第1部
第五章
オープニング画面に集結した新旧スマブラの7人の戦士。彼らは全ての謎を解き明かすため、そして自分達の活路を見出すためにランドマスターで編隊を組み出発し、すぐさまジュゲム軍団に取り囲まれた。スマッシュボールの期限が切れた直後に降り注ぐパイポの雨、対抗するは新しいランドマスター編隊を操るDXカービィらや激しい殺陣を繰り広げるXリンクたちだ。その間、DXマリオとファルコはジュゲム軍団の本拠地に潜入、件のジュゲムに迫るが、DXマリオの目の前で彼は自らを口封じに処するのであった・・・。
時間はかかったものの、加勢の飛行部隊を含めジュゲムの警備隊を全滅させてしまった。運悪く人質としてカービィに捉えられてしまったキノピオも解放してやる。彼はすっかりおびえて一目散に逃げ出した。
「・・・なんか、変な気分だな・・・」ファルコンは肩をすくめた。「さっきまで、こいつらに命を狙われていたんだよな?」
「どちらかと言えば、こちらの方が強かったらしい」Xリンクも気に病んでいた。パイポがいくら束になっても盾で簡単に撥ね返せることが分かって、ジュゲムが弱いということに気付いたのだ。
「オーバーキルと言う奴だ」DXリンクは苦笑したが、この場にふさわしくないように思われて咳払いをした。
すさまじい、惨状である。
彼らがいる高速道路はあたり一面ジュゲムの死体で埋まっている。そう、死体だ。
決して復活することは無い。似たような奴はいくらでも量産されるのだが、全く同じ個体と言うのはもう二度と現れることは無い。
「我々は、何をしていたのだろうか・・・」Xリンクは呟いた。
マリオはその後すぐにファルコの元へ駆けつけ、二匹の狐をとっとと片付けた。・・・フォックスたちはジュゲムの訃報を聞いたとたん彼の元へと駆けて行ったのだ。
深追いは無用である。
「生きてるか?」
「ああ。 そっちも大丈夫だな」
「まあな」
ファルコとマリオは互いの無事・・・と言うより生存を確認した。
奇妙な話である。たといゲームのキャラクターと言えども、一歩外へ踏み出せば命の保障は無いのだ。
「・・・次だ」マリオはファルコを立ち上がらせ、言った。
「まだやるのかよ」
ファルコは今度こそ完全に呆れ返り、これ以上は手伝わないと心に決めた。
実際、マリオにとってもこれ以上の手伝いは無用だった。妨害するジュゲムはいなくなったのだ。
・・・つづく。
「どうなっているんだ?」キャプテン・ファルコンは訊いた。
マリオは黙って先を歩いてゆく。
高速道に残った仲間達と合流したDXマリオは、まっすぐスマブラ館へと向かっていた。
なにも語らずに。
「・・・変な奴だぜ」ファルコンはDXリンクにささやいた。リンクもうなずく。
「また戻る気なのか。 結局ジュゲムはどうなったんだ?」
「さあな」
オープニング画面で結集した七人の戦士たちは再び集い、DXマリオを先頭にスマブラ館へ舞い戻った。・・・と言っても、その目的はDXマリオ一人しか知らない。
たった七人でジュゲム警備隊を全滅させたと聞き、一般警備のノコノコたちは手を出せずにいる。
やがて彼らの周囲はそういった警備員達が取り囲み、うわさを聞いたXの戦士達もちらほら現れ始めた。
プリンや、マリオ、ピカチュウらだ。・・・大剣を担いだ男の名を、DXリンクはまだ知らない。
一隊がたどり着いたのは、かのドンキー・コング氏執務室の前、ガノンドロフの店だ。バーテンは厳しい視線をこちらに送っている。客はいない。
「行こう」
マリオが皆に言い、扉を開けた。
「ここに来ることはわかっていた」
全員の姿を確認すると、ドンキー・コングはうなだれ、搾り出すような声でそう言った。「君達は私を殺す権利がある」
「何を言い出すんだ?」Xリンクがとがめるが、ドンキーは首を振った。
「私には・・・責任をとる方法が思い浮かばない」
マリオらが執務室へ行くのを見届け、傷の多かったファルコとDXリンクはトレーニングステージに入った。
「・・・で、これからどうなるんだろうな?」ファルコはマキシムトマトにかじりつきながら訊いた。
「・・・さあ」DXリンクは牛乳を一気飲みし、応える。「まあ、歓迎はされないだろうな。 体制側の警備隊を一掃してしまった輩など、本当はここに入れたくないだろうが」ドーナツに手を出し、言う。「む・・・我々の方が強いわけだし、口出しのしようも無いのだろう」
ドーナツはファルコが奪い取った。
「うまい・・・ふーん、で、ほかの連中はどうしてるんだろうな」
「ほかの連中?」
ハートの器が頭上に現れ、2人とも立ち上がったが背丈の関係でリンクが獲得した。
「ちぇ」
「ふふふ・・・こればっかりはほかの者には渡せないな」リンクは一気に回復し、それが終わると先ほどの問いを繰り返した。「―――ほかの連中、とは?」
ファルコは首をかしげた。
「だから・・・ほかの、DXのキャラクター達は、どうなったんだろうなって・・・」
・・・つづく。
ドンキー・コングは一枚の写真を差し出した。マリオはそれを受け取る。
「・・・君達がスマブラを去った直後の、この場所の写真だ」ドンキーは説明する。
「・・・」
キャプテン・ファルコンらはマリオの後ろからそれを覗き込んだ。見えたのは・・・。
無残に破壊された後の、建物の残骸だ。
これがスマブラ館だと言うのか・・・?
「一ヵ月半ほど前、スマブラの新作が発表された。 そこでこの地にもその新作“X”を投入することとなったのだが・・・問題が発生した。 メモリ容量の関係で、旧作を抹消してからでないとバージョンアップできなかったのだ」
ドンキーは言い、震える手で用意されたコップの水を飲んだ。その間、ファルコンはXリンクに目配せをする。Xリンクは意味が分からなかったのか、首をかしげた―――そもそもファルコンは部外者なので、“メモリ容量”の意味するところをおさえることが出来なかったのだ。
「・・・同じ人物は2人はいらない。 それが“X”側の提示した条件だった。 そこでわれわれは、“デバッグ”を行うことになった」
「デバッグ、だと?」Xリンクは訊いた。「・・・つまり、DXを抹消することが、新作にとってのデバッグになると・・・?」
「その通りだ」
ドンキーの苦悩に満ちた目つきから、Xリンクはその意味を推して量った。
ジュゲムは、デバッグ用のプログラムなのだ。そして彼らは、DXのキャラクターを抹消する任務を帯びている。
「ジュゲムら治安維持軍はそのために用意された。 まさかかつての自分達を殺すための部隊だとは言えないから、記憶を継承した新作のキャラクター達や新人には何も告げなかった。 そして君達のような、事実を知りうるものたちを秘密裏に消すことになった」
「・・・しかしそれは、失敗した」Xリンクが言う。
ドンキーは首肯した。
「そうだ。 ・・・警備隊はDXのキャラクターより強く、Xのキャラクターより弱く設定されている。 万が一暴走した場合われわれ新体制側が鎮圧できるように、だ。 それが裏目に出てしまったようだな」
・・・つづく。
執務室が騒がしくなり始めた。
「・・・われわれは、今のスマブラにとってジャマな存在なのだな」
DXリンクが言う。
ドンキー・コング氏が顔を上げると、DXリンクとファルコが扉を開けて執務室に入ってくるところだった。
「・・・」
「私達DXのキャラクターより、新作の戦士の方が強いのだろう? ならば、彼らに私達を直接殺させればよかったのではないか?」
「それは・・・」
「できない、と」DXリンクはドンキーをにらみつけた。「自分達は手を下さずに、ジュゲムらにその役目を押し付けたわけだ」
「誰も過去の自分自身を殺す気にはなれないだろう。 それに、そこで反対されたらスマブラの運営が危うくなってしまう」
ドンキーはうつむき、額に手を当てた。
「・・・分かってくれ。 これが君達のために出来る精一杯のことだったのだ」
このことについて発表は控えたい、とドンキーは言った。君達だけならメモリ残量への影響は少ないから、このままスマブラを去ってくれ、と。
「Xの戦士であるわれわれも、ということか」Xリンクは訊いた。
そして、現在起こりうる事態を想像してめまいを催した。
既に、リンク・ファルコ・カービィの変わり身は用意されているのだ。
「そうなのか?」Xリンクは訊いた。
そして、ため息をついた。「・・・そうか」
・・・つづく。
「殺して良い、だと? ふざけやがって」DXマリオは呟いた。
一同はトレーニングステージを“点検”と称して借り切り、一旦話し合いを行うことにして執務室を出た。マリオは一人ガノンの店に残ってほかの者たちを先に行かせたのだ。
「商売のジャマだぞ」ガノンドロフが言う。もちろん本心から言っているのではない。
「一杯頼む」
「・・・」
ガノンはカクテルの用意を始めた。
振り返ると、執務室の扉も廊下に続く扉も閉じられている。これでほかのものがここに来ることは無いはずだ。
そういえば、この部屋の感じもずいぶん変わったようだ。全体的に広くなり、またよどんでいた空気も改善されている。DXマリオにとっては、初めて来る店のようなものだった。
「―――あんたは・・・」「知っている」
ガノンは肩をすくめた。「汚れ仕事は本来俺達の役目だからな。 それを肩代わりしようってんだがら、ユングは本当によくやったと思う」
俺達、とはガノンドロフとクッパのことであろう。
「ああ、あいつは今選手控え室の方にいるぞ」ガノンはマリオのことを察して言った。
「あそう」
「気の無い返事だな」
考え事をしていたので、ついぶっきらぼうになってしまったのだ。「・・・いや、悪かった」
ガノンはマリオの表情を見て、再び肩をすくめてしまった。
まだ、分からないことがある。マリオは考えていた。
ジュゲムは新作側に造られた、デバッグ用のプログラム・・・。
それなら、あの時、レースの審判について記者会見をしていたジュゲム・・・。
あれは、誰なんだ?
新作が発表されたのはいつだ? あのあと俺達が会ったドンキー・コングはDXのドンキーなのか?
謎は未だ多くが残ったままだ。
これから、どうなる?
「・・・ほら、よ」ガノンがショットグラスをマリオの前に置いた。「あんたのカクテルだ」
赤と青が層になったカクテルだった。俺のカラーリングか・・・マリオは思った。
赤と、青・・・。
―――いや、まさか、な。
マリオはグラスを仰いだ。
・・・つづく。
失意の念を抱きつつ、Xリンクはトレーニングステージに入った。ちなみにステージは「戦場」である。
「・・・参ったな」キャプテン・ファルコンが言う。彼は左側の足場に座り込んでいた。
「・・・」
ファルコン以外の仲間達もそれぞれ思い思いの位置に腰をすえている。そして一様にXリンクの方を向いていた。
正確には、Xリンクの足元を、である。
そこにプリンがいた。
「・・・え?」
「私の情報収集・処理能力はその辺のマスコミ以上ですよ!!」張り切って爪先立ちし、プリンは言った。
「・・・マリオさんには許可をもらっています。 あとは皆さんだけです」
そう言うプリンの瞳は真剣そのものだった。
彼女は一連の事件について発表するべきだと語った。
仕方の無いことです、と。
「だって、そうでしょう? どうしてもともとここに籍を持つリンクさんやファルコさんたちまでここを離れなくてはならないのか。 おかしいじゃないですか!」
「しかし、発表したらDXの戦士を抹殺したことが・・・」「知られていいじゃないですか!!」
DXリンクの言葉をプリンがさえぎり、さらに続ける。「責任を問われるのはドンキーさんです。 皆さんではありません。 だって、皆さんは正当防衛をし、あるいはその手助けをしただけでなんですから」
・・・執務室の横暴ですよ!! プリンは繰り返し主張した。しかし他の者達の表情は暗くなるばかりである。
「しかし、ユングの奴はその後どうなるんだ・・・?」ファルコが言った。「悪を取り締まる側の不祥事だ。 一体誰がそれを裁く?」
「私達です」
プリンは声のトーンを落とした。「スマブラの全ての住人、そしてスマブラファンの全ての意見が必要になります」
「ぺぽ・・・」
DXカービィが手を挙げた。
「どうしましたか?」
「ぺっぽぽぽ、ぺぽ・・・」話を遮って悪いけど・・・と前置きをし、DXカービィは言った。「ぺぽ、ぽよ、ぺぽぽ」
フォックスが来た、と。Xカービィも同じ事を察知していた。
その場にいる全員が立ち上がり、目配せをし合った。
・・・つづく。
こっそり聞き耳を立てた上トイレから登場と言う間の抜けた出現方法をとった剣士は「アイクだ」と名乗った。
「マリオだ。 ・・・それで、何の用だ?」右手を差し出し、DXマリオは言う。
アイクはその手を握り返し、すぐに後じさりをして間合いを取った。
「・・・あんたは、DXのマリオだな」
「で?」
「俺の上司・・・プリンさんは今回の一件について告発をする予定だ。 それについて、あんたの賛成を得たい」
「・・・」
―――つまりアイクは、いや、アイクとプリンは、ドンキーを見捨てろ、スマブラそのものの世評も悪化することを認めろ、と言っているのだ。
「ちなみに、トレーニングステージに向かった他の者達の賛同は得ている」
「その後、スマブラはどうなる?」
マリオの質問に、アイクは歯切れ良く答えた。
「ドンキー・コング氏を更迭し、ジュゲム部隊の解体、管理システムの見直しを行った上で可能な限り今まで通りの活動を再開する。 もともとドンキー氏は大乱闘に参加せず、コピーを代理に立てていたから彼のポストについて心配することは無い」
「俺達は?」マリオは自分の胸を親指で指し、訊いた。すぐにアイクが応じる。
「何らかの形でスマブラに関わっていくことになるだろう」
「そうか・・・」
ま、その辺りで落としても悪くは無いか・・・とマリオは思った。
相談役とか、アドバイザーとかなんとかって所か? その前にスマブラがつぶれないといいんだが・・・。
今更身を隠す必要も無いと、DXマリオはアイクと共に店を出て、トレーニングステージに真っ直ぐ向かって行った。
が、そこに待っていたのはプリンだけで、仲間達は既にいなかった。
階下の正面入り口へ向かったのだ。3人はそれを追う。
途中で“レッド”を名乗る少年と合流。彼はDXマリオのことを少し意外そうに見ていたが、「そっか・・・」とつぶやき自分で何か納得を得たみたいだった。
それから4人が入り口に発見したのは、多数のジュゲムで構成された軍団だった。それをノコノコの一般警備員や先に駆けつけたファルコンたちが押しとどめている図だ。
「まだだ! まだ終わっていない!!」
殺到する軍団の先頭を切り、叫ぶのは他でもないフォックス・マクラウドその人であった。
それも、2人の、だ。
・・・つづく。