死霊術師と反魂の至宝

兵士

伝令！
神殿前に死霊の軍団が出現！
上位死霊のリッチの姿もあります！

リッチ

やっとたどり着きましたか……。
すいません、話を聞いてください！
私に敵対する意志はありません。

カリオペ

わっ、リッチが話しかけてきた！

リッチ

久しぶりですね。
私のことを覚えておいでですか？

カリオペ

覚えているかっていわれても
あんた達死霊の見分けなんて
同じ顔というか、頭蓋骨にしか見えないけど。

アンナ

……えーと。
も、もしかして、死霊術師のメトゥスさんの
助手のリッチさんでしょうか……？

助手リッチ

ご明察です。
私はメトゥス様の助手のリッチです。
じ、実は皆さまに頼みたいことが……。

助手リッチ

単刀直入に言います。
メトゥス様を助けてください！

カリオペ

助けてくださいって……。
あんた達が今までしたこと、
忘れたわけじゃないわよね？

助手リッチ

それは―ーッぅぐ……はぁ、はぁ……。
ですが、このままではメトゥス様が魔神に……
操られて……しま……う……――。

助手リッチ

―ー私ハ魔神ビフロンス様ノ忠実ナル僕……。
サァ、ビフロンス様ニ仕エシ死霊タチ。
私ト共ニ、王子ヲ討チ亡ボスノデス。

カリオペ

だめだわ。全然呼びかけに応じない……。
何かに操られているみたいね。
王子、こうなったら戦うしかないわ！

助手リッチ

……も、申しわけありませんでした。
先刻は、魔神ビフロンスに
操られてしまっていたようですね……。

このように、リッチなどの高位の死霊は、
魔神ビフロンスの命令には
逆らうことができないのです。

これまでビフロンスは鳴りを潜めていた為
命令される事などなかったのですが、
ここ数日、ヤツからの命令思念が頻繁に……。

私が完全に支配されるのも時間の問題です。
そして、私だけではなくメトゥス様もまた
ビフロンスには逆らうことはできないでしょう。

図々しいのを承知でお願いさせて頂きます。
どうか、メトゥス様を助けてください。

カリオペ

助けるにしても、
どうやって助けるのよ？

助手リッチ

きっと、これがお役に立つはずです。
受け取って下さい。

カリオペ

え？　わわッ、なにこれ？
とんでもなく純度の高い魔力を感じるわ……。
ひょっとしてこれ、かなりレアもの？

バルバストラフ

ほぅ……このカケラはもしや
「反魂の至宝」か。まさか実際に
目の当たりにすることができるとはのぅ。

助手リッチ

「癒しの至宝」という宝玉が
封印された迷宮があります。

その最奥に「反魂の至宝」が封印されており、
この「至宝のカケラ」がもっとあるはずです。

――ぅっ……。
どうやら私はこれまでのようです……
メトゥス様を……お頼みします……。

カリオペ

う、動かなくなったわ。
死んじゃったのかしら？

バルバストラフ

死霊なのじゃから元から死んでおるわい。
さてこれからどうしたものかのう。
おや、この麻袋はなんじゃ？

モーティマ

あの助手リッチが持ってきたみたいだな。
もしや依頼料としてお宝でも持ってきたのか？
どれどれ中身は……うわ！　女の死体！

メトゥス

……死体？　なによ失礼ねー……。
ふわぁ。よく寝た。
――ってあれ？　ここはどこかしら？

アンナ

助手のリッチさんが、連れてきたのです。
あなたを人間に戻してほしいと。

メトゥス

そう……。
敵であるあなたたちに頼むなんてね。
そんなことができるわけないのに……。

助手から聞いたでしょ？
これから私は魔神ビフロンスの
手下になってしまうの。

それを防ぐ為に人間に戻す？
そんな面倒なことするよりも、
もっと簡単な方法があるわよ。

ここで私を完全に消滅させるの。
魔神の手下になるなんてまっぴらよ。
そんなものになるくらいなら無を選ぶわ。

さあ、ひと思いにやっちゃってよ！

王子

……。

アンナ

メトゥスさんがいままで行った罪を
今はまだ許すことはできません。

その清算は人間に戻ってから考えましょう。
いったん城に戻り、
これからのことを話し合いましょう。

メトゥス

それじゃ、状況を整理するわ。
今回、私の父上の残した日記から
私を人間に戻す方法があると判明したの。

前に読んだけど、すっかり忘れてたわ。
え？　だってこの身体を気に入ってるもの。
そんな方法を覚えておく必要ないじゃない。

父上も愚かよね。かつて魔物に殺された私を
生き返らせようとして、まずは魂だけを保存
する為に不死者にするなんて……。

誰も頼んでなんかなかったのにね……。
自分の魂を代償に魔神ビフロンスと契約まで
して……それで死んでちゃ世話ないわよ。

……え？　そんな言い方はないだろって？
わ、分かってるわよ。今回は亡き父上の
面子を立ててあげることにするわ。

だからこそ日記に記された、死霊さえも
蘇る至宝が眠るとされる「魂呼びの迷宮」に
これから向かうって話をしているんじゃない。

もちろん、人間に戻る気なんて全くないけど、
方法を知るだけでも私の死霊術の強化に
繋がるだろうから、行って損はないでしょう。

だいたいダーリン達は、
何でそんなに神妙な顔してるのよ？
ん？　助手のリッチ？

あんなのはね、魂を取り返せば
私のネクロマンシーですぐに
元通りになるんだから。心配しすぎよ。

全く。こんな面倒なことになるなんてねー。
ま、ダーリン達とこうして一緒に行動するっていう
のも、なかなかに楽しめそうね。ククク。

と、いうことでー。
一緒に「至宝のカケラ」を集めましょうね。
これから短い間だけど、ヨロシク、ダーリン♪

リアナ

ここが「反魂の至宝」が眠る迷宮です。

メトゥス

案内役ご苦労様。
まさか、あなたの一族に、
「反魂の至宝」の伝承が残っていたなんてね。

リアナ

私達の一族が語り継いできた「癒しの至宝」
と同じく「反魂の至宝」は『癒し』の力を極限
まで高め凝縮させたものだとされています。

ですが、その力はあまりに強大で……。

私達の一族は誰の目にもふれないようにと
至宝を粉々にしてこの迷宮に封印したと
言い伝えられています。

メトゥス

ごめんなさいね、父上の戯言のせいで、
先祖が蓋した釜を、末裔のお嬢さんに
開けさせる手伝いなんかさせちゃって。

リアナ

お気になさらず。もしかしたら
メトゥスさんだけでなく、世界に役立てる事が
できるかもしれないのですから。

メトゥス

はぁ～、あなたみたいな清廉な人間って、
見ているとどうしても汚したくなっちゃうわ。
探索が終わったら不死者にしていいかしら？

リアナ

愚問ですね。
私は人として王子の傍に在りたいのです。

それよりもメトゥスさん、失礼ですが
あなたは一体、何を恐れているのですか？

メトゥス

恐れている？　私が……？
何を適当なこと言ってるのかしら。

リアナ

失言でしたね。ただ、人間になる事を……、
いえ、自分が人間であったことに、
あなたが怯えているように見えたもので……。

メトゥス

――ッ！？
……ククク、バカを言わないでちょうだい。
私に怖いものなんて――。

兵士

前方より魔物の姿を確認！

アンナ

やはり現れましたね。
みなさん気を引き締めていきましょう。
王子、戦いのご準備を！

ゴブリン

ウウ……セッカク宝を見ツケタノニ、
狼ニ食ベラレルナンテ……
ツイテナイ……。

バルバストラフ

おや？
魔物の中から「反魂の至宝」の力を感じる。
どうやら飲み込んだモノがおるらしいのぅ。

ゴブリン

ニ、ニンゲン！？
宝ハ渡サナイ！　宝ハ俺ノモノダ！

リアナ

まさか「反魂の至宝」は魔物たちが……！？

カリオペ

ねえ、「反魂の至宝」を取り込んだ魔物って
もしかして強くなったりするの？

リアナ

「反魂の至宝」の伝承が真であれば、
おそらくその魔物たちを倒したとしても、
生き返ってしまうでしょう。

カリオペ

ちょっと、そんなのどう相手するのよ！？

メトゥス

「反魂の至宝」っていってもカケラじゃない。
蘇ってもせいぜい一度きりよ。
ダーリン、腕の見せ所よ。私を満足させてね。

カリオペ

あんたなんでそんな離れたところにいるのよ？
もしかして偉そうなこと言うだけ言って、
戦わないつもり？

メトゥス

当たり前でしょ？　死霊化に値しない
雑魚を何で相手しなくちゃいけないのよ？
ほら、頼んだわよ。ふふ、仲間って素敵ね。

カリオペ

便利ね、の間違いでしょ？
って、無駄話できる感じじゃないわね。
あーもうッ！　王子、やるわよ！

メトゥス

呆気ないわねー。さすがは私の仲間達♪
でも唯一の欠点は、
死んだら死んじゃう、ってところねー。

カリオペ

ったく、不死者の価値観って恐ろしいわ。
はー疲れた。しばらくは頑張らないからね。

ロイ

それにしてもメトゥスさんは
ほんとに人間に戻る気がないのでしょうか？

バルバストラフ

個々の死生観は千差万別じゃ。強要ができん。
わしにしても同門のサイラスとは延命魔法の
使用に関して随分ともめたものじゃ。

メトゥス

ほらー急がないと置いていくわよー？
早く「反魂の至宝」を手に入れて、更なる
ネクロマンシーの力をこの手に……ククク。

カリオペ

ねえねえ質問なんだけどさー。
前にあんたが王国に不死者の軍団と共に
攻め込んできた時のこと覚えてる？

メトゥス

あら、懐かしいわね。もちろん覚えてるわよ。
あの時のダーリンの強さっていったら……。
本当に惚れ惚れしたわぁ。

カリオペ

あんたさ、あのとき投影魔術の伝書を使ったでしょ。
姿がぶわっと映し出されて一方的に
喋って、用件が済んだらぼわって消えたやつ。

私にもやり方教えて！

メトゥス

な、なによ大声で……。
まあ別にいいわよ。難しい術じゃないし。
でも何に使うのかしら？

カリオペ

ふっふっふ、王子に悪戯するためよ。
それにしてもメトゥスも大胆よねぇ。
あーんな恰好でメッセージ送るなんて。

メトゥス

あんな格好って……？

ロイ

……たしかに。あれは凄かったですね。

メトゥス

ん？　え？　なによ？
たしか普段着だったと思うけど……？

カリオペ

もしかして私達と倫理観が違うのかしら？
それとも天然？

メトゥス

天然って、どういうことよ、ねえ――ッ！

兵士

前方に魔物を確認！

ケイティ

皆さん、おしゃべりはそこまでですわ！
戦闘体勢に即時移行しなさい！
王子、行きましょう！

メトゥス

あーんもう！
気になって戦いに集中できなかったじゃない！

カリオペ

だからあんたは戦ってないじゃないの！
……じゃなくて！
ほらほらーさっそくあの魔術お・し・え・て？

メトゥス

……いやよ。

カリオペ

えー！　なんでよ！　約束が違うじゃない！

メトゥス

ふん。
あなたたちが私をからかうからよ。

カリオペ

うぅ……メトゥスのばか。

ロイ

勉強熱心のようですな。
投影魔術なら私も少し心得があります。
お教えしましょうか？

カリオペ

……なんか眼がいやらしいから遠慮しておく。
あッ王子ぃ！　ちょっとちょっとぉ！
この前のあれなんだけどさぁ――……。

ロイ

私の優しい眼差しにそのような
言いがかりをつけるとは……。
私はこれでも王国魔術師だというのに……。

メトゥス

退屈ねー。
誰か死霊になりたいって人はいないの？

カリオペ

よくそう言ってるけど、人を不死者にするって
そんなに手軽にできちゃうわけ？

メトゥス

手軽とは失礼ね。私だからこその芸当なのよ。
……いいわ。実際に見せてあげましょう。
そうね……そこのあなた、ちょっと来なさい。

ミーシャ

わ、わたしですか？

メトゥス

怪我してもアナタの自慢の回復力なら安心
でしょ？　いいから早く来なさい。別に本当に
死霊にするわけじゃないのだから。

ミーシャ

うぅ……自分の回復力が恨めしいです……。

メトゥス

まずはコこうして、首をヲ、く、首を……ッ？
うそ、うそでしょ？　この私が――が、ぁッ！

ミーシャ

ひぅッ――いた、いたい、です……
メトゥス……さん、はな、して……ッ！？

バルバストラフ

いかん！
メトゥスがビフロンスに操られておる！
ミーシャを引き離すのじゃ！

兵士

伝令！
斥候が魔物の襲来を確認した模様！

アンナ

こんな時に……。
王子、とにかく迎え撃つしかないようです！

メトゥス

ハァ……ハァ……な、なんてこと……、
この私が……他者に操られる……だなんて……
身体の震えが止まらない。これは、なに……？

リアナ

それが恐怖というものです。

メトゥス

恐怖……私が、ビフロンスを、恐れている？
こわい……こわいの……ねえ、どうしたら……
私、どうしたらいいの……？

バルバストラフ

ようやく事態の深刻さを理解したようじゃな。
答えはもう決まっておるじゃろう？

メトゥス

……人間に、戻る……戻らないと……、
私が、私でなくなってしまうわ……。
でも……戻るなんて……。

アンナ

まだ、そのようなこと言っているのですか？！
あなたのお父さまや助手のリッチさんはこの状況を
避けようと努力をされていたのですよ！？

メトゥス

……怖いわ……こんな感情があるなんて。
私、知らない……未知は……こわいの……。

王子

……。

バルバストラフ

しばらくは抱きしめてやるのがよかろう。
恐慌に陥ったメトゥスの意識を
おぬしが繋ぎ止めておくのじゃ。

王子

……。

アンナ

メトゥスさん……。
あまり時間はありませんが、
少しの休憩後、進軍を再開しましょう。

リッチロード

このあたりから、
配下の声が聞こえたのだが……。
駆けつけるのが遅かったか。

リッチ

うう……あんな所で俺が転ばなければ……。
すまない、兄さん。

リッチロード

残していくこともできんだろうに……。
チャンスはまた来る。汚名はそこでそそげ。

リッチ

チームっていいもんだな……兄さん！

リッチロード

おお、弟よ……。
野盗には真似のできぬ絆の力を今こそ――ッ？

モーティマ

は――はッ、ハッブショッ！　……うう。
しっかし、冷えるなここは。
死体の化け物が近くにいるからかぁ？

リッチ

や、やつら、山賊だッ！　物凄い筋肉だよ！？
脳筋野郎は苦手なのに……どうする兄さん？

リッチロード

臆するでない弟よ！　頭と骨を使うのだ！
自惚れの力自慢達など我らの敵ではないわ！

モーティマ

出やがったな、リッチどもめ！
墓場までブッ飛ばしてやるぜ！　オラァッ！

コンラッド

いくぞ野郎共！　山賊の戦いを見せてやれ！

ロロネ

たぁッ――！　よし、これで全部仕留めた。
手ごたえのないヤツらだったな。

コンラッド

弱いも何も、もともと死んでるからな。

リッチ

うう……こんな筋肉馬鹿たちに負けるなんて。
悔しい、くやしいよ、兄さん……。

リッチロード

泣くな弟よ。我が主ビフロンス様が、
すぐに新しい肉体をくださるはずだ。
その時こそ筋肉への復讐を果たすのだ！

リッチ

うん！　また兄さんの弟に生まれるよ！
兄さんの……おとうと……に……。

リッチロード

お、弟よぉぉおおおおッ！
待っていろ、山賊め……骨よりも強い筋肉など
ありは……しない……の……だ――。

コンラッド

ふぅ。しっかし疲れたぜぇ
老体にはちょいと厳しい相手だったな。
あー腹減ったなぁ。

モーティマ

今日はおごるぜ山賊王！
朝日を拝むまでしこたま飲もう！
ガッハッハッハッハ！

アンナ

それにしても、この迷宮はどこまで
続くのでしょうか。注意して進まなければ
いけませんね。……って。

え？！　扉が閉じてしまいました！

リアナ

……まさか、
閉じ込められてしまったのですか？

メトゥス

ちょっと！
こんなところで人生を終えたくないんだけど。
……まぁ私、死ねない身なんだけど。

でも、ダーリンが先に死んでしまって、
ずっとここに一人で閉じ込められるのは
絶対に嫌だわ！

モーティマ

落ち着け、お嬢さん。
俺らだってついてるじゃねぇか。

メトゥス

……い、嫌よ。私は筋肉よりは骨が好きだし。
それにあなた。なんだか長生きしそうね……。
あああ、このままじゃ最後は二人っきりに……！

モーティマ

話を聞けよ。……まったく。
こういう場所には必ず罠を解除する
仕掛けってのがあるんだ。

おっ。見てみろよ。
この真ん中の穴からおりれるんじゃねぇか？

ケイティ

そうですね。ですが、随分深いようですよ？
それに、なにかヌルヌルしてますわ。

モーティマ

ヌルヌル？　どれ、ちょっと覗いてみるか。
――うおっ！　こりゃやべぇ大量のスライムが
登ってきてるぞ！

アンナ

そんな！
王子、迎撃の準備を！

アンナ

扉が開いていきます……。
どうやら罠の危機は脱したようですね。

モーティマ

まったくあぶねぇところだったぜ。
全員ヌルヌルまみれになるところだったな。

メトゥス

本当だわ。
それに、私だけずっとあそこでヌルヌルと一緒に
過ごす羽目になるところだったわ。

あのヌルヌルって骨もないし、
死霊にしたって、全然役立たずだわ！
さ、先へ進みましょう、ダーリン？

メトゥス

（人間に戻る……それは、死を内包した存在
にも戻るってことよね？　支配を恐れるか、
死を恐れるか……。私は……。）

カリオペ

メトゥス、やっぱり元気ないね……。
そりゃあそうよね。自分が操られたんだもの。
力になりたいけど、どうしようもないわよね。

バルバストラフ

悩むことも時には重要。
思索なくして、決意は生まれ得ぬものよ……。
今はただ見守るしかなかろうて。

？？？

―――フフフ、悩む必要などありませんよ。

カリオペ

だ、誰よッ！？

リッチロード

私はビフロンス様の忠実なる配下の一人、
リッチロード。主の命によりメトゥス様を
お迎えにあがりました。

メトゥス

追っ手を差し向けてまで魂を求めるなんてね。
ビフロンスも見る眼はあるようじゃない。
だけど、私の魂はそう安くないのよ。

リッチロード

苦悩、煩い、恐怖……あなたを取り巻く
負の楔は、ビフロンス様への忠誠ひとつで、
すべて取り除かれるものなのですよ？

メトゥス

耳障りな台詞を並べ立てないでもらえるかしら？
お喋りなリッチってキライなの……。
私の魂がほしいなら、もぎ取ってみなさいよ。

リッチロード

仕方ありませんね……。
我が主は私にこうも言っていました。

『生死は問わぬ』とね。
我が主ならが実にユーモアがある。
不死者に生死を問わないとは……くくく。

バルバストラフ

威圧感が増しよったわい……。
気をつけることじゃ。
あやつ、ただのリッチではないようじゃぞ。

リッチロード

フフ、ビフロンス様より与えられた
この強大な力をもって、
貴方達を殺し尽くして上げましょう。

助手リッチ

コロス……人間ハ、ミナゴロシダ……。
我ガ主ビフロンス様の御心のママニ……。

メトゥス

あら！　あなた達ッ！！　生きてたのね！？
もうっ！　どれだけ心配させるのよ！
少しだけだけど寂しかったのよ？

って、そうよね。魂が残っていれば
何度だって蘇るのが不死者ですもの。
あぁ、私ったらそんな単純なことを――。

助手リッチ

誰ダ、貴様ハ？
死霊ガ……ナゼ人間に与スル？

メトゥス

――ッ！？　何を……言ってるの？
私よ！　メトゥスよ！　あなたのマスター！
……ほんとうに、覚えていないの？

助手リッチ

訳ノ分カラヌ事ヲ……。
出来損ナイメ……コロシテヤル。
役立タズノ不死者ナド必要ナイ……。

メトゥス

……うそよ。
だって、あなたは私の死霊で。
私はあなたのマスターで……こんなことって。

助手リッチ

……め、トゥス、さま……？
メトゥス様ではないですか……ぅッ、ぐぐ……。

メトゥス

待っていなさい！
すぐに私が魂への支配を上書きしてあげるわ！
はぁぁあッ――！

助手リッチ

……コロス……ち、ちがう……めとぅす……。
……ビフロンスサマ、今、貴方様ノ下へ、
還リマス……。再ビ、新タナ屍体ヲ私ニ……。

バルバストラフ

駄目じゃな……。
助手の魂がビフロンスの下へ還ろうとしておる。
これほどまでにビフロンスの力が強大とはのぅ。

メトゥスよ、聡明なおぬしなら残った手段は、
もう理解しておるのじゃろう……。

メトゥス

信じないわ！
私のネクロマンシーは、完璧なの、にっ……。
なんでよ……私は最強の死霊術師なのよ！？

バルバストラフ

現実を見るのじゃッ！　おぬしの我が儘で、
あやつを永遠に苦しめるつもりか？
おぬしにしか救う事はできないのじゃぞ！

メトゥス

……このリッチはね、私のネクロマンシーで
最初にこの世に生み出した不死者なの。

カリオペ

……メトゥス？

メトゥス

ただ嬉しかった……父上も母上もいない、
孤独な不死者となった私にとって、
こいつは家族以上の存在だった……。

でも……だからこそ、私なのよね……。
あなたを完全に消滅させるのは、
他の誰でもない、私にしかできないこと……。

バルバストラフ

皆、下がるがよい。
不死者の創造主のみが行使できる、
滅びの術を使う気じゃ……。

メトゥス

……汝を造りし、主メトゥスが命ずる！
汝、骸なれば骸に還るべきなり！
はぁあ……ッ！

助手リッチ

――ぁぁ…ぁ…メトゥス様……有り難うございます。
……お泣きになることは……ないのです……。
貴方には……もう、沢山の、仲間……が……。

メトゥス

……今まで、ありがとう。
そして、さようなら……。

アンナ

……。

メトゥス

……大丈夫よ。
さあ、先に進みましょう。
もう後ろを向くのには、些か疲れましたわ。

兵士

伝令ッ！
敵影を確認！
ど、ドラコリッチです！

ドラコリッチ

久しいな人間どもよ……。
ビフロンスの手により蘇った我の新たな力で、
貴様らの血肉を喰らい尽くしてくれるわ。

カリオペ

ビフロンスって聞いた時から嫌な予感は
してたけど、やっぱり出てきたわね……。
でも死ぬ気なんてこれっぽっちもないわ！

ドラコリッチ

解せんな……なぜ抗う？
ビフロンスは着々と不死者の配下を増やし、
世界を支配するのはもはや時間の問題だ。

それにメトゥス、貴様はなぜ我らに下らない？
ビフロンスは、貴様に永遠の快楽と
安らぎを与えてくれるぞ。

メトゥス

安らぎ……ね。不死者は死なないし、
強い主に従属すれば不安も何もないものね。
……確かに魅力的な話かもしれないわ。

ドラコリッチ

ならば今すぐにでも――。

メトゥス

でもお断りよ。
だってそこに自由はないもの。
それに私、ビフロンスにむかついてるの。

ドラコリッチ

な、なんだと……ッ！？

メトゥス

だって、ダーリンを不死者にして
永久のアバンチュールを、っていう
計画を台無しにされたのよ？

だけど一つ感謝してるわ。
だって、新しい夢ができたんですもの。

それはね、完全に人間の女性となって、
限りある人生を余すことなくダーリンに捧げ、
死ぬまで添い遂げるっていう夢よ。

それって、不死者にはマネの出来ない、
とっても素敵なことだと思わない？

ドラコリッチ

ふん……とんだ愚か者のようだな。
不死者の風上にもおけぬわ。
貴様だけは塵も残さず葬ってやろう。

メトゥス

残念ながら、私はもう「不死者」とは言えないのよ。
体も温かくなってきたし、人間に近づいてきてるわ。

ビフロンスの下に還ったら伝えてくださる？
「私は2度と貴方のいいなりにならない」ってね。

ドラコリッチ

たかだか死霊術師に我が敗れる……だと？
だがこの魂が潰えぬ限り我は何度でも甦る。
次に会う時が貴様らの最後だ……。

アンナ

ドラコリッチの消失を確認。
脅威は去りましたね。

メトゥス

あら。なんて呆気ないのかしら。
まあ仕方ないわよね。
私とダーリンとの愛は無敵ですもの！

リアナ

メトゥスさん、すっかり人間らしくなられましたね。
私の癒しの力も届きましたし、
「反魂の至宝」が役に立って良かったです。

メトゥス

ふふ、ありがと。完全に人間に戻った私を
見れば、ダーリンはさらに惚れ直すはずよ。
ああ、ワクワクがとまらないわー♪

ミーシャ

王子を引きずるようにして
勝手に先に進んでますけど、
いいんですか？

カリオペ

まぁ何だかんだ言って、
元気なメトゥスの方がいいわね……って、
待ちなさいよ、私も王子と一緒にいくのぉー！

ケイティ

不死者の時もそうでしたが、
人間に戻ってもメトゥスさんに関しては、
気苦労が絶えなさそうですわ……。

アンナ

彼女の償いも残っています……。
ですが、きっと王子なら
清濁併せ、すべて包み込んでくれるはずです。

だから、メトゥスさんを信じましょう。
王子もメトゥスさんの事をよろしくお願いしますね。

メトゥス

父上……あなたの悲願は達せられましたわ。
私はこうして、人間に戻ることができました。

ですが、父上の命を犠牲にして、
こうしておめおめと生きているなんて、
さぞ無様に思われるでしょうね……。

メメント

……そんなことないよ！

ボク、メトゥスのお父さんは、メトゥスが
人間になって良かったって喜んでると思う……。
それに、その為に――……。

……なんでもない。過去は変えられないもんね。
でもねメトゥス、これからメトゥスがどう生きるかで
思い出は何色にでも変わるとボクは思うよ？

永久に生きることは醜いけど、
限りある命を生きることは、きっと綺麗だよ。

メトゥス

……そうね。あなたの言うとおりだわ。
こんな顔してたら、私を救ってくれた王子にも
無礼よね。ありがとう、メメント。

メメント

そ、そんあ改めてお礼を言われると、
なんだか照れちゃうよ……にはは。

セラ

そこまでです、死霊術師メトゥス！
死者の身体を弄ぶ、貴方を断罪します！
さあ、神罰を受ける準備は、よろしくて？

アンナ

皆さん聞いて下さい！
もうメトゥスさんは私たちの――。

メトゥス

止めなくてよろしいですわ、アンナ。
あの方々の怒りは、私が過去に犯した
罪の残り火なのですもの。

フェルミ

何故あんな所に王子様たちが……？

エレット

きっと死霊にして自分のコレクションに
加える気なんだ……。
そんなの許せないよ！

フラメル

皆さん、これは聖戦です！
今こそ聖なる力を開放して敵を討ち、
王子達を神の御許へと還すのです！

メメント

これって、必要な戦い……なんだよね？

メトゥス

そうね。
これは私が人間として生きる為の通過儀礼……
そして過去と未来を肯定する為の闘いですわ。

ねえ、ダーリン……。
私を抱きしめた時から、
こうなることは覚悟してたわよね？

ダーリン

……。

メトゥス

ふふ、ごめんなさい……ダーリン。
迷惑ばかりかけて……。でも、ダーリンなら私の
全てを受け入れてくれるって信じてますわ。

エーテル

なぜ、とどめを刺さないのですか？

メトゥス

だって私はもう、不死者ではないですもの。
貴方と同じく、不可避の死を内包する者よ。
どうせいつか死ぬなら奪う必要はないでしょ？

セラ

人に戻ったからといって、
全ての罪が許されるわけでは
ありませんのよ……。

メトゥス

わかってるわ……。だから背負うと決めたの。
みそぎ捨てるのではなく、
苦しんででも王子と共に生きることをね。

フラメル

……そう、ですか。
貴方は、随分と変わられたようですね。

エレット

王子のおかげだよね、きっと。
うん、それならすごく納得できるもん。

アンナ

皆さん……。
それでは、メトゥスさんを仲間として、
受け入れていただけますでしょうか？

フラメル

……神は罪を赦す存在でもあります。
私たちは、常に主と共にあります。
ですが、今日のところはここで失礼致します。

アンナ

……行ってしまわれましたね。
心の整理にはまだ時間が必要ですね。

メメント

メトゥス……。
ボクはメトゥスの味方だからね。
傍にいること、忘れないでよ？

メトゥス

分かっていますわ。仲間、ですものね！
いつか皆にも仲間だと思ってもらえると、信じてる。
……それじゃ、皆のいるお城に帰りましょう。