スマブラ個人小説/なしぃの小説/工作戦争

Last-modified: 2010-01-27 (水) 17:32:54

紹介

ようやく代表作を執筆。
設定は亜空の使者から数年後の出来事という事で。よろしくです。

小説

第一話

黒い雲が空を覆う。
 
朝方は顔を出していた青空も今ではすっかり黒雲に覆われ、太陽は顔を出しそうもない。
マルスは腰にぶら下げたファルシオンを揺らしながら、散歩していた。
 
久々のオフだった。
昨日の、ファイター達の誘いは全部断った。たまには、趣味の日を作りたい。
 
 
曇ってはいるが、雨は降っていない。太陽が出ていない分、気温は高くない。
湿気もなく、透き通った過ごしやすい日だ。我ながらいい日にオフを選んだものだ。
 
しゃがみこんで、道端に咲く花に顔を近づける。
甘い花粉の香り。カラフルに花によって彩られた道が、まるでマルスを歓迎するかのように。
 
手を伸ばしてみる。一つ失礼して、これを部屋に飾ってみたいものだ。
 
 
…?
 
背中に妙な気配。
茎に手を伸ばしたところで、背後に怪しい影を感じる。いや、殺気か。これは。
 
 
こういうときは、何よりもスピートが大事だ。神速の速さでファルシオンを引き抜いた。
 
 
 
「誰だ!」
 
「…ケケ、穏やかじゃねえなあ。 マルスくん」
 
 
全身真っ白で、それは手袋。
 
その風貌から創造神、マスターハンドを思い出す。いや、指の動きが明らかにおかしい。
 
…破壊神、クレイジーハンド。
マスターハンドが“創る”なら、クレイジーハンドは“壊す”のだ。
 
 
「………っ」
 
「ククク…まあそう身構えるな」
 
 
ストップをかけるように、クレイジーハンドは手を広げる。
 
「今日はいい話をオマエに持ってきたんだ。 なに、悪い話じゃねえよ」
「いい話…?」
 
 
いや、駄目だ。こいつがそんなこと、するはずがない。
耳を貸してはいけない。早くこいつを斬りつけ──
 
「オマエが大好きな、花だよ。 ホラ」
「花…?」
 
クレイジーハンドが足元の花を指差す。
こいつが、花。どうなってる?
 
視線を僅かに足元に落とす。花は、風に揺れている。
 
 
 
────油断したな! バカめ!
 
 
そんな声が聞こえたような気がする。
 
だが、マルスは剣を振るう間もなく、クレイジーハンドに握られていた。
 
 
 
 
 
 
 
「マルス、遅えなあ」
 
イスに座って、足を行儀悪くテーブルに乗せたファルコが呟いた。
食卓。長方形の大きなテーブルを、ファイター全員で囲んで夕食を取るのが日課である。
 
だが、いつまでたっても全員揃わない。女性キャラは揃っている。男性キャラはマルスがいない。
 
 
「むぅ。マルスが遅れるなんて、珍しいこともあるもんだ」
「ファルコン。そう言うな。あいつもたまにはやんちゃしたくなるものさ」
「スネーク。そういうお前はどうなんだ?」
 
隣同士に座る、筋肉質の男二人が静かに会話しだす。
 
 
「それにしても…怪しいですわね。 カービィやピカチュウが行方不明なのは分かりますが」
 
その向い側に座っている、金髪の透き通るような白い肌を持つ女性が不審そうに呟いた。
 
「心配しすぎですよ、ゼルダ姫。オレだって前遅れちゃいましたし」
「…あれは貴方が矢を執拗に探し回っていたからでしょう」
「ハハ、矢って消耗品じゃないですか」
 
 
堂内がざわつき始める。
 
熱心に自分の中で推理を組み立て、それを披露するもの。ただひたすらに食欲を我慢するもの。
水を喉に流し込み、アクビをするもの。自分の道具の手入れをするもの。
 
 
ざわざわする中、マリオがマイクを持って壇上に上がった。
 
『えー、なぜか姿を現さないマルスに関してですが…。
とりあえず彼の実力は相当な物ですし、とりあえず明日の朝まで待ってみます。
好きで野宿をしているかもしれませんし。明朝、姿が見えなかった場合、明日は全員マルスの捜索に当たりたいと思います』
 
 
マリオがマイクのスイッチを切り、一礼する。
 
話し終えると途端に、ファイターが様々な声を発した。
 
もう探したほうがいいのでは。放っといても大丈夫だろ。
 
 
だが、誰もこの中で、これが後のとんでもないことの引き金になっていることをまだ誰も知らない。
相変わらず騒がしく、その日の夜は更けていった。

第二話

グラスに注がれたブランデーを、口に少し流し込んだ。
 
ほのかと漂う甘い香りが鼻をついた。
舌を包む僅かな甘味を、短い間で楽しむ。
 
スネークはグラスを揺すり、氷の触れ合う音を静かに聞き入る。
 
スマブラ宿舎の、地下に特設されたバー。
静かな雰囲気で、ファイターの中でも通っているのはごく少数だ。
 
だから、いつでも基本空いているし、何より自分一人の時間が持てる。
 
壁際のカウンター席で、隣は空いている。気がねせずに飲めそうだと思った矢先に、隣に人影が現れた。
 
 
「バーテンダー。ウィスキー」
 
筋肉質の男。真っ赤なヘルメット。
鍛え抜かれた肉体は、独特の威圧感を放つ。バウンティ・ハンター。
 
 
「スネークか」
「…またお前か」
 
ブランデーを飲み干した。
グラスに残ったのは申し訳ない程度の大きさとなった氷だけだ。
 
一方、ファルコンはイスの位置を調整させている。
 
「どう思うんだ。スネーク。この件についてだが」
 
届いたウィスキーを一口、口に運んでファルコンが尋ねる。
 
飯の時と同じ話題か。何だか今日はこいつと何故かよく会うし。
 
「俺は放っといていいと思った」
「お前らしいな。…俺とサムスは何か気になっているんだ。なあ、サムス?」
 
 
サムス?
後ろを振り向くと、いつの間にかサムスが壁によりかかっている。
 
パワードスーツは着けていない。いわゆるゼロスーツサムスだった。
金色の髪が、暗いバーでもひときわ輝いている。
 
手にしたパラライザーを撫でながら、サムスは呟いた。
 
 
「…そう。私はこの件は、何か絡んでいると思うわ」
「考えすぎだな。俺の推理は外れたことはないぞ」
 
そう。考えすぎだ。あの年だ。遊び盛り。
その内帰ってくる。何かあっても、マルスの実力は皆が認めている。
 
だが、引っかかっているところもある。
それでも、慌てる必要はない。落ち着きの感情が心の中では勝っている。
 
 
第一、元々スネークはマルスとそこまで交流が深いという訳ではない。
 
そりゃあ、会話は交わすし。何かあったら協力もする。相談にも乗る。

だが、所詮そこまでだ。常にあいつのことを考え、行動する気などない。
単なるクラスメートと同じ関係だ。その程度。
 
 
「…仲間でしょう? 心配するのは当たり前じゃない」
「仲間、か」
  
 
…でも。
 
自分の中では構うほどではないという考えが大きい。
 
そうだ。仲間だ。行方が分からない仲間がいる。心配する感情は当たり前ではないか。
 
しかし心は晴れない。
自分の中の何かの感覚が蠢くように。マルスについては、触れてはならないと告げる。
 
逆にとれば、これは何か危険なことに繋がっているから
手を出しちゃいけないと、自分の勘がそう言っているのだろうか。
確かに自分でも様々な死線を潜り抜けてきたと思う。
 
そんな中で培った、危険を察知する能力が今、何かを告げているのかもしれない。
 
 
 
 
…いや、流石に考えすぎだよな。
自分の心がコントロールできないなんて、多分、疲れてるからだろう。
 
マルスの身を案じて、考えるのがめんどくさいだけかもしれない。
適当にあいつの事は気にしたくない口実を作っているのだ。
寝れば直る。
 
 
「…そうだな、やっぱり、一回ちゃんと調べてみるか」
「それがいいと思う。私も」
「お前もそう思うよな。スネーク?」
「…む?」
 
どうやら、スネークがひたすら自分を整理している間に、
ファルコンとサムスが何かしら計画を立てていたらしい。
 
「聞いてなかったのか? 一回マルスの部屋へ行くんだ。大体、あいつがふらりと一日中出て行くのも珍しいからな」
「何か手がかりがあるかもしれないわ」
 
ファルコンが立ち上がる。
 
 
 
考えすぎ…か。何かあるのか? ああもうアタマがこんがらがってきた。
  
 
そうだな。一回、洗ってみよう。
どうもおかしな考えが自分の中で浮上している。どの道、真実が分かればはっきりする。
 
 
スネークも立ち上がった。

第三話

研究所のような施設。
 
窓を開けると、濃紺の空が目に飛び込んでくる。
散りばめられた星の一つ一つが、競いあうように夜空を彩っていた。
目を奪われるほど綺麗なので、もう少し眺めてはいたかったのだが、とりあえず窓を閉める。
 
「…なんだ、用ってのは」
 
赤い髪の青年に話しかける。
首に真っ赤なスカーフを巻きつけ、しかも赤いマントを背負っているから、暗闇の中でも目立つ。
 
赤毛の青年がイスをくるりと回転させ、窓の近くに立っていた青年に体を向けた。
窓の近くに立っている青年は、赤毛とは対照に青に緑がかかった髪を持っていて、彩色もあまり目立たなかった。
 
 
「ふふん、お前にオレの計画を教えてやろうと思ってな」
「…計画?」
 
赤毛の青年があごで近くの機材を示した。
どうやら座れと言っているらしかった。青い毛の青年が古くなった機材に腰かける。
 
「まあ、とりあえずこれを見ろ」
 
 
赤毛がコンピューターを作動させ、大きなモニターに画面を表示させる。
 
見ると、恐らくこの研究所の一角らしい部屋が映る。
しかしよく目をこらすと、そこには見慣れた青年が横たわっている姿があった。
 
 
「…マルス?」
「そうだ」
「どうしたんだよ」
「油断したこいつが悪ィ」
 
 
またイスをくるりと回転させ、青い毛の青年に身体を向けた。
 
 
「何をする気だ」
「…まあ、そう慌てるな」
 
また赤毛がコンピューターを触ると、モニターが切り替わった。
今度は紫色の粒々が画面に映し出される。
 
それはよく見ずとも正体が分かった。数年前に亜空軍が利用した、影虫に他ならなかった。
 
 
「…! 影虫か。 また物騒なモノを………」
「俺が改良した」
 
モニター上で影虫が解析される。
メインコンピューターがヴィィン、っと唸りを上げた。
 
どうやらやたらでかいコンピューターを利用しているらしい。
 
 
「いーや、ファイターにとったら改悪って奴だな」
「どこをいじった?」
 
 
赤毛がキーボードをいじる。
影虫の一部が拡大される。
 
「まず、この影虫に寄生されると、フィギュア化しなくなる」
「…なに?」
「また、寄生された者の攻撃によってのフィギュア化も抑えた」
 
 
フィギュア化…。
この世界の秩序。敗北を見たファイターは、冷たいフィギュアに戻される。
 
だが、逆にそれは防壁でもある。
フィギュア化があるから、ファイターは死なない。
フィギュア化という敗北の区切りが存在するから、ファイターは死ぬまで戦えない。
 
それを崩した。
何を意味するかなど、明白だった。
 
 
「殺し合いでもさせる気か」
「全くのその通りだ。流石だな」
 
赤毛が笑みを浮かべる。
 
計画というから、少しは何かまともな物を期待したのだが。
 
 
「やめろ」
「…更には、影虫に寄生された者の戦闘力及び武器類は、より現実に近くなるようプログラムする」
 
青髪の言葉を無視して、赤毛は続けた。
 
抑えられた戦闘の力。調整されたバランス。それを、崩した。
 
 
もし全てが現実どおりになれば、剣で皮膚は断たれ、銃弾は身体を貫通する。
 
 
「何がしたい?」
「てめェと一緒だよ。この世界の秩序を守る」
 
全く理解できなかった。
 
「…なら、なぜ」
「理由は後で話す。 お前は黙って俺の言うことを守ってくれればいい」
 
背もたれにもたれかかり、天井を仰ぐ。薄汚れた天井が、不気味な雰囲気をかもし出している。
 
 
どうなるか。青い髪の青年は考えてみる。
だが、思いつかない。赤毛の思考が分からない。青髪は、溜め息をついた。

第四話

「…何だよ、この状況」
 
アイクが一言、呟いた。
 
普段は静かな部屋だ。いや、ハズだった。
マルスとアイクの二人部屋。マルスはアイクの無口さを知っているから、熱心に話しかけたりはしない。
マルスはいつも本を読んでいるか、花をいじくっているか。アイクは部屋にいる時は大概寝ていた。
 
それだから、この部屋はいつも静寂に包まれていた。
静かに、自分の好きなことをする、プライベートルームが、今はお祭騒ぎになっている。
 
「いいじゃんー! こういうのも、たまには面白いよー!」
 
トゥーンリンクが、ニコニコしながらはしゃいでいった。
傍らにはしきりに部屋のものを物色するリュカ。そしてそれを不思議そうに眺めるプリン。
 
「このハーブティー、良い香りですわね」
「あっ、分かる? ちょっと高級な茶葉取り寄せたのー」
 
テーブルでは、ゼルダとピーチが勝手にお茶会を開いている。
騒がしい部屋の中、そこだけは空気が違うようだ。
 
「撃てェェェェ!」
「甘いぞファルコ!」
 
二段ベッドでは、ファルコやマリオ、ワリオがコンバットゴッコを楽しんでいる。
ふと眼を凝視すると、テーブルの一つ空いたイスにはピカチュウがぐっすり眠っていた。
 
「あー! やっちゃった! 事故で-2000$だって」
「ホラ、この家よくない?」
 
台所の床で、ピット、ポポ、ナナが人生ゲームをしている。それをヨッシーが見ていた。
こっちは比較的静かだ。まあ、人生ゲームで盛り上がるのも多少無理があるが。
 
 
とりあえず結果的に、今アイクの部屋は物凄く騒がしい。そういうことだ。
この盛り上がりっぷりに水は差したくなかったのだが、平穏を手に入れる為にも差さなければならない。
 
「…なあ、みんな。…帰ってくれないか?」
「あ?」
 
アイクの言葉に、一同が振り返る。
一瞬、殺気が見えた。…気がする。
 
「ボクたちは、アイクが寂しくないように来たんだけど」
「そうですわね」
「おいおい、俺達が帰っちゃっていいのか? 寂しいぞー」
「そうだよ!」
 
口々に帰ってくる反論。
いや、それなら俺も入れろよ、と思う。思うだけで口にはしない。
 
一同はずっとアイクを注目していたが、一向にアイクが喋らないのを確認すると、また各々の遊びに戻った。
 
溜め息。出てくるのは溜め息。
とにかく、逃げたい。騒がしい雰囲気は苦手だった。
 
そろりと扉に近づいて、静かに部屋を出る。
バレない。存在感が無いかもしれない。
 
 
「…あっ」
「おっ」
 
部屋を出ると、外にはファルコン、サムス、それにスネークが壁にもたれかかっていた。
アイクを見て顔を上げたところを見ると、どうやら何か用があるらしい。
 
大方部屋がうるさく、どうしたのかと議論でもしていたのだろう。
 
「アイク。どうした。妙に騒がしいな、お前の部屋」
「色々とあってな」
「なんだ、色々って」
「とにかく、色々あるんだ」
 
唐突に始まる、アイクとスネークの噛み合わない会話。
傍らで眺めていたサムスが、噴き出した。
 
「…で、俺に何か用か?」
「そうだ。マルスのことでな」
 
マルスのこと、それを聞いた途端に、アイクの顔が歪む。
とりあえず、今日はその事に関して全くロクなことがない。部屋は占領されるし。
 
そんなアイクの様子など気にもとめず、三人は尋問は始める。
 
「最近、何か変わったことは?」
「ない」
「マルスの様子がおかしいとかは?」
「ない」
「…それじゃあ、どこかに行くとか言ってたか?」
「ないな」
 
手応えのない返事に、ファルコンはヘルメットをぺしぺしと叩いた。
イライラしている時のクセだ。アイクは知っている。
 
 
「…お前、情報提供する気ある?」
「正直言うと無い」
 
眼をとろんとさせたアイクが、だるそうに呟いた。
 
眠気が既に彼を襲っている。
しかし身の休まるところはない。
 
何もせずにぼーっとするのが、アイクは一番嫌いだ。
ラグネルを肩に乗せると、ファルコンたちを見回す。
 
「…悪いが明日にしてくれ。今は気分じゃない」
「分かった」
「ふふ」
 
あっさりと食い下がったな。アイクは思わず笑ってしまった。
ラグネルを揺すり、星空の下へ。己との戦いの時間が、始まる。
 
 
 
「ふうむ。意外とこたえてるかもしれんな、あいつ」
「…そう見えなかったけど」
「…俺は飲み足りない」
 
スネークがぼそりと呟いた。
 
まあ、そうだな。急ぐ必要もないしな。
ファルコンはそう思う。興味はあるのだが。
思うように事態が進展しないと、苛立ちを覚える物だ。この気分を、収めたい。
 
「も一回バー行くか」
 
首をこきこきと鳴らせて、ファルコンは言う。一同は歩き出した。

第五話

静かな夜中である。
 
 
吐息が、白い。
 
思わず、身震いする。
屋内にいた時はさほど感じなかったが、研究所の外に出た途端、寒波が身を襲ってきた。
つい最近までは暖かい、いや、暑かったくらいなのに。秋はすぐそこなのだろう。
 
「さむっ」
 
 
零れる言葉も、それぐらい。研究所の外はあまりに殺風景で。
緑に青がかかった髪をぐしゃぐしゃとかきむしる。眠気はなかった。
 
「さむっ」
 
後を追うように扉を開けた赤髪の青年も、同じように身震いした。
 
本当に寒い。何で今日だけこんなに冷えるのか。
手をさする。僅かな摩擦熱が、心地良かった。
 
さくっと、草を踏む音が耳に届く。
聞こえるのは名も分からぬ虫の鳴き声と、夜の小川のせせらぎだけだった。
 
「さァて、オマエはどうするんだぁ?」
 
赤髪が意地悪そうな笑みを浮かべた。
気の早い人間が見れば、怒りがこみ上げてきそうな笑顔である。
 
元々こいつはこういう性格であるから、今更気にはならない。
もう慣れてしまって、さらりと流せてしまう。
 
「メンバーに接触するしか、ないだろう」
「ま、それしかないわな」
 
ふうっと、赤毛が脱力する。
すると突然、赤毛の青年の体が眩い、真っ赤な光を発し始める。
辺りに赤い閃光が走ると、そこには赤毛の青年の姿は無かった。
 
代わりに、かつてファイター達を苦しめたクレイジーハンドの姿が暗闇で鮮やかに映し出される。
 
「俺は、またどいつかを拉致るとするか。手駒が少ねェ」
 
不敵な笑みを零すクレイジーハンドが、夜の雰囲気に妙にマッチしている。
 
 
「オマエも、奴らに気をつけろと言っといた方がいいかもな。マスターハンド」
 
マスターハンドと呼ばれた、緑の髪の青年が夜空を仰ぐ。
 
まったく、こいつは好戦的というか、なんというか。
足元の枯れ草を踏みにじる。ざくざくと足音を鳴らせ、歩き始めた。
 
 
──ったく。
 
  
出てくるのは乾いた溜め息と、白い吐息だけだった。

第六話

カビ臭い部屋だった。
薄暗い。天井から吊るされたカンテラの炎が消えかかっている。
お世辞にも綺麗とは言えない、研究台ともベッドとも言えない物にマルスは寝かされていた。
 
部屋は比較的広い。
正方形の形で、丁度部屋の中央辺りに寝かされていた台が設置されている。
気になるのは、四方の壁にそれぞれ、扉が設置されてある事だ。
 
引いたり押したりしても、扉はびくともしなかった。
鍵でもかけられているのだと、マルスは思う。
 
「…クレイジーハンド」
 
 
マルスは頭をフル回転させ、ここに連れられる直前の事を思い出す。
僅かな記憶の断片の中に、真っ白な手を思い浮かべる。クレイジーハンドだった。
よろよろと台に腰掛け、頭をかきむしった。
 
 
油断した。
 
 
それだけだ。
 
ここはどこだろうか。
 
 
改めて部屋を見渡したマルスの耳に、あの人を馬鹿にするような声が響く。
 
『気分はどうだ?』
 
一瞬、空耳かと思ったが、そうじゃない。
薄暗くて気づかなかったが、天井からモニターがせり出していた。
 
目を細める。映っているのは、真っ白い、手。
頭がぼーっとしていた。長時間眠っていたせいか、少しだるいのだ。
 
『寝起きで悪いが、オマエを少しばかり実験に使わせてもらう』
 
画面の中で、白い手がぐにぐにとうねる。
すると、途端に先ほどまで開かなかった4つの扉が、音をたてて開いた。
 
ポヨン、ポヨン
 
まるでゴムまりの靴で歩いているような足音。
翡翠色の体に、真っ黒な顔。その中に卵のような赤い目が2つ。
 
 
それは紛れもない、『亜空軍』の主戦力であるプリムに他ならなかった。
プリムは4つの扉からそれぞれどんどんと入ってくる。
 
それはそれは窮屈そうに。
何匹いるのだろうか?少なく見積もっても、10、いや、20はくだらない。
 
 
なぜ亜空軍がいるのか。
 
マルスの思考はすぐそこに行きついたが、そんな思いはすぐに払拭する。
 
それぞれにビームソードやクラッカーランチャーを携えているプリム。
倒さねば、ならない。
 
  
マルスは神剣『ファルシオン』を引き抜いた。

第七話

──先手必勝、という言葉を思い出した。
 
 
目の前の、翡翠色の生物が振るうビームソードを、ファルシオンで受け止めた。
 
 
──誰かにアドバイスされたのだ。浮かぶのはその影ばかりで、実体がはっきりしない。
 
 
一匹のプリムとの、つばぜり合いとなる。
 
 
──戦いにおいて大切なのは、ただ一太刀を浴びせる技術だと。
 
 
横手にいる他のプリムが踊りかかってくる。
 
 
 
目の前を横切ったビームソートの刀身が、青白く煌いている。
薄暗いカンテラの光を煌びやかに反射し、それはまるでサファイアのようで。
 
ロマンチストだと、自分でも感じた。
心の底では分かっていたのだ。これだけの敵を捌ききれる訳がない、と。
 
人は生命の危機になると、誰もがロマンチストになると聞いた事がある。
 
 
 
…案外ウソでもないな。
 
 
マルスは、微笑していた。
 
 
 
 
 
「何だ、アイクの部屋に行ってたんじゃないのか?」
 
トゥーンリンクが部屋に戻ると、窓から夜空を眺めていたリンクが話しかけてきた。
 
「みんな寝ちゃった」
「…確か、ゼルダも行ってたよな?」
 
リンクが突然、イスから立ち上がって叫んだ。
 
凄い勢い。トゥーンリンクを吹き飛ばすほどの勢いだった。
 
「…え? そ、そうだけど」
「な、にィ! つまりゼルダ姫がオレ以外と一晩屋根の下ってことか!?」
「し、知らないよそんなの」
 
一晩屋根の下って…。
同じ宿舎なのだから、一応皆いつも同じ屋根の下って事になるのだが、トゥーンリンクはあえて口に出さなかった。
 
窓からは、月光が差し込んでいる。
開け放たれた窓から、夜風が部屋に吹き込んでいる。
まだ残暑が残っているのに、入ってくるのは寒風ばかり。少し身震いした。
 
「ねえ、リンク」
「んー」
 
冷蔵庫から取り出したコーラを口に含んでいたリンクが、気のない返事をした。
 
「明日にでも、ボクを特訓してくれない?」
「…いきなり、どうした」
 
夜風が、前髪を撫でる。
 
「前、リュカに負けちゃったから」
「…」
 
トゥーンリンクとリュカはとても仲がいい。
年齢が近いと、やはり親しみやすいものなのだろう。
 
そして仲がいい分、負けたときの悔しさも大きいものだ。
 
「まあ、いいぞ」
「ありがと!」
 
いつ、何が起こるか分からないから。
 
 
リンクは小声で、付け加えておいた。

第八話

肌寒い風が頬を撫でていた。
 
 
 
寒い。思わず、身震いする。
うだるような熱帯夜の翌朝が肌寒いなんて。
ベッドから起き上がり、時計を眺めると朝6時を回ったばかりである。
 
そりゃあ、冷えるよな。窓も開けっ放しだったし。
 
 
 
フォックスはのろのろと立ち上がって、窓に手をかける。
大きく息を吸い込むと、早朝独特の、若葉の瑞々しい香りが鼻をくすぐった。
 
吐息を外に吹きかけると、白い息となって消えていく。
いい朝だ、と感じる。今日は晴れるといいのだが。昨日は曇っていた。
 
 
「ウルフ、起きろ」
 
 
 
タオルケットに包まっていびきをかいている、もう一人のファイターに声をかける。
少し待っても、身体が動き出す気配はない。フォックスは思い切って掛け布団を取り払った。
 
「うわをわ!?」
「朝だぞ」
 
ベッドの上で悶えるウルフに、声をかけた。大袈裟なのだ。
ようやく目を覚ましたらしいウルフは、のそのそとベッドから降りる。
 
「さみィ」
「寒いな」
「ソーセージ焼いてくれ」
「いきなりかよ」
 
ウルフはソーセージが好きだった。
食欲がどんなにわかなくても、ソーセージを目の前に出されると思わずかぶりつく程である。
それだから、部屋に据えつけられた小さなキッチンにはソーセージが大量に備蓄してあるのだ。
 
仕方がなく、フライパンにソーセージを適当に放り込んで火にかけた。
しっかりと換気扇を回しておく。忘れると、煙くて鬱陶しい。
 
焦げないようにソーセージの前に立っていると、ウルフが話しかけてきた。
 
「そういや、マルスまだ帰ってないんだな」
「らしいな」
 
昨日はかなり遅くまで起きていたのだが、結局マルスが帰ったという報告はない。
恐らく、未だ帰ってないのだろう。
 
 
 
そういえば、今日はもし今朝までにマルスの消息が不明だったら、全員で捜索に当たるとマリオが言っていた。
マルスの行方は依然不明のままだから、当然今日は捜索になるだろう。
 
 
そうなれば、何処を探すべきか。
無駄な事はフォックスは嫌いだった。できる限り、物事は手際よくやるのが好ましい。
 
 
 
 
いや、それは当たり前なのだが。フォックスはとりわけ無駄な行動は省きたい性分だった。
 
 
さあて、今のうちに状況を整理しておくか。
 
 
……。
 
 
 
「オイ! オイ!」
 
 
10分くらいたったろうか。腕を組んで、目を瞑り、本格的に頭を働かせていると、ウルフの声が響いた。
目を開けると、ウルフが怒った顔を覗かせている。
 
「何だよ、今考え事してるんだ」
「いや、それはいいんだよ」
 
 
うんざりした顔で、ウルフはコンロを指差した。
 
 
「ソーセージ焦げてるぞ」