とある裁判官の短編集/在庫食材消失事件

Last-modified: 2024-02-14 (水) 21:04:43

オレはとある裁判官である。名前はスクエアスだ。

…と、どこか遠くの街で書かれたという物語の冒頭文を真似て自己紹介をしてみたが…とにかく暇なのだ。

今オレは幼馴染が経営しているおもちゃ屋に来ているのだが、今日はいつにも増して街の空気が澱んでいる。

その証拠に、多くの人がすでに活動を始めているであろう9時過ぎになっても人通りが少ない。

人通りが少なければ来客も少ない。
この場にいるのもオレ一人、特にやることもない…

「きゃーーーーー!?」

「!?」

悲鳴!?
スクエアスは慌てて店の奥へと向かう。

「大丈夫か!?」

「大変ですよぉスクエアスぅ!」
先程金切り声をあげた張本人である彼女の名前はマール。このおもちゃ屋を双子の妹と共に経営している。

「な、何があったんだ? まずは説明を…」

「小麦粉とお砂糖の在庫が、ワタシの知らないうちに無くなっているんですよぉ!」

家主の知らないうちに物品がなくなっている。
それはつまり…

「…窃盗? 盗まれたということか?」

「わかりません…ですが、お金とかが盗られた形跡はないんですぅ…」

「そうなのか。…となると、犯人の意図がまるで掴めない…」

そもそも開店中でもない限りこの店の戸締りは厳重はなず。
それでも誰かが無理矢理押し入ったのであれば、それ相応の形跡が残っているはず…

「…とにかく、このままじゃあお昼ご飯に食べるパンが焼けないので…ワタシが今すぐ買ってきます!」

そう言うや否や、マールは青いトートバッグを持って店外へと走って出て行く。

「あ……オレに頼んでもよかっただろう…」

今更追いかける気にもなれないので、スクエアスは一人店内で不貞腐れる羽目となった。
…と思われたが

「ふぁ~~…寝坊しちゃいましたぁ……」

「あ…ルーマ」

今しがた階段から降りてきたのはルーマ。マールの双子の妹である。

「あっ、スクエアスぅ!来てくれてたんですねぇ♪」

「ああ。今日は非番だからな。」

「そういえば、お姉さまがいないみたいですけどぉ…」

「マールなら、小麦粉と砂糖を買いに行ったぞ。なんでも、知らないうちに在庫が減っていたらしい…ルーマは何か知っているか?」

「………。」

ルーマは少しの間、何かを考えるように黙り込むが。

「…スクエアスはいつも頑張りすぎなんですよぉ
 たまにはお茶でも飲んで、ゆっくりしていってください♪」

そう言って回答を避けたルーマは手際良く紅茶を淹れ、お手製であろうクッキーも茶請けとしてテーブルに用意していく。

スクエアスとしても特に断るような理由がないので、促されるがまま席に着く。

据え膳食わぬは何とやら、というやつである。

「このクッキーは手作りか?」

「当たり前ですよぉ。はやく食べてみてください♪」

「ああ」

パクッ

「…やはりいつ食べても美味しいな」

「わぁ…嬉しいですぅ!
 スクエアスには、ワタシの作ったサイッコーに美味しいクッキーを食べて欲しかったんですよぉ♪」

「そうか…ありがとう。」

ルーマは普段から何を考えているのかいまいち掴みきれないし、破天荒な一面もある。
それでも、根はこのように優しい子なのだ。

「…それで…マールの分は作らなかったのか?」

「えっ?」

用意されていたクッキーは明らかに一人分の量であった。
普通ならルーマは、姉であるマールの分も含めてもっと多くクッキーを焼いてくれるのだが…

「…ワタシ、スクエアスのためにいっぱい頑張ったのに…。普段起きる時間よりずっと早くに起きて、すっごく眠くても頑張ったのに…。」

何気ない一言に対し、今にも泣き出しそうな声で意気消沈するルーマ。
予想の斜め上をいく反応にスクエアスは困惑を隠せない。

「えっ…ど、どういう意味だ…?
 というか、オレのため……?」

ルーマは小さく頷くと、俯いたままぽつぽつと“自供”し始めた。

「小麦粉の量、お砂糖とバターの比率、クッキーの形や厚みに、焼く温度や時間、時間がどれだけ経ってどう食感が変わるか…
 寝る間も惜しんで、ワタシ一人で。いろいろと模索してたんですよぉ」

「バターは日用品を買い足す時に、どさくさに紛れて買い足すことができていたんですけどぉ…小麦粉とお砂糖は袋が大きくて目立っちゃうので、そうもいかなくて…」

要するに、彼女が姉にバレないよう真夜中にたくさんの試作クッキーを作っていた結果、マールの預かり知らないところで食材の在庫が無くなっているという事態になっていたのであった。

「そう、だったのか…。だから砂糖と小麦粉だけが…」

くそっ!これでは注意をしようにもできないではないか!(そもそも窃盗ですらなかった)

「…というわけなのでぇ、お姉さまにはなーいしょ。ですよぉ?」

「…そうだな。そうしよう。」

その小悪魔的な笑みには勝てず、思わず二つ返事で了承してしまうスクエアスであった。

「うふふふ…♪」




2024/02/14 バレンタインラッシュの報酬キャラとして「恋するマール」がぷよクエに登場。
亜種実装おめでとう。ハッピーバレンタイン。

P.S.
チョコレートは世界観の都合上そう簡単には出せませんでした()
高級品としてなら辛うじて存在するんじゃないかなぁ…とは思っていますが。