ボーイズ

• 戦車の発明国であったイギリスと初の戦車戦を行ったドイツでは比較的初期から対戦車兵器の開発も始まっていた。
  しかし当時の一般的な歩兵銃ですら人間が携行して射撃できる限界の威力と重量を備えており、
  これを以上の強化はすでに限界が見えていた。ドイツでは最初期のMauser Tank GewehrM1918が一般的なGew98を拡大しただけのものであったが、実用性に携行性を重視し比較的小口径の弾頭を高速で撃ち出すパンツァービュクセを開発したのに対し、イギリスでは大口径の弾頭を低初速で撃ち出す方向に舵を切った。
• 動作機構はボルトアクションとショートリコイルの両方の特徴を持ち、射撃時に銃身が後退することで反動を軽減する。リー・エンフィールド同様の箱型弾倉を備えるが、ZB-26のように上面から給弾し、また薬室の閉鎖はどちらかというとマウザー式に近い。ちなみにパンツァービュクセはさらに堅牢な垂直鎖栓式でほぼ砲か単発機関銃というべき構造となっている。
  チャージングハンドルはL字型で、ボルト後端にはリング状の李コッキングノブを持ち、不発時に再コッキングするか、ボルトハウジングごと引き抜いて不発弾を取り除くことができる。マガジンウェルの後側にエキストラクターストップがあり、これを押し下げながらチャージングハンドルを上側に回してロックを解除し後方に引くことで完全に取り出すことができる。
  銃床はシャシーと一体になっており、アルミニウム製で中空のストックパッドはオイルボトルを兼ねており、上面にキャップ、後端にはクッションの入ったショルダーパッドがあるが、左側面いあるチークレストは木製で固く、発射時の振動で頬や顎に当たることが多く、実際には顔を地面に対して垂直になるように持ち上げたままの姿勢で撃たなければならず不評であった。
• その重量と反動のために保持したままでの射撃は不可能とされ、橇のついた逆T字型の旋回式前脚と左手で支えつつ銃の向きを替えられる後脚(ただし前脚より短く射撃姿勢時には地面からは離れる)、そしてピストルグリップが全て銃口に向けて前傾した独特の角度で生えている。前脚は支柱部分を回転させることで高さの調節が可能で、運搬時には前方に折りたたむ。車載用のものにもこれらは基本的に付属し、車両を放棄するときにはそのまま持ち出すことが可能であった。
• 弾薬は専用設計で初期には現在の.50BMGとほぼ同じ.50口径とされたが全く威力不足であったため.55口径まで大型化し、薬莢は尾部が肉厚な帯状(バンデッド)になっている独特な形状をしている。機関部上面に巨大な弾倉がある関係で照準器は左にオフセットされ、フロントサイトに至っては1インチ以上のアームの先にある。このフロントサイトは完全な円形のガードに囲まれたスクエアノッチのもので、リアサイトは有効射程300と500ヤードの固定式で低く下げると300、高く持ち上げると500の昇降式となっている。しかし実際には100ヤード先の垂直に立てられた12mmの装甲版を貫通するのがやっとで、戦間期から第二次大戦初期の軽戦車にはかろうじて有効であったものの当時のユーラシア大陸における戦車の恐竜的進化には全く追いつくことができていなかった。このため標準のスチール弾頭より軽量高初速で貫通力にすぐれたタングステン弾頭の徹甲弾も開発されたが、資料によって貫徹力に大きなばらつきがあり、また製造数も少なく恐らく質・量ともに不十分、不均質であったと思われる。また戦時中からアリカ海兵隊ではM2HBの銃身に交換し薬室をリチェンバリングした.50BMG仕様をエレファントガン(象撃ち銃)の名で運用し、戦後も民間では多くがこの仕様に改造された。これらはもはや対戦車ライフルとは呼べない代物で、主に長距離対人狙撃や通信施設や装備の破壊に用いられた。
• またカナダのJhon John Inglis and Company(カナディアンブローニングと呼ばれるHP-35のコピーモデルで有名)で生産されたモデルはマズルデヴァイスが垂直なY字方向に排気する円形のものから左右に水平に排気するハーモニカ型に改良され、前脚がより一般的なバイポッドに、リアサイトは300mの固定式とされた。これらは扱いやすさと共にコストダウンにも大きく寄与し、MkI*としてイギリスに逆輸入され既存モデルも順次改良された。こうした改造により本来の原形を保ったMkIは極めて希少となっている。
• 第二次世界大戦末期には運動エネルギー弾を使用する対戦車ライフルは完全に時代遅れとなり、成形炸薬弾頭を持つPIATなどに対戦車兵器としての座を明け渡した。

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