ロイ

Last-modified: 2024-05-17 (金) 19:57:42

【キャラ一覧( 無印 / AIR / STAR / AMAZON / CRYSTAL / PARADISE / NEW / SUN / LUMINOUS )】【マップ一覧( SUN / LUMINOUS )】


roi.png
Illustrator:夢ノ内


名前ロイ
年齢5歳
職業元プロボクサー

元プロボクサーのカンガルー。
大切なものを守る為に、裏社会のリングに立つ。

ストーリーには映画「ロッキー」シリーズ等のボクサーものの作品のパロディが見受けられる。

スキル

RANK獲得スキルシード個数
1勇気のしるし【LMN】×5
5×1
10×5
20×1


勇気のしるし【LMN】 [EMBLEM+]

  • JUSTICE CRITICALを出した時だけ恩恵が得られ、強制終了のリスクを負うスキル。
  • 嘆きのしるし【LMN】よりも強制終了のリスクが高い代わりに、ボーナス量が多く、JUSTICE以下でもゲージが増える。
  • GRADE100を超えると、上昇率増加が鈍化(+0.10→+0.05)する。
  • LUMINOUS初回プレイ時に入手できるスキルシードは、NEW PLUSまでに入手したスキルシードの数に応じて変化する(推定最大100個(GRADE101))。
    効果
    J-CRITICAL判定でボーナス +??.??
    JUSTICE以下150回で強制終了
    GRADEボーナス
    1+32.50
    2+32.60
    3+32.70
    101+42.45
    ▲SUN PLUS引継ぎ上限
    102+42.50
    推定データ
    n
    (1~100)
    +32.40
    +(n x 0.10)
    シード+1+0.10
    シード+5+0.50
    n
    (101~)
    +37.40
    +(n x 0.05)
    シード+1+0.05
    シード+5+0.25
プレイ環境と最大GRADEの関係

プレイ環境と最大GRADEの関係

開始時期最大GRADEボーナス
2023/12/14時点
LUMINOUS
~SUN+286+49.20
GRADE・ゲージ本数ごとの必要発動回数

GRADE・ゲージ本数ごとの必要発動回数
ボーナス量がキリ良いGRADEのみ抜粋して表記。
※水色の部分はWORLD'S ENDの特定譜面でのみ到達可能。

GRADE5本6本7本8本9本10本11本12本
15541108166222162954369346165539
65461091163721822910363745465455
165301059158921182824353044125295
265151029154320582743342942865143
365001000150020002667333441675000
46487973146019462595324440554865
56474948142218952527315839484737
66462924138518472462307738474616
76450900135018002400300037504500
86440879131817572342292736594391
96429858128617152286285835724286
112419838125616752233279134894187
132410819122816372182272834104091
152400800120016002134266733344000
172392783117415662087260932613914
192383766114915322043255431923830
212375750112515002000250031253750
232368735110314701960244930623674
252360720108014401920240030003600
272353706105914121883235329423530
292347693103913851847230828853462
300344688103113751833229128633436
所有キャラ

所有キャラ

  • CHUNITHMマップで入手できるキャラクター
    Verマップエリア
    (マス数)
    累計*1
    (短縮)
    キャラクター
    LUMINOUSep.Ⅱ4
    (175マス)
    460マス
    (-マス)
    ロイ
    ep.Ⅲ1
    (155マス)
    155マス
    (-マス)
    エル・リベルテ
    ep.Anthology2
    (105マス)
    210マス
    (-マス)
    周防パトラ/ウニの歌
    ※1:初期状態ではエリア1以外が全てロックされている。
    ※2:該当マップ進行度1の全てのエリアをクリアする必要がある。
  • ゲキチュウマイマップで入手できるキャラクター
    バージョンマップキャラクター
    LUMINOUSイロドリミドリ
    ~卒業編
    月鈴 白奈/卒業編?
    オンゲキ
    Chapter4
    早乙女 彩華
    /レッツ、チャレンジ!??

ランクテーブル

12345
スキルスキル
678910
スキル
1112131415
スキル
1617181920
 
2122232425
スキル
・・・50・・・・・・100
スキルスキル

STORY

ストーリーを展開

EPISODE1 リングに翔けろ「俺がこんなところで戦うことになるとは。本当に人生はわからないもんだな」


 戦う男は孤独なものだ、俺がそうだった。
 試合前は誰も控え室に入れず、ひとり頭の中で描いた相手と戦い続ける。
 少しでも勝率を上げるために、様々なパターンをシミュレーションしていく。
 身体能力や技術が相手のほうが勝っていたとしても俺はそこで諦めない。
 結果の決まった試合なんて存在しないのだから。
 するとコンコンとドアをノックする音が聞こえる。

 「来たか……」

 俺は立ち上がってドアを開けると、試合の運営スタッフの姿があった。

 「ロイさん、出番です」
 「ああ、行こうか」

 スタッフに続いて俺は廊下を歩いて行く。
 この試合は俺にとって最後の舞台になるかもしれない。
 気持ちは高ぶっていても、頭の中は戦いの前とは思えないほど冷静だった。
 そして、俺はその会場へと続くドアの前に立つ。

 『さあ、皆さん。いよいよ、このときがやって参りました!』

 司会の声をきっかけに会場から観客たちの声が上がり、ここまでその熱気と震えが伝わってくる。

 『サファリ市の地下も地下! どん底にあるこの吹き溜まりだらけの闘技場で、こんな戦いが見れると誰が予想できたでしょう!』
 「吹き溜まりか……」

 司会の言葉にふっと笑いが出てしまう。
 まさか、俺がこんなところであんな相手と戦うことになるなんて本当に人生はどうなるかわからない。

 『皆さん、待ちきれないのもわかります!私も待ちきれません! さっそく、両選手をお呼びしましょうか!』

 そう言うと会場が更に盛り上がっていく。

 『さあ、入場です! ボクサー界でタイトルを欲しいままに総なめした史上最強の男!元世界チャンピオン、ドランクぅぅぅ!』
 「ドーランク、ドーランク!」

 ドランクが姿を見せたのであろう観客席からは、ドランクコールが響き渡っている。

 『続きまして、登場していただきましょう。その最強の男に挑むチャレンジャー! 跳躍から放たれる右ストレートはすべてを吹き飛ばす、その二つ名は伊達じゃない!』

 司会の言葉に合わせて、俺の前のドアが開かれる。
 そこには今か今かと試合を待ち望んでいる、ライトで神々しく輝くリングが広がっていた。

 『飛び跳ねる核弾頭、ロオオオオオイ!』

 俺はリングへと続く花道を進む。
 ここまで、本当に長かった。
 ドランクを前にこれまで戦ってきた記憶が蘇ってくる。
 そうだ。俺は今日、世界に挑む。


EPISODE2 地下闘技場 「命なんて別に惜しくはねえよ。 俺には守りたいものがあるんだからな」


 ――数ヶ月前。
 俺が普通の生活を始めて数年が経ったころのことだ。この地下闘技場へと招かれたのは。

 「金が必要なんだろ? 普通の生活してて稼げる額じゃないのはお前がよーくわかってるはずだよな」
 「……テメエ、どこで嗅ぎつけてきたんだ」

 俺の前にいるネズミは、俺が元プロボクサーだということをどこからか嗅ぎつけてきたんだ。

 「で、どうする? お前の能力を最大限に活かせる場所を紹介してやれるんだぜ」

 ネズミが現れてからは早かった。
 こいつがどこでどう知ったのか知らないが、俺に金が必要なことをよくわかっている。
 手段を選んでいる余裕はなかった。
 俺は大切なものを守るために、なにがなんでも稼がなきゃいけないんだ。

 「……地下闘技場だと?」
 「表の連中には馴染みがないだろうな。でも、こっちじゃわりと有名なんだぜ」
 「闘技場というくらいだ。俺が誰かと戦えば賞金でも出んのか」
 「さすが元プロボクサーだな、話が早くて助かる」
 「チッ、ボクサーは関係ねえだろ。とっとと先を話しやがれ」
 「地下闘技場は山ほどの金が動く。それだけ賭け金がでかいってことだ」
 「人の殴り合いを見て賭け事かよ」
 「ハハハ! スポーツじゃないんだぞ。デスマッチってのは見てて楽しいじゃないか」
 「デスマッチ!?」
 「ああ、ルール無用だからな。命が惜しくなったか?」

 馬鹿げてる、とは言えなかった。
 ボクサーの試合だって意図的ではなかったとしても事故で相手を引退させてしまうこともある。

 「でかい試合は賭け金がでかい分、出場者へのバックもでかくなる。つまりだ――」
 「注目されればされるほど、いい稼ぎになる」
 「そういうこと。金儲けになると思わないか?元プロボクサーって肩書は客寄せになるぜ」
 「……わかった。出てやろうじゃねえか、その地下闘技場ってやつに」
 「そう言ってくれると思ったぜ。案内してやる、ついてこい」

 そう言ったネズミに俺はついて行く。
 着いたのはどこにでもあるような定食屋でネズミが店主となにやら話し始める。
 すると奥の部屋へと連れて行かれた。

 「こんなところにエレベーターが?」
 「ここだけじゃないけどな。他の場所からも入れるようになってんだ」

 俺たちを乗せたエレベーターはどんどん地下へと向かっていく。
 底の底と聞いていたが、本当にこんな地下深くに闘技場があるのか。

 「この先だ」

 ネズミのあとに続いて薄暗い通路を進んでいく。
 このとき、俺は不思議と懐かしい感覚を覚えて、「ああ」と納得してしまった。
 試合前にリングへと向かうときと同じ感覚だ。

 「さあ、着いたぜ」

 ネズミがドアを開けると同時に、歓声と熱気が一気に押し寄せてきた。
 中へ入って見ると金網で囲まれたリングの上ではすでに戦いが行われていた。

 「おらあああああっ!」

 リング上の男が鉄パイプで対戦相手を殴り、それで倒れたところへ追い打ちをかける。
 相手はもう戦闘不能になっているが、攻撃はやめず、誰かが止めるようなこともない。

 「ふざけやがって……」
 「そういう世界なんだぜ、お前が今から戦う場所は」
 「……なるほど」

 つまり、それくらいやらなきゃ観客は満足しないってことか。

 「出場者はこっちだ。手続きは俺がやってやるから安心しとけ」
 「ああ……」

 そこからはあっという間だった。
 ネズミが手続きを始めて、俺はろくでもない書類にサインをする。
 まさか、その日のうちに戦うことになるとはな。
 説明されたルールは簡単なものだった。

1.なにがあっても文句は言うな。
2.ギャラは賭け金と客次第。
3.武器の持ち込みは自由だが一部の武器は使用不可。

 要するに、刃物なんかはすぐに試合が終わる可能性があり、客を白けさせないために制限してると。
 まあ、俺はそんなものを使うつもりはないが、グローブくらいは貸してもらおう。

 「なかなか様になってるぜ。俺もお前に賭けさせてもらったんだ。せいぜい、稼がせてくれよ」
 「チッ……」

 このグローブに手を通すことなんてもう無いと思っていた。
 古傷が少し痛むが、問題はないだろう。

 『さあさあ、本日ご紹介するのは期待の新人!地下闘技場に足を踏み入れてしまった大馬鹿野郎だ!』

 司会の合図とともにドアが開かれて、俺はリングへの道を歩いて行く。
 あのころとは似ても似つかないリングだが、この高揚感だけは変わらない。

 「おい、あれって……」
 『ご存知の方も多いはずです。こいつほど、この地下闘技場に相応しい男がいるか! 弾丸パンチを持つ男、元プロボクサァァァァ、ロォォォイィィ!!』
 「おお、マジか!」
 『今宵、拳という名の凶器で、彼はマットを血で染めてくれるのでしょうか!』

 司会の紹介に正直、かなり苛ついているが今はそんなことよりも目の前の相手に集中すべきだ。

 『記念すべき最初の相手は! 地下闘技場の登竜門、こいつに勝てないようじゃここでは通用しない!新人潰しの黒き剛腕、ダウニー!』

 司会の紹介で現れたのは巨漢のゴリラ。
 今まで相手にしたことがないような重量の相手だ。
 正直、どう戦えばいいかわからない。

 『では、愚かな新人ロイのデビュー戦!開始です!』

 ゴングが鳴り響き、観客たちが声を上げて、一気に試合への熱が上がってくる。

 「アナタがワタシの相手ですか」
 「その片言、なんだ外からわざわざ来たのかよ」
 「安楽死と腹上死、どちらがお好みですか!」
 「意味わかって使ってんのか、その言葉」

 こんな軽口を叩いているが正直、今にも心臓が口から飛び出そうなほど緊張している。
 引退してからトレーニングだけは続けていたが、昔のように戦えないとしても、みっともない姿を見せるわけにはいかない。

 「行くぜ!」

 一瞬で間合いを詰めて、ジャブからのストレート。
 昔からこの速攻で試合を有利に進めてきた。

 「痛くもかゆくもないですね!」
 「チッ! そううまくいかないか!」

 ここまで重量が違うと俺のパンチではどうすることもできない。
 なら、俺にできることはひとつ。

 「お前が倒れるまで殴り続けるだけだ!」

 一気にラッシュを叩き込むが、ダウニーはびくともしない。

 「終わりですか? 仏の顔も三度まで、こちらが行きます!」

 ダウニーが大きく腕を振りかぶって、それを俺めがけて振り下ろす。
 やはりその巨体から出される攻撃のスピードは大したことはない。
 これなら当たらない――

 「つっ!?」

 避けきった、と安心していたがダウニーの手が軽く俺の腕をかすめていった。

 『おおっと、さすがロイ。ダウニーのパンチを華麗に避けきった!』
 「オウ、さすがですね」

 俺が避けたことに周りは歓声を上げるが、むしろ俺の顔は引きつっていた。
 スピードは大したことないと思っていたが、意外と早いのか。
 いや、俺の身体が鈍っているんだ。
 昔ならもっと余裕を持って動けたはず。
 ボクサー同士の戦いならば、ギリギリを避けてカウンターを決めるところ。
 だが、今回はそうじゃない。
 きっちりと避けて、体勢を整えてから一撃を加えるつもりだった。

 「長引かせると厄介だな。一気に終わらせるぜ!」

 トントンと俺はステップを早くしていく。

 『おおっと、この動きは!? まさか早くも出てしまうのか、お得意のアレが!』

 反動と勢いをつけて俺は翔ぶ。
 落下時のスピードに、体重をかけて、更にそこへ身体の回転をかけて遠心力を加える。
 掛け算された必殺パンチの威力は通常の何倍にも膨れ上がる。

 「くらいやがれ!」
 「ノオオオオオッ!?」

 俺のパンチがダウニーの顔面に直撃し、その衝撃に耐えきれずにリングへ沈んだ。

 『出たあああっ! ロイの必殺パンチサイクロン・マグナム!』
 「どうだ!」
 『おおっと、ダウニーダウン! これはもう起き上がってこられないか!?』
 「今だ、やれ! ぶっつぶせ!」
 『ロイへの熱いコールが止まりません!このチャンスを彼はどうする!』

 たぶん、司会と観客が期待しているのは、俺がダウニーに止めを刺すという場面だろう。
 だが、そんなものに答えるつもりはない。

「テメエら、俺とコイツの試合は終わったんだ。外野がガタガタ言ってんじゃねえ! 文句があるなら、ここに降りてきて俺を黙らせてみろ!」

 俺が会場に向けて怒鳴り声を上げると、さっきまで湧いていた会場がしんと静まり返る。

 「司会、言うことがあるんじゃねのか!」
 『あっ、ええっと……しょ、勝者ロオオオイ!劇的な勝利を手にした新人の今後に期待大だあああ!』

 司会がゴングを鳴らして、この試合に決着がついた。
 俺がリングから降りようとすると――

 「ご臨終させないのですか?」
 「もう気が付きやがったのか。普通なら起きてこられないはずなんだけどな。トドメを刺さない理由なんか、決まってるだろ。俺がボクサーだからだ」
 「ボクサー?」
 「いいか、この言葉を覚えとけ。“ボクサーの拳は殺しのための道具じゃねえ”ってな」

 そう言いながら、俺はリングをあとにした。
 会場からはブーイングが飛んできたが、そんなの現役時代から慣れっこだ。

 「ナイスファイトだったな」

 俺を出迎えたのはあのネズミだった。
 すると、ネズミは俺に向かってなにかを投げつけてくる。
 それは通帳のようなもの。

 「そこにお前のファイトマネーが入金される。本人の通帳だと、なにかと問題だろ」
 「現金でもらえると思ってたぜ」
 「おいおい、今どき現金とかナンセンスだろ」

 ハハッ、と笑うネズミに苛立ちながらも、通帳に入っている金額を確認する。

 「うおっ!?」

 その金額を見て思わず声が出てしまう。
 俺がプロをしていた頃に比べると少ないが、まっとうに働いていて稼げるような額ではない。
 それもたった1試合でだ。
 新人ボクサーでもこれだけの金額をもらえることはまずないだろう。

 「言っただろ、稼げるって。まあ、今回は新人だから期待されてなかった分、配当もデカかったんだよ」
 「……なるほど」
 「にしても、現役を退いたとは思えない実力だった。こいつは稼げそうだな」

 俺の反応に満足そうなネズミは、次の試合も決めとくよと言い残して帰っていった。
 残された俺は手にした金の大きさに喜び半分、不安半分だった。
 あのネズミも、司会もそうだが、俺の実力をなにもわかっちゃいない。

 「……昔の半分も跳べやしなかった」

 本来ならあの巨体のダウニーを倒すだけの威力は出せていなかった。
 でも、倒せたのは相手が俺の技を知らず、直撃させることができたからだ。
 明らかに衰えている。
 パンチ力も、跳躍力も、なにもかもが。
 現役時代に追いつけないにしても、それに近い力を手に入れなければこの先、きっと俺は勝てないだろう。
 だったら、やることはひとつ。

 「トレーニングだな」


EPISODE3 誰のために戦うのか 「俺はロバトの父親にはなれない。でも、俺にしかできないことだってあるんだ」


 地下闘技場で戦い始めてしばらく経った。
 試合数は多くないものの、なんとか勝利を収め、金も順調に貯まっている。

 「――久しぶりに来られたな」

 俺はとある孤児院の門をくぐる。
 中からは子どもたちのはしゃぐ声が聞こえてくるが、俺はそのまま職員がいる部屋へと向かおうとして――

 「あっ! ロイおじちゃんだ!」
 「しまった、見つかっちまったか」

 子どもたちが俺を見つけると、こちらへと走り寄ってきた。

 「ロイ、なんで来なかったんだよ! 遊ぶって約束したじゃん!」
 「悪かったよ、ロバト。仕事で忙しかったんだ」
 「なに言ってんだよ、ろくに働いてないくせに」
 「おいおい、違うって。俺だってちゃんと働いてるんだからな」
 「ねえねえ、そんなことよりも。今日は遊びに来てくれたんだよね!」
 「ああ。でも、その前に先生たちと話してくるから少し待っててくれ」
 「えー!」
 「もう、この子たちは。ロイさんに迷惑かけちゃダメって言ってるのに」

 子どもたちを追いかけてきた先生がそう言い聞かせると、子どもたちはしぶしぶとさっきまで遊んでいた広間へ戻っていく。

 「あとで絶対に来てよ!」
 「もちろんだ」

 子どもたちと別れて、職員がいる部屋に入る。
 事前に来ると伝えていたからか、どうぞどうぞと俺を迎え入れてくれた。

 「お久しぶりです、院長。忙しいのにわざわざすみません」
 「いいのよ、ロイさんならいつでも大歓迎。それで? 大切なお話って?」
 「これを渡しに来ました」

 俺が渡したのは一枚の分厚い封筒。
 中には俺が地下闘技場で稼いだ金が入っている。
 院長が渡された封筒の中身を確認すると、驚いたように声を上げた。

 「こ、このお金どうしたの!?」
 「少しでも援助できたらと……」
 「そんな! 今までもずいぶんお世話になってるのにここまでしなくても!」
 「いや、させてください。俺にはこれくらいのことしかできないので」
 「……本当はこんなに受け取れませんと返すべきなんでしょうが。貴方のご厚意に甘えてもいいかしら」
 「ええ、どうぞ」
 「でも、こんなお金どうやって……」
 「いい働き先が見つかりまして。おかげで生活にも余裕が出てきましたよ」
 「……そう」

 俺は笑って答えて見せるが、院長は渋そうな顔をしている。
 深く聞いてこないのは院長の人生経験からくる優しさだと思う。

 院長は封筒を金庫へとしまいに行く。
 この孤児院は前から経営難に悩まされていた。
 だが、ここを締めてしまったら、子どもたちの住む場所がなくなってしまう。
 孤児院だって無限にあるわけじゃない。
 どこかへ移ればいいというものでもないとそう聞いていた。

 「それで今日はどうするの?」
 「子どもたちと遊んで行こうと思います。ロバトとも遊びたいですから」
 「本当に隠したままでいいの? あの子は貴方の息子さんなんですよ」
 「名乗れるわけないですよ。別れたとはいえ、俺は妻が亡くなったことも知らなかったダメな男なんです」
 「でもそれには事情が……」
 「あの子がこの孤児院にいることもたまたま通りがかったから知ったんです。その偶然がなければ、俺はなにも知らないまま生きていたんだ」
 「ロイさん……」
 「だから、親父としてやれることはなくても孤児院を守ることくらいはできる。あいつの居場所は俺が守ってやらないと」
 「……そうですね、余計なお世話でした。貴方には貴方の考えがあるのですから」
 「まあ、その分たくさん遊んでやりますよ。ただのロイとしてね」

 日の当たる場所にいていいのか不安になる。
 だが、ここでは地下闘技場の選手としてではなく、俺が俺としていられる場所。
 戦いの日々の中にある、この日常を大切にしよう。


EPISODE4 人気プレイヤー 「地下闘技場ってのは変な場所だな。 こんなやつも混ざってるなんてよ」


 地下闘技場の雰囲気にも、俺はすっかりなれてしまっていた。

 「おっ、またいるじゃねえか。帰ってもいいんだぜ、ヒヨッコ」
 「俺に負けたやつが何言ってんだ」
 「チッ! 俺が本調子だったら……おい待てよ!」
 「打ち合わせがあるんだ。絡んでくるならあとにしてくれ」
 「あっ、おい!」

 今回の試合はなぜか事前に打ち合わせがされることになった。
 いつもなら相手すら聞かされないまま試合が始まるっていうのに珍しい。
 地下闘技場の事務所に入ると、ひとりのハトが俺を出迎える。

 「お待ちしておりました、ロイさん」
 「それで、なにを話すんだ?」
 「次の対戦相手なのですが、すこし手加減をしてほしいのです」
 「……俺に八百長やれってのか」
 「いいえ、むしろ勝っていただかなければ困ります」
 「まったく話が見えないぞ、どういうことだ?」
 「彼はとても人気のある選手でして。それも特に女性からの支持が高いのです。なので彼を魅せる戦いをしてもらいたいと思いまして」
 「なるほど、だから打ち合わせか」
 「彼に思う存分、打たせてやってください。貴方が受けたとしても痛くも痒くもないでしょうから」
 「そんなやつがなんで地下闘技場なんかに?」
 「詳しい事情を知りたいですか?」
 「……いや、やめとく」
 「他の選手では間違いが起きかねません。貴方が適任なのですが引き受けていただけますか?」
 「わかった、やってやるよ」
 「良い返事をいただけて助かります。賞金のほうも上乗せさせていただきますので。では、よろしくお願いします」
 「ああ」

 相手が誰だろうと金がもらえるのならそれに答えるまでだ。
 しかし、すぐ勝たないよう手加減しないといけないのは面倒だな。

 ――そして、打ち合わせのあと、すぐにその相手との試合が開始された。

 『さて、入場してきたのはここまで無敗の男、音速を超えるパンチは岩すら砕く!拳のガトリングガン、ロイだぁぁぁ!』

 いつものように俺がリングへと向かう。
 相変わらず観客席からはブーイングが飛んでくるがその中にもわずかだが俺への声援もあった。
 まあ、地下闘技場で観客が求めているものを俺がやれていない証明でもあるが、戦いを純粋に楽しんでくれる人がいるのも確かだ。

 『そして、今回の相手は! タカサキの猛犬、目指すはスピードの向こう岸! 最強の番長ポメ太!』
 「きゃー、ポメ太くーん!」
 「ずいぶんと人気だな……」

 俺とは打って変わって黄色い声援が会場を包む中、そのポメ太とやらが現れる。

 「おうおうおう、どこのどいつだ。このオレ様と戦おうってやつは!」
 「あ、あいつが俺の相手なのか……?」
 「やっちまえ、ポメ太。お前ならできる、できるぞ!」
 「おう! 見てろよ、トラ吉。俺の生き様をよ!」

 出てきたポメ太が着ているのはどう見ても学ランだ。
 ある程度、覚悟していたとはいえ、まさか学生が相手とは思いもしなかった。
 どうしてここにいるのか気になるところだが、聞いたら頭が痛くなりそうだ。

 『さあ、相手は元プロボクサー。ポメ太がどう戦うのか、試合開始です!』

 カーンというゴングとともに構えを取る。
 肝心のポメ太はというと、確かに構えだけは一応できているようだ。

 「ボクサーだか、ポケサーだが知らねえが、どこからでもかかってきやがれ!」
 「やる気だけはいっちょまえだな。打たせてやるからお前から来いよ」
 「なんだと!? 後悔させてやらあ!」

 そう言うとポメ太が走り寄ってくる。
 わかりやすく腕を振り上げているおかげでパンチが来ることはわかるのだが、果たしてこれをどうしたものか。
 どう考えても、相手の体格からしてそれが俺に届かないような気がする。
 仕方がないと、俺は少しだけ腰を落として、パンチが届く位置につく。

 「ドラ! ドラ! ドラア!」

 ポメ太が素早いラッシュで襲いかかる。
 一発一発は軽い、いや、むしろ軽すぎて気持ちがいい。
 だが、それでもこの素早さとパンチのキレは素人にしては十分すぎるほど優れている。
 これはもったいない才能だな。
 ちゃんとトレーニングを重ねていけば、一線で戦えるようになるかもしれない。
 引退した俺が言うのもなんだけどな。

 「まだまだやるぜ! ふるえろハート!おおおおおっ! 刻んでやる、オレのビート!」

 次々と技を繰り出してくるポメ太。
 本当に惜しい。
 どうやっても威力だけがまったく足りていないのだ。

 「ポメ太、がんばれー!」

 会場はポメ太コール一色だが、かといってこのまま試合を引き伸ばすのもお互いによくない。

 「お前の本気はそんなもんか?」
 「な、なんだと!?」
 「見て、受けて覚えろ。これがボクサーの……パンチってやつだ!」

 俺は普段と変わらないストレートパンチを繰り出す。
 もちろん、当たる直前に威力を殺してだが。

 「ぐあああああっ!?」

 軽く当てたつもりだったが、どうやらポメ太には十分な威力だったようだ。
 まあ、ケガはしてないだろう。

 「軽すぎるんだよ、お前は」
 「ぐ、ぐぞが……」
 『おおっと、奮闘したポメ太だったが、やはり元プロの前では通用しなかったか!』
 「た、立つんだ! 立つんだ、ポメ太あああ!」
 「す、すまねえ、トラ吉……」
 「お前、悪くなかったぞ。キレに速さ、センスも申し分なかったが、威力がねえな」
 「くっ……」
 「だがまあ、そんなのはあとでどうにでもなる。とりあえず、呼吸を整えてみろ」
 「呼吸?」
 「無駄があるってことだ。お前を見てて昔を思い出したぜ。俺も威力が足りないって言われたからな」

 それで無理やり威力を高めるためにあんな必殺パンチを編み出したんだが、まさかずっと使い続けることになるなんてな。

 「リベンジならいつでも受けてやる。だから、もっと腕を磨いてこい」
 「ぜったいに強くなって、もどってくるからな!」

 ポメ太の捨て台詞のような言葉を背に、俺はリングから降りた。
 リベンジを受けると言った以上は、俺ももっと強くなってここで生き残らないとな。


EPISODE5 ボクサーとしての誇り 「これがボクサー同士の戦いなんだ。空気がヒリつく感じ、忘れられねえな」


 変わらぬ地下闘技場。
 日々のトレーニングを見直したおかげで、一応、ここで通じる選手になれた。
 ――そう思っていた、この日までは。

 『おおっと、ロイ選手が膝をついた! これまでの相手とは一味違うということか!』
 「こんなもんですか、あんたの実力は」
 「くっ……」

 俺の前に立つこの男が、地下闘技場で初めて対面する強者と呼べる相手だった。

 事の始まりは試合前。
 この日は会場が少し違っていた。

 「これは……」

 リングを囲うように広がっていたのは金網だった。

 『本日の試合は金網デスマッチ! ごらんください!この張り巡らされたトゲを!』

 司会の言う通り、それはただの金網ではなく有刺鉄線で作られていた。
 こんなものに押し付けられたら、ケガではすまないだろう。

 『今宵もこのときがやってまいりました。さあ、本日の主役を呼ぼうじゃないか。もはや地下闘技場の顔と言っても過言ではない。上空から放たれる拳は爆発する!飛来する大砲、ロォォォイィィィィッ!!』
 「ロイ、今日こそは相手をぶちのめせよ!」
 「外野は黙って見てろ!」
 「相変わらず口が減らねえな。がんばれよ、応援してるぞ!」

 自分で言うのもなんだが、この雰囲気がなじんでることに少し戸惑う。
 慣れてしまっていいものでもないが、悪くないと思っている自分もいる。
 あのころ上がっていたリングとは違うが、こういう歓声も悪くはない。

 『続いては……おおっと、これは因縁の対決。拳でリングを真っ赤に染めあげた元プロボクサーだ!』
 「元プロ……」

 こんな場所で元同業者と出会うなんて思いもしなかった。
 それも、俺のよく知る相手と。

 『繰り出される拳はまるで研ぎ澄まされた刃!切り裂きコリィィィ!』
 「コリーだと!?」

 リングに上ってきたのは、現役時代に戦ったことのある相手だった。

 「久しぶりですね、ロイさん。お元気そうでなによりだ」
 「お前、とっくに引退したんじゃなかったのか!」
 「ええ、しましたよ。だからこうして、地下で戦ってるんです。暴力ボクサーにはうってつけの場所でしょ?」

 こいつはボクサーなのにその拳で暴力事件を起こして追放された。
 俺や他のボクサーと違って、拳を本当の凶器にしてしまった馬鹿野郎だ。

 「現役時代はロイさんに敵いませんでしたが、ここではどうでしょうね」
 「誇りを捨てたボクサーには負けねえ。リングに沈むのはテメエのほうだ」
 『この地下闘技場でも珍しい元ボクサー同士の戦い。どのような戦いになるのか、さあ試合開始です!』

 ゴングが鳴ると同時に動いたのはコリーのほうだった。
 間合いを詰めてきたコリーが仕掛けてくる。
 繰り出される超スピードのジャブやストレート。
 これまでの相手とはまるで違うプロの拳だが、目は追いつく。
 避けてカウンターを決めていこうとする。
 しかし、その考えとは裏腹に俺は何発も拳を受けてしまう。

 「ぐっ……!?」
 「まさか避けられないんですか!腕が鈍り過ぎじゃないですかねえ!」

 言い返す言葉もない。
 現役時代ならこれくらいは避けられた。
 今も昔ほどではないにしてもトレーニングで身体は戻ってきているはずなのに。

 「ぬるま湯で生きてきた貴方と違って、僕はこの闘技場で戦い続けてきたんですよ。経験が違うんですよ、経験が!」
 「誰が!」
 「じゃあ、避けてみてくださいよ。ほらほらほら!」

 コリーのパンチを避けきれず、ガードすることでしか対処ができない。
 頭ではわかってるのに、それについていけずにいた。

 「弱すぎますよ! もっともっと僕を楽しませてください!」
 「こいつ……!」
 「現役時代、お世話になった分はここで返させてもらいますよ!!」
 「ふっ……」
 「試合中に笑うなんて余裕ですね」
 「いや、つい。ボクシングってのはやっぱいいよな」
 「は?」
 「なんだ、同じボクサーだったらわかるだろ」
 「さあ、なんのことやら!」

 ボクサーVSボクサー。
 ボクシングでしか感じられない緊張と高揚感。
 相手との間合いを読み、技を繰り出す。
 交差する拳と拳。
 飛び散る汗と血。
 ほんの一瞬の油断や判断ミスが命取りになる。
 そんな戦いを楽しいと思っている。
 この地下闘技場でそんな戦いができるなんて思いもしなかった。

 「出さないんですか、サイクロン・マグナムを。あれを使ってもらわないと困るんですよ。僕が破れなかったあの技を潰せないと貴方に勝ったことにならないでしょ!」
 「手の内を知ってるやつに使うほど俺はバカじゃねえ!」

 仮に今の衰えた俺が使ったとしても、コリーには通用しないだろう。
 特にこいつは現役時代のサイクロン・マグナムを受けているんだからな。
 とはいえ、決め手に欠ける俺にとって倒すための方法はそれしかない。
 どうすれば――

 『おおっとロイがコリーに追い詰められていく!このまま金網の餌食になってしまうのか!』
 「金網……そうか!」
 「どうしたんですか、もう終わりなら一気に決めちゃいますよ!」
 「お望みなら、使ってやるよ。カウンターできるもんなら、やってみやがれ!」

 後ろに飛び退いた後、上へと高く飛び上がる。
 日々のトレーニングのおかげで高い位置へと到達――
 だが、これでは足りない。
 もっと高く飛ばなければ。

 「ぐうっ!」
 「なっ!? 金網を足場に!?」

 足りないのなら高さを足せばいい。
 有刺鉄線が足に刺さり痛みが走るが、今はそんなことどうでもいいんだ。
 金網を蹴飛ばし、さらなる高みへ昇っていく。
 現役時代と同じ、いやそれ以上に。

 「くらいやがれ!」
 「面白いですね。ですが、それを待っていたんだ!」

 コリーは拳を大きく振り上げて俺の技を迎え撃とうとする。
 待ち構えるかと思っていた次の瞬間、なんとコリーが飛んだ。

 『コリーがロイ目掛けて飛び上がった!これは正面衝突か!』
 「貴方の技は僕の技が打ち破る!」
 「やれるもんならやってみやがれ!マグナム・トルネード!」
 「切り裂け、ジェット・ドライバー!」

 ボクサーの技と技、意地と意地。

 「「うおおおおおっ!」」

 激しくぶつかり合う拳が、俺たちの世界を衝撃で白く染め上げていった。

 ――試合後。
 俺は衝撃で痛めた手を冷やしながら試合でのことを思い出していた。

 「あんな試合をしたのは久しぶりだったな……」

 赤く腫れ上がった手を冷やしながら、しみじみとつぶやく。
 足も有刺鉄線が刺さったおかげでズタボロだ。

 「ええ、本当です」

 そこへ腕を三角巾で固定したコリーが入ってくる。

 「コリー、もういいのか」
 「貴方のおかげでしばらく試合ができない身体になりましたよ。拳はそちらのほうが丈夫なようだ」

 そう言いながら腕を見せてくる。
 あのぶつかり合いの結果、俺は拳を痛め、コリーは肩がいかれた。

 「正面から受けるからだ。他にやり方があったんじゃねえのか」
 「避けたりカウンターをするなんて小癪な真似はしたくなかっただけです」
 「ボクサーらしくないな」
 「お互いに元ボクサーですからね。意地の張り合いもたまにはいいでしょ。そもそも、あの技は貴方を打ち破るためだけに作ったものなんですから」
 「戦ってる間に楽しくなっただけじゃないのか」
 「……かもしれませんね。だとしたら、貴方のせいではありますよ」
 「俺のせいか」
 「ええ、貴方のせいです。まあ、久しぶりにボクサーらしい戦いができて少しだけ楽しかったですよ」
 「試合は大ブーイングだったけどな」

 俺とコリーとの試合は結果だけ言うと俺の勝利で終わった。
 俺の必殺パンチを正面から受けたコリーは耐えきれず、俺が押し勝ったんだ。
 そこでボクサーとしての戦いは勝敗がついた。
 俺たちは納得の試合だったのだが、問題は地下闘技場としてのルールだ。
 せっかくの金網デスマッチなのにそれを活かしたのが俺が翔ぶときだけ。
 文句が出ても仕方がない。
 そんなもの知るかとリングから降りてやったが。

 「こんなところにいないで現役に復帰したらどうですか。今の貴方でも十分、通用すると思いますよ」
 「さあ、どうだろうな」
 「まあしばらくここにいるのなら、また戦いましょう」
 「ああ、そうだな」
 「次はちゃんと打ち破る方法を考えておきます。覚悟しておいてください」
 「楽しみにしてるよ」

 自然と差し出された手を互いに固く結ぶ。
 コリーはボクサーとして道を踏み外した選手かもしれない。
 だが、その中にはしっかりとボクサーとしての誇りと意地が残っている。
 またひとつ、ここで戦う理由ができた。
 彼に失望されないよう、俺もさらに強くならないとな。


EPISODE6 頂点に立つ男「あの人はボクサーの俺にとって憧れであり、目標だったんだよ」


 『勝利を収めたのはロイだ! 今日も華麗に必殺パンチ、サイクロン・マグナムで相手をリングに沈めた!』

 司会が高らかに俺の勝利を告げると、会場から歓声が上がる。
 相変わらずブーイングも中にはあるが、かなり減ってきていた。
 おかげで手に入るファイトマネーも増え、孤児院への資金も申し分ない。

 『デビュー戦から負けなしのロイ。この飛び跳ねる核弾頭を止めるものは現れるのか!』

 いつの間にかつけられてしまった二つ名。
 俺の必殺技からついたものなんだろうがなんとも締まらない名前だな。

 「ロイ、ちょっと付き合え」
 「お前か、最近は忙しいみたいだな。俺の紹介料で稼いでたようだが」

 俺に声をかけてきたのは、いつかのネズミだった。

 「今日はその自慢をしに来たんじゃない。お前にいい話があってな」
 「またか……地下闘技場へ連れてきたときも似たようなことを言ってたな」
 「いいから、来いって」

 ネズミに連れられて、前にも入ったことがある事務所へと通された。

 「来てくれましたか。では、次の対戦相手についてですが」
 「おいおい、またか。今度は誰を接待すればいいんだ」
 「接待なんてとんでもない。今度の相手は大物です、貴方に事前に教えておことうと思いまして」
 「大物?」
 「貴方ならご存知でしょう。元世界チャンピオン、ドランクです」
 「なっ!?」

 ボクサーを目指す者にとって、その名前を知らないやつなんていない。
 無差別級の世界チャンピオン・ドランク。
 現役を退くまでベルトを防衛しつづけ伝説とまで呼ばれた選手だ。
 そして、俺がボクサーを目指すきっかけとなった憧れの選手だった。

 「ま、まさか、今日会えるのか!」
 「いえ、試合は一週間後。注目度が高い試合になるでしょうから、しっかり仕上げてきてください」
 「あ、ああ、わかった」

 つい逸る気持ちが抑えきれず、前のめりになってしまった。
 あのドランクと戦えるんだ、仕方がないだろう!?
 しかし、こんな場所にいるなんて思いもしなかった。
 現役を退いてから行方がわからず、失踪説や死亡説なんかも出回っていたがまさか地下闘技場にいるとはな。

 「元世界チャンピオンとの試合か。今まで以上に厳しい戦いになるだろうな」

 もう一度、ドランクの試合を見直そう。
 彼の戦い方を知れば、立てられる対策もある。
 一週間しかないが、今できる最大限のパフォーマンスを出せるようにしておかないと。
 彼に相応しい相手になるために。


EPISODE7 将来の夢 「俺の背中を追ってくれるのは嬉しいが、 なんかこう、くすぐったいもんだな」


 「これ今月の分です。子どもたちに美味しいものでも食べさせてやってください」
 「ありがとうございます。なにもお返しがなくてごめんなさいね」

 手にしたファイトマネーを前回同様、封筒に入れて院長に渡す。

 「ねえ、貴方は大丈夫なの? こんなに孤児院に入れてしまって」
 「大丈夫ですよ、しっかり食べてますから」

 別に手元に残そうなんて考えてない。
 俺は生活できる金さえあればそれでいいからな。

 「ああ、それで少しだけいいですか。少し口利きをお願いしたいんですが」
 「え? 私でよければ構いませんよ」
 「実は……」

 ――数日後。
 俺は院長の助けを借りて、トレーニングの場を用意してもらっていた。

 「うわ、寒っ! なあ、ロイ。こんなところでなにやってんだ?」
 「ロバトか、ここは寒いから帰りな」
 「ボクサーはみんなこうやって凍った肉を殴るのか?」
 「……そういうやつもいる」

 表立ってトレーニング施設なんて使ったら、面倒なマスコミが来かねない。
 だから、俺は隠れてトレーニングできる場所を院長のツテを使って用意していた。

 「じゃあ、オレも殴る!」
 「やめとけ。手を痛めるし、グローブもつけてないだろ」
 「だったら、今度はグローブ持ってくる。そしたらいいよな!」
 「そういう問題じゃない」

 一緒にやれないならと、ロバトは俺の練習をずっと近くで見ていた。

 「そろそろ次に行くか」
 「オレも!」
 「まったく遊びじゃないんだぞ……」

 そして、俺たちは次のトレーニングへ向かう。
 といってもどこかの施設などではなく、そこらにある河川敷なのだが。

 「ね、ねえ、ロイ。もっとかっこいいトレーニングしないの」
 「地味かもしれないが大事なことなんだ。見てみろ、みんなそうしてるだろ」

 俺が後ろを指差すと、俺の後ろを何十人ものランナーが一緒に走っていた。
 というか、いつの間にかついて来ていた。

 「ランニングは体力や持久力がつく。ボクサーにとって大事なトレーニングなんだぞ」
 「そ、そうなんだ。じゃあ、オレも頑張るよ!」

 そうは言うものの、俺のペースについてくるのは子供では無理だろう。

 「大人しく自転車を使え。それでも十分に鍛えられるから」
 「じ、自転車なんて乗れないよ!」
 「そうなのか?」
 「だって、ひとりじゃ覚えられないし……」
 「……そうか」

 ロバトの近くに父親のような存在がいれば、きっと教えてもらえたんだろうな。
 そういえば、俺も最初は親父に支えてもらいながら乗れるようになったんだった。

 「なあ、暇なときにでも自転車の乗り方を教えてやろうか?」
 「ホント!? いいの!」
 「向こうしばらくは無理だが、大きな仕事が終われば俺も時間ができるからな」
 「はあはあ……や、やったー! 約束だからね!」

 息を切らしながらも喜んでいるロバトの後ろに回りガシッと掴んで持ち上げる。

 「わあ!? なにするんだよ、ロイ!」
 「疲れただろ、袋に入ってろ」

 俺はそのままロバトを自分の腹の袋に入れる。

 「これだとロイがしんどいだろ!」
 「ちょうどいい重しになるから平気だ」

 自分でもどうしてこんなことをしたのかよくわからない。
 孤児院にいる子供のひとりとして、俺は接してきたつもりだった。
 なのに、こんな風にこの子と接しているなんて亡くなった妻はなんて言うだろうな。

 「うっ!?」
 「どうしたの、ロイ!?」
 「いや、なんでもない。このまま孤児院まで送っていってやるよ」

 足に感じた違和感。
 まだあのときの試合の傷が癒えていないのか。
 それとも現役時代のときの古傷が今頃になって――
 俺は、あとどれくらい戦えるんだろう。

 「ロイ、オレさ――決めた!」
 「なにをだ?」
 「いつか、プロのボクサーになる!そんでロイと戦うんだ!」
 「俺と?」
 「うん! ロイは憧れのボクサーだからな!」
 「初めて聞いたぞ」
 「当たり前じゃん、初めて言ったからな!ロイと会えたときすげー嬉しかったんだ!」

 俺が初めて孤児院でロバトとあったとき、確かに異常なほどテンションが高かった気がする。
 一応、名が売れていたから、そういう反応もあまり特別に思っていなかった。
 確かに俺にも覚えがあるな。
 憧れの選手を間近で見たときは本当に嬉しくてテンションが上りまくってた。
 まさかその相手と地下で戦うことになるなんて思いもしなかったが。

 「……そうだな、いつか戦おう。まあ、俺はもうボクサーをやめちまったけどな」
 「ロイならいつでも戻れるよ。だって、こんなにトレーニングしてんだから!」
 「だといいな」

 孤児院までの短い時間だったが、俺はロバトといろいろなことを話すことができた。
 まるで本当の親子のように。
 この時間が長く続けばいいんだけどな。

 ――そんな矢先のことだった。
 ロバトが何者かに誘拐されたのは。


EPISODE8 世界へ翔ぶ「どこまでも高く、高く……いつか世界すらも飛び越えてやる!」


 ――そして、運命の日が訪れた。

 『さあ、皆さん。いよいよ、このときがやって参りました!』

 司会の声をきっかけに会場から観客たちの声が上がりここまでその熱気と震えが伝わってくる。

 『サファリ市の地下も地下! どん底にあるこの吹き溜まりだらけの闘技場で、こんな戦いが見れると誰が予想できたでしょう! 皆さん、待ちきれないのもわかります! 私も待ちきれません!さっそく、両選手をお呼びしましょうか!』

 そう言うと会場が更に盛り上がっていく。

 『さあ、入場です! ボクサー界でタイトルを欲しいままに総なめした史上最強の男!元世界チャンピオン、ドランクぅぅぅ!』
 「ドーランク、ドーランク!」

 ドランクが姿を見せたであろう観客席からは、ドランクコールが響き渡っている。

 『続きまして、登場していただきましょう。その最強の男に挑むチャレンジャー! 跳躍から放たれる右ストレートはすべてを吹き飛ばす、その二つ名は伊達じゃない!』

 司会の言葉に合わせて、俺の前のドアが開かれる。
 そこには今か今かと試合を待ち望んでいる、ライトで神々しく輝くリングが広がっていた。

 『飛び跳ねる核弾頭、ロオオオオオイ!』

 俺はリングへと続く花道を進む。
 そして、ドランクと同じリングに立った。

 「ロイ、ちゃんと来てくれて嬉しいぜ。ビビって逃げ出すんじゃないかと思った」
 「逃げるわけねえだろ、クソ野郎が。ロバトは無事なんだろうな」
 「ああ、大切に預かってるぜ」

 ――数時間前のことだ。
 試合を控えた俺に一枚の写真が送られてきた。
 写っていたのは誘拐されたロバトの姿。
 そこからは本当に嫌になるほど、どんどん話が進んでいった。
 謎の連絡先からの電話。
 相手からなにを要求されるかなんて最初は検討もつかなかった。

 「今、なんて言った?」
 『今日のドランクとの試合、負けてもらえますか。拒否すれば、わかりますね?』
 「……誰の指示だ」
 『とても注目されている試合ですからね。いろいろとあるんですよ』
 「ドランクは知ってんのか」
 『もちろん。彼は快く引き受けてくれましたよ。好き放題殴れるなんて最高だってね』
 「ドランクが、そんな……」

 その瞬間、俺の憧れていたチャンピオンは死んだ。
 今、眼の前にいるのはボクサーとしての、選手としての誇りを捨てた大馬鹿野郎。

 『この地下闘技場で最強を決める戦いが今、始まります!』

 司会の合図と同時にゴングが鳴った。
 俺とドランクは構えてお互いに距離を取る。
 腐ったとはいえ、ドランクは一流のボクサー。
 油断すればすぐに沈められる。

 「なにやってんだ、殴られに来いよカカシ」
 「くそっ!」

 避けることも反撃することも許されない。
 俺はただドランクに殴られる――そうすることでしかロバトを救うことができないんだ。
 ガードすることしかできない俺へ、ドランクはまるでサンドバックを殴るかのように容赦なくパンチを浴びせてくる。

 「ぐっ……!」
 『おおっと、どうしたんだロイ! ドランク相手に防戦一方じゃないか。いつものお前はどこいった!』
 「ふざけんな、ロイ! 真面目にやれー!」

 観客の俺に対してのブーイングが次第に大きくなっていく。
 当たり前だ、普通に考えてこんな戦い方をするわけがないんだから。

 「もうちょっとうまくやれないか。客を白けさせてんじゃねえぞ」
 「テメエがそれを言うのかよ。こんな方法でしか勝てない卑怯者が」
 「これも戦法なんだよ。昔からそうやってきたんだからな」
 「昔から……?」
 「俺と戦うやつは不思議と身内が不幸に遭うことが多いんだよなあ」
 「テメエ!」

 ドランクの顔面をすぐにでもぶん殴ってやりたいがぐっと我慢する。
 今、手を出してしまったら、これまでのことが無駄になってしまう。

 「ちゃんとやり返せー!」
 「おいおい、お前たち! 地下にいる連中がなに馬鹿なこと言ってんだ!」

 急にドランクが観客に向けて声を上げる。

 「お前たちが見たいのは残虐で血みどろな戦いじゃねえのか。それを俺が見せてやってるんだ!もっと盛り上がれよ!」

 ドランクの言葉に、観客席からももっとやれ、という声が上がり始めた。
 結局、あいつらは熱い戦いよりも、そういう腐った試合のほうがお望みってことか。
 ――だが、それだけではなかった。

 「なに言ってんだ! バチバチに殴り合ってんのが面白いんだろ!」
 「バカじゃねえのか。そういうのが見たいならスポーツ観戦でもしてろ!」
 「確かにここの連中はクソなのばっかだよ。でもな、少なくとも今日来てんのは、俺とお前の戦いを楽しみにしてた連中なんだ!」
 「じゃあ、どっちが客にウケるかやってみるか。とことんお前をいたぶる姿を見せてやる」

 そこからドランクの攻撃は激しさを増した。
 自由に打てるのをいいことに大振りなストレートやアッパーを入れてくる。
 普通の試合なら避けることもカウンターすることも余裕でやれた。
 しかし、それはできない。

 「へえ、なかなか耐えるじゃねえか」
 「テメエの腑抜けたパンチなんて軽すぎて痛くもねえな」
 「そうか、じゃあどんどん入れてやらないとな!」

 パンチを受けるたびに身体が悲鳴を上げているが、そんな声に耳を貸していられない。
 俺にできることは相手のスタミナが切れるまで耐えきってやること。
 それが元ボクサーとして、男として、ひとりの父親としての意地だからだ。

 「なにをやってるんですか、ロイさん!僕はまだ貴方の技を破ってないんですよ。こんなところで倒れないでください!」
 「この声は……」

 会場に響いた声。
 その主を探すとそこにいたのはコリーだった。
 それも彼1人だけではない。

 「ロバト!?」
 「なっ!?」

 驚いたのはドランクも同じだった。
 誘拐されたはずのロバトがどうしてここにいるんだ。

 「なぜここに……?」
 「いえね、とある依頼主から子どもの面倒を見ろと命令されまして。なので、面白い試合があるからせっかくだし、一緒に見に行こうと提案しまして」
 「コリー、裏切りやがったのか!」
 「少し考えが変わりまして。見たくなったんですよ。本当の最強の男は、どちらなのかってね」
 「クソが! 拾ってやった恩を忘れたのか!いいからすぐに――がっ!?」
 「おい。よそ見してんなよ、クソ野郎」

 コリーに気を取られていたドランクの腹に渾身の一発を叩き込む。
 うめき声を上げながら、ドランクは腹を抱えて膝をつきそうに悶える。

 「テメエら、その目でよーく見てろ!ここからが本当の、最強の男を決める戦いだ!」
 『おおっと、これまではお遊びということか!元世界チャンピオン相手にやってくれるぞ、この男。いいぞ、お前の本気を見せてくれぇぇぇ!』
 「ロイ、ロイ、ロイ!」

 司会の煽りに客席から湧き上がるロイコール。
 俺の心と身体に不思議と力が湧き上がってくる。
 ここは地下闘技場。
 社会の闇が集まった吹き溜まりのような場所だが、それでも今は感謝している。
 再びリングに立てたこともそうだが、ボクサーとして戦えていることを。

 「わ、わかってんのか。俺に手を出したら――」
 「わかってねえのはテメエだ。これまでの分、たっぷり返させてもらうぞ」
 「く、くそ! 誰がお前みたいな三流に!」

 ドランクがさっきと同じように殴りかかってくるが、俺はそれを避けて腹にまた一発叩き込む。

 「ぐはっ!?」
 「これが元世界チャンピオンなんて笑わせるぜ。コリーのほうがよっぽど強かったぞ」
 「な、なに!」

 数発、ドランクにパンチを打ってわかった。
 もう俺の身体は限界を迎えていて、正直、戦うだけの体力がほとんど残っていない。
 なら、やることはひとつだ。

 「終わらせてやるよ。この試合も、お前の選手人生もな!」

 この一撃に賭けるんだ。
 最後の力を振り絞って、高く、高く飛び上がる。
 偽りの世界一を打ち破るために。

 「ロオオオイ! そんな卑怯者、ぶっ飛ばせー!」
 「これが俺のサイクロン・マグナムだあああ!」

 現役時代をも超える最高の一撃。
 俺の拳はドランクの顔面を歪ませ、リングへと沈めていった。
 倒れたドランクの隣で、俺はぐっと拳を高らかに突き上げる。

 『き、決まったあああ! 大大大逆転!一方的な試合かと思われましたが、最後はロイが王者ドランクを打ち破ったあああ!』
 「おおおおおっ!」

 会場が震えるほどの歓声が巻き起こる。
 本当は観客たちに答えてやりたいところだがそろそろ限界だった。
 俺は天を仰ぐように力尽きて背中から倒れてしまう。

 「ロイ!」

 声がするほうへ顔を向けると、ロバトが俺のところへ駆け寄ってくるのが見えた。

 「ロイ、すごいよ! 今の技、すごくかっこよかった!」

 ――そうだ、ボクシングってのはこんなに熱くなれる最高のスポーツなんだぞ

 「ロイ、なにか言ってよ! オレこんなこともうないようにもっともっと強くなるからさ!」

 ――ああ、お前なら強くなれる

 「ねえ、ロイ! ロイってば!」

 ――お前は俺の息子なんだ。
 俺はできなかったが、お前なら世界を――

 「ロイ……?」

 もうほとんど残っていない力で、俺はそっとロバトの頭を撫でてやる。
 少し疲れたから眠らせてくれ。
 起きたら、自転車の乗り方教えてやるからな。
 待っててくれよ、ロバト――




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