論考:戦術ゲームとしてのWoT-そこに勝利の方程式はあるか?-

Last-modified: 2017-05-25 (木) 15:57:51

戦術ゲームとしてのWoT-そこに勝利の方程式はあるか?- 序章

 2011年4月12日より正式にサービスが開始されたWorld of Tanks(以下WoTと略)であるが、一般的には対戦型オンラインゲームと称されるゲームである。Wargaming.net社が開発したMOTPS(Multi-player Online Third Person shooter)であり、最大15人対15人の戦闘が可能である。
 本ゲームの主役は第2次世界大戦から戦後第2世代までの「戦車」である。「人」ではなく、純粋に「戦車」に戦闘を行わせることで、血を流さない戦闘ゲームが可能となり、対象年齢も制限する必要がなくなったと言われる。
 またゲームの基本としては、各プレーヤーがソロで戦闘を行うランダム戦、チーム戦と言える中隊戦、拠点戦、クランウォーズ等々、戦闘の種類は数種類が用意されているが、基本的な戦闘のコンセプトは同じである。
 すなわち既存の戦場(マップ)に味方と敵が配置され、双方のどちらかが全滅するか、敵味方双方の「陣地」に用意された旗(フラッグ)を獲得するか、それで勝敗が決まる。強襲戦等、フラッグの場所、数が異なる戦闘方式は存在するが、敵を殲滅するか、フラッグを取るかにより勝敗が決する点では大きく差はない。
 2011年以降、本ゲームがプレイされるにつれて、ある一定のルール、いわゆる「戦法」、「戦術」が編み出されてきた。端的に言えば、どのようにプレイ・戦車を動かせば、勝つ可能性が高まるか、という「動き方の法則性のようなもの」が経験則により編み出され、普遍化が試みられてきたのである。それは現在進行形である。
Wargaming社が戦闘フィールドとなるマップをたびたび変更したり、戦車の性能を変更したりすることにより、築かれてきた「戦術」が崩れ、弱体化してきた。そしてその度に、新たな「戦術」が生みだされてきた。しかしながら、各戦車の動き、役割によって割り振られている基本的な「動きの法則性」は失われていない。
 1対1の対戦車戦闘となれば、上記のような性能変更が持つ意味は重大である(例えば跳弾の確率、貫徹力、走行速度、旋回率の変更により、1対1の戦闘が有利になったり、不利になったりすることが挙げられる)が、全体的なゲーム運びにおいて、「戦術」は、確かにそこには存在する。
 戦車性能と同様にマップの変更についても、敵と味方双方において、より勝率の平等性を追求したマップの変更(構築物の配置、地面の状態等の変更)であり、マップの変更によってゲームの基本的進行が変化することも考えられない*1
 現在インターネット上において、基本的な戦車の動き方、各マップにおける戦車のそれぞれの動き方、役割が議論、検証され、各プレーヤーによって実践されることにより、確立されてきた。「敵がこう動いたらどうするか」、「こうきたらどのように対処するか」等々、戦術は無数に編み出されている。
 WoTは対戦車戦において、勝利を得るゲームである。いかにして合理的に勝利を獲得するかが主眼に置かれるべきゲームである。ゆえに、「勝利を得るために戦闘すること」がWoTの戦略であり、根本である。この「戦略」を実現するために、戦車の動き方という「戦術」が編み出されてきた。
このようにWoTは戦略ゲームであり、戦術ゲームと言えるのであるが、そうであるなら次の疑問が浮かぶ。すなわち、対戦車戦闘において「動きの一定の法則性」は認められるか、という問いである。
 この問いを検討する上で、「動きの一定の法則性」とは何か、ということを決めなければならない。本稿においてこの「法則性」を「定跡」と呼ぶこととする。定跡は言い換えれば、勝利の方程式である。つまり、勝利の確率を上げるための法則性が定跡なのである。
 本稿においては、「定跡」を持つ戦術ゲームの一例として将棋を対比事例として取り上げ、比較検討することにより、WoTの「定跡の可能性」について検討を行う。「定跡」は将棋の用語であるが、同じような事例は、チェス、オセロ、囲碁等々、枚挙に暇はない。
 なお、筆者は戦術ゲームについて詳しい訳ではなく、直観と主観的な感覚に基づいて本稿を組み立てており、論文の真似事の体裁をとっている。反証も十分可能であり、そのような反証に対しては、今後実践と理論的検討を重ねることにより、本稿を改善していきたいと考える。
実践については別項目にまとめているので、参照してほしい。

 

第2章 用語の定義

 本論の前に、「戦術」とは何であろうか。しばしば「戦術」と「戦略」を混同して使用している場面が散見される。この章では簡略ではあるが、「戦術」と「戦略」、さらに「作戦」や「平坦」も含めて定義を試みたい。
 一般的に戦略(Strategy)、作戦(Operation)、戦術(Tactics)の順番でマクロからミクロへ視点が移っていく、ということでこれらの用語は解釈されている。つまり、大局に立つ視点が戦略であり、それを支えるのが作戦、作戦を実行するときに必要なのが戦術ということになる。
 WoTでいう「戦略」は、「勝利を手にすること」である。この「戦略」を実現するにあたり、「作戦」を立て、「戦術」を実行するのである。ゆえに「作戦」は複数存在し、「戦術」はさらに多数立てられるのである。だからこそ、WoTは戦略ゲームであり、戦術ゲームなのである。
 「定跡」とは、多くの人の実戦経験と研究をもとに生まれた「手順」である。それは「最善」とされる。

 

第3章 WoTの概観

 WoTを概観した時、そこには2つの重要な要素を抽出することができる。マップと戦車である。まず第1に、マップは戦闘する上でのフィールドであり、この領域がなければ戦車は動くことはできない。ヒメルズドルフやルインベルクのように市街地であったり、カレリア、プロホロフカ、ステップのように自然の地形であったり、砂の川、山岳路のように起伏に富んだマップ等、多くのマップが用意されている。広さもワイドパークのように狭いマップから、ノースウェストのような広大なマップまで幅広い。構築物や木などの植物、川、水、地面によって戦車の速度、動きに制限を加えるのである。
 第2に戦車であるが、いわゆる駒である。チェスや将棋と異なり、この「駒」は基本的に自由に動くことができる。しかしながら、建物や瓦礫の状態により、動きに制限が課されることもある。急斜面の起伏、幅の狭い通路等、物理的に戦車が通行できないことがあり、完全に「自由」には動くことができない。
 さらに戦車には重要な性格が与えられている。5つの種類であり、軽戦車、中戦車、重戦車、駆逐戦車、自走砲である。それぞれの種類の戦車は速度、馬力、旋回性能が異なっており、マップに制限される動きは各々異なる。例えば軽戦車であれば、小型軽量で小回りが効き、速度も速い。他の戦車が登ることができない起伏を登り、隙間に入り込むことが可能である。逆に重戦車や自走砲などは速度、旋回性能が悪く、軽戦車の動くことができる地形でも、これらの戦車では行動できないことがある。マップに制限される動きが、軽戦車よりも多くなるのである。
 このように、WoTを単純化して見た場合、マップと戦車という重要な2つの要素が存在する。そして、フィールドであるマップは、駒である戦車の動きを制限する性格を持っており、その制限の幅は各戦車(大きく分けて5種類)によって差があると言うことができるのである。

 

第4章 比較対象としての将棋

 「定跡」を考察するため、比較検討を行う対象として、将棋を取り上げてみたい。将棋は既に広く知られているように、縦横9マスの合計81マスの盤上に、敵味方それぞれ20個の駒(歩9、飛1、角1、香2、桂2、銀2、金2、玉1)、合計40個の駒が配置される。双方とも相手の玉を取ることにより勝敗が決する。相手の戦力を殲滅することによっては勝敗は決しない。この点はWoTとは異なるが、「玉を取る」という勝敗の決め方は、「フラッグを取る」WoTに相通じる性格を持っている。
 81マスのフィールドに構築物などは当然存在しない。それゆえ、駒の動きを制限する性格は盤にはない。代わりに各駒に動きの制限を与えることで、駒の自由性が制限されている。
 自由なマップに対して動きに制限のある駒を持つ将棋、制限のあるマップと自由な駒を持つWoTは、制限のかけ方が異なるものの、ゲームとしては近いものであると言える。
 さらに将棋を考えるうえで重要な要素が、「定跡」の存在である。将棋が指される中で数多くの「達人」によって編み出された駒の動きの法則性が定跡である。定跡は勝つための戦法であり、字の通り、定まった跡をなぞることにより、より勝利に近づくことを容易にすることが目的となっている。定跡を辿ったからと言って勝つことができるわけではないが、勝つ確率を上げることができる、と言えよう。
 将棋の駒の動きは制約されているものの、各プレーヤーは自由に動かすことができる。しかしながら自由に動かすだけでは、勝利することはできない。勝利を効率に、確実に手に入れることを考慮すると無駄な動きが多く、その無駄な動きを行っている隙に、敵に玉を狙われてしまうからである。
 いかに効率的に相手の玉を取るか、そこに焦点を合わせて試行錯誤され、確立されたのが定跡なのである。この定跡も永久に固まったものではなく、時が経過するにつれて研究され、対抗策が編み出され、新たな定跡が生み出される。その意味では定跡とは書くが、流動的な法則性ということができる。しかしある時点においては、定まった動き方の法則であり、勝利を得るには最良の動き方なのである。

 

第5章 WoTに定跡はあるか?

 将棋と同じようなフィールドと駒を持つWoTであるが、定跡を見出すことは可能だろうか?結論から言えば、可能である。WoTにおいて一般的に言われているが、戦闘には序盤・中盤・終盤の局面が存在する。そしてそれぞれの局面において、各戦車の一定の動きが研究され、実践されている。
 序盤は軽戦車による偵察の動きが各マップによって決められているし、中戦車・重戦車・駆逐戦車・自走砲はそれぞれ中盤戦に向けた位置取りを開始する。これらの動きにはすべてルールが存在する。たとえば、軽戦車であれば、相手から撃たれない地形の限界があり、また置き偵察を行うのであれば、見つかりにくい箇所があり、そこへ至るルートも存在する。この動き方のルールから外れた軽戦車は開幕すぐに爆散する。ルールに沿った動きができる軽戦車は生き残り、序盤戦の戦線を構築することができる。
 中盤戦はお互いの戦力を削りあう。それぞれ序盤戦での配置に基づき、戦闘を行う。配置は固定的ではなく、流動的ではあるが、大きく配置転換をすることにはリスクが伴う。配置転換は不可能ではないが、成功する確率は低い。この中盤戦の動き方のルールとしては、相手から撃たれない地形の選択が主眼に置かれる。一見これは各プレーヤーの自由な選択のように思われるが、各マップにおいて撃たれないための動きには一定のルールが存在する。見つかりにくい、撃たれにくいルートがあり、そのルートから外れれば相手の的となり、撃破される可能性が高くなる。必ず生き残ることができるというよりは、死ぬ確率が低くなるという意味で、動き方のルールは確かに存在する。
 終盤戦は乱戦になりやすい。しかしながら、終盤戦はどちらかの陣地の近くで戦闘することが多く、ここでも動き方の法則は存在する。戦車の動きの自由度は上がるものの、生き残って勝利を獲得するための動き方は研究されてきた。その動きから外れれば、思わぬ一撃を受け、勝利を逃すことも多い。
 以上、簡単に検討してみると、WoTにおいても戦車の動きに一定のルール、すなわち定跡なるものが存在するといえよう。「このマップでは、このように動くものである」という程度の緩やかなルールである。しかしながら、自由に動いて勝利を得ることはできず、そこには緩やかな定跡が存在し、この「緩やかな定跡」は年月をかけて「達人」たちによって編み出され、実践されてきたのである。
 ただし将棋の定跡と大きく異なる点で言えば、明確な定跡が存在せず、また「見つかりにくい、撃たれにくい」という抽象的な表現であるため、この定跡の解釈は各プレーヤーによって微妙に異なるということである*2

 

第6章 WoTの不確実性

 前項において検討したように、WoTには緩やかではあるが「定跡」なるものが存在する。しかしながらWoTのゲームシステムゆえに、定跡を崩す不確定要素が2点存在する。それが15人対15人の戦闘であること、と対戦車戦闘であることである。
 将棋は1人のプレーヤーが20の駒を動かす。対してWoTは15の駒を15人が動かす。定跡が共有されていなければ、統一的な動きは不可能である。あるいは定跡を各々が「察する」ことにより、定跡を実践することが可能である。それゆえに、ランダム戦において定跡の実践はかなり困難といえよう。定跡だけでなく、戦術行動すら困難である。下手をすれば勝利を得るという「戦略」すら感じられないケースもあるだろう。ここにWoTの戦術ゲームとしての限界がうかがえる。各プレイヤーのフラストレーションもここに由来するのであろう。
 このように考えると、ランダム戦ではなく拠点戦であればこの不確定要素は排除することができる。
 第2の対戦車戦闘であるが、将棋で言えば、駒同士は戦闘するのではなく、相手の駒のマスに行けばそこにいる相手の駒を取ることができる。いわば機械的に駒を撃破することができる。そこに戦闘技術はなく、単純に手数の差である。対してWoTは、戦車同士が出合えば、戦闘が行われ、そこには戦闘技術が影響する。定跡を心得ず、対戦車戦闘が長けているとは一概には言いにくいが、いくら定跡通りに動き、戦術的に優れていようとも、対戦車戦において、動きが鈍ければ、その定跡は容易く崩れるのである。この点がWoTの戦略ゲームとしての不確実性であると言える。

 

第7章 駒同士の連携から見たWoTと拠点戦

 WoTは複数人が同時にプレイするゲームである。ゆえに、各戦車は独立して戦闘を行うが、それ以上に各プレイヤーの連携が重要となる。これは前章からも伺えることである。
 将棋の「定跡」は駒の最善の手順であるが、さらに踏み込んで言えば、各駒同士の最善の連携なのである。お互いの駒がお互いをカバーし合うことにより、自己が取られる(撃破される)ことを防ぎ、攻撃に転じさせるのである。
 このような駒の連携は、将棋で言えば棋士が一人で行う。対してWoTは棋士なる人間は存在しない。ゆえに棋士役の司令塔が必要になる。しかしながらランダム戦において、このことは望むべくもない。各々が戦術を推察し、攻撃を実行できれば、「リーダー不在」の戦闘行動は可能であり、そこに戦術を実行する余地もあるだろう。しかし、文字通り「ランダム」であるため、そのような戦闘場面は非常に稀である。ランダムであるがゆえに、音声・文字等による意思疎通、連携行動も不十分である。
 しかしながら、拠点戦となれば話は別であろう。司令塔役は必ず存在し、連携は音声、文字等で可能となる。戦術を推察できなくとも、戦術的行動を具体的にとることができるのが拠点戦である。

 

第8章 勝利の方程式は存在するか?

 以上、定跡について検討を重ねていくと、ある特定の条件がそろえば、WoTの拠点戦においては、「勝利の確率が高まる行動」が存在するように思われる。特定の条件とは、司令官役の資質、具体的連携手段の充実度合である。
 この確率を崩すのが、第5章で検討した不確実性の第2項目である。各プレイヤー(駒)の動きの優劣が、最終的に勝負の帰趨を決するということである。
 しかしながら、この言葉の用法は少々乱暴でもある。プレイヤーの優劣、言い換えれば習熟度によって、勝敗が決するということをもう少し掘り下げてみたい。
 そこには「定跡」に対する理解度、という問題がある。定跡は確立された手順ではあるが、その礎には、失敗例が多く横たわる。そこに価値がある。定跡の手順のみ記憶し、辿るだけでは、プレイは未熟であるといえよう。将棋で言えばプロ棋士は、定跡を試行錯誤の総体として認識しているため、局面に対する理解度がコンピュータとは大きく違うということである。
 すなわち、下手と言われるプレーヤーは定型的な定跡を認識できても、上手いプレーヤーと、ある局面に対する理解度が決定的に異なるということである。その場面から読み取る情報量、暗黙知が不足していれば、自ずと次場面での動きは良くない動きであることは間違いない。プレイヤーの優劣があるとすれば、まずこの点は大きな差と言えるのではないか(他には1対1の戦闘スキルという大きな問題もあるが)。
 このような「理解度」に深浅があると、勝利の方程式は存在しない。逆に言えば、この「理解度」のギャップを高い水準において埋めることができれば、勝利の方程式「なるもの」は存在し得よう。強豪クランは、このギャップを可能な限り埋め、戦術行動を高度な水準で維持できていることにより、勝利を重ねることができているのではないか。
ではランダム戦では、不可能なのだろうか?

 

終章

 以上検討を行ったように、戦術ゲームのWoTには、「理論上」、緩やかな戦術行動の「定跡」が存在する。さらに、それを勝利の方程式足らしめる条件として、①戦闘形態(ランダム戦か、拠点戦に代表されるチーム戦か)、②司令官の存在、③連携、④理解度の4つが存在することが明らかとなった。
 結論として最も重要な点は第4の「理解度」である。見たこと、出くわしたことがある局面に再度出会った時、どのように行動するか。それはマップの確認であり、敵の動きであり、味方の動きをよく見ている必要もあるし、反省と研究が必要なことである。
 失敗からの学習と改善がなければ、この「理解度」はどこまでも改善されることはない。上手い、と言われているプレイヤーはこの「理解度」が優れているのである。熟練度を上げるにはこの点を、どうにかしなければならない。

補講

あとでちゃんと文章にします。

ランダム戦において定跡はあるか?

ある。確実にある。快速か鈍足か。俯角は何度か。視界はいくらか。

意表を突いた戦術の有効性

短期的視点と長期的視点。
意図的な戦術と意図しないレミングス。

勝利の方程式はあるか?

ある。
戦術理解度が高い≒WN8が高い人たちが多い→勝つ可能性↑
戦術理解度が低い≒とまとな人たちが多い→負ける可能性↑

 

どちらでもない戦場≒戦力拮抗→方程式が当てはまったり当てはまらなかったり。
要検討。


*1 最近のアップグレードで、戦車が横転するように様式が変更されている
*2 確かに解釈は異なるが、行き着く先は同じであろう。すなわち、自分は射線が通り、相手からは撃たれない動きである