【18歳の祖父】

Last-modified: 2020-01-31 (金) 10:49:27

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義理の子 義理の孫 年上妻 事実婚 2006年~2010年

各章粗筋

序章 高3の2月下旬の物語。
1章

確定事実

②「いのち」が「みこと」に戻る頃 追われる当選者 立直したら戻れない 鬼と変せし者
③薬払い 
④お化けの行方
⑤きつねバー
⑥親がなく頃
⑦能力者
⑧猿勇姫
尊(みこと)→いのち(命)→みこと(命)/命(いのち) 
打破常識(うやぶ つねしる) 二三乗藍狐(ふのみの らんこ) 革命(あらた いのち(みこと))

1

唯一無二の親友の自殺。それを知ったのは平成六年の二月二十七日。卒業式を明後日に控えた月曜日の朝。突如設けられた全校集会。何の気無しに向かった内《ウチ》は、其所で目を背けたいような現実を突き付けられた。生徒指導の教員が長々と講釈を垂れている。が、耳には入れど心には全く響かない。他の人にとっては、ただクラスの仲間が居なくなっただけ。不登校の亜種、などと考えている人が過半数なのかもしれない。しかし内はそうではない。後悔で胸が一杯《イッパイ》なのだ。昨日、内は会話をしていたから。明らかに尋常とは言えない状態。それを放置した。どんなに取り繕っても言い訳はできない。
同年四月二十七日、内は手に掛けた。己ではなく、他者を。

『好きです、付き合ってください』
何度、この言葉を思い浮かべただろう。何度、伝えたいと思っただろう。いつからそう思っていたかーーもう、覚えていない。
ただ、確かな事が幾つかあった。
「つねしる君、卒業おめでとう」
ウチは高校三年生、そして今日が3月1日であること。更に付け加えるならーー恋をしている。今、声をかけてきた人ーー担任の先生ーーに。
在学中の生徒と教師が付き合っている。そんな事が明るみに出ようものなら、相手の自宅警備員化は免れない。故に、逸る気持ちを抑え、この日まで待ち続けた。そしてーー。
「うっーー」
ホーム・ルーム教室に入室した直後、開口一番に祝いの言葉を口にする。ただ、驚くのが不可避な感じでやられたものだからか、引き攣った声が意図せず漏れてしまった。が、先生はそれを気にする素振りはない。
最も、ウチの一挙手一投足にケチを付けずにはいられない。先生がそんな百害有って一利無しな輩なら、今の挨拶でさえ息を吸うように無視を決め込むわけだが。
「も⋯⋯もう、らんこ先生。証書すら受け取っていないのに気が早いですよ」
数秒かかって何とか言葉を紡ぐ。突然発言の機会が訪れて、急拵えで用意した返した為あまり気の利いた事は言えていない。寧ろ、相手の粗でしか話を広げれない事に自己嫌悪を抱く位。
「ふふっ、そうね。気が早かったね」
穏やかな笑顔。今も尚ウチを悩殺し続けている至高の表情。これに逆らえる者など、或いはこれで心の闇が晴れぬ者などこの世に存在しない。そう、思える位に。
「あっーーとっ、ところで先生。先週の事なんですけどーー」
譲り合いに発展する未来が見えたウチは、言葉に詰まりながらも話題を変えにかかる。
「ええっと、いつの事かな?」
無邪気な態度で問い返してくる先生。直後に後悔する。やや曖昧な尋ね方だったことを。
「丁度一週間前の21日ーーほら先生が近くの寿司屋に行ってた日ですよ」
答えを返すと、先生は酷く驚いたらしく、テンパっているのが反応から見て取れる。ただ、生徒の手前、声には出さなかったみたいだが。
「あっああ、あの日ね」
少々の狼狽を挟んだものの、先生は落ち着きを取り戻す。
「あれ? あの時つねしる君、一緒に居たっけ?」
冷静になり、ウチの言葉の中の不自然な点。それについての疑問を、先生は口にする。
「一緒、ではなかったですけどーー偶々店の近くにいたんですよ。まあ、雰囲気が雰囲気だけに話しかけずらかったですけど」
実はその日にウチが先生の居た場所を訪れていたのは偶然ではない。、或る筋から先生の現在地に関する情報を入手したからだ。だが未だ告白をしていない現段階で、或る為ストーカー染みた発言をすると具合が悪い。故に、適当な嘘を吐く。
「う、ウチの事は良いんです。聞きたいのは先生の事情の方ですからーー」
そして襤褸が出ないよう、直ぐに話題を戻しにかかる。
「ああ、あの日ね。あの日は確か喧嘩したのよ、ね?」
「当事者も当事者の彼方がそう思うのなら、そうなのではないでしょうか?」
傍から目撃したウチに同意を求めてきた先生に、求められている返事ならざる言葉を返した。先生の言葉にお墨を付けるという形で。
「そ、そうよね」
ほっとした様子の先生。こんな自身の無い姿は珍しい。普段の授業等では見せる素の姿、それをとても可愛いと思った。残念なのはそれを他の人も見ている、つまり独占出来なかったことだろうか。
「そ、それで、喧嘩はどんな感じだったんですか?」
このままでは話題がズレると感じたので、慌てて軌道修正を図る。
「えっとね、彼氏が理不尽な事を言ってきたのよ」
「えっ。かっ、」彼氏……?