真理さん/怪文書2

Last-modified: 2024-02-12 (月) 11:54:00

真理 / 怪文書1 / 怪文書2

 

ほらきた系注意っす!シコシーンはほとんどないっす!
行っちゃったぞ?ルートからご真隊取からメリバから隊長曇らせから真理曇らせまで闇鍋っす!つまり真理の魅力のノールール部門欲張りセットっす!
苦手な「」長は回れ右っすよ!


真理は寒空の下刺されるっすよ

雪が降るくらい寒いのに……だんだん暖かくなってきた……自分の血がこんなにあったかいなんて……ああ、でも何で凪がどんな顔していたかも分からなくなってきたのに……なんで、最期に隊長君の顔がこんなにも鮮明に思い出せるんだろう……そっか……杏奈ァ……私、もしかしたら……気になる、人が……

なんかこう二日酔いの朝でも食べられるようなあっさりしたやつ一品くらいが真理が唯一作れる料理っす

だから真理が泊まると朝食はいつも同じやつっすそして真理亡き後けっこうたってから、そういやあの料理しばらく食べてないな……とか思い出すっす
見よう見まねで再現できたそれを食べるのが癖になる隊長っす
ある日杏奈ちゃんがたまたま口にして突然嗚咽するっす

パシャパシャ「隊長どうですか?ちゃんと撮れてますか?」
「バッチリだぞ杏奈」パシャシャ
「じゃあこんなポーズはどうかなー?」
「ちょっと過激すぎないか?シタラが見たら卒倒するぞ」パシャリ
「そんなこと言って撮ってるじゃないですかー」
「はははすまんすまん、怒った顔も素敵だぞ」パシャパシャ
「もう隊長!」
今わたしは復帰後初めてとなる写真集の撮影中。カメラマンは私の専属マネージャーでもある隊長。本当はプロに頼む予定だったけど隊長が断った。
「とは言ったものの写真は難しいな…あいつの様には上手くいかないや」
「そりゃあ真理ちゃんはプロでしたからね!でも隊長だって頑張って勉強してるじゃないですか!」
そうだな、って隊長はカメラを撫でる。真理ちゃんがいつも使ってたあのカメラ。あの日、何があったのかを私は知らない。ただ神宮寺レポートなるものを隊長が読んでから隊長は変わってしまった。真理ちゃんのカメラを持って、私のマネージャーになって…多分真理ちゃんのことだから私のことを心配して隊長に頼んだんだと思う。でもね真理ちゃん、それじゃダメなんだよ。これは願いじゃなくて呪いだよ。こんなんじゃ隊長、いつか壊れちゃうよ…

「うん…うん…そうだね隊長……」
私はヘッドホンから隊長の指示を受け戦場を翔る。最近の敵はもはやヴァイスにとどまらない。ついにアウトランドが東京シャードに牙を向いてきた。SINの連中も動きが活発になっている。かろうじて東京シャード、アウトランド、SINの三竦みのパワーバランスを取っているが本質的にはアウトランドもSINも私たちの敵であることは違いない。いくら秘密裏に石油王の支援を受けているとはいえ私たちは徐々に疲弊している。
「神宮寺真理、帰投したよ」
成子坂地下ドッグでギアを脱着しひと息ついていると杏奈がやってきた。
「真理ちゃんおかえり、今日もちゃん戻ってこれたね」
「まーねー元東京最強としてはこれぐらいよゆーよゆー。それに隊長の指示も的確だったからねー」
あっはっはーと笑う私を見て杏奈は俯く
「……ねえ真理ちゃん、そろそろ受け入れてよ…。隊長はもういないんだよ」
「いきなり何を言い出すの?今日だって隊長は私に指示を送ってくれたよ?ほら杏奈も聞いてみなって」
そう言って私は杏奈にヘッドホンをよこした
「壊れたヘッドホンじゃ…何も聞こえないよ…」
私には杏奈の言っていることが理解できなかった

隊長おはよーってまたドローンで出勤?最近いっつもそれだよねー…たまにはちゃんと事務所に来ないとダメっしょー?部下と触れ合ってスキンシップ取らないと!あーでもでもセクハラとかそういうのはダメ!醜聞になるからね!その辺はちゃんと節度を持って貰わないと困るよー
「……真理ちゃん何してるの?」
何って隊長にあいさつ?杏奈もほら挨拶しないと!芸能人の基本でしょ!
「真理ちゃん!!(バシィ!!いい加減にして…」
痛っ…なーに杏奈いきなり隊長だってビックリしてるよー
「真理ちゃん現実を見てよ…それはただの電源の切れたドローンで…隊長はもうどこにもいないんだよ…」
杏奈は冗談キツいなー…あの隊長がいなくなる訳ないでしょ?案外ちゃっかり凪を連れてかえってきたりして?そんな上手い話はないかーあっはっはー
「凪ちゃんの時とは違うの真理ちゃん…だって隊長は真理ちゃんを庇って…」
え?あ?え?だって隊長はここにいて…ドローンで見てて…そうだよね隊長…隊長?ねぇキミキミー反応してよー…お姉さんをからかっちゃダメっしょー…あれ?なんで電源入ってないの?そうだ充電…充電しないと…ねえ杏奈ケーブル取って…隊長充電しないと…

「ねーママーここどこ?」
私は娘の手を引き都内の霊園へと足を運ぶ。あれから5年経った。最後に来たのは去年の盆だっけ。
「ここはね、ママの大切な人たちが眠ってる場所なの」
「ふーん」
聞いてもわからないといった風な娘をそばで待たせ掃除。雑草を抜き、水を撒く。隅に植えたモクセイもだいぶ育った。それだけの年月が経ったことを否応なく実感する。
「ねーママつまんなーい」
「もうすぐ終わるから待ってね」
最後に花を添え、娘と一緒に手を合わせる。
(真理ちゃん…隊長…)
5年前、二人は私に娘を預けて消えた。正確にはあるシャードで何かが真理ちゃんの身に起こりそれを追った隊長も同じように消息を絶った。AEGiSは二人をSINの活動によって死亡、と処理した。お決まりの手だ。だからこの墓の下には何もない、空っぽ。まるで二人を失った私の心のように。
(二人ともどこにいるの?ほら…二人の子はこんなに大きくなったんだよ)
最近、娘がどうして父親がいないのか、どうして私と髪の色が違うのかを気にするようになり始めた。そろそろ打ち明けなければならないのか。
(だから早く帰ってきてよ…)
そんな私を心配してか娘がギュッと手を握ってきた。

「お客さん飲みすぎですよ」
「いいんだ…もっと強いのを頼む」
週末、金曜日、俺はいつもここに来る。あの頃から変わらない、ライフワーク。でも変わったものもある。もう俺の隣に、真理はいない。バカみたいに誰が可愛いだとか、陰謀がどうとか、もうそんな話もできない。あの人を食ったような笑みも、ふとした拍子に見せる愛らしさも、記憶の中にしかない。隣の席を見れば今でも顔をにやつかせて船を漕ぐ真理の姿が思い出される。そしてそれがもう見れないということも…。
グイと残った酒を呷る。マスター次のを、と声をかけようとして誰かに手を止められる。誰だ。
「隊長さん…これ以上はお身体に障ります…」
隣を見ると深沙希が座っていた。一体いつから…。
「お店の外から隊長さんの姿が見えたので…」
放っておいてほしい。今日は酔いたい気分なんだ。腕を振り払おうとするも存外強い力で押さえ込まれる。
「隊長さんも…大切な方を亡くされたのですね…」
お前に何がわかる、と言いかけ思い出した。確か…。
「はい…隊長さんのお気持ちは痛いほど存じ上げます…」
胸の前で俺の手を抱く深沙希の手は暖かく、俺の冷え切った心は次第に溶かされていった

部屋ではスポブラパンツ一丁で寝そべり背中をボリボリかきながらテレビを見てそうなアクトレスランキングっす!

これは真理っすねただ背中じゃなくて尻を掻いてるイメージがあるっす
家の中だと気が抜けてかなりだらしない真理いいっすよね…個人的にはポニーテールにしてると良いっす…ノートPC広げて記事を書いているところに後ろから抱きついてのしかかると「あーもう暑い!重い!鬱陶しい!」とか言ってくるんすけど本気で抵抗はせずなし崩し的に密着してまぁそれもいいかなってなる真理っす…自分で作れる癖にご飯まだー?とか聞いてきたり見て見てこの写真スゴく良く撮れたんだよねーなんて言いながら小さなPC画面に表示される真理の撮った写真を頬が引っ付くのも気にせず二人であーだこーだ言うのも最高だったっす…半同棲みたいな感じで段々と二人の荷物が増えていき手狭になっていったアパートも真理がいなくなるとガランとしてこんなにも部屋広かったっけな…って感傷に浸りたいっすよね…それから真理がいなくなった哀しみを皆に悟られないようにいつも通り過ごしているんすがある日アパートのチャイムが鳴ってまさかと思いドアを開けるとそこに立っていたのは

筑前煮です…

真理がカッセルに飛んで4週間…当初は俺や杏奈に他愛ない連絡や食事の写真が送られてきたがそれもある日を境にぷつりと途切れた。杏奈は「真理ちゃんのことですから大丈夫ですよ!」とは言っていたがどうにも胸騒ぎがする。数多くの修羅場をくぐり抜けてきた真理に限ってそんなことはないだろうが。しかし俺には真理のことを心配することしかできない。ヴァイスも仕事も待ってはくれないのだ。ピンポーンとチャイムが鳴る。まさか真理が帰ってきたのか!?いやいやそんなことはない。だが真理ならサプライズと称してやりかねない。一応用心してチェーンをかけてから扉を開く。そこには深沙希さんが立っていた「筑前煮を作りすぎてしまいまして…もしよろしかったお召し上がりになりませんか?」どうして…「隊長さんはどうやら最近気を落としていらっしゃるようなので…」皆に悟られないよう振る舞っていたつもりだが深沙希さんにはバレていたようだ。
それから何日かは深沙希さんが一人暮らしの俺を不憫に思ったのかオカズを持ってきたり掃除をしてくれる。そんな日々が数日続いたある日
ピンポーン「隊長さん私が出ますね…」ガチャ
「キミキミー真理さんが帰ってきた…ぞ…」

やめろ俺には真理が…って抵抗しながらミサキさんに貪られたいっす

「隊長さんのここは…そうとは言っていないようですが…」
身体が動かない。まるで蛇に睨まれた蛙のような、全身の力が抜け意識が混濁していく。何か、盛られたのだろうか…。
「ふふ…隊長さんと神宮寺さんの間に確かな絆、愛があるのは存じ上げております。ですがしかし…」
ベッドの上、仰向けの俺の前に白く美しい裸体を晒す深沙希はその白魚のような指で剛直を撫で上げる。
「こちらの方のお世話は神宮寺さんには力不足だったのではないでしょうか?」
シュッシュと小刻みに深沙希は逸物を丁寧にしごき上げ自ずと腰が浮いていく。
「ではそろそろ…」
俺の腹の上で中腰になった深沙希はクチュリと、濡れそぼる秘所を指で開き見せつけながら腰を降ろした。
「隊長さん…隊長さん…もし私が神宮寺さんよりも早くあなたに出会っていたとしたら…」
遠くで深沙希の声が聞こえるが頭に入ってこない。とめどなく与えられる快楽に意識が飲み込まれていく。
最後に俺が見たのは深沙希さんの後ろで椅子に縛られ涙を流す真理の姿だった。
せめて心だけは…
ツーっと一筋、涙が頬を伝っていった。

「隊長…ワクワクって何のことなの…」
泣きながらほとんど酒と胃液のみの吐瀉物を何度も吐いて息も絶え絶えになった真理は問いかける…
「…ワクワクが必要なんだ…ミサキさんを育てるために…ワクワクが…おらっ!飲め真理!」
店の人が躊躇いがちにビールを運んでくる
「キミ…やめて…もう…」
本当に酔いから醒めるべきなのは隊長だが誰もその方法を知らなかった…

隊長ちょっといい?
次の真理さんと杏奈さんの出撃だけどメンバーに私も加えてもらっていい?
リンがいなくなっちゃった件で真理さんきっと本来の力を発揮できないと思うんだよね
私?私だってリンが突然いなくなって辛いけどこういう時こそリンの友達としてしっかりしなきゃって思うんだ
だから隊長 私のワガママきいてくれないかな…?

「あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙」
事務所に声が響く。
結局タクシーも捕まらず、仕方なしに泥酔した真理を連れて事務所に来たわけだが俺はその声を聞き慌てて仮眠室のドアを開けた。
「リ゙ン゙ぢゃん゙!!! リ゙ン゙ぢゃん゙どこ!?どこな゙の!?」
目の前には布団を蹴り飛ばし頭を掻き毟りながらベッドの上で暴れる真理。一瞬呆気にとられたがすぐさま俺はベッドに飛びかかる。
「いやぁああ!!離して!!!リンちゃん!!リンちゃんを!!」
なんでこうアクトレスってのは力が強いんだ。腕を掴み体重を乗せて押さえつけているのに弾かれそう。脇腹に膝蹴りをもらい左肩を噛みつかれる。俺は痛みに耐えながらひたすらリンが無事であることとこれが夢でないことを必死で伝えた。
「あ、あああ…ゆめ…リンちゃんは無事…そっか…隊長ごめん…ありがとう…ごめん…うあ…」
長いの攻防も終わり真理も正気に取り戻す。もう大丈夫かと離れようとすると真理に服を掴まれた。
「ごめん…もう少し…もう少しそばで…お願いもっと…強く抱きしめて…」
俺は言われるままに真理を抱いた。
翌日リンちゃんの「真理さんから隊長の匂いがするー」という発言で一波乱起こるのは別の話。

真理ちゃん!』『真理ちゃん?』
あれ?杏奈に凪に…どうしたの二人して?
『何言ってるの真理ちゃん?久しぶりにメリーバニーで会おうって言ったのは真理ちゃんでしょ?』
そうだった…。7年前、武道館でメリーバニー解散ライブをやって私たちは別々の道を歩き出した。凪は家庭に入り海外へ、杏奈はそのまま芸能界に残り今は独立、私は昔からの夢だったフォトジャーナリストの道へ。
『凪ちゃんもわざわざ飛行機で東京まで来てくれたんですからボーッとしちゃだーめーでーすー』
そうだよね…。今年も3人で集まれたんだから楽しまないと…。
『それにしてもまさか凪ちゃんが一番早く結婚するなんて思わなかったなー。あーあ結婚かー…憧れるなー』
結婚…。結婚か…。杏奈は気になる人はいないの?杏奈だったらよりどりみどりでしょ?
『私よりまずは真理ちゃんでしょ?真理ちゃんこそどうなの?誰か良い人いないの?』
私は別に…。このまま独身でも。あえて言うならカメラが恋人?みたいな?
『そんなこと言って真理ちゃん私知ってるんですよー…最近真理ちゃんがご執心な男性がいることを』
え?そんな人いたかなー…?

 

『ほら成子坂製作所の隊長のことですよ!真理ちゃんよく会ってるんでしょ?』
いや隊長さんとはそういう関係じゃないし。あそこは可愛いアクトレスちゃんがいっぱいいるから取材に…って何で杏奈がそのこと知ってるのよ。
『それはですねー…私もピックアップアクトレスとかの関係でよく会うんですよ!その時に最近真理ちゃんがよく来るって話も聞いちゃいました!それで真理ちゃん実際の所はどうなのですか?お答えください!』
いやほんと…隊長さんとは別に…。それに狙うとしてもライバルも多そうだし。
『おやおや~これは脈ありってことですかな~?』
もう杏奈やめてよ!凪も笑ってないでなんとか言って!って…ふふっ…ふふふっ…あっはっはー
『ど、どうしたの真理ちゃん?』
いやなんかこういうの懐かしいなーって。昔を思い出しちゃって。あの頃に戻ったみたいで。
『何言ってるの真理ちゃん。メリーバニーは永遠に不滅だよ?また来年も3人で集まろ?』
そうだね…また…今度も…3人で…。

 

……真理…真理…「むにゃ…隊…長…?」
「起きろ真理…ってどうした?泣いてるぞ?」
「夢…。なんか…とても幸せで、悲しい夢を見てた…」
「…そうか。起こさない方が良かったか?」
「うんうん…夢はいつか覚めるものだから…どんな夢でも…。ねぇ隊長…」
「なんだ?」
「私諦めないから。絶対凪の行方も了レ)ス≠〃了の秘密も突き止めてみせるから」
「……じゃあまずはしっかり自分の足で家まで帰らないとな」
「そこはキミがなんとかするところっしょー…お願い?」
「ナマ言ってないで行くぞ」
「あーん待ってよー」
………
……

杏奈…凪…今はまだ無理だけど…いつかまた3人で集まってさ…あの頃みたいに笑いあえたらいいね…

真理がなんかいろんな取材してる間に杏奈は「結婚」することになったぞ
他所のシャードにお引っ越ししたみたいだが幸せな新婚生活おくっているんだろうな!
真理?どうした悲しい顔して?
ははーん さては先に抜け駆けされたのが悔しいんだな!
こういう時は笑顔で送り出してやるもんだ!
凪の時みたくね

「神宮寺真理帰投したよー…ってありゃ?隊長がいない…怜ちゃーん」「真理さんお疲れ様。それで何?」
「隊長のこと知らない?」「隊長ならさっき地下に潜って行ったよ」
「さすが怜ちゃん!隊長のことなら何でも知ってる!」「それ誉めてるの?…どうでもいいけど」
さーて隊長は地下か。整備室より地下って確かLv.4以上の権限がないと入れなかったはず。純所属がLv.3、私たち登録組がLv.2
「で・も・お姉さんにはこれができちゃうんだなー」
私は用意していた偽装IDを使う。昇降機は整備室のさらに地下へと進んでいく。
「さーて鬼が出るか蛇がでるか」
ウィーンガチョン…チャリーン…ウィーンガチョン…チャリーン
だが私の目に映ったのは想像を絶する光景だった。人が…レバー1つで…お金に…
「ちょ…キミ…何してるの?」
見ての通りだ、と暗い瞳で基盤を操作する隊長。ガラス窓の先には沢山の人達がすし詰めになっていて…
ハラショー!!オホーアンナチャン!!オネエサマー!!ユミサンハオレノテンシ……ウィーンガチョン…チャリーン
お前らの専用装備はとにかく金がかかるからな…まぁ、そういうことだ。お前は知りすぎた(カシュッ「え?」おやすみ真理…
その言葉を最後に私は意識を失った
「さーて今日も調査に行きますかー」

目の前の女性は自分が隊長だと言う。最初はみんなバカにしていた。私たちの隊長が女な訳ない。隊長の近親者か誰かが隊長のフリをしているのだろうって。しかしブカブカのスーツを捲り腰を手に当てる隊長(仮)が自分しか知らない情報、私たちとの思い出を語り始めると空気が変わった。やはり目の前の女性は隊長なのだと。納得するしかなかった。なら次はどうして、という問題が起こる。なぜ隊長が女性になってしまったのか。それに関してはいま芹奈ちゃんや深沙希ちゃん達が総力を上げて調べている。ニーナちゃんなんかはヴァイス研にも協力を扇いでいるらしい。じゃあ私は?私は……
「おい真理!バカなことは止めろ!」
だって、仕方ないじゃない…。隊長の顔が、凪そっくりなんだよ?いや、凪じゃないのはわかってる。でもさ、仕方ないじゃん…。仕方ないじゃん…。ねぇ隊長…私のために凪になってよ…元に戻るまででいいからさ…キミと私の仲っしょ…?ほら、杏奈もそう言ってるから…ね?とりあえずこの当時の衣装着よ?メリーバニー再結成だね…

真理が帰ってこない部屋で真理が拾った猫と二人暮しして待ち続ける隊長っす

「にゃーん」
よーしよしよし…お前は可愛いな、と俺の指を舐める猫の頭を撫でてやる。数ヶ月前、産まれたばかりのこの猫を真理が拾ってきたときは何かと思った。誰が飼うのかと。俺はウチでは飼えないと主張したが2人で飼うんだと言って真理は聞かなかった。その結果がこれだ。あの日の子猫は今では両手で抱えないと持ち上げられないほどデカく成長した
「やっぱり飯を食わせすぎたのだろうか」
正直、猫の世話なんかしたことないし加減もわからずエサを与え続けたのは自分だ。でもそうしないと衰弱しきっていたこの猫がどこか遠くへ行ってしまう気がしてならなかった。今思えば真理は自分の代わりにとこの猫を置いてったのかもしれん
「そういえば名前、つけてなかったな」
胡座をかく俺の膝の上、そこがこの猫の特等席だ。猫はそこにヒョイと乗っかると大きく欠伸をして丸くなる。参ったこれでは動けない
「お前はいいよな…食って遊んで寝て…」
背中を撫でながらそう呟くとにゃあと一声鳴いた。真理が帰ってきたらこいつの名前、決めてやろう。それまでお前はただの猫だ
「にゃあ」

は?真理がアニバーサリーリングを左手に付けるわけないじゃないっすか?真理が左手に付けるとしてらこれ見よがしに婦人会や学生を煽る時っすよ。それか家で指輪を眺めながらニヤニヤと左手薬指にハメで「いやいやいや…」って顔を赤らめながら外すっす。ちなみに右手にも付けないっす。なぜならカメラを構える時やスナイパーライフルを構える時にバランスが崩れるからというプロ特有の理由っす。でも実際は弘法筆を選ばずよろしく普通に指輪をハメてても問題はないっす。つまる所色々言い訳を並べながら恥ずかしいからって理由で付けないのが真理っす。ならどこにしてるかって言うと普段は家の引き出しに入れておくかチェーンを勝手リングネックレスにしてるっす間違いないっす。そしてある日の夜寒空のなか雑踏で人にぶつかったと思ったらサイレンサー付きの銃で撃たれ路地裏のゴミ捨て場に倒れながら今までのこと、凪や杏奈そして首もとからネックレスを取り出し「ちゃんと付けた所キミに見せたことなかったな…」って言いながら事切れるのがお似合いっすが本編ではそんなこと起きて欲しくないのでピラミッドリニンさんもっと隊真理推してこ?やくめでしょ?もっとちょうだいっす

「嘘…どうして…キミが…凪と……」
真理の手には一枚の写真。太陽光ライトの人工紫外線で表面は色褪せ端々は虫食いにあったように欠けている。そこには若き日の俺の姿と、まだデビュー前、孤児院にいた頃の凪、そしてその凪の足元にしがみつく金髪の双子
「全部処分したはずだったんだがな…」
あのシスター…まだこんな写真を残していたのか。渡された写真から視線を空に移す。ペンキを塗りたくったように真っ青な空はこのシャードが作られた箱庭だということを否応なく意識させる。
「どうして…どうして言ってくれなかったの…ッ!!」
顔を歪ませ様々な感情を全部鍋で煮詰めたような表情の真理の叫びが木霊する。
「お前だけには知られたくなかった」「でもツ…知ってたら私…キミと」
「真理…今の成子坂はどうだ?」「え?」
「楽しいか?」「う、うん…」
俺もだ。俺は彼女たちが好きだ。守ってやりたいし力になりたい。それがあの日に建てた凪への誓いだ。
「誓い…」「その中には真理、お前も含まれている。共犯者にだってなってやる」
そう告げると真理の瞳からは堰を切ったように涙が溢れ地面に座り込む。真理が落ち着くまで俺は彼女の背を撫でていた

ガチャリ、とドアを開けると電気が付いていた。玄関には無造作に脱ぎ捨てられた男物の革靴。外から何となくわかっていたが彼がいる。その事実が嬉しかった。
私は靴を脱ぐと彼の分と共に並べる。ぴったりと二足の靴を隣合わせにするとまるで相棒、いや夫婦みたい、なんて苦笑い。
ひんやりとした廊下を歩く。リビングのドアを開くと暖かな空気に包まれる。そしてジュウジュウと音を立てるフライパン。
「おう真理おかえり。勝手にあがらせてもらってるぞ」
普段は使わないシステムキッチンで彼が出迎えてくれる。
「キミキミぃ~女の子の部屋に勝手に入っちゃいけないんだ~」
嘘。本当はスゴく嬉しい。毎日帰りを待っていてほしいくらい。
「そろそろ帰ってくると思ったからな。よかった。夕飯ならもうすぐ──」
私はバッグを床に落とすと彼に駆け寄り背中に抱きついた。
「──おい真理今調理してるから」
温かい、大きな背中。少しだけ、もう少しだけこうしていたい。それを察して彼はコンロの火を止める。
「ただいま、隊長」
やっと言えた。言いたかったこの言葉。でも顔は見せられない。いつか面と向かってちゃんと…
「おかえり真理」
うん。ただいま。

「わーいわーい見て見て真理ちゃん!隊長に指輪貰っちゃったっ!」
杏奈は私に右手薬指に付けたアクアマリンの指輪をそれはもう嬉しそうに見せてくる。その笑顔は見るものを魅了し皆を笑顔にしていたメリーバニー時代の杏奈そのもの。私もその笑顔に釣られて笑みを零す。
「やっぱこれってさーソウイウコトなのかな真理ちゃん!?」
ソウイウコト。女性に男性が指輪を贈るということ。その意味がわからないほど私たちはウブでもないし若くもない。
「いやいや~杏奈の勘違いかもよ~?」
と私は釘を刺す。だってあの隊長のことだ。何を考えているか私にも測りきれない。
「でも折角みんなの中から私を選んでくれたんだからお礼しないとっ!隊長にはいつもお世話になってるし!そうだ!お米の美味しいあの店に誘うよ真理ちゃん!そうと決まれば早速行くね!私の予定とも合わせないといけないし!」
じゃあね真理ちゃん、と杏奈は電光石火の如く去っていく。その姿を見送りながら私は1人、冷めた珈琲に口を付ける。
「ホント、何を考えているんだか」
はぁ、と大きく溜め息。私は首にかけたネックレスを外すとそこには半年前、隊長に貰ったペリドットの指輪があった。

「21歳の誕生日おめでとう、真理」
「おっ気がきくね隊長!」
「え、にじゅ…あの、隊長さん、ちょっとこっちに来てもらっても」
杏奈に半ば強引に引っ張られながら応接室に入ると、険しい表情でこちらを睨みつけてきた。
「なんで、なんであんなことをしたんですか?」
「誕生日を祝うことくらい、普通のことだろう?」
「そこじゃありません『21歳の』誕生日なのは、なぜなんですか?」
「…あいつの時間は10年前で止まってるのは、俺も知ってる。杏奈がそれを改善したいことも」
「だったら尚更――」
「でも」
少し悲しそうな顔になりながらも、見栄として笑いながら、言葉を続ける。
「あいつは10年前から一人ぼっちなんだよ。そんなの、寂しすぎるじゃないか」
「それは…」
「だから、あいつの時が動くまでは俺がそこにいてやりたい。…その後の、動き出した時間は杏奈、お前が一緒に過ごしてあげてくれ」
――そんなの、まるで隊長はその時には、そこにいないみたいに…なんで、そんな、ことを、言うんですか?

ない
ないないないない
二日酔いの気怠い身体を目覚ましに起こされ軽い朝食を食べ身支度をしている途中に私は気がついた。指輪がない
「いやいやいや」
ガサゴソとバッグをひっくり返し、脱ぎ散らかした服を漁るが見当たらない。
「ま、AEGiSのよこした官給品だしそこまで気にするもんじゃ」
とは口では言うが言葉とは裏腹に私の心は千々に乱れていた。隊長が渡してくれたアニバーサリーリング、一緒に歩んでくれると誓ってくれた彼の言葉。共犯者として、それ以上の想いが込められた指輪。それが見当たらない
「また私の手からこぼれていくわけ…」
妄想は不安と恐怖は励起させ、半狂乱になりそうな心をギリギリの理性で抑え込む。もう一度ベルが鳴る。そろそろ家を出ないと。私は陰鬱な気持ちを抱えたまま事務所へと向かう
「おはよう真理」
事務所に行けば当然彼に会う。指輪がないことを気付かれてはならない。バレたら何かが終わる。そんな気がした私は短く挨拶するとその場から立ち去ろうとして
「ほらこれ忘れ物だぞ…せっかくやったのに」
そう彼は私の手になくしたはずの指輪を置いた。目を見開く。よかった。あった。私は人目も憚らず彼に抱きついた。

ねぇねぇキミキミ、お姉さん、暇なんだけど。
今夜の当直の一人、神宮寺真理さんが話しかけてくる。
しょうがないじゃないですか、学生をこんな遅くまで残すわけにもいかないですし。
そうは言うけどさー。お姉さんすることないと暇で死んじゃう。
椅子に前後ろに座り、くるくると回転しながら真理さんが言う。
あの、トランプでもしませんか。
もう一人の当直である山野薫子さんが真理さんに話しかける。
薫子さんがそんなこと言いだすなんて珍しいですね。
手にはシタラが持ち込んだのであろうトランプが握られていた。
こんな深夜に気を張り続けるのも大変です。たまには息抜きましょう。
いいね、いいね。何する、賭ける?いくら賭けちゃう。
真理さんがそんな軽口をたたき、トランプを受け取る。
それこそ成子坂の醜聞です。やめておきましょう。
さすが真面目な薫子さんだ。掴みどころのない真理さんとの会話でもペースを崩さない。
薫子ちゃんがそういうならしょうがないなー。じゃあお金以外のもの賭けようよ。勝者は敗者達にひとつ好きなこと命令できるの。面白そうっしょ?

 

段々と雲行きが怪しくなってきた。真理さんの顔も気のせいか少し朱がさして見える。
真理さん、なんかちょっとテンション高くないですか。
思い切って疑念をぶつけてみる。
いやー私は普段通りだよ、ねぇ薫子ちゃん。
真理さんが薫子さんの腰に抱き着く。年上に向かって薫子ちゃんとはさすがとしか言えない。
あの、神宮寺さん。ちょっとアルコール臭いです。
顔を背けて、薫子さんが拒絶の意を示す。予感的中のようだ。
やっぱり飲んでるじゃないですか真理さん。
いいのいいの、さぁ勝負だよ。
そう言って真理さんがカードをシャッフルして配り始める。

 

あっははー、私の勝ちだね。二人には何してもらおうかな。まず薫子さん、アイス三人分買ってきてもらえます。
そう言って真理さんが財布を渡す。
なるほど。敗者にふさわしい処遇でしょう、行ってきます。
優しい薫子さんが相手とはいえ、敬いの気持ちはないのだろうか。ふと今事務所にいるのが自分たち二人なことに気付く。やけに静寂が気持ち悪い。

 

邪魔ものは、居なくなったね。
その言葉に心臓の鼓動が加速を始める。
それじゃあ隊長には、そうだね、府中工場について話してもっちゃおうかな。
まさか真理さん、最初からそのつもりで。
気が付くと真理さんの、神宮寺真理の目はジャーナリストの目になっていた。
さあね、もう忘れちゃった。でも今回ばかりは逃さないよ。
深い溜息を吐く。最悪だ。
無駄な期待なんてして、馬鹿みたいですね、俺。
自嘲の言葉が自然と口からこぼれた。
あれ、ひょっとしてお姉さんとの甘酸っぱい関係なんて期待してた?前も言ったでしょ、私とあなたは共犯者だって。

「隊長!ちょっと見て下さい!真理ちゃん、コレは何?」「凪!」…葱だな。なるほど、真理が凪としか話せなくなったのか。
「そうなんです!さすが隊長、話が早いですね!」
そうと決まれば早速治療しよう。杏奈、なるべく凪に近い物を集めてくれ。対症療法で徐々に治すぞ。
「……………」
…杏奈?
「…はい!というわけで隊長に言われて集めて来たのがこちらです!」
ああ、編集点か。流石テレビ人。
「真理さんがどうかしたの?…どうでもいいけど」「凪!」惜しい!鷺だな。「鷹だよ」
「よくわからないけどとーかちゃんにおまかせだゾ♡」「凪!」残念。コーギーだ。「プードルー!」
「杏奈ちゃんに頼まれたけど…どったの真理さん?」「右!」そうだなシタラだな。「ちょいちょーい!?いやでも杏奈ちゃんになら右側になっても」
「ハイカットー」
…………無情だ。
「…さて。楽しめたかな隊長?」
真理か。元に戻ったようでなによりだ。…ところで何故サテライトピジョンをこっちに向けてるか聞いてもいいか?
「もう10行過ぎたからね」なるほど行と秒を掛けて…ってそういうシステムなのかそれ!?
「ちなみに私はサポ枠の真理だよ」なるほどツインサテライトピジョンというわけか。ちょっ待っ………

「命を狙われないようせいぜい気を付けることね」
そう神宮寺真理に告げられた時は率直に冗談じゃないそう答えた。何だってただ必死に働いてるだけで殺されなければならないのだ、と。だがこうも思った。ノーブルヒルズやAEGiSの上層部が夜露らアクトレスでなく俺を狙うなら彼女らの安全は確保できるのではないか?それならそれでいいのかもしれない。
その時既に成人しているアクトレスの所属や登録も増えつつあったがそれでもアクトレスの多くはまだ子どもの少女達でならば彼女らを守るのは大人である自分の仕事の内であろうとそう考えた。何より彼女らには東京シャードを守る役目がある。こんな下らないことで命を落して欲しくはなかった。
それを聞いた神宮寺真理が目を丸くして驚いていたのを覚えている。彼女は俺が七年前の事故に何らかの形で関わっていたと疑っているから無理からぬことだろう。ただ俺の答えはアクトレス達を守れるなら命を狙われてもまあいいかもしれない、だった。

 

だから彼女が成子坂事業所へのアクトレス登録を願い出た時はこう思ったのだ。彼女も誰かに守って貰いたいのだろうな、と。
杏奈や彼女を知る人に尋ねてみればかなり無茶をしているようで、俺が命を狙われているのならば彼女は数度殺されていてもおかしくないような危険な行為を繰り返しているようだった。そして彼女は俺に神宮寺レポートなるものを託しそして共犯者へとなった。
ここに来て俺は彼女が庇護を求めていると確信するようになった。杏奈は親友で信じられるだろうが杏奈には杏奈の立場があり彼女と共に危険な道程を行くことはできないだろうし彼女自身それを望まないだろう。だが、それが俺ならば?彼女は俺を危険へと誘うことに躊躇していない。それなら俺が彼女を危険から守ることができるだろう。何より彼女は俺が守るべき成子坂事業所のアクトレスなのだから。
だから俺はその日から事業所への出勤を止めた。ドローンでアクトレス達をチェックして端末で指示をするようにして彼女の取材に引っ付くことにした。私に構いすぎじゃない?お姉さんそんなにラブコール受けちゃって困っちゃうなー。おどける彼女へは共犯者だからなとだけ返した。

 

ジャーナリストの真似事は思いの外楽しかった。真理も俺に少しは心を許してくれたようで数度お互いの家で朝まで飲み明かすこともあるほどだった。杏奈も交えて3人で飲んだ時は真理ちゃんがこんなに笑顔なのを久々に見ましたよと言ってくれたから良い関係を築けているのだろう。

 

「何でキミが私を庇うのよ!」
真理の悲痛な叫びが夜の東京シャードに響いた。人々の悲鳴も聞こえる、遠くからはパトカーと救急車のサイレンだろうか。
「何で……!」
言いたいことが多すぎるのか、真理の口は何度か大きく開くが俺の耳には届かなかった。いや、俺の耳がもうダメなのかもな。
「何で私の傍から誰も彼も消えて行くの…!凪も!キミも!」
うん、やっぱり死にたくはないけど、それでも俺の願いは通った。通した。ああでも真理に泣いて欲しいわけじゃなかったんだけどな。どうしたら泣き止んでくれるかな。飲み会の時に大受けしたあの────。
「隊長!やだ!死なないでよ!ねえ!」
何時までも悲鳴だけが東京シャードに響いていた。

「凪!よかった!やっと会えた!私はずっとあなたを探して!」
光の中から現れた凪を私はそっと抱き留める。涙が溢れて仕方がない。でもこれは流していい涙。あの日枯れてしまった私の涙。これで全部元通り。凪がいて、杏奈がいて、私がいて、また3人でメリーバニー…は流石に無理かもしれないけど。これから、2人には素敵な旦那さんができたりして、私はまた涙を流しながらそれを祝福して。私?私はもういいかな。そんな歳じゃないし。まぁ少し気になるヒトはいる。私にここまで協力してくれた彼。なーんて私の話はいいの。とにかくそんな輝かしい未来が私たちに、いや、2人には待っているんだから。これでもう思い残すことはない。凪。あぁ凪。本当に凪だ。最後に見たときと何も変わっていない、私と杏奈の親友。よかった。本当によかった。
「ねぇほら杏奈!凪だよ!」
私はそう振り向く。きっと杏奈も私みたいに涙を流して喜んで…え?
「真理ちゃん…今連絡が来てね…隊長が…隊長が…」
「あ…まりせんせい…?」
「は?」
カチッ…ゴーーン…ゴーーン……
長針と短針が重なり12時を告げる鐘がなる。視界が灰色に包まれる。時の止まった世界で時計の針が逆回転を始めた。

「……ッ!!隊長!もう一回説明して!」
怒りに感情を任せ真理が俺の首元に掴みかかる。ああ、何度だって説明してやるさ。
「これは凪だ。適合者となった凪はこの東京シャード最深部に隠されたAliceの有機生体デバイスとして一体化している!」
「キミはずっとこれを知ってたの!?知ってて私に黙って!共犯者だなんだって言ってたの!?さぞかし私の姿は滑稽だったでしょうねえ!」
「真理。もう一度聞く。凪を助けたいか?」
「もちろんそうに決まってるっしょ!」
だよな。真理はそう言うに決まってる。
「凪を取り出すことは容易だ。だが凪がいなくなることでAliceは止まる。そしてこの東京シャード、ひいてはアウトランド全て、つまり人類が全滅することになるけどそれでもか!」
「いい!もうそんなことはどうだって!私は凪さえ戻ってくれれば!」
あぁその返事を聞いて安心した。俺は手元の基盤を操作する。煙と液体が撒き散らされガラス容器から凪が開放される。
「ちょっ…キミ!これじゃ人類が」
「凪とよろしくやれよ。俺が代わりになるからさ」
人類も、惚れた女も、どっちも救わないといけないのが辛い所だ。俺は空の容器の中へと足を踏み入れた。

隊長をお父さんアンナチャンをお母さん呼ばわりする銀髪赤目の娘が未来からやってくる劇場版っす

隊長をみたとたん泣きつくっす

アンナチャンをみたとたん泣きつくっす

真理を見て無言になるっす

真理の共犯者となってから数か月が経った日だった。真理と飲む機会が増え、それと共に杏奈も交えて一緒に飲むことが増えた。そんな時期だった。
飲み会が盛り上がりすぎて終電を逃した俺たちは避難先として成子坂事業所を選んだ。三人が三人覚束ない足取りだったが何とか辿り着き、そしてまず真理と杏奈にシャワールームを使わせ、その後に俺が使用した。
熱い湯を浴び多少は明瞭になった意識を感じながら鼻歌を歌っていると「ガシャーン!」何かが壊れた音がした。
二人が食器か何か割ったか?と考えていると次いで何か言い争う声が聞こえて来る。声は三つ聞こえ、真理と杏奈以外の誰かがいることが分かった。これは誰か事業所に残っていたか。俺も一緒に謝らないと。
そう思ってシャワーを早々に切り上げ談話室へと戻ると真理と杏奈そして真理によく似た少女がいた。

 

「……真理が二人?」少女の方に目をやると足元には真理のカメラがあった。強く床にたたきつけられたらしく壊れている。音の正体はこれか。
「パパ!」「は?」少女はそう言うと俺の胸に飛び込んできた。オイオイどういうことだこれは。
「キミ、娘いたの」カメラを破壊された真理が心底不機嫌と言った感じで問い詰めてくる。待て、俺は無実だ。
「え、えーっと。貴女は誰…かな?」杏奈が少女へと声を掛けると少女は俺の体に抱き着くのはやめずに顔だけを杏奈の方に向けて答えた「だから私はママの娘だよ!パパはこの人!」自称娘は交互に俺と杏奈を指差す。まじかよ。
「……じゃあその隊長と杏奈の娘はどうして私のカメラを壊したの」真理が今まで聞いたことのない底冷えするような声色を自称娘へと向ける。俺まで怖くなるんだが。

 

自称娘は俺に抱き着くのをやめると真理に向き直り「貴女の記録がパパを殺したから」「貴女の記録が貴女自身を殺したから」「そしてママがとてもとても悲しんだから」
「私は神宮寺レポートを破棄するためにこの時代に来た。私のパパとママを悲しませないために。パパを殺さないために。貴女が貴女の知りたいことのために死ぬのは貴女の勝手。でも私のパパにもママにも関わらせないで」
自称娘はそう言うと真理に敵意の目を向けた。真理も真理で凪のことを諦めろと言われているようなものだ、自称娘を敵と認めたようだった。
俺と杏奈の娘と言うには真理に似すぎている、とはその時俺も杏奈も言えなかった。

「お互い今日のことは無かったことにしよう」
酒の席の後、一夜を過ごした隊長は私にそう告げた。その言葉を聞いて直前までこのネタでどう隊長を強請ろうかなどと考えていた私の視界は何故か真っ暗になった。
心臓がキュッと締まる息苦しさを感じる。私の心に最も困惑しているのは私自身だ。何故私はショックを受けた?これでは私が隊長のことを……。
今の私にはそういうことに現を抜かす暇はない。それにそういうことは凪のケッコンの真相を探るのに枷になる。分かっている。分かっているのに。淡々と告げる隊長に私の心は軋んでいる。
「おねーさん何か美味しいものでも食べたいなー」出来る限りのいつもの私を装えているだろうか。私の心配にも軋みにも隊長は気付かずにお昼のご馳走を約束してくれた「やりぃ!隊長大好き!」
私の瞳から零れた雫には私も隊長も気付かなかった。

わかってる。これは夢だって。
『キミキミーっ私を捕まえてごらん』
見渡すばかりの向日葵畑。私は似合わない白のワンピースを着て、大きな麦藁帽子を被っている。今どき少女漫画でも見ない臭いセリフ。自分の背より高い向日葵に隠れ私は走る。
わかってる。これは夢だって。
私が見る夢はいつも同じだった。あの頃の、7年前の楽しかった日の思い出。凪が消えた時のフラッシュバック。杏奈が凪みたいにケッコンする悪夢。いつだってこれのローテーション。だがそんな夢にもいつしかレパートリーが増えていた。
わかってる。これは夢だって。
彼はカメラを片手に私を追いかける。汗水垂らして必死になって。そんな彼を見て私は微笑みこう告げる。
『はやく捕まえないとどっかに行っちゃうぞ』
そこでブワッと風が吹き、麦藁帽子が飛ばされる。それに私は気を取られ彼は私を捕まえる。
『なんて言ったの?聞こえないよ』
そして彼は私に何かを囁く。でもそのセリフはわからない。わからないまま夢は終わる。いつもそう。エンディングまで辿り着けない。まるで最初から用意されていないように。あぁ今日もまたここで目が覚める。
「わかってたよ。これは夢だってさ」

 

「わかってたよ。これは夢だってさ」

また真理が泣いている。俺に見せたことがないような穏やかな顔をしているのに、真理はいつも泣いている。
どんな夢を見ているんだろうか?真理のことだから、全てが丸く収まって、みんな幸せになって、なんでもない、かけがえのない日常を過ごす。そんな夢だろうか?
きっと真理のことだから「これは夢だって」なんて、顔を伏せながら、声だけ無理に明るくして言うんだろう。
そんなのものは肯定できない、そんなものは否定する。そんな「夢」を願うしかない真理の過去と現在を否定する。
俺は真理に笑って欲しい。俺は真理に泣いて欲しくない。俺は真理に幸せになって欲しい。
そしていつかこう言おう。
「知らなかったのか。これは夢じゃないんだってさ」

 

「知らなかったのか。これは夢じゃないんだってさ」

隊長と真理ちゃんが並んで穏やかな顔で寝息を立てている。私がいつも見る二人の顔だ。これ以外の顔はいつから見てないだろうか。
「今のお二人は幸せですかー?なんちてっ」
私が冷やかすように呟いても真理ちゃんは顔を真っ赤にしないし隊長はそれを咎めない。
真理ちゃんが泥を啜ってでも夢を追いかけて、隊長が同じ夢を見ようとついて行って、そして私は夢を見ることを諦めた時からもう二人の顔を思い出せなくなっていた。
二人と同じ夢を追いかけようとすればいつでもできた。でもしなかった。二人が夢にしがみついたように私は現実にしがみついたんだ。その果てにこんな結果が待っていたこともわかっていたのに。
あの日の選択を後悔しなかった日は一度もない。最後の別れの二人の顔が毎晩リフレインする。私が見るのは二人の夢だ。でも二人と同じ夢じゃない。
「私も、同じ夢を見れるかな?」

「た~い~ちょ~お腹減った~」
真理が書きかけの原稿を放り出してダウンした。確かにこんな時間…更には集中力を使う作業をしていたのだ。腹も減るだろう。
「…あー、明日買い出し行く予定だったしインスタントとかないわ…」
「マジかー…。あ、でもほら晩御飯食べた時納豆と玉子あったよね?それなら…」
「いや、納豆はもうワンパックしかない…玉子はあるけどどちらかだけしか納豆かけご飯にできない…」
「むー…困ったわねソレ。キミ、何か名案は?」
「あるにはある。ちょっと待ってろ」
そう言いながら起動させたコンロの上にフライパンを置いて少し温める。熱が全体に通ってきたらごま油を垂らして全体になじませる。
馴染むまでの間に玉子を二つと納豆を一つのお椀にぶちこみ、めんつゆを適当に入れ、適当にちぎった大葉を入れかき混ぜる。むう、このまま食べ…たら後ろの真理に殺される。飯の恨みは買いたくない。
とりあえずフライパンにぶちまけ、玉子が固まったら箸で移動させ、固まってないとこを流し…を繰り返す。
ざっと全体が固まったらお皿の上に乗せる。今回は俺と真理のぶんだけなので大皿は出さずに小皿に二人ぶんで分ける。

 

「できた、ほら食べてみろ」
「ほい、いただきます。…わっ、これ美味しいじゃん!」
「だろ?納豆かけご飯に飽きた時に試したらこれがなかなかいけてな…たまにやると飯が進むんだ」
「キミキミィ~やるじゃんか~」
「それほどでもある。んじゃ、これ食って残りの仕事も片そうか」
「だねー」
深夜の軽い食事、小腹が空いた時間の幕間はこれにてオチもなく終わる

 

味に関しては上記の通りっす無難に美味しいお味になるっす
アクセントとしてシソ入れたりめんつゆじゃなくらきむちの素にしたりとそれなりに応用も効くっす
時間も普通に納豆かけご飯作る時間に数分プラスされるだけっすからよろのおすすめっすよ

真理、いつもの店で待っててくれ

そう言って彼は姿を消した、私を遺して。
最後に隊長の顔を見たのはもう5年以上前だろうか。
「…そう言うのはさーこっちの役目だと思うんだよねー」
後を追おうにも彼に教えていないはずのありとあらゆる仕事道具、調べ上げたデータ、物理的な資料が消え去っていた。今思えば、あの時店で待っている間に根こそぎ確保して何処かへ行ったのだろう。
だがこうして待たされる身になってようやく理解した。心配して待たされる側と言うのは、予想よりはるかにしんどくて、辛くて、そしてなによりも――
「…女の子にこんな想いさせて、どーこほっつき歩いてんのかねー」
切ないのだった。
そんなことを考えながら閉店時間が近づき、店を出ようとした時だった。
「…おまたせ、今から奢り…だと飲めないか。どうしよう?」
「――」
「いや、ごめんね?もう少し早く帰って来たかったんだけど、ちょっと、ほら、俺は真理みたいに上手くやれなくてさ。時間かかっちゃった」

 

あぁ、あの時の彼だ。あの時と何も変わらない彼がここにいる。何食わぬ顔で、申し訳ないと思いながら、どこか許してくれるだろうとタカを括ったような顔をした、彼がここにいる
「…もっと他に言うことあるんじゃない?」
「え、うーん…なにかな…ごめん…は言ったし…えーっと…あ、そうか」

 

「ただいま、真理」
「おかえり、隊長」

「なんであんたなの?」
夕方から降り出した雨は夜になってその勢いを増し、激しく降りしきる雨の中、怜に対峙された黒い人影が口を開いた
「やーめてよね、逆恨みとかさー。選ぶのは私達じゃないんだから」
「どうせなんか弱みでも握ったんでしょ。隊長があんたなんか選ぶわけない」
「目の前の真実を受け入れられないとモテないよ?信じてる人の何も無い裏ばっか探ろうとするのは」
「あの人が私の手の届かない所に行ってしまうなんてどうしても信じられない!」
古びた公園のちらつく街灯がチカチカつくたびに怜の手元をギラギラと反射させた
「おっとっとー!ダーメだよそんなの持ち出しちゃ!なんで嫌われる方向にばっか行っちゃうのかなー!悪いクセだよ!」
真理はいつもの癖でそこまで軽口を叩いてハッとミスに気付いた
この娘には言い過ぎた
草を踏み潰すような音がさらに激しくなった雨音と混ざる
その音は何度も、何度も、打ち付けた

 

店内のBGMを聞こえなくなるほど勢いを増した雨模様を窓からながめながら時計を見る
「真理…遅いな…。今日はすっぽかされたかな…?」

 

「メールも…帰ってこないな…」
寒さから飲み過ぎたせいか酔いが回ってきた…あいつが来てもまともに話せないほどに
雨音が耳をつんざく。アスファルトに跳ねた雨粒は霧のように舞っている
遠くからバシャバシャと聞こえたかと思い振り返りざま、脇腹にドン!と黒い人影がぶつかってきた
「うっ…!」
酔いと雨の音で油断した。脇腹があったかくなってくる。
小さな影は動かない
「どうしたんだ…真理…?」
顔を上げた真理を見てぬくもりの理由がわかった
雨の中を傘もささずに走ったせいだけではない泣きはらしている
「わかっちゃいるんだけど…残酷だよね…一人しか幸せにできないの…」
暖かさと冷たさの入り交じった真理の目元をぬぐう

 

芝生に突き立てたナイフは街灯を鈍く反射させている
雨は公園に響く慟哭をかき消していく

「どうした二人とも?顔が怖いぞ?」
雨の降りしきる公園で、俺は真理と怜に挟まれていた。まさに前門の梟、後門の鷹といったところだ。
「…もう今更問い詰めないよ。全部真理さんに聞いたから」
「まさか怜ちゃんに頭を下げられるとはね。でもおかげで私の疑念も確信に変わったよ」
「……やっぱりバレたか。真理くらいには上手く立ち回れてるつもりだったんだけどな」
真理がナイフを取り出す。後ろからもナイフを開く音が聞こえる。
「あんなお粗末な動きで私みたいにだって?馬鹿にしてくれるねぇ」
「…真理さんもあんな感じだったよ。…どうでもいいけど」
「えっ」
後ろから鈍い痛みが走る。少しショックを受けたようだった真理が遅れて正面から俺を突き刺す。
「おいおい、俺は黒ひげ危機一髪じゃないぞ?」
精一杯の軽口を叩いてみせる。ここで命惜しさにボロを出すわけにはいかない。
「じゃあもっと串刺しにしようか。得物はまだまだあるしね」
「…最後はもちろん首も飛んでもらうよ」

真理(93)っすか

「お前も老けたな。いくつになったんだっけか」
「んっとねー、21」
「ボケたのか?」
女性に年齢を聞くもんじゃないよと怒られ、二人で小さく笑う。穏やかな太陽光ライトの陽射しが俺たちの身体を温める。
「あたしゃこんな歳まで生きるつもりはなかったんだけどさ」
湯呑に口をつけすっかり老眼になった真理が遠くを見つめる。当時の成子坂製作所のアクトレスもだいぶ減った。部屋に飾ってある皆で撮った集合写真。あれを見る度に先に逝った仲間たちのことを思い出す。
「俺はお前が生きていてくれて嬉しいよ」
縁側に並んで座る俺は隣の真理の手に手を重ねる。ヨボヨボで骨と皮以外にないような手。それでも未だカメラを構えるのだから生涯現役を地で行くつもりのようだ。最近はよく孫やひ孫の写真をこれでもかと撮ってウザがられている。いくつになっても変わらないなお前は
「孫たちは次はいつくるかねぇ……」
そう言ってまたお茶をすする真理。そんなとき俺の中の古びた記憶が突然湧いて出た。死ぬ前に聞いておきたかったアレ
「そういや神宮寺レポートって何が書いてあったんだ?」
「忘れたよそんなの」
「やっぱりボケただろお前」

「でさ、これでどう?」
ドンと無造作にテーブルの上に紙袋が置かれる。いつもの店、真理がリュックから取り出したものだ。
「山吹色のお菓子、って言えばキミもわかるかな?アウトランド共通通貨で成人男性が一生暮らせる分だけ用意した」
「なるほど。それでその“お菓子”を使って俺にどうしろと?」
真理が非合法な手段でアレコレやっているのは知っていたがそれでもこの大金を用意するのは骨が折れただろう。
「キミを買いたい」
ほう、と片眉を釣り上げ紙袋から目線を真理に移す。
「キミの経歴は白紙どころか滅茶苦茶。未だ何をして生きてきたのかわからない。でもこれだけは言える。キミは彼女たち絶対に裏切らない。だからこそ、私の共犯者になってほしい。そして府中で何を見たのか。キミが何を知っているのか教えてほしい。これはその代金」
切羽詰まっているのか必死に俺を“説得”する。
「俺が金で動かないのはよくわかってるだろ」
冷たく言い放つと真理は俯きそして
「じゃあどうすれば協力してくれるのよ!」
「そうだな…お前の一生が欲しい」
「それはッ……多分ムリ…」
だよな。泣き出しそうな顔の真理を見ながら呑む酒は味がしなかった。

虚。空虚。虚しい。何もやる気がおきない。なぜ自分は仕事をしているのか。なぜ成子坂製作所の隊長になってしまったのか。分不相応な大役を任され無我夢中で対処しようと努力した。対処してしまった。一度付いてしまった評価、レッテルは簡単には覆らない。それでもなんとかやってきた。だがそれももう限界。ピピピと端末が鳴り響く。嫌々手に取ると戦闘指示の要請。まぁそれぐらいならと機械的に指示を送る。今は隊長代理も来たし事務員も増えた。もう俺は必要ないはずだ。
気分転換に外に出る。水族館にでも行こうか。無理にでも外に出ないとダメになるとどこか自分を俯瞰的は見てる自分が催促する。そんなときだった。
「あれ?隊長だ!なになにサボり~?」
軽薄な口調でニヤニヤと真理が近付いてきた。本当に経歴なんてないのにいつも突っかかってくる。流れで昼食を取ることに。
「っでさーそんとき杏奈がね…あれ?キミ大丈夫?」
真理に心配されるなんて余程ヒドい顔をしていたのだろう、と自嘲気味に笑う。
「キミさ、無理してるよね?私を見てるみたい」
真理のことだ。優しい声掛けにも裏がある。そう脳が警鐘を鳴らすも真理に抱きしめられると涙が溢れ出た

「今年も色々あったよねー」
「それ年末にも言ってただろ」
そうだっけ?じゃあ今年度に訂正、と真理が麦ソーダを煽る。いつもの店、年度末だからと真理に呼び出され酒を飲む。明日は仕事だから控えるとは言ったのだが「私も仕事だから大丈夫」と何が大丈夫なのかわからない。ただ、まぁ、なんとか今年度は乗り切れた。それに目の前の真理が生きていたことも嬉しい。この激務の中で神宮寺レポートなんて面倒そうなものを押し付けられるくらいなら元気なことが一番だ。とかなんとか考えながら二人チビチビと酒を飲み取り留めもないことを語り合う。すると真理が不意に
「あ、そうだ最後だしキミに言っときたかったんだけどさ。私キミのこと愛してる。前みたいに冗談じゃなくて」
グラスを持つ手が止まる。スッと笑みを消す真理は目を潤ませ真剣そのもの。見つめられると胸がドキリとして
「うっそー!やーい騙されたー!エイプリルフールはもう始まってるんだよねー」
顔を戻しニタニタと笑う真理が腕時計を見せてくる。時刻は既に0時を回っていた。やられた。これがしたかったのか。あっはっはーと心底面白そうに笑う真理にいじられながら俺はグラスを傾けるのであった

ごめんね明日からもうキミとは会えないんだってあえて今日いう真理とわかっててそうかってうなずいて泣く隊長の怪文書くださいっす!

「今日ってさ、エイプリルフールじゃん?」
「そうだな。なんだ?気の利いた嘘でも思いついたのか?………なんだよ。早く言えよ」
「え?あー、うん。いやなんかエイプリルフールです!って言いながら嘘付くのってどうなのかなって思ってさ」
「お前が言い出したことだろう?」
そうなんだけどね、と真理が小さく呟く。いつものようにヘラヘラしておらずとても今から嘘をつくようには思えない。いや、既にエイプリルフールは始まっているのだとしたら真理は大した役者だ。隣に座る真理がポンと膝を叩き立ち上がる。
「じゃあ今から嘘つくから。とびっきりの嘘。一度しか言わないからちゃんと聞いといてね?」
こくんと頷き言葉を待つ。
「ごめん明日からもうキミと会えないんだ」
「……エイプリルフールの嘘、なんだよな?」
「そそ。エイプリルフールの嘘。面白くなかった?」
笑えない嘘はやめとけと言えばじゃあ来年はもっと面白い嘘にすると真理が笑う。
「じゃ、言いたいことは言えたから私行くね?」
「そうか、また、明日な」
真理は答えず後ろ手に手を振り去っていく。姿が見えなくなりふと頬を伝う冷たい感触に自分が泣いていたのだと後から気が付いた

「真理…愛してる結婚しよう」
一世一代の告白だった。給料三ヶ月分の指輪を用意して「いつもの」ではない夜景が綺麗なビルのレストラン…ロケーションもこの日のために調査した。緊張で体が強張る。受け入れられるか、それとも。真理の答えを待つ数瞬が永遠のようにも感じられる。
しかし真理の答えは俺の予想とは反するものだった。
「…いくらキミでもついていい嘘といけない嘘ってものがあるよ」
そう言う真理のトーンは俺が今まで聞いたことがない冷たく突き放すようなものだった。

 

単純な許容でも拒否でもない、軽蔑を含んだそれに困惑する。
「待ってくれ真理。俺は真剣で「真剣に私をおちょくろうって?生き遅れが舞い上がる姿を見たかった?」
バン!と真理は勢いよく立ち上がる。同時にワインをぶっかけられた。
「キミが結婚しようって冗談言ってからかうのよくしてるけどね、誰にでも冗談で通るわけじゃないから」
立ち去る真理に俺は何も言えなかった。ふと端末を見ると4月に入ったことが示されていた。

真理がどこかにかけあって用意してくれたっす

それで真理…この配偶者の欄に杏奈の名前が書いてあるのですがこれは……?

「やっぱさー、ちゃんとした戸籍があった方が色々キミにとっても便利でしょ?」
そう言うことを聞いているんじゃない。
「今の戸籍って所長が用意したものでしょ?余程急いで作ったのか結構アラがあるよね?実際私もすぐに怪しいって思ったわけだしさ」
………。
「ま、調べた結果わからないってことがわかっただけなんだけどさ。大丈夫!結構お金かけたしこれならキミも立派な東京シャード市民!どこに出したって恥ずかしくない!」
………。
「そう。杏奈と結婚してもキミはアクトレス事務所の隊長で、ただの一般男性。マスコミに詮索されることもない、はず」
真理、どうせなら俺はお前と
「やめて!言わないで…!正直、キミを信じていいのかまだわからない。でもキミの人柄は本物だと信じてる。だから杏奈を…」
お前はいいのか…?それで
「いい…杏奈もキミなら大丈夫だって…きっと喜ぶ。私のことは裏切ってもいいから!杏奈のことだけは裏切らないで……」
確約はできない。そう言うと真理はそれでもいいと告げ去っていった。

3人同居ルートの成立直前にフラグのとりこぼしで真理ぐえー!して

真理の私物の残るへあで二人で暮らす杏隊バッドエンドの怪文書を所望するっす

「あ、見て隊長…隊長の写真がこんなに」
「あいつ、女の写真専門じゃなかったのか」
杏奈が見つけたアルバムを二人で開く。真理の持ってた一軒家。俺はアパート暮らしだし、杏奈も一人向けの高給マンションなので3人で暮らすなら真理の家だなと話は纏まっていた。俺も杏奈もすでに家は引き払い、少々の私物を持ち込み春から3人で新生活、そう意気込んでいた矢先に真理が逝った。
「バーベナとかトライステラとか、しっかりアルバムにしやがって…」
「それだけみんなのことを気に入ってたんだよ」
心の整理がつかないまま遺品整理、という話になり押入れを開けたら出てきたのがこのアルバム群。てっきり神宮寺レポートに関する資料かと思えば皆が楽しそうに笑う写真などなど。そしてこんなに良い写真を撮る人物がこの世から消えたことを実感する。
「ねぇ隊長…真理ちゃんが隊長に送ったレポートにはなんて書いてあったの?」
アルバムを置き、杏奈が顔を覗き込んでくる。
「隊長も、真理ちゃんみたいにいなくならないよね?」
真理の残り香のする家で、俺たち二人は生活していかなければならない。
「あいつの分まで側にいるよ」
俺は杏奈の手をギュッと握った。

隊長が来なくて待ち続ける真理もいいっすね

春が来た春が来たっす

ーー嘘つき
冬の寒さもなりを潜め、すっかり過ごしやすくなった春。桜もすっかり緑に変わり今更花見をする人々のいない閑散とした公園で私はベンチに座っている。
ーー嘘つき
何か目的があるわけではない。何か撮りたいものがあるわけでもない。なのに私は愛用のデジタル一眼レフを手に意味もなくファインダーを覗いてみたり。
ーー嘘つき
遅刻するなって言われた。だから私は遅刻しなかった。なのに…なのに…
「レポート読んでくれるって言ったじゃん」
ーー嘘つき
「共犯者になってくれるって言ったじゃん」
ーー嘘つき
枯れたはずの涙が溢れ出し、ふと何気なく構えた葉桜の側に彼が写った気がして反射的にシャッターを切った。慌てて画面を確認して、落胆。写っているのはただの桜の木。
「知ってた。わかってた。キミはもういないんだよ」
なんてありもしない妄想を向かいの桜の木に語り、毎日毎日同じ時間に私はこのベンチで彼を待っている。ひょっこり現れた彼に「どうだ遅刻しなかったぞ」と言うために。そんなことあるわけないのにね。
ーー私の嘘つき

「いやーまさかあの隊長が死んじゃうとはねー」
沈んだ空気の事務所で真理がいつもの調子で言い放つ。皆喪服。ある者は泣き腫らしある者は心に穴が空いた様にボーッとしている。真理の言葉はよく通り、20はくだらない視線が真理に突き刺さる。かと言って真理を糾弾する人はいない。皆疲れているのだ。
「いやいやこれから成子坂どうすんの?回せんの?」
隊長がいなくなったとは言えヴァイスは今日もやってくる。成子坂は大きくなりすぎた。AEGiSが気を利かせて仕事を回しては来ないがそれもいつまで続くか。
「真理ちゃんのバカ!みんなの気持ちを考えてよ!」
バシンと打撃音が響く。杏奈が涙を流しながら真理の頬を叩いた音だ。
「あちゃー私はどうやらお邪魔みたいだね」
赤く腫れた頬を擦りながら真理が出ていく。事務所にはまたどんよりとした空気に満たされた。

 

「なんで死んじゃうのよ」
ガンと真理が拳で壁を殴る。
「神宮寺レポート…読んでくれるって言ったのに。キミの方が先にいなくなるって」
端末には隊長の死と同時に送られてきたファイル。開けば私や皆の写真、そしてメッセージ。血塗れの拳を握り直す。闇夜に浮かぶ赤い瞳は怒りに満ちていた

そもそも裏切るの裏切らないの何て言ってる時点で話がずれてるんだよねー対等のつもりで話してたんだよね?協力関係って言ったよね?でもまぁお笑いだったよ!自立できている振りして大人に助けて助けてーって尻尾振る様は!貴女達はどうして悪い子になっちゃいけないかわかる?かわいいかわいいお嬢ちゃん達?お姉さんが教えてあげようこのお姉さんが!嘘つき、卑怯者…そういうお嬢ちゃんこそ悪い大人の格好の餌食になるからなんだよね!楽しかったよ?あんたたちとの家族ごっこ!!

「やぁやぁお疲れお疲れお疲れちゃん」
私は手を振って今しがたアマルテア女学院の校門を出てきた隊長に声をかける。
「ちょっとちょっとその顔な~に~?美人のお姉さんが話しかけてるってのにそういう態度なくなーい?」
ーーなんだ真理か
心底面倒なことになったという顔をする隊長を逃がさんと私は隊長の腕を組み引っ張り歩き始める。
「聞いたよキミ?アキ作戦じゃ八面六臂の大活躍だったらしいじゃん?」
ーー耳が早いな
「ジャーナリスト舐めんな!じゃなくてさ。知らない?昨日の杏奈の特番!東京シャードの英雄!」
ーー夜露たちのお陰だ
「だよねー。これから彼女たちはどんどん人気になるっ!私も記事書いたからさ!今度読んでね?…じゃなくてキミのことだよキミのこと。特殊な作戦の指揮もしたんでしょ?」
私がそれを口にした瞬間、二人の間に冷たい風が突き抜けた。隊長は口を閉ざし答えようとはしない。
「あ、そこで黙っちゃうんだ。沈黙は金ってやつ?でも否定しないってことはやっぱりそうことでしょ?」
ーー買いかぶりすぎだ。
「どーだかねー」
ピリピリと張り詰めた空気を纏わせながら私たちはいつぞやの喫茶店へと足を踏み入れた。

 

珈琲を2つ注文し、私は隊長と向かい合うように座る。
「それにしても成子坂はもう行った?なんかすごいことになってんじゃん!まるで紛争地帯かって!」
ーーみんな可愛い娘たちだったよ
「うんうん!今度写真撮らせてほしいよねっ!キミの許可さえ貰えればすぐにでも撮るんだけどなー」
相変わらず、食えない男だ。さっきから暖簾に腕を通すようにはぐらかされてばかり。私が隊長のことを調べたとき彼の経歴は白紙だった。どこからかいきなり現れ、成子坂を救う。それこそ英雄。そんな英雄様にもいつの間にか立派な経歴ができていた。その経歴がまた傑作。急いで用意したような、それでいて誰も、私ですら追跡できない。一体誰の入れ知恵なんだか。
「うーんキミも疲れてるみたいだし色々聞くのはまた今度にしようかな?」
これ以上の問答は不毛。話はまたの機会にしよう。この店で後日会おうと告げ、立ち上がった所で隊長に止められた。何の用だろうか
ーーまたスカウトを手伝ってもらいたい
「うんうんそっちの話ねっ!どんな娘がタイプ?」
ーー双子だ
私はギョッとして振り返る。この男はどこまで知っているのだろうか。どこまでも気に食わず、気になる男だ。

腰を叩きつけゴム越しに精を吐き出すと真理もイったのかぷるぷると身体を震わせる。
「ぅあっ…あっ…いぃ…」
枕に顔をうずめ小さく呻く真理からズルリと陰茎を引き抜くと真理はそのまま膝を崩しうつ伏せ倒れた。ゴロンと寝返りをうち息を荒く吐く真理が額に汗を張り付かせながら引き抜いたばかりの俺の股間を見て呆れる。
「ちょっとキミそれ溜めすぎじゃない?」
こっちによこせとジェスチャーをするので封をして作った水風船を渡して俺も真理の隣に寝転がる。
「やっぱ作戦中は抜く暇なかった?」
タプタプと手で弄ぶ真理がひひひと笑う。全くもってその通り。終わったと思えばやれ挨拶周りだとかAEGiSに召還だとか。そういえば真理は何をしてたんだ?
「んっとねー。かわい子ちゃんのスカウトかな」
なるほど。真理らしい。ポイとゴミ箱へと投げられる水風船を眺めながら真理の話を聞く。
「それと今度また迷惑かけるからさ。今日はそれを言いにきた」
「知りたいことは調べられたのか?」
コクンと頷く真理を横目に見る。今日で縁切りと言うわけか。なら今夜は楽しむしかない。真理もそのつもりなのか期待した目でこちらを見る。俺は新しいゴムに手を伸ばした。

喉の渇きを覚えた私はパッと目を冷ましキッチンへ向かう。コップに一杯の水を汲み、ゆっくりと身体に馴染ませるように飲んでいく。
「起きちゃったな」
私はコップを置いてベッドに戻り、縁に座った。隊長はそんな私のことなどお構いなしに寝息を立てる。アキ作戦で余程疲れが溜まっていたのだろう。彼の髪を撫でながらこんなに無防備な姿を私に晒すのは何故かと思案。信頼されているのか、それとも。
「もしキミがあの時いれば何か変わってたりするのかな」
例えばキミがメリーバニーのマネージャーだったりしたら。例えば成子坂で当時から隊長をしていたら。今まで何度も考えてきた“もしも”の中にいつの間にか隊長がいた。隊長がいればなんとかなるのでは、隊長と触れ合う度にその考えが強くなる。
「ねぇキミ、どうして私を登録してくれたの?」
私を内側に入れれば何をするか考えられないはずがない。知ってて隊長は私を迎え入れた。わからない。隊長の考えていることがわからない。隊長は私に何をさせたいの?
思考が坩堝にはまりかけ、首を振りパンと両手で頬を叩く。
「私は私の道を行くだけ」
初心を思い出し、小さく欠伸をした私はいそいそと布団に潜った

キミキミこんな大盤振る舞いしてくれるなんて何がほしいのかねー?とかにやにやする真理が真理との未来が欲しいって指輪出されて一瞬真顔になる怪文書くださいッス

「……ッ!!いま…なんて…」
私は目を見開きわなわなと震えながら目の前の男、隊長を見る。耳を疑う彼の発言に毛細血管が収縮し、ひくひくと引きつけを起こす。ダメだ。聞いてはいけない。脳がそう警鐘を鳴らすが私も隊長も止まらない。あぁ隊長の口が開く。その瞬間、今しがたの会話を走馬燈のように思い出していた。
『なになに私を呼び出して?ん?買いたいものがある?お姉さんに任せない!それでなーにが欲しいわけ?情報?それともアクトレスちゃん達の写真?あ!わかった杏奈のお宝写真でしょ~?この前渡したアレじゃ満足できなくなったってわけね。うんうんわかるわかる。え?違う?じゃあひょっとして私の写真!?それはダーメ…なんちて』
ここまでは普通だった。いつもの軽いやり取り。だったのに
━━俺が欲しいのはお前だ真理。真理の未来をこれで買いたい。
スッと懐から取り出された指輪。アニバーサリーリングとは違う銀の指輪。
言わないで欲しい。私にキミとの未来を想像させないでほしい。私が知りたいのはアリスギアと凪の居場所。私が欲しいのは杏奈の笑顔。私に私の未来なんてないし、いらない。だから、やめて…
あぁ彼の口から声が発せられる

俺と幸せになってくれ真理

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「ダメ…なのか…?」
今にも泣き出しそうな隊長の顔に胸の奥がチクりと痛む。だがそんな胸の内を悟られないように私はいつもの調子を取り繕う。
「そういうことだからねー、残念だったねー」
一言、また一言と彼の本気の告白を茶化す度に錆びついた私の歯車が軋みをあげる。もう何年も動いていない私の時計。油を差さず、修理もせず、あの日あの場所あの時間、あの瞬間に止まってしまった時計の針。鳴らし方を忘れた棒鈴はどんな音だったか思い出せない。
「キミなら選り取り見取りっしょ?私みたいなイイな女はそりゃ中々見つけられないかもしれないけどさ」
そうして彼を慕う女性の名を連ねれば彼の顔がどんどん歪む。その顔を見てまた辛くなる。私にキミと幸せになる権利はない。なのに、
「俺は真理と一緒に歳を取りたいんだ」
手を握られ、顔が近づく。隊長はいつもそう。なくしたはずの巻き鍵を見つけ出し、私のゼンマイを巻こうとする。
「迷惑…!だから!!」
彼の両手を振り払い、私は彼に背を向けた。もう私のゼンマイは限界。これ以上はもう切れる。
──なのにキミはまだゼンマイを巻こうとするんだね

「こんな写真もあったな…」
彼女の遺品を整理している中で見つけた一枚の写真を手にしてそう呟く。何故か当時凝っていた銀塩写真。わざわざ部屋を用意して現像していたんだっけか。そしたら何故か写真が左右反転してこんなことに。『これじゃ結婚してるみたいじゃん』なんて困ったような顔をしながら笑ってた顔を今でも昨日のことのように思い出す。そんな当時の写真も経年劣化には耐えられるはずもなく美しい白黒写真はすっかりセピアに変化した。それはそれで味わい深いものなのだから写真というのは面白い。彼女の影響で自分も始めたが嵌まる理由がよくわかる。
「少し…休憩するか…」
とはいえとにかく彼女の遺した物は写真ばかりだ。一応、ファイリングはしていたようだがデジタルも現物もこれでもかと言うほど量がある。整理を始めて1週間、やっと成子坂製作所時代まで掘り進めた。
「親父…ちょっと来てくれ…」
休憩がてらお茶を飲んでいると息子の呼ぶ声がする。膝に力を入れてグッと立ち上がる。流石に自分の身体にもガタが来始めた。
旧姓、神宮寺真理 享年:81
彼女と結婚して50年。部屋に遺された大量の写真は二人の人生の全てだった。

はずれっす

 

真理 / 怪文書1 / 怪文書2

 

キミキミ~ろだにも神宮寺レポートがあるから見るんだぞー?
読まないと、私ほんとに行っちゃうぞ?

 

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