第一章

Last-modified: 2022-09-09 (金) 02:45:26

第一話/大都堕ちる

ゴトゴトと馬車が揺れる
私はその揺れで眼を覚ました
馬車の上で寝ていたのだろう、空が見える
空は灰色だ
まるでこの国の現状を表しているかのような色だった…


黒竜の出現が確認された
この報は瞬く間にナパージュの都市や村を駆け抜けた
「黒竜って、あの?」
「御伽噺の黒竜が?」

初めは誰もが信じなかった
いや、信じられなかったのだ
たしかに、黒竜にまつわる伝説や御伽噺や言い伝えはナパージュにはあった
だが、もう500年前に帝都『オイコット』から派遣された精鋭部隊、通称『王の軍』の活躍により打ち倒されたはずなのだ
だから、最初は誰も信じなかった

だが、状況は一変する
大都『アマティアス』の陥落の報
これもまた、ナパージュの都市や村を駆け抜けた
今度は目撃者や負傷者を連れて

命からがら逃げ出してきた、アマティアスの守備兵やそこで商売を行っていた商人たちは皆口を揃えてこういった
「黒竜を見た。山のように巨大で、黒炎を撒き散らし全てを焼き尽くした」
「黒い炎を撒き散らし、その炎に触れたもの全てが腐っていった」
「炎はどんどん拡大している。炎を止める術は無い」

ナパージュにある全ての都市や村は大混乱に包まれた
黒竜が出現したこと一つでも十分な騒ぎであるが、人々の恐怖を一番駆り立てたのは徐々に拡大していっている炎のことだった
「炎に触れたもの全てが腐っていった」
この言葉はまさにその通りだったのだ
炎に触れた植物は1日で枯れ、その炎を消そうとかけられた水は不純なものとなり、生物は炎に触れた瞬間、身体中が炎に包まれ生き絶える
次々と言い伝えられ、また、その話が真実であると言う話に、人々はより一層、恐怖を増したのだった……

第二話/王会議

帝都『オイコット』の王城『オイクォーク』にて

オイクォーク城の三階に位置する王の玉座の前に、様々な人物が集い、会議を行なっていた
各々、顔色は悪い
それもそのはず、あの黒竜が復活し、次々と損害が発生しているからだ

玉座には、現ナパージュの王である『エディヒフ=ソヤガス』が座っている
その右隣にはオイコットの騎士団隊長である『ケイセキ・ドルヴォン』が、左隣にはオイコットの魔導部隊隊長であり世界的に有名な魔導研究の権威である『ルーナ・グローリアス』がそれぞれ鎮座している
双方の顔は見えない
ケイセキは重厚な黒いバシネットを頭にかぶり、ルーナは魔道士である事を示す巨大な帽子をかぶっているからだ

「それで、現状は?」
ソヤガスが口を開く
「黒竜は現在まで確認できる範囲内でありますが、二つの都市と三つの村を破壊し、各々の土地に黒き炎をまきちらしました。その五つの場所にまかれた黒き炎により、徐々にではありますが、炎が燃えている範囲が広くなってきております。この炎がなのですが、水をかけても消えず、それどころかその水自体が汚染されたものとなり、生物がその炎に触れればたちどころに身体中が燃え、息絶えてしまいます」
ソヤガスの前に立った軍の報告官が淡々と報告書を読み上げる
次に、その報告官が口を開こうとした時に横から遮られた
遮ったのはルーナだ
「その炎を現在研究しているわ。それで、わかったことなんだけどアレは一種の呪いね。命あるものに次々と乗り移っていき、内部からその命を破壊する。全く、流石伝説の竜といったところかしら。一種の呪いであそこまでの被害を出せるなんてね…。長いこと魔導の研究を続けてきたけど、あんなのは見たことも聞いたこともないわ…」
そこまでルーナが言うと、ソヤガスが口を開いた
「それで…その呪いは解呪出来そうなのか?」
ルーナは少し俯き、数秒、黙った
その間はとても恐ろしく、また、残酷な真実があると言う現実を突きつけるようであった
「解呪は…できないわ」
ルーナはそういった
その言葉と同時に、会議の場にいた人々が俯いたり、悲痛な声をあげたり、考え込んだりした
「でも、絶対に解呪出来ないというわけじゃないわ」
ルーナは続ける
「現段階で解呪できる、または、効果がある方法を二つほど見つけたの。一つは『魔力の聖水』を使ってその炎が灯る土地ごと浄化を行うこと。『魔力の聖水』の効果が続く限りは、炎の広がりを抑えることができることがわかったわ。そしてもう一つは…」
一旦ここで話を途切らす
一呼吸おき、周囲の自分に集まる目線を感じながら、言葉を続ける
「…もう一つは、呪いの元である黒竜を殺すこと。これも研究で分かったことなのだけど、どうやらこの炎は黒竜の命が続く限り、その黒竜の持つ魔力を消耗しながら燃えているようなの。だから、黒竜を殺せば呪いも自動的に解呪されるってことね」


会議が終わり、数日が経ったある日、場内にこのようなお触れが出された

勇有る者よ その力を奮い黒竜を倒せ!
勇有る者よ 我々は貴君を必要とす!
勇有る者よ いざ我々と共にこの国を救わん!

第三話/王の軍

王城『オイクォーク』での会議の数日後…

オイクォーク城 正門前 広場にて

数千の兵がひしめき合っている
その面々は鉄の兜をかぶっており見ることはできない
ただ黙々と灰色の曇天の中で整列している
前方の兵はハルバードを、中方の兵は大剣を、後方の兵はクロスボウや様々な兵器を牽引している
バリスタ、マンゴネル、そして、最近隣国で開発されたばかりの兵器である大砲…
それらの軍勢の前に一人の男が立つ
鈍い銀色を放つ鎧を着た兵達の中で一際目立つ色をしている
その鎧は闇よりもなお暗き色をしていた
その男は、その軍勢の前に立ち彼らを見渡していた…
男の名前はケイセキ・ドルウォン
オイコットを日々守る騎士団の隊長であり、今回の闇竜討伐を任された人物である

ケイセキが口を開く
「…逃げ出したいか、諸君」
兵たちの目が一斉にケイセキに向けられる
「ここにいる者達の中には、このオイコットに妻や子供を持つものがいる

第???話/アイリッシュ峠の激戦