【天和各話】

Last-modified: 2020-01-06 (月) 07:47:57

 世界を崩壊させた魔王⋯⋯それが勇者一行によって遂に討たれた。その吉報が津々浦々に伝わるのに、そう時間は掛からなかった。ある者は平和の訪れを喜び、またある者は魔王に命を奪われた犠牲者の墓前で涙を流した。
 世界を覆う闇は消え去り、世界中で復興活動が盛んになっていた。だが⋯⋯その後、魔王討伐の立役者たる勇者。彼の姿を見た者は一人もいなかった、と後世に伝えられている。

「あれ? 勇者様はいずこへ⋯⋯」
 魔王の爪痕が今なお残る聖地。そこでの催しの最中、僧侶⋯⋯もとい、姉の死を乗り越えて賢者となった女が小さく呟いた。つい数分前までいたはずの、自分たちのパーティーのリーダー⋯⋯その姿が消えていたのだ。
「(⋯⋯もしやあの夢が現実になるのでしょうか)」
 不安を胸に抱いた賢者の体は森の方へ、そして心は数日前の朝に遡るのだった。

 それは魔王の城に乗り込もうという、まさに当日の事。賢者は不思議な夢を見た。