という具合に、らっきょうの皮をむくみたいにいつまでも繰り返すことになるんだ。
    おしまい

原因はどれもこれも有限でしかも条件づけられたものなのに、これがらっきょうの皮むき運動を無限に繰り返すことで、無限と有限がつながるっていう点が面白いよね。

ある時期の現代数学でたまたまもてはやされた「カオス」にしたって、初期条件にとても敏感に反応する方程式だ(単純な式なのに、人間から見て予想もしないような結果が出る)というもので、結局ぼくがルールで定めた「原因が100%わかれば、結果も100%わかる」という前提に立っていることに変わりはない。ただ、カオスは、初期条件(原因)を人間が100%把握するのがほぼ不可能だ(人間が未来を予測することはできない)ということを、ぼく自身にも思いもよらない数学的に厳密な形ではっきりさせたんだ。
もっと大胆不敵に言えば、不確定性原理(量子力学の驚くべき成果の一つで、ある瞬間の素粒子の位置と速度の両方を完全に確定することができないという原理)も、結果はともかく、最初は「位置と速度は(実はこっそり)確定しているはずなのだが、決してそれを測定することができない」という考え方から出発したんじゃないのかな。
その意味では、ぼくスピノザの考え方は、いわゆる「ラプラスの魔(この世で起こるありとあらゆるものごとを知りつくしていて、未来どころか宇宙の終り方まで知っているとされる、数学者ラプラスが提唱した仮想上の知性のこと)」に近いんじゃないかと思われるかもしれない。
ただ、ラプラスの魔はその意味でははかりしれないほどの知性なのかもしれないけど、ぼくの言い方からすると「物質」の外側にいて、物質のすべてを把握するタイプの知性になってしまうから、ちょっと違うんだな。物質の外側にそんなものがあるわけないってさんざん否定したんだから、みんなにもそのことはわかるよね。第一、物質のすべてを知りつくしているようなものは、物質自体と同じものになってしまうはずなんだから、結局ラプラスの魔と物質を区別することはできなくなるじゃない。
物質がその性質に従って動くっていうのは、コンピューターでシミュレーションしてその結果が現実と適合するとかしないとかみたいなものとは違うんだ。物質がその性質に従って動くことは、イコールそれ自体が一種の演算で、動いた結果がイコール演算の結果になる、とぼくスピノザなら考えるね。コンピューターで計算すると、人間が生きている間どころか宇宙が終るまでかかっても計算しきれないほど複雑なシミュレーションというのはいくらでもあるんだけど(雲がどのように動くかとか、銀河が回るとどう形が変わるかとか)、現実にはそれは一瞬で結果が出ている。ぼくが考えるの無限の知性っていうのは、まさにそれなんだよね。
現実には常に一瞬で結果が出るし、常に結果が出つづけるってこと自体が、の知性そのものだし、が常に結果を出し続けていられる、無限のパワーを持っているってことなんだ。すべては物質の中に答えがあるんだけど、それは人間が未来を予測したり予言するのに都合よく使えるようなしろものじゃないんだ。その性質の一つを取り上げて、ごくごく限定された形で、せいぜい明日の天気を予測するぐらいならできるのかもしれないけどね。