スマブラ個人小説/チャカラの小説/復讐、迎撃

Last-modified: 2015-10-09 (金) 19:05:53

目次

本文

プロローグ

「ニンテン地帯」…と名付けられた大陸と島々の密集体。一時間に2本の定期船で、互いに結ばれている。
魔法が存在する大陸や、特異な能力を持つ生物が道端にもゴロゴロいる島、異様にスポーツ好きが多い島等、その特異性には目を見張る物がある。
そしてその中で、「スマブラ島」と、俗に言われる島がある。観光地として流行っており、この地帯の丁度中心部に位置する。そしてかなり広い。
そして、この島が観光地たる所以たる一種のスポーツは、物凄い人気を持ち、わざわざこれを見る為だけに宇宙から来る者も居る。ちょうどこのスポーツの名が、島の俗称の元となった。
そのスポーツの名は…
『大乱闘スマッシュブラザーズ』

~大乱闘スマッシュブラザーズ 空中スタジアム兼選手寮~

ここでの一日は、まず朝食も兼ねたスパーリングから始まる。
白く目がついた柱状の物体、『サンドバッグくん』をボコボコにし、食物を排出させる。
そしてそれを奪い合うのだ。食事だけで物凄いエネルギーを使うのは本末転倒ではあるが。
その後はしばらく自由時間、その後連絡船到着の30分後、十時頃に試合を始める…というのが、いつもの在り方だった。
但し、この日は少し違った。
赤い帽子を被り、口ひげを生やした彼は、髪を汗で濡らしながら、いつものようにスパーリング後の自由時間に入ろうとしていた。
彼の…いや彼等の平穏は、けたたましいアラームの音に打ち破られた。火事でもない、地震でもない。勿論目覚ましでは決してない。
高音と低音が混ざり、時として虫の這う様な雑音が入るその独特のアラームは、特定危険因子発生の警告。
そして、彼等にとっての『負の記憶』が、再燃し始めた警告である。

『影虫』
彼等は、その『負』をこう呼んでいた…

第一話 勃発

「サムス!座標の確認を!」
「今やってる!」
サムスと呼ばれた金髪の彼女は、複数のタッチパネルを目まぐるしく操作している。
「カゲムシ タイリョウ キケン」
「知ってる!煩い!」
片言の単語で要点のみを伝えた、黒い平面人間『Mr.ゲーム&ウォッチ』通称「ゲーウォ」。
彼は以前、『亜空軍』と呼ばれる影虫の軍団に所属、影虫の製造に深く関わって居た事がある為、その経験は影虫の撲滅に大きく役立っている。
「クソ!増殖している!」
赤い帽子を被った彼、『マリオ』は、レーダーに存在する影虫の反応――次第に巨大化していく――を見、言った。その声には、焦りが感じられる。
無理もない。これ程の大群は、長い間…彼らが『亜空の使者事件』と呼ぶあの事件の後からはずっと現れなかった。プリムが精々10体分位の量しか現れなかった。
ただ、今回の影虫はプリム換算で200体。異常である。
さらに。
「アクウカンハンノウ カンチ」
絶望。

~影虫出現地帯 すま村~

多数のプリムが、村を破壊していた。
無惨にも叩き壊された『R・パーカーズ』の看板が燃えているが、それに興味を持つものは少ない。
プリムは『殺戮対象』である住民に、対して住民は『救い』である逃走先にしか興味を持っていない。
『霞に包まれ一寸先も見えない登山者』程に救いは見えないが、頼るしかなかった。
最後尾にいる二人の少年少女は、肩で息をし、目を白黒させながら斧やスコップを振るう。
だが慣れていないようで、大振りで隙を晒し、バズーカプリムの撃ち込んだ弾に当たりそうになる所を紙一重で避ける。それで転ぶ。
少年は素早く起き上がってすぐそばのプリムにボクシンググローブでパンチを叩き込む。
大したダメージにはならずとも、取敢えず一時凌ぎにはなる。
その間に少女は起き上がり、すぐ傍にあった蜂の巣をプリムの軍団に投げ込み、撹乱する。
「村長!早く逃げましょう!」
「今逃げたって背中撃たれるのがオチだね。まだ出て来てるし」
村長、と呼ばれた少年は、斧でプリムの首を刎ねた後、空に出来た穴を見た。
紫色のその穴からは、今も絶えずプリムが出現している。ブーメランを持った者や、ビームソードを持った者も居る。時折ギラーン等が出てくるから始末が悪い。
「行け!」
少女が手を前に翳すと、そこから唐突に埴輪が出現した。
埴輪はプリムを大量に押し出し、そして巻き込むように自爆する。
斧でプリムの胴を横に両断しつつ、少年は木に斧で一撃。
その際に生まれた隙を少女が補う形で、パチンコの玉を冷静にプリムの眉間へ打ち込む。
怯んだプリムに少年は斧を振るい、両断。
そしてその力を殺さずに、『回転』という形で木に叩き込む。遠心力の加わったソレは、木に裂け目を走らせた。
不吉な音を立て木が軋む。裂け目の断面と断面が触れ合い、皮は伸びてささくれた。
バランスが崩れ、次の瞬間、木は遠心力と重力のままに倒れ、疑似的な壁となる。
「今だ!逃げるぞ!」

~すま村近辺 空き地~

逆噴射の為スラスターを吹かしつつ、スターシップが降り立つ。
逃げる為にここまで来た村民は、これで終わりかと思いつつ別方向へ逃げ出そうとしていたが、後ろからの凛々しい女性の声で思いとどまる。
「おい!何をしている?助かりたければこちらに来い!」
その声は、彼らにとって『希望』だった。

第二話 危機

~空中スタジアム ロビー~

「影虫?」
「ああ」
サムスによって救助されたすま村の住人が、マリオ達ファイターの前に並ぶ。
「君達すま村の住人は、我々が『亜空の使者事件』と呼称する事件の後にこの島に移り住んで来たからな。あれを知らないのも無理はない」
「あれは大変だった。俺なんか試合終わって早々大砲の一撃を喰らった」
話しているのは、サムスとマリオだ。
神妙な顔をしながら住民達は話を聞いている。重い空気が辺りに充満していた。
「影虫がどうこうってのは長くなるから止めておくが、とにかくこの島に住む住民にとって危険なのは確かだ」
「小さな集団は私達の手で暗に処理して居たのだがな。ここまで増えるとなかなか手が付けられない。」
「ですが、貴方達ファイターは42人も居ますよね?殲滅位楽だと思いますが…」
と、村長の少年が言うと、マリオ達は困惑したような、憐れむ様な、何とも言えない表情をした。
そして、マリオが言う。
「それがだな…言い難いんだが、こんな時に大規模休暇があってな。故郷に一旦帰ったり、旅行に行ったり。試合があるから日程はズラすんだが、その間当直の人数が少なくなるんだわ。残念な事に強い奴が殆ど出払っちまってね。今頃は戦闘機で飛び回ったりどっかの基地に潜入したりどっかの星で宝集めたりどこぞの森でバナナ集めたりどっかの氷山登ったり遠い空でカボチャ採ったりしてるんだろうよ!」
後半に進むにつれ、語調が強く早口になる。住民は悔しそうな様子で歯噛みし、村長は怒鳴る。
「そんな休暇の為に、私たちの村が犠牲になったんですか?!あの素晴らしい森が!あの美しい海が!」
「落ち着け。叫んだって何にもならない」
サムスが宥める。
「とにかく、今はここに居た方が良い。ここなら簡単に使える武器も揃ってる。食物はあそこの目が付いた白い筒を叩けば出てくる。私達の使う居住ホールの空き部屋に大勢収める事になるが、そこは我慢してくれ」

その後、部屋割りやら何やら一悶着あったが、今は落ち着いている。
かくして三日程後、村長と少女―――プリムの足止めをしたあの二人である―――が放送室も兼ねたスタジアム中央指令・会議室に押し掛けた。
ドアが勢い良く開く音に、中に居たマリオ、サムス、ゲーム&ウォッチ、そして白赤黒の色をしたロボットが反応した。マリオが真っ先に声を放つ。
「どうしたんだ急に」
「ここに来てからもう三日です。そろそろ攻撃をしかけても良いのではないのですか?!」
村長の声からは、憤怒が痛いほど伝わってくる。
「そうしたいのは山々だけどな。ちょっと画面を見てくれ。今説明する」
マリオがタッチパネルを触ると、空中にスクリーンが投影される。
映し出されたのは、一つの巨大な建物であった。
「何ですかこれは」
村長がスクリーンに懐疑の目線を向けて訊く。
「すま村だよ」
「はい?」
懐疑の目線がマリオに向いた。
「君たちのすま村があった場所さ。今はこんな体たらくだ」
マリオはタッチパネルに指を走らせる。
別の画像が映し出された。
「ヤバいな、こりゃ。そう思わないか?」
一面に広がる敵。その数およそ五千。過去最大級である。
外側にデスポッド、バズーカプリムを配置、その護衛にバイタンが付く。
その内側にプリム、ソードプリム、マイト、ブーバス、キャタガード等が混在して円陣を組む。
建物のすぐ周りにはアーマン、ギラーン、ジェイダスが控え、空中をアラモス卿、パッチが警備している。
「こんな陣形を敷かれちゃたまったもんじゃない。サムス、ゲーウォ、ロボット、俺で攻め込んでも切られて痺れて痣だらけで蜂の巣だろうな。多勢に無勢、のれんに腕押し糠に釘、無駄だね。もっと居るなら別だが」
「…なら…」
「ん?」
沈黙を決め込んでいた少女が、口を開いた。
「なら、私たちに戦わせてください!」

第三話 小さき力は希望となるか?

それを聞いたマリオは、無表情となる。
「戦う、といったな?」
「はい」
マリオは、二人を観察する。
しばしの沈黙の後、マリオは笑みを浮かべる。
「良いだろう。プリムの足止めをしたと既に君の秘書には聞いていた。戦うのを許可しよう。」
二人が顔を綻ばせようとしたが。「ただし!」というマリオの声に反応する。
その眼には何か、恐ろしいものを感じた。
「…ついて来れるかな?」
マリオは、笑った。

「まだまだだな!その程度じゃあ2秒で葬式だ!」
スパーリングルームにて、二人はスパーリング用ザコ軍団にしごかれていた。
駄目出ししているのはマリオとサムスである。
「いいか!実戦じゃあこれの数倍だ!へたばるんじゃないぞ!」
村長である少年――シュウ、という名だそうな――は、ザコレッドに斧で切り付け、背後のザコイエローには木の枝で応酬する。あまり効いた様子は無く、逆に殴られ、脳が揺れる。
かなりの長い間続けているようで、既に靴底は擦り剥け、服は汗に濡れている。
隣で戦う少女、ナナも同じく散々な事だった。
シュウよりも酷く、口角からは血が滲み出ている。
「どうした。シールドを張れ。私たちのお荷物となる気か」
「アアアッ!」
スピーカーから響くサムスの言葉に反応し、シュウがシールドを張る。ザコレッドのスマッシュ攻撃を防ぎ、ボウリング球で脳天を叩き割る。
同じくナナもシールドを張り、花火でザコイエローを打ち上げる。
「ヤァァァァッ!」
最後の一体となったザコグリーンを、シュウが斧で首を刎ねる。
「良くやった。計300体を凌ぐとはな。それなり強くしてあったんだがな」
壁の電光掲示板には『2:12:45』と表示されている。全滅させるまでの経過時間である。
「もっと短い方が良いのだがな。一応合格だ」
シュウが座り込み、ため息を吐く。
それとほぼ同時に、サムスの声がスピーカーから流れる。
「休む暇はないぞ、次だ」
マス目状の体をした敵が、出現した。

~空中スタジアム 中央指令・会議室~
「しかし、アレだけ鍛えても何にもならないだろう」
サムスがマリオに語りかける。
正面の画面には、未だ闘い続けるシュウとナナが映っている。
それを一瞥してから、答え。
「分かり切った事だ。だが、今ある戦力を鍛える事も重要だ」
「だからと言って他を怠れば良いという物じゃないだろう」
「ああ、分かっている。重要なのは――――」
短い沈黙の後、彼は言う。
「殲滅と、“潜入”だ」